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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01B
管理番号 1043153
異議申立番号 異議2000-70959  
総通号数 21 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-01-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-03-06 
確定日 2001-03-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2944515号「自然構造物の形状診断方法」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2944515号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第2944515号の請求項1〜6に係る発明は、平成8年6月26日に特許出願され、平成11年6月25日に特許の設定登録がなされ、その後、その特許について、申立人非破壊検査株式会社から特許異議の申立てがなされ、平成12年10月19日に取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年1月9日に訂正請求がなされたものである。

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求める訂正は、次のとおりである。
[訂正事項1]
明細書の特許請求の範囲の記載を次のとおり訂正する。
「【請求項1】 ハンマー打撃装置を用いて自然構造物を打撃し、反射波の中の高周波領域で帯状周波数域の成分をフィルターを介して選択検知し、その強い指向性と表面波の著しい減衰特性とから自然構造物の端部または亀裂部の境界点を検出し、その位置までの距離を、次式
L1=△t・V/2
L1:検知点と境界点位置との距離、
△t:境界点反射波の初動時間、
V:構造物材料の波動伝播速度
にしたがって求めることを特徴とする自然構造物の形状診断方法。
【請求項2】 10kHzを超えて500kHz程度までの高周波領域の反射波を受信して距離を求める請求項1の形状診断方法。
【請求項3】 100kHz以上の高周波領域の反射波を受信して距離を求める請求項1の形状診断方法。
【請求項4】 複数個所において自然構造物を打撃して反射波を受信する請求項1ないし3のいずれかの形状診断方法。
【請求項5】 自然構造物の外形形状を診断する請求項1ないし4のいずれかの形状診断方法。
【請求項6】 自然構造物の亀裂部位を診断する請求項1ないし4のいずれかの形状診断方法。」
[訂正事項2]
明細書の段落番号【0008】の欄の記載を次のとおり訂正する。
「この発明は、上記の課題を解決するものとして、ハンマー打撃装置を用いて自然構造物を打撃し、反射波の中の高周波領域で帯状周波数域の成分をフィルターを介して選択検知し、その強い指向性と表面波の著しい減衰特性とから自然構造物の端部または亀裂部の境界点を検出し、その位置までの距離を、次式
L1=△t・V//2
L1:検知点と境界点位置との距離、△t:境界点反射波の初動時間、V:構造物材料の波動伝播速度にしたがって求めることを特徴とする自然構造物の形状診断方法を提供する。」
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、明細書の段落番号【0014】【0031】に記載されており、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
上記訂正事項2は、特許請求の範囲の訂正に伴い、整合をとるために発明の詳細な説明の記載を訂正するもので、明りょうでない記載の釈明を目的とするもので、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第百二十条の四第二項及び同条第三項において準用する特許法第百二十6条第2項から第四項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

3 特許異議の申立てについての判断
(1)申立ての理由の概要
本件請求項1〜6に係る発明は、下記の甲第1号証〜第12号証、甲第18号、第19号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、取り消すべきものである。
また、本件特許明細書は、下記の甲第5号〜第7号証、甲第12号証〜第17号証を参照すれば技術的に矛盾を生じており、当業者が本件発明を実施することができず、特許法36条4項の規定により特許を受けることができないものであり、取り消すべきものである。
さらに、本件請求項1〜6に係る発明は、特許を受けようとする発明の外延が不明確であるから、特許法36条6項の規定により特許を受けることができないものであり、取り消すべきものである。

甲第1号証:「弾性波を利用した杭の非破壊検査方法の実測例」1989年発行
甲第2号証:第25回土質工学研究発表会論文集1303〜1304頁「杭の非破壊検査技術の開発(その6)」平成2年(1990年)6月発行
甲第3号証:土木技術35巻9号24〜32頁「コンクリート構造物の非破壊測定」1980年発行
甲第4号証:(財)先端建設技術センター発行「アドヴァンスNO.4」「非接触、非破壊計測技術の砂防工事への適用」 17頁平成8年(1996年)6月17日発行
甲第5号証:「超音波技術便覧」(改訂新版)1331〜1332頁昭和41年発行
甲第6号証:「超音波試験技術一理論と実際-」468〜474頁1980年発行
甲第7号証:「理科年表昭和61年」昭和60年(1985年)11月発行
甲第8号証:非破壊検査株式会社技術本部安全工学研究所著技術レポート「ハーバーハイウェイ基礎杭の弾性波反射による亀裂評価結果概要」1995年9月11日発行
