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審決分類 審判 全部無効 特29条の2 無効とする。(申立て全部成立) A21D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) A21D
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A21D
管理番号 1045822
審判番号 無効2000-35245  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1988-08-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-05-09 
確定日 2001-08-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第2133975号の特許無効審判事件について、併合の審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 2000年審判第35245号 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。2000年審判第35377号 特許第2133975号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 A.2000年審判第35245号
1.手続の経緯・本件発明
本件特許第2133975号に係る発明(昭和62年2月10日出願、平成9年12月19日設定登録)は、出願公告後の平成8年7月22日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「1 イースト菌と水との接触を避ける様に、水と、小麦粉、油脂などのパン材料と、イースト菌とをパン容器内にこの順に入れ、そのまま放置し、その後、タイマーにより混捏、発酵、焼き上げなどの製パン工程に移行することを特徴とする製パン方法。」
2.請求人の主張
本件特許に係る出願は、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前である平成6年2月10日付けでなされた明細書の補正が、願書に添付した明細書又は図面の要旨を変更するものであるから、平成6年2月10日に出願したものとみなされるべきである。
したがって、本件特許に係る発明は、その出願前に頒布された甲第2号証(本件特許発明の出願に係る公開公報である特開昭63-207344号公報)に記載された発明と同一であるか、又は、同号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号、又は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本件特許は無効とされるべきである旨主張している。
3.被請求人の主張
平成6年2月10日付けの手続補正は、願書に添付した明細書又は図面の要旨を変更するものではないので、甲第2号証は、本件特許発明の出願前の刊行物ではない。
4.当審の判断
(1)平成6年2月10日付け手続補正について
請求人は、該補正において、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書」という。)には記載されていなかった、温水以外の水である、「冷水」や「普通の水」を含む水を注加するという事項を新たに含むものとなった旨主張している(審判請求書第11〜12頁、平成13年5月8日付け弁駁書第9頁参照。)ので、この点を中心に検討する。
当初明細書においては、請求人が主張するように、確かに、温水を注加する実施例を中心に記載されてはいるが、「その場合上記のパン材料と温水は前夜にパン容器内に仕込まれる為、短くても8〜9時間の間放置された状態に置かれるが、・・・侵されない。」(明細書第4頁第11行〜18行)、「ここに普通の水の代わりに温水を使用したのは、過って厳寒の折摂氏5度以下の冷水を用いた場合、イーストからグルタチオンの物質が流出してパンのスダチを悪くするからである。」(第5頁第7〜11行)、「過ってイーストが温水に全部触れたとしても10時間前後の放置期間であれば・・・(中略)・・・支障がないと言う特徴がある。」(第6頁第16行〜第7頁第1行)との記載がある様に、温水を注加後、所定時間放置する旨の記載がある。また、特許請求の範囲においては、「イーストを小麦粉内に混入し、温水を注加しても、発酵の促進がない様にした」との記載がある。これらの記載及び、時間経過に伴う水の温度変化について併せ考慮すると、当初明細書において、注加する水を温水のみに限定して、それ以外の温度の水を対象外としていたものと認めることはできない。
換言すると、水は、時間の経過と共に周囲の状況に応じてその温度が変化するものであることは、当業者にとっては、自明でかつ常識的な事項であり、たとえ、温水が好ましいものとして当初明細書に示されているからといって、そこにおいて、温水以外の水を注加することを全く想定していなかったものとまでは言い難い。
したがって、請求人が主張するように、当初明細書には温水以外の水を注加する事項が記載されていなかったものとすることはできないので、上記手続補正が、願書に添付した明細書又は図面の要旨を変更するものとは認められない。
(2)同一性、又は容易性の判断について
上記(1)でみたとおり、本件特許発明に係る出願の日は繰り下がらず、昭和62年2月20日であると認められるから、請求人の提示した甲第2号証(特開昭63-207344号公報)は、本件特許出願後に公開されたものであって、本件特許発明の同一性、容易性を判断する対象とはなり得ない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、2000年審判第35245号の結論のとおり審決する。
B.2000年審判第35377号
1.手続の経緯・本件発明
2000年審判第35245号の「1.手続の経緯・本件発明」で述べたとおりである。
2.請求人の主張
