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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  F01L
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  F01L
管理番号 1044510
異議申立番号 異議2000-70349  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-01-28 
確定日 2001-02-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2926992号「セラミック摺動部品」の請求項1、4、6、7、16、21に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2926992号の請求項1、4、6、7、16、21に係る特許を維持する。 
理由 【1】手続の経緯
本件特許第2926992号の請求項1〜24に係る発明についての出願は、1995年11月13日(優先権主張1994年11月14日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成11年5月14日にその発明について特許の設定登録がなされたところ、その後、請求項1、4、6、7、16、21に係る特許について、異議申立人日本特殊陶業株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年7月10日付けで訂正請求がなされたものである。

【2】訂正の適否について
[1]訂正の内容
上記訂正請求は、願書に添付した明細書を、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであるが、その要旨は次の(あ)乃至(む)のとおりである。
なお、特許権者が指摘する、特許公報における「修道」、「部分適」、「熱膨張室」、「プッシュロッドド」、「皮下」、「緩和性」、「直径2mm」、「以上」の記載は、何れも公報編纂上の誤植であって、これらの訂正は、願書に添付した明細書又は図面の訂正には当たらない。
(あ)請求項1の「有する摺動部品。」を「有し、前記窒化ケイ素系セラミックス材料のJIS準拠の4点曲げ強度が100kg/mm2以上である摺動部品。」と訂正する。
(い)請求項21の「窒化ケイ素系セラミックス材料」を「JIS準拠の4点曲げ強度がl00kg/mm2以上の窒化ケイ素系セラミックス材料」と訂正する。
(う)発明の名称を「セラミック摺動部品及びその製造方法」と訂正する。
(え)請求項2を「窒化ケイ素セラミックス材料が、シャルピー衝撃値が15kJ/m2以上、熱衝撃温度差が800℃以上、かつ摺動面に開口している気孔の面積率が摺動面面積に対し、0.5%以下であることを特徴とする請求項1記載の摺動部品。」と訂正する。
(お)明細書第6頁第1行〜第5行の「この種のセラミックとしては・・・好ましい。」を削除する。
(か)明細書第8頁第2行〜第6行の「従って、この曲率比を小さくすることによって・・・使用できる。」を削除する。
(き)明細書第8頁第29行〜第9頁第3行の「つまり耐熱衝撃性を示す・・・選択する必要がある。」を削除する。
(く)明細書第20頁第27行の「実施例6で用いた」を削除する。
(け)明細書の発明を実施するための最良の形態の実施例6〜実施例18において、もとの実施例6,7,8,11,12,13,14,18を削除し、以下、各実施例をを繰り上げて「実施例6,7,8,9,10」と訂正する。
(こ)明細書の発明を実施するための最良の形態の表7〜表16において、もとの表7,8,11,12,13を削除し、以下、各表を繰り上げ「表7,8,9,10,11」と訂正する。
(さ)明細書第24頁の表3において、試料No.2および8を比較例とし、その試料No.の前に「*」を挿入する。
(し)明細書第27頁の表5において、試料No.6を比較例とし、その試料No.の前に「*」を挿入する。
(す)明細書第28頁の表6において、試料No.5を比較例とし、その試料No.の前に「*」を挿入する。
(せ)明細書第31頁第1行〜第2行の「実施例8に示す蛍光探傷、クラウニング量確認試験」を削除し、代わりに「得られた試料は蛍光探傷試験によるクラックの有無の確認とクラウニング量の確認」を挿入する。
(そ)明細書第41頁第9行の「実施例7と同様の」を削除し、代わりに「図16に示すように、このSi3N4lの表面をTi-Cu-Agの順にイオンプレーティングで」を挿入する。
(た)明細書第32頁の表9において、試料No.8を削除する。
(ち)明細書第34頁の表10において、試料No.8を削除する。
(つ)明細書第34頁の表10において、試料No.l0を削除する。
(て)明細書第43頁の表15において、試料No.2を削除する。
(と)請求項10の「熱膨脹係数」を「熱膨張係数」と訂正する。
(な)請求項10の「熱膨脹に」を「熱膨張に」と訂正する。
(に)請求項14の「熱膨脹係数」を「熱膨張係数」と訂正する。
(ぬ)請求項21の「熱膨脹率」を「熱膨張率」と訂正する。
(ね)明細書第1頁第21行の「特開平2-55809」を「特開平2一55809号公報」と訂正する。
(の)明細書第1頁第26行の「特開昭63-289306号」を「特開昭63-289306号公報」と訂正する。
(は)明細書第3頁第8行の「特開平2-55809」を「特開平2-55809号公報」と訂正する。
(ひ)明細書第3頁第8行の「持開平2-199073」を「特開平2-199073号公報」と訂正する。
(ふ)明細書第3頁第8行〜第9行の「特開平4-2672」を「特開平4-2672号公報」と訂正する。
(へ)明細書第3頁第9行の「特開平5-18213」を「特開平5-18213号公報」と訂正する。
(ほ)明細書第3頁第9行の「特公平5-72354」を「持公平5-72354号公報」と訂正する。
(ま)明細書第12頁第26行の「窒素ケイ素」を「窒化ケイ素」と訂正する。
(み)明細書第18頁第25行の「45位上」を「45以上」と訂正する。
(む)明細書第27頁第22行の「0.01」を「0.05」と訂正する。

[2]訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)上記訂正(あ)、(い)について
これらの訂正は、請求項1、請求項21における「窒化ケイ素系セラミックス材料」の材料特性を“JIS準拠の4点曲げ強度がl00kg/mm2以上”と限定しようとする訂正であるから、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。また、これらの訂正は、願書に添付した明細書の請求項2における「窒化ケイ素系セラミックス材料のJIS準拠の4点曲げ強度が、l00kg/mm2以上」の記載に基づく訂正であるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(2)上記訂正(う)〜(て)について
これらの訂正は、上記の訂正(あ)、(い)に伴って、特許請求の範囲の請求項1、請求項21の各記載と整合させるために明細書の記載を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、これら訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、又、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(3)上記訂正(と)〜(む)について
これらの訂正は、明細書の誤記の訂正を目的とするものである。そして、これら訂正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、又、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

[3]独立特許要件
訂正明細書の請求項2〜20は、請求項1を引用する請求項であり、また、請求項22〜24は、請求項21を引用する請求項であることから、上記訂正(あ)、(い)に伴い、請求項2〜20、22〜24も実質的に、特許請求の範囲の減縮を目的として訂正されたものとなっている。
そこで、特許異議の申立てがされていない、訂正明細書の請求項2〜3、5、8〜15、17〜20、22〜24に係る発明の独立特許要件について検討する。
訂正明細書の請求項2〜3、5、8〜15、17〜20に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2〜3、5、8〜15、17〜20に記載された事項により特定されるとおりのものであって(下記【3】[2]本件発明参照)、同請求項1に係る発明を特定するための事項を全て含むものである。
そして、当該請求項1に係る発明が、下記【3】[4](1)で示すように、申立人が提出した各刊行物に記載された発明であるとも、また、申立人が提出した全刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとも認めることができないので、同様の理由により、訂正明細書の請求項2〜3、5、8〜15、17〜20に係る発明は、申立人が提出した各刊行物に記載された発明であるとも、また、申立人が提出した全刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとも認めることができない。
また、訂正明細書の請求項22〜24に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項22〜24に記載された事項により特定されるとおりのものであって(下記【3】[2]本件発明参照)、同請求項21に係る発明を特定するための事項を全て含むものである。
そして、当該請求項21に係る発明が、下記【3】[4](3)で示すように、申立人が提出した各刊行物に記載された発明であるとも、また、申立人が提出した全刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとも認めることができないので、同様の理由により、訂正明細書の請求項22〜24に係る発明は、申立人が提出した各刊行物に記載された発明であるとも、また、申立人が提出した全刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとも認めることができない。
したがって、訂正明細書の請求項2〜3、5、8〜15、17〜20、22〜24に係る発明は、出願の際、独立して特許を受けることができるものである。

[4]むすび
以上のとおりであるから、上記各訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項乃至第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

【3】特許異議の申立てについての判断
[1]申立ての概要
申立人日本特殊陶業株式会社は、
甲第1号証:自動車技術 Vol.47 No.5(1993)p.11-16
甲第2号証:特開昭63-225728号公報
甲第3号証:自動車技術 Vol.45 No.4(1991)p.33-38
甲第4号証:特開平2-55809号公報
甲第5号証:特開平6-92749号公報
甲第6号証:特開平5-330937号公報
を提出し、請求項1、16、21に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、請求項1、16、21に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであるから取り消すべき旨主張し、また、請求項1、4、6、7、16、21に係る発明は、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであって、請求項1、4、6、7、16、21に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから取り消すべき旨主張している。

[2]本件発明
本件特許第2926992号の請求項1乃至24に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至24に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】窒化ケイ素系セラミックス材料からなる摺動面部材より熱膨張率の大きい金属母材に増動面部材を接合し、摺動面部材の接合面の最大長さに対する厚さの比が0.01以上0.05未満であり、摺動面最大長さに対し、0.l〜0.4%の最大高さのクラウニング形状を有し、前記窒化ケイ素系セラミックス材料のJIS準拠の4点曲げ強度が100kg/mm2以上である摺動部品。
【請求項2】窒化ケイ素セラミックス材料が、シャルピー衝撃値が15kJ/m2以上、熱衝撃温度差が800℃以上、かつ摺動面に開口している気孔の面積率が摺動面面積に対し、0.5%以下であることを特徴とする請求項1記載の摺動部品。
【請求項3】金属母材の接合面に垂直な中心線に対する最小厚さの、摺動面部材の厚さに対する比率が0.5以上であることを特徴とする請求項2記載の摺動部品。
【請求項4】摺動面の表面粗さが十点平均高さ粗さで0.4μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの摺動部品。
【請求項5】摺動面のクラウニング形状の周辺部の曲率が中央付近の曲率の0.8倍以下であることを特徴とする請求項1記載の摺動部品。
【請求項6】金属母材が鋼であり、少なくともその表面がマルテンサイト組織を有し、硬度がHRC45以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項7】セラミックスと金属母材の間に中間層を用いることを特徴とする請求項1又は6記載の摺動部品。
【請求項8】中間層にヤング率がセラミックスより大きな金属又はサーメットを用いることを特徴とする請求項7記載の摺動部品。
【請求項9】中間層が4.5×105MPa以上のヤング率の材料からなることを特徴とする請求項7記載の摺動部品。
【請求項10】請求項7の中間層において周辺部分の熱膨張係数が、中心部よりもセラミックスの熱膨張に近いことを特徴とする摺動部品。
【請求項11】請求項7又は9のいずれかの中間層において、周辺部分のヤング率が中心部のヤング率より低いことを特徴とする摺動部品。
【請求項12】請求項7又は9のいずれかの中間層において、周辺部分の降伏応力が中心部の降伏応力より低いことを特徴とする摺動部品。
【請求項13】セラミックスと金属母材との接合面の周辺部分のみに中間層を用い、他の部分は中間層を用いることなく接合されたことを特徴とする請求項5記載の摺動部品。
【請求項14】請求項13の中間層が金属母材とセラミックスの中間の熱膨張係数又は塑性変形能を有する摺動部品。
【請求項15】請求項13又は14の中間層が金属母材よりヤング率が低いことを特徴とする摺動部品。
【請求項16】セラミックスと金属母材との間がロウ付けによって接合されたことを特徴とする請求項1又は15記載の摺動部品。
【請求項17】請求項16のロウ材の固相点が700℃以上である摺動部品。
【請求項18】請求項16のロウ材の固相点が850℃以上である摺動部品。
【請求項19】請求項18のロウ材が銅を含まないことを特徴とする摺動部品。
【請求項20】請求項19のロウ材がAg-Ti系であることを特徴とする摺動部品。
【請求項21】摺動面部材より熱膨張率の大きい金属母材に摺動面部材を接合し、摺動面部材の摺動面にクラウニング形状を付与する摺動部品の製造方法であって、金属母材及び摺動面を形成するJIS準拠の4点曲げ強度がl00kg/mm2以上の窒化ケイ素系セラミックス材料からなる摺動面部材を準備する工程(I)と、金属母材の少なくとも1ケ所に摺動面部材を固定するため、該母材と該摺動面部材の双方に接合面となる合せ面を加工する工程(II)と、双方の合せ面を対向させて金属母材に摺動面部材を配置して加熱し、摺動面部材の摺動面に対応する接合面の最大長さに対する厚さの比を0.01以上0.05未満の範囲とした条件下て、それらの接合固定と同時に摺動面最大長さに対して0.1〜0.4%の最大高さをなすような形状のクラウニング形成を行う工程(III)とを含む前記クラウニング形状を有する摺動部品の製造方法。
【請求項22】前記(III)の工程で、前記クラウニング状の摺動面を特定形状の型に押しつけ、同形状を調整することを特徴とする請求項21記載の摺動部品の製造方法。
【請求項23】前記金属母材が鋼であり、前記の(II)の工程と(III)の工程との間に該母材を浸炭処理する工程と前記(III)の工程に加え、さらに該母材の摺動面に焼き入れ処理する工程(IV)を含むことを特徴とする請求項21〜22記載の摺動部品の製造方法。
【請求項24】前記(IV)の焼き入れ処理温度が前記(III)の加熱固定温度以下である請求項(23)記載の摺動部品の製造方法。」

