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審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 訂正を認める。無効としない B41J
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない B41J
審判 全部無効 特29条の2 訂正を認める。無効としない B41J
管理番号 1047714
審判番号 審判1999-35510  
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-03-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-09-20 
確定日 2001-05-02 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2107514号発明「ファクシミリ装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯
1)本件特許第2107514号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)についての出願は、平成1年8月17日に出願され、平成8年11月6日にその発明について特許の設定登録がされたものである。
2)これに対して請求人は、本件特許発明は甲第1号証乃至甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるし、また甲第3号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第2項または第29条の2の規定に違反してなされたと主張し、証拠方法として甲第1号証乃至甲第3号証を提出している。
3)これに対して被請求人は平成12年3月30日に答弁書を提出するとともに、訂正請求書を提出して訂正を求めた。
4)これに対して請求人は平成12年6月15日に弁駁書を提出した。
5)平成12年7月26日に特許庁審判廷において口頭審理が実施され、その結果を受けて当審により平成12年8月21日付けで訂正拒絶理由通知を兼ねた無効理由通知がされた。
6)これに対して被請求人は、平成12年3月30日付けの訂正請求書を取り下げ、平成12年10月30日に審判事件意見書を提出するとともに、訂正請求書を提出して訂正を求めた。
7)これに対して、請求人は平成13年1月15日に弁駁書を提出した。

2.訂正の可否に対する判断
(1)訂正の内容
a.特許請求の範囲の請求項1の
「1個の回転可能なゴムローラと、送信モード時およびコピーモード時には前記ゴムローラに対し送信原稿を挟んで接近せしめられた状態で前記送信原稿の読み取りを行い、受信モード時には前記ゴムローラから離隔せしめられるイメージセンサと、受信モード時及びコピーモード時には前記ゴムローラに対しサーマルペーパを挟んで接近せしめられた状態でサーマルペーパーへの印字を行い、送信モード時には前記ゴムローラから離隔せしめられるサーマルヘッドとを備えたことを特徴とするファクシミリ装置。」
とあるを、
「1個の回転可能なゴムローラと、送信モード時およびコピーモード時には前記ゴムローラに対し送信原稿を挟んで接近せしめられた状態で前記送信原稿の読み取りを行い、受信モード時には前記ゴムローラから離隔せしめられるイメージセンサと、受信モード時およびコピーモード時には前記ゴムローラに対しサーマルペーパを挟んで接近せしめられた状態で前記サーマルペーパへの印字を行い、送信モード時には前記ゴムローラから離隔せしめられるサーマルヘッドと、前記イメージセンサおよび前記サーマルヘッドにそれぞれ設けられた舌片と、前記2つの舌片の間に端部が位置するように設けられ、角度を変化させることにより何れか1つの舌片を押圧する1つの回動可能な押圧板とを具備することを特徴とするファクシミリ装置。」
と訂正する。
b.発明の詳細な説明の[課題を解決するための手段]の項(特許公報第3欄第20行〜29行)を
「本発明は上記の目的を達成するため、1個の回転可能なゴムローラと、送信モード時及びコピーモード時には前記ゴムローラに対し送信原稿を挟んで接近せしめられた状態で前記送信原稿の読み取りを行い、受信モード時には前記ゴムローラから離隔せしめられるイメージセンサと、受信モード時およびコピーモード時には前記ゴムローラに対しサーマルペーパを挟んで接近せしめられた状態で前記サーマルペーパへの印字を行い、送信モード時には前記ゴムローラから離隔せしめられるサーマルヘッドと、前記イメージセンサおよび前記サーマルヘッドにそれぞれ設けられた舌片と、前記2つの舌片の間に端部が位置するように設けられ、角度を変化させることにより何れか1つの舌片を押圧する1つの回動可能な押圧板とを具備している。」
と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aはファクシミリ装置においてイメージセンサおよびサーマルヘッドをゴムローラに対して接離させるための「押圧板」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項bは特許請求の範囲の訂正に伴って、発明の詳細な説明の記載を整合させるためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項aおよびbは、新規事項の追加には該当しないし、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものでもない。

