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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1041507
異議申立番号 異議1999-74301  
総通号数 20 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-06-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-11-22 
確定日 2001-06-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第2894224号「フィブリノゲン製剤およびそれを用いたフィブリン糊調製用キット」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2894224号の請求項1ないし10に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続きの経緯
特許第2894224号の請求項1〜10に係る発明は、平成6年11月29日に特許出願され、平成11年3月5日に設定登録され、その後、特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年6月26日に訂正請求がなされ、これに対し、訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年3月13日に手続補正書が提出されたものである。
II.訂正請求について
(1)訂正請求に対する補正の適否について
特許権者は、訂正請求書の特許請求の範囲を、
「【請求項1】界面活性剤と、アルギニンを含有するフィブリノゲン凍結乾燥製剤であって、界面活性剤がポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体である、フィブリノゲン凍結乾燥製剤。
【請求項2】請求項1記載のフィブリノゲン凍結乾燥製剤およびトロンビン製剤を有するフィブリン糊調製用キット。」
とする補正を求めるものである。
しかし、上記補正は、訂正明細書の特許請求の範囲にある請求項1〜9を削除することにより、請求項1〜2とするものであるが、請求項の削除は、特許請求の範囲を減縮するするものであるため、訂正事項に該当する。そのため、請求項を削除する補正は別個の訂正事項を追加する変更となり、訂正請求書の補正において、請求項の削除は、請求書の要旨の変更に該当する。
したがって、上記補正は、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に違反するものであり、採用しない。
(2)訂正の内容
平成12年6月26日付けで提出された訂正明細書の請求項に係る発明は、訂正明細書の請求項1〜9に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】25℃にて水に2.5〜3分で、4〜12w/v%となるように完全に溶解し得るフィブリノゲン凍結乾燥製剤。
【請求項2】溶解し得る濃度が6〜10w/v%である、請求項1記載のフィブリノゲン凍結乾燥製剤。
【請求項3】溶解し得る濃度が8w/v%である、請求項1記載のフィブリノゲン凍結乾燥製剤。
【請求項4】界面活性剤と、
(1)ヒト血清アルブミンと、糖または糖アルコールと、アミノ酸または
(2)アルギニン
を含有するフィブリノゲン凍結乾燥製剤。
【請求項5】界面活性剤が、非イオン系界面活性剤である請求項4記載のフィブリノゲン凍結乾燥製剤。
【請求項6】非イオン系界面活性剤が、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール縮合物およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油より選ばれるものである請求項5記載のフィブリノゲン凍結乾燥製剤。
【請求項7】界面活性剤と、ヒト血清アルブミンと、糖または糖アルコールと、アミノ酸を含有するフィブリノゲン凍結乾燥製剤において、界面活性剤がポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、ポリエチレングリコール縮合物またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油であり、糖または糖アルコールがスクロースであり、アミノ酸がグリシンである、請求項4記載のフィブリノゲン凍結乾燥製剤。
【請求項8】界面活性剤と、アルギニンを含有するフィブリノゲン凍結乾燥製剤において、界面活性剤がポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体である、請求項4記載のフィブリノゲン凍結乾燥製剤。
【請求項9】請求項1〜8のいずれかに記載のフィブリノゲン凍結乾燥製剤およびトロンビン製剤を有するフィブリン糊調製用キット。」
(3)訂正の適否の判断
(i)引用刊行物記載の発明
当審が訂正拒絶理由通知において示した刊行物1(特開平2-36872号公)には、以下の記載がされている。