[3]刊行物に記載の発明
(1)当審が通知した取消の理由に引用した刊行物1(甲第1号証)には、
a.「今回開発したセラミックカムフォロワの製造方法では、図4に示すように、あらかじめ所定の粗さに平面加工した窒化ケイ素セラミックの円盤を活性銀ろう材を介してスチール本体に直接接合し、両材料の熱膨張係数の差を利用して加工せずにクラウニングを施すものである。」(第12頁右欄第17〜22行)
b.「カムフォロワ中心付近は圧縮応力場となり、その外側には引っ張り応力が生じている(図5)。・・・セラミック円盤の厚さを1.0mm以下にすると焼結のときに変形が生じやすくなるため1.5mmの厚さとした。」(第13頁左欄第12〜21行)
と記載されている。
また、図4「セラミックカムフォロワの構成」、図5「セラミックカムフォロワの摺動表面の残留応力(セラミック板圧の影響)クラウニング量40μm」のグラフによれば、
c.「セラミックの円盤とスチール本体との双方は、各々接合面となる合せ面を形成するよう加工されていること。」
d.「セラミックの円盤の半径が約17mmであることから、接合面の最大長さは、約34mmであること。」
e.「セラミックカムフォロワの接合面の最大長さ(34mm)に対する厚さ(1.5mm)の比が約0.04であること。」
f.「クラウニング量が40μmであることから、セラミックカムフォロワは、摺動面最大長さに対し約0.12%の最大高さのクラウニング形状を有すること。」
等の事項が開示されているものと言うことができる。
そして、金属母材の熱膨張率よりも小さい熱膨張率を有する窒化ケイ素系セラミックスからなる摺動部材を、金属母材に接合して、摺動面にクラウニング形状を付与することは、従来より周知の技術事項である(必要ならば、当審が通知した取消の理由に引用した刊行物2(甲第2号証)参照)ことから、上記の各記載及び図4〜図5を参照すると共に当該周知技術を考慮すれば、刊行物1には、
「窒化ケイ素セラミックスからなる円盤より熱膨張率の大きいスチール本体に円盤を接合し、円盤の接合面の最大長さに対する厚さの比が0.04であり、摺動面最大長さに対し、0.12%の最大高さのクラウニング形状を有するカムフォロワ。」(以下、「刊行物1記載の第1発明」という。)及び
「円盤より熱膨脹率の大きいスチール本体に円盤を接合し、円盤の摺動面にクラウニング形状を付与するカムフォロワの製造方法であって、スチール本体及び摺動面を形成する窒化ケイ素セラミックからなる円盤を準備する工程と、スチール本体の所定箇所に円盤を固定するため、該スチール本体と該円盤の双方に接合面となる合せ面を加工する工程と、双方の合せ面を対向させてスチール本体に円盤を配置して加熱し、円盤の摺動面に対応する接合面の最大長さに対する厚さの比を0.04となし、それらの接合固定と同時に摺動面最大長さに対して0.12%の最大高さをなすような形状のクラウニング形成を行う工程とを含むクラウニング形状を有するカムフォロワの製造方法。」(以下、「刊行物2記載の第2発明」という。)
が実質的に記載されているものと認められる。

(2)当審が通知した取消の理由に引用した刊行物3(甲第3号証)には、
g.「2.セラミックタペットの構造
軽量化及び生産性を考慮して、セラミックタペットの構造コンセプトを次の如く定めた。
(1)アルミ鋳ぐるみ構造とする。すなわち、セラミックタペットは、カム及びプッシュロッドと接触するセラミックス製のチップとアルミ合金製のタペット外筒の二つの部分からなる。」(第33頁右欄第2〜8行)
h.「図4に、各候補セラミックスのカムに対する相手攻撃性の比較を示す。・・・(1)セラミックス側の摺動部が超仕上げ面の場合、」(第34頁右欄第19行〜第35頁左欄第3行)
i.「セラミックタペットのカムとの摺動面はSi3N4セラミックスの無研削面であり、前述したように、その高硬度ゆえに面粗度が相手材への攻撃性に大きく影響する。」(第36頁右欄第29行〜第37頁左欄第1行)
との記載があり、これらの各記載及び図4「セラミックス材の選定(相手攻撃性比較)」のグラフを参照すれば、刊行物3には、
「タペットのセラミックス側摺動部の表面粗さにおけるRmaxを0.2μmとする点」に関する発明が記載されているものと認められる。

(3)当審が通知した取消の理由に引用した刊行物4(甲第4号証)には、
j.「少なくとも一ヶ所の摺動部が基体金属と加熱接合されたセラミツク材料で構成されいる複数の摺動部を備えており、セラミツク以外の金属部分がHRC45以上に硬化されてなるセラミツク摺動部品」(第1頁左下欄第5〜9行)
k.「本発明は、ロツカーアーム、タペツト等に適した性能を有するセラミツク摺動部品およびその製造方法に関する。」(第1頁右下欄第2〜4行)
l.「本発明で使用する金属材料は、・・・セラミツク接合のための加熱温度域から、空冷によるマルテンサイト変態を生じ焼きが入るものが用いられる。」(第2頁右上欄第7〜20行)
との記載があり、これらの各記載及び図面を参照すれば、刊行物4には、
「基体金属とセラミツク材料で構成される複数の摺動部とを加熱接合したセラミツク摺動部品において、セラミツク以外の金属部分を、マルテンサイト変態を生じ焼きが入る材料により構成し、HRC45以上の硬度とする点」に関する発明が記載されているものと認められる。

(4)当審が通知した取消の理由に引用した刊行物5(甲第5号証)には、
m.「【0016】図1において、1は円柱形状のタペット本体(金属本体)を示し、この金属本体1の摺動面上に摺動面と同形状の窒化ケイ素等のセラミックス2が加熱接合されている。
【0017】その金属本体1とセラミックス2との間には、これらの熱膨張差を調節する銅,ニッケル,コバール等の緩衝材3が設けられている。
【0018】図2において、4は摺動面と軸部の径が異なる形状のタペット本体(金属本体)を示し、この金属本体4の摺動面上に上述とほぼ同様に緩衝材5を介してセラミックス6が設けられている。
【0019】さて、金属本体1,4の摺動面にセラミックス2,6を加熱接合し、これを冷却すると、両者の熱膨張係数の違いから熱膨張係数の小さいセラミックス2,6側の接合面近くに径方向の圧縮応力が加わり、中央部を押し出すような軸方向の力が働き、セラミックス2,6の中央部が高く盛り上がり断面曲面上のクラウニングが形成される。」(第3欄第5〜22行)
との記載があり、これらの各記載及び図面を参照すれば、刊行物5には、
「セラミックスと金属本体とを緩衝材を介して加熱接合し、クラウニングが形成されたタペット」に関する発明が記載されているものと認められる。

(5)当審が通知した取消の理由に引用した刊行物6(甲第6号証)には、
n.「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、バルブリフター,ロッカーアーム,タペット,ターボチャージャーローター等のエンジン部品,ガスタービン,バイト等の工具,電子部品等に適用できるセラミックスと金属との接合体に関し、詳しくはろう材を用いて接合されたセラミックスと金属との接合体に関する。」(第1欄第16〜21行)
o.「セラミックス板2の製造方法
Si3N4の90重量%粉末に、Y2O3-Al2O3系焼結助剤と成形バインダとを加えて混合し、金型プレスにて円盤状に成形した後、N2ガス雰囲気で焼成した。その後、セラミックスの板表面を平面研磨して仕上げを行って、セラミックス板2を製造した。」(第4欄第6〜11行)
p.「スチール棒3の製造方法
JIS:SNCM630棒を旋盤で切削して、上記外径(直径)とするとともに、旋盤の送りスピードを変えて接合面の表面粗さRaを、0.5μm以下に調節してスチール棒3を製造した。」(第4欄14〜18行)
q.「ろう付け方法
セラミックス板2とスチール棒3との突き合わせる端面(接合面)の間に、In-Ag-Cu-Ti系の厚さ0.05mmの活性ろう材4を配置した。そして、真空中にて790℃で15分間保持し、その後N2ガス置換炉にて冷やすことによってろう付けを行って、セラミックスと金属との接合体1を得た。」(第4欄19〜25行)
と記載されており、上記各記載および図面を参照すれば、刊行物6には、
「セラミックスと金属の接合体を製造するに当たり、接合前に、双方の接合面を加工する点」に関する発明が記載されているものと認められる。

