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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01F
管理番号 1041101
異議申立番号 異議1999-74615  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1989-03-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-12-07 
確定日 2001-01-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2903403号「耐食性に優れた永久磁石」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2903403号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許2903403号発明は、昭和62年9月14日に出願され、平成11年3月26日にその特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その後指定期間内である平成12年7月31日に訂正請求がなされた。

2.訂正の適否についての判断
(1).訂正の内容
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の(1)、(2)の記載について、
「(1)R,Fe,Al,B(RはYを含む希士類元素)を主成分とし、実質的にR2Fe14B正方晶の磁性相を金属間化合物の結合相で実質的に取り囲んだ組織を有することにより耐食性を改善したことを特徴とする耐食性に優れた永久磁石。
(2)特許請求の範囲第1項において、前記結合相の組成は、R,Fe,Al,Bを必須成分とし、原子百分率でR:20〜40%,Al:0.05〜20%,B:0.05〜10%,残部Feからなることを特徴とする耐食性に優れた永久磁石。」とあるのを
「(1)重量%で30〜34%のR(RはYを含む希土類元素)、2〜4%Al、0.92〜1%のB、残部Feを主成分とし、実質的にR2Fe14B正方晶の磁性相を金属間化合物の結合相で実質的に取り囲んだ組織を有し、該結合相の組成は、R,Fe,Al,Bを必須成分とし、原子百分率でR:20〜40%,Al:0.05〜20%,B:0.05〜10%,残部Feからなることを特徴とする耐食性に優れた永久磁石。」と訂正する。

イ.訂正事項b
明細書(平成11年1月14日付けの手続補正書により補正した全文補正明細書)の第2頁23行目と24行目(特許公報第3欄第30行目と31行目)との間に、「本発明は、重量%で30〜34%のR(RはYを含む希土類元素)、2〜4%Al、0.92〜1%のB、残部Feを主成分とし、実質的にR2Fe14B正方晶の磁性相を金属間化合物の結合相で実質的に取り囲んだ組織を有し、該結合相の組成は、R,Fe,Al,Bを必須成分とし、原子百分率でR:20〜40%,Al:0.05〜20%,B:0.05〜10%,残部Feからなることを特徴とする耐食性に優れた永久磁石である。」を挿入する。

