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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03B
管理番号 1044931
異議申立番号 異議2000-70536  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-04-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-02-09 
確定日 2001-05-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2931726号「板ガラス成形体及びその製造法」の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2931726号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 1.本件の経緯
本件特許第2931726号は、平成4年8月26日付北日本新聞(第6面)および平成4年9月13日付ガラス・建装新聞における発表について特許法第30条第1項の適用を申請して平成4年9月18日に出願し、平成11年5月21日に設定登録され、平成11年8月9日に特許公報に掲載されたところ、平成12年2月9日にセントラル硝子株式会社から特許異議の申立を受けたものであって、その後平成12年10月23日付で取消理由通知(平成12年11月7日発送)がなされ、その指定期間内である平成13年1月9日に訂正請求がなされたものである。
2.設定登録時の本件発明
設定登録時の本件発明は、本件特許公報に掲載されたとおりの次のものである。
[請求項1]少なくとも一の直線的曲げ部分を有する、複数の平面部により構成される一枚の板ガラス成形体を作る方法において、板ガラス上の曲げるべき箇所に導電性材料を用いて折り曲げ線を描き、該折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ3cm以上の範囲の板ガラス部分を、該板ガラスの軟化点より200〜500℃低い温度とし、該折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ3cm未満の範囲の板ガラス部分を、上記3cm以上の範囲の板ガラス部分より高い温度かつ軟化点より低い温度とし、かつ該折り曲げ線部のガラスを該板ガラスの軟化点以上の温度に電気的に加熱した後、該折り曲げ線に沿って該板ガラスを曲げることを特徴とする板ガラス成形体の製造法。
[請求項2]上記折り曲げ線と向かい合う周縁部分から該折り曲げ線方向に5cm以内の板ガラス部分を、板ガラスの軟化点より400〜500℃低い温度とし、該折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ3cm以上、かつ該折り曲げ線と向かい合う周縁部分から該折り曲げ線方向に5cmを超える範囲の板ガラス部分を、上記周縁部分の温度以上とすることを特徴とする請求項1記載の方法。
[請求項3]板ガラス全体を輻射加熱及び/又は伝熱加熱し、かつ折り曲げ線近傍の板ガラス部分を輻射加熱することを特徴とする請求項1又は2のいずれか一つに記載の方法。
[請求項4]板ガラス全体を輻射加熱及び/又は伝熱加熱し、次に折り曲げ線近傍の板ガラス部分を輻射加熱した後、該折り曲げ線部分のガラスを電気的に加熱することを特徴とする請求項1又は2のいずれか一つに記載の方法。
[請求項5]板ガラス全体を輻射加熱及び/又は伝熱加熱するための装置に板ガラス保持機構を設けて、該保持機構により板ガラスを曲げることを特徴とする請求項3又は4のいずれか一つに記載の方法。
[請求項6]導電性材料で描かれた上記折り曲げ線の幅が平面部における板ガラスの厚さの0.3〜3倍であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
[請求項7]少なくとも一の直線的曲げ部分を有する、複数の平面部により構成される一枚の板ガラス成形体において、上記曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径が平面部における板ガラスの厚さの1〜4倍であり、かつ平面部の板ガラス面が実質的に平坦であることを特徴とする板ガラス成形体。
[請求項8]上記曲率半径が平面部における板ガラスの厚さの1〜3倍であることを特徴とする請求項7記載の板ガラス成形体。
[請求項9]僅かに変形して平坦性を失っている遷移領域が曲げ部分と平面部との間に存在し、該遷移領域の幅が板ガラスの厚さの2倍以下であることを特徴とする請求項7又は8のいずれか一に記載の板ガラス成形体。
[請求項10]上記遷移領域の幅が板ガラスの厚さの1倍以下であることを特徴とする請求項9記載の板ガラス成形体。
[請求項11]隣り合う二の平面間の内角が60〜160度であることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一に記載の板ガラス成形体。
3.特許異議申立人の主張
特許異議申立人セントラル硝子株式会社は、甲第1〜3号証を提出して次のような主旨の主張をしている。
「本件請求項1〜11に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。」
4.訂正の要旨
平成13年1月9日付の訂正請求における訂正の要旨は、次のとおりである。
(1)特許請求の範囲の請求項7を削除する。また、それに伴い、訂正前の請求項8〜11を請求項7〜10に順次繰り上げ、以下のように訂正する。
[請求項7]少なくとも一つの直線的曲げ部分を有する、複数の平面部により構成される一枚の板ガラス成形体において、上記曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径が平面部における板ガラスの厚さの1〜3倍であり、かつ平面部の板ガラス面が実質的に平坦であることを特徴とする板ガラス成形体。
[請求項8]僅かに変形して平坦性を失っている遷移領域が曲げ部分と平面部との間に存在し、該遷移領域の幅が板ガラスの厚さの2倍以下であることを特徴とする請求項7記載の板ガラス成形体。
[請求項9]上記遷移領域の幅が板ガラスの厚さの1倍以下であることを特徴とする請求項8記載の板ガラス成形体。
