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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01B
管理番号 1041444
異議申立番号 異議2000-73220  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-07-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-08-21 
確定日 2001-07-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第3011254号「測定範囲に制限のない3次元測定器」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3011254号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
平成5年1月11日 出願
平成11年12月10日 登録
平成12年2月21日 公報発行
平成12年8月21日 異議申立人北田紘治による特許異議申立
平成13年2月14日 取消理由通知
平成13年3月21日 特許異議意見書

2.本件発明
本件特許第3011254号の請求項1に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
[請求項1]
多間接型3次元測定器(1)と円錐凹状の座標基準点(3)を3箇所離れた位置に設けた座標基準器(2)とからなる、測定範囲に制限のない3次元測定器。
なお、請求項1に記載された「多間接」は、「多関節」の誤記と認める。

3.取消理由通知の概要
平成13年2月14日付けでした取消理由通知の概要は、本件請求項1に係る発明は刊行物1(特開昭57-132015号公報)、刊行物2(米国特許第4,523,450号明細書)及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
4.刊行物の記載事項
刊行物1(特開昭57-132015号公報)について
刊行物1には、座標変換装置に関し、次の記載がある。
「この発明は三次元直交座標測定器(以下、座標測定器という)の持つ基準座標軸に関して任意の位置関係にある被測定物の座標の測定値を、該座標測定器の基準座標軸に関する値から該被測定物に固有の座標軸に関する値に換算して出力する機能を有する座標変換装置に関し、」(第2頁左上欄6行〜12行)
「従来から、立体物品の輪郭や寸法を測定するために種々の形式の座標測定器が用いられている。これらの座標測定器によれば、立体物品上の被測定点の立体座標を求めることは直ちにできるが、被測定物が大きくて座標測定器の測定範囲に入り切れない場合は、この被測定物を数個の部分に分割し数回に分けて測定を行わなければならない。」(第2頁左上欄18行〜右上欄6行)
「本発明の座標変換装置は上述の欠点を解消したもので、測定者が被測定物を分割して測定する際に、平行合わせ等の作業を行う必要がなく、しかも直ちに必要とする座標系での被測定物全体の形状等を表す測定値が得られるようにする装置である。」(第2頁右下欄4行〜9行)
「次に本装置を使用して、大きな被測定物を分割して測定する場合の操作の例を第4図により説明する。
(1)被測定物15の一部を座標測定器の測定位置に測定可能な状態に設置する。場合によっては、座標測定器の方を移動させてよい。この場合の測定範囲を9で示す。
(2)座標測定器の固有の座標系(前記の第2の座標系7に相当する)に関する測定値を被測定物の固有の座標系10(前記の第1の座標系5に相当する)に関する測定値に換算して出力するように変換装置を操作する。この機能は通常の変換装置が持っている機能であり、また個々の変換装置や被測定物の固有の座標系の基準の定義によって操作が異るので詳細な説明を省略する。
(3)測定範囲9内の測定点の測定を行う。このとき、測定値は被測定物固有の座標系10に関して得られる。
(4)被測定物15上に3個の特定点11を定め、この特定点の座標の測定を行いその測定値を変換装置に一時記憶させる。このとき特定点11は被測定物の他の一部の測定範囲12に測定範囲を移動した際にも測定可能となる位置に定める。
(5)被測定物15あるいは座標測定器を、被測定物15の他の測定範囲12を測定可能な状態に移動する。特定点11は測定範囲12にも含まれる。
(6)この状態で特定点11の座標の測定を再度行ない、変換装置に記憶させておいた値を使って前記内容の演算処理を行わせる指令を与える。この操作により以後の測定範囲12内の任意の測定点の座標の測定値は、範囲9内と同様に被測定物固有の座標系10に関する値として得られる。
(7)測定範囲12内の他の測定点の測定を行う。
(8)被測定物が大型で、2分割では全てを測定できない場合は、さらに特定点13を定めて、前記手順(4)〜(7)と同様に測定範囲14に移動して測定を行う。」(第4頁左上欄15行〜同左下欄17行)
刊行物2(米国特許第4,523,450号明細書)について
「このキャリブレーションプロセスにおいて、各ボールの中心点の座標が、例えば立方体やボールの形状の適切なキャリブレーション標準を参照して決定される。同一のプローブピンは、キャリブレーション標準と少なくとも3回(立方体)または4回(ボール)異なるサイドから接触するように動く。このようにして、5つのプローブピンを有するプローブシステムの場合、探測は、15〜20回の探測がキャリブレーションに影響を与え、非常に時間が経済的である。」(1欄24行〜32行、異議申立人提出の甲第2号証抄訳第1頁4行〜9行参照)
「図1において、キャリブレーション標準1は、位置側部がスタンド2に固定された立方体3を含む。立方体の他の5つの側面は、凹状円錐構造を有している。構造4a-4b-4cが図における断面部において見えている。図に示されたキャリブレーション標準1は、スター型プローブピンコンビネーション、例えば図に示すプローブ5に好適である。
このプローブ5のプローブピン6-7-8のキャリブレーションプロセスが詳細に説明される。キャリブレーションスタンダード1は、最初にプローブ中心化能力を有する座標測定器のテーブルに固定される。そして、キャリブレーション標準1の位置が器械の座標系の中で決定される。例えば、標準の異なる側面を1つの同一のプローブピンで探測することによって、決定される。
円錐形状4の位置決め形状、すなわち互いの円錐表面の相対的位置および形状は1つおよびそれに基づくすべてのキャリブレーション手順の計測によって検出される。軸方向、円錐角他のパラメータの形として、測定器械のコンピュータの中に決定される。
独立したキャリブレーション手順を確保するために、プローブピン8のボール端10は、凹部4cに導入される。プローブ6および7のボール端は、凹部4aおよび4bにそれぞれ導入される。そして、さらにプローブ9のボール端は、立方体の後面の凹部(図示せず)に導入される。このような各探測接触において、測定装置のクローズドループ位置決め制御が、プローブボールの自動センタリングのために利用される。
各プローブプロセスの前または後に、プローブピン5の位置が測定され、測定装置の座標系における絶対位置として測定される。そして、測定値は、測定装置のコンピュータに入力される。所定のプロービングに現在含まれているボール(例えばボール10)の識別および対応する凹部構造(例えば凹部4C)もコンピュータに供給される。
コンピュータは、予め入力されている単純なプログラムに従って、すべてのプローブボールの中心点の位置は計算できることがわかる。含まれるボールの径および凹部の幾何形状位置が算出される。そして、大きなボール10と比べて小さなボール10’の場合のようにプローブボールの径は異なるかもしれない。各プローブボールは、特定の凹部との接触による自己中心化によってキャリブレートされる。」(2欄39行〜3欄20行、異議申立人提出の甲第2号証抄訳第1頁11行〜第2頁15行参照)
「ワークピース上の所定の計測の最中において、プローブピン18がワークピースに対しスイングした場合(すなわち、記載された位置から)、標準11を異なるしかしその時点でアクセス可能な他の凹部14を含む単一の中心化動作によって標準11をもう一度キャリブレーションすることができる。」(3欄34行〜39行、異議申立人提出の甲第2号証抄訳第2頁17行〜20行)

