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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) E02D
審判 全部無効 利害関係、当事者適格、請求の利益 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) E02D
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) E02D
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) E02D
管理番号 1045847
審判番号 審判1998-35194  
総通号数 23 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-12-14 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-05-07 
確定日 2001-09-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第1941670号発明「法枠工法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1941670号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第一 手続の経緯
特許第1941670号の発明は、平成3年6月5日に出願され、平成7年6月23日に設定登録されたものである。
平成10年5月7日に審判請求がなされ、平成10年8月27日に答弁書提出とともに訂正請求がなされたが、平成10年10月20日に審判手続中止が通知された。平成11年9月22日に審判手続中止解除が通知されるとともに審尋がなされ、平成11年11月24日に審判理由補充書が提出され、平成12年2月21日に答弁書提出とともにさきの訂正請求の取下げと新たな訂正請求がなされた。平成12年5月24日に弁駁書が、平成12年7月11日に請求人から上申書が提出され、その後、平成13年4月3日に訂正拒絶理由が通知された。この訂正拒絶理由の通知に対して、平成13年6月1日に意見書、手続補正書及び答弁書が提出されている。
なお、本件特許に対し、平成7年7月13日に特許無効審判(平成7年特許庁審判第15016号)が請求され、平成8年1月11日に答弁書提出とともに訂正請求がなされ、平成9年3月6日に弁駁書が提出され、平成9年4月25日に「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」(平成10年9月30日付け更正決定参照)旨の審決がなされている。同審決に対し、取消請求事件[東京高等裁判所平成9年(行ケ)第150号]が提起されたが、平成11年5月19日に「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決が言い渡され、同審決は確定している。

第二 請求人の主張及び提出した証拠方法
請求人は、「特許第1941670号発明の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めている。
その理由の概略は、次のとおりである。
本件特許に係る発明は、甲第1号証〜甲第8号証に記載されたそれぞれの発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件特許は、特許法123条1項2号の規定に該当し、無効とされるべきものである。なお、周知例として、甲第9及び10号証を提出している。
さらに、弁駁書等において、被請求人の利害関係の主張に対して、甲第11号証を提出し、同和解条項第3条(1)iiの規定により、「その余の『法枠工法』の実施については、・・・別途解決されるべきもの」であり、採用できないと主張している。
そして、請求人は、次の証拠方法を提出している。
甲第1号証:「土木技術」45巻3号(平成2年3月1日発行)、発行所、土木技術社、103〜110頁[山田邦光「現場打のり枠工(吹付フレームとアンカー工法等)適用と施工事例」]
甲第2号証:実願昭60-106034号(実開昭62-16141号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開昭53-64904号公報
甲第4号証:特開平3-55320号公報
甲第5号証:実願昭58-63957号(実開昭59-173742号)のマイクロフィルム
甲第6号証:実願昭61-111587号(実開昭63-17240号)のマイクロフィルム
甲第7号証:実願平1-27542号(実開平2-120533号)のマイクロフィルム
甲第8号証:実願平1-72130号(実開平3-13339号)のマイクロフィルム
甲第9号証:特公昭60-4327号公報
甲第10号証:実願昭62-138540号(実開昭64-42345号)のマイクロフィルム
甲第11号証:平成8年4月26日の東京地方裁判所和解期日調書の写し