甲第9号証:非破壊検査株式会社 社員 西本重人 陳述書
甲第10号証:非破壊検査株式会社大阪事業部技術レポート「PC鋼棒の損傷調査」(供試体の確認試験)平成6年(1994年)6月発行
甲第11号証:写真、平成7年9月3日撮影
甲第12号証:平成11年3月8日付提出意見書
甲第13号証:(社)日本非破壊検査協会発行「超音波探傷試験11」16〜18頁平成4年(1992年)6月発行
甲第14号証:「超音波探傷法」22〜25頁昭和39年(1964年)11月発行
甲第15号証:「超音波技術便覧」(改訂新版)25〜26頁昭和41年(1966年)10月発行
甲第16号証:非破壊検査民間技術国際シンポジウム論文集104〜108頁1995年9月発行
甲第17号証:株式会社青木建設「非破壊探査システムオーリス」パンフレット
甲第18号証:「超音波技術便覧」(改訂新版)19〜20頁昭和41年発行
甲第19号証:「超音波試験技術-理論と実際-」23〜27頁1980年発行
(2)本件発明
上記2で示したように、訂正が認められるから、本件請求項1〜6に係る発明は、訂正明細書の請求項1〜6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。
(3)甲各号証記載の発明
甲第1〜18号証には以下に摘記した事項が記載されている。
(甲第1号証)
甲第1号証「弾性波を利用した杭の非破壊検査方法の実施例」は、『杭の打ち込み性および波動理論の杭への応用に関するシンポジウム発表論文集』91〜94頁に記載され、平成元年1月20日に発行されていることが認められる。
「弾性波を利用した杭の非破壊検査方法の実測例」に関し、「試験は杭頭をプラスチックハンマーで軽打し、その加速度応答シグナルを杭頭に設置した加速度センサーで捕らえることで行なわれる。杭頭で与えられたシグナルは速度:C=√(E/ρ)(E:弾性係数、ρ:密度)で杭軸に沿って伝ぱし、杭先端で反射シグナルとなって時間t=2・L/C(L:杭長)後に杭頭に到達する。打撃シグナルは杭先端に至る間に杭体の不連続面から一部が反射シグナルとして杭頭に向かう。反射シグナルはノイズ除去、積分、増幅等の処理が行なわれた後、オシロスコープにアウトプットされる。」(甲1号証左欄91頁)と記載され、「図-1測定器機器の機構」によれば、反射シグナルはハイパスフィルターを通過することが認められる。また、図4に関して、「(b)は(a)と同じ地盤で施工された杭であるが、座屈させた杭の波形である。・・・図中Fで示す位置で明らかな反射シグナルが現れ、その後も等間隔に現れている。この反射シグナルの到達時間より、反射位置は杭頭から4.5mの位置と計算された。」(同号証92頁下から16〜12行)と記載されている。
(甲第2号証)
「杭の非破壊検査技術」に関し、「打撃試験は、杭打設後、枕頭部を一旦掘削土砂で埋め戻し、地中で養生してから、枕頭部分が地盤から50cm程度突出するよう掘り出した状態で行なった。・・・杭頭の打撃に使用したハンマは、ハンマの性状による杭体応答の状況を測定するため、プラスチック製、鉄製、木製と材質の異なった3種類のハンマーを使用した。」(甲第2号証1303頁下から4行〜1304頁8行)と記載され、「図-3に各ハンマーによる速度時間波形を示す。図より、明らかに杭体からの反射波が確認された。この反射波は、ノイズよりも大きく、一定の場所からの反射であること、及び反射波の向きから、杭先端からの反射波と、その直前に現れている拡底部からの反射波であると推測される。
得られた速度時間波形から、杭長の推定を行なう。杭の推定長は、打撃インパルスのピークから杭先端の反射、および拡底部の反射のピークが検出されるまでの時間を用いて、次式によって計算した。
L=T/2×C
ここに、L:杭の推定長、T:打撃インパルスを入れてから反射波が観測されるまでの時間、C:杭中の波動伝播速度とする。杭中の波動伝播速度は、杭から採取したコアの圧縮強度試験から得られた弾性係数と単位体積重量から求めた。杭長の推定結果を表-1に示す。」と記載されている。
(甲第3号証)
「コンクリート構造物の非破壊測定」に関し、「コンクリート構造物内の空隙やクラック、掘削岩盤中の破砕帯、地中掘削のための埋設物などを間接的に非破壊調査することは土木工事施工上極めて重要である。」(甲第3号証24頁左欄2〜5行)「これは微小鉄片を急速にコンクリート面に打ちつけて弾性波を発生させ、反射波には超音波に属する適当な高次波動を抽出受信するようにしたものである。このようにすると衝撃点のすぐわきで受信しても衝撃振動の影響もなく反射波が容易に検出できる。」(同号証25頁左欄8〜11頁)「IEW法はこのように機械的衝撃で波動を発生させ、受信に超音波を利用することで容易に反射測定を可能としたことが大きな特徴である。」(同号証25頁左欄下から13行〜11行)こと、「観測波形の基本的なものは写真-3のようになり、この読み方は図-2のようにする。これは長さ300mm、200φの標準供試体反射測定例で、受信使用周波数は100KHzである。
このように衝撃点のすぐわきで受信しても表面振動の影響を受けずに反射波だけが鮮明に観測できる。」(同号証25頁左欄最下行〜右欄5行)と記載され、実施例である「砂防ダム根入れ深さの測定」に関し、(同号証31頁左欄2行)「写真-24はある砂防ダムで建設後約20数年を経たもので根入れ深さが不明なため調査をした。」(同号証31頁左欄3〜4行)「写真-25より写真-28まで中央寄りから山側へ数mごとに測定した例を示す。それぞれ(B)表示をしたところを底面としたもので、地上部で透過速度を求めその結果順に19m、16m、13m、8mと推定した。」(同号証31頁右欄下から8〜4行)と記載されている。
(甲第4号証)
「試験計測の対象は手取川上流の河原に存在する通称「百万貫の岩」といわれている巨岩とし、地上に出ている部分は非接触型、地中に埋もれていた部分は非破壊型を用いその形状を測定し」たこと、「非破壊型計測では、地盤調査で実績があり、既設砂防ダムの根入れや岩着状況の測定が可能な弾性波探査技術を採用し」たことが記載されている。