[4]対比・判断
(1)請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と刊行物1に記載の第1発明とを対比すると、後者における「窒化ケイ素セラミック」、「円盤」、「スチール本体」、「カムフォロワ」は、それぞれの機能からみて、前者における「窒化ケイ素系セラミックス材料」、「摺動面部材」、「金属母材」、「摺動部品」に相当するものと認められるので、両者は、
「窒化ケイ素系セラミックス材料からなる摺動面部材より熱膨張率の大きい金属母材に摺動面部材を接合し、摺動面部材の接合面の最大長さに対する厚さの比が0.01以上0.05未満であり、摺動面最大長さに対し、0.1〜0.4%の最大高さのクラウニング形状を有する摺動部品。」である点で一致している。
しかしながら、刊行物1に記載の第1発明は、請求項1に係る発明を特定するための事項である「窒化ケイ素系セラミックス材料がJIS準拠の4点曲げ強度がl00kg/mm2以上である」点を備えていない。さらに、この点は、刊行物2ないし刊行物6にも記載がなく、また、この点を示唆する記載もない。
そして、請求項1に係る発明は、この点を具備することにより、“クラウニング比率を大きくしてもセラミック外周部におけるクラック発生を防止できる”(特許公報第21欄第50行〜第22欄第50行の「JIS準拠の4点曲げ強度が100kg/mm2未満のSi3N4を用いるとこの実施例1と同じ耐久試験によるプッシュロッド先端および金属母材側の受け面の摩耗は生じず、摺動に障害はないがクラウニング比率が好ましい範囲内でも、クラウニング比率を大きくとるセラミックの外周部に微小な割れが生じているのが観測され、」参照)という作用効果を期待することができるものと認められる。
したがって、請求項1に係る発明は、刊行物1記載の発明であるとすることも、また刊行物1ないし刊行物6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

(2)請求項4、6、7、16に係る発明について
請求項4、6、7、16に係る発明は、いずれも請求項1に係る発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当するから、上記(1)で説示したのと同様の理由により、刊行物1記載の発明であるとすることも、また刊行物1ないし刊行物6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