第三 被請求人の主張
被請求人は、さきの訂正請求を取り下げ、新たな訂正請求を行うとともに、答弁書において、概略、以下の反論を行っている。
審判請求人は被請求人と何らの利害の関係を有する者でなく、審判請求人としての請求適格を備えておらず、審判請求は不適法であり、請求は却下さるべきである。
すなわち、審判請求人は本件特許を無効とすることに対し、如何なる利害関係を有しているのか、何ら明らかにしていない。審判請求人は、型枠の材料メーカーであり、本件特許発明に対しては当業者に当たると理解している。かつて審判請求人と被請求人とは、被告と原告として民事上の損害賠償請求訴訟にて争ったことがあるが、その訴訟事件も平成8年4月26日に、互いに何らの債権債務も存在しないことを確認して和解を以て終決している。そして現在、本件特許権者と審判請求人との間には、何らの争訟も存在していない。また、審判請求人は本件特許権につき通常実施権あるいは専用実施権を持つ者でもない。
さらに、本件特許に係る発明は、審判請求人が提出した甲第1号証〜甲第10号記に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明できたものではない。従って本件特許に係る発明は、特許法29条2項に該当するものでなく、特許法123条1項2号の規定によって無効となるものではない。
すなわち、今回訂正によって明瞭にした本件特許発明の構成要件は、「主及び補助の各アン力-筋」を「主鉄筋に対し各々その谷側に位置するようにして固定する」というものである。主鉄筋の谷側に固定するのは、「主アンカー筋」と「補助アンカー筋」の双方であることである。
甲第1号証に記載された発明は、「補助アンカー」が「主筋」の谷側に配置されているとしても,その直交部分を支えるための「グラウンドアンカ-」は「主筋」を支えておらず、本件特許発明で得られる効果を得ることができないのである。甲第9号証に記載された発明においては、「アンカー13」を「適所」に配置するという構成は開示され、たまたま「主筋12」の谷側に配した場合もあるが、「主筋12」は別の都合によってランダムに配設されたのであって、すべてのアンカー筋を主鉄筋の谷側に配するという思想は開示されていないのである。甲第9号証には、本件特許発明で得られる効果について一切記載がないのであって、甲第9号証にかかる発明は本件特許発明とは全く別の思想によって構成された発明でしかない。その他の証拠(甲第2号証〜甲第8号記及び甲第10号証)には、型枠の直交部分に打設したアンカーを,主鉄筋の谷側に配して結束するという記述は一切なく、本件特許発明における「主アンカー筋」が型枠の直交部分において「主鉄筋」を谷側から支えるという構成は開示されていない。
以上のように、甲第1号証〜甲第10号証に記載された発明には、「主アンカー筋」と「補助アンカー筋」のすべての「アンカー筋」を「主鉄筋」の谷側に配して下側から支え、法枠全長をアンカー筋によって撓みをなくすという思想は開示されていない。つまりは、甲各号証を組み合わせたとしても、本件特許発明の構成を創作することはできず、その効果を完全に達成することは不可能である。

第四 訂正請求の内容
被請求人の求める訂正請求は、訂正請求書に添付された訂正明細書によると、以下のとおりである。
1 特許請求の範囲
特許請求の範囲の、
「エキスパンドメタルから成る平行な二枚の型枠を法面の傾斜方向と直交するようにして法面上に載置し、該二枚の型枠間に横架された複数のスペーサに前記二枚の型枠と平行となるようにして複数の主鉄筋を固定し、法面に挿入した各アンカー筋を、主鉄筋に対し各々その谷側に位置するようにして固定するとともに、山側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋と谷側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋の配置が千鳥状になるようにして前記二枚の型枠を法面上に定着し、前記二枚の型枠の間及び外側面にモルタルもしくはコンクリートを打設するようにしたことを特徴とする法枠工法。」を
「エキスパンドメタルから成る平行な二枚の型枠を法面の傾斜方向と直交するようにして法面上に載置し、該二枚の型枠間に横架された複数のスペーサに前記二枚の型枠と平行となるようにして複数の主鉄筋を固定し、法面に挿入した主及び補助の各アンカー筋を、主鉄筋に対し各々その谷側に位置するようにして固定するとともに、山側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋と谷側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋の配置が千鳥状になるようにして前記二枚の型枠を法面上に定着し、前記二枚の型枠の間及び外側面にモルタルもしくはコンクリートを打設するようにしたことを特徴とする法枠工法。」と訂正する。

