ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C07F 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C07F |
---|---|
管理番号 | 1049588 |
審判番号 | 不服2000-2883 |
総通号数 | 25 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1991-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2000-03-02 |
確定日 | 2001-12-08 |
事件の表示 | 平成2年特許願第98449号「光学活性な有機ゲルマニウム化合物の製造方法」拒絶査定に対する審判事件〔平成3年12月25日出願公開、特開平3-294283、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
1.手続きの経緯・本願発明 本願は、平成2年4月13日の出願であって、特許法第30条第1項の適用の申請を伴うものであり、その特許を受けようとする発明は、平成11年11月15日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみてその特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明1及び2」という。) 「(請求項1)式 (式中、m1は3、2、1又は0を、m2は0、1、2又は3を、 Xは-OH又は を、Yはフェニル基をそれぞれ表す。) で表されるゲルマニウム化合物に対し、式 (式中、Rはエチル基を表す。) で表されるアミノ化合物を反応させ、式 (式中、X、Y及びRは上記と同じ置換基を表す。) で表される籠状化合物とし、該籠状化合物(3)を再結晶した後、塩化水素で扱うことを特徴とする、式 (式中、X及びYは上記と同じ置換基を、Zは塩素を表す。) で表される光学活性な有機ゲルマニウム化合物の製造方法。 (請求項2)化合物(1)は、式 (式中、X及びYは上記と同じ置換基を表す。) で表される不飽和化合物に対し、トリクロルゲルマン HGeW3 (式中、Wは塩素を表す。) を反応させた後、加水分解することにより得られたものである請求項1.に記載の光学活性な有機ゲルマニウム化合物の製造方法。」 2.特許法第30条第1項の適用の適否について 原査定は、本願は特許法第30条第1項の規定を適用出来ないとし、出願人が特許法第30条第1項の適用を受けるために提出した刊行物を引用文献として、特許法第29条第1項及び第2項の規定により拒絶の査定をしたものである。 そこで、特許法第30条第1項の適用の適否について検討する。 (1)特許法第30条第1項の適用を受けるために提出した刊行物「日本化学会第59春季年会 講演予稿集I、平成2年3月14日、社団法人日本化学会発行(以下、「刊行物1」という。)に記載された発明。 刊行物1には、その第928頁の2P24、「3-フェニル-3-トリクロルゲルミルプロピオン酸の光学分割合成」において、以下のような事項が記載されている。 A.「光学活性な3-Phenyl-3-trichlorgermyl propionic acidの合成法としてゲルモキシン(III)を経由する簡便な方法を見出したので報告する。 ・・・試薬の(R)-(-)-2-Bis(hydroxyethyl)amino-1-butanol(II)は・・・から合成した。3-Phenyl-3-trihydroxygermylpropionic acid(I)と(II)をベンゼン中、共沸脱水反応を行なった後、アセトンより再結晶してゲルモキシン(III)を66.5%で得た。この結晶をベンゼンから2回再結晶して、難溶性針状結晶(m.p215-217°)(IIIa)を収率22.3%で得た。一方、ロ液を濃縮して得られた易溶性結晶を少量のベンゼンから2回再結晶を行ない(IIIb)を収率15%で得た。・・・・ 。 IIIa、IIIbを塩酸でクロル化してそれぞれ[α]D=+20.0°(C=10、MeOH)[α]D=-19.5°(C=10、MeOH)のクロライドIVa,IVbを95%収率で得た。」及び下記化学反応式 B.「別途合成としてCinnamic acid D(+)menthylesterにtrichlorogermaneを付加反応させ、3当量のアルカリで中和してtrihydroxygermyl体へ、続いて試薬IIと脱水反応を行ないゲルマトラン(ラセミ体)へと導きヘキサンで再結晶することにより、主付加体の方(VI)を収率16.5%で単品として得ることができた。この化合物をクロライドへ変換したところN.M.R値はIVaと一致した。」及び下記化学反応式 (2)対比・判断 [本願発明1について] 本願発明1は、上記に示したように、出発物質として、異なる置換基を択一的に有する表現形式(いわゆるマーカッシュ形式)の化合物を使用するものであるから、本願発明1に係る発明は、上記のいずれか一つの選択肢のみを発明を特定するための事項と仮定したときの出発化合物それぞれに対応する光学活性な有機ゲルマニウム化合物の製造方法であると認められるものであるが、大きくは、上記化学式(1)の置換基Xに着目し、 イ.Xが-OHである下記の化合物群(以下、「酸型化合物」という。) (式中、m1、m2は前記に同じ) を出発化合物とする光学活性な有機ゲルマニウム化合物の製造方法。(以下、「酸型化合物を出発化合物とする製造方法」という。) ロ.Xが である下記の化合物群(以下、「エステル型化合物」という。) (式中、m1、m2は前記に同じ) を出発化合物とする光学活性な有機ゲルマニウム化合物の製造方法。(以下、「エステル型化合物を出発化合物とする製造方法」という。) が、それぞれ本願発明1に係る発明と認められる。 