(3)請求項21に係る発明について
請求項21に係る発明と刊行物1に記載の第2発明とを対比すると、後者における「円盤」、「スチール本体」、「カムフォロワ」、「窒化ケイ素セラミック」は、それぞれの機能からみて、前者における「摺動面部材」、「金属母材」、「摺動部品」、「窒化ケイ素系セラミックス材料」に相当するものと認められるので、両者は、
「摺動面部材より熱膨張率の大きい金属母材に摺動面部材を接合し、摺動面部材の摺動面にクラウニング形状を付与する摺動部品の製造方法であって、金属母材及び摺動面を形成する窒化ケイ素系セラミックス材料からなる摺動面部材を準備する工程と、金属母材の少なくとも1ケ所に摺動面部材を固定するため、該母材と該摺動面部材の双方に接合面となる合せ面を加工する工程と、双方の合せ面を対向させて金属母材に摺動面部材を配置して加熱し、摺動面部材の摺動面に対応する接合面の最大長さに対する厚さの比を0.01以上0.05未満の範囲とした条件下て、それらの接合固定と同時に摺動面最大長さに対して0.1〜0.4%の最大高さをなすような形状のクラウニング形成を行う工程とを含む前記クラウニング形状を有する摺動部品の製造方法。」である点で一致している。
しかしながら、刊行物1に記載の第2発明は、請求項21に係る発明を特定するための事項である「金属母材及び摺動面を形成するJIS準拠の4点曲げ強度がl00kg/mm2以上の窒化ケイ素系セラミックス材料からなる摺動面部材を準備する」点を備えていない。さらに、この点は、刊行物2ないし刊行物6にも記載がなく、また、この点を示唆する記載もない。
そして、請求項21に係る発明は、この点を具備することにより、“クラウニング比率を大きくしてもセラミック外周部におけるクラック発生を防止できる”(特許公報第21欄第50行〜第22欄第50行の「JIS準拠の4点曲げ強度が100kg/mm2未満のSi3N4を用いるとこの実施例1と同じ耐久試験によるプッシュロッド先端および金属母材側の受け面の摩耗は生じず、摺動に障害はないがクラウニング比率が好ましい範囲内でも、クラウニング比率を大きくとるセラミックの外周部に微小な割れが生じているのが観測され、」参照)という作用効果を期待することができるものと認められる。
したがって、請求項21に係る発明は、刊行物1記載の発明であるとすることも、また刊行物1ないし刊行物6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、請求項1、4、6、7、16、21に係る発明の特許は、特許異議の申立ての理由及び提出した証拠によっては取り消すことができない。
また、他に請求項1、4、6、7、16、21に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
セラミック摺動部品及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】窒化ケイ素系セラミックス材料からなる摺動面部材より熱膨張率の大きい金属母材に摺動面部材を接合し、摺動面部材の接合面の最大長さに対する厚さの比が0.01以上0.05未満であり、摺動面最大長さに対し、0.1〜0.4%の最大高さのクラウニング形状を有し、前記窒化ケイ素系セラミックス材料のJIS準拠の4点曲げ強度が100kg/mm2以上である摺動部品。
【請求項2】窒化ケイ素セラミックス材料が、シャルピー衝撃値が15kJ/m2以上、熱衝撃温度差が800℃以上、かつ摺動面に開口している気孔の面積率が摺動面面積に対し、0.5%以下であることを特徴とする請求頃1記載の摺動部品。
【請求項3】金属母材の接合面に垂直な中心線に対する最小厚さの、摺動面部材の厚さに対する比率が0.5以上であることを特徴とする請求項2記載の摺動部品。
【請求項4】摺動面の表面粗さが十点平均高さ粗さで0.4μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの摺動部品。
【請求項5】摺動面のクラウニング形状の周辺部の曲率が中央付近の曲率の0.8倍以下であることを特徴とする請求項1記載の摺動部品。
【請求項6】金属母材が鋼であり、少なくともその表面がマルチンサイト組織を有し、硬度がHRC45以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項7】セラミックスと金属母材の間に中間層を用いることを特徴とする請求項1又は6記載の摺動部品。
【請求項8】中間層にヤング率がセラミックスより大きな金属又はサーメットを用いることを特徴とする請求項7記載の摺動部品。
【請求項9】中間層が4.5×105MPa以上のヤング率の材料からなることを特徴とする請求項7記載の摺動部品。
【請求項10】請求項7の中間層において周辺部分の熱膨張係数が、中心部よりもセラミックスの熱膨張に近いことを特徴とする摺動部品。
【請求項11】請求項7又は9のいずれかの中間層において、周辺部分のヤング率が中心部のヤング率より低いことを特徴とする摺動部品。
【請求項12】請求項7又は9のいずれかの中間層において、周辺部分の降伏応力が中心部の降伏応力より低いことを特徴とする摺動部品。
【請求項13】セラミックスと金属母材との接合面の周辺部分のみに中間層を用い、他の部分は中間層を用いることなく接合されたことを特徴とする請求項5記載の摺動部品。
【請求項14】請求項13の中間層が金属母材とセラミックスの中間の熱膨張係数又は塑性変形能を有する摺動部品。
【請求項15】請求項13又は14の中間層が金属母材よりヤング率が低いことを特徴とする摺動部品。
【請求項16】セラミックスと金属母材との間がロウ付けによって接合されたことを特徴とする請求項1又は15記載の摺動部品。
【請求項17】請求項16のロウ材の固相点が700℃以上である摺動部品。
【請求項18】請求項16のロウ材の固相点が850℃以上である摺動部品。
【請求項19】請求項18のロウ材が銅を含まないことを特徴とする摺動部品。
【請求項20】請求項19のロウ材がAg-Ti系であることを特徴とする摺動部品。
【請求項21】摺動面部材より熱膨張率の大きい金属母材に摺動面部材を接合し、摺動面部材の摺動面にクラウニング形状を付与する摺動部品の製造方法であって、金属母材及び摺動面を形成するJIS準拠の4点曲げ強度が100kg/mm2以上の窒化ケイ素系セラミックス材料からなる摺動面部材を準備する工程(I)と、金属母材の少なくとも1ケ所に摺動面部材を固定するため、該母材と該摺動面部材の双方に接合面となる合せ面を加工する工程(II)と、双方の合せ面を対向させて金属母材に摺動面部材を配置して加熱し、摺動面部材の摺動面に対応する接合面の最大長さに対する厚さの比を0.01以上0.05未満の範囲とした条件下で、それらの接合固定と同時に摺動面最大長さに対して0.1〜0.4%の最大高さをなすような形状のクラウニング形成を行う工程(III)とを含む前記クラウニング形状を有する摺動部品の製造方法。
【請求項22】前記(III)の工程で、前記クラウニング状の摺動面を特定形状の型に押しつけ、同形状を調整することを特徴とする請求項21記載の摺動部品の製造方法。
【請求項23】前記金属母材が鋼であり、前記の(II)の工程と(III)の工程との間に該母材を浸炭処理する工程と前記(III)の工程に加え、さらに該母材の摺動面に焼き入れ処理する工程(IV)を含むことを特徴とする請求項21〜22記載の摺動部品の製造方法。
【請求項24】前記(IV)の焼き入れ処理温度が前記(III)の加熱固定温度以下である請求項(23)記載の摺動部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は特に自動車エンジンの動弁系部品、カムフォロワーやロッカーアーム、軸受等の耐摩耗性を要求される摺動部材、とりわけ金属母材とセラミック摺動部材を接合した構造よりなるものに関する。
背景技術
近年地球環境問題から自動車の排ガスに関する規制強化が急務となっており、特にディーゼルエンジンにおいてはNOx(窒素酸化物)およびP/M(パテイキューレートマター)の排出低減が検討されている。その対応策としてEGR(排ガス循環)機構をエンジン排気系に付属させてNOxを低減させることが検討されているが、排ガス成分の循環からエンジンオイルの化学的劣化やP/M混入によりオイルが汚染されこれがエンジン摺動部品の異常摩耗を生じさせる問題が生じている。
従来より摺動部品材料は、摺動面の耐摩耗性が良いことや摺動抵抗が小さいという観点から選択され、摺動部品としては特性の優れた単一材を利用したり、またはそれを用いた接合体を作製することで実用化されてきた。
近年、優れた摺動特性を有するセラミックスが注目され、特に条件が厳しい摺動部にセラミックスが位置するよう金属材料と接合された実用例が見られる。
例えば、エンジンの高出力化や排ガス規制対応による潤滑条件の劣悪化への対応策として特開平2-55809号公報にあるようにエンジン用タペットにおいてカム摺動部に摺動特性の優れたセラミックスを接合したものがある。
一般に機械摺動部品では片当り防止のため、対をなす摺動面の一方は平面ではなく中央部が外縁部に対して僅かに(数μm〜数十μm程度)高くなった凸状のクラウニング形状をとっている。
このクラウニング形状は機械(研磨)加工や特開昭63-289306号公報に記載のセラミックスを金属で外嵌し、その締め付け力でセラミックスを弾性変形させる方法、また仮燃結体を予めクラウニング形状に加工した上で焼結し、焼結したままの面を摺動面として用いる方法〔自動車技術Vol.39.No.10,(1985)p1184〕などにより成形されている。
しかしながらクラウニング形状が3次元形状であるため、機械加工では多大なコストを要する。
また、外嵌による方法では、構造、加熱温度などが決まればクラウニング量に制約が生じてしまう。
仮焼結体を予めクラウニング形状に加工した上で焼結し、焼結したままの面を摺動面として用いる方法では、焼結時の収縮によりクラウニング形状に加工した面が変形し寸法精度が低下してしまうといった問題があった。
機械(研磨)加工コストを低減する方法としては、例えば特開昭63-225728号公報には摺軸面に接合母材よりも熱膨張係数の小さい耐摩耗性部材を加熱接合し、熱膨張係数の差により摺動面にクラウニング形状を設けることにより、研磨等の機械加工によることなくクラウニングを形成し、摺動時の片当りを防止できる摺動部品を低コストで提供できる製法が開示されている。又、同公報には耐摩耗性部材として窒化ケイ素、炭化ケイ素、サイアロン等のセラミック材料を用いることを開示している。
これの関連技術として特開平2-199073号公報や特開平4-2672号公報には、ろう材や金属の選択や熱処理(接合)方法の検討等によって熱応力によるクラックの発生を防止すると共に金属部分の特性を維持できることが開示されている。
一方、排ガス規制に加え、効率の向上も急務となっている。エンジンの高効率化には摺動部の面圧の上昇が避けられず、これに伴い、摺動部に大きなクラウニング量が求められるようになった。
前述の技術によれば主たる摺動面がクラウニングを有するセラミックスで形成されると共にやはり補助的な摺動部となる金属部の硬度を維持した摺動部品が作製可能であるが、摺動面のクラウニング量の制御が困難である他、マルチンサイト変態や低温で固化するろう材を使用することによってセラミックス-金属母材の熱収縮差を小さくして熱応力を軽減しているため、クラウニング量が大きくできないという問題があった。
これらの問題を解決する方法として、特開平4-203206号公報には、ろう付後のタペットの摺動面に荷重を加えて金属部を塑性変形させることや、特開平6-92749号公報には、セラミックス金属の間に中間層を介在させてクラウニングを調整することが開示されている。しかし、これらによってもクラウニング量には限度があった。
一方、このような摺動部品においては、セラミックスを用いた部分以外の摺動部、もしくは部品全体にも摺動特性が要求される場合もあり、金属材料の摺動特性を向上させるため硬化処理が施される。
そのため先の特開平2-55809号公報や特開平2-199073号公報、特開平4-2672号公報、特開平5-18213号公報、特公平5-72354号公報では、セラミックスと金属の加熱接合時の加熱と冷却を利用して金属部分の硬化処理を行っている。
しかしながら、上記加熱接合を利用した硬化処理では、通常硬化処理に用いられる焼き入れ処理とは本体摺動部に負荷される加熱温度が異なり、摺動特性に必要な硬度を得られない場合もあり、さらには冷却方法が特殊であり、またそれに適した金属材料はその種類が限定され、かつその材料(例えば、JIS SNCM630など)が難加工材であり、コストが高くなるといった問題があった。
また、このコスト増回避のため、部分的に本材料を用い、その他の部分を加工が行いやすい安価材で作製する場合でも、2種類の材料の接合や接合部の加工などの工程増加によるコスト増の問題もあった。
本発明は上記した問題点を解決するため、摺動部材本体の金属部にも摺動時の耐摩耗性を付与するとともに、摺動面の少なくとも1カ所の主摺動面に高性能かつ大きなクラウン形状の摺動部、特にセラミックからなる摺動部を形成した安価な摺動部材およびその製造方法並びに同部材を用いた装置の提供を目的とする。
発明の開示
本発明は、
(1)窒化ケイ素系セラミックス材料からなる摺動面部材より熱膨張率の大きい金属母材に摺動面部材を接合し、摺動部材の接合面の最大長さに対する厚さの比が0.01以上0.05未満であり、摺動面最大長さに対して0.1〜0.4%(クラウニング比率と称す)の最大高さのクラウニング形状を有する摺動部材である。本発明の摺動面部材は摺動部品の実用途によって種々のものが考えられる。本発明では摺動面部材上のこのクラウニング形状を同部材の金属母材への接合工程および/又は同工程とは別の工程で、双方を組み合わせて加熱し、両者の熱膨張差によって形成する。
摺動面部材は金属母材より熱膨張率の小さいものであればよいが、金属母材と接合されその摺動面に上記の最大高さのクラウニング形状を形成しうるものとする必要がある。
したがって金属母材が決っておれば、上記範囲のクラウニング形状が得られる熱膨張率の摺動面部材を選ぶ必要がある。又、この加熱によって摺動面部材自体及び金属母材との接合部の劣化・損傷を生じさせない摺動面部材であることも必要である。さらに摺動時の環境および負荷に耐えられるものでなければならない。実用条件が比較的低温で摺動時の面圧が比較的低い場合には、可能な限り軽量なものがよく、例えば金属母材にアルミニウムベース金属の素材を用い、摺動面部材に軽量の市販のセラミックスの素材を用いることができる。又この場合、軽量化の必要がなければ、金属母材に鋼を用い、摺動面部材として金属母材より低熱膨張率の鉄ベース金属、サーメット、市販のセラミック等を用いることもできる。
以上述べたように本発明の摺動部材の摺動面部材と金属母材との素材の組合せは用途に応じて種々考えられる。クラウニング形状としては摺動面部材の摺動面に、摺動面最大長さに対して0.1〜0.4%の最大高さのものとする。
これを例えば本発明の対象とするクラウニング形状摺動部材の一つである図1に示すディーゼル商用車の動弁系OHV方式のタペットを用いて説明する。図1の摺動面材1と金属母材2は通常の接合ロー材(Agロー材等)を介し加熱接合され、冷却後の摺動面材1と金属母材2の熱膨張差により摺動面にクラウニング形状がつく。一方、図1に示すタペット部品ではカム部品3と摺動ずる摺動面と同様プッシュロッド部品4との摺動面5の偏摩耗を防止することが、特にEGR機構の適用に対して重要となる。そのためにはカム部品3と摺動面材1の片当りを防ぐとともに、接合面最大長さに対して0.1〜0.4%の最大高さのクラウニング形状を施し、カム部品3により摺動面材1を強制的に回転させ偏摩耗を防止できる。これが0.1%未満であると、カム部品3による摺動面1に加わる回転力が不十分であり、摺動面5の偏摩耗の原因となり、0.4%を越えるとクラウニングが大きくなることによる摺動面材の変形により摺動面材円周部に高い引張り応力が発生し、摺動面材の破壊等につながるために好ましくない。本発明の対象とする摺動部材は、上記タペットのように相手材とのローリング摺動を主体とするものであり、このタイプの摺動部材に対しては、タペットのように摺動面に高い面圧がかかり重負荷のものも、さらに軽負荷のものも摺動面の形状は、この範囲とするが回転力の伝達による偏摩耗の防止を考えると望ましい形状である。