(甲第5号証)
各種岩石の密度ρ及び音速Vlが記載されている。
(甲第6号証)
「自然石に関しては、玄武岩のようなマグマ材は均質で均一とみなされる。他の岩では音速および減衰とも大きく変化する。」(468頁下から12〜11行)「一般に減衰は大きいため(ただし岩塩のような均質材を除く)、500kHz以下の周波数のみが超音波試験に用いられる。・・・困難さを助長する要因としては岩は一般に無数の小さな割れと介在物を含んでおり、これが透過性を低下させる。」(同頁下から7〜4行)「欠陥と強度のチェックはプレハブユニット用の量産品と同様、現場で鋳込まれる大型コンクリート構造物についても関心のある問題である。本質的に不均質のために路程が1mを越える場合には、この目的のために用いる周波数は100kHzまでに限られる。このため金属試験に通常用いられるコリメイトしたビームを使うことができない。鋼中で大きさ25mmの2MHz探触子で得られるコリメイトビーム(ビームの拡がりγ0は約8°)は、コンクリートの場合、100kHzで直径が350mmにもなる。」(470頁下から11〜6行)と記載されている。また、縦波音速を用いたコンクリートの品質評価が記載され、「大体3.6〜4.0が許容品質の最低限とみなされる。」(473頁1行)と記載されている。
(甲第7号証)
コンクリートの密度が2.4であることが記載されている。
(甲第8号証)
「2.計測内容」において、「1)使用した計測装置のブロック図を図2に示す。打撃装置により発生した弾性波は亀裂面で反射し、コンクリート表面に取り付けたAEセンサに到達する。AEセンサにより検出したこの反射波は、フィルタにより目的の周波数だけを取り出し、オシロスコープにより波形観察したのち、プリント出力する。
2)弾性波検出には共振点が50kHzのAEセンサを使用した。本センサは、ブリアンプを内部に内蔵することにより感度とSN比を向上している。
3)弾性波は打撃装置によりコンクリート表面を打撃することで発生させた。(図3)」と記載され、「4.計測条件」には、「計測条件を表1に示す。弾性波を発生させてその反射波を計測する場合に、亀裂の検出精度は周波数が高くなるほど向上する。従来、2kHz程度の周波数がよく使用されているが、当該検査物に対しては予備試験で100kHz以上の周波数でも杭端の反射波が検出できたので、HPFを100kHzとして高周波数を計測した。」と記載されている。
(甲第9号証)
非破壊検査株式会社社員西本重人により、ハーバーハイウェイPI法試験実施に至る背景が記載されている。
(甲第10号証)
株式会社国際建設技術研究所宛の「横締めPC鋼棒の損傷原因と考えられるシース内のグラウト充填状況とPC鋼棒の破断の有無調査のために実物大供試体を用いてそれらの検出状況を調査した結果の報告」(1頁1〜2行)であり、「AE法」について、「供試体中に波を伝播させた場合、波は供試体の内部状況に応じた影響を受け、グラウトの量及びPC鋼棒との接着状態との差異により伝達波形に変化が生じることが考えられる。そこで加振・伝播波形解析法によりグラウトの充填状況を調査した。」(9頁7〜9行)こと、「AE法は、グラウトなしと充填率100%では、伝達波形に有為差が認められ」(10頁8行)ることが記載されている。
(甲第11号証)
甲第8号証に示す実験の亀裂評価実験を撮影したと主張する写真。
(甲第12号証)
本件発明の審査において提出されたもので、本件発明の出願人による意見が記載されている。
(甲第13号証)
「遠距離音場」では、「超音波はある角度範囲だけに強く放射される。これを指向性という。」(16頁13〜16行)と記載され、「指向角Φ0は、振動子の直径に反比例し、波長に比例する」(17頁1行)こと。「Φ0=70×λ/DE (度)」(17頁 (1.12) 式)であることが記載されている。
(甲第14号証)
「充分遠距離に伝わるとき。波長が短いので音は一定方向に強く放射される。これを指向角という。・・・同じ周波数で探触子が大きいと狭い角度に音波が放射される。」(23頁下から4〜1行)と記載され、指向角の近似式として、「θ0 ≒68×λ/2a(度) a:水晶半径、λ:波長」(25頁(2.3.7)式)が記載されている。
(甲第15号証)
円形ピストンの指向性について、「周波数一定の場合は直径が大きいほど、直径が一定の場合は周波数が高いほど、指向性は鋭い。」と記載されている(26頁4〜5行)。
(甲第16号証)
「5)超音波エコー、Bスキャン法(Ultrasonic Pulse Echo,B-Scan);この方法は、ローパスフィルタをつけた50〜250kHz端子による測定で、図6に示すようにダクト位置が明らかに読み取れる。
6)超音波エコー、Bスキャン、LSAFT 法(Ultrasonic Pulse Echo,B-Scan,LSAFT);この方法は、LSAFT:Linear Synthetic Aperture Focusing Technique と呼ばれる手法で、図7の明るい部分がダクトを示しており、その位置を容易に識別することが可能である。」と記載されている。
(甲第17号証)
株式会社青木建設の非破壊システム「オーリス」の概要が記載されている。
(甲第18号証)
厚さlである無限に広い層(異媒質の層)に音波が平面進行波として垂直入射する場合において、厚さl及び波長λと透過率及び反射率との関係が記載されている。
(甲第19号証)
「反射波により固体中の割れを検出する方法の原理」を示す例として、「隙間が空気および水で満たされている場合について、鋼中およびアルミニウム中における隙間と通過率および反射率との関係」(25頁10〜11行)が記載されている。

(4)29条2項違反について
申立人は、本件請求項1〜6に係る発明は、甲第1〜12、18、19号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。