(3)独立特許要件の判断
A.特許法第29条違反について
(ア)訂正明細書の請求項1に係る発明
訂正明細書の請求項1に係る発明は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本件発明」という。)
「1個の回転可能なゴムローラと、送信モード時およびコピーモード時には前記ゴムローラに対し送信原稿を挟んで接近せしめられた状態で前記送信原稿の読み取りを行い、受信モード時には前記ゴムローラから離隔せしめられるイメージセンサと、受信モード時およびコピーモード時には前記ゴムローラに対しサーマルペーパを挟んで接近せしめられた状態で前記サーマルペーパへの印字を行い、送信モード時には前記ゴムローラから離隔せしめられるサーマルヘッドと、前記イメージセンサおよび前記サーマルヘッドにそれぞれ設けられた舌片と、前記2つの舌片の間に端部が位置するように設けられ、角度を変化させることにより何れか1つの舌片を押圧する1つの回動可能な押圧板とを具備することを特徴とするファクシミリ装置。」

(イ)甲第1号証乃至甲第3号証記載の発明
甲第1号証(特開平1-179563号公報)
a.送信原稿を読み取るイメージセンサと、受信した画像を記録する印字ヘッドと、紙送りを行う駆動ローラとから成り、上記イメージセンサと上記印字ヘッドとを該駆動ローラの周壁に互いに当接するように設けたことを特徴とするファクシミリ装置。(公報第1頁特許請求の範囲の項)
b.(24)はソレノイドで、該ソレノイド(24)の先端は上記ブラケット(22)に取着され、基端はファクシミリの本体に固着されている。このソレノイド(24)をOFFの状態(第1図)にすると、上記印字ヘッド(21)を駆動ローラ(8)に押圧付勢させ、記録紙(P)を送ることになり、またソレノイド(24)をONの状態(第1図矢印A)にすると、印字ヘッドが軸(23)を支点に旋回し駆動ローラ(8)から離れ、記録紙(P)が送られないようになる。(公報第2頁右下欄第15行〜第3頁左上欄第5行)
c.送信時の動作は、原稿載置板(3)上に原稿(D)が載置されると、操作パネル(28)からの送信指令により、まずソレノイド(24)をONする事によって印字ヘッド(21)を駆動ローラ(8)から離し、記録紙(P)を送られないようにする。(公報第3頁右上欄第3行〜8行)
d.受信時の動作は、操作パネル(28)からの記録開始指令により、まずソレノイド(24)をOFFする事によって印字ヘッド(21)を駆動ローラ(8)に押圧付勢させる。(公報第3頁右下欄第3行〜6行)
e.本ファクシミリ装置により原稿(D)のコピーを行う場合の動作は、原稿載置板(3)上に原稿(D)が載置されると、操作パネル(28)からのコピー指令により、まずソレノイド(24)をOFFすることによって印字ヘッド(21)を駆動ローラ(8)に押圧付勢させると共に、給紙ローラ(4)の電磁クラッチはON状態になる。(公報第3頁右下欄末行〜第4頁左上欄第7行)
以上の記載事項を対比のためにまとめると、甲第1号証には次の通りの発明が記載されている。
「1個の回転可能なプラテンローラと、送信時及びコピー時にプラテンローラに対し送信原稿を挟んで接近せしめられた状態で送信原稿の読み取りを行うイメージセンサと、受信時およびコピー時にはプラテンローラに対し記録紙を挟んで接近せしめられた状態で記録紙への印字を行い、送信時にはプラテンローラから離隔せしめられる印字ヘッドと、印字ヘッドをプラテンローラに対して接離させるソレノイドを具備するファクシミリ装置。」

甲第2号証(特開昭62-126765号公報)
等倍センサー2とサーマルヘッド3は両方とも断面コ字状のホルダー4にスプリング5を介して上下に対面して平行に取り付けられる。スプリング5による荷重は双方でそれぞれ異なる。第1図に示す様にホルダー4は底面に傾斜12を持っており、この傾斜12はフレームベース6のガイド斜面と一致する。プラテンローラ1はホルダー4上方に設けたステッパモータ7よりベルトを介して動力を受けて駆動されるが、等倍センサー2かサーマルヘッド3かどちらかに圧接しているかによって回転方向が切り換えられる。ホルダー4には第1図に示した様にラック8が付随しており、小型モータ9のピニヨン10によって第1図の左右方向に移動する。このホルダー4の移動によって等倍センサー2とサーマルヘッド3のプラテンローラ1への圧接を切り換える。即ち、ホルダー4が図において左方向に、上向きの傾斜に沿って摺動した場合は上昇し、Bの位置で等倍センサー2と適当な圧接力で接触する。また逆に図において右方向に、下向きの傾斜に沿って摺動した場合は下降し、Aの位置でサーマルヘッド3に圧接する。(公報第2頁右上欄第14行〜左下欄第16行)