(2).訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(訂正事項aについて)
当該訂正事項において、明細書の特許請求の範囲の(1)の第1行目に記載の「R,Fe,Al,B」を「重量%で30〜34%のR(RはYを含む希土類元素)、2〜4%Al、0.92〜1%のB、残部Fe」とした点は、各成分の量を限定したものであり、この「重量%で30〜34%のR(RはYを含む希土類元素)、2〜4%Al、0.92〜1%のB、残部Fe」は、明細書の第4頁第14〜16行目(特許公報第4欄第44〜46行目)、第5頁の第1表(特許公報第4頁)、第7頁の第7〜9行(特許公報第5頁第9欄第49行〜同頁第10欄第2行目)および第7頁第3表(特許公報第6頁)に記載されていたものである。
また、当該訂正事項において、特許請求の範囲の(1)項中に「「該結合相の組成は、R,Fe,Al,Bを必須成分とし、原子百分率でR:20〜40%,Al:0.05〜20%,B:0.05〜10%,残部Feからなる」の記載を追加した点は、同項中における「結合相」の組成を限定したものであり、この「該結合相の組成は、R,Fe,Al,Bを必須成分とし、原子百分率でR:20〜40%,Al:0.05〜20%,B:0.05〜10%,残部Feからなる」は、特許請求の範囲の(2)項に記載されていたものである。なお、この訂正に伴って、特許請求の範囲の(2)項は、削除されている。
したがって、当該訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、当該訂正事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(訂正事項bについて)
当該訂正事項は、明細書の発明の詳細な説明の「問題点を解決するための手段」の項において、上記訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、また、当該訂正事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(3).独立特許要件
ア.訂正明細書の特許請求の範囲に記載された発明
訂正明細書の特許請求の範囲に記載された発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの「永久磁石」(上記訂正事項a参照)であると認める。
イ.取消理由の概要
当審が通知した取消理由の概要は、本件発明は、刊行物1〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消すべきものである、というにある。
ウ.引用刊行物に記載された発明
刊行物1(IEEE TRANASACTIONS on MAGNETISC 1986.9 VOLUME MAG-22 NUNMBER 5 第913頁〜第915頁)には、焼結Fe-Nd-B磁石のTEM研究について記載されており、第913頁には次の事項(訳文)が記載されている。
『2.実験方法
検討された物質は、標準粉末冶金学的方法によって調製された。Nd14Fe78B8の公称組成から、2及び6at%のFeがAlに置換された。1070℃ で焼結した後、この材料は約650℃の温度でアニールされた。電子透過サンプルがイオンミリング法により調製され、日立H-700H電子顕微鏡により200kVで操作して検討された。X線マイクロ分析が、バルク材料に対し、TEM中のEDS及び電子プローブマイクロ分析(WDS)によって行われた。
3.結果
電子回折及びX線マイクロ分析により、すべての試料の電子透過領域では、よく知られた正方晶系のFe14Nd2B,Fe4Nd1+εB4,及びfcc構造(a≒〜0,52nm)又はhcp構造(a≒〜0,38nm,c≒〜0,6nm)を有するNd-リッチ領域が認められ、確認された。
Alを含む試料では、下記のことが認められた。
-Fe14Nd2Bには、FeがAlで材料の全Fe:Al原子比に従って6at%以下の割合において置換されていること。
-Fe4Nd1+εB4領域では、Alは検出されなかったこと。
-Nd-リッチ領域では、Alが全含有量(0-6at%Al)以下の異なる濃度で分析されたこと。
Alを含有する試料では、通常三元Fe-Nd-B磁石中のfcc Nd-リッチ物質で充填されたFe14Nd2Bの粒子間のポケットが、図1に示されたように、今や追加の相を含んでいる。
EDS分析の結果は、Fe及びNdがほぼ等しい質量濃度であった。これは原子比が3:1〜5:2であることを意味する。Alは、同じ試料の(Fe,Al)14Nd2B中のAl:Fe比と比較して2〜2.5倍多くこの相に存在することが認められた。このことは6at%のAlを有する試料において、新しい相の組成が約Fe64Nd23Al13(at%)であったことを意味する。』、また、同頁右欄上部には、Fe14Nd2B粒子との隙間に新しい相(グレイ)及びfcc Nd-リッチ材料(ダーク)を含む焼結FeAlNdBの光学顕微鏡写真が図1として示されている。
刊行物2(RARE-EARTH MAGNETS 第209頁〜第225頁 1987年9月3日)には、Fe-Nd-B系永久磁石における磁気硬化メカニズムについて記載されており、第209〜225頁には、次の事項(訳文)が記載されている。
『焼結Fe-Nd-B磁石の保磁力磁場でのAlの有益な影響は、微細構造の効果に基づくことを示している。それは、粒子結合領域での新しい強磁性金属間相の出現と関係している。Fe-Nd-B焼結磁石でのこの追加の強磁性相の役割について説明する。』(第209頁)
『図1に、従来技術の焼結磁石Fe77Nd15B8の微細構造を示す。3つの特徴的な相が観察される。即ち、Fe14Nd2B、Fe4NdB4及びNd-リッチ相からなる残部、更に微細孔及び酸化Ndである。』(第210頁)
『2.7保持力磁場及び微細構造におけるAlの影響
Abacheら/21/及びHockら/22/の結果は、Alの添加によりFe14Nd2B相の固有磁力特性が減少することを示した。Fe14Nd2B構造中のFe原子を置換したAlは、キュリー温度、飽和磁化及び結晶異方性を低下させる。しかしながら、図20は、Alを加えた焼結FendB磁石が保持力磁場をかなり増大させることを示している。このことはAlの添加によるHcの増加が微細構造の変化から生じる外来的結果が原因であることを意味している。図21は、非磁性Fe4NdB4相を持たず、長いアニーリング時間による粗い微細構造を有するAl含有Fe-Nd-B焼結磁石の顕微鏡写真を示す。追加の金属間合金の非立方体状、板状相はAlである。この新しい相の組成は、Schrey/23/によってFe64Nd23Al13として示されたものであり、これは山本ら/24/によって報告されたFe-Co-Al-Nd-B磁石においてAlにより安定化された相(Fe,Co)3Ndに類似している。』(第222頁)
刊行物3(特開昭62-50437号公報)、刊行物4(特開昭61-156706号公報)、刊行物5(特開昭61-222102号公報))には、Fe-B-R系等の永久磁石において、Feの一部をAlと置換することにより耐食性を向上させることが、刊行物6(特開昭62-60207号公報)、刊行物7(特開昭59-89401号公報)には、Nd-Fe-B系磁石のFeの一部をAlで置換した永久磁石が、刊行物8(「工業材料」第33巻 第4号 第35〜38頁1985年4月1日発行)にはNd-Fe-B磁石の製法と標準的なNd-Fe-B磁石の組成が、それぞれ記載されている