[請求項10]隣り合う二の平面間の内角が60〜160度であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一に記載の板ガラス成形体。
(2)本件明細書の[0005]段落の「板ガラスの厚さの1〜4倍であり」を、「板ガラスの厚さの1〜3倍であり」と訂正する。
(3-1)本件明細書の[0026]段落の「板ガラスの厚さの1〜4倍であり、好ましくは1〜3倍である」を、「板ガラスの厚さの1〜3倍である」と訂正する。
(3-2)本件明細書の[0026]段落の「板ガラスの厚さの4倍を越える場合は」を、「板ガラスの厚さの3倍を越える場合は」と訂正する。
5.訂正の適否についての検討
5-1.訂正の目的
上記(1)の訂正は、特許請求の範囲の請求項7を削除し、また、それに伴い、それ以降の請求項の項番号を順次繰り上げて通し番号とし、さらに、訂正前の請求項8(訂正後の請求項7)の内容を独立形式に書き直し、また、訂正前の請求項9〜11(訂正後の請求項8〜10)において、引用している請求項の項番号を限定し直したものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
上記(2)、(3-1)および(3-2)の訂正は、上記(1)の訂正に伴い、それに合わせて、発明の詳細な説明中の特許請求の範囲に対応する記述を直したものであるから、特許請求の範囲の減縮に伴って生じた明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
5-2.新規事項
上記(1)、(2)、(3-1)および(3-2)の訂正は、設定登録時の本件明細書の[0026]段落の「・・・上記曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径が平面部における板ガラスの厚さの1〜4倍であり、好ましくは1〜3倍である。」という記載等に基づくものであるから、願書に添付した明細書または図面に記載した事項の範囲内のものである。
5-3.拡張・変更
上記(1)、(2)、(3-1)および(3-2)の訂正は、その内容からみて、実質上特許請求の範囲を拡張したり、変更したりするものでないことは明らかである。
5-4.訂正の認否
上記5-1、5-2および5-3の項で検討したように、上記訂正は、特許法第120条の4の第2項の第1号および第3号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同条第3項で準用する同法第126条の第2項および第3項の規定に適合するものであるから、上記訂正は認める。
6.訂正後の本件発明
訂正後の本件発明は、上記訂正請求書に添付された全文訂正明細書に記載されたとおりのものであって、訂正後の請求項1〜6は、設定登録時の請求項1〜6と同じで、訂正後の請求項7〜10は、訂正の要旨の(1)に記載したところである。
7.特許異議申立人の主張についての検討
甲第1号証(特公昭61-24338号公報)には、「シートを加熱して少なくとも一つの接触曲げ部材に対して所望の曲げ位置で該シートを接触させてこれを曲げるようにしたガラス質材料のシートを曲げる方法において、該シートが該曲げ部材に接触している間に該シートの曲げが開始されるが、シートの曲げの途中で支持力が前記縁部分に加えられ、該支持力によってシートが曲げの進行につれて前記曲げ部材から分離されるようにしたことを特徴とする方法。」(特許請求の範囲の第1項)等が記載されているものの、甲第1号証に記載されたガラス質材料のシートを曲げる方法においては、ガラス質材料のシートの曲げ位置での加熱は、加熱管3(Fig.1〜3参照)や加熱素子26(Fig.9〜11参照)や加熱素子51,52(Fig.19〜21参照)や加熱素子67(Fig23参照)により行われるものであって、それらの加熱装置は、ガラスシートから離れていることからして、輻射による加熱装置であることは明らかであり、また、このことは、甲第1号証の第20欄10〜19行に、「本実施例では、加熱素子26は透明の石英管内に真空下に配置されたタングステンフィラメントの抵抗コイルであった。これらの石英管は直径12mm、直効長さ700mmであった。各加熱素子は1500W250Vの定格であった。この条件下でフィラメントの色温度は2150°Kで、放出スペクトルのピークは波長1.35μに集中した。これらの管状加熱素子の六本は15mm間隔で平行に配置されて中心が最大表面エネルギ束14W/cm2を持つ輻射パネルを形成した。」と記載されていることからみても明らかであるから、甲第1号証には、訂正後の本件請求項1に係る発明でいうところの「板ガラス上の曲げるべき箇所に導電性材料を用いて折り曲げ線を描き、・・・該折り曲げ線部のガラスを該板ガラスの軟化点以上の温度に電気的に加熱した後、該折り曲げ線に沿って該板ガラスを曲げる」という事項は記載されていないし、また、甲第1号証には、訂正後の本件請求項1に係る発明でいうところの「該折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ3cm以上の範囲の板ガラス部分を、該板ガラスの軟化点より200〜500℃低い温度とし、該折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ3cm未満の範囲の板ガラス部分を、上記3cm以上の範囲の板ガラス部分より高い温度かつ軟化点より低い温度とし」という事項についても記載するところがない。
そして、特許異議申立人は、甲第1号証の実施例4(第11頁左欄)のガラスシートの厚さ8mm、得られた曲率半径18mmの記載を指摘して、甲第1号証では、板ガラスの厚み8mmに対し曲率半径18mmの曲げ(平面部における板ガラスの厚さの2.25倍)が得られていると主張(特許異議申立書第18頁7〜9行)しているが、甲第1号証のFig.13およびFig.15や、その第19欄24〜27行の「このシートをその長さの真中で曲げ、90°の二面角で50mmの折り曲げの内側に合わせた曲率半径をつくり出すつもりであった。」の記載等からみて、本件の特許権者が、平成13年1月9日付意見書の第3頁9〜12行で主張しているように、引用例(甲第1号証)の実施例4でいうガラスシートの厚さ8mm、得られた曲率半径18mmの例における曲面の外周の曲率半径は、折り曲げの内側に合わせた曲率半径(18mm)にさらにガラスシ-トの厚さ分(8mm)を加えた26mmとなり、その曲面の外周の曲率半径は板ガラスの厚さの3.25倍(26mm/8mm)となるから、訂正後の本件請求項7に係る発明でいうところの「曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径が平面部における板ガラスの厚さの1〜3倍」という規定を満たすものではなく、甲第1号証には、その規定を満たす例は示されていない。