2 発明の詳細な説明の欄
(1) 明細書【0008】(本件公告公報3欄40行)「スペーサに」を「スペーサに左右に離隔して二本の連結棒を固定して、この連結棒に各々沿わして」と訂正する。
(2) 明細書【0009】(同公報3欄48行)「上記構成によれば、」を「上記構成によれば、二枚の型枠間に横架された複数のスペーサに左右に離隔して二本の連結棒を固定して、この左右の連結棒に各々沿わして二枚の型枠と平行となるようにして複数の主鉄筋を固定し、且つ、」と訂正する。
(3) 明細書【0010】(同公報4欄12行)「主鉄筋に」を「主鉄筋の」と訂正する。
(4) 明細書【0015】(同公報5欄11行)「本実施例は上述の如く構成されており、」を「本実施例は上述の如く構成されており、二枚の型枠間に横架された複数のスペーサ13に左右に離隔して二本の連結棒14,14を固定して、この左右の連結棒14,14に各々沿わして二枚の型枠11,11と平行となるようにして複数の主鉄筋15,15を固定し、且つ、」と訂正する。
(5) 明細書【図面の簡単な説明】(同公報6欄21行)「完成する」を「完成しうる」と訂正する。

第五 訂正請求書に対する補正の内容
平成13年6月1日付け手続補正書により、訂正請求書に添付した明細書の補正明細書を提出している。その補正明細書によると、補正の内容は以下のとおりである。
1 特許請求の範囲
訂正請求書に添付した明細書の特許請求の範囲の、
「エキスパンドメタルから成る平行な二枚の型枠を法面の傾斜方向と直交するようにして法面上に載置し、該二枚の型枠間に横架された複数のスペーサに前記二枚の型枠と平行となるようにして複数の主鉄筋を固定し、法面に挿入した主及び補助の各アンカー筋を、主鉄筋に対し各々その谷側に位置するようにして固定するとともに、山側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋と谷側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋の配置が千鳥状になるようにして前記二枚の型枠を法面上に定着し、前記二枚の型枠の間及び外側面にモルタルもしくはコンクリートを打設するようにしたことを特徴とする法枠工法。」を
「エキスパンドメタルから成る平行な二枚の型枠を法面の傾斜方向と直交するようにして法面上に載置し、該二枚の型枠間に横架された複数のスペーサに左右に離隔して二本の連結棒を固定して、この連結棒に各々沿わして前記二枚の型枠と平行となるようにして複数の主鉄筋を固定し、法面に挿入した主及び補助の各アンカー筋を、主鉄筋に対し各々その谷側に位置するようにして固定するとともに、山側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋と谷側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋の配置が千鳥状になるようにして前記二枚の型枠を法面上に定着し、前記二枚の型枠の間及び外側面にモルタルもしくはコンクリートを打設するようにしたことを特徴とする法枠工法。」と補正する。

2 発明の詳細な説明の欄
(1) 訂正請求書に添付した明細書【0008】「スペーサに左右に離隔して二本の連結棒を固定して、この連結棒に各々沿わして」を「スペーサに」と補正する。
(2) 同明細書【0009】「上記構成によれば、二枚の型枠間に横架された複数のスペーサに左右に離隔して二本の連結棒を固定して、この左右の連結棒に各々沿わして二枚の型枠と平行となるようにして複数の主鉄筋を固定し、且つ、」を「上記構成によれば、」と補正する。
(3) 同明細書【0015】「本実施例は上述の如く構成されており、二枚の型枠間に横架された複数のスペーサ13に左右に離隔して二本の連結棒14,14を固定して、この左右の連結棒14,14に各々沿わして二枚の型枠11,11と平行となるようにして複数の主鉄筋15,15を固定し、且つ、」を「本実施例は上述の如く構成されており、」と補正する。
(4) 同明細書【図面の簡単な説明】「完成しうる」を「完成する」と補正する。

第六 訂正請求書に対する補正の適否について
特許法134条5項において準用する同法131条2項本文は、「前項の規定により提出した請求書の補正は、その要旨を変更するものであってはならない。」と規定してあり、これによれば、訂正請求書の補正は、訂正請求書の要旨を変更しない範囲で許されるものである。
本件補正は、訂正請求書に添付した明細書を補正するものであるが、訂正請求書に添付した明細書を補正することは、結果的には訂正請求書を補正することである。その補正の内容のうち特許請求の範囲についての補正は、訂正明細書の特許請求の範囲に「左右に離隔して二本の連結棒を固定して、この連結棒に各々沿わして」の記載を新たに加入するものであるが、このような補正は訂正事項に変更を加えるものであり、訂正請求についての審理の対象を変更するものであって、訂正請求書の要旨を変更するものである。
したがって、平成13年6月1日付け手続補正書によりなされた本件訂正請求書に対する補正は、採用することができない。

