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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) B28B
管理番号 1048258
審判番号 審判1999-35494  
総通号数 24 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-09-13 
確定日 2001-10-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第2588117号発明「コンクリート構造物を築造する方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2588117号発明の明細書の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.経緯
本件特許第2588117号は、平成5年7月30日(国内優先日:平成4年8月19日)に出願(特願平5-208223号)されたものであって、平成8年12月5日に特許登録され、平成11年9月13日に秩父産業株式会社より無効審判の請求があり、平成11年12月24日に審判事件答弁書が提出され、平成12年5月1日に審判事件弁駁書が提出され、平成12年5月29日に両当事者出席の上特許庁審判廷において口頭審理が行われ、その後、平成12年7月21日に審判事件答弁書が提出され、平成12年8月1日に審判事件弁駁書が提出された。

2.請求人の請求の理由の概要
請求人は、本件特許の請求項1及び同2に係る発明(以下、本件発明1及び同2という)についての特許を無効とすべき理由として、本件発明1及び2は、証拠として提出した甲第1号証ないし甲第3号証に記載されたもの及び周知の技術的事項から、当業者が容易になし得た程度のものであるから、特許法第29条第2項に該当し無効とされるべきである旨主張する。

3.被請求人の主張の概要
被請求人は、平成11年12月24日付及び平成12年7月21日付の審判事件答弁書において、本件発明1及び2は、甲各号証のものが奏し得ない特有の効果を奏するものであるから、甲各号証に記載された事項から当業者が容易になし得たものではないこと、また、甲第3号証に記載された「溶接金網」と本件発明1及び2の「鉄筋金網」とは異なるものであるから、特許法第29条第2項には該当せず、無効理由はない旨主張する。

4.請求の理由についての検討
4-1 本件発明1及び同2の認定
本件発明1及び同2は、明細書の特許請求の範囲の請求項1及び同2に記載された次のとおりである。
【請求項1】予め、鉄筋金網を所定形状に成形し、該鉄筋金網をコンクリート構造物の築造場所に固着し、次いで移動して前記コンクリート構造物を連続して形成する型枠を有した自動コンクリート連続成型施工装置を用い、前記型枠をその内側に前記鉄筋金網が位置するように配設し、更に低スランプのコンクリート材を前記型枠に連続的に流し込みながら、前記自動コンクリート連続成型施工装置を移動させ、前記コンクリート構造物を連続的に築造することを特徴とするコンクリート構造物を築造する方法。
【請求項2】鉄筋金網は、少なくとも厚み方向に2面有し、該2面の鉄筋金網の中間部には幅止め筋が設けられている請求項1記載のコンクリート構造物を築造する方法。
4-2 書証の記載事項
請求人は、本件特許の優先日前に頒布されたと認められる刊行物の甲第1号証ないし甲第3号証を証拠として提出して、本件発明1及び同2は、甲各号証記載のものから当業者が容易に発明できたものである旨主張するので以下検討する。
(1)甲第1号証:「日経コストラクション」、1992年2月28日、日経BP社発行」、44頁ないし47頁
44頁ないし47頁には、「事例5 道路構造物のスリップフォーム工法(大成道路)米国生まれを日本流にしつける」との表題のもとに、次の記載が認められる。
(ア)44頁左欄1行ないし4行には、「水路や防護壁などの道路に付帯するコンクリート構造物は、形は小さいながらも同じ形状で長く続くという性格を持つ。」と記載され、
(イ)44頁左欄15行ないし中欄6行には、「施工の中心となるのは米国ゴメゴ社製の「コマンダーIII」。生コン車で運ばれたコンクリートを・・・締め固めて所定の形状に仕上げる。その間にも機械はゆっくりと自走し、通り過ぎた後には連続したコンクリート構造物が残される。構造物は有筋でも無筋でも構わない。有筋構造物の場合は、あらかじめ鉄筋だけ組んでおく。構造物の形状は、モールドを取り換えることで自由にできる。」と記載され、