甲第3号証(特開昭58-130125号公報)には、「所望の屈曲線に沿って折り曲げて所望の形状が得られる様に切欠き部をガラス板のコーナー部に持つ形状にガラス板を切断し、この切断されたガラス板を加熱するとともに、上記ガラス板の屈曲線部分を局部的にガラス板の軟化点温度以上に加熱して屈曲線に沿って鋭く折り曲げて、上記切欠きの対向するガラス板の端部同士をつき合せ、次いで上記つき合わされたガラス板の端部を局部的にガラス板の軟化点温度以上に加熱してつき合されたガラス板の端部同士を溶着して接合し、所定の最終形状にガラス板を成形することを特徴とするガラス板の成形方法。」(特許請求の範囲第1項)等が記載されており、また、その第3頁右上欄14〜19行には、「本発明において、ガラス板を鋭く折り曲げる方法としては次の様な方法が例示される。その1つの方法として、ガラス板の折り曲げようとする屈曲線に沿って導電性フリットペーストをプリントして、このプリント線を通電加熱する方法である。」、さらに、その第4頁右上欄12行から同頁左下欄3行には、「又、ガラス板を鋭く折り曲げるもう一つの方法として、ガラス板の鋭く折り曲げようとする屈曲線上にガラス板の屈曲線に電流をトリガーさせるための電導性線条トリガーを形成し、この電導性トリガーに電流を流して電導性線条トリガーを発熱させ、この熱と更に電導性線条トリガーを燃焼させて生じる熱によりガラス板の屈曲線部分を電導性にして電流がガラス板内部を流れる様にし、それによってガラス板の屈曲線部分をジュール加熱によりガラス板の軟化点以上の温度まで加熱し、上記屈曲線に沿って鋭く折り曲げる方法が挙げられる。」と記載されており、甲第3号証には、訂正後の本件請求項1に係る発明でいうところの「板ガラス上の曲げるべき箇所に導電性材料を用いて折り曲げ線を描き、・・・該折り曲げ線部のガラスを該板ガラスの軟化点以上の温度に電気的に加熱した後、該折り曲げ線に沿って該板ガラスを曲げる」という事項は記載されていると認められるものの、甲第3号証には、訂正後の本件請求項1に係る発明でいうところの「該折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ3cm以上の範囲の板ガラス部分を、該板ガラスの軟化点200〜500℃低い温度とし、該折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ3cm未満の範囲の板ガラス部分を、上記3cm以上の範囲の板ガラス部分より高い温度かつ軟化点より低い温度とし」という事項について記載するところはないし、また、訂正後の請求項7に係る発明でいうところの「曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径が平面部における板ガラスの厚さの1〜3倍」という規定を満たす例も示されていない。
甲第2号証(特開昭54-60314号公報)には、「曲げ型枠上に板硝子を載置し、その屈曲部分を板硝子の曲げ部分に合致させ、該板硝子全面を軟化開始温度よりも低いか歪点温度以上の温度に均一に加熱し、ついで該板硝子の曲げ部分に沿い近接して設けた熱源により該曲げ部分を局部的に軟化点温度近傍に加熱するとともに、前記曲げ部分以外の板硝子全体の温度を前記曲げ部分よりも低く、軟化開始温度近傍でかつその温度以上まで加熱した後板硝子を曲げるとともに、板硝子全体を前記曲げ型枠に沿って前記曲げ部分よりもゆるやかに彎曲成形することを特徴とする板硝子の曲げ方法。」(特許請求の範囲)が記載されているものの、その第2頁上右欄2〜4行に、「板硝子1を横切る曲げ部分の線1’に近接してその部分を局部的に加熱する ガスバーナ6を設ける。」と記載されているように、線1’の曲げ部分はガスバーナ6で加熱されるのであるから、甲第2号証には、本件請求項1に係る発明でいうところの「板ガラス上の曲げるべき箇所に導電性材料を用いて折り曲げ線を描き、・・・折り曲げ線部のガラスを該板ガラスの軟化点以上の温度に電気的に加熱した後、該折り曲げ線に沿って該板ガラスを曲げる」という事項は記載されていないし、また、そもそも、甲第2号証に記載された方法は、板硝子全体を前記曲げ型枠に沿って前記曲げ部分よりもゆるやかに彎曲成形するのであって、平面部を残さないものであるから、本件請求項1に係る発明でいうところの「少なくとも一つの直線的曲げ部分を有する、複数の平面部により構成される一枚の板ガラス成形体を作る方法」に当たらず、甲第2号証に記載された発明は本件各発明と関係がない。
そして、本件請求項1に係る発明は、「板ガラス上の曲げるべき箇所に導電性材料を用いて折り曲げ線を描き、該折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ3cm以上の範囲の板ガラス部分を、該板ガラスの軟化点200〜500℃低い温度とし、該折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ3cm未満の範囲の板ガラス部分を、上記3cm以上の範囲の板ガラス部分より高い温度かつ軟化点より低い温度とし、かつ折り曲げ線部のガラスを該板ガラスの軟化点以上の温度に電気的に加熱した後、該折り曲げ線に沿って該板ガラスを曲げる」という事項を構成要件とすることによって、「曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径が著しく小さく、かつ平面部の光学的透視歪み及び反射歪みが極めて小さい、曲げ部分を有する板ガラスの成形体が得られる」という本件明細書の[発明の効果]の欄等でいう格別の効果を奏するものであるし、また、訂正後の本件請求項7に係る発明は、「少なくとも一つの直線的曲げ部分を有する、複数の平面部により構成される一枚の板ガラス成形体において、上記曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径が平面部における板ガラスの厚さの1〜3倍であり、かつ平面部の板ガラス面が実質的に平坦である」という事項を構成要件とすることによって、今まで得られなかったところの「曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径が著しく小さく、かつ平面部の光学的透視歪み及び反射歪みが極めて小さい、曲げ部分を有する板ガラスの成形体」を実際に提供したという点で格別の効果を奏するものである。