第七 訂正の適否について
一 訂正後の特許請求の範囲
「エキスパンドメタルから成る平行な二枚の型枠を法面の傾斜方向と直交するようにして法面上に載置し、該二枚の型枠間に横架された複数のスペーサに前記二枚の型枠と平行となるようにして複数の主鉄筋を固定し、法面に挿入した主及び補助の各アンカー筋を、主鉄筋に対し各々その谷側に位置するようにして固定するとともに、山側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋と谷側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋の配置が千鳥状になるようにして前記二枚の型枠を法面上に定着し、前記二枚の型枠の間及び外側面にモルタルもしくはコンクリートを打設するようにしたことを特徴とする法枠工法」

二 訂正の適否
訂正請求によると、「主及び補助の」を「各アンカー筋」の前に挿入することにより、アンカー筋は主アンカー筋と補助アンカー筋とからなるものであることを意味している。そして、その挿入訂正により、特許請求の範囲の「主及び補助の各アンカー筋」に続いて記載されている「アンカー筋」(2箇所)も当然に主アンカー筋と補助アンカー筋を意味することとなる。換言すると、訂正後においては、山側の主鉄筋の谷側と谷側の主鉄筋の谷側のそれぞれに、主アンカー筋と補助アンカー筋が固定され、それら山側の主鉄筋の谷側と谷側の主鉄筋の谷側のそれぞれに固定される主アンカー筋と補助アンカー筋の配置が千鳥状になることを意味することとなる。
一方、願書に添付した明細書によると、補助アンカー筋について、「16は下側部分が法面12に挿入され且つ上側部分が山側の主鉄筋15,15にその谷側に位置するようにして結束線により結び付けられる補助アンカ-筋であって、上記型枠11,スペ-サ13,連結棒14,主鉄筋15を法面12上に定着する。」(【段落番号0012】9〜12行)、及び「尚、補助アンカー筋16はこれ以外にも、図1及び図2に示したように、下側部分が法面12に挿入され且つ上側部分が谷側の主鉄筋15にその谷側に位置するようにして結束線により結び付けられると共に、山側の主鉄筋に結び付けられる補助アンカー筋16と谷側の主鉄筋に結び付けられる補助アンカー筋16の配置が千鳥状となっている。」(段落番号【0013】)との記載がある。主アンカー筋については、「17は法面12の傾斜方向を平行な二枚の型枠11,11と法面12の傾斜方向と直交する二枚の型枠11,11とが直交する部分において、下側部分が法面12に挿入され且つ上側部分が山側の主鉄筋15,15にその谷側に位置するようにして結束線により結びつけられる補助アンカー筋よりも太い主アンカ-筋であって、これが上記直交する部分を法面12上に定着する。」(【段落番号0014】1〜5行)との記載がある。そして、願書に添付した図面中の【図1】〜【図3】及び【図5】に、主アンカー筋17と補助アンカー筋16についての記載がある。
これら願書に添付した明細書又は図面の記載によると、補助アンカー筋16は、山側の主鉄筋の谷側と谷側の主鉄筋の谷側にそれぞれ固定して、各補助アンカー筋の配置が千鳥状になるように構成されるものであるが、主アンカー筋17は、法面12の傾斜方向を平行な二枚の型枠11,11と法面12の傾斜方向と直交する二枚の型枠11,11とが直交する部分において、山側の主鉄筋15,15の谷側にのみ位置するようにして構成されるものである。
してみると、上記における訂正後の内容は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項と相違し、しかもその記載した事項から直接的かつ一義的に導き出せた事項ともいえないものであり、本件訂正請求に係る訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないとの規定に反してなされたものである。