(2)次に本発明の摺動面部材であるが、これを窒化ケイ素系セラミックスとすることが望ましい。通常前述のようにこのローリングタイフの摺動部材としては、摺動面への負荷の大きさにより種々の素材が考えられる。
しかしながら、特に自動車のエンジンの動弁系の摺動部、例えばカムフォロワーやロッカーアーム、軸受等の苛酷な負荷条件下で耐摩耗性が要求される部分の摺動部材、とりわけ金属母材の主摺動部に本発明のクラウニング形状摺動面部材を接合したタペット等の摺動部材として用いる場合には、高い耐摩耗性と低い摺動抵抗のセラミックスを摺動面部材として用いることが好ましい。この場合本発明によれば、金属母材に接合される摺動面部材は全体がセラミックスであり、上述の範囲のクラウニング比率のクラウニング面の施されたものとする。好ましい形態としてはクラウニング形状を施された摺動面部材の一部をセラミックスとする。
セラミックス素材としては、例えば、窒化珪素質、のものや、これらに繊維成分を分散させたり、粒内および/又は粒界に分散質成分を均一に分散させたりした複合セラミックス材料を用いることができる。尚、本発明ではこのセラミックス摺動面部材へのクラウニング形状付与は、前述のように摺動面部材と金属母材の熱膨張差を利用し(セラミックス摺動面部材の方が金属母材より熱膨張率が小さいことを利用し)、接合工程および/又は同工程とは別の工程で、両者を組み合わせて加熱することによって形成する。
したがってこの加熱温度に耐え、クラウニング変形による損傷が起こらず、この変形によるストレスで金属母材との接合部に損傷の生じない構造上の組み合わせとすることが必要である。
摺動面材として窒化ケイ素系材料を選択したのは、(1)熱膨張係数が小さく接合時にクラウニング形状が安定して設けられること、(2)強度が比較的高く、クラウニング形状を設けた際に発生する引張り応力に対し耐えられること、(3)硬度が比較的高く、高摩耗性に優れること、の3点を考慮したためである。さらに好ましくはその室温でのJIS準拠の4点曲げ強度が100kg/mm2以上、耐熱衝撃性を示す温度差が800℃以上、室温でのシャルピー衝撃値が15kJ/m2以上、かつ摺動面に開口している気孔の面積率が摺動面面積に対し、0.5%以下である窒化珪素系セラミックスを用いる。さらにJIS準拠の4点曲げ強度が130kg/mm2以上のものを用いるとなお好ましい。
なおこの場合摺動表面に開口している気孔の面積率が摺動面面積に対し、0.5%以下とするのは、EGR機構を設けた際にエンジンオイルにP/M成分(すすやSC3等)が混入し摺動面および相手摺動面に摩耗が生じ易くなるからである。
このように強度が高く、耐衝撃性も高いセラミックスを摺動面部材に選ぶのは、これらを金属母材に例えば比較的高い固相点のロウ材で接合する場合の昇降温時および本発明の範囲のクラウニング形状を付与するために行う加熱時の昇降温時での熱衝撃、伸縮のストレスに耐え、それ自体に損傷を生じないことが重要となるからである。又、摺動時に万一衝撃荷重がかかってもそれに耐えうる必要があるからである。
次にこれらセラミックの中でも窒化珪素系セラミックスを摺動面部材として用いる場合、前記の摺動面最大高さのクラウニング形状にすると共に、さらにクラウニング形状部の摺動面最大長さ、(l)に対するクラウニング形状部すなわち固定した摺動部の厚み(t)の比を0.01〜0.05(すなわち1〜5%)とするのが好ましい。
これを本発明の一実施例である図2に示すタペット部品で説明する。図2に示す接合面の最大長さlに対する摺動面材1の厚さtの比率が0.01未満であると、カム部材により加わる衝撃力に対し、摺動面材1に破壊等の問題点が生じ易くなる。一方、0.05を越えるとクラウニング形状を設ける際の摺動面材1の変形抵抗が大きく、例えばセラミックに大きな引張応力が加わり、安定したクラウニング形状が得られにくくなる。
さらに本発明の摺動面部材として、特に前記の4点曲げ強度が100kg/mm2以上の特殊な高強度・高衝撃強度を有する窒化珪素セラミックスを用いる場合で、例えば図2のような摺動部支持構造をとる場合には、前記の最大高さのクラウニング形状と摺動面最大長さ(l)に対するクラウニング形状部の摺動面部材の厚み(t)の比に加えて、さらに母材の接合面に垂直な中心線(C-C)で切った最小厚さf(つまり図1のブッシュロッド部品4と母材との摺動面となる母材の最小厚み)の摺動部材の厚さtとの比率が0.5以上となるような設計とするのがより好ましい。
このような比率とすることによって、クラウニング形状を形成する過程で母材2の変形が生じにくくなり、より再現性よく、安定した摺動部材のクラウニング形状のものが得られる。
(3)次に本発明の対象とする摺動面部材全てについてその摺動面の表面粗さがJIS準拠の十点平均高さ粗さで0.4μm以下とすることが好ましい。
十点平均高さ粗さが0.4μmを越えると、摺動部材の相手材の表面の摩耗を引き起こし易いからである。特にタペットのような重負荷(面圧)でのローリング摺動の場合には、相手材であるカム部品を傷つけ易い。例えばタペットのクラウニング形成摺動面が前述のようにセラミックスであり、カム部品が焼き入れした銅である場合、カム部品はセラミックスとの摺動によって選択的に摩耗を起すので好ましくない。
(4)さらに本発明の対象とする摺動面部材の摺動面形状は前述のクラウニングの比率範囲0.1〜0.4%を満たすとともに、摺動面のクラウニング形状の周辺部の曲率が中央付近の曲率(曲率比と称す)の0.8倍(すなわち80%)以下でコントロールすることが望ましい。
このようにコントロールすることによって熱応力に引張り破損の危険性を低下させることができる。
(5)本発明の金属母材としては、摺動面部材より熱膨張率の大きい組み合わせとなるもので、加熱によって摺動面部材に形成されるクラウニング比率が前述のように0.1〜0.4%であれば、いかなるものでもよいが、同母材の一部に重負荷のかかる前述のタペットを構成する部材として利用する場合には、鋼が好ましい。さらに鋼の中でも摺動面となる部分の表面がマルチンサイト組織を有し、硬度がHRCで45以上であるものが望ましい。
銅の母材の摺動面をこのように部分硬化又は全体の硬化を行うためには、浸炭処理や表面焼き入れを適宜組み合わせて行う。母材の硬度を上記レベルとするのは、HRC45未満では例えばタペットとカムのような図2に示すような摺動部材として用いる場合、図2のプッシュロッド部は絶えず高い面圧下で摺動をしているため、その摩耗が大きくなり、ローリング摺動時の回転駆動の回転精度に支障をきたし、タペット母材自体が変形し易くなったり、ひいてはローリング摺動しているタペットの偏摩耗が生じ易くなるためである。
但し、通常は母材の硬化処理は、摺動負荷の加わる部分のみ局部的に行えばよい。
例えば図2のタペットで摺動面部材をロウ付けで接合した後で表面焼き入れする場合には、油冷・空冷による急速冷却が必要であり、ロウ付け部のゆるみのないように予めより高温でロウ付接合をしておき、この急速冷却に耐えうる耐熱衝撃性で、かつ変形に耐え、接合部周辺に損傷を生じないような摺動面部材を選ぶ必要がある。セラミックスの場合、このロウ付時および母材の表面焼き入れ温度差に応じてそれに適した前述の耐熱衝撃温度差と曲げ強度を有するものを適宜選ぶ必要がある。
又、本発明では予め全体が浸炭処理された鋼製母材を用意し、これに摺動面部材を加熱接合した後に、再度本体の摺動特性の要求される部分のみ表面焼き入れを行ってもよい。すなわちこの場合、金属母材は公知の浸炭処理を施し、加熱接合後の焼き入れ処理を経ると本体自体の表面が硬化されるので、未処理材よりも摺動特性が向上し、また内部組織は靭性を有したままなので摺動部品として衝撃荷重に対しても十分な強度を有する。
以上の硬化処理を行うことによって、硬化処理した鋼製の母材となり、1ケ所またはそれ以上の摺動面があり、当該摺動面の少なくとも1ケ所は加熱接合により本体に取り付けられている複数の摺動面を有する本発明摺動部品を得ることができる。つまり、例えば主摺動面をセラミックとして摺動面部材として固定し、他にHRC45以上に硬化処理された金属からなる摺動部を同時に構成することができる。
又、硬化処理対象材と同処理条件を選ぶことにより、摺動面の実際の摺動条件に合わせた複合構造の摺動面部材を作ることもできる。
すなわち、本発明では、表面焼き入れ時の発熱による鋼部の軟化とマルチンサイト変態による体積膨張を利用することにより、部分的摺動部品中の任意の摺動面を形成することができる。そして表面焼き入れを施す箇所はクラウニングを付与する摺動面の場所により適時選択され、付与するクラウニング量は表面焼き入れの手法や方法(加熱や冷却時間など)、また使用する鋼材の種類により広範囲の制御が可能である。
本体の鋼材としては、浸炭処理と焼き入れ処理によりHRCで45以上を示せば、種類は特に問われないが、強度、材料や加工のコスト面から機械構造用鋼として広く用いられている炭素鋼やNi,Cr,Moを合金元素として添加されている合金鋼などが好ましい。つまり本発明の摺動部材では、例えば以下のものを用いる。
(1)C0.1重量%以上、Si0.1〜0.5重量%、Mn0.2〜1.2重量%、Cr0.1〜2重量%、P,Sを共に0.03重量%以下、不純物として0.3重量%以下のCu、0.25重量%以下のNiや不可避的元素を含む鋼材。
(2)C0.1重量%以上、Si0.1〜0.5重量%、Mn0.2〜1.2重量%、Cr0.1〜2重量%、Ni1〜5重量%、P,Sを共に0.03重量%以下、不純物として0.3重量%以下のCuや不可避的元素を含む鋼材。
(3)C0.1重量%以上、Si0.1〜0.5重量%、Mn0.2〜1.2重量%、Cr0.1〜2重量%、Mo0.1〜1重量%、P,Sを共に0.03重量%以下、不純物として0.3重量%以下のCu、0.25重量%以下のNiや不可避的元素を含む鋼材。
本発明の摺動部品は、本体の鋼材において焼き入れ性と耐摩耗性を増大させるが高価である添加元素のCrの含有量が0.1〜2重量%と低く、さらに同様に高価なNiまたはMoが非添加もしくはどちらか1種類しか添加されないためコストを低くできる。Crの含有量は0.2〜1.5重量%がより好ましい。
Niの添加は鋼の強度を低下させず粘り強さを向上できるが、その作用を効果的にするには1重量%以下の添加が好ましい。しかし、Niは高価なため多量の添加はコストの面からは好ましくなく、5重量%以下が望ましく、1〜3重量%がより好ましい。又、Niの添加はCrとの合成効果により焼き入れ性を著しく向上させる。
Moの添加は焼き入れ性が向上し、高温での加工性も良好にできる。添加量はコストを考慮すれば、0.1〜1重量%が望ましく、0.1〜0.3重量%がより好ましい。各元素の添加量は用途に応じ調整することが望ましい。
(6)本発明においてセラミック摺動面部材をロウ層のみで加熱接合によって固定したものでは、そのロウ層は15〜25μmの厚みとするのが望ましい。15μmより薄くなるとロウ層による接合時の熱応力緩衝効果が場合によっては低下する。又25μmを越えるとロウ層の強度低下を招く場合もある。又、この場合、接合時にセラミックがその熱応力に耐えうるようにするためには、母材と摺動部材の間に、母材と摺動部材とは異なる中間層を設けることも有効である。
この中間層は場合によっては、ロウ層に代って用いることも可能である。なお中間層を用いたロウ付けの場合は上記ロウ層の厚みの範囲は無関係となる。しかしこの場合、接合後の硬化処理に充分耐えうるものとする必要がある。
例えばAl合金でもよいが、その場合には鋼の表面焼き入れがその融点を越すため好ましくなく、むしろ高融点のCu等の方がよい。又セラミックとの接合時の緩和性も考えて中間層を選ぶことが必要である。通常は表面にTi,Zr等の活性金属を蒸着する等の前後処理を講じる。又、必要により薄い多層構造の接合中間層を作ることによって応力緩和を図ることも行う。
しかし通常はロウ層とロウ層とは異る成分の中間層を複合させて接合介在層を形成する方が望ましい。
中間層をあえて設けるのは同層の介在によってセラミックにかかる熱応力を緩和しながら、ロウ層だけによる接合介在層では達成できない大きなクラウニング量が加熱接合時に中間層の構造次第で得られるというメリットがあるからである。又、前記のように加熱接合後摺動部を表面焼き入れする場合の緩衝機能をも果たせるとともに実用時の応力の緩衝にも役立つ。
クラウニング量を増加させるために中間層はヤング率がセラミックスよりも大きい金属又はサーメットがよく、そのヤング率は4.5×105MPa以上のものがさらによい。又、クラウニング増大と熱応力緩和を両立させるためには、中間層の周辺部分の熱膨張係数が中心部よりセラミックスの熱膨張係数に近いものがよい。さらに、中間層の周辺部のヤング率並びに降伏応力が中心部のヤング率、降伏応力より低いものがよい。
熱応力の緩和のためには中間層は金属母材とセラミックスの中間の熱膨張係数又は塑性変形能を有し、金属母材よりヤング率が低いものがよい。
セラミックスと金属母材とはろう付けによって接合されるが、固相点は700℃以上、より好ましくは850℃以上のものがよい。又、850℃以上でろう付けする場合には、ろう材は銅を含まない例えばAg-Ti系が好適である。
接合後の機械加工によらず、接合時の操作や冷却時の熱応力によって、摺動面を形成するセラミックスのクラウニング量を大きくするためたは次の2条件を満たす必要がある。
第1の条件はクラウニングを形成可能な応力が存在することである。応力を発生させる方法としては接合時に印加する方法と接合後の熱応力による方法が考えられる。熱応力による場合には金属母材と接合されるセラミックスや熱応力緩和層等の部分の熱膨張係数が小さく、金属母材と一定以上の差があることや、これらの部分の剛性が高いこと、すなわち一定以上の厚さがあることや、ヤング率が高いことが必要である。
第2の条件はクラウニングを形成することによって発生する応力に耐え得る構造を有することである。セラミックスと金属母材を接合する場合には、主として冷却時の熱収縮のためセラミックス部に生じる引張応力によってセラミックス部分にクラックが生じることがある。この引張応力はセラミックス部分の変形に起因するため、クラウニングを大きくする必要がある場合にはより深刻な問題となる。本発明はセラミックス部分にクラック等の欠陥を生ずることなく大きなクラウニングを形成した摺動部品を提供する。セラミックスと金属母材を接合する場合には通常セラミックスの熱膨張係数の方が小さいため、接合面付近には基本的にはセラミックス側が圧縮、金属母材側が引張の熱応力が生じる。セラミックス材料は圧縮応力には強いため、この圧縮応力によって割れることはほとんどない。一方、この熱膨張係数差のため接合体は図3に示すようにセラミックス1と金属母材2とが変形し、クラウニングが形成される。しかし、この変形に伴い接合体の周辺部には接合面に垂直な方向に引張応力が生じる(図4)。接合体に図4の17に示すようなクラックが生じることがあるのは、この引張応力が材料強度より高いためと考えられる。この引張応力の大きさは多くの要因によって決まるが、基本的には前述の変形量に依存する。このためクラウニング量が大きい接合体の作製は困難であった。
大きいクラウニング量を確保しながらセラミックスの破壊を防止する最も単純で有効な方法はセラミックスとして、金属母材との熱膨張係数差が大きく強度の高い材料を選択することである。この条件に適合するセラミックスとしては前述の如く窒化ケイ素がある。窒化ケイ素の熱膨張係数は3×10-6K-1であって、ほとんどの金属母材とかなりの差があり、強度も高いため最も適した材料である。前述のように窒化ケイ素のなかでもその強度が100kg/mm2以上、さらには130kg/mm2以上のものはさらに好ましい。セラミックスの強度の値は測定方法によって異なることが知られているが、ここではJIS R1601に準拠した4点曲げ強度を示す。窒化ケイ素は一般的に高強度であるが、中でも強度が130kg/mm2以上の材料を用いた場合には苛酷な接合条件又は焼き入れ加熱時でもクラックの発生が急激になくなる。この傾向は金属母材が鋼材の場合に顕著である。高強度セラミックスとの接合では金属母材側の塑性変形による応力緩和が支配的になるためと推定される。