「1.・・・ヒトまたは動物の組織または器官部分を継目なしに、あるいは継目を支持するように連結する、傷をふさぎ、血を止め、傷の治癒を促進するための凍結乾燥の形の組織接着剤であって、フィブリノゲンの外に、少なくとも1種の生物学的に適合性あるテンシドと、所望により他のタンパク質類、並びにアジュバントまたは添加剤を含有することを特徴とする組織接着剤。
6.ポリオキシエチレン(23)-ドデシル-エーテル、・・・からなるポリエーテル-アルコール類、・・・などのポリエーテルエステル類、またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー類から選択されるテンシドを含有する請求項2記載の組織接着剤。」(特許請求の範囲第1項、第6項)
「それらの作用機序はトロンビンの作用により、再構成された組織接着剤中に存在する(可溶性)フィブリノゲンが(不溶性)のフィブリンに変換され、・・・組織の接着に必須の高分子ポリマーを形成する。必要なトロンビン活性は接着すべき組織自身(傷の部位)から導かれるか、あるいはトロンビンおよびCa2+イオンを含有する溶液の型で接着時に組織接着剤に加えてもよい。」(3頁左上欄13行〜右上欄2行)
「組織接着剤は溶液状態では非常に安定とはいえず、長時間にわたって持続性を有するものではないので、冷凍保存溶液または凍結乾燥品の形で市場化し、利用することができる。したがって、入手した市販の生産物は、適用前に解凍するか、凍結乾燥品から再構成する必要がある。いずれの方法でもかなり時間が浪費される。
医師の側からは、・・・迅速に利用できることが決定的に重要である故に、溶解時間の短縮が望まれている。組織接着剤として用いるためにはフィブリノゲン濃度は少なくとも70mg/mlであることが必要であり、この濃度を達成することはしばしば困難であり、」(3頁右上欄9行〜左下欄2行)
「加熱、撹拌を連結した装置は改善を示している。即ち、著しい再構成時間の短縮を示しているが、医師は一層の改善を要求している。
難溶性タンパク質はある種の添加物によって改善され得ることが知られている。即ち、EP-A-0 085923にはフィブリノゲンの外に尿素またはグアニジン残基を有する物質をも含有する、凍結乾燥したフィブリノゲン組成物が開示されている。しかしながら、そのような添加物には繊維芽細胞の成長を阻害し、変化した、非生理学的なフィブリン構造をもたらし、フィブリンの所望の弾力性が欠如することになる・・・。」(3頁右下欄6行〜19行)
「本発明は上記の欠点が除去されている、従来技術に比較して再構成時間が短縮された組織接着剤を提供することを目的とするものである。
本発明においては、フィブリノゲンの外に、少なくとも1種の生物学的に適合しうるテンシド(tenside)、および所望により、他のタンパク質ならびに添加物を含有する組織接着剤によって、上記目的を達成した。これらの生物学的に適合し得るテンシドの存在が、上記の悪影響を現すことなく、再構成時間を実質上、短縮するということは驚くべきことである。」(4頁左上欄第5〜15行)
「とりわけ、実質上、凍結乾燥製品の再構成時間の短縮をもたらす濃度でテンシドを含有するフィブリノゲンを基礎とする組織接着剤が細胞毒性でなく、繊維芽細胞の成長を阻害せず、」(4頁右上欄6行〜9行)
「組織接着剤は、非イオン性、陽イオン性、陰イオン性または双イオン性テンシドからなる群から選択される少なくとも1種のテンシドをフィブリノゲン含有量に基づいて、0.0003〜0.15の量(0.03〜15質量%)、好ましくは0.001〜0.01(0.1〜1.0質量%)の量で含有することが好都合である。」(4頁左下欄第12〜18行)
「使用用溶液のイオン強度および/または浸透圧が非生理学的に高い組織接着剤は細胞毒性であることが分かっている。
テンシドの添加によって本発明の、凍結乾燥組織接着剤は、その使用用溶液のイオン強度および/または浸透圧を高めることなく再構成時間を短縮されているので、細胞損傷性はまったく認められない。」(4頁右下欄6行〜13行)
「組織接着剤に含有させることが好ましいことが分かったテンシドを以下に示す。
ポリオキシエチレン(23)-ドデシル-エーテル、・・・からなるポリエーテル-アルコール類、・・・ポリオキシエチレンステアロイル-エステルなどのポリエーテルエステル類、またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー類。
組織接着剤に、・・・ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート等のポリアルコール無水物エステル類、・・・などの群から選択されるテンシドを含有させても、再構成時間を短縮し得る。」(5頁左上欄第6行〜右上欄第13行)
「本発明はまた、乾燥品あたりの含量が少なくとも0.25(25質量%)であるフィブリノゲン、・・・総含量がフィブリノゲン含量の0.0003〜0.15(0.03〜15質量%)である、生物学的に適合し得る少なくとも1種のテンシド、および所望により、・・・フィブリノゲン含量の1.1(110質量%)までのアルブミンを含有するヒトまたは動物のタンパク質を基礎とする凍結乾燥組成物を、・・・フィブリノゲン濃度が少なくとも70mg/mlである、そのまま使用できる組織接着剤溶液の調製に用いる方法を提供するものである。」(5頁右下欄第5行〜6頁左上欄第1行)
「溶媒5.0ml(水またはアプロチニン水溶液)を加えて再構成し、フィブリノゲン80mg/mlの使用用組織接着剤溶液を得た。要した再構成時間は方法I(手動撹拌)では13分間、方法II(加熱および撹拌を合併した装置)では7分間であった・・・。」(10頁右下欄5行〜12行)
