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審決分類 審判 一部申し立て 1項1号公知  A47G
審判 一部申し立て 1項2号公然実施  A47G
審判 一部申し立て 2項進歩性  A47G
管理番号 1045004
異議申立番号 異議2001-70953  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-05-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-26 
確定日 2001-08-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第3091613号「箸及び箸の製造方法、並びに、飲食用の器」の請求項1乃至8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3091613号の請求項1乃至8に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第3091613号(平成5年10月20日出願、平成12年7月21日設定登録)の請求項1乃至8に係る発明(以下、「本件発明1乃至8」という。)は、特許請求の範囲の請求項1乃至8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 木、竹等からなる箸本体のほぼ全面に、生漆、糊漆、絞漆、透漆、黒漆、または、透漆もしくは黒漆に米糊あるいは卵白等を混ぜたもの等の人体に有害な成分を含まない漆からなる漆層を形成し、箸先部以外の適宜部分の前記漆層上に合成樹脂塗料層を形成してなる箸。
【請求項2】 前記箸先部には、人体に有害な成分を含まない漆の乾漆粉を付着することによって、滑り止め部を形成してなる請求項1に記載の箸。
【請求項3】 前記合成樹脂塗料層は、エポキシ樹脂塗料によって形成されてなる請求項1または2に記載の箸。
【請求項4】 前記箸本体の箸先部の近くの位置に、箸先部の先端に向かって一段と細くなる段差部を設け、この段差部に前記乾漆粉を付着させて前記滑り止め部を形成してなる請求項2に記載の箸。
【請求項5】 木、竹等からなる箸本体のほぼ全面に、生漆、糊漆、絞漆、透漆、黒漆、または、透漆もしくは黒漆に米糊あるいは卵白等を混ぜたもの等の人体に有害な成分を含まない漆を一回以上塗布して漆層を形成し、箸先部以外の適宜部分の前記漆層の塗布面上に、合成樹脂塗料を一回以上塗布して合成樹脂塗料層を形成する箸の製造方法。
【請求項6】 前記箸本体の合成樹脂塗料を塗布すべき部分と、合成樹脂塗料を塗布しない部分との境界の、合成樹脂塗料を塗布しない側を覆い、前記塗布すべき部分に合成樹脂塗料を塗布して、前記合成樹脂塗料層を形成してなる請求項5に記載の箸の製造方法。
【請求項7】 前記箸先部には、人体に有害な成分を含まない漆で下地塗りをした後、人体に有害な成分を含まない粘稠性のある漆を塗布した上で、人体に有害な成分を含まない漆の乾漆粉を粉付けし、その粉付けした乾漆粉を、人体に有害な成分を含まない漆を塗布することにより粉おさえを行ってから研ぎを行って、滑り止め部を形成する、請求項5に記載の箸の製造方法。
【請求項8】 前記合成樹脂塗料は、エポキシ樹脂塗料である請求項5ないし7のいずれか1項に記載の箸の製造方法。」

2.申立の理由の概要
異議申立人・若狭箸工業協同組合は、甲第1号証として全国漆器産地名店会作成のカタログ「'87-'88 第七輯 ぬりの華」昭和62年6月発行、第112〜127頁を、甲第2号証として全国漆器産地名店会会長に依頼した証明願を、甲第3号証として箸の実物(大、中)を、甲第4号証として「うらたに」発行の請求書、納品書、入日記を、甲第5号証として財団法人・科学技術戦略推進機構「高分子試験・評価センター」による試験報告書を、甲第6号証として実願昭51-110766号(実開昭53-29587号)のマイクロフィルムを、甲第7号証として実願平2-22434号(実開平4-6973号)のマイクロフィルムを、そして甲第8号証として実公平3-25653号公報を、それぞれ提出し、本件発明1及び5は、甲第1号証乃至甲第5号証に基づき特許法第29条第1項第1号若しくは第2号の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件発明2,3,4,6,7及び8は、甲第1号証乃至甲第8号証に基づき同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1乃至8についての特許は、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである旨主張している。