金属母材として鋼材を用いる場合には前記した鋼材の硬度確保、あるいは前述のような鋼材を用いマルチンサイト変態を利用した実質的な熱膨張係数差の低減によるセラミックスの割れ防止のため、鋼材の種類及び接合条件(特に冷却条件)を選定することや低融点ろう材を用いることが特開平2-55809号公報及び特開平2-199073号公報に記載されている。これらの方法によれば高硬度を維持しながら割れのない摺動部品を作製できるが、熱収縮量の差が小さいため、クラウニングを大きくすることは不可能であった。鋼材の硬度を維持しながらクラウニングの大きな接合体を得るためには、高融点のろう材を用いる等により、高温で接合を形成することが有効である。接合形成温度とクラウニング量・熱応力の関係はセラミックス・金属母材及び後述の中間層にも依存するため、いちがいにはいえないが、700℃以上であるのが好ましく、850℃以上であるのがより好ましい。700℃未満では容易には十分なクラウニング量が得られないのに対し、特に850℃以上ではマルチンサイト変態に伴う膨張を考慮しても容易に十分大きなクラウニング量が得られる。850℃以上の融点のろう材としては、Ag-Tiろう材が適している。セラミックスとしてSi3N4を選択する場合にはCuを含有するろう材(例えばAu-Cu-Tiろう材:融点910℃)を用いて高温でろう付けすることは界面強度の低下につながり好ましくない。
通常の強度の窒化ケイ素焼結体あるいは他のセラミックス材料を用いた場合には、発生する熱応力に耐えられず割れが生じるのが避けられないが、上述の強度が130kg/mm2以上の窒化ケイ素焼結体を用いた場合には鋼材と直接接合しても多くの場合割れのない接合体が得られる。高強度の窒化ケイ素を用いれば上述のように熱応力による割れを避けられるだけでなく、部品として使用する際に、高い荷重や衝撃によっても破損する確率の低下につながることは言うまでもない。
形状的な要因(例えば接合面が非常に大きい場合)によって高強度窒化ケイ素を用いてもセラミックスに割れが生じる場合には図5のようにセラミックス1と金属母材2との間に中間層4を用いることが有効になる。
熱応力を緩和するための中間層としては被接合材の中間的あるいはセラミックスに近い熱膨張係数を有する材料や塑性変形能を有する材料が有効であることが知られているが、本摺動部品のように大きなクラウニングの形成を目的とする場合には前者に属する材料が好ましい。
後者に属する材料はクラウニングを小さくするため好ましくない。前者が好ましい理由は熱膨張係数が小さい中間層の場合には中間層もクラウニング形成に寄与するため、セラミックスを直接接合する場合よりクラウニングを大きくできるためである。中間層が有すべき他の特性としては、ヤング率が高いことが挙げられる。ヤング率が高い場合の利点の一つは少ない変形量で大きな応力を発生するため、クラウニングを増加させる効果が高いことである。又、他の利点としては中間層はセラミックスをバックアップする構造になっており、そのヤング率が高いことはセラミックスに高い応力や衝撃力が加わった時にセラミックスの変形を抑える効果が高いことが挙げられる。この観点から中間層のヤング率は対応するセラミックスのヤング率より高いことが望ましい。この様なヤング率が高く熱膨張係数が低い材料としては、金属としてはMoやWあるいはそれらの合金がありサーメットとしては、WC,TiC,TiN基の材料が挙げられる。特にWCを主成分とし、Coを主要な結合相とするいわゆる超硬合金は、熱膨張係数が4.5〜5.5×10-6K-1、ヤング率が4.5×105MPa以上であり、本目的に最も適した材料である。ヤング率が45×105MPa以上の場合にはクラウニング形成及びバックアップ機能への効果が特に顕著となる。
通常中間層としては被接合材料の中間の熱膨張係数のものが使われるが、セラミックスによってはより熱膨張係数の低い材料を用いることもあり得る。例えばセラミックスとしてAl2O3を用いる場合にMoやW-Cu合金等Al2O3より僅かに熱膨張係数が低い中間層を用いることが可能である。この場合にも熱応力緩和やクラウニング量を増大させる効果がある。
クラウニング量の確保と熱応力緩和を両立させるさらに有効な方法として、クラウニング形状を制御することがある。すなわち、図6に示すように接合体の周辺部(A部)の曲率を中央部(B部)より小さくすることにより、実質的なクラウニング量を確保しながら、セラミックス1部分が割れるのを防止することができる。セラミックスが割れる原因となっている周辺部の引張応力はほとんど周辺部分近傍の変形によって発生しており、この部分のみ曲率を低くすることによってセラミックス部分には大きな引張応力が発生しなくなるため、割れのない接合体の作製が可能となる。中央部の変形(湾曲)はセラミックス部分に主として圧縮応力を発生させるため、割れにはつながりにくい。例えばすでに述べたように周辺部の曲率が中央部の0.8倍を超す場合には応力を低減させる効果が小さい。尚、周辺部と中央部の境界は構成部品の材料や形状によって異なるため明確ではないが、周辺部は外側からセラミックス部品の厚さの1〜2倍程度の領域、中央部はセラミックス部品の中心からその大きさの30〜50%程度長さの領域を意味する。
この様にクラウニング形状を制御する方法としては、下記のような周辺部と中央部で特性の異なる中間層を用いる方法や接合時に応力を印加する(強制的に変形させる)方法がある。
中間層による方法は図7に模式的に示すように中間層の周辺部6と中央部7に特性の異なる材料を用いる方法である。中央部と周辺部は一体化していてもいなくても良く、それぞれ2種以上の材料からなっていても良い。又、特性が連続的に変化していても良い。この中間層の周辺部の熱膨張係数を中心部よりセラミックスに近くすることにより前述のクラウニング形状の制御が可能となる。熱膨張係数の他、周辺部のヤング率や降伏応力を低くすることによっても同様の効果が得られる。又、これらの特性を同時に変化させても良い。
この様な構造の中間層の場合にはクラウニング量は主として内側中間層によって支配されるため、外側にはヤング率や降伏応力の低い材料を用いても良い。又、図8のように周辺部にのみ中間層21を用い、中央部はセラミックス1と金属母材2と直接接合することによっても同様の効果がある。この場合には中間層21はリング形状の単一材料であっても良いためコストの低減が可能となる。勿論この構造の場合にも中間層はいくつかの材料から構成されていても良い。中間層の特性としては金属より熱膨張係数が低いこと、塑性変形能を有すること、ヤング率が低いことのいずれか一つ以上が必要となる。
この他のクラウニング形状の制御方法として接合を応力印加しながら行う方法がある。例えば図9に示すようにセラミックス1と金属母材2を周辺部の方が曲率の小さい型8に杵9で押しつけながら加熱・接合することによって、前述の周辺部の方が中央部より曲率の小さい接合体が得られる。型形状としては図10に示すような凸型のものも有効である。又、接合と同時に金属部の形成(焼結や鍛造)を同時に行うことも可能である。
次に本発明摺動部材の製造方法について述べる。
本発明の方法は、(1)金属母材および摺動面を形成する摺動面部材を準備する工程(I)と、金属母材の少なくとも1カ所に摺動面部材を固定するため、該母材と該摺動面部材の双方に接合面となる合せ面を加工する工程(II)と、双方の合せ面を対向させて金属母材に摺動面部材を加熱固定する工程(III)とを含むものである。固定(接合)方法としてはロウ付、拡散接合など公知の方法が利用できる。
又、本発明の工程(III)での摺動面部材の加熱固定は、双方の合せ面を直接接触させて行われる方法、合せ面間にロウ材および/又はロウ材以外の中間層材を介挿する方法がとられる。
双方の合せ面を直接接触させる加熱固定法には用途によっては双方の熱膨張差を利用した加熱嵌合によって行われる方法が含まれる。
又、双方の合せ面を直接接触させて行う方法においても合せ面間にロウ材および/又はロウ材以外の中間層材を介挿して行う方法のいずれにおいても、補助的に加圧して成形する手段として、3次元のクラウニング曲面をなす凹型によって加熱して型内加圧で行われる方法が含まれる。
後者の型内加圧は摺動面部材を本体に加熱固定した後に別途クラウニング量調整手段として行ってもよい。
例えば摺動面部材を母材に固定する構造をとる場合、摺動面部材の一部である摺主摺動部にセラミックスを配置する。つまり金属でセラミックスを保持するような摺動部の構造をとる場合、事前に摺動部を工程(III)と同じステップを経て作り、さらに本体に加熱固定する方法をとってもよい。この場合の本体への固定については用途によって機械的なネジ止め等の別の方法としてもよい。又、例えば以上の方法の組み合わせでセラミックを直接本体に埋め込みセラミックの周囲の本体面にも摺動面を形成することもできる。
又、クラウニング形状はセラミック部のみで主摺動面からの本体を外す場合もある。
加熱固定工程(III)の雰囲気および温度とその加熱方法については、摺動部本体材質、摺動部材質および仮にロウ材、中間層材を介在層として用いる場合にはそれらの材質も含めた素材種の組み合わせクラウニング形状の所望クラウニング量によって適宜な条件を選ぶ。
加熱時の雰囲気については通常真空又は不活性ガス(Ar,H2,N2等)雰囲気による所定圧力下で行う。圧力は減圧下、加圧下も含む。加熱方法については、以下の種々の方法がある。
なお接合される部材がセラミックスの場合には、ロウ付けによる接合を行うが、ロウ材は、セラミックスを金属に直接接合する場合、Tiを含む銀ロウ、例えばAg-Cu-Ti系、Ag-Ti系等が選択され、セラミックスの接合面側にメタライズ処理されている場合は、Ag-Cu系等がよい。
また、ロウ付け雰囲気は非酸化雰囲気(真空およびAr,N2,H2およびそれらの混合ガス等)が好ましい。嵌合は圧入や焼きばめなどの公知の方法に行えばよい。
本発明では(III)の工程で摺動面部材を母材に固定接合すると同時に前述のクラウニング比率のクラウニング状の摺動面を形成することができる。この場合接合層には中間層があってもよい。
(2)又、本発明の方法によれば工程(III)の後に母材の摺動部を焼き入れ処理する工程(IV)を追加してもよい。この工程の手段には同形状部のみを表面焼き入れする方法とこの焼き入れとともにクラウニング凹型による型内加圧で成形する方法が含まれる。又これらを前後して組み合わせる方法も含まれる。又、表面焼き入れを行う母材としては前述のように焼き入れ後HRC45以上となるような銅を用いる。用いる表面焼き入れ処理法は高周波、火炎、レーザービーム、電子ビーム焼き入れなどの公知の方法を用いる。
又、焼き入れ処理を行う箇所の靭性を確保する必要がある場合は、前述のようにあらかじめ浸炭処理を施した鋼製本体を用いればよい。なお浸炭処理の方法としては固体、液体、ガス浸炭等の公知の手法のいずれでもよい。又、焼き入れ後の摺動部品本体の硬度がHRC45以上であれば、焼き入れ温度、冷却方法は特に規定されるものではなく、用いた鋼材のJISに定められている方法(例えば機械構造様合金鋼であるニッケルクロムモリブデン鋼であればJIS G4103)に準じて行えばよい。
又、焼き入れ処理後摺動部品本体の靱性を向上させるために焼き戻し処理を行ってもよい。方法は摺動部品本体の硬度がHRCで45以上を保持できるのであれば、JISに準拠したものを選択すればよい。
なおこの場合加熱接合は接合部の劣化を防ぐために、好ましくは表面焼き入れ温度以上で行うことが望ましい。
摺動面を形成する部材を摺動部品本体に取り付ける場合は、接合や嵌合により行う。接合としてはロウ付けや拡散接合など加熱接合、溶接や圧接などの公知の方法を利用すればよい。
この点で前記(III)の工程での加熱接合時の温度は表面焼き入れ処理時の温度上昇での影響力がないように800℃以上であることが最も望ましい。例えば亜共析鋼ならば加熱時オーステナイト相のみとなるAc3またはAc1変態点以上30〜50℃が焼き入れ時の適当な加熱温度とされているので、接合温度は800℃を超えることが好ましい。
図面の簡単な説明
図1
本発明を適用したディーゼル商用車の動弁系OHV方式のタペットの説明図である。
図2
本発明を適用したタペット部品の説明図である。
図3
セラミックスと金属母体との熱膨張係数差に基づくクラウニング形成の説明図である。
図4
同じく発生応力及びクラック発生の説明図である。
図5
本発明において中間層を用いた例の説明図である。
図6
本発明においてクラウニング形状を制御する説明図である。
図7
中間層の中央部と周辺部で特性の異なる材料を用いる例の説明図である。
図8
中間層を周辺部のみに用いた例の説明図である。
図9
クラウニング形状制御方法の説明図である。
図10
型形状の一例を示す説明図である。
図11
案施例1におけるタペットの例の説明図である。
図12
落下型シャルピー衝撃試験の説明図である。
図13
カムの摩耗状態の説明図である。
図14
金属母材の形状を示す説明図である。
図15
市販の軽油燃料ポンプのカム/ピストン機構の説明図である。
図16
本発明をタペットに応用した例の説明図である。
図17
本発明をタペットに応用した例で中間層とろう材を用いた例の説明図である。
図18
同じく中間層の材質を中央部と周辺部で変えた例の説明図である。
図19
同じく中間層を周辺部のみとした例の説明図である。
図20
カーボン製のモールドと杵を用いた例の説明図である。
図21
モールドの寸法の一例の説明図である。
図22
本発明を適用したタペットの説明図である。
図23
タペットの使用状態の説明図である。
符号の説明
1 摺動面部材(セラミックスは一具体例)
2 金属母材
3 カム
4 プッシュロッド
5 金属母材摺動面
6 周辺部中間層
7 中央部中間層
8 型
9 杵
10 タペット本体(金属母材)
11 ろう材(銀ろうは一具体例)
12 中間層
13 周辺部中間層
14 中央部中間層
15 中間層
16 型
17 クラック
18 中間層
19 プッシュロッドとの摺動面
20 衝突材
21 周辺部中間層
22 焼き入れ箇所
23 プッシュロッド
発明を実施するための最良の形態
実施例1
市販のSi3N4、AI2O3、Y2O3粉末を各々93重量%、2重量%、5重量%配合し、エタノール中で72時間湿式混合した後、乾燥粉末を作製した。この粉末を圧力1.5トン/cm2にてCIP成形した後、1700℃、4時間、窒素ガス2気圧にて焼結した後、更に1650℃、1時間、窒素ガス1000気圧中にてHIP処理を施した。得られた焼結体より直径25mm、厚み0.5〜3mmの素材を切り出し、1面については砥粒平均粒径7〜11μmのダイヤモンド砥石により、面粗度を十点平均高さ粗さで0.3μm以下になるような仕上げ研削加工を施した。得られた摺動面材1を図11に示す形状のSCr420で作製した金属母材2にAgを主成分とするロー材を用いて真空中、1時間、780〜900度の種々の温度にて接合した後、JIS準拠のSCr420の焼入れ処理を行いタペット部品を作製した。ロウ付層の厚みは17μmであった。得られたタペット部品のプッシュロッドとの摺動面5の硬度を測定したところ、HRC=50であった。この部品を市販の商用車用OHV方式のヂーゼルエンジンに組み込み、市内走行を4万km実施後の回収エンジンオイルを用いて、機関回転数1000rpmにて200時間耐久試験を行い、プッシュロッドの先端および金属母材側の受け面の摩耗量を測定した。以上の結果を表1にした。表1中でクラウニング最大高さの比率(クラウニング比率)を決める接合最大長さは接合面直径の25mmとした。また、摩耗の判定については、プッシュロッド先端および母材側受け面の摩耗量の和が10μm以上の場合に「摩耗有り」、10μm未満の場合に「摩耗ナシ」と記述した。一方、表2にはここで用いたSi3N4焼結体の特性を示した。ここで曲げ強度については、JIS R1601に準拠して測定した。またシャルピー衝撃値についてはJIS R1601に準拠した試料を用いてスパン30mmの無溝による測定を実施した。また熱衝撃温度差についてもJIS R1601に準拠した試料を用いて、水中投下法により評価した。
【表1】