三 被請求人の主張に対して
被請求人は、訂正請求書において、「このように『補助アンカー筋』及び『主アンカー筋』双方が主鉄筋の谷側に位置するように固定されていることが記載されているのであって、詳細な説明に記載されていた事項を特許請求の範囲に書き加えたものであることが理解できると思量する。更に、『補助アンカー筋16』と『主アンカー筋17』双方とも、主鉄筋15の谷側に固定されているという位置関係は【図1】においても明瞭に記載されている。」(同訂正請求書3頁17〜23行)と主張している。
さらに平成13年6月1日付け意見書において、「この中で、『各アンカー筋』を『主鉄筋に対し各々その谷側に位置するよう』にするというのは、訂正拒絶理由通知書にもある通り、明細書の段落番号【0014】にて『主アンカー筋が山側の主鉄筋の谷側』に固定してあることが明瞭に記載されており、明細書等の事項の範囲を逸脱していないのはご理解頂けると思量致します。次に『山側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋と谷側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋との配置が千鳥状になる』ようにするのは、段落番号【0010】に記載されており、その段落において『アンカー筋』には『主』或は『補助』という限定が付されておらず、また『主アンカー筋』と『補助アンカー筋』を含めた全ての『アンカー筋』が千鳥状配置となった構成は図1において明瞭に記載されています。つまり『主アンカー筋』と『補助アンカー筋』が千鳥状配置となっている構成は、明細書及び図面に記載された事項と同一であって、何ら矛盾することなく、その範囲を逸脱するものではないのです。」(同意見書5頁17〜29行)と主張している。
しかしながら、主アンカー筋17は、「山側の主鉄筋15,15にその谷側に位置するようにして」構成する点は開示されているものの、谷側の主鉄筋の谷側に位置するようにして構成する点は何ら開示されていない。そして、訂正前の明細書中に主鉄筋を谷側の主鉄筋の谷側に位置するようにして構成してもよい等の記載はなく、このようなことは記載した事項から直接的かつ一義的に導き出せた事項ともいえない。
したがって、訂正後の内容は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項と相違するものであり、被請求人の主張は採用できない。

四 まとめ
したがって、本件審判請求に係る訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の規定により、なお従前の例によるとされる、特許法134条2項ただし書きの規定に適合しないので、認められない。

第八 利害関係について
甲第11号証(平成8年4月26日の東京地方裁判所和解期日調書の写し)によると、「第3条 原告特許権が有効であると確定した場合は、次の通りとする。
(1)原告特許権が補正する事一切なく有効であると確定した場合、i (略)ii その余の『法枠工法』の実施については、原告特許権の有効である事が確定した時点での法的事実関係における特許権侵害ないし抵触の法律問題として、別途解決さるべきものとする。(2)原告の特許権が補正審決を経る事で、それなりの『特許請求の範囲』のものとして確定した場合、上記第2条(4)の3(原文は丸数字)と上記第3条(1)の通りとする。」との規定があり、さきの無効審判については、「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決が確定したことから、「その余の『法枠工法』の実施については、原告特許権の有効である事が確定した時点での法的事実関係における特許権侵害ないし抵触の法律問題として、別途解決さるべきものとする。」との規定が適用になることが認められる。
被請求人は「第6条において、『原告(被請求人)と被告(請求人)らは、本件事件につき、本和解条項に定める外、いかなる法形式・名目をもってするも、それぞれ相互に、何らの債権債務のないものである事を確認する。』としており、まさに現在請求人と被請求人との間には訴訟等の事件も存在せず、何ら法律問題も生じていない。」(平成13年6月1日付け答弁書3頁16〜20行)と主張するが、第6条には、「本件事件につき・・・確認する。」と記載されており、上記和解条項はあくまで、さきの無効審判事件に関しての規定と考えるのが適切である。
さらに、上記の和解条項以外に、明文等により請求人が審判請求を取り下げる旨の合意がなされていることも認められない。
そして、被請求人も言及しているように、「審判請求人は、型枠の材料メーカーであり、本件特許発明に対しては当業者に当た」(平成12年2月21日付け答弁書2頁18,19行)り、関係者であることが認められる。
以上のことを総合的に考慮すると、本件審判請求人である岡部株式会社は、本件審判を請求するに際し利害関係を有することが認められる。