甲第3号証[特願平1-37238号(特開平2-216962号)の願書に最初に添付された明細書または図面、以下、「先願明細書」という。]
なお、願書に最初に添付された明細書または図面の記載事項については、出願から公開公報発行までに補正はないから、公開公報記載事項で代替する。
a.受信側のカバー2には、上端6aに印字部としてのサーマルヘッド5を有するレバー6が支軸7を介して揺動可能に取付けられている。レバー6の上端6aとカバー2との間には、サーマルヘッド5を紙送りローラ9に圧接するためのコイルバネ15が設けられている。この例において、記録紙ガイド20は、コイルバネ13aを介して筐体1側に設けられている記録紙受け台13との間で所定の摩擦力にて記録紙12を保持する板バネからなる。送信側のカバー3には、上端8aに原稿読取部としてのイメージセンサー4を有するレバー8が支軸29を介して揺動可能に取り付けられている。レバー8の上端8aとカバー3との間には、イメージセンサー4を紙送りローラ9に圧接するためのコイルバネ14が設けられている。このようにして、サーマルヘッド5とイメージセンサー4は、一つの紙送りローラ9に対して、その両側から圧接される。(公開公報第2頁右下欄第12行〜3頁左上欄第11行)
b.偏心カム10,11は、筐体1内において上記レバー6とレバー8の各下端6b,8bに作用するように配置されており、この実施例において、偏心カム10,11は90度の回転位相角を有している。次に、このファクシミリ装置の作用について説明する。イニシャル時及びコピー時、偏心カム10,11は、第1図に示されるように、ともにレバー6,8に対して作用しない位置あり、したがって、イメージセンサー4及びサーマルヘッド5は、紙送りローラ9に対して圧接した状態におかれるとともに、(公報第3頁右上欄第17行〜左下欄第8行)
c.送信モード時には、上記イニシャル時及びコピー時の状態から・・・第3図に示されているように、一方の偏心カム10にて受信側のレバー6を支軸7を中心として時計方向に回動し、サーマルヘッド5を紙送りローラ9から離す。この時・・・イメージセンサー4は紙送りローラ9に圧接した状態のままである。(公報第3頁右下欄第14行〜4頁左上欄第5行)
d.受信モード時には、上記送信モード時の状態から・・・・第4図に示されるように、今度は他方の偏心カム11にて送信側のレバー8を支軸29を中心として反時計方向に回動し、イメージセンサー4を紙送りローラ9から離す。これに伴って、・・・一方の偏心カム10が受信側レバー6からはずれるためサーマルヘッド5は紙送りローラ9に圧接する。(公報第4頁左上欄第14行〜右上欄第4行)

以上の記載を対比のためにまとめると、先願明細書には、次の通りの発明が記載されている。
「1個の回転可能な紙送りローラ9と、送信モード時及びコピー時には紙送りローラ9に対し原稿を挟んで圧接せしめられた状態で原稿の読み取りを行い、受信モード時には紙送りローラ9から離隔せしめられるイメージセンサー4と、受信モード時およびコピー時には紙送りローラ9に対し記録紙12を挟んで圧接せしめられた状態で記録紙への印字を行い、送信モード時には紙送りローラ9から離隔せしめられるサーマルヘッド5と、イメージセンサー4およびサーマルヘッド5にそれぞれ設けられたレバー6と、2つのレバー6、6のそれぞれの外側に設けられ、角度を変化させることにより対応するレバー6を押圧する回動可能な偏心カム10、11とを具備するファクシミリ装置。」