(請求項1に係る発明について)
まず、甲第8〜12号証について、検討する。
甲第8号証「ハーバーハイウェイ基礎杭の弾性波反射による亀裂評価結果概要」は、非破壊検査株式会社技術本部安全工学研究所の報告書であって、不特定多数の人を対象に頒布する性質のものではなく、公衆に対し公開する目的で不特定多数の者の見得るような状態に置かれたものとも認められない。
甲第9号証「陳述書」は、2000年3月3日付けであり、本件出願前頒布された刊行物ではない。
甲第10号証「非破壊検査株式会社大阪事業部技術レポート」は、株式会社国際建設技術研究所宛の調査報告書であり、不特定多数の人を対象に頒布する性質のものではなく、公衆に対し公開する目的で不特定多数の者の見得るような状態に置かれたものとも認められない。
甲第11号証「写真」は、頒布刊行物とは認められない。
甲第12号証「意見書」は、平成11年3月8日付けであり、本件出願前頒布された刊行物ではない。
このように、甲第8〜12号証は、本件出願前頒布された刊行物とはいえず、その内容についても、公然知られたものとはいえない。なお、甲第8、10号証に記載された発明が公知であったとしても、本件発明の「自然構造物」について、「反射波の中の高周波領域で帯状周波数域の成分をフィルターを介して選択検知」する点は、開示されていない。
請求項1に係る発明と甲第1〜7、18、19号証刊行物に記載された発明とを対比すると、本件発明の「反射波の中の高周波領域で帯状周波数域の成分をフィルターを介して選択検知」する点については、甲各号証に記載されていない。そして、請求項1に係る発明は、「自然構造物」に対して、「反射波の中の高周波領域で帯状周波数域の成分をフィルターを介して選択検知」して、「自然構造物の端部または亀裂部の境界点を検出」することにより、「自然構造物の境界点を特定し、その距離から外形や亀裂部位を非破壊的に診断する」(【0013】)ことができるという顕著な作用効果を奏することが認められる。
すなわち、甲第1号証刊行物には、杭の非破壊検査方法について、その反射波の信号処理をハイパスフィルタを通して行なうことが記載されているが、自然構造物を対象とするものではなく、また、ハイパスフィルタは単なるノイズ除去のためのものと認められ、具体的に使用周波数に言及するところはないから、本件発明の「反射波の中の高周波領域で帯状周波数域の成分をフィルターを介して選択検知」することを開示ないし示唆するものでもない。
甲第2号証刊行物には、杭の非破壊検査技術に関し、プラスチック製、鉄製、木製と材質の異なった3種類のハンマーを使用し、杭長の推定を行なったことが記載されているが、自然構造物を対象とするものではなく、高周波領域で帯状周波数域の成分を検知することを開示ないし示唆するものではない。
甲第3号証刊行物には、非破壊調査の対象として、「コンクリート構造物内の空隙やクラック」とともに「掘削岩盤中の破砕帯」が記載され、「反射波には超音波に属する適当な高次波動を抽出受信するようにしたものである。」「これは長さ300mm、200φの標準供試体反射測定例で、受信使用周波数は100KHzである。」と記載されているが、自然構造物である「掘削岩盤中の破砕帯」を測定した例は記載されておらず、また受信周波数は高周波帯域にあっても単一の周波数を用いていることが認められる。
したがって、本件発明の「反射波の中の高周波領域で帯状周波数域の成分をフィルターを介して選択検知」することを開示ないし示唆するものでもなく、したがって、これを自然構造物に適用して顕著な作用効果を奏することを予測させるものでもない。
甲第4号証刊行物には、自然構造物である「百万貫の岩」といわれている巨岩を対象に、地中に埋もれていた部分については弾性波探査技術を採用してその形状を測定したことが記載されているが、測定の具体的な技術については何ら記載されていない。したがって、本件発明の「反射波の中の高周波領域で帯状周波数域の成分をフィルターを介して選択検知」することを開示ないし示唆するものではない。
なお、百満貫の岩についての測定は、起振にプラスチックハンマーを用いて巨岩表面を打撃し、周波数特性10Hz〜1KHzの弾性探査装置が使用されたことが認められる(乙第1号証:「河川」12月号(平成7年12月20日社団法人日本河川協会発行)92頁)。
甲第5、7号証刊行物には、各種岩石ないしコンクリートについてその密度等が記載されているが、本件発明を開示ないし示唆するものではない。
甲第6号証には、自然石に関して一般に減衰は大きいため、500kHz以下の周波数のみが超音波試験に用いられることが記載されているものの、探触子を用い所定の超音波を送受信するものであり、単一の周波数を利用することを開示するのみで、本件発明の「自然構造物」に対して、「反射波の中の高周波領域で帯状周波数域の成分をフィルターを介して選択検知」する点については、開示も示唆もない。
(請求項2〜6に係る発明について)
請求項2〜6に係る発明は、請求項1に係る発明を限定する発明であるから、請求項1に係る発明について述べた理由と同じ理由により、各引用刊行物記載の発明から当業者が容易になし得たとすることはできない。
以上のとおり、本件請求項1〜6に係る発明は、甲第1〜12、18、19号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)36条4項違反について
申立人は、岩石を直径3cmのハンマーで打撃したとしても、指向角±10度以内となるには、甲第5号〜第7号証、甲第13号証〜第16号証に示されている技術常識からすれば、少なくとも1.4MHz以上の周波数帯域を利用せねばならないが、このようなことは技術常識に反し、特許明細書の開示内容からは当業者が本件発明を実施することができないと主張している。