第九 本件発明について
一 本件発明
特許第1941670号の発明は、その特許請求の範囲に記載された、以下のとおりのものである。(平成8年1月11日付け訂正請求)
「エキスパンドメタルから成る平行な二枚の型枠を法面の傾斜方向と直交するようにして法面上に載置し、該二枚の型枠間に横架された複数のスペーサに前記二枚の型枠と平行となるようにして複数の主鉄筋を固定し、法面に挿入した各アンカー筋を、主鉄筋に対し各々その谷側に位置するようにして固定するとともに、山側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋と谷側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋の配置が千鳥状になるようにして前記二枚の型枠を法面上に定着し、前記二枚の型枠の間及び外側面にモルタルもしくはコンクリートを打設するようにしたことを特徴とする法枠工法」

二 引用刊行物記載の発明
1 請求人が提出した、本件特許発明の出願前に公知の刊行物である、「土木技術」45巻3号(平成2年3月1日発行:甲第1号証)、特公昭60-4327号公報(甲第9号証)及び特開平3-55320号公報(甲第4号証)には、それぞれ以下の発明が記載されているものと認められる。

2 「土木技術」45巻3号(平成2年3月1日発行)、発行所、土木技術社、103〜110頁[山田邦光「現場打のり枠工(吹付フレームとアンカー工法等)適用と施工事例」](甲第1号証、以下「引用例1」と言う。)には、特に、以下(1)、(2)の記載があり、
(1) 「また、吹付けフレーム工法(KKEフレーム、ストロングフレーム、フリーフレーム)によってはエキスパンドメタルやクリンプ金網の型枠を吹付けコンクリートの中に埋設する捨型枠方式を採用して、吹付けコンクリートの欠点を補っている。この場合には抑制工のみならず抑止工の構造梁としてのロックボルトやグラウンドアンカーと併用して、地山の補強安定工として使用され既に多くの実績がある。」(同106頁右欄下より3行〜107頁左欄5行)、
(2) 図-5 吹付けフレームの打継ぎ、
これらの記載によると、
「エキスパンドメタルから成る平行な二枚の型枠を法面の傾斜方向と直交するようにして法面上に載置し、前記二枚の型枠と平行となるようにして複数の主筋を固定し、法面に挿入した各補助アンカーを、主筋に対し各々その谷側に位置するようにして固定するとともに、山側の主筋の谷側に固定した補助アンカーと谷側の主筋の谷側に固定した補助アンカーの配置がほぼ対応した状態になるようにして前記二枚の型枠を法面上に定着し、前記二枚の型枠の間及び外側面にモルタルもしくはコンクリートを打設するようにした法枠工法」
が開示されているものと認める。

3 特公昭60-4327号公報(甲第9号証、以下「引用例2」と言う。)には、特に、以下(1)〜(4)の記載があり、
(1) 「この型枠Cは、構造物Aに囲繞されて形成された方形の空所3に内接するように、構造物Aの各外側面1a,1b,1c,1dに対応した薄板材の各辺板2a,2b,2c,2dを枠状に組合せて形成したもので、薄板材としては、厚紙、ダンボール、木、プラスチック、金属等が用いられるが、できるだけ軽量な材料を使用することが得策である。」(同公報1頁2欄14〜21行)、
(2) 「型枠Cが設置されると、次に連結筋Dを用いて型枠相互の結合を行なうようにする。」(同2頁左欄22,23行)、
(3) 「型枠C相互の結合ができると主筋12を適宜配置して、主筋12と連結筋Dとを溶接や結着等の手段によって結合させるとともに、所要個所にアンカー13を施設して、このアンカー13をこれらの配筋の適所に結合させるようにする。なお、主筋12はあらかじめ連結筋Dに結合しておいてもよく、この場合には型枠Cの結合と同時に配筋の組込みも終えることになり、それだけ現場での手間も省けることになる。型枠Cの結合と配筋を終えれば、各型枠間の空所に対してコンクリートの打設、あるいはモルタルの吹込みが行なわれる。」(同2頁左欄43行〜右欄10行)、
(4) 第1〜6図、
これらの記載によると、
「薄板材から成る型枠を法面の傾斜方向と直交するようにして法面上に載置し、型枠間に横架された複数の連結筋に型枠と平行となるようにして複数の主筋を固定し、法面に挿入した各アンカーを、主筋に固定するとともに、前記型枠の間及び外側面にモルタルもしくはコンクリートを打設するようにした法枠工法」
が開示されているものと認める。