してみると、甲第1〜3号証の記載を総合したところで、訂正後の本件請求項1および7に係る発明は、それらに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められないし、また、請求項1を引用している訂正後の本件請求項2〜6に係る発明および請求項7を引用している訂正後の本件請求項8〜10に係る発明も、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

8.むすび
訂正後の本件請求項1〜10に係る特許は、特許異議の申立の理由および証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
板ガラス成形体及びその製造法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも一の直線的曲げ部分を有する、複数の平面部により構成される一枚の板ガラス成形体を作る方法において、板ガラス上の曲げるべき箇所に導電性材料を用いて折り曲げ線を描き、該折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ3cm以上の範囲の板ガラス部分を、該板ガラスの軟化点より200〜500℃低い温度とし、該折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ3cm未満の範囲の板ガラス部分を、上記3cm以上の範囲の板ガラス部分より高い温度かつ軟化点より低い温度とし、かつ該折り曲げ線部のガラスを該板ガラスの軟化点以上の温度に電気的に加熱した後、該折り曲げ線に沿って該板ガラスを曲げることを特徴とする板ガラス成形体の製造法。
【請求項2】 上記折り曲げ線と向かい合う周縁部分から該折り曲げ線方向に5cm以内の板ガラス部分を、板ガラスの軟化点より400〜500℃低い温度とし、該折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ3cm以上、かつ該折り曲げ線と向かい合う周縁部分から該折り曲げ線方向に5cmを超える範囲の板ガラス部分を、上記周縁部分の温度以上とすることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】 板ガラス全体を輻射加熱及び/又は伝熱加熱し、かつ折り曲げ線近傍の板ガラス部分を輻射加熱することを特徴とする請求項1又は2のいずれか一つに記載の方法。
【請求項4】 板ガラス全体を輻射加熱及び/又は伝熱加熱し、次に折り曲げ線近傍の板ガラス部分を輻射加熱した後、該折り曲げ線部分のガラスを電気的に加熱することを特徴とする請求項1又は2のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】 板ガラス全体を輻射加熱及び/又は伝熱加熱するための装置に板ガラス保持機構を設けて、該保持機構により板ガラスを曲げることを特徴とする請求項3又は4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】 導電性材料で描かれた上記折り曲げ線の幅が平面部における板ガラスの厚さの0.3〜3倍であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】 少なくとも一の直線的曲げ部分を有する、複数の平面部により構成される一枚の板ガラス成形体において、上記曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径が平面部における板ガラスの厚さの1〜3倍であり、かつ平面部の板ガラス面が実質的に平坦であることを特徴とする板ガラス成形体。
【請求項8】 僅かに変形して平坦性を失っている遷移領域が曲げ部分と平面部との間に存在し、該遷移領域の幅が板ガラスの厚さの2倍以下であることを特徴とする請求項7記載の板ガラス成形体。
【請求項9】 上記遷移領域の幅が板ガラスの厚さの1倍以下であることを特徴とする請求項8記載の板ガラス成形体。
【請求項10】 隣り合う二の平面間の内角が60〜160度であることを特徴とする請求項7〜9のいづれか一に記載の板ガラス成形体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、建築用及び一般産業用としての板ガラス成形体及びその製造法に関し、より詳しくは曲げ部分に継目のない複数の平面により構成される一枚の板ガラス成形体及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、板ガラスは、建築外装用及び内装用又は一般産業用として、例えば窓、ショーウインドウ、壁面材、ドア、パーティション、ディスプレイケース、水槽、家具等の多種の用途において数多く使用されている。従来、窓、ショーウインドウ、ディスプレイケース等のコーナー部分は、二枚の板ガラスを金属、木材、プラスチック等のフレームを用いて所定の角度に結合し、それぞれの板ガラスとフレームの接合部をシリコーンゴム等のコーキング材及びシーリング材によりを接着していた。しかし、該方法では、フレームの存在によりコーナー部分の外観及び透視性が悪く、またコーナー部分にステンレス製のフレーム等を使用した場合にはコストが上昇し経済的にも好ましくないという欠点があった。一方、上記フレームを用いず二枚の板ガラスを突き合わせて、該突き合わせ部分をシリコーンゴム等のコーキング材及びシーリング材で接合する方法がある。しかし、該方法ではコーナー部分の外観及び透視性は改善されず、接合した突き合わせ部分は強度的に弱い。またコーキング材及びシーリング材の耐候性等に限界があるために、一般的に接合部の寿命が比較的短いという欠点もあった。上記欠点を除去する方法として、一枚の板ガラスに熱加工を施して所定の角度を有する曲げ部分を作ることが知られている。