3.対比
まず、本件請求項1に係る発明の3次元測定器における「測定範囲に制限のない」の記載の技術的意義について検討する。
本件特許明細書には次の記載がある。
「多間接型3次元測定器(1)に・・・座標基準点(3)3点より仮想3次元原点求め、多間接型3次元測定器(1)を移動し再度、多間接型3次元測定器(1)に・・・座標基準点(3)3点より移動前の仮想3次元原点を求める事によって多間接型3次元測定器(1)の移動前と後の測定点を相対的に計測する測定範囲に制限のない3次元測定器。」(特許公報2欄7行〜14行)
特許明細書の上記記載によれば、本件発明の3次元測定器は、座標基準点を基に3次元測定器の移動前と移動後の測定点を相対的に計測することにより、結果として測定範囲を広げ、測定範囲に制限のないようにしたものと解される。
そこで、本件請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを比較すると、
刊行物1に記載の「三次元直交座標測定器」、「被測定物上に設けた3個の特定点11」は、それぞれ本件請求項1に係る発明の「3次元座標測定器」、「座標基準点」に相当する。
また、刊行物1の三次元直交座標測定器も、特定点を定めて、前記特定点を基に座標測定器の移動前と移動後の測定値の座標を変換するものであるから、本件請求項1に係る発明における「測定範囲に制限のない」ものに相当する。
よって、両者は次の一致点で一致し、次の相違点で相違する。
(一致点)
3次元測定器と座標基準点を3箇所離れた位置に設けた、測定範囲に制限のない3次元測定器の点。
(相違点)
相違点1
3次元測定器が、本件請求項1に係る発明では3次元測定器が多関節(間接)型であるのに対し、刊行物1に記載されものは多関節型との限定がない点。
相違点2
座標基準点が、本件請求項1に係る発明のものでは円錐凹状であり、複数の座標基準点により座標基準器を構成しているのに対し、甲第1号証に記載されたものはそのようになっていない点。