4 特開平3-55320号公報(甲第4号証、以下「引用例3」と言う。)には、特に、以下(1)〜(6)の記載があり、
(1) 「(1)構築すべき構造物の巾方向左右両側に沿って各々適宜間隔ずつ離して地山にアンカーを打設し、この左右のアンカー間に主筋及びフープ筋から成る鉄筋体を配設し、左右のアン力ーの外側には堰板を配し、両堰板間にセメント系硬化材を打設して成る法面保護構造物の施工法。
(2)構築すべき構造物の巾方向左右両側に沿って打設するアンカーは、左右いずれか一方側の各アンカーの間に他方側のアンカーが各々位置するようにしたことを特徴とする請求項(1)記載の法面保護構造物の施工法。
(3)鉄筋体をアンカーに固定したことを特徴とする請求項(1)または(2)記載の法面保護構造物の施工法。
(4)堰板をアン力-に固定したことを特徴とする請求項(1)または(2)記載の法面保護構造物の施工法。」(同公報1頁下段左欄5行〜右欄1行、【特許請求の範囲】)、
(2) 「この発明は法面上に型枠を組み、セメント系硬化材を打設して法面の崩壊を防止する構造物の施工法に関する。」(同1頁下段右欄4〜6行)、
(3) 「堰板としては合板や紙製のもののほか、エキスパンドメタル、パンチメタル、クリンプ金網等の多孔性のものが使用できる。」(同2頁下段左欄1〜3行)、
(4) 「図において1はアンカーである。実施例ではアンカ-1として鋼棒を使用している。アンカー1は構築すべき構造物の巾方向左右に各々複数本ずつ適宜間隔ずつ離して打設する。また打設する位置は、左右いずれか一方の各アンカー1・1の間に他方側のアンカー1が位置するようにしておく。すなわち左右両側のアンカー1・1が距離を置いてたがいちがいに位置するようにする。この両側のアンカー1・1間に鉄筋体2を配設する。鉄筋体は複数本の主筋3を構造物の長手方向に沿って配し、これらの外周をフ-プ筋4によって取り囲んだものである。鉄筋体2はアン力一1・1間にあるため、巾方向にずれることがない。実施例では鉄筋体2のフープ筋4を結束線によってアンカー1に固定している。左右のアンカー1・1の両外側に堰板5・5を起立する。堰板5としてエキスパンドメタルを使用した。両堰板5・5間にはスペーサ-6を配して結束線等によって固定する。また第7図に示すように堰板5はアン力-1に固定してもよい。両堰板5・5間にセメント系硬化材であるコンクリート7を打設して構造物を構築する。」(同2頁下段左欄9行〜右欄10行)、
(5) 「(b)左右のアンカーをたがいちがいに配することでアンカーの本数を少なくし、安価に施工できる。」(同2頁下段右欄18〜20行)、
(6) 第1〜6図、
これらの記載によると、
「エキスパンドメタルから成る平行な二枚の堰板を法面の傾斜方向と直交するようにして法面上に載置し、前記二枚の堰板と平行となるようにして複数の主筋をフープ筋を介して固定し、法面に挿入した各アンカーを山側の主筋の谷側に、そして谷側の主筋の山側にそれぞれ位置するようにして固定するとともに、山側の主筋の谷側に固定したアンカーと谷側の主筋の山側に固定したアンカーの配置が千鳥状になるようにして前記二枚の堰板を法面上に定着し、前記二枚の堰板の間及び外側面にモルタルもしくはコンクリートを打設するようにした法枠工法」
が開示されているものと認める。

三 対比・検討
1 本件発明と引用例1記載の発明との対比
本件発明と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明における「主筋」、「補助アンカー」は、本件発明における「主鉄筋」、「アンカー筋」にそれぞれ対応し、両者は下記の点で一致し、下記の相違点1,2で相違している。
一致点
「エキスパンドメタルから成る平行な二枚の型枠を法面の傾斜方向と直交するようにして法面上に載置し、前記二枚の型枠と平行となるようにして複数の主鉄筋を固定し、法面に挿入した各アンカー筋を、主鉄筋に対し各々その谷側に位置するようにして固定するとともに、前記二枚の型枠の間及び外側面にモルタルもしくはコンクリートを打設するようにした法枠工法」
相違点1
アンカー筋を固定する主鉄筋を、本件発明においては、二枚の型枠間に横架された複数のスペーサに固定するのに対し、引用例1記載の発明においては、この点が明確でない点。
相違点2
山側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋と谷側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋の配置を、本件発明においては、千鳥状になるようにして二枚の型枠を法面上に定着するのに対し、引用例1記載の発明においては、ほぼ対応した状態になるようにして二枚の型枠を法面上に定着する点。