ウ.対比・判断
本件発明と刊行物1、2に記載の発明とを対比すると、両者は、R,Fe,Al,Bを主成分とし、実質的にR2Fe14B正方晶の磁性相を金属間化合物の結合相で実質的に取り囲んだ組織を有する永久磁石であるという点では共通している。
しかし、刊行物1,2に記載の発明には、本件発明の特徴である、主成分を「重量%で30〜34%のR(RはYを含む希土類元素)、2〜4%Al、0.92〜1%のB、残部Fe」とすることによって、「実質的にR2Fe14B正方晶の磁性相を金属間化合物の結合相で実質的に取り囲んだ組織を有し」、しかも「該結合相の組成は、R,Fe,Al,Bを必須成分とし、原子百分率でR:20〜40%,Al:0.05〜20%,B:0.05〜10%,残部Feからなる」という点については記載されておらず、示唆もされていない。また、刊行物3〜7にはFe-B-R系又はNd-Fe-B系の永久磁石において、Feの一部をAlと置換することや耐食性を向上させることについて、刊行物8にはNd-Fe-B磁石の製法について、それぞれ記載されているが、本件発明の上記特徴については刊行物3〜8のいずれにも記載されておらず、示唆もない。
そして、本件発明は、上記の特徴により、単にアルミ添加により耐食性が得られるというだけでなく、メッキ中にも腐食せず、したがって防錆メッキに適するという格別顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明とすることはできない。

3.訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項の規定及び同条第3項で準用する第126条第2項〜第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

4.特許異議申立について
ア.申立の理由の概要
(申立の理由1)
特許異議申立人は、本件出願前公知刊行物として甲1第号証(上記刊行物1と同じ)、甲第2号証(上記刊行物2と同じ)、甲第3号証(上記刊行物3と同じ)、甲第4号証(上記刊行物4と同じ)、甲第5号証(上記刊行物5と同じ)、甲6第号証(上記刊行物6と同じ)、甲第7号証(上記刊行物7と同じ)、甲第8号証(上記刊行物8と同じ)を提出し、本件発明は、甲第1、2号証に記載されており、また、甲第3〜8号証にも実質的に記載されており、少なくとも甲第1〜8号証の記載から当業者が容易に想到し得たものであるから特許法第29条第1項又は同条第2項に該当し、その特許は特許法第113条1項第2号の規定により取り消されるべきものである。
(申立の理由2)
本件の明細書には記載不備があり、特許法第36条第3、4に規定する要件を満たしていないので、その特許は特許法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。
・記載不備1
特許請求の範囲第1項には結合相が正確に記載されておらず、結合相が磁性を有することも記載されていない。
・記載不備2
発明の詳細な説明中の「圧粉体を1000〜1200℃で0〜2時間、Ar中にて焼結した。」という記載(特許公報第4欄第49乃至50行目)は、焼結することが本件磁石を製造する上で必須事項であるのに、焼結時間が0時間、即ち焼結を行わない場合を含んでいることから、本件明細書は、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていない。