しかしながら、本件特許明細書には、「この高周波数成分の有効性についてさらに説明する。先ず、その強い指向性である。構造物表面に打撃を与えると、構造物内で応力波として伝播する。この応力波は懐中電灯の光柱のように前に進む。その時の横方向への広がりを示す傾斜角がいろいろな要素に影響されるが、主に波の周波数と反比例する。すなわち、周波数が高いほど、傾斜角が小さくなる。たとえば実験によれば、100kHzのHPF(High Pass Filter)をかけた場合、その傾斜角は約10°位である。」(【0011】)、「この発明の方法は、たとえば図1に例示した装置を用いて実施することができる。この図1は、自然構造物としての岩石の外形形状の診断を例として示したものであって、ハンマー打撃装置(1)を地中構造物(2)としての岩石に打ちつけ、高周波の反射波(3)を圧電センサー等の受信計(4)によって受信して、記録装置(5)に記録し、コンピュータ(6)によりデータを解析する。このことを、数ケ所において行い、最終的に岩石の地中形状を特定する。
以上の方法において、受信計(4)では、フィルターによって反射波のうちの必要とする高周波成分のみを抽出する。たとえば200kHz以上の成分のみをHigh Pass フィルターによって波形として取出す。」(【0019】〜【0020】)、実施例として、「自然構造物の外形形状の診断例として、図2(a)(b)に示した花崗岩について試験した。打撃による反射波の確認は、複数個所において行った。打撃方法にはハンマー打撃を用い、受信装置には圧電センサーを用い、増幅装置には、プリアンプとメインアンプを用い、記録装置にはオシロスコープを用いた。
200kHz High Pass フィルターをかけ、200kHz以上の波形のみを取出した。図3は、反射波の原波形を示したものであり、図4は、算出して求めた推定値と実測値寸法とを、4回の測定の結果として対比して示したものである。この図4から、反射波が外形形状に対応するものとしてはっきりと確認された。」(【0021】〜【0022】)と記載され、本件発明を実施するために、ハンマー打撃装置(1)を地中構造物(2)としての岩石に打ちつけ、高周波の反射波(3)を圧電センサー等の受信計(4)によって受信して、記録装置(5)に記録し、コンピュータ(6)によりデータを解析し、これを数ケ所において行い、最終的に岩石の地中形状を特定するものが開示され、100kHzのHPFをかけた場合、その傾斜角は約10°位であることを実験により求めたこと、また花崗岩(図2(a)(b))についての試験において、200kHzのHPFをかけ、200kHz以上の波形のみを取出して(図3)外形形状を推定しところ、反射波が外形形状に対応した(図4)ことが認められる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例を伴って当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に本件発明が開示されていると認められる。
そして、甲第5〜7号証のうち、指向性に言及する甲第6号証には、鋼中のコリメートビームに比較したコンクリート構造物に対するコリメートビームの指向性が記載され、甲第13〜15号証には、音場の指向性の理論が記載され、甲第16号証には、超音波エコー法による超音波画像を得ることが記載されているが、いずれも本件発明が対象とする自然構造物に対する指向性について記載されているものではなく、「100kHzのHPFをかけた場合、その傾斜角は約10°位である」とする本件明細書の記載が、甲第5号〜第7号証、甲第13号証〜第16号証に記載されている従来の技術を前提とした請求人の指摘と相違したとしても、当業者が本件発明を実施することができないものではない。
したがって、本件明細書が特許法36条4項の規定に違反するとはいえない。

(6)特許法36条6項違反について
申立人は、請求項1について、「高周波領域」の基準が不明で、「反射波をフィルターを介して選択」することは当業者にとって自明であるから、請求項1に係る発明の外延が不明確であり、請求項2について、「10kHzを超えて500kHz程度までの高周波領域」における「越えて」及び「程度まで」の記載が不明確で、請求項2に係る発明の外延が不明確であり、請求項3について、「100kHz以上の高周波領域」の「上限」が不明確であり、請求項3に係る発明の外延が不明確であると主張する。
しかしながら、請求項1に記載された「高周波領域」は通常の技術用語であり、請求項2には、「10kHzを超えて500kHz程度までの高周波領域」、請求項3には、「100kHz以上の高周波領域」と記載されていることをみても、高周波領域の記載が不明確な記載とは認められず、また、「反射波をフィルターを介して選択」することも技術的に不明確ではないから、請求項1に係る発明の外延は明確である。
請求項2に記載された「10kHzを超えて500kHz程度までの高周波領域」は下限が「10kHz」で上限が「500kHz程度」というもので、請求項2に係る発明の外延は明確でないとはいえない。
請求項3に記載された、「100kHz以上の高周波領域」については、上限が規定されていないからといって不明確になるとはいえず、請求項3に係る発明の外延は明確である。
4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
自然構造物の形状診断方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ハンマー打撃装置を用いて自然構造物を打撃し、反射波の中の高周波領域で帯状周波数域の成分をフィルターを介して選択検知し、その強い指向性と表面波の著しい減衰特性とから自然構造物の端部または亀裂部の境界点を検出し、その位置までの距離を、次式
L1=Δt・V/2
L1:検知点と境界点位置との距離、
Δt:境界点反射波の初動時間、
V:構造物材料の波動伝播速度
にしたがって求めることを特徴とする自然構造物の形状診断方法。
【請求項2】 10kHzを超えて500kHz程度までの高周波領域の反射波を受信して距離を求める請求項1の形状診断方法。