4.相違点の判断
4-1.相違点1について
3次元測定器として、多関節型とすることは、従来周知(例えば、特開平3-113305号公報、特開平2-85785号公報、特開平1-248002号公報参照)であるから、相違点1は、刊行物1の三次元座標測定器に前記周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。
4-2.相違点2について
刊行物2には、キャリブレーション標準1に円錐凹状の凹部4a〜4cを設けた点、及びプローブのボール端が当該凹部に導入され、測定装置の座標系における絶対位置として測定される点が記載されている。
ここで、刊行物1のキャリブレーション標準1は座標基準器に相当し、円錐凹状の凹部4a〜4cが離れた位置に設けられた円錐凹状の座標基準点であることは明らかである。
よって、座標基準点を円錐凹状で形成し、座標基準点を複数設けた座標基準器を用いることが刊行物2に記載されているから、相違点2は、刊行物1に記載されている座標基準点としてこれを刊行物2に記載された円錐凹状の凹部を用い、その座標基準点の具体的形態として、刊行物2に記載の座標基準器を適用することにより、当業者が容易に想到しうる程度のことにすぎない。
そして、本件請求項1に係る発明の奏する効果は、刊行物1、刊行物2に記載された事項及び上記周知技術から、当業者が予測しうる程度のものにすぎない。
4-3.特許権者の意見について
特許権者は平成13年3月21日付け特許異議意見書において、大要次の如く意見を述べている。
(1)対比及び一致点の認定において、本発明と刊行物1のものとは、基準点を被測定物上に設ける場合と被測定物と分離した座標基準器(2)に設ける点が明らかに相違する、基準点をどのような手段を用いて取得するかが本発明の趣旨である。
(2)相違点1の判断において、本発明と刊行物1のものとでは座標変換の考え方が異なるから、刊行物1の三次元直交座標測定器に周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到し得ない事は明らかである。
(3)相違点2の判断について、刊行物2の基準点は1点以上の必要数となるが、本発明は3点であり、刊行物2の円錐中心軸は異なる方向となる事が必要であるが本発明は平行であり、向きを問わないし、刊行物2の球の中心座標が刊行物2のものは同一でもよいが、本発明では異なることが必要条件となるから、これを適用して容易に想到しうるものではない。
特許権者の意見(1)について
本件特許請求の範囲の請求項1には、座標基準器が被測定物上にあるものとも、ないものとも記載されていないし、座標基準器が被測定物と分離しているとも記載されていない。
また、刊行物1に記載された発明も、被測定物上に3個の特定点を定めているだけであって、特定点が被測定物と分離しているか否かについて記載していないから、この点に関する特許権者の主張は、本件特許請求の範囲の記載及び刊行物1の記載に基づかない主張であって採用できない。
しかも、基準点について座標基準器を用いた点は相違点2として刊行物1のものと相違すると認定しているのであるから、いずれにせよ特許権者の上記主張は採用できない。
特許権者の意見(2)について
刊行物1の三次元直交座標測定器も3次元測定器の一種であることに変わりはなく、また、座標変換をどのようにするかについては本件特許請求の範囲に記載されていないから、この点に関する特許権者の主張は採用できない。
特許権者の意見(3)について
座標基準点を3箇所離れた位置に設けた点は刊行物1に記載された発明と一致しているものであるから、この点について相違点として認定し判断する必要性はない。 そして、本件特許請求の範囲には「円錐凹状の座標基準点(3)を3箇所離れた位置に設けた」と記載しているだけであって、本発明の基準点の中心座標が異なるとも解することができない。
相違点2は、「座標基準点が、本件請求項1に係る発明のものでは円錐凹状であり、複数の座標基準点により座標基準器を構成している」との相違点について、係る構成が刊行物2に備わっていることに着目し上記「相違点2」について判断したものである。
よって、特許権者の意見(3)は採用することができない。
したがって、本件請求項1に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本件請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから特許法第113条第2号の規定に該当し取り消されるべきものである。
 
異議決定日 2001-05-07 
出願番号 特願平5-33892
審決分類 P 1 651・ 121- Z (G01B)
最終処分 取消  
特許庁審判長 高瀬 浩一
特許庁審判官 山川 雅也
杉野 裕幸
登録日 1999-12-10 
登録番号 特許第3011254号(P3011254)
権利者 宗平 聖士郎
発明の名称 測定範囲に制限のない3次元測定器  

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