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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12N
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
管理番号 1045094
異議申立番号 異議1998-74616  
総通号数 22 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-07-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-09-18 
確定日 2001-08-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第2729212号「HIVの精製単離されたレトロウィルス」の発明に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2729212号に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯:
本件特許2729212号は、昭和58年11月21日に出願(1983.9.15優先権主張、イギリス)された特願昭58-219323号の特許出願をもとの出願として分割出願された特願平5-49628号の特許出願であって、優先権主張日前の刊行物であるSCIENCE Vol.220 p.868-871(1983.5.20)(下記甲第3号証)への発表に対して特許法第30条第1項の適用を適法に申請した特許出願に係り、平成9年12月19日に設定登録がされた。その後、安富康男から特許異議の申立てがされたところ、当審において取消理由の通知がされ、その指定期間内に意見書が提出されたものである。

2.本件発明:
本件発明の要旨は、登録設定された特許明細書の特許請求の範囲第1項に記載される以下の通りのものと認められる。(以下、本件発明という。)

「以下の特徴を有するT-リンパ栄養的レトロウイルスであるHIVの精製単離されたレトロウイルス。
(1)標的がヘルパーT-リンパ球である;
(2)Mg2十イオンの存在を要求し、ポリ(アデニレート)-オリゴ(デオキシチミジレート)12-18に強い親和性を示す逆転写酵素活性を有する;
(3)HTLV-Iのp24タンパク質と免疫学的に交差反応しないp25タンパク質を含む;
(4)HTLV-Iのp19タンパク質と免疫学的に交差反応するタンパク質を含まない。」

3.特許異議申立についての判断:
(3-1)異議申立の概要
特許異議申立人は、本件優先日前に頒布されたことが明らかな甲第1号証(Journal of the American Medical Assosiation(JAMA) Vol.250, NO.8, p.1010-1015(1983.8.26))及び甲第2号証(フランス新聞紙「リベラシオーン」(1983.5.17))に対しては特許法第30条新規性喪失の例外規定の適用を受けられないことを前提として、本件発明は(イ)甲第1号証に記載された発明であり、(ロ)甲第2号証に記載された発明であって、さらに(ハ)少なくとも甲第1,2号証及び甲第7号証(日本免疫学会編「免疫実験操作法A」(1971年11月)細胞培養II-1)に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は特許法第29条第1項第3号もしくは同条第2項の規定に違反してなされたものである旨を主張している。

(3-2)異議申立人主張(イ)について:
まず前提となる甲第1号証に対し特許法第30条新規性喪失の例外規定が適用できないとする点について検討する。
甲第1号証は、本件優先日前に頒布された刊行物であるにもかかわらず、特許法第30条第4項の規定に従った申請をしていない点は異議申立人が主張するとおりである。
ところで、異議申立人が甲第5号証として提出した審査便覧42.45Aには、複数回に亘る公開行為の取扱いが示されており、「一の公開と密接不可分の関係にある他の公開」の場合には特許法第30条第4項に規定される申請手続きが省略できることと共に、「該当するに至った発明」の「第三者による公開」の場合は、当該公開によっては特許法第29条第1項各号に該当するに至らなかったものとすることが示されている。
ここで、甲第1号証の記載内容のうち、甲第3号証に関する引用部分は明らかに「該当するに至った発明」である甲第3号証に関してなされた「第三者による公開」に相当するといえるから、以下、甲第1号証中のインタビュー記事について、甲第3号証に対し「密接不可分の関係」に当たるか否かについて検討する。
当該便覧中で「一の公開と密接不可分の関係にある他の公開」は「公開者の意志によっては律し切れない」場合と説明され、具体的に例示されているのは、「数日に亘らざるを得ない試験、試験とその当日配布される説明書、刊行物の初版と再版、予稿集と学会発表、学会発表とその講演集、同一学会の巡回講演、博覧会出品と出品物に関するカタログ」等、公開者の意図とは無関係にほぼ自動的に行われる同一内容の公開のみであるとはいえる。
一方、甲第1号証における雑誌記者のインタビューに対する本件発明者自身による回答記事については、雑誌記者によるインタビューは社会通念上も当該雑誌中での公表を前提としているから、インタビューに応じた以上その内容が同誌に公表されることは十分予測されることであり、インタビューに際して甲第3号証の解説には留まらず、さらに報告後の4人の患者血清を用いた研究成果もあわせて述べていることをみれば、甲第3号証と全く同一内容の公開がなされたことにもならない。
ここで、特許法第30条及び上記審査便覧の文章を文言通りに解釈すれば、刊行物における公開と、それに新たな知見を加えたインタビュー記事とはそれぞれ独立した公開であるから、それぞれに「証明する書面」を提出することが必要であるとするのが相当であるといえる。
しかしながら、本件の場合、「一の公開」である甲第3号証の公開内容がAIDSの原因ウイルスHIVの単離精製に係るものであることは考慮されてしかるべきであろう。甲第3号証公開当時、世界中の研究者が競って原因を突き止めようとしていたAIDSの原因がHTLV-Iと似て非なるウイルスのHIVであることを世界に先駆けて見出し、そのHIVを単離精製したことの詳細な報告が世界で初めて甲第3号証として公表されたとなれば、甲第3号証に世界の注目が集まり、各メディアからの取材が殺到することはむしろ当然である。特に医学関連の研究者であればさらなる詳細な情報を求めるといえるから、米国有数の医学専門誌(異議申立書第5頁)である甲第1号証の記者によってインタビューが申し込まれたことは「一の公開」に伴う必然的な事柄であり、まさに「公開者自身の意志によっては律し切れない」事柄であるといえる。そして、その際、医学に携わる研究者としての使命を鑑みれば、当該医学専門誌の読者である研究者に対してできるだけ詳細に回答して、HIVに関する情報を広く伝えAIDS撲滅のための研究に役立てようとしたこともあながち咎めるべきことではない。
そもそも特許法第30条新規性喪失の例外規定が設けられた立法の趣旨は、有用な研究成果を一刻も早く世の中に公開するという研究者本来の使命を果たした研究者に対する救済措置であるともいえるから、世界的に注目を集めた本件発明の発明者が甲第1号証の公開に基づいて必然的に発生したインタビューに積極的に回答したことをもって、当該救済措置が受けられないとすればあまりにも酷にすぎるというべきである。
そして、インタビューの際に甲第3号証での記載内容を越えた4人の患者血清に基づく情報を加えたといっても、甲第3号証において既に完成している「単離精製HIV」に係る発明に対して新たな知見を追加するものではなく、単に当該知見を確認したにすぎないから「単離精製HIV」に関する発明の開示という点からみれば同一の発明の範囲を超えるものではない。
このような本件発明の場合における特段の事情を鑑みれば、甲第1号証のインタビュー記事は甲第3号証の公開に伴う一連の公開、すなわち甲第3号証と「密接不可分」の関係にある公開、とするのが妥当であるというべきである。
したがって、甲第1号証については当該公開に関する「証明する書面」の提出がなくても特許法第30条第1項の規定が適用されるものであり、当該規定が適用されないことを前提とする異議申立人の主張(イ)は採用できない。