(ウ)対比・判断
(A)本件発明と甲第1号証及び2号証との対比
本件発明と甲第1号証記載の発明と対比すると、甲第1号証記載の発明の「プラテンローラ」、「送信時」、「コピー時」、「受信時」、「記録紙」、「印字ヘッド」は、それぞれ本件発明の「ゴムローラ」、「送信モード時」、「コピーモード時」、「受信モード時」、「サーマルペーパー」、「サーマルヘッド」に相当するから、両者間には次のような一致点、相違点がある。
(一致点)
1個の回転可能なゴムローラと、送信モード時及びコピーモード時には前記ゴムローラに対し送信原稿を挟んで接近せしめられた状態で前記送信原稿の読み取りを行うイメージセンサと、受信モード時およびコピーモード時には前記ゴムローラに対しサーマルペーパを挟んで接近せしめられた状態でサーマルペーパーへの印字を行い、送信モード時には前記ゴムローラから離隔せしめられるサーマルヘッドとを具備するファクシミリ装置。
(相違点)
(1)本件発明のイメージセンサが受信モード時にゴムローラから離隔せしめられるのに対して、甲第1号証記載の発明はイメージセンサは離隔せしめられない点。
(2)本件発明はイメージセンサおよびサーマルヘッドにそれぞれ設けられた舌片と、前記2つの舌片の間に端部が位置するように設けられ、角度を変化させることにより何れか1つの舌片を押圧する1つの回動可能な押圧板とを具備しているのに対して、甲第1号証記載の発明はサーマルヘッドをプラテンローラに対して接離させるソレノイドを具備しているだけである点。
(相違点の検討)
相違点(1)に関しては、甲第2号証に受信モード時にイメージセンサをプラテンローラから離隔させる点が記載されており、この点は当業者が容易に考えつくことができた構成の変更である。
相違点(2)に関しては、甲第2号証にも記載されていないし、周知・慣用でもないから、この点が当業者が容易に考えつくことができた構成の変更であるとすることはできない。
以上のことから、本件発明が甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

(B)先願明細書記載の発明との対比
本件発明を先願明細書記載の発明と対比すると、
a.先願明細書記載の発明の「コピー時」、「紙送りローラ9」、「レバー6」は、それぞれ本件発明の「コピーモード時」、「ゴムローラ」、「舌片」に相当し、
b.先願明細書記載の発明において、紙送りローラに対して、原稿や記録紙を挟んでイメージセンサーやサーマルヘッドを圧接させるということは、紙送りローラに対して、原稿や記録紙を挟んでイメージセンサーやサーマルヘッドを接近させることになるし、
c.先願明細書記載の発明の「原稿」には送信原稿が含まれ、「記録紙」にはサーマルペーパが含まれるし、
d.先願明細書記載の発明の「2つのレバー6、6のそれぞれの外側に設けられ、角度を変化させることにより対応するレバー6を押圧する回動可能な偏心カム10、11」と、本件発明の「2つの舌片の間に端部が位置するように設けられ、角度を変化させることにより何れか1つの舌片を押圧する1つの回動可能な押圧板」とは、「2つの舌片に対応して設けられ、角度を変化させることにより何れか1つの舌片を押圧する回動可能な押圧部材」である点で共通し、
以上のことから両者間には次のような一致点、相違点がある。
(一致点)
1個の回転可能なゴムローラと、送信モード時およびコピーモード時には前記ゴムローラに対し送信原稿を挟んで接近せしめられた状態で前記送信原稿の読み取りを行い、受信モード時には前記ゴムローラから離隔せしめられるイメージセンサと、受信モード時及びコピーモード時には前記ゴムローラに対しサーマルペーパを挟んで接近せしめられた状態でサーマルペーパへの印字を行い、送信モード時には前記ゴムローラから離隔せしめられるサーマルヘッドと、前記イメージセンサおよび前記サーマルヘッドにそれぞれ設けられた舌片と、前記2つの舌片に対応して設けられ、角度を変化させることにより何れか1つの舌片を押圧する回動可能な押圧部材を備えたファクシミリ装置。
(相違点)
2つの舌片に対応して設けられ、角度を変化させることにより何れか1つの舌片を押圧する回動可能な押圧部材が、本件発明は「2つの舌片の間に端部が位置するように設けられ、角度を変化させることにより何れか1つの舌片を押圧する1つの回動可能な押圧板」であるのに対して、先願明細書記載の発明は「2つのレバー6、6のそれぞれの外側に設けられ、角度を変化させることにより対応するレバー6を押圧する回動可能な偏心カム10、11」からなる点。
(相違点の検討)
上記相違点について検討すると、上記相違点が課題解決のための具体化手段における微差であって実質的に同一というためには、本件発明の具体化手段である「2つの部材の間に端部が位置するように設けられ、角度を変化させることにより何れか1つの部材を押圧する1つの回動可能な押圧板」が周知技術、あるいは慣用技術であって、同一の作用効果を奏するものでなければならないが、審判請求人はその点に関する証拠を提出して立証していないし、その点が周知あるいは慣用手段であるともいえないから、上記相違点が課題解決のための具体化手段における微差であって実質的に同一であるとはいえない。
なお、この点に関して審判請求人は平成13年1月15日提出の弁駁書において、先願明細書記載の発明も、「偏心カムは、外側に配置されているため当然2つ設けられているが、切換機構として1つのものであり、切換機構として作用する舌片の内側に配置するか外側に配置するかは効果として何ら変わるものではない。」と主張している。
しかし、先願明細書記載の発明のレバー6の外側に設けられた2つの偏心カム10及び11が本件発明の舌片を押圧する1つの押圧板に対応するものであるが、偏心カム11及び12をもって1つの回動可能な押圧板であるとはいうことができないから、審判請求人の主張は採用できない。
したがって、本件発明が先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。