本件特許に係る発明が、その出願前の出願である実願昭61-121727号(先願)の願書に最初に添付された明細書又は図面(甲第1号証参照)に記載された考案と同一であり、その発明者が先願の考案者と同一の者ではなく、その出願時に先願の出願人と同一の者でもない。したがって、本件特許に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができなかったものである[理由1]。
また、本件特許に係る発明は、甲第4号証(特公昭63-63208号公報)及び甲第5号証(実開昭57-155081号公報)の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができなかったものである[理由2]旨主張している。
3.被請求人の主張
本件特許発明と甲第1号証記載の発明は同一とはいえない。また、甲第4号証は、本件特許発明に係る出願後に頒布されたものであり、本件特許発明の進歩性を否定する証拠とはなりえない旨主張している。
4.当審の判断
まず、[理由1]について検討する。
(1)本件発明
本件特許に係る発明については、上記1.で述べたとおりである。
(2)先願明細書記載の事項
審判請求人が提示した、本願出願前の実用新案登録出願であって、その出願後に出願公開された実願昭61-121727号(実開昭63-28376号)の、願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、以下の記載が図面と共に示されている。
「本考案に係る自動製パン機は、パン材料及び水を材料容器に入れ、その材料をミキシングした後、発酵させ、次いで焼成する工程を自動的に行うものであるが、準備段階では、まず、最初にイースト菌を材料容器に入れ、次いで該イースト菌を覆うように小麦粉その他の材料を入れ、最後に水を入れてイースト菌と水とが他のパン材料で隔離されるようにセットする。このようにセットすると、タイマーを使用する場合のように長時間放置しておいても水とイースト菌が触れることがなく、従って、冬期にイースト菌が冷水と接触して活性を失ったり、あるいは夏季に適温の水と接触し発酵を開始して過発酵となったりすることが無く、おいしいパン作りが可能となる。」(先願明細書のマイクロフィルム(以下同じ)第5頁第15行〜第6頁第8行)こと、「まず、最初にイースト菌を材料容器に入れ、次いで該イースト菌を覆うように小麦粉その他の材料を入れ、最後に水を入れてイースト菌と水とが他のパン材料で隔離されるようにセットする。この状態でスタートスイッチを投入すると(タイマーセットした場合は、設定時間経過後にスタートスイッチがオンされると)、第3図に示すフローチャートに従ってヒータ7、9、モータ6、ファン8が制御されてパンが作られる。」(第11頁第12〜20行)こと、「なお、ミキシング開始後の動作について簡単に説明すると次の通りである。即ち、ミキシング開始後、所定時間・・・(中略)・・・発酵工程に進み、・・・(中略)・・・焼成が行われる(ステップ9)。焼成が完了すると、・・・(中略)・・・パン作りが完了する。」(第14頁第17行〜第15頁第17行)こと。
(3)対比・判断
本件特許に係る発明(前者)と先願明細書に記載されたもの(後者)とを対比すると、後者の「小麦粉その他の材料」、「材料容器」、「ミキシング」、「焼成」は、それぞれ、前者の「小麦粉、油脂などのパン材料」、「パン容器」、「混捏」、「焼き上げ」に相当している。
したがって、両者は、イースト菌と水との接触を避ける様に、水と、小麦粉、油脂などのパン材料と、イースト菌とをパン容器内に入れ、そのまま放置し、その後、タイマーにより混捏、発酵、焼き上げなどの製パン工程に移行することを特徴とする製パン方法の点で一致し、前者が、水と、小麦粉、油脂などのパン材料と、イースト菌とをこの順にパン容器内に入れるものとしているのに対して、後者が、最初にイースト菌をパン容器に入れ、次いで該イースト菌を覆うように小麦粉その他の材料を入れ、最後に水を入れるようにしている点で一応相違している。
そこで上記相違点について検討する。
前者において、水と、小麦粉、油脂などのパン材料と、イースト菌とをこの順にパン容器内に入れるようにしているのは、イースト菌と水との接触を避けるために採用された構成であることは、「従来の技術」、「発明が解決しようとする課題」、「発明の効果」など前者の他の記載をみても明らかである。
一方、後者において、最初にイースト菌を材料容器に入れ、次いで該イースト菌を覆うように小麦粉その他の材料を入れ、最後に水を入れるようにした構成が、イースト菌と水とが他のパン材料で隔離されるために採用された構成であることは既にみたとおりである。
してみると、両者において、その構成によりもたらされる作用・効果に差異は認められず、両者は技術的思想の創作としては実質的に同一であると認められる。
しかも、本件発明の発明者が上記実用新案登録出願の考案の考案者と同一であるとも、さらに、本件特許出願の出願人が、本件出願時に、上記実用新案登録出願の出願人と同一であるとも認められない。
(4)むすび
以上のとおり、[理由2]について検討するまでもなく、本件発明に係る特許は、特許法第29条の2第1項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定によりこれを無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、2000年審判第35377号の結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-06-07 
結審通知日 2001-06-19 
審決日 2001-07-03 
出願番号 特願昭62-38812
審決分類 P 1 112・ 16- Z (A21D)
P 1 112・ 121- Z (A21D)
P 1 112・ 113- Z (A21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鵜飼 健村上 騎見高加藤 浩  
特許庁審判長 滝本 静雄
特許庁審判官 岡本 昌直
原 慧
登録日 1997-12-19 
登録番号 特許第2133975号(P2133975)
発明の名称 製パン方法  
代理人 魚住 高博  
代理人 竹本 松司  
代理人 河野 登夫  
代理人 塩野入 章夫  
代理人 湯田 浩一  
代理人 杉山 秀雄  
代理人 手島 直彦  

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