「要した再構成時間(方法II)はテンシド不含の比較製品に関しては約35分間であったが、本発明のテンシド含有製品に関しては3.5分間にすぎなかった。」(11頁右下欄9行〜12行)
「要した再構成時間(方法II)はテンシド不含の比較製品に関しては15分間であったが、本発明のテンシド含有製品に関しては4分間にすぎなかった。」(12頁左下欄2行〜5行)
また、表1の実施例9には、テンシドとしてポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体を使用することにより、方法IIにおいては溶解時間が2.5分であることが示されている。
さらに、実施例1-37として、ヒトアルブミン、グリシン、テンシドを加えることも示され(6頁左上欄〜右上欄)ている。
同じく、刊行物2(特開平1-99565号公報)には、以下の記載がされている。
「フィブリノゲンおよびトロンビンからなるフィブリン糊調製用キットにおいて、さらにフィブロネクチンをフィブリノゲン100重量部当たり5〜50重量部の割合で添付してなることを特徴とするキット。」(特許請求の範囲)
「本発明で用いられる安定化剤としては、糖、糖アルコール、アミノ酸、非イオン系界面活性剤などが挙げられる。
糖としては、単糖類(・・・)、二糖類(ショ糖・・・)、多糖類(・・・)が挙げられる。糖アルコールとしては、ソルビトール、マンニトール、キシリトールなどが挙げられる。
アミノ酸としては、中性アミノ酸(グリシン・・・)、酸性アミノ酸(・・・)、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジンなど)などが挙げられる。
非イオン系界面活性剤としては、ポリオール脂肪酸エステル(Span等)、そのポリエチレングリコール縮合物(Tween等)、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体(Pluronic等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HCO等)などが挙げられる。
安定化剤は二種以上を併用することができる。また、フィブリノゲン、トロンビン、フィブロネクチンのいずれかまたは全てに添加することもできる。」(3頁左上欄13行〜右上欄16行)
同じく、刊行物3(特開平2-114号公報)には、以下の記載がされている。
「(1)70%以上の凝固性フィブリノゲンを含有し、内在性ファクターXIIIを含有し、大気温度にて約150g/l蛋白質濃度まで水性溶媒に急速に溶解することを特徴とするトロンビン凝固性蛋白質濃縮物。(2)蛋白質1g当り,少くとも0.10IUの・・・及び0.35mg以下のアルブミンを含有する請求項1に記載の濃縮物。・・・(6)請求項1乃至3のいずれかに記載の濃縮物から得られる生物学的膠質。」(特許請求の範囲1,2,6項)
「大気温度において急速に、即ち、水性媒体中150g/lにも達する蛋白質濃度で10分以内に溶解する。」(3頁左下欄16行〜右下欄1行)
「濃縮物を濾過し、無菌下に調整し、0.5、1、2、又は5ml溶液としての以後の使用のための最終バイアル中で凍結乾燥させる。
・・・上記のごとく、本発明の濃縮物は、優れた溶解性及び安定性を持つ。事実、その溶解時間は、特別な機器を必要とせず、単純な手動の回転運動により、37℃ばかりか20℃においても、10分以下、5分でさえある。」(6頁左上欄14行〜18行)
同じく、刊行物4(特開昭55-110556号公報)には、以下の記載がされている。
「(1)フィブリノーゲン及び第XIII因子を含有する人間のまたは動物の蛋白をベースとする組織接着剤に於て、
(a)少なくとも33重量%のフィブリノーゲンを含有すること、・・・
(c)蛋白全体中にフィブリノーゲンとアルブミンとが33〜90:5〜40の割合で含有されていること、・・・
(e)調剤がリォフィール化されていること、
を組合せて有することを特徴とする、上記組織接着剤。
(2)追加的にグリシンを含有する特許請求の範囲第1項記載の組織接着剤。
(3)追加的にグルコーゼまたはサッカローゼ含有する特許請求の範囲第1項または第2項記載の組織接着剤。・・・
(8)接合すべき組織に組織接着剤を適用する以前に、トロンビンと塩化カルシウムとの混合物を該接着剤に添加するか組織上に塗布する特許請求の範囲第7項記載の方法。」(特許請求の範囲1,2,3,8項)
「有利なある実施形態によれば、組織接着剤が追加的にグリシンを含有しており、それによってリォフィール化された生成物の再溶解性が改善される。
更に組織接着剤は、追加的にグルコーゼまたはサッカローゼを含有していてもよい。これらの成分も同様に溶解性を助成する。」(3頁右上欄16行〜左下欄2行)
「精製した沈殿物を、人間のアルブミン、グリシンおよび場合によってはグルコーゼまたはサッカローゼ、・・・を含有し・・・溶解し、・・・最終的容器中に充填しそしてリォフィール化する。」(4頁左上欄9行〜17行)
「接合すべき組織に本発明の組織接着剤を適用する以前に、トロンビンと塩化カルシウムとの混合物を該接着剤に添加するか組織上に塗布することが有利である。」(4頁右上欄18行〜左下欄1行)
(ii)判断
訂正明細書の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるかについて検討する。