ウ.当審の判断
(申立の理由1に対して)
甲第1乃至8号証は前記引用刊行物1乃至8と同じものであるから、上記3.独立特許要件の項で述べたとおり、本件発明は、甲第1、2号証に記載された発明と同一であるとも、甲第1乃至8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(申立の理由2に対して)
・記載不備1について
本願明細書には、本願発明が、金属間化合物からなる結合相が磁性を有していることが必須の構成である、という趣旨の記載はない。
したがって、「本件特許請求の範囲に、金属間化合物からなる結合相が磁性を有することが規定されておらず、不明確である」との申立人の主張は採用することができない。
・記載不備2について
「圧粉体を1000〜1200℃で0〜2時間、Ar中にて焼結した。」という記載をもって、焼結時間が0時間、即ち焼結を行わない場合を含む、とするのは妥当な解釈とはいえない。何故なら、上記説明中の「0〜2時間」は、圧粉体を加熱をする雰囲気の温度として、少なくとも1000〜1200℃の状態が存在する時間を規定しているのであって、焼結時間を規定しているものではないから、焼結を行わない場合を含むことにはならない。

エ.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に上記発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
耐食性に優れた永久磁石
(57)【特許請求の範囲】
(1)重量%で30〜34%のR(RはYを含む希土類元素)、2〜4%Al、0.92〜1%のB、残部Feを主成分とし、実質的にR2Fe14B正方晶の磁性相を金属間化合物の結合相で実質的に取り囲んだ組織を有し、該結合相の組成は、R,Fe,Al,Bを必須成分とし、原子百分率でR:20〜40%,Al:0.05〜20%,B:0.05〜10%,残部Feからなることを特徴とする耐食性に優れた永久磁石。
【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明はNd2Fe14B系合金で代表される希土類元素:Rと、遷移金属:TとからなるR2Fe14B系金属間化合物磁石の中で、特にR,Fe,Al,Bを主成分とする永久磁石に係り、耐食性を改善したR-Fe-Al-B系磁石に関するものである。
[従来技術]
Nd-Fe-Bで代表されるR-Fe-B系磁石は、従来の希土類磁石であるSm-Co系磁石に比較して、高い磁気特性を有する。
しかしながら、R-Fe-B系磁石合金は、この金属組織の中に極めて酸化しやすいNd-Fe固溶体相を含有しているため、磁気回路等の装置に組み込んだ場合、通常の環境条件下でも、Sm-Co系磁石に比べ、磁石の酸化による特性の劣化、及び、そのばらつきが大きい。さらに、磁石から発生した酸化物の飛散による周辺部への影響も引き起こす。
この磁石の耐食性の向上に関する方法として、特開昭60-54406号公報や特開昭60-63903号公報が提案されている。
これらの文献では、磁石体表面にメッキ、化成皮膜などの耐酸化性皮膜を形成し、その耐食性向上を図ることを目的としている。
[発明が解決しようとする問題点]
しかし、これらの耐酸化性皮膜は、その工程中に多量の水及び水溶液を使用するため、処理工程中に磁石中のR-Fe固溶体相が酸化することにより、皮膜形成後、内部より酸化が進行し、フクレ、又は皮膜の剥離等を生じてしまうため、耐食性改善としては適していない。
又、水を使用しない方法としては、エポキシなどの耐酸化性樹脂コーティング、又は、最近普及してきたスパッタ蒸着、イオンプレーティング等によるAl,Ni等の金属皮膜を形成して耐食性改善を図る、乾式メッキ等の方法もあるが、これら水を使用しないコーティングにおいても、長期使用による皮膜の劣化による耐食性の低下がある。
又、この磁石組織に含まれるNd-Fe固溶体は三次元的に連続して分布しているため、微小なキズ、カケが起こり、磁石表面が火気と接し酸化すると、この部分より磁石中のR-Fe固溶体を伝って酸化が磁石全体に広がってゆくため、耐食性改善の方策としては適しない。
以上述べたように、いずれの耐食性改善方策においても、磁石中に極度に酸化し易いR-Fe固溶体が連続した形で存在するため、上記の各方策が有する本来の耐食性を本系磁石に付与することは極めて困難であった。すなわち本系磁石においては、このR-Fe固溶体相の耐食性を根本的に改善しなければ、十分な耐食性を得ることは不可能であるといっても過言ではない。
[問題点を解決するための手段]
本発明は、重量%で30〜34%のR(RはYを含む希土類元素)、2〜4%Al、0.92〜1%のB、残部Feを主成分とし、実質的にR2Fe14B正方晶の磁性相を金属間化合物の結合相で実質的に取り囲んだ組織を有し、該結合相の組成は、R,Fe,Al,Bを必須成分とし、原子百分率でR:20〜40%,Al:0.05〜20%,B:0.05〜10%,残部Feからなることを特徴とする耐食性に優れた永久磁石である。