例えば、所定の角度を有する曲げ部分を持つ型枠の上部に通常のフロート板ガラスを水平に載せ、該板ガラス全体を500〜580℃程度に加熱し、更に曲げ部分については局部的に700〜750℃程度に加熱して、重力又は他の外力により型枠上に成形して所定の曲げ部分を作ることが行われている。しかし、該方法では、その曲げ部分は比較的大きな曲率半径を有し(例えば、板ガラスの厚さが4mmの場合、曲率半径は最小で35〜40mm程度である)、窓、水槽、ショーウインドウ、ディスプレイケース等の用途に使用した場合には物体が大きく歪んで見えることから好ましくない。また、板ガラスの曲げ部分付近を相当の範囲にわたってなまし温度以上の高温にさらすため、成形後の板ガラスの曲げ部分付近に相当の範囲にわたって歪みが生じ、平面部分の歪みが大きいという欠点を有していた。図5に上記方法により成形した曲げ部分を有する板ガラスの曲げ方向の断面の一例を示す。曲げ部分B1における曲率半径は板ガラスの厚さの約10倍程度であり、AB1及びAB2部分は平面部分A1、A2と曲げ部分B1の中間的部分として厚さdの数倍の長さにわたって生じる歪みのある光学特性の悪い部分であり、また、平面であるA1及びA2部分も高温にさらされた結果、熱加工前の平面性を維持することができず、光学的透視歪み及び反射歪みがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、曲げ部分に継目のない複数の平面により構成される一枚の板ガラス成形体において、曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径が著しく小さく、かつ各ガラス平面の光学的透視歪みが極めて小さい板ガラス成形体及び該板ガラス成形体の製造法を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記した従来の板ガラスの曲げ加工方法による欠点を除去すべく、鋭意研究を重ねた結果、板ガラス上に描いた折り曲げ線部分のみを高温加熱し、他の部分は適切な温度に保って曲げ加工を行う板ガラス成形体の製造法を完成した。また、板ガラスの曲げ部分が非常にシャープで、かつ平面部分に歪みがない板ガラス成形体を完成した。
【0005】
即ち、本発明は、少なくとも一の直線的曲げ部分を有する、複数の平面部により構成される一枚の板ガラス成形体を作る方法において、板ガラス上の曲げるべき箇所に導電性材料を用いて折り曲げ線を描き、該折り曲げ線部のガラスを該板ガラスの軟化点以上の温度に電気的に加熱した後、該折り曲げ線に沿って該板ガラスを曲げることを特徴とする板ガラス成形体の製造法である。また、本発明は、少なくとも一の直線的曲げ部分を有する、複数の平面部により構成される一枚の板ガラス成形体において、上記曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径が平面部における板ガラスの厚さの1〜3倍であり、かつ平面部の板ガラス面が実質的に平坦であることを特徴とする板ガラス成形体である。
【0006】
本発明の方法によれば、板ガラス上に描かれた折り曲げ線部のガラスを電気的に加熱するという方法を採用するため、板ガラスを極めて局部的に所定の温度に加熱することができる。従って該加熱箇所以外の平面部分は不必要な高温加熱を受けることがなく、熱変形が完全に防止されて、曲げ加工後もその平面性が維持される。好ましくは上記折り曲げ線部分以外も輻射加熱及び/又は伝熱加熱によりガラス軟化点以下の所定の温度に加熱することにより、加熱中に生ずる板ガラス中の二次元内部応力を低下して、曲げ加工時の板ガラスの破損を防止することができる。また、折り曲げ線に沿って軟化点近傍に加熱される領域の幅が狭いので、その曲げ部分を非常にシャープにすることができる。
【0007】
即ち、本発明の方法により製造された板ガラス成形体は、その曲げ部分は非常にシャープであり,かつ相隣り合う二平面の平面性は曲げ部分の近傍まで極めて良好である。これは、従来品からは想像することもできない驚くべき優れた特質である。
【0008】
まず、本発明の板ガラス成形体の製造法において、折り曲げ線を描くために使用する導電性材料としては、公知のいずれのものも用いることができる。該導電性材料としては、好ましくはカーボン系又は銀、パラジウム、白金等の金属系若しくは酸化すず等の酸化物系等の導電性塗料あるいは金属又は合金例えば鉄‐ニッケル‐クロム系合金、銅‐すず合金、アルミニウム合金等が挙げられる。カーボン系の導電性塗料としては日本黒鉛商事(株)製バニーハイト(F-525W-1)等が、また銀系の導電性塗料としては北陸塗料(株)製H9100又は藤倉化成(株)製D-1230(改)等が挙げられる。これらのうちから、板ガラスの大きさ、厚さ、曲げ角度、曲げ速度、使用電圧等に応じて、適宜選択することができる。
【0009】
ペースト状の導電性塗料は、スクリーン印刷法、凸版印刷法、吹き付けあるいは転写を用いて板ガラスの表面上に線状に描かれる。金属又は合金は、金属溶射法、CVD、あるいはパイロリティク法により施与されうる。金属溶射法においては、折り曲げ線に対応するスリットを有するマスクをガラス板上に置き、導電性材料として上記金属を使用して、該金属を電気アーク又は火炎により溶融し、圧搾空気でノズルより吹き出させ、板ガラス表面に溶射して折り曲げ線を描く。上記したいずれの方法においても、描かれた折り曲げ線は板ガラスの表面上に密着して、かつ予め定められた箇所に正確にプリントすることができる。スクリーン印刷法及び金属溶射法が、正確性及び簡便性の故に好ましい。該折り曲げ線の数は、製品として要求される板ガラス成形体の曲げ部分の数と同じであり、一枚の板ガラス上に少なくとも一本が描かれる。該折り曲げ線を複数描く場合には、所望する製品の形状によって互いに平行に、又は非平行に描かれる。製品の形状の例を図4に示す。
【0010】
該折り曲げ線の幅は、上記した要素(即ち、板ガラスの大きさ、厚さ、曲げ角度、曲げ速度、使用電圧等)により異なるが、好ましくは平面部における板ガラスの厚さの0.3〜3倍であり、特に好ましくは0.5〜1.5倍である。該折り曲げ線の幅が平面部における板ガラスの厚さの3倍を越えると、軟化点近傍に加熱される板ガラスの範囲が広すぎ、曲げ部分がシャープにならない。該幅が0.3倍未満では、十分な加熱が行えず、かつ曲げ部分の肉厚が減少するので好ましくない。該折り曲げ線の厚みは、導電性材料の種類、折り曲げ線を描くために使用する方法によって異なるが、所定温度まで所定時間で安定にガラスを加熱することができればよく、好ましくは0.1〜数100μmであり、例えばスクリーン印刷法では10〜100μm、溶射法では30〜300μmが好ましい。