(a)訂正明細書の請求項1に係る発明は、
「25℃にて水に2.5〜3分で、4〜12w/v%となるように完全に溶解し得るフィブリノゲン凍結乾燥製剤」である。
これに対し、刊行物1には、フィブリノゲン80mg/mlの使用用組織接着剤溶液を得、再構成に要した時間は方法IIによる加熱および撹拌を合併した装置では7分間であったことが示され、また、組織接着剤の再溶解性が改善されることや、組織接着剤溶解性を助成することも示されている。また、刊行物3には溶解時間が特別な機器を必要とせず、単純な手動の回転運動により、37℃ばかりか20℃においても、10分以下、5分でさえあることが示されている。さらに、刊行物4には、組織接着剤の再溶解性が改善されることが示され、さらに、グリシンやサッカロースを添加することにより組織接着剤の溶解性を助成することが示され、フィブリノゲン凍結乾燥製剤の溶解時間が短縮できることが示されている。
そうすると、前記刊行物1〜4には、フィブリノゲン製剤について短時間に溶解させる技術が示されている上、1w/v%以上となるように溶解することも示され、20℃で5分であることも示されているから、25℃にて水に2.5〜3分で、4〜12w/v%となるように完全に溶解し得るフィブリノゲン製剤とすることには、格別の創意があるものとはいえず、引用刊行物1〜4に基づいて当業者が容易になし得たものといえる。
したがって、訂正明細書の請求項1に係る発明は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(iii)むすび
以上のとおり、訂正明細書の請求項1に係る発明は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成六年法律第百十六号。以下「平成六年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第百二十条の四第三項において準用する平成六年改正法による改正前の特許法第百二十6条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
なお、請求項2〜9に係る発明についても、訂正拒絶理由に示したとおり、刊行物1〜4の記載に基づき容易に発明をすることができたものといえ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、いずれも特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
III.特許異議申立について
(1)異議申立人 財団法人 化学及血清療法研究所は、甲第1号証(当審が通知した取消理由において引用した刊行物(以下、引用刊行物という)1)、甲第2号証(引用刊行物5)、甲第3号証(引用刊行物4)、甲第4号証(引用刊行物3)、甲第5号証(松田道生、外科、Vol.51(3)、p.224-230,1989年)、参考資料1(The Merck Index、第11版 p.1547)を提出して、特許第2894224号の請求項1〜10に係る発明は、前記甲第1〜5号証に記載された発明であるか、本件特許出願日以前に日本国内において公然知られた発明であるか、本件特許出願日以前に日本国内において公然実施された発明であるから、特許第2894224号の請求項1〜10に係る各発明は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許第2894224号の請求項1〜10に係る各発明は、前記甲第1〜5号証及び参考資料1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許第2894224号の請求項1〜10に係る各発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、さらに、本件の特許明細書には、記載不備があるので、本件特許は、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから取り消されるべき旨、
また、異議申立人 坂本幹彦は、甲第1号証(引用刊行物1)、甲第2号証(引用刊行物2)、甲第3号証(ケミカルアブストラクツ インデックスガイド IG2 、1691G(1986))を提出し、特許第2894224号の請求項1〜10に係る発明は、前記甲第1〜3号証に記載された発明であるから、特許第2894224号の請求項1〜10に係る各発明は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許第2894224号の請求項1〜10に係る各発明は、前記甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許第2894224号の請求項1〜10に係る各発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、さらに、本件の特許明細書には、記載不備があるので、本件特許は、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから取り消されるべき旨、それぞれ主張している。
(2)異議申立について検討する。
(i)本件発明