【表2】

以上によりクラウニング比率が0.1〜0.4の間で摩耗が生じず、良好な摺動性能が得られることが明らかとなった。
実施例2
実施例1と同様に原料粉末を配合しCIP成形した後、1600〜1800℃、1〜6時間、窒素ガス2気圧の種々の雰囲気下で作製した焼結体を1部、実施例1と同様のHIP処理を実施し素材を作製した。作製した素材を実施例1と同様の形状をしたSNCM616の金属素材に実施例1と同様の条件範囲に接合し、さらにJIS準拠のSNCM616の焼入れ処理を行い、タペット部品を作製した。ロウ付層の厚みは17μmであった。得られたSi3N4焼結体の特性および同セラミックを摺動面部材としたタペット部品の摺動性能を実施例1と同様の手法、同様の基準により評価し表3中に示した。
一方、得られた部品を実施例1と等価である図12に示す落下型シャルピー衝撃試験により破壊評価試験を実施し、Si3N4部の破壊の有無を評価した。尚、シャルピー衝撃試験の条件は衝突速度が3.5m/秒、衝撃エネルギー30Jとした。また衝突材6の先端形状はカムの先端形状を想定し、R=3〜4mm、幅20mmのカム先端形状相当とした。ここでSi3N4部の破壊の有無は衝撃荷重80kNを負荷し、破壊のあったものを「破壊有り」、破壊のなかったものを「破壊ナシ」として併せて表3中に示した。
【表3】

以上の結果より摺動面にJIS準拠の4点曲げ強度が100kg/mm2以上、シャルピー衝撃値が15kJ/m2以上で、熱衝撃温度差が800℃以上のSi3N4焼結体で構成されたクラウニング比率が0.1〜0.4%であるセラミックスをタペット部品に用いることで特に摺動時の高い衝撃破壊に対する信頼性の高い部品が得られることがわかる。一方、JIS準拠の4点曲げ強度が100kg/mm2未満のSi3N4を用いるとこの実施例1と同じ耐久試験によるプッシュロッド先端および金属母材側の受け面の摩耗は生じず、摺動に障害はないがクラウニング比率が好ましい範囲内でも、クラウニング比率を大きくとるセラミックの外周部に微小な割れが生じているのが観測され、本耐久試験を越える苛酷な環境下でこの種のセラミックスを万全な状態で利用するためには、後述の実施例のように予め接合部に中間層を入れたり、中央と外周のクラウニング比率を変える等の工夫が必要であることがわかる。
実施例3
実施例1と同様のSi3N4素材を用いて、その摺動面の面粗度と厚みを種々変化させた接合材を作製した。この場合のロウ層の厚みは17μmであった。その接合材を実施例2で示した金属母材に、図11中で3mm厚さに表示されている母材中心線に対する最小厚さをSi3N4摺動材の厚さに対する比率を種々変化させて接合し、さらにJIS準拠の焼入れ処理を行いタペット部品を作製した。ここで接合個数は同一条件では20個としてそのクラウニング比率について最小値と最大値の範囲で表4中に示した。
更に種々のタペット部品を実施例1と同様のエンジンを用いてプッシュロッド及びプッシュロッド受け面の摩耗を実施例1と同様の評価を行いその際のカムの摩耗状況を図13に示すカムノーズ高さの摩耗量にて評価し、この摩耗量が5μm以上の場合を「摩耗有り」、5μm未満の場合を「摩耗ナシ」と評価し、各々表4中に示した。
【表4】

以上の結果より、例えばNo.4にみられるようにクラウニング比率は0.1〜0.4%の範囲内に有るが、母材最小厚さ比率が0.5未満の場合には、クラウニング比率のロット内でのバラツキが大きくなり性能のバラツキが生じ易くなる。またNo.1,No.7にみられるように動面の表面粗度が十点平均高さ粗さで0.4μmを越えるとカムノーズ摩耗が生じ易くなることが分かる。さらにクラウニング比率が0.10未満の場合はプッシュロッドおよび受け面の摩耗のみならず、タペットの回転不良によりカムノーズの摩耗も生じ好ましくないことが分かる。
実施例4
実施例1と同様のSi3N4素材を用いて、実施例2に示す母材を用いて、摺動材の厚みを種々変化させた接合材を用いタペット部品を作製した。部品のロウ付層の厚みは16μmであった。このタペットを用いて実施例1と同様のエンジンを用いてプッシュロッド及びブッシュロッド受け面の摩耗及び、カムの摩耗を実施例3と同様の評価を行い、各々表5中に示した。
更に実施例2と同様の衝撃試験によりセラミック部の破壊の有無を評価した結果も表5中に示した。
【表5】

以上より摺動面の厚さ比率が0.01〜0.05の範囲であれば、プッシュロッド及び受け面、カムノーズの摩耗がなく、かつ衝撃特性に優れたタペット部品を得られることが明らかである。又、摺動面の厚さ比率が0.05を越え大きくなると、セラミック部の変形量が十分にとれず、クラウニング比率が小さくなることが明らかである。
実施例5
実施例2で得られた種々のSi3N4接合材の表面粗さを十点平均高さ粗さで0.1μm以下に鏡面仕上げ加工した後、その表面の10mm×10mmの視野に観察される気孔率を面積率で評価した結果を表6に示す。一方、この接合素材を実施例2と同様の接合によりタペット部品を作製した。ロウ層は17μmの厚みであった。これを実施例3と同様の評価を実施し、プッシュロッド及びプッシュロッド受け面の摩耗及び、カムノーズの摩耗を評価した結果を表6に示す。
【表6】