【請求項3】 100kHz以上の高周波領域の反射波を受信して距離を求める請求項1の形状診断方法。
【請求項4】 複数個所において自然構造物を打撃して反射波を受信する請求項1ないし3のいずれかの形状診断方法。
【請求項5】 自然構造物の外形形状を診断する請求項1ないし4のいずれかの形状診断方法。
【請求項6】 自然構造物の亀裂部位を診断する請求項1ないし4のいずれかの形状診断方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、自然構造物の形状診断方法に関するものである。さらに詳しくは、この発明は、土中、水中、海中などに埋設あるいは半埋設されている自然の構造物の長さ、大きさ等の端部形状や、その構造物の亀裂の位置を測定・診断するのに有用な自然構造物の形状診断方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
従来より、たとえば、土木建設業においては、岩盤などの地盤材料を対象として斜面や地下空洞を掘削する場合や、既設の斜面や地下空洞の安定性を評価する場合、岩石、岩盤、地下空洞などの自然構造物の内部亀裂(不連続面)を把握すること、あるいは転石や岩塊の大きさおよび根入れ深さなどを把握することは欠くことのできない作業となっている。
【0003】
岩盤の崩落や滑落などの自然災害の防止という観点からも、その自然構造物の長さや大きさだけでなく、その内部の亀裂の位置までも正確に把握する必要がある。このような自然構造物の長さ、大きさ、その内部の亀裂の位置等を診断測定するための方法として、これまでにも数多くの方法が開発され提案されてきている。
【0004】
これら従来公知の方法は、大きく分けて、直接的な診断測定方法と動的な診断測定方法とに分類することができる。直接的な診断方法には、たとえば、目視による診断や、実際に構造物を掘り出して直接観察する方法や、ボアホールカメラを用いることにより、構造物を撮影する方法などがある。しかしながら、これらのいずれの方法の場合も、その作業には非常に多くの時間と労力を必要とするという問題がある。
【0005】
また、これらの直接的診断方法では、大型岩盤など地中深部まで入り込んでいる構造物については、その形状を把握することは極めて困難であった。一方、動的診断方法(非破壊検査)も、多くの研究者や、専門家により精力的に研究されてきており、たとえば、衝撃弾性波法(反射法、VSP法)、超音波法、地下レーダー法等の各種のものの適用が試みられている。
【0006】
しかしながら、衝撃弾性波法では、反射波と、直接波や表面波が混在してしまうため十分な形状診断が行えず、さらに他の方法では反射波のエネルギー減衰が非常に大きいため、構造物の大きさが1〜2m程度のものしか形状診断できないのが実情である。また、速度検査法、電気診断法やボアホールレーダ法も適用されているものの、これらの方法においては、ボーリングが必要であり、そのコストを考慮すると実用的な方法とは言いがたい。
【0007】
そこでこの発明は、以上のとおりの従来技術の欠点を克服し、非破壊検査法としての動的診断法の特徴を生かしつつ、しかも容易に、かつ、正確に構造物の大きさ、長さ、亀裂の位置等までも測定診断することのできる、新しい自然構造物の形状診断方法を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記の課題を解決するものとして、ハンマー打撃装置を用いて自然構造物を打撃し、反射波の中の高周波領域で帯状周波数域の成分をフィルターを介して選択検知し、その強い指向性と表面波の著しい減衰特性とから自然構造物の端部または亀裂部の境界点を検出し、その位置までの距離を、次式
L1=Δt・V/2
L1:検知点と境界点位置との距離、Δt:境界点反射波の初動時間、V:構造物材料の波動伝播速度
にしたがって求めることを特徴とする自然構造物の形状診断方法を提供する。
【0009】
また、この発明は、上記方法において、10kHzを超えて500kHz程度までの高周波領域の反射波を受信して距離を求める方法や、100kHz以上の高周波領域の反射波を受信して距離を求める方法、複数個所において自然構造物を打撃して反射波を受信する方法、そして、これら方法によって自然構造物の外形形状を診断する方法、あるいは自然構造物の亀裂部位を診断する方法等の態様も提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
すなわち、この発明は、高周波数の弾性波の強い指向性と、表面波の高周波成分の著しい減衰特性という、弾性波の伝播特性を踏まえて自然構造物の形状診断を行うことに大きな特徴がある。高周波数の弾性波の指向性とは、高周波数を有するものは、一般に非常に強い指向性を示すことであり、また、表面波の高周波成分の減衰特性とは、高周波数を有する波の波長は非常に短いことから、自然構造物としての転石や岩塊の表面部における減衰が著しいということである。
【0011】
この高周波数成分の有効性についてさらに説明する。先ず、その強い指向性である。構造物表面に打撃を与えると、構造物内で応力波として伝播する。この応力波は懐中電灯の光柱のように前に進む。その時の横方向への広がりを示す傾斜角がいろいろな要素に影響されるが、主に波の周波数と反比例する。すなわち、周波数が高いほど、傾斜角が小さくなる。たとえば実験によれば、100kHzのHPF(High Pass Filter)をかけた場合、その傾斜角は約10°位である。
【0012】
表面波の減衰も周知の現象である。構造物表面に打撃を与えると、P波と同時に表面波が多く発生する。ただし、100kHzを超える高周波数の場合、波長がごく短くなり(数cm以下)、減衰がかなり大きい。現場実験からも、打撃力の大きさにもよるが、大体、花崗岩の場合1.1m(1.1m/4400m(波速度)=0.25msec)以内は、打撃の衝撃と表面波の影響で、反射波の識別ができないが、それより大きいと、反射波は他の影響を受けることなくはっきり識別できる。