特許第2894224号の請求項1〜10に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】水に短時間に1w/v%以上となるように完全に溶解し得るフィブリノゲン製剤。
【請求項2】水に短時間に4w/v%以上となるように完全に溶解し得る請求項1記載のフィブリノゲン製剤。
【請求項3】水に6分以内に完全に溶解し得る請求項2記載のフィブリノゲン製剤。
【請求項4】界面活性剤を含有するフィブリノゲン製剤。
【請求項5】界面活性剤が、非イオン系界面活性剤である請求項4記載のフィブリノゲン製剤。
【請求項6】非イオン系界面活性剤が、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール縮合物およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油より選ばれるものである請求項5記載のフィブリノゲン製剤。
【請求項7】ヒト血清アルブミンをさらに含有する請求項4〜6のいずれかに記載のフィブリノゲン製剤。
【請求項8】糖または糖アルコールをさらに含有する請求項4または7記載のフィブリノゲン製剤。
【請求項9】アミノ酸をさらに含有する請求項4または8記載のフィブリノゲン製剤。
【請求項10】請求項1〜9のいずれかに記載のフィブリノゲン製剤およびトロンビン製剤を有するフィブリン糊調製用キット。」
(ii)異議申立人が提出し、当審が通知した取消理由において引用した各甲号証の記載事項
引用刊行物1(特開平2-36872号公)には、以下の記載がされている。
「1.・・・ヒトまたは動物の組織または器官部分を継目なしに、あるいは継目を支持するように連結する、傷をふさぎ、血を止め、傷の治癒を促進するための凍結乾燥の形の組織接着剤であって、フィブリノゲンの外に、少なくとも1種の生物学的に適合性あるテンシドと、所望により他のタンパク質類、並びにアジュバントまたは添加剤を含有することを特徴とする組織接着剤。
6.ポリオキシエチレン(23)-ドデシル-エーテル、・・・からなるポリエーテル-アルコール類、・・・などのポリエーテルエステル類、またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー類から選択されるテンシドを含有する請求項2記載の組織接着剤。」(特許請求の範囲第1項、第6項)
「それらの作用機序はトロンビンの作用により、再構成された組織接着剤中に存在する(可溶性)フィブリノゲンが(不溶性)のフィブリンに変換され、・・・組織の接着に必須の高分子ポリマーを形成する。必要なトロンビン活性は接着すべき組織自身(傷の部位)から導かれるか、あるいはトロンビンおよびCa2+イオンを含有する溶液の型で接着時に組織接着剤に加えてもよい。」(3頁左上欄13行〜右上欄2行)
「組織接着剤は溶液状態では非常に安定とはいえず、長時間にわたって持続性を有するものではないので、冷凍保存溶液または凍結乾燥品の形で市場化し、利用することができる。したがって、入手した市販の生産物は、適用前に解凍するか凍結乾燥品から再構成する必要がある。いずれの方法でもかなり時間が浪費される。
医師の側からは、・・・迅速に利用できることが決定的に重要である故に、溶解時間の短縮が望まれている。組織接着剤として用いるためにはフィブリノゲン濃度は少なくとも70mg/mlであることが必要であり、この濃度を達成することはしばしば困難であり、」(3頁右上欄9行〜左下欄2行)
「加熱、撹拌を連結した装置は改善を示している。即ち、著しい再構成時間の短縮を示しているが、医師は一層の改善を要求している。
難溶性タンパク質はある種の添加物によって改善され得ることが知られている。即ち、EP-A-0 085923にはフィブリノゲンの外に尿素またはグアニジン残基を有する物質をも含有する、凍結乾燥したフィブリノゲン組成物が開示されている。しかしながら、そのような添加物には繊維芽細胞の成長を阻害し、変化した、非生理学的なフィブリン構造をもたらし、フィブリンの所望の弾力性が欠如することになる・・・。」(3頁右下欄6行〜19行)
「本発明は上記の欠点が除去されている、従来技術に比較して再構成時間が短縮された組織接着剤を提供することを目的とするものである。
本発明においては、フィブリノゲンの外に、少なくとも1種の生物学的に適合しうるテンシド(tenside)、および所望により、他のタンパク質ならびに添加物を含有する組織接着剤によって、上記目的を達成した。これらの生物学的に適合し得るテンシドの存在が、上記の悪影響を現すことなく、再構成時間を実質上、短縮するということは驚くべきことである。」(4頁左上欄第5〜15行)
「とりわけ、実質上、凍結乾燥製品の再構成時間の短縮をもたらす濃度でテンシドを含有するフィブリノゲンを基礎とする組織接着剤が細胞毒性でなく、繊維芽細胞の成長を阻害せず、」(4頁右上欄6行〜9行)
「組織接着剤は、非イオン性、陽イオン性、陰イオン性または双イオン性テンシドからなる群から選択される少なくとも1種のテンシドをフィブリノゲン含有量に基づいて、0.0003〜0.15の量(0.03〜15質量%)、好ましくは0.001〜0.01(0.1〜1.0質量%)の量で含有することが好都合である。」(4頁左下欄第12〜18行)
「使用用溶液のイオン強度および/または浸透圧が非生理学的に高い組織接着剤は細胞毒性であることが分かっている。