(3-3)異議申立人主張(ロ)について:
甲第2号証は本件優先日前の1983年5月17日に頒布された刊行物であって、特許法第30条第4項の規定に従った申請をしていないばかりか、甲第3号証の公開時期(1983年5月20日)よりも早く公開されたものであるから、甲第3号証とは上記甲第1号証の場合のような関係にはない。そして、甲第2号証第3頁(翻訳文第1頁)の「しかし、パスツール研究所のモンタニエ教授のチームがなした発見(それは昨日の午後、初めてパスツール研究所の研究者等の前で発表された)は、・・・。」、同第3頁(翻訳文第4頁)の「これはモンタニエ教授のチームと協力して働くウイリー・ローゼンバウム教授が、昨日の午後、パスツール研究所において満足を隠さずに言った言葉である。」等の記載からみて発明者達自らが積極的に公表したことが窺われるから、特許法第30条第2項に規定する「意に反してなされた公開」として新規性例外規定の適用を受けることはできないことは明らかである。
しかしながら、甲第2号証にはAIDS及びLAS患者から免疫細胞に関与する細胞を攻撃するHTLV-Iに類似したレトロウイルスが見出されたことが紹介されているものの、当該ウイルスに対応するHIV自体については、その単離精製方法どころか公知のHTLV-Iと相違する特徴的性質についての記載もなく、むしろ「HTLVの変異株であると推定される。」(訳文第3頁)と記載されていることからみて、当業者はHIVがHTLV-Iとは異なる新規なウイルスであることすら認識できない。
そうであるから、甲第2号証には単離精製されたHIVに係る本件発明が記載されているとはいえない。
したがって、異議申立人の主張(ロ)も採用できない。

(3-4)異議申立人主張(ハ)について:
上述の如く、甲第2号証には単離精製されたHIV自体についても、HIVの単離精製方法についても記載されていないが、HIVの単離精製方法について記載がない点は甲第1号証及び甲第7号証も同様であるから、たとえ甲第2号証に対して甲第1号証及び甲第7号証を組み合わせたとしても当業者が容易に単離精製されたHIVを取得することができるということはできない。
したがって、異議申立人の主張(ハ)についても採用できない。

(3-5)以上述べた如く、異議申立人の主張(イ)〜(ハ)はいずれも採用できない。

4.以上述べたとおりであるから、異議申立人の理由及び証拠によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-07-25 
出願番号 特願平5-49628
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C12N)
P 1 651・ 113- Y (C12N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 真由美  
特許庁審判長 徳廣 正道
特許庁審判官 田村 明照
佐伯 裕子
登録日 1997-12-19 
登録番号 特許第2729212号(P2729212)
権利者 サントル・ナショナル・ド・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィック インスティチュート・パスツール
発明の名称 HIVの精製単離されたレトロウィルス  
代理人 津国 肇  
代理人 津国 肇  

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