(ウ)44頁右欄1行ないし3行には、「この結果、スランプが3cm、空気量が6%、骨材の最大寸法が20mmとなった。」と記載され、
(エ)45頁の下には、「スリップフォーム工法によるコンクリート壁の施工概要」の図が示されており、左から順に生コン車、機械、コンクリート製防護壁が記載され、機械の前方には鉄筋、中央にはモールド、後方にはコンクリート製防護壁が記載され、
(オ)46頁下の写真は、「コンクリートは生コン車から直接供給する。あらかじめ組んだ鉄筋に右端のモールドがまたがった格好だ。手前に見えるのは機械を誘導するセンサーロープ」との説明が記載されている。
(2)甲第2号証:「図解土木コンクリート用語集」、1988年12月5日、株式会社東洋書店発行、152頁ないし153頁
152頁のスリップフォーム工法の項には、「コンクリートの舗設にスリップフォームペーバや移動式型枠を用いる工法。通常のセットフォーム工法では、施工時に型枠を必要とするのに対し、型枠を設置せずに連続的な施工が可能である。」と、又、「スリップフォームペーバ」の項には、「コンクリート版の舗設機械の一種。・・型枠を設置せずにコンクリート版を連続的に舗装することができる。・・・」と記載されている。
(3)甲第3号証:「溶接金網設計施工マニュアル 建築用鉄筋コンクリート構造物」11頁ないし12頁、42頁ないし46頁、昭和51年2月、線材製品協会発行
(ア)11頁の「1-3溶接金網の特色」の項には、「コンクリート補強用としての溶接金網の特色は次の通りである。」との記載に続き、利点として、「(1)労務工数の削減が可能で且つ高度の技能を必要としない。 全体が、がっちりした網状になっているので、配筋が容易且つ正確にできるので、配筋手間を削減することが可能(従来配筋法の50〜70%でできる)であり、又、技能的な熟練を要しない。(2)配筋が正確である。 手配筋に比べてピッチ等が極めて正確である。従って現場施工管理上も、極めて有利である。・・・(5)コンクリート打設時の配筋の乱れが少ない。・・(6)普通鉄筋に比べて定着、継手が簡単であり又許容応力度が高い。・・」と記載され、
(イ)12頁の「1-4溶接金網の沿革と製造方法」の項には、日本における溶接金網の製造は1948年頃から開始され、当初の用途としては、土木関係でコンクリート舗装道路・溝梁等の補強筋として使用され、最近では建築関係にも多く使用されつつある旨、更に、溶接金網の素線はJISG-3532「鉄線」で規定される普通鉄線のうち、その機械的性質等がJISG-3551「溶接金網」に規定される条件を満たすものであって、この鉄線を所定長さに切り揃え格子状にして、たて線とよこ線を電気抵抗溶接する旨記載され、
(ウ)43頁ないし44頁の「3-3-3溶接金網の加工」の項には、溶接金網の加工は折曲機を使って現場加工や工場加工を行うことが記載され、
(エ)46頁の図3-20には、壁たて筋の間に巾止め兼用スペーサーを用いることがそれぞれ記載されている。
4-3 本件発明1について
(1)本件発明1と甲第1号証に記載されたものとの対比
本件発明1は、従来、自動コンクリート連続成型施工装置を使用するコンクリート構造物を築造する方法において、コンクリート構造物を築造する築造現場にて結束線を使用して鉄筋相互を所定形状、所定ピッチにて組み立てたてており、熟練した鉄筋工を必要とし、その手配及び工事に手間を要していたということを課題の1つとして、該課題を解決すべく特許請求の範囲の請求項1記載の構成としたものであって、「鉄筋金網」については、従来の技術の項において、コンクリート補強用鉄筋を用いたものであり、実施例において、該鉄筋を予め工場にて必要な長さ分を縦鉄筋と横鉄筋を交叉させて必要な長さ分を配筋し、その交点をスポット溶接にて溶着したものであり、必要により縦鉄筋15の下部を屈曲させ(明細書の段落番号0002、0003、0007)ていると記載されている。