テンシドの添加によって本発明の、凍結乾燥組織接着剤は、その使用用溶液のイオン強度および/または浸透圧を高めることなく再構成時間を短縮されているので、細胞損傷性はまったく認められない。」(4頁右下欄6行〜13行)
「組織接着剤に含有させることが好ましいことが分かったテンシドを以下に示す。
ポリオキシエチレン(23)-ドデシル-エーテル、・・・からなるポリエーテル-アルコール類、・・・ポリオキシエチレンステアロイル-エステルなどのポリエーテルエステル類、またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー類。
組織接着剤に、・・・ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート等のポリアルコール無水物エステル類、・・・などの群から選択されるテンシドを含有させても、再構成時間を短縮し得る。」(5頁左上欄第6行〜右上欄第13行)
「本発明はまた、乾燥品あたりの含量が少なくとも0.25(25質量%)であるフィブリノゲン、・・・総含量がフィブリノゲン含量の0.0003〜0.15(0.03〜15質量%)である、生物学的に適合し得る少なくとも1種のテンシド、および所望により、・・・フィブリノゲン含量の1.1(110質量%)までのアルブミンを含有するヒトまたは動物のタンパク質を基礎とする凍結乾燥組成物を、・・・フィブリノゲン濃度が少なくとも70mg/mlである、そのまま使用できる組織接着剤溶液の調製に用いる方法を提供するものである。」(5頁右下欄第5行〜6頁左上欄第1行)
「溶媒5.0ml(水またはアプロチニン水溶液)を加えて再構成し、フィブリノゲン80mg/mlの使用用組織接着剤溶液を得た。要した再構成時間は方法I(手動撹拌)では13分間、方法II(加熱および撹拌を合併した装置)では7分間であった・・・。」(10頁右下欄5行〜12行)
「要した再構成時間(方法II)はテンシド不含の比較製品に関しては約35分間であったが、本発明のテンシド含有製品に関しては3.5分間にすぎなかった。」(11頁右下欄9行〜12行)
「要した再構成時間(方法II)はテンシド不含の比較製品に関しては15分間であったが、本発明のテンシド含有製品に関しては4分間にすぎなかった。」(12頁左下欄2行〜5行)
また、表1の実施例9には、テンシドとしてポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体を使用することにより、方法IIにおいては溶解時間が2.5分であることが示されている。
さらに、実施例1-37として、ヒトアルブミン、グリシン、テンシドを加えることも示され(6頁左上欄〜右上欄)ている。
引用刊行物2(特開平1-99565号公報)には、以下の記載がされている。
「フィブリノゲンおよびトロンビンからなるフィブリン糊調製用キットにおいて、さらにフィブロネクチンをフィブリノゲン100重量部当たり5〜50重量部の割合で添付してなることを特徴とするキット。」(特許請求の範囲)
「本発明で用いられる安定化剤としては、糖、糖アルコール、アミノ酸、非イオン系界面活性剤などが挙げられる。
糖としては、単糖類(・・・)、二糖類(ショ糖・・・)、多糖類(・・・)が挙げられる。糖アルコールとしては、ソルビトール、マンニトール、キシリトールなどが挙げられる。
アミノ酸としては、中性アミノ酸(グリシン・・・)、酸性アミノ酸(・・・)、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジンなど)などが挙げられる。
非イオン系界面活性剤としては、ポリオール脂肪酸エステル(Span等)、そのポリエチレングリコール縮合物(Tween等)、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体(Pluronic等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HCO等)などが挙げられる。
安定化剤は二種以上を併用することができる。また、フィブリノゲン、トロンビン、フィブロネクチンのいずれかまたは全てに添加することもできる。」(3頁左上欄13行〜右上欄16行)
引用刊行物3(1991年4月改訂のティシール添付文書)には、フィブリノゲン製剤に関して記載され、アルブミン、アミノ酸、非イオン界面活性剤を含む製剤が記載され、トロンビンを含有することも記載され、これらはキットとして使用されることが記載されている。
引用刊行物4(特開昭55-110556号公報)には、以下の記載がされている。
「(1)フィブリノーゲン及び第XIII因子を含有する人間のまたは動物の蛋白をベースとする組織接着剤に於て、
(a)少なくとも33重量%のフィブリノーゲンを含有すること、・・・
(c)蛋白全体中にフィブリノーゲンとアルブミンとが33〜90:5〜40の割合で含有されていること、・・・
(e)調剤がリォフィール化されていること、
を組合せて有することを特徴とする、上記組織接着剤。
(2)追加的にグリシンを含有する特許請求の範囲第1項記載の組織接着剤。
(3)追加的にグルコーゼまたはサッカローゼ含有する特許請求の範囲第1項または第2項記載の組織接着剤。・・・
(8)接合すべき組織に組織接着剤を適用する以前に、トロンビンと塩化カルシウムとの混合物を該接着剤に添加するか組織上に塗布する特許請求の範囲第7項記載の方法。」(特許請求の範囲1,2,3,8項)