本発明によれば、R,Fe,Al,Bを主成分とする合金粉末を成形し、焼結した時、R2Fe14B磁性相のまわりを金属間化合物の結合相の析出により取り囲み、R-Fe固溶体相の量を低減し、かつ分散、孤立化した組織にすることにより、著しく耐食性が向上し、かつ、磁石特性の劣化の度合いが極めて小さい磁石を提供することにある。
磁性相のまわりを取り囲む結合相は、金属間化合物相であり、この相は、酸化の原因となるR-Fe固溶体相とは異なり、錆びにくいため、耐酸化性に優れた磁石材料となる。
本発明で得られた結合相組織を持つ磁石材料を、通常の使用環境のもとで(温度40℃,湿度70%)長時間放置した場合、従来の結合相組織をもたない磁石材料では、表面にNdの酸化物である白い粉が吹き出し、周りから砕け崩壊するのが見られるが、前者では何ら酸化することなく、顕著な変化も見られず、非常に耐食性に優れている。
結合相組織が形成されていない場合、磁石表面に防錆メッキ、化成被膜などの耐酸化性皮膜を形成する際、処理工程中に使用する電解質水溶液、化成処理溶液の影響で、磁石中のNd-Fe固溶体相が酸化することにより、皮膜形成後、内部より酸化が進行し、フクレ又は剥離を生じてしまい、全面錆が発生する。
しかし、結合組織が形成されていると、この様なフクレや剥離は全く起こらず非常に優れた耐食性を示し、メッキ、化成被膜のもつ本来の耐食性を本系磁石に付与することが可能となる。
結合組織が形成されていない場合、メッキ処理中、Nd・Fe固溶体相がどんどん酸化しメッキそのものがむずかしくのりも悪く、密着性に劣るが、結合相組織が形成されている場合、メッキののりも良く、密着性にも優れ、従来のSm-Co系磁石に適用されているような簡単なメッキ法によるメッキ被膜で十分である。
磁石特性は、AlがR2Fe14B磁性相内に拡散して入るため、飽和磁化(4πIs)は低減するが、逆に保磁力(Hc)は増加する傾向にあり、それ程磁石特性を下げるものではない。
ここで、添加するAl量は0<Al≦10wt%であり、これ以上多すぎると磁石特性の飽和磁化の低下を招く可能性があるとともに、結合相の析出が見られなくなる。B量は0.5≦B≦1.5wt%であり、これ以下では配向性が悪くなり、BHC,(BH)mの低下を招く、逆にそれ以上ではB-rich相の存在比が高くなり、又Nd-Fe固溶体相も多くなり、耐食性劣化の原因となる。
又、Nd量は28≦Nd≦40wt%の範囲であり、それ以下では、Nd-Fe固溶体相も少なく、磁石特性でも飽和磁化が高くて良いけれども、逆にHcは低くなり、液相が少なく焼結性が悪くなる傾向があり、結合層の量も少なくなる。
すなわち、従来は結合層組織が形成されてないため、Nd-Fe固溶体相が磁性相間の界面に入り込んで耐食性を悪くする原因となっているが、本発明によれば、結合相組織の形成により、結合相が磁性相を取り囲み、従来よりも、耐食性に優れ、かつ磁石特性においても全く劣らない実用上非常に有益な磁石を得ることが可能となった。
[実施例]
以下、本発明の実施例について説明する。
<実施例1>
純度90wt%以上のNd,Fe,Al,Bを用い、Ar雰囲気中で高周波加熱により、重量%で(27.5及び32.5)Nd-(12.5)B-Fe(bal(=残))のインゴット及び(40)Nd-(20,10)Al-Fe(bal)のインゴットを得た。
ディスクミルを用いて各インゴットを粗粉砕し、最終的に、重量%で(30,32,及び34)Nd-(4及び2)Al-(1.0)B-Fe(bal)の組成になるように秤量配合し、上記粗粉末をボールミルを用いて平均粒径3〜5μmに粉砕した。次に得られた微粉末を20KOeの磁場中、1.0ton/cm2の圧力で成形し圧紛体を得た。これら圧紛体を1000〜1200℃で0〜2時間、Ar中にて焼結した。その後400〜800℃で0.5〜10時間熱処理を行った。
比較のため、重量%で34Nd-1.0B-FebalのAlを含まない組成を有する粗粉末だけを、上記と同様に微粉砕、磁場中成形、焼結、熱処理を行い焼結体を得た。
得られた焼結体の組織の顕微鏡写真を第1図に示す。同図(a)のAl添加の合金(34Nd-4Al-1B-Febal)の場合、薄灰色の結合相が磁性相(白く見える部分)のまわりを取り囲んでおり、黒色のNd-Fe固溶体相は分散し孤立している。一方、(b)図のAlを含有しない合金(34Nd-1.0B-Febal)の場合にはNd-Fe固溶体相が磁性相のまわりを薄く取り囲んでいる。これら試料を40℃、湿度70%の環境下に1年間放置したところ、結合相組織が形成された方は、表面に何等変化は見られなかったが、結合相組織