さて、本願発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1には上記Bに摘示したように、有機ゲルマニウムのエステル化合物と試薬IIとを脱水反応を行ない、ゲルマトランを経由する光学活性な有機ゲルマニウム化合物の製造方法が記載されており、ここで試薬IIは上記Aの摘示事項から明らかなように、(R)-(-)-2-Bis(hydroxyethyl)amino-1-butanolであるので、本願発明1での化合物(2)のアミノ化合物に該当し、「ゲルマトラン」は、上記Bに摘示した反応式中の籠状化合物VIの化学構造式からみて、本願発明1での籠状化合物(3)に該当し、得られる化合物も該反応式からみて本願発明1での化合物(4)に該当するものであるので、本願発明1の「エステル型化合物を出発化合物とする製造方法」と刊行物1に記載されたものは、有機ゲルマニウムのエステル化合物(出発化合物)と特定のアミノ化合物を反応させ、特定の籠状化合物とし、該籠状化合物を再結晶した後、塩化水素で扱うことを特徴とする、特定の光学活性な有機ゲルマニウム化合物の製造方法で一致し、出発化合物として前者は、上記化合物(1-2)で表されるものであるのに対し、刊行物1では、「trihydroxygermyl体」と本願発明1での化合物(1-2)のうちm1が3、m2が0のものの記載はあるが、m1、m2が他の値のものについては明確な記載がない点で、一応相違する。 上記相違点を検討するに、刊行物1では、「trihydroxygermyl体へ、続いて試薬IIと脱水反応を行ない」という処理をしていることからみて、trihydroxygermyl体含有反応物を精製や分離処理をせずに用いているのであるから、そこには、副反応物として本願発明1での化合物(1-2)のうち、m1が3、m2が0以外の複数の化合物も存在することは当業者の技術的常識であるので、出発化合物においても両者に格別の差異は認められず、相違点といえないから、該本願発明1は刊行物1に記載された発明と同一の発明と認められる。 [本願発明2について] 本願発明2と刊行物1に記載されたものとを対比すると、出発化合物の製法について、刊行物1には上記Bに摘示したように、「Cinnamic acid D(+)menthylesterにtrichlorgermaneを付加反応させ、3当量のアルカリで中和してtrihydroxygermyl体」を製造することが記載されているから、本願発明2の「エステル型化合物を出発化合物とする製造方法」と刊行物1に記載されたものは出発化合物の製法についても実質的に同一であると認められ、他は上記本件発明1の判断に記載したのと同じ理由によって、該本願発明2は刊行物1に記載された発明と同一の発明と認められる。 (3)結論 以上のとおりであるから、上記本願発明1、2は刊行物1に記載された発明であり、本願は特許法第30条第1項の規定の適用を受けるものである。 したがって、上記本願発明1、2は特許法第29条第1項3号における「刊行物に記載された発明」に該当するに至らなかったものとみなされる。 3.特許法第29条第2項違反について 本願発明1の「酸型化合物を出発化合物とする製造方法」と刊行物1に記載されたものとを対比すると、刊行物1には上記Aに摘示したように、3-Phenyl-3-trihydroxygermylpropionicacid(I)(以下、「酸(I)」という。)と試薬(II)を反応させ、ゲルモキシン(III)を経由する方法が記載されているが、「ゲルモキシン」は上記Aに摘示した反応式中の化合物(III)の化学構造式から明らかなように本願発明1での籠状化合物(3)とは異なる化合物であるので、刊行物1での上記酸(I)を出発化合物とする方法は、本願発明1の方法とは異なるものである。また、刊行物1には前述のように、「エステル型化合物を出発化合物とし、ゲルマトランを経由する方法」が記載されているが、それは、上記酸(I)を出発化合物とする方法とは「別途合成」として示されているのであるから、該方法を酸型化合物を出発化合物とする場合に適用することは、当業者の容易に想到し得るものとは認められないので、本願発明1の「酸型化合物を出発化合物とする製造方法」は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 また、本願発明2の「酸型化合物を出発化合物とする製造方法」は、上記本件発明1の判断に記載したのと同じ理由により、刊行物1に記載された発明とは異なるものであり、かつ、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 そして、本願発明は、特定の出発化合物に特定の試薬を反応させ、特定の中間体を経由することにより、簡便に、光学活性な有機ゲルマニウム化合物を製造できるという効果を奏するものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明1、2は、刊行物1に記載された発明に対し特許法第29条第1項3号における「刊行物に記載された発明」とはみなされず、また、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2001-11-15 |
出願番号 | 特願平2-98449 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C07F)
P 1 8・ 113- WY (C07F) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 恵理子、安藤 達也、田中 耕一郎 |
特許庁審判長 |
板橋 一隆 |
特許庁審判官 |
西川 和子 岩瀬 眞紀子 |
発明の名称 | 光学活性な有機ゲルマニウム化合物の製造方法 |
代理人 | 小林 雅人 |