2 相違点に対する判断
(1) 相違点1について
引用例2には、「薄板材から成る型枠を法面の傾斜方向と直交するようにして法面上に載置し、型枠間に横架された複数の連結筋に型枠と平行となるようにして複数の主筋を固定し、法面に挿入した各アンカーを、主筋に固定するとともに、前記型枠の間及び外側面にモルタルもしくはコンクリートを打設するようにした法枠工法」が、公知の技術手段として記載されている。
そこで、引用例1におけるような法枠工法において、そのアンカー筋を固定する主鉄筋として、引用例2に記載されているような、型枠間に横架された複数の連結筋(スペーサに相当)に型枠と平行となるようにして複数の主筋(主鉄筋に相当)を固定する構成を適用して本件発明におけるように構成するようなことは、引用例1も、引用例2もそれぞれ地山法面の保護、補強の工法に係るものであること、さらに、引用例1に記載されたものに引用例2に記載された技術事項を適用するのに際し、特にその組み合わせ又は置換を阻害する要因もないことをも考慮すると、格別顕著な困難性を見出すことはできず、当業者であれば容易になし得た程度のことである。
(2) 相違点2について
引用例3には、「エキスパンドメタルから成る平行な二枚の堰板を法面の傾斜方向と直交するようにして法面上に載置し、前記二枚の堰板と平行となるようにして複数の主筋をフープ筋を介して固定し、法面に挿入した各アンカーを山側の主筋の谷側に、そして谷側の主筋の山側にそれぞれ位置するようにして固定するとともに、山側の主筋の谷側に固定したアンカーと谷側の主筋の山側に固定したアンカーの配置が千鳥状になるようにして前記二枚の堰板を法面上に定着し、前記二枚の堰板の間及び外側面にモルタルもしくはコンクリートを打設するようにした法枠工法」が、公知の技術手段として記載されている。
そこで、引用例1におけるような法枠工法において、山側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋と谷側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋の配置として、山側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋と谷側の主鉄筋の谷側に固定したアンカー筋に係るものではないが、引用例3に記載されているような、山側の主筋(主鉄筋に相当)の谷側に固定したアンカー(アンカー筋に相当)と谷側の主筋(主鉄筋に相当)の山側に固定したアンカー(アンカー筋に相当)の配置が千鳥状になるようにして二枚の堰板(型枠に相当)を法面上に定着する構成を適用して、本件発明におけるように構成するようなことは、引用例1も、引用例3もそれぞれ地山法面の保護、補強の工法に係るものであること、さらに、引用例1に記載されたものに引用例3に記載された技術事項を適用するのに際し、特にその組み合わせ又は置換を阻害する要因もないことをも考慮すると、格別顕著な困難性を見出すことはできず、当業者であれば容易になし得た程度のことである。
(3) まとめ
全体として、本件発明によってもたらされる効果も、引用例1〜引用例3記載の各発明から、当業者であれば当然に予測することができる程度のものであって、格別顕著なものとは言えない。
したがって、本件発明は、引用例1〜引用例3記載の各発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第十 むすび
以上、本件発明の特許は、特許法123条1項2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-07-04 
結審通知日 2001-07-09 
審決日 2001-07-27 
出願番号 特願平3-161069
審決分類 P 1 112・ 121- ZB (E02D)
P 1 112・ 02- ZB (E02D)
P 1 112・ 832- ZB (E02D)
P 1 112・ 841- ZB (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 安藤 勝治  
特許庁審判長 幸長 保次郎
特許庁審判官 中田 誠
鈴木 公子
登録日 1995-06-23 
登録番号 特許第1941670号(P1941670)
発明の名称 法枠工法  
代理人 加藤 誠  
代理人 福島 英一  
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