B.特許法第36条違反について
審判請求人は平成13年1月15日付けの弁駁書において、「押圧板は梃子式のものであり、単なる角度を変化させる旨の表現では、依然として不明瞭な記載であり、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない。」と主張しているので検討する。
訂正後の特許請求の範囲には、回動可能な押圧板の端部がイメージセンサとサーマルヘッドの間に位置し、押圧板を回動させて角度を変化させることによって何れか1つの舌片を押圧する構成が規定されており、この記載が不明りょうであるとすることはできないし、この構成については発明の詳細な説明にも記載されている。
審判請求人の上記主張は、発明の詳細な説明に記載されている押圧板は梃子式であるから、梃子式であることが規定されなければ構成が不明瞭であるというものと考えられるが、梃子式であっても押圧板は回動されると角度が変化して舌片を押圧するものであるから、上記訂正後の特許請求の範囲の記載で構成は明りょうに特定され、本件特許が特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものとすることはできない。

C.まとめ
したがって、本件発明は特許出願の際、独立して特許を受けることができるものである。

(4)むすび
以上のことから、本件訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年改正前の特許法第134条第2項の規定及び特許法第134条第5項の規定によって準用する特許法第126条第2項及び3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許無効についての判断
(1)請求人の主張
請求人は本件特許発明の特許を無効とするとの審決を求め、その理由として本件特許発明は甲第1号証乃至甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるし、また甲第3号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第2項または第29条の2の規定に違反してなされたと主張し、証拠方法として甲第1号証乃至甲第3号証を提出している。
また、平成12年10月30日付け訂正請求に対して、この訂正は特許請求の範囲に明りょうでない記載を導入するものであって、本件発明の特許は特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している。

(2)被請求人の主張
これに対して被請求人は、当審により通知された無効理由を解消する訂正を平成12年10月30日に請求したので、本件審判の請求は成り立たないと主張している。

(3)当審による訂正拒絶理由通知を兼ねた無効理由通知の概要
平成12年3月30日付けの訂正請求(後日取り下げ)における特許請求の範囲の請求項1に係る発明の「2つの舌片の間隔よりも狭い幅を有し、上記2つの舌片の間に位置して、角度を変化させることにより何れか1つの舌片を押圧する1つの切換機構とを具備し」から特定される構成は、発明の詳細な説明には記載されていないものであって、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は特許出願の際独立して特許を受けることができない。
特許査定時の本件特許発明は特願平1-37238号(特開平2-216962号)の願書に最初に添付された明細書または図面に記載された発明と同一の発明であり、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。