以上より摺動面の気孔の面積率が0.5%を越えるとカムノーズに若干の摩耗が生じるが0.5%以下の場合はカムノーズの摩耗がないことが明らかとなった。
実施例6
セラミックスとしてY2O3-Al2O3を主成分とする焼結助剤を用いた、直径25mmの表7の強度・厚さのSi3N4を焼結体を作製した。接合面を#800のダイヤモンド砥石で研削し、摺動面は鏡面加工し十点平均最大高さ粗さで0.2μm以下とした。図17に示すようにこのセラミックス1とSKC31鋼材で作製した、同径のタペット本体10とを、表7に示す中間層12を介在させて、Ag-Cu-Tiろう材11を用いて高真空中、820℃で接合し接合体を得た。冷却速度は200℃までは50℃/分、それ以降は10℃/分とした。得られた試料は蛍光探傷試験によるクラックの有無の確認とクラウニング量の確認の他、接合体の摺動部に鋼製のハンマー(先端形状:R=2.5mm、長さ17mm)を落下させ、その時に生じる衝撃荷重をハンマーに取り付けたロードセルによって測定する、前記実施例2(図12)と同様のいわゆる計装化シャルピー試験装置による衝撃試験を行った。鋼材部分の平均硬度はHRC=48であった。同表の最終列に示した本発明のタペットは実施例1と同様のエンジン試験の結果、クラウニング部に対する相手カムノーズ部の摩耗量は5μm以下と小さく高い耐久性を示した。
【表7】

実施例7
ろう材としてAg-Tiを用い、980℃でろう付けした他は実施例6と同様の試験を行ったところ表8の結果が得られた。鋼材部分の平均硬度はHRC=50であった。なお摺動面部材の表面粗さは十点平均高さ粗さで0.2μmであった。同表の最終列に示した本発明のタペットは実施例1と同様のエンジン試験の結果、クラウニングに対する相手カムノーズ部の摩耗量は5μm以下と小さく高い耐久性を示した。
【表8】

実施例8
図16に示すように、このSi3N41の表面をTi-Cu-Agの順にイオンプレーティングでメタライズを行った直径20mm、厚さ1.0mmの強度1350MPaのSi3N4焼結体と同径で厚さが1mmの中間層となる超硬合金板及び同径で厚さ10mmのクロム・モリブデン鋼の間に固相点が780℃の銀ろうを介在させカーボンモールド中にセットした。
Si3N4板は図21に示す中央部が10μm低く、周辺3mm部分が平坦なカーボン型と接するようにセットした。これらの試料を荷重をかけない状態で真空中、810℃に加熱して3分周保持した後、400MPaの圧力を印加して1分間保持し、円柱状接合体を得た。接合体にはクラック等の欠陥は見られず、クラウニング量は55μm、周辺部(同図A部=周辺から3mmの範囲)の中央部(同図B部=中央部直径8mmの部分)に対する曲率比は0.75であった。
同様の接合を全面が平坦なカーボン型を用いて行ったところ、クラウニング量は48μm、曲率比は0.9であり、型形状を変化させた効果が見られた。
実施例9
図22に本発明に基づく摺動部品の例として作製したタペットを示す。本タペットは図23に示す実際の使用状態からもわかるように摺動面1の摺動条件が特に厳しく、本発明に基づきSi3N4製摺動部材Aを摺動面1を形成するためにロウ付け、または超硬合金を拡散接合(1050℃)により接合している。なお、図23中3はカム、4はプッシュロッド部品を示す。Si3N4製摺動面部材Aは以下に示すように作製した。
市販のSi3N4粉末に焼結助剤として5重量%のY2O3、2重量%のAI2O3を加え、エタノール中でボールミルによる混合を48時間行った。乾燥後、得られた混合粉末をプレス、CIPを行った後、2気圧の窒素ガス雰囲気中において1700℃、4時間の条件で焼結し、その後1000気圧の窒素ガス雰囲気中において1700℃、4時間の条件で焼結し、その後1000気圧の窒素ガス雰囲気中で1650℃、1時間のHIP処理を行った。
得られた焼結体より直径30mm、厚さ1mmの素材を切り出し、摺動面となる平面部を平面度10μm、表面粗さ0.3μm以下(十点平均高さ粗さ)に加工した。得られた焼結体の機械的特性を表9に示す。
【表9】

タペット本体10はニッケルクロムモリブデン鋼SNCM616(JIS G4103)を用い、ガス浸炭処理を920℃、120分の条件で行い、その後ロウ付け面および外周部に研磨加工を施した。
摺動部材Aとタペット本体10を厚み50μmのAg-Cu-Ti系ロウ材を介して真空中で900℃、30分保持の条件でロウ付けを行った。
ロウ付けされたタペットを種々の温度に加熱し、空冷により焼き入れ処理を施した。すべての加熱温度において焼き入れ処理後、窒化珪素製摺動部材Aには割れば生じていなかった。タペットのクラウニング比率はほぼ0.2%であった。
比較例として浸炭処理を施さないもの、またタペット全体をチル鋳鉄にした物を作製した。以上作製した種々のタペットを市販の商用車用OHV方式のディーゼルエンジンに組み込み、劣化オイルを用いて機関回転数1000rpmにて200時間耐久試験を行い、金属母材の摺動面19の摩耗量を測定した。
結果を表10に示す。ただし摩耗の判定は摩耗量が10μm未満の場合は「摩耗無」、10μm以上の場合は「摩耗有」とした。又、ロックウェル硬度のCスケールで評価したタペット本体(金属母材)10の硬度も同時に示す。
【表10】

実施例10
実施例9で得られた窒化珪素と市販の種々のセラミックスを実施例9と同様の形状に加工した後、クロム鋼SCr420(JIS G4104)製タペット本体10にロウ付けし、接合体に焼き入れ処理を施した。タペット本体10の硬度はHRCで49であった。
タペット本体に施した浸炭処理および研磨加工、またロウ付け処理は実施例9と同様であり、焼き入れ処理は850℃で油冷により行った。クラウニング比率は0.20%であった。作製したタペットにおける実施例9と同様の耐久試験を実施した後の種々のセラミックス製摺動部材Aの状態を焼き入れ後の状態と共に表11に示す。
【表11】

なお、No.9〜11の市販セラミックの中ではSi3N4が最も好ましい状況を示すが、本実施例の場合中間層による熱応力の緩衝効果がなく、又、接合、焼き入れ時の温度が高いため接合部の界面セラミックス部に微小な割れが生じた。
なおこのようなセラミックでも中間層を設けて試行したところ、同じクラウニング量でもセラミックスに割れば生じず、耐久試験でも異常は生じなかった。
産業上の利用分野
以上説明したように、本発明によれば、自動車エンジンの動弁系部品、カムフォローやロッカーアーム、軸受等の耐摩耗性を要求される摺動部材、特に金属母材とセラミック摺動部材とを接合した耐久性の高い摺動部材を提供することができる。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.特許請求の範囲の減縮を目的として、
(あ)請求項1の「有する摺動部品。」を「有し、前記窒化ケイ素系セラミックス材料のJIS準拠の4点曲げ強度が100kg/mm2以上である摺動部品。」と訂正する。
(い)請求項21の「窒化ケイ素系セラミックス材料」を「JIS準拠の4点曲げ強度が100kg/mm2以上の窒化ケイ素系セラミックス材料」と訂正する。
2.明りょうでない記載の釈明を目的として、
(う)発明の名称を「セラミック摺動部品及びその製造方法」と訂正する。
(え)請求項2を「窒化ケイ素セラミックス材料が、シャルピー衝撃値が15kJ/m2以上、熱衝撃温度差が800℃以上、かっ摺動面に開口している気孔の面積率が摺動面面積に対し、0.5%以下であることを特徴とする請求項1記載の摺動部品。」と訂正する。
(お)明細書第6頁第1行〜第5行の「この種のセラミックとしては・・・好ましい。」を削除する。
(か)明細書第8頁第2行〜第6行の「従って、この曲率比を小さくすることによって・・・使用できる。」を削除する。
(き)明細書第8頁第29行〜第9頁第3行の「つまり耐熱衝撃性を示す・・・選択する必要がある。」を削除する。
(く)明細書第20頁第27行の「実施例6で用いた」を削除する。
(け)明細書の発明を実施するための最良の形態の実施例6〜実施例18において、もとの実施例6,7,8,11,12,13,14,18を削除し、以下、各実施例をを繰り上げて「実施例6,7,8,9,10」と訂正する。
(こ)明細書の発明を実施するための最良の形態の表7〜表16において、もとの表7,8,11,12,13を削除し、以下、各表を繰り上げ「表7,8,9,10,11」と訂正する。
(さ)明細書第24頁の表3において、試料No.2および8を比較例とし、その試料No.の前に「*」を挿入する。
(し)明細書第27頁の表5において、試料No.6を比較例とし、その試料No.の前に「*」を挿入する。
(す)明細書第28頁の表6において、試料No.5を比較例とし、その試料No.の前に「*」を挿入する。
(せ)明細書第31頁第1行〜第2行の「実施例8に示す蛍光探傷、クラウニング量確認試験」を削除し、代わりに「得られた試料は蛍光探傷試験によるクラックの有無の確認とクラウニング量の確認」を挿入する。
(そ)明細書第41頁第9行の「実施例7と同様の」を削除し、代わりに「図16に示すように、このSi3N4lの表面をTi-Cu-Agの順にイオンプレーティングで」を挿入する。
(た)明細書第32頁の表9において、試料No.8を削除する。
(ち)明細書第34頁の表10において、試料No.8を削除する。
(つ)明細書第34頁の表10において、試料No.10を削除する。
(て)明細書第43頁の表15において、試料No.2を削除する。
3.誤記の訂正を目的として、
(と)請求項10の「熱膨脹係数」を「熱膨張係数」と訂正する。
(な)請求項10の「熱膨脹に」を「熱膨張に」と訂正する。
(に)請求項14の「熱膨脹係数」を「熱膨張係数」と訂正する。
(ぬ)請求項21の「熱膨脹率」を「熱膨張率」と訂正する。
(ね)明細書第1頁第21行の「特開平2-55809」を「特開平2-55809号公報」と訂正する。
(の)明細書第1頁第26行の「特開昭63-289306号」を「特開昭63-289306号公報」と訂正する。
(は)明細書第3頁第8行の「特開平2-55809」を「特開平2-55809号公報」と訂正する。
(ひ)明細書第3頁第8行の「持開平2-199073」を「特開平2-199073号公報」と訂正する。
(ふ)明細書第3頁第8行〜第9行の「特開平4-2672」を「特開平4-2672号公報」と訂正する。
(へ)明細書第3頁第9行の「特開平5-18213」を「特開平5-18213号公報」と訂正する。
(ほ)明細書第3頁第9行の「特公平5-72354」を「持公平5-72354号公報」と訂正する。
(ま)明細書第12頁第26行の「窒素ケイ素」を「窒化ケイ素]と訂正する。
(み)明細書第18頁第25行の「45位上」を「45以上」と訂正する。
(む)明細書第27頁第22行の「0.01」を「0.05」と訂正する。
異議決定日 2001-01-25 
出願番号 特願平8-510072
審決分類 P 1 652・ 121- YA (F01L)
P 1 652・ 113- YA (F01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 飯塚 直樹  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 関谷 一夫
西川 恵雄
登録日 1999-05-14 
登録番号 特許第2926992号(P2926992)
権利者 住友電気工業株式会社
発明の名称 セラミック摺動部品及びその製造方法  
代理人 中野 稔  
代理人 上代 哲司  
代理人 中野 稔  
代理人 上代 哲司  
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