【0013】
この発明の方法では、以上のような高周波数の弾性波に関する特性を利用して、自然構造物の境界点を特定し、その距離から外形や亀裂部位を非破壊的に診断する。距離の測定については、表面波の高周波数成分は表面部における減衰が大きいことから、高周波数成分を有する反射波の伝播時間を利用して打撃点と反射波の発生した構造物の境界点の距離を求めることになる。これは、高周波数の弾性波の指向性によるもので、この2点を結ぶ方向と打撃の方向は一致することによる。このような診断を、対象とする自然構造物の規模や形状を考慮して、数カ所でいくつかの方向に対して実施することにより、最終的にその形状を特定するようにしてもよい。
【0014】
この発明では、上記のとおりの波動伝播の関係に着目することにより、たとえば10kHzを超えて500kHz程度までの、さらには100kHz以上の高周波帯域で、必要に応じて、いくつかの帯状周波数域の反射成分を取出すことで、自然構造物の端から位置までの距離を、次式によって求める。
L1=Δt・V/2
L1:検知点と境界点位置との距離、Δt:境界点反射波の初動時間、V:構造物材料の波動伝播速度
なお、ここで、V:構造物材料の波動伝播速度は、経験から室内実験によって求められるもので、材料がわかれば決められるものである。
【0015】
また、上記の式に基づいて計算した距離はみかけの距離で、自然構造物の個々の剛性低減率がわかれば、伝播波動速度の低減度から見かけの距離を補正することができる。以上のとおりのこの発明は、不連続面における動的・静的特性についての独自のアプローチとして発明者が導いた不連続面を通過する波動の周波数選択性および速度特性の知見に基づいて構造物の形状、亀裂の位置を診断することを可能としたものである。
【0016】
そして、周波数の選択性は、この発明の実際上の要となるものである。従来の理論、常識では、亀裂などの不連続面、剛性の変化部で波動は反射する。その反射する比は、波動特性の周波数とは関係がなく、構造物の剛性変化率(インターピース)のみ関係する、と認識されてきた。このような認識でも、従来のような、大きな欠損を対象とする診断などでは問題がなかった。
【0017】
しかしながら、亀裂幅が数cm以下で、自重によって接触しているものは検知できなかった。その理由は、この程度の亀裂では、波が反射しても、その成分がごく小さくノイズとしてしか見えない。これに対して、この発明では、幅、剛性低減率が既知である不連続面(OPENの不運続面でない)を通過される波は、周波数によって選択され、ある(低い)周波数範囲の波は反射することなく(計測器の識別範囲内)、全部通過し、ある(高い)周波数範囲の波は通過することなく、全部反射してしまい、その中間の波に対しては反射と通過が同時に発生することに着目している。
【0018】
そこで、この発明では、構造物のサイズを検知するに際しては、指向性と表面波の減衰特性が生かされ、構造物の被害診断には周波数選択性が併用されることになる。距離の計算については、打撃して、波が伝わり、断面の変化部(亀裂)等で一部反射され、戻って来て、接収されるため、断面変化部の距離(L)は波の速度(V)と伝播時間(Δt)の積の1/2で求めることができる。この伝播時間は計測器から読め、波動伝播速度は同一材料の場合は変化が小さく、室内実験や経験から求められる。
【0019】
この発明の方法は、たとえば図1に例示した装置を用いて実施することができる。この図1は、自然構造物としての岩石の外形形状の診断を例として示したものであって、ハンマー打撃装置(1)を地中構造物(2)としての岩石に打ちつけ、高周波の反射波(3)を圧電センサー等の受信計(4)によって受信して、記録装置(5)に記録し、コンピュータ(6)によりデータを解析する。このことを、数ケ所において行い、最終的に岩石の地中形状を特定する。
【0020】
以上の方法において、受信計(4)では、フィルターによって反射波のうちの必要とする高周波成分のみを抽出する。たとえば200kHz以上の成分のみをHigh Pass フィルターによって波形として取出す。以下実施例を示し、さらに詳しくこの発明の実施の形態について説明する。
【0021】
【実施例】
実施例
自然構造物の外形形状の診断例として、図2(a)(b)に示した花崗岩について試験した。打撃による反射波の確認は、複数個所において行った。打撃方法にはハンマー打撃を用い、受信装置には圧電センサーを用い、増幅装置には、プリアンプとメインアンプ用い、記録装置にはオシロスコープを用いた。
【0022】
200kHz High Pass フィルターをかけ、200kHz以上の波形のみを取出した。図3は、反射波の原波形を示したものであり、図4は、算出して求めた推定値と実測値寸法とを、4回の測定の結果として対比して示したものである。この図4から、反射波が外形形状に対応するものとしてはっきりと確認された。
参考例1
この発明の方法に関し、地中に埋設された鋼管の斜杭における、亀裂位置の診断を行った例を示す。
【0023】
対象となる鋼管は、全長L=155.8m、径φ1,200m/m、管厚t=9mのスパイラル管であり、現場で溶接を行ったものである。打撃方法にはハンマー打撃を用い、受信装置には圧電センサーを用い、増幅装置には、プリアンプとメインアンプを用い、記録装置にはオシロスコープを用いた。
【0024】
その結果は、100kのHigh Pass Filter(HPF)をかけた状態の包絡線波形(ENV)を示した図5の通りであり、鋼管下端部に相当する反射波(B)と、その約40m上方にある亀裂損傷に対応する反射波(A)が確認された。その後、実際にこの鋼管をカメラにより直接的に診断した結果、同じ位置に亀裂が確認された。
参考例2
この発明の方法に関し、地震の被害を受け多数の微小な亀裂が存在する岸壁基礎のケーソン側壁の亀裂位置の診断を行った例を示す。
【0025】