一方、甲第1号証に記載されたものの、スリップフォーム工法に用いられる米国ゴメゴ社製の「コマンダーIII」は、モールド(型枠)を有し、無筋、有筋のコンクリート構造物を連続的に施工する自走式の機械であるから、本件発明1の自動コンクリート連続成型施工装置に相当するものであることは明らかであり、有筋の場合は、あらかじめ鉄筋を所定形状に網目状に組んでコンクリート構造物の築造場所に固定されるものであり、さらに、用いられるコンクリートはスランプが3cmであることから本件発明1でいう「低スランプのコンクリート材」であることから、本件発明1と甲第1号証に記載されたものとは、「予め、鉄筋を所定形状に成形し、該鉄筋をコンクリート構造物の築造場所に固着し、次いで移動して前記コンクリート構造物を連続して形成する型枠を有した自動コンクリート連続成型施工装置を用い、前記型枠をその内側に前記所定形状に成形された鉄筋が位置するように配設し、更に低スランプのコンクリート材を前記型枠に連続的に流し込みながら、前記自動コンクリート連続成型施工装置を移動させ、前記コンクリート構造物を連続的に築造することを特徴とするコンクリート構造物を築造する方法。」において一致し、本件発明1が、鉄筋として「鉄筋金網」を用いているのに対し、甲第1号証に記載されたものでは、鉄筋は予め所定形状に網目状に成形されているものの鉄筋金網を用いているかどうか不明である点で相違していると認められる。
(2)以下、相違点について検討する。
甲第3号証は昭和51年2月に発行されたものであって、そこに記載された「溶接金網」は、JIS-G3551の「溶接金網」に規定されたものであって、JIS-G3551の「溶接金網」は、主にコンクリート構造物及び補強用として使用されるものであって、JIS-G3532の「鉄線」を直交して幾何学的に配列し、それらの交点を電気抵抗溶接して、格子状につくった金網である。
そして、甲第3号証の「1-3溶接金網の特色」の項には、コンクリート補強用としての溶接金網の利点として、「(1)労務工数の削減が可能で且つ高度の技能を必要としない。全体が、がっちりした網状になっているので、配筋が容易且つ正確にできるので、配筋手間を削減することが可能(従来配筋法の50〜70%でできる)であり、又、技能的な熟練を要しない。 (2)配筋が正確である。手配筋に比べてピッチ等が極めて正確である。従って現場施工管理上も、極めて有利である。・・・」と記載されており、「溶接金網」は、手配筋に比べて配筋手間を削減することが利点の1番に挙げられているように、コンクリート構造物の補強用の鉄線を予め格子状に溶接しておくことによって、現場での配筋作業を容易にすることが記載されている。
ここで、甲第1号証に記載されたスリップフォーム工法に用いられる予め組まれた鉄筋も、甲第3号証に記載された、鉄線を予め格子状に溶接した「溶接金網」もともにコンクリート構造物の補強に用いられるものであるから、甲第1号証に記載されたスリップフォーム工法に用いられる予め組まれた鉄筋を、甲第3号証に記載された「溶接金網」のように予め溶接しておくことによって本件訂正発明1の相違点のように構成することは、当業者が容易に想到できたことと考えられる。
(3)被請求人は、本件発明1のように鉄筋金網を用いた場合、
利点1:施工された鉄筋金網が施工中に前方へ倒壊することがない。
利点2:施工された鉄筋金網の上を監督者や作業員が往復できる。
利点3:施工された鉄筋金網が左右へ傾斜するのを防止できる。
利点4:作業員の省力化ができる。
利点5:築造されたコンクリート構造物の美観の向上する。
という利点があり、更に、次の利点は甲第3号証には全く記載されていない旨主張する。
利点a.スリップフォーム工法において、スランプ値の低いコンクリートを使用した時には、特に内部の鉄筋に応力がかかり、結束線を使用した手組みの鉄筋では、鉄筋が前側に倒壊し易く施工に問題があるが、鉄筋金網を使用すれば、鉄筋の接続部分の強度が強く、鉄筋金網の面方向に強くなるので、施工された鉄筋が前側に倒壊することはない。
利点b.スリップフォーム工法は型枠を連続的に移動させて同一断面形状のコンクリート構造物を築造するのに最適の方法であるから、補強用鉄筋の断面も同一構造の連続となり、従って、大量生産可能な同一構造の鉄筋金網を製造して、これを継ぎ足していけばよいので、鉄筋金網の量産や規格化が可能となり、双方のメリットが協調して更により効率的な高速度の施工が可能となる。
利点c.高速道路等のように連続した部分の大規模な集中工事の場合に、鉄筋金網を用いたスリップフォーム工法を行えば、品質の良いコンクリート構造物を極めて短期間に築造することができる。また、本件発明は格段の成果をあげて、現在までに10kmを超える施工実績があり商業的にも成功している。
しかしながら、被請求人の主張する利点はいずれも、鉄筋を予め格子状に溶接したことによって生ずる利点にすぎない。