(4)当審の判断
上記2.独立特許要件の判断 で示したように本件発明は、甲第1号証及び2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし、先願明細書に記載された発明と同一でもないし、明細書及び図面の記載が特許法第36条第4項に規定された要件を満たさないものではないから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ファクシミリ装置
(57)【特許請求の範囲】
1個の回転可能なゴムローラと、送信モード時およびコピーモード時には前記ゴムローラに対し送信原稿を挟んで接近せしめられた状態で前記送信原稿の読み取りを行い、受信モード時には前記ゴムローラから離隔せしめられるイメージセンサと、
受信モード時およびコピーモード時には前記ゴムローラに対しサーマルペーパを挟んで接近せしめられた状態で前記サーマルペーパヘの印字を行い、送信モード時には、前記ゴムローラから離隔せしめられるサーマルヘッドと、
前記イメージセンサおよび前記サーマルヘッドにそれぞれ設けられた舌片と、
前記2つの舌片の間に端部が位置するように設けられ、角度を変化させることにより何れか1つの舌片を押圧する1つの回動可能な押圧板とを具備することを特徴とするファクシミリ装置。
【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明はファクシミリ装置に関するものである。
[従来の技術]
第4図は従来の一般的なファクシミリ装置の構成を概略的に示したものである。すなわち、送信原稿駆動用のゴムローラ1’に対して送信原稿2’を挟んでイメージセンサ3’をバネ等(図示せず)により密着させ、ゴムローラ1’をモータ等(図示せず)により回転させることにより送信原稿2’を搬送し、ゴムローラ1’の軸方向に1列ずつ送信原稿2’上の文字・図形等の画像を読み取って電気信号に変換する。また、サーマルペーパ駆動用のゴムローラ4’に対してサーマルペーパ5’を挟んでサーマルヘッド6’をバネ等(図示せず)により密着させ、ゴムローラ4’をモータ等(図示せず)により回転させることによりサーマルペーパ5’を搬送し、ゴムローラ4’の軸方向に1列ずつ加熱印字する。
[発明が解決しようとする課題]
上述したように、従来のファクシミリ装置は送信原稿2’の搬送機構とサーマルペーパ5’の搬送機構とが独立しており、ゴムローラが1’、4’というように2個必要とする構成であったため、次のような欠点があった。
▲1▼2個のゴムローラ1’、4’およびそれぞれの駆動機構(モータおよび減速ギア)のために大きなスペースを必要とし、ファクシミリ装置の小型化および低コスト化が図れない。
▲2▼ゴムローラ1’、4’の直径に差があったり、回転にムラがあると、コピーモード(イメージセンサ3’で送信原稿2’の画像を読み取ると同時にサーマルヘッド6’でサーマルペーパ5’に印字を行うモード)において文字・図形等が等倍にコピーされなかったりムラが生じたりして、印字品質が低下する。
本発明は上記の点に鑑み提案されたものであり、その目的とするところは、ゴムローラを1個とすることができ、小型化および低コスト化を図れると共に、コピーモードにおける等倍性等の印字品質の向上を図ることのできるファクシミリ装置を提供することにある。
[課題を解決するための手段]
本発明は上記の目的を達成するため、1個の回転可能なゴムローラと、送信モード時およびコピーモード時には前記ゴムローラに対し送信原稿を挟んで接近せしめられた状態で前記送信原稿の読み取りを行い、受信モード時には前記ゴムローラから離隔せしめられるイメージセンサと、受信モード時およびコピーモード時には前記ゴムローラに対しサーマルペーパを挟んで接近せしめられた状態で前記サーマルペーパヘの印字を行い、送信モード時には、前記ゴムローラから離隔せしめられるサーマルヘッドと、前記イメージセンサおよび前記サーマルヘッドにそれぞれ設けられた舌片と、前記2つの舌片の間に端部が位置するように設けられ、角度を変化させることにより何れか1つの舌片を押圧する1つの回動可能な押圧板とを備えている。
[作用]
本発明のファクシミリ装置にあっては、送信モード時は、1個の回転可能なゴムローラに対しイメージセンサが送信原稿を挟んで接触し、サーマルヘッドはゴムローラから離隔せしめられる。これにより送信原稿が送られ、イメージセンサによって送信原稿全体の画像の読み取りが行われる。また受信モード時は、ゴムローラに対しサーマルヘッドがサーマルペーパを挟んで接触し、イメージセンサはゴムローラから離隔せしめられる。これによりサーマルヘーパが送られ、サーマルヘッドによって印字が行われる。更にコピーモード時は、ゴムローラに対しイメージセンサが送信原稿を挟んで接触すると共に、サーマルヘッドがサーマルペーパを挟んで接触する。これにより送信原稿の読み取りとサーマルペーパヘの印字とが同時に行われる。
[実施例]
以下、本発明の実施例につき図面を参照して説明する。
第1図は本発明のファクシミリ装置の一実施例を示す構成図であり、送信原稿およびサーマルペーパの搬送方向と直角方向から見た断面構造を概略的に示している。