【0011】
該折り曲げ線は、板ガラスの片面上、両面上、片面及び両端面上、あるいは両面と両端面上を結ぶループ状のいずれに描いてもよい。一般的には、板ガラスが薄い場合には、該板ガラスを曲げる際に外側となる面上のみに折り曲げ線が描かれる。板ガラスが厚い場合には、両面上に折り曲げ線を描くことが好ましい。後述する誘電加熱を行う場合には、ループ状に連続して折り曲げ線を描くことが必要である。
【0012】
本発明で使用する板ガラスは、建築用あるいは一般産業用に使用するもの等である。該板ガラスは公知のいずれの方法によって製造されたものでもよいが、本発明の方法により製造される板ガラス成形体の平面部分に歪みがないことの必要性から、融解すず金属上で成形されたフロート板ガラスを使用することが好ましい。使用する板ガラスの板厚、形状、寸法は目的に応じて定められ、特に制限はない。その組成についても特に制限はなく、一般に使用されているソーダ石灰ガラス、ほうけい酸ガラス、高強度結晶化ガラス等の種々の軟化点を有する板ガラスを使用することができる。また、該板ガラスの種類についても特に制限はなく、普通板ガラス、網入板ガラス、磨き板ガラス、形板ガラス等が使用される。また、上記板ガラスに熱線反射コート、無反射コート、特定のパターン印刷、表面のエッチング加工等の各種の表面処理を施したものであってもよい。
【0013】
板ガラス上に描いた折り曲げ線部のガラスを電気的に加熱する方法としては、好ましくは以下に記載した方法が使用される。即ち、適当な形状の固体電極を板ガラスの端で上記折り曲げ線に接触させて給電し加熱する方法、リチウムイオン等を発生する導電性高温ガスフレームを板ガラスの端で上記折り曲げ線に接触させ該フレームを通じて給電し加熱する方法、あるいは折り曲げ線をループ状に描き高周波電流を用いて誘電加熱する方法である。上記方法に使用する電流は、一般商用として用いられている50又は60Hzの交流電流、100KHz〜50MHzの高周波電流又は直流電流が用いられる。上記の固体電極を使用する方法では、上記いずれの種類の電流も使用し得るが、導電性高温ガスフレームを使用する方法では、高周波電流が好ましく、誘電加熱では高周波電流のみが使用できる。この使用電流の種類の選定は、上記の折り曲げ線部を加熱する方法の種類のほか、板ガラスの寸法等も考慮して決定される。また、該電気的加熱の制御は、使用する板ガラスの厚さ、寸法、折り曲げ線の幅、板ガラス全面の温度分布、成形時の板ガラスの曲げ速度及び最終曲げ角度等を考慮して、好ましくは通電時間を制御することで行われる。制御因子には上記のような多数のパラメーターが含まれ、かつ板ガラス全面の温度分布は時間的にも変化するので、好ましくはコンピューターコントロールにより温度制御が行われる。通常、30秒〜5分間、特に1〜3分間の通電で折り曲げ線長さ10cm当たり数10〜数100Wの加熱ができ、これで十分である(従来の曲げガラス製造法において、加熱には20分間も要した)。
【0014】
上記加熱方法により、板ガラス上に描かれた折り曲げ線部が所定の温度に加熱される。該温度は、折り曲げ線部の板ガラスの温度が使用した板ガラスの軟化点以上であり、特に好ましくは軟化点〜軟化点プラス140℃の範囲である。上記範囲を越える温度では、曲げ加工後の折り曲げ線近傍の平面部に歪みが生じ、また経済性の面からも好ましくない。ここで板ガラスの軟化点とは、ガラスの粘度が約108ポイズに相当し、ガラスが自重で変形する温度をいう(普通フロートガラスでは約740℃である)。
【0015】
また、本発明の方法を更に好適に達成するためには、折り曲げ線部の加熱により発生する不均一な温度分布によって板ガラス中に一時的に発生する二次元内部応力による板ガラスの破損を防止しなければならない。本発明の方法においては、エッジテンションを破壊強度以下に制御するために以下に記載した加熱方法を併用することが好ましい。
【0016】
即ち、上記折り曲げ線近傍の板ガラスを輻射加熱することが好ましい。該輻射加熱は、好ましくはシーズヒーター又はハロゲンランプを用いて行われる。例えば、直径15mmの棒状のシーズヒーターを、折り曲げ線から板ガラス面に対して直角方向に約40mm離れた部分に折り曲げ線と平行に設置して加熱する。また、更に板ガラス全体を輻射加熱及び/又は伝熱加熱することが好ましい。該伝熱加熱は、好ましくは板ガラスの折り曲げ線近傍以外を加熱板ではさむことによって行われる。例えば、伝熱用のフレキシブルヒーターをガラスの両面に接触させ、更にその上に設置した保温材によりフレキシブルヒーターをガラス表面にはさみつけることにより加熱する。
【0017】
上記のような加熱により、好ましくは上記折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ3cm以上の範囲の板ガラス部分の温度を、使用した板ガラスの軟化点より200〜500℃低い温度とし、該折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ3cm未満(例えば2cmでもよい)の範囲の板ガラス部分を、上記3cm以上の範囲の板ガラス部分より高い温度かつ軟化点より低い温度とし、かつ該折り曲げ線部の板ガラスを、該板ガラスの軟化点以上の温度とする。更に好ましくは、上記折り曲げ線及びそれと向かい合う周縁の間の温度勾配を設ける。例えば、周縁部から該折り曲げ線方向に5cm以内の板ガラス部分を、板ガラスの軟化点より400〜500℃低い温度とし、該折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ3cm以上、かつ該折り曲げ線と向かい合う周縁部分から該折り曲げ線方向に5cmを超える範囲の板ガラス部分を、上記周縁部分の温度以上とする。
【0018】