3.甲各号証の記載事項等
[3-1]甲第1号証には、
(1)その第120頁の右側中段に、『(15)都(大)・・・1,500円』および『(16)都(中)・・・1,500円』と記載され、
(2)同頁の中段の枠内の中程に、符号(15)、(16)が付され、帯封に『風』あるいは『風』及び『天然うるし』と記された二膳の箸の頭部のカラー写真が掲載され、
(3)その第126頁の最上部に、『箸先のすべり止めは小さな心づかい。お箸が上手に使えます。』と記載され、更に
(4)同頁の右側上段の丸枠内に、箸先の写真が掲載されている。
[3-2]甲第2号証には、「ぬりの華」'87-'88 第七輯 と表紙に記載した漆器のカタログに関して、
(1)発行所が、「全国漆器産地名店会事務局」であること、
(2)発行日が、「昭和62年6月」であること、また、
(3)内容として、第114頁〜第126頁に若狭箸の各種製品が記載され、第120頁に「風」と帯封に記入の製品群があり、かつその中の(15)、(16)に「都」と名付けられた箸がある点、
が平成13年3月19日付けで全国漆器産地名店会会長である鈴木勝健によって証明されている。
[3-3]甲第3号証の箸は、帯封に「風」と記載されている二膳の箸である。
[3-4]甲第4号証の「うらたに」発行の請求書、納品書そして入日記には、
(1)発行日が、「平成4年10月24日」であること、
(2)宛先が、「株式会社マツ勘」であること、
(3)品名が、『都 大』と『都 中』であること、
等が記載されている。
[3-5]甲第5号証には、
(1)試験報告書の番号が、「試 3679 号」であり、その日付が、「平成13年2月13日」であること、
(2)試験の依頼者が、「株式会社マツ勘」であること、
(3)試料が、「うるし都」であること、
(4)試験方法が、「フーリエ変換赤外分光光度計・全反射測定(顕微ATR)」による「赤外分光分析」であること、
(5)試験年月日が、「平成13年2月6日」であること、
(6)株式会社マツ勘から提出された試験体の試験結果として、試料の胴部の材質が、「不飽和ポリエステル」であり、試料の先端部の材質が、「漆」であること、そして
(7)試験の担当者が、「加勢」であり、責任者が「香山」であること、
等が記載されている。
[3-6]甲第6号証には、
(1)その実用新案登録請求の範囲に、
『表面塗料を塗布した箸の一部又は全体に表面塗料と接着度の高い粉体塗料を塗布接着せしめてなる粉体塗料塗布箸。』
と記載され、
(2)明細書第1頁第10行〜第2頁第6行に、
『従来塗料塗布箸は・・・その表面がなめらかなため挟んだものがすべる欠点がある。・・・そこですべらずに食べものが挟める様にと色々試みられても来た。その一例を上げれば古くから乾漆塗布法がある。しかしこの工程の一例を上げると(1)下塗,(2)中塗,(3)上塗,(4)乾漆粉塗布,(5)表面塗料塗布,(6)120番程度のサンドペーパーで荒研ぎ,(7)水に浸漬,(8)水ペーパー250〜300番で研磨(9)うすい塗料を2〜3回塗り,(10)布でみがき上げる。・・・と言う工程によって仕上り表面凹凸を表現する箸,漆器が出来上っている。』
と記載され、そして
(3)第1図に本案全体図として、表面塗料塗布した箸本体1の先端部に粉体塗料2を塗布接着せしめた1本の箸が示されている。
[3-7]甲第7号証には、
(1)その考案の名称の欄に、『スベリ止めつきプラスチック箸』と記載され、そして
(2)明細書第1頁第18行〜第2頁第2行に、
『この考案はプラスチック箸の先端部25MM位までを乾漆の塗装またはヤスリによるこすり傷をつけることで、スベリが悪くなり麺類がつまみ易くなり麺類の使用に便利にするものである。』
と記載されている。更に、
[3-8]甲第8号証には、
(1)その実用新案登録請求の範囲に、
『箸の先1、箸の頭2等の傷つき易い部分に、耐水性、耐熱性にすぐれ、且つ皮膜の丈夫なエポキシ樹脂を塗着してエポキシ樹脂層3を設け、更に全面にうるし塗装して全体をうるし塗膜4にて覆ってなる塗膜のはげない塗箸。』
と記載され、そして
(2)公報第1頁第1欄第16行〜第2欄第2行に、
『本考案はこの様に塗膜のはげ易い先端部1や頭部2に耐水性、耐熱性にすぐれ且つ皮膜の丈夫なエポキシ樹脂を塗着してエポキシ樹脂層3を設け、』
と記載されている。

4.対比・判断
[4-1]本件発明1について
本件発明1と上記甲各号証に記載の事項とを対比すると、上記甲各号証のいずれにも、本件発明1を特定する事項である、「箸本体のほぼ全面に、生漆、糊漆、絞漆、透漆、黒漆、または、透漆もしくは黒漆に米糊あるいは卵白等を混ぜたもの等の人体に有害な成分を含まない漆からなる漆層を形成し、箸先部以外の適宜部分の前記漆層上に合成樹脂塗料層を形成してなる箸」の構成について記載もしくは開示がなされておらず、また、かかる構成を示唆する記載もない。