が形成されない方は表面にNdの酸化物である白い粉が付着し、端部より砕け崩壊するのが見られた。
よって、結合相組織の形成により優れた耐食性を示すとともに、第1表の磁石特性値からも永久磁石として十分な磁石特性を示している。
各試料の磁性相及び結合相の組成分析をEDX及びE.P.M.A.を用いて行った。その結果を第2表に示す。

磁性相、結合相ともAl量に変化が見られるが、Nd及びBが一定であることが分かる。
<実施例2>
純度99wt%以上のNd,Fe,Al,Bを用い、Ar雰囲気中で、高周波加熱により重量%で29Nd-2.0Al-1.0B-Febalのインゴットと55Nd-2.0Al-0.6B-Febalのインゴットを得た。
これらの組成は、実施例1の第2表の磁性相と結合相の組成のもの(ただしAlが2.0wt%のもの)を、それぞれ、溶解したものである。
ディスクミルを用いて各インゴットを粗粉砕し、最終的に、重量%で(30,32および34)Nd-2.0Al-(0.98,0.95及び0.92)B-Febalの組成となるように秤量配合した。実施例1と同様に、粗粉砕、微粉砕、磁場中成形、焼結、熱処理を行い焼結体を得た。
得られた焼結体の組織の顕微鏡写真を写真2に示す。同写真は34Nd-2.0Al-0.92B-Febalの組成のもので、薄灰色の結合相が磁性相のまわりを取り囲んでいる。Nd-Fe固溶体相の量は実施例1の同組成のもの(第1図(a)のもの)より少ない。
これら試料を、温度40℃で相対湿度70%中に1年間放置した結果、表面に何等の変化も見られなかった。
この場合でも、優れた耐食性を示した。第3表の磁石特性値からも永久磁石として十分な磁石特性を示していることが分かる。

<実施例3>
実施例1及び2で使用した熱処理上がりの焼結体を10×10×8mmに加工した後、Cu下地防錆メッキ後、電界Niメッキを行った。
結合相組織の形成されていない方(比較例Nd-Fe-B系合金)は、メッキ処理中に、電解質水溶液中でNd-Fe固溶体相がどんどん腐食してしまい、内部に浸透してゆき、十分にメッキされずメッキのりも悪く、素地への密着性も悪かった。
一方、結合相組織が形成された方は、メッキ面での局部的な欠陥がなく、上記のメッキ法で簡単にメッキがなされ、のりも良く素地への密着性も良好であった。従来行われているSm-Co系磁石と同等のメッキが可能であった。
密着力試験として試験片に外力(摩擦、折り曲げ、衝撃等)を加えた時の影響を定性的に確かめた結果を第4表に示した。