「有利なある実施形態によれば、組織接着剤が追加的にグリシンを含有しており、それによってリォフィール化された生成物の再溶解性が改善される。
更に組織接着剤は、追加的にグルコーゼまたはサッカローゼを含有していてもよい。これらの成分も同様に溶解性を助成する。」(3頁右上欄16行〜左下欄2行)
「精製した沈殿物を、人間のアルブミン、グリシンおよび場合によってはグルコーゼまたはサッカローゼ、・・・を含有し・・・溶解し、・・・最終的容器中に充填しそしてリォフィール化する。」(4頁左上欄9行〜17行)
「接合すべき組織に本発明の組織接着剤を適用する以前に、トロンビンと塩化カルシウムとの混合物を該接着剤に添加するか組織上に塗布することが有利である。」(4頁右上欄18行〜左下欄1行)
引用刊行物5(特開平2-114号公報)には、以下の記載がされている。
「(1)70%以上の凝固性フィブリノゲンを含有し、内在性ファクターXIIIを含有し、大気温度にて約150g/l蛋白質濃度まで水性溶媒に急速に溶解することを特徴とするトロンビン凝固性蛋白質濃縮物。(2)蛋白質1g当り,少くとも0.10IUの・・・及び0.35mg以下のアルブミンを含有する請求項1に記載の濃縮物。・・・(6)請求項1乃至3のいずれかに記載の濃縮物から得られる生物学的膠質。」(特許請求の範囲1,2,6項)
「大気温度において急速に、即ち、水性媒体中150g/lにも達する蛋白質濃度で10分以内に溶解する。」(3頁左下欄16行〜右下欄1行)
「濃縮物を濾過し、無菌下に調整し、0.5、1、2、又は5ml溶液としての以後の使用のための最終バイアル中で凍結乾燥させる。
・・・上記のごとく、本発明の濃縮物は、優れた溶解性及び安定性を持つ。事実、その溶解時間は、特別な機器を必要とせず、単純な手動の回転運動により、37℃ばかりか20℃においても、10分以下、5分でさえある。」(6頁左上欄14行〜18行)
(iii)判断
請求項1〜10に係る発明が引用刊行物1〜5に記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるか否かについて検討する。
(a)請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明は、「水に短時間に1w/v%以上となるように完全に溶解し得るフィブリノゲン製剤」である。
これに対し、引用刊行物1には、フィブリノゲン80mg/mlの使用用組織接着剤溶液を得、再構成に要した時間は方法IIによる加熱および撹拌を合併した装置では7分間であったことが示され、また、組織接着剤の再溶解性が改善されることや、組織接着剤溶解性を助成することも示されている。また、引用刊行物4には、組織接着剤の再溶解性が改善されることが示され、さらに、組織接着剤の溶解性を助成することも示されている。また、引用刊行物5には溶解時間が特別な機器を必要とせず、単純な手動の回転運動により、37℃ばかりか20℃においても、10分以下、5分でさえあることが示されている。
そうすると、前記引用刊行物1及び5には、フィブリノゲン製剤について短時間に溶解させる技術が示されている上、1w/v%以上となるように溶解することも示されているから、水に短時間に1w/v%以上となるように完全に溶解し得るフィブリノゲン製剤とすることは、引用刊行物1、4〜5に基づいて当業者が容易になし得たものといえる。
(b)請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明は「水に短時間に4w/v%以上となるように完全に溶解し得る請求項1記載のフィブリノゲン製剤」である。
そして、請求項1についての理由と同様、水に短時間に4w/v%以上となるように完全に溶解し得るようにすることは、前記引用刊行物1及び4〜5に基づいて当業者が容易になし得たものといえる。
(c)請求項3に係る発明について
請求項3に係る発明は「水に6分以内に完全に溶解し得る請求項2記載のフィブリノゲン製剤」である。
そして、水に6分以内に完全に溶解し得るようにすることは、刊行物1及び5に記載の撹拌手段を適用することにより容易になし得るものといえ、また、引用刊行物4には、組織接着剤の再溶解性が改善されることが示され、さらに、組織接着剤の溶解性を助成することも示されている。
そうすると、フィブリノゲン製剤を水に6分以内に完全に溶解させることは、前記引用例1,4,5に記載の技術を適用することにより容易に成し得るものといえ、格別の困難性があるとはいえない。
したがって、請求項3に係る発明は、刊行物1,4〜5から容易に想到し得たものである。
(d)請求項4に係る発明について
請求項4に係る発明は「界面活性剤を含有するフィブリノゲン製剤」である。
一方、引用刊行物1には、フィブリノゲン製剤に界面活性剤を配合することにより再構成時間の短縮を図ることが示され、引用刊行物2には、フィブリノゲン製剤に界面活性剤を配合することにより製剤の安定化を図ることが示されている。さらに、引用刊行物3には、非イオン界面活性剤が配合されたフィブリノゲン製剤からなる組織接着剤が示されている。
したがって、請求項4に係る発明は、引用刊行物1〜3から容易に成し得たものである。
(e)請求項5に係る発明について
請求項5に係る発明は「界面活性剤が、非イオン系界面活性剤である請求項4記載のフィブリノゲン製剤」である。