そして、本件発明1は、上記の構成を有することにより、『合成樹脂塗料層に傷が生じて、その一部に亀裂等が生じても、漆層が木、竹等からなる箸本体への水等の含浸を防止するため、箸本体の膨張もなく、合成樹脂塗料層の剥がれを防止することができる。また、箸先部には、前記人体に有害な成分を含まない漆層のみが形成されているので、その箸は人体に対して無害である。』(特許明細書の段落【0036】参照)という作用効果を奏するものと認められる。
それ故、本件発明1が、本件出願前に公然知られた発明あるいは公然実施をされた発明とは到底認められず、また、上記甲第1乃至8号証のいずれかに記載されたものであるとも、さらに、上記甲第1乃至8号証に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも、認めることができない。
[4-2]本件発明2乃至4について
本件発明2乃至4についても、上記本件発明1についての判断と同様であり、それ故、本件発明2乃至4が、本件出願前に公然知られた発明あるいは公然実施をされた発明とは到底認められず、また、上記甲第1乃至8号証のいずれかに記載されたものであるとも、さらに、上記甲第1乃至8号証に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも、認めることができない。
[4-3]本件発明5について
本件発明5と上記甲各号証に記載の事項とを対比すると、上記甲各号証のいずれにも、本件発明5を特定する事項である、「箸本体のほぼ全面に、生漆、糊漆、絞漆、透漆、黒漆、または、透漆もしくは黒漆に米糊あるいは卵白等を混ぜたもの等の人体に有害な成分を含まない漆を一回以上塗布して漆層を形成し、箸先部以外の適宜部分の前記漆層の塗布面上に、合成樹脂塗料を一回以上塗布して合成樹脂塗料層を形成する」構成について記載もしくは開示がなされておらず、また、かかる構成を示唆する記載もない。
そして、本件発明5は、上記の構成を有することにより、『箸先部には、人体に無害な漆層のみが形成される。・・・塗布された合成樹脂塗料層に傷が生じて、その一部に亀裂等が生じても、前記漆層が木、竹等からなる箸本体への水等の含浸を防止するため箸本体の膨張もなく、合成樹脂塗料層の剥がれを防ぐことができる。また、箸先部以外の適宜部分の合成樹脂塗料層は、箸の見栄えを良くすることができる。』(特許明細書の段落【0038】参照)という作用効果を奏するものと認められる。
それ故、本件発明5が、本件出願前に公然知られた発明あるいは公然実施をされた発明とは到底認められず、また、上記甲第1乃至8号証のいずれかに記載されたものであるとも、さらに、上記甲第1乃至8号証に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも、認めることができない。
[4-4]本件発明6乃至8について
本件発明6乃至8についても、上記本件発明5についての判断と同様であり、それ故、本件発明6乃至8が、本件出願前に公然知られた発明あるいは公然実施をされた発明とは到底認められず、また、上記甲第1乃至8号証のいずれかに記載されたものであるとも、さらに、上記甲第1乃至8号証に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも、認めることができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件発明1乃至8についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1乃至8についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1乃至8についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-07-24 
出願番号 特願平5-285735
審決分類 P 1 652・ 112- Y (A47G)
P 1 652・ 111- Y (A47G)
P 1 652・ 121- Y (A47G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 阿部 寛  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 松下 聡
岡田 和加子
登録日 2000-07-21 
登録番号 特許第3091613号(P3091613)
権利者 株式会社兵左衛門
発明の名称 箸及び箸の製造方法、並びに、飲食用の器  
代理人 廣瀬 光司  
代理人 近島 一夫  

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