よって、メッキ本来のもつ耐食性を本系磁石に付与することが十分可能となった。
<実施例4>
実施例1および2で使用した熱処理上がりの焼結体を10×10×8mmに加工した後、Cu下地防錆メッキ後、Niメッキ及びクロメート処理を施した。これら試験片を温度60℃で湿度90%の恒温恒湿の条件下で300時間の耐蝕性試験を行った。その結果を第5表に示す。

本発明による試験片は、いずれも比較例の試験片に比べ、赤錆あるいは剥離、ふくれなどが生ずる事なく、優れた耐食性を示すことが分かる。
[発明の効果]
以上の実施例で示されるように、結合相が磁性相を取り囲み結合相組織を形成することによって、Nd-Fe固溶体相が減少及び分散、孤立化され、結合相組織のない場合よりも耐食性を向上させることができた。
又、従来行われている防錆メッキも可能となりメッキ本来のもつ耐食性を本系磁石に付与することも可能となった。
以上、Nd-Fe-Al-B系磁石合金についてのみ述べてきたが、イットりウムを含めた希土類元素(R)-Fe-Al-B系についても同様の効果が期待できることは容易に推察できるところである。又、本発明で得られた結合相組織をもつ磁石材料の製造方法は、特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
第1図(a)は本発明の実施例に係る34wt%Nd-4.0wt%Al-1.0wt%B-Febal合金の焼結体の組織を示す顕微鏡写真、第1図(b)は従来の34wt%Nd-1.0wt%B-Febal合金の焼結体の組織を示す顕微鏡写真、
第2図は本発明の実施例に係る34wt%Nd-2.0wt%Al-0.92wt%B-Febal合金の焼結体の組織を示す顕微鏡写真である。
 
訂正の要旨 (3) 訂正の要旨
I 訂正事項a
特許請求の範囲の(1)および(2)項の記載
「(1)R,Fe,Al,B(RはYを含む希土類元素)を主成分とし、
実質的にR2Fe14B正方晶の磁性相を金属間化合物の結合相で実質的に取り囲んだ組織を有することにより耐食性を改善したことを特徴とする耐食性に優れた永久磁石。
(2)特許請求の範囲第1項において、前記結合相の組成は、R,Fe,Al,Bを必須成分とし、原子百分率でR:20〜40%,Al:0.05〜20%,B:0.05〜10%,残部Feからなることを特徴とする耐食性に優れた永久磁石。」
を下記の通りに訂正する。
「(1)重量%で30〜34%のR(RはYを含む希土類元素)、2〜4%Al、0.92〜1%のB、残部Feを主成分とし、実質的にR2Fe14B正方晶の磁性相を金属間化合物の結合相で実質的に取り囲んだ組織を有し、該結合相の組成は、R,Fe,Al,Bを必須成分とし、原子百分率でR:20〜40%,Al:0.05〜20%,B:0.05〜10%,残部Feからなることを特徴とする耐食性に優れた永久磁石。」。
II 訂正事項b
明細書(平成11年1月14日付けの意見書に代える手続補正書により提出した全文補正明細書)の第2頁23行目と24行目との間に
「本発明は、重量%で30〜34%のR(RはYを含む希土類元素)、2〜4%Al、0.92〜1%のB、残部Feを主成分とし、実質的にR2Fe14B正方晶の磁性相を金属間化合物の結合相で実質的に取り囲んだ組織を有し、該結合相の組成は、R,Fe,Al,Bを必須成分とし、原子百分率でR:20〜40%,Al:0.05〜20%,B:0.05〜10%,残部Feからなることを特徴とする耐食性に優れた永久磁石である。」
を挿入する。
異議決定日 2000-12-25 
出願番号 特願昭62-228544
審決分類 P 1 651・ 113- YA (H01F)
P 1 651・ 121- YA (H01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平塚 義三  
特許庁審判長 下野 和行
特許庁審判官 治田 義孝
今井 義男
登録日 1999-03-26 
登録番号 特許第2903403号(P2903403)
権利者 株式会社トーキン
発明の名称 耐食性に優れた永久磁石  
代理人 山本 格介  
代理人 西川 裕子  
代理人 後藤 洋介  
代理人 小島 隆司  
代理人 後藤 洋介  
代理人 山本 格介  
代理人 池田 憲保  
代理人 池田 憲保  

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