対象となるケーソンは、高さ14.5m、上部工厚さ2.45m、ケーソン壁厚さ0.35mであり、打撃はケーソンの上に介在する上部工の上から行った。打撃方法にはハンマー打撃を用い、受信装置には圧電センサーを用い、増幅装置には、プリアンプとメインアンプを用い、記録装置にはオシロスコープを用いた。
【0026】
High Pass 100kフィルターをかけた原波形の上半部の包絡線波形(ENV)を示した図6のように、地震被害により生じた亀裂からの反射波(A)と、ケーソン下端部からの反射波(B)が確認され、ケーソンの損傷が認められた。比較のために微小亀裂が存在しないケーソンについても同様に診断を行った。
【0027】
図7は、その亀裂の存在しないケーソンにおける、High Pass 100kフィルターをかけた反射波の原波形の上半部の包絡線波形(ENV)を示したものであり、ケーソン下端部(B)の反射波のみが観察されている。
参考例3
この発明の方法に関し、臨海の埋め立て地にある地震の被害を受けた基礎杭の診断を行った例を示す。
【0028】
地質条件は、表層は10.6m厚さ、N値10ぐらいの玉石混じり砂礫盛土層であり、その下位にN値0に近い約8.5m厚さの粘度層、そして、その下部にN値50ぐらいの礫混じり砂層がある。基礎杭の上部構造物は斜めになっており、基礎杭は全部で22本で、杭長29mと杭長27mの2種類があった。杭種は杭径φ350m/mのPHC杭であり、杭の上にはフーチング、および、側壁が存在した。
【0029】
そこで、打撃はフーチングの上からと、側壁の上から行った。打撃方法にはハンマー打撃を用い、受信装置には圧電センサーを用い、増幅装置には、プリアンプとメインアンプを用い、記録装置にはオシロスコープを用いた。図8はフーチング上からの打撃を行った場合の、High Pass 50kフィルターをかけた反射波原波形の時間経過であり、また、図9は側壁上から打撃を行った場合の、High Pass 50kフィルターをかけた反射波原波形の時間経過である。
【0030】
この結果から、診断したほとんどの杭について、亀裂の位置が地層の変化点とほぼ一致していることが確認された。
【0031】
【発明の効果】
以上詳しく説明した通り、この発明によって、打撃による反射波を受診し、フィルタをかけることにより要求する帯域の反射成分の解析によって、構造物の長さ、大きさ、さらには、亀裂の位置を容易に診断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
この発明の方法とその装置構成を示した概略図である。
【図2】
(a)(b)は、各々、外形形状の診断に用いた花崗岩を例示した斜視図と側面図である。
【図3】
反射波の時間経過を示した図である。
【図4】
反射波から算出した推定寸法と、実測寸法とを対比させて示した図である。
【図5】
反射波を示した概略図である。
【図6】
亀裂が存在するケーソンからの反射波の時間経過を示した図である。
【図7】
図6に対応して、亀裂の存在しないケーソンからの反射波の時間経過を示した図である。
【図8】
フーチング上から打撃した場合の反射波の時間経過を示した図である。
【図9】
図8に対応して、側壁上から打撃した場合の反射波の時間経過を示した図である。
【符号の説明】
1 打撃装置
2 地中構造物
3 反射波
4 受信計
5 計測記録装置
6 コンピュータ
 
訂正の要旨 [訂正事項1]
特許請求の範囲の減縮を目的とし、特許請求の範囲の記載を次のとおり訂正する。
「【請求項T】 ハンマー打撃装置を用いて自然構造物を打撃し、反射波の中の高周波領域で帯状周波数域の成分をフィルターを介して選択検知し、その強い指向性と表面波の著しい減衰特性とから自然構造物の端部または亀裂部の境界点を検出し、その位置までの距離を、次式
L1=△t・V/2
L1:検知点と境界点位置との距離、
△t:境界点反射波の初動時間、
V:構造物材料の波動伝播速度
にしたがって求めることを特徴とする自然構造物の形状診断方法。
【請求項2】 10kHzを超えて500kHz程度までの高周波領域の反射波を受信して距離を求める請求項1の形状診断方法。
【請求項3】 100kHz以上の高周波領域の反射波を受信して距離を求める請求項1の形状診断方法。
【請求項4】 複数個所において自然構造物を打撃して反射波を受信する請求項1ないし3のいずれかの形状診断方法。
【請求項5】 自然構造物の外形形状を診断する請求項1ないし4のいずれかの形状診断方法。
【請求項6】 自然構造物の亀裂部位を診断する請求項1ないし4のいずれかの形状診断方法。」
[訂正事項2]
不明りょうな記載の釈明を目的として、明細書の段落番号【0008】の欄の記載を次のとおり訂正する。
「この発明は、上記の課題を解決するものとして、ハンマー打撃装置を用いて自然構造物を打撃し、反射波の中の高周波領域で帯状周波数域の成分をフィルターを介して選択検知し、その強い指向性と表面波の著しい減衰特性とから自然構造物の端部または亀裂部の境界点を検出し、その位置までの距離を、次式
L1=△t・V//2
L1:検知点と境界点位置との距離、△t:境界点反射波の初動時間、V:構造物材料の波動伝播速度にしたがって求めることを特徴とする自然構造物の形状診断方法を提供する。」
異議決定日 2001-02-07 
出願番号 特願平8-166230
審決分類 P 1 651・ 537- YA (G01B)
P 1 651・ 121- YA (G01B)
P 1 651・ 536- YA (G01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 白石 光男  
特許庁審判長 伊坪 公一
特許庁審判官 後藤 千恵子
志村 博
登録日 1999-06-25 
登録番号 特許第2944515号(P2944515)
権利者 株式会社青木建設
発明の名称 自然構造物の形状診断方法  
代理人 北村 光司  
代理人 西澤 利夫  
代理人 西澤 利夫  

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