本発明の方法により達成された板ガラス上の温度分布の一例を図2に示す。図において、板ガラスGは縦400mm,横800mm、厚さ4mmであり、軟化点は740℃である。板ガラスの横方向中央に折り曲げ線Lが描かれている。これを本発明の方法に従って加熱したとき、線XX´に沿うガラスの温度分布が図に示されている。板ガラスG上の位置pは、温度分布上にもpにより示されている。線XX´に沿う温度分布において、折り曲げ線しの左右それぞれ約6mmの範囲は800℃近くになっている。その外側の輻射加熱された箇所において、折り曲げ線Lから2.5cmまでの間で温度が急に低下する。折り曲げ線Lから約10cmの位置にある点pにおいては約450℃であり、周縁部分までその温度はほぼ一定である。即ち、本発明では折り曲げ線近くのガラスの平面性を保持するために、折り曲げ線L近傍において温度分布を極めてシャープにしたにも拘らず、ガラス板全体の温度分布を適切にコントロールすることにより、ガラスの割れを防止できる。
【0019】
また、上記の折り曲げ線に直角な方向の温度分布に加えて、折り曲げ線に平行な方向においても、所定の温度分布を与えることが好ましい(しかし、必須ではない)。即ち、折り曲げ線から直角方向に左右それぞれ10cmの箇所の該折り曲げ線に平行な方向の板ガラスの温度分布において、板ガラス周縁部分の温度が中心部分の板ガラス温度より30〜150℃高い温度、好ましくは50〜100℃高い温度とすることが好ましい。該温度分布を達成することにより、更に好適に二次元内部応力による板ガラスの破損を防止することができる。このような折り曲げ線に平行な所定の温度分布は、当該周縁部を加熱するための輻射加熱及
/又は伝熱加熱により達成できる。
【0020】
上記折り曲げ線に平行な方向の温度分布を与えた温度分布の一例を図3に示す。図において、板ガラスG1は図2の板ガラスと同じである。これを本発明の方法に従って加熱したとき、線X1X1´に沿うガラスの温度分布、及び線Y1Y1´に沿うガラスの温度分布が図に示されている。板ガラスG1上の位置p1は、二つの温度分布上にもp1により示されている。線X1X1´に沿う温度分布において、折り曲げ線L1の左右それぞれ約6mmの範囲は800℃近くになっており、更に周縁方向に進むと温度がやや緩やかに低くなる。折り曲げ線L1から約10cmの位置にある点p1においては約350℃である。そこから、温度は更に緩やかに低下し、周縁では約250℃である。一方、線Y1Y1´に沿う温度分布では、周縁部は中央より高い温度とされ、これが二次元応力によるガラスの割れを防止するために重要である。即ち、該発明では折り曲げ線近くのガラスの平面性を保持するために、折り曲げ線L1において温度分布を極めてシャープにしたにも拘らず、ガラス板全体の温度分布を適切にコントロールすることにより、ガラスの割れを防止できるため好ましい。図3の態様においては、図2に比べてガラス板を加熱する総熱量が少なくてすむ。
【0021】
本発明の方法における上記加熱は、通常空気中で行われるが、これに限られない。
【0022】
また、本発明の方法において好ましくは、板ガラス全体を輻射加熱及び/又は伝熱加熱を行った後、上記折り曲げ線近傍の板ガラス部分を輻射加熱し、続いて該折り曲げ線部のガラスを電気的に加熱することが好ましい。この順で加熱することにより、折り曲げ線部に適切なピークがある温度分布を容易に達成できる。 【0023】
本発明の方法において、折り曲げ線に沿って平面板ガラスを所定の角度に曲げる方法は、通常適当に設計された板ガラス保持機構により行われる。その際、曲げ速度、曲げ外力及び最終曲げ角度は、該保持機構を通じて精密に制御される。これにより曲げ部分におけるクラックの発生が防止され、かつ曲げ部分の所定の断面形状及び肉厚が得られる。平面部に対して輻射加熱及び/又は伝熱加熱を使用した場合には該加熱に使用した装置に板ガラス保持機構を設けて、該ガラス保持機構により板ガラスを所定の角度に曲げることが好ましい。該板ガラス保持機構としては、例えば伝熱用のフレキシブルヒーターをガラスの両面に接触させ、その上に保温材を置き、更にその上から、アームに取り付けた板によってサンドイッチ状にはさんで把持し、動力によってアームを動かすことにより所定の角度に板ガラスを曲げる装置が挙げられる。これにより、隣り合う二の平面間の内角を好ましくは60〜160度にする。該曲げ操作は、非常に短時間の内に完了することができ、通常1〜5分が好ましい。
【0024】
上記の折り曲げ線を描いた導電性材料は、通常上記の加熱成形後に除去される。導電性材料の成分の多くは加熱中に徐々に燃焼又は飛散し、成形終了後には殆ど残っていないこともある。この点でカーボン系導電性塗料が好ましい。導電性材料の種類又はその厚みによっては、完全に燃焼して除去されずガラス表面に残存する場合もある。かかる場合には、加熱成形後に酸素を吹き込んで完全に燃焼して除去するか、あるいはガラスを冷却後に研磨等の適当な機械的方法又は化学的方法によって除去することができる。また、デザイン上の観点から、完成した板ガラス成形体に導電性材料による線条を残すことを希望する場合には、予め所望する色調が現れるような所定の組成を有する導電性材料を使用して折り曲げ線を描くことができる。
【0025】
加熱成形後のガラスは、従来と同様に後処理され、例えば徐冷又は急冷を施して徐冷品、強化品又は倍強化品とすることができる。また熱線反射コート、無反射コート、特定のパターン印刷、表面のエッチング加工等の各種の表面処理を施すこともできる。
【0026】
本発明の方法によって製造された少なくとも一の直線的曲げ部分を有する、複数の平面部により構成される一枚の板ガラス成形体において、上記曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径が平面部における板ガラスの厚さの1〜3倍である。該曲率半径が板ガラスの厚さの3倍を越える場合は、曲げ部分において、透視した物体の歪みが大きくなり好ましくなく、著しい場合には、透視した物体が拡大して見える。一方、曲率半径が1倍未満では、コーナー部分の強度が小さく、かつ人間に対する安全性の面から好ましくない。また、僅かに変形して平坦性を失っている遷移領域が曲げ部分と平面部の間に存在してもよく、該遷移領域の幅が好ましくは板ガラスの厚さの2倍以下であり、特に好ましくは1倍以下である。該幅が2倍を越える場合は、曲げ部分近傍の平面部において透視した物体に歪みが生じ好ましくない。該板ガラス成形体は、その平面部の板ガラス面が実質的に平坦である。例えばフロート板ガラスを使用した板ガラス成形体の場合には、曲げ加工前の該フロート板ガラスの平面性をそのまま維持している。
【0027】