第1図において、1はゴムローラであり、周知の駆動機構(モータおよび減速ギア)により回転可能となっている。一方、3はゴムローラ1の軸方向に1列ずつ送信原稿2の画像を読み取るイメージセンサであり、ゴムローラ1に対し送信原稿2を挟んでバネ4により適正な圧力で当接可能となっている。また、7はゴムローラ1の軸方向に1列ずつサーマルペーパ6に加熱印字するサーマルヘッドであり、ゴムローラ1に対しサーマルペーパ6を挟んでバネ8により適正な圧力で当接可能となっている。なお、5はシャーシである。加えて、第1図においては、イメージセンサ3とサーマルヘッド7とがゴムローラ1の下と上で対向する構造となっているが、この配置に限られず、要は1個のゴムローラ1に対してイメージセンサ3とサーマルヘッド7とが接触可能であればよい。
更に、9はファクシミリ装置として不可欠の3つのモードを切り換える切換機構である。すなわち、ファクシミリ装置としては、
・送信モード
・受信モード
・コピーモード
の3つのモードが存在し、送信モードではイメージセンサ3だけが働き、受信モードではサーマルヘッド7だけが働き、コピーモードではイメージセンサ3およびサーマルヘッド7の両者が働くため、各モードで不要な側をゴムローラ1から離すことにより各モードを実現する。
第2図は切換機構9を機械的に実現した具体例を示したものであり、イメージセンサ3およびサーマルヘッド7の両端に舌片3a、3b、7a、7bを設けると共に、ゴムローラ1の回転軸1aに嵌合し回動可能な押圧板91、92の端部91a、92aをゴムローラ1の両端において舌片3a、7a、3b、7bの間に位置するように設け、2つの押圧板91、92を連結棒93で一体化して連動するようにし、押圧板91に設けられたレバー91bにより押圧板91、92の角度を変化させることにより、モードの切換を行うようにしている。すなわち、レバー91bがaの位置の場合は、第3図(a)に示すように、抑圧板91(92)の端部91aはイメージセンサ3およびサーマルヘッド7の舌片3a、7aと非接触の状態にあるためイメージセンサ3およびサーマルヘッド7はバネ4、8(第1図参照)によりゴムローラ1に押し付けられ、両者とも動作可能となってコピーモードとなる。また、レバー91bがbの位置の場合は、第3図(b)に示すように、押圧板91の端部91aの上端がサーマルヘッド7の舌片7aを押圧してゴムローラ1からサーマルヘッド7を引き離し、イメーセンサ3はバネ4によりゴムローラ1に押し付けられているため、イメージセンサ3だけが動作可能となって送信モードとなる。更に、レバー91bがcの位置の場合は、第3図(c)に示すように、押圧板91の端部91aの下端がイメージセンサ3の舌片3aを押圧してゴムローラ1からイメージセンサ3を引き離し、サーマルヘッド7はバネ8によりゴムローラ1に押し付けられているため、サーマルヘッド7だけが動作可能となって受信モードとなる。
なお、切換機構9は第2図に示した機械的なものに限られず、例えばプランジャを用いた電気的なものでも構成することが可能である。
以下、第1図の実施例の動作を説明する。
先ず、送信モードにあっては、サーマルヘッド7は切換機構9によりゴムローラ1から離隔した状態となっており、イメージセンサ3のみがゴムローラ1に当接しており、ゴムローラ1の回転に伴って送信原稿2がイメージセンサ3の読取部上を移動し、送信原稿2の文字・図形等の画像が電気信号に変換され、信号処理を施されて送信される。
また、受信モードにあっては、イメージセンサ3は切換機構9によりゴムローラ1から離隔した状態となっており、サーマルヘッド7のみがゴムローラ1に当接しており、ゴムローラ1の回転に伴ってサーマルペーパ6がサーマルヘッド7の印字部上を移動し、相手局より受信した信号に基づいて受信画像をサーマルペーパ6上に印字する。
コピーモードにあっては、イメージセンサ3およびサーマルヘッド7の両方ともゴムローラ1に当接しており、ゴムローラ1の回転に伴って送信原稿2がイメージセンサ3の読取部上を移動し、送信原稿2の文字・図形等の画像が電気信号に変換されると同時に、ゴムローラ1の回転に伴ってサーマルペーパ6がサーマルヘッド7の印字部上を移動し、イメージセンサ3で読み取った文字・図形等の画像がサーマルペーパ6上に印字される。
[発明の効果]
以上説明したように本発明のファクシミリ装置にあっては、
▲1▼ゴムローラが1個で済むため、モータおよび減速ギア等の駆動機構も1組で済み、ゴムローラを2個必要としていた従来のファクシミリ装置に比べて大幅な小型化および低コスト化が達成できる。
▲2▼1個のゴムローラにより送信原稿の読取およびサーマルペーパヘの印字が行われるため、コピーモードにおいて等倍性が保たれると共に、回転ムラによる不良も発生せず、印字品質が大幅に向上する。
▲3▼受信モード時には、イメージセンサがゴムローラから離隔せしめられるため、イメージセンサの先端がゴムローラに直接に接触することがなく、ゴムローラの回転負荷を軽減することができると共に、イメージセンサによるゴムローラ面の磨耗等を防止することができる。
等の効果がある。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明のファクシミリ装置の一実施例を示す構成図、第2図および第3図は第1図における切換機構の例を示す図、第4図は従来のファクシミリ装置を示す構成図である。
1………ゴムローラ
2………送信原稿
3………イメージセンサ
4………バネ
5………シャーシ
6………サーマルペーパ
7………サーマルヘッド
8………バネ
9………切換機構
91、92…押圧板
93………連結棒
 