つまり、甲第3号証にも記載されているように、予め鉄線を格子状に溶接した溶接金網をコンクリート補強用として用いた場合、配筋が容易且つ正確であり、配筋手間が削減でき、技能的熟練が不要である、コンクリート打設時の配筋の乱れが少なく、格子状に溶接していない鉄筋に比べて定着、継手が簡単で、許容応力度が高いという特色を有するものであることは本件特許の優先日前に良く知られた事項であり、被請求人の主張する利点はいずれも、当該溶接金網や格子状に溶接した鉄筋が有する特色を表現を変えていっているに過ぎず、溶接金網や格子状に溶接した鉄筋を用いたことによって当然に生じる作用効果(利点)に過ぎないものである。
また、商業的な成功は、特許の有効、無効の判断において関係がない事項である。
(4)したがって、本件発明1は甲第1号証及び甲第3号証に記載されたものから、当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項に該当する。
(5)なお、被請求人は本件発明1の「鉄筋金網」と甲第3号証に記載された「溶接金網」との違いについて、平成12年7月21日付の審判事件答弁書において、概ね、「溶接金網」に用いられる鉄線は、JIS-G3505で規定される軟鋼線材を伸線加工したものであって、熱間加工のままで伸線加工をしない鉄筋である鉄筋コンクリート用棒鋼(JIS-G3112:例えば異形棒鋼)とは基本的にその製造方法が異なるものである旨主張する。
被請求人の上記主張の趣旨は、甲第3号証の「溶接金網」に用いられる鉄線と、本件発明1の「鉄筋金網」に用いられる鉄筋とは異なるものであることを主張するものと解されるが、甲第1号証に記載されたものは鉄筋を用いており、この鉄筋は本件発明1にいうコンクリート補強用鉄筋(例えば、鉄筋コンクリート用棒鋼(JIS-G3112))をも当然に含むと考えられることから、甲第3号証の「溶接金網」に用いられる鉄線が本件発明1の鉄筋と同じものであるのか否かに関わらず、本件発明1は、甲第1号証及び甲第3号証に記載されたものから当業者が容易に発明できたものと考えられるものであり、被請求人の主張は採用できない。

4-4 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の鉄筋金網について、「鉄筋金網は、少なくとも厚み方向に2面有し、該2面の鉄筋金網の中間部には幅止め筋が設けられている」と限定するものであるが、有筋コンクリートにおいて、メッシュ状の鉄筋(本件発明2の鉄筋金網に相当する)が厚み方向に2面有る場合に幅止め材を設けることにより、2面の間隔を適切な位置関係に保持すると共に、鉄筋が変形するのを防止するようにすることは、鉄筋コンクリートの施工方法において本件特許の優先日前に周知の技術的事項(例えば、特公昭61-14294号公報の巾止め筋11や、特開平2-190522号公報の幅止め筋16を参照のこと)であったことを考慮すると、上記の限定に係る構成は当業者にとって周知、慣用手段にすぎない。
したがって、本件発明2は、上記甲第1号証、甲第3号証に記載された事項及び周知の技術的事項から当業者が容易に発明できたものであって、特許法第29条第2項に該当する。

5.まとめ
以上のように、本件発明1及び同2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項第2項に該当する。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-09-04 
結審通知日 2000-09-19 
審決日 2000-10-05 
出願番号 特願平5-208223
審決分類 P 1 112・ 121- Z (B28B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森口 良子  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 宮崎 恭
鈴木 公子
登録日 1996-12-05 
登録番号 特許第2588117号(P2588117)
発明の名称 コンクリート構造物を築造する方法  
代理人 中前 富士男  
代理人 中前 富士男  
代理人 中前 富士男  
代理人 小川 信一  
代理人 斎下 和彦  
代理人 野口 賢照  

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