本発明に従う板ガラス成形体の折り曲げ部の曲げ方向の断面の例を図1に示す。図中のRが本発明に従う曲率半径である。点P及びQは曲面が始まる点である。本発明の板ガラス成形体の曲げ点P及びQの外側に、見掛上は平坦であるが僅かに変形して平坦性を損なっている光学的特性の比較的悪い部分、即ち遷移領域Sが存在してもよい。従来の曲げ部分を有する板ガラスにおいては、図5に示したように曲率半径が著しく大きく、かつ平面部と曲げ部分との境界が明瞭でなく、平面部から曲げ部分に至る中間に、僅かに変形して平面性を損なっている遷移領域が相当長さにわたって存在する。これに比べて、本発明の板ガラス成形体は、顕著に異なる。
【0028】
上記板ガラス成形体は、少なくとも一のコーナー部分を有するものを言い、例えば図4に示すような種々の成形体が挙げられる。
【0029】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0030】
【実施例1】
縦400mm,横800mm、厚さ4mmの長方形のフロート板ガラス(ソーダ石灰ガラス、軟化点740℃)の横方向中央で縦方向に、銀系の導電性材料(商標D‐1230(改)、藤倉化成(株)製)を使用して、幅2mm、厚さ20μmの折り曲げ線をスクリーン印刷法を用いて板ガラスの片面及び両端面上に描いた。該折り曲げ線の端部に固体電極を設置した。次いで、直径15mmの棒状のシーズヒーターを折り曲げ線から板ガラス面に直角方向に40mm離れた位置に折り曲げ線に平行に設置した。また、フレキシブルヒーターから成る伝熱加熱装置を折り曲げ線から左右それぞれ5cmを残して該板ガラス全面に設置した。該伝熱加熱装置は板ガラスを両面からはさみつけるようにして設置され、板ガラス保持機構として機能する。次に、まず伝熱加熱を開始して板ガラス全体を450℃に加熱した後、折り曲げ線近傍を輻射加熱し、続いて折り曲げ線に50Hz、AC38Vの電流を2分間流して、折り曲げ線部の板ガラスを800℃に加熱した。板ガラス面は図2に示す所定の温度分布となった。続いて、上記板ガラス保持機構により、約1分間で二平面部が互いに直角になるように該板ガラスを曲げた。このようにして成形後、徐冷して板ガラス成形体を製造した。
【0031】
製造された板ガラス成形体の曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径は、平面部における板ガラスの厚さの1.2倍の5mmであり、僅かに変形して平坦性を失っている遷移領域は殆ど見られなかった。また、該板ガラス成形体の平面部は、本発明の方法に使用したフロート板ガラスの元のままの平面性を維持しており、その光学的透視歪み及び反射歪みの増大は全く認められなかった。 【0032】
以上のように、本発明により製造された板ガラス成形体の曲げ部分は非常にシャープであり、その平面部は歪みがなく非常に透視性のよいものであった。
【0033】
【発明の効果】
本発明によれば、曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径が著しく小さく、かつ平面部の光学的透視歪み及び反射歪みが極めて小さい、曲げ部分を有する板ガラス成形体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の板ガラス成形体の曲げ部分の曲げ方向の断面図の一例である。
【図2】
本発明の方法により達成された板ガラス上の温度分布の一例である。
【図3】
本発明の方法により達成された板ガラス上の温度分布の一例である。
【図4】
本発明の板ガラス成形体の例である。
【図5】
従来法により製造された曲げ板ガラスの曲げ方向の断面図の一例である。
【符号の説明】
R:曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径
S:遷移領域
P、Q:曲げ部分の始まり点
d:板ガラスの厚さ
G、G1:板ガラス
L、L1:折り曲げ線
A1、A2:平面部分
AB1、AB2:平面部分A1、A2と曲げ部分B1の遷移領域
B1:曲げ部分
 
訂正の要旨 特許第2931726号の明細書中、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、
(1)特許請求の範囲の請求項7を削除し、また、それに伴い、訂正前の請求項8〜11を請求項7〜10に順次繰り上げ、以下のように訂正する。
[請求項7]少なくとも一つの直線的曲げ部分を有する、複数の平面部により構成される一枚の板ガラス成形体において、上記曲げ部分に直角な方向における曲面の外周の曲率半径が平面部における板ガラスの厚さの1〜3倍であり、かつ平面部の板ガラス面が実質的に平坦であることを特徴とする板ガラス成形体。
[請求項8]僅かに変形して平坦性を失っている遷移領域が曲げ部分と平面部との間に存在し、該遷移領域の幅が板ガラスの厚さの2倍以下であることを特徴とする請求項7記載の板ガラス成形体。
[請求項9]上記遷移領域の幅が板ガラスの厚さの1倍以下であることを特徴とする請求項8記載の板ガラス成形体。
[請求項10]隣り合う二つの平面間の内角が60〜160度であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一つに記載の板ガラス成形体。
明りょうでない記載の釈明を目的として、
(2)本件明細書の[0005]段落の「板ガラスの厚さの1〜4倍であり」を、「板ガラスの厚さの1〜3倍であり」と訂正し、
(3-1)本件明細書の[0026]段落の「板ガラスの厚さの1〜4倍であり、好ましくは1〜3倍である」を、「板ガラスの厚さの1〜3倍である」と訂正し、
(3-2)本件明細書の[0026]段落の「板ガラスの厚さの4倍を越える場合は」を、「板ガラスの厚さの3倍を越える場合は」と訂正する。
異議決定日 2001-04-27 
出願番号 特願平4-273386
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 徳永 英男  
特許庁審判長 加藤 孔一
特許庁審判官 西村 和美
唐戸 光雄
登録日 1999-05-21 
登録番号 特許第2931726号(P2931726)
権利者 サンテックコーポレーション株式会社
発明の名称 板ガラス成形体及びその製造法  
代理人 松井 光夫  
代理人 松井 光夫  
代理人 石丸 康平  

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