訂正の要旨 (3)訂正の要旨
▲1▼特許請求の範囲の構成要件の「とを備えたことを特徴とするファクシミリ装置。」を『と、前記イメージセンサおよび前記サーマルヘッドにそれぞれ設けられた舌片と、前記2つの舌片の間に端部が位置するように設けられ、角度を変化させることにより何れか1つの舌片を押圧する1つの回動可能な押圧板とを具備し、送信モード時には前記サーマルヘッドの舌片を切換機構により押圧してサーマルヘッドをゴムローラより離隔せしめ、受信モード時には前記イメージセンサの舌片を切換機構により押圧してイメージセンサをゴムローラより離隔せしめ、コピーモード時には切換機構により何れの舌片をも押圧させないことを特徴とするファクシミリ装置。』と訂正する。
▲2▼特許請求の範囲の訂正に対応させて平成6年12月22日付け手続補正書第2頁第10〜11行(公報第3欄第29行)の「とを備えるようにしている」を『と、前記イメージセンサおよび前記サーマルヘッドにそれぞれ設けられた舌片と、前記2つの舌片の間に端部が位置するように設けられ、角度を変化させることにより何れか1つの舌片を押圧する1つの回動可能な押圧板とを具備している。』と訂正する。
審理終結日 2001-02-14 
結審通知日 2001-02-27 
審決日 2001-03-12 
出願番号 特願平1-211764
審決分類 P 1 112・ 121- YA (B41J)
P 1 112・ 16- YA (B41J)
P 1 112・ 534- YA (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉村 尚井上 和也  
特許庁審判長 石川 昇治
特許庁審判官 砂川 克
小沢 和英
登録日 1996-11-06 
登録番号 特許第2107514号(P2107514)
発明の名称 ファクシミリ装置  
代理人 役 昌明  
代理人 役 昌明  
代理人 田中 増顕  

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