一方、引用刊行物1には、フィブリノゲン製剤に非イオン系界面活性剤を配合することによりフィブリノゲン製剤の再構成時間の短縮を図ることが示され、引用刊行物2には、フィブリノゲン製剤に界面活性剤を配合することによりフィブリノゲン製剤の安定化を図ることが示されている。さらに、引用刊行物3には、非イオン界面活性剤が配合されたフィブリノゲン製剤からなる組織接着剤製剤が示されている。
したがって、請求項5に係る発明は、引用刊行物1〜3から容易に成し得たものである。
(f)請求項6に係る発明について
請求項6に係る発明は「非イオン系界面活性剤が、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール縮合物およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油より選ばれるものである請求項5記載のフィブリノゲン製剤」である。
一方、引用刊行物1には、界面活性剤としてポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体を配合することにより、フィブリノゲン製剤の再構成時間の短縮を図ることが示され、引用刊行物2には、フィブリノゲン製剤にポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール縮合物およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油より選ばれる界面活性剤を配合することによりフィブリノゲン製剤の安定化を図ることが示されている。
したがって、請求項5に係る発明は、引用刊行物1〜2から容易に成し得たものである。
(g)請求項7に係る発明について
請求項7に係る発明は「ヒト血清アルブミンをさらに含有する請求項4〜6のいずれかに記載のフィブリノゲン製剤」である。
一方、引用刊行物1、3〜5には、フィブリノゲン製剤にヒト血清アルブミンが含有されることが示されている。
そうすると、フィブリノゲン製剤にヒト血清アルブミンを配合することは容易に想到し得たものといえる。
したがって、請求項7に係る発明は、引用刊行物1〜5から容易に成し得たものである。
(h)請求項8に係る発明について
請求項8に係る発明は「糖または糖アルコールをさらに含有する請求項4または7記載のフィブリノゲン製剤である。
一方、引用刊行物1には、フィブリノゲン製剤からなる組織接着剤に添加物を配合しても良いことが示され、刊行物2には、糖または糖アルコールが配合されたものが示され、引用刊行物4では、グルコーゼまたはサッカローゼを含有してもよいことが示されている。
してみると、フィブリノゲン製剤に糖または糖アルコールを含有させることは、格別の創意を要することなく成し得たものといえる。
したがって、請求項8に係る発明は、引用刊行物1〜5から容易に成し得たものである。
(i)請求項9に係る発明について
請求項9に係る発明は「アミノ酸をさらに含有する請求項4または8記載のフィブリノゲン製剤」である。
一方、引用刊行物1には、フィブリノゲン製剤からなる組織接着剤に添加物を配合しても良いことが示され、引用刊行物2には、フィブリノゲン製剤にアミノ酸を配合することが示され、引用刊行物3には、アミノ酢酸が配合されたものが示され、引用刊行物4には、グリシンを配合することが示され、引用刊行物5にはリジンを配合することが示されている。
してみると、フィブリノゲン製剤にアミノ酸を含有させることは、格別の創意を要することなく成し得たものといえる。
したがって、請求項9に係る発明は、引用刊行物1〜5から容易に成し得たものである。
(j)請求項10に係る発明について
請求項10に係る発明は「請求項1〜9のいずれかに記載のフィブリノゲン製剤およびトロンビン製剤を有するフィブリン糊調製用キット。」である。
一方、引用刊行物1〜5には、フィブリノゲン製剤及びトロンビン製剤を含有するフィブリン製剤からなる組織接着剤が示されている。
してみると、組織接着用の製剤として、フィブリノゲン製剤およびトロンビン製剤を有するフィブリン糊調製用キットとすることは、格別の創意を要することなく成し得たものといえる。
したがって、請求項10に係る発明は、引用刊行物1〜5から容易に成し得たものである。
また、請求項1〜10に係る各発明が格別顕著な効果を奏したものとはいえない。
IV.むすび
以上のとおりであるから、請求項1〜10に係る各発明は、引用刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1〜10に係る各発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-04-13 
出願番号 特願平6-294674
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (A61K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 瀬下 浩一  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 谷口 浩行
柿沢 紀世雄
登録日 1999-03-05 
登録番号 特許第2894224号(P2894224)
権利者 ウェルファイド株式会社
発明の名称 フィブリノゲン製剤およびそれを用いたフィブリン糊調製用キット  
代理人 高島 一  

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