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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 H01F 審判 全部申し立て 出願日、優先日、請求日 H01F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01F |
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管理番号 | 1050086 |
異議申立番号 | 異議2001-70144 |
総通号数 | 25 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-03-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-01-11 |
確定日 | 2001-11-09 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3066600号「低損失酸化物磁性材料」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3066600号の請求項1に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第3066600号に係る手続きの主な経緯は次のとおりである。 特許出願(特願平2-209184) 平成 2年 8月 9日 特許権設定登録 平成12年 5月19日 特許異議申立 平成13年 1月11日 取消理由通知 平成13年 3月19日 意見書・訂正請求書 平成13年 5月29日 訂正拒絶理由通知 平成13年 6月15日 意見書・手続補正書(訂正請求書) 平成13年 8月24日 2.訂正の適否について 2.1 手続補正書(訂正請求書)について 2.1.1 平成13年8月24日付けでした補正の主な内容 平成13年5月29日付け訂正請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲請求項1「1)主成分として30〜42(モル%)のMnO,4〜19(モル%)のZnO,及び残部Fe2O3を含有し、副成分として0.020〜0.15(重量%)のCaO,0.005〜0.10(重量%)のSiO2,0.50重量%以下(0を含まず)のGa2O3を添加して成ると共に、0.30重量%以下(0を含まず)のTa2O5,1.0重量%以下(0を含まず)のHfO2,及び0.50重量%以下(0を含まず)のZrO2のうちの少なくとも一種を更に添加して成ることを特徴とする低損失酸化物磁性材料。」を「1)主成分として39〜66(モル%)のFe2O3,30〜42(モル%)のMnO,及び4〜19(モル%)のZnOを含有し、副成分として該Fe2O3,該MnO,及び該ZnOの主成分に対する混合物の総重量を100重量%とした場合にあって、0.50重量%以下(0を含まず)のGa2O3を含有すると共に、0.020〜0.15(重量%)のCaO,0.005〜0.10(重量%)のSiO2,0.30重量%以下(0を含まず)のTa2O5,1.0重量%以下(0を含まず)のHfO2,及び0.50重量%以下(0を含まず)のZrO2のうちの少なくとも一種を含有して成ることを特徴とする低損失酸化物磁性材料。」に補正し、この補正に合わせて「課題を解決するための手段」及びその他の部分を補正するものである。 2.1.2 補正の適否 上記訂正請求書の補正は、請求の趣旨を変更しており、また訂正事項の削除又は軽微な瑕疵の補正に該当しないことは明らかであり、その要旨を変更するものであるから、特許法第131条第2項の規定により認められない。 2.2 平成13年5月29日付けでした訂正の主な内容 2.2.1 訂正事項a 特許請求の範囲請求項1中の「主成分として33〜66(モル%)のFe2O3,30〜42(モル%)のMnO,及び4〜19(モル%)のZnOを含有し、」を、「主成分として30〜42(モル%)のMnO,4〜19(モル%)のZnO,及び残部Fe2O3を含有し、」と訂正する。 2.2.2 訂正事項b 特許請求の範囲請求項1中の「副成分として該Fe2O3,該MnO,及び該ZnOの主成分に対する混合物の総重量を100重量%とした場合にあって、」を、「副成分として」と訂正する。 2.2.3 訂正事項c 特許請求の範囲請求項1中の「0.020〜0.15(重量%)のCaO,0.005〜0.10(重量%)のSiO2,,0.50重量%以下(0を含まず)のGa2O3,0.30重量%以下(0を含まず)のTa2O5,1.0重量%以下(0を含まず)のHfO2,及び0.50重量%以下(0を含まず)のZrO2のうちの少なくとも一種を含有して成る」を、「0.020〜0.15(重量%)のCaO,0.005〜0.10(重量%)のSiO2,0.50重量%以下(0を含まず)のGa2O3を添加して成ると共に、0.30重量%以下(0を含まず)のTa2O5,1.0重量%以下(0を含まず)のHfO2,及び0.50重量%以下(0を含まず)のZrO2のうちの少なくとも一種を更に添加して成る」と訂正する。 2.3 訂正の目的の適否,新規事項の有無及び拡張・変更の存否 2.3.1 訂正事項aについて 訂正事項aで訂正された「残部Fe2O3」については、願書に添付した明細書又は図面には記載されておらず、しかも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項から当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項とも認められない。 なお、請求人(特許権者)は訂正請求書の請求の原因中(第4頁第18行〜第19行)で「組成物Fe2O3の含有量を出願当初の記載のように残部と誤記訂正」したものと主張しているが、訂正の際の基準明細書は特許明細書(特許査定時:特許公報の明細書及び図面)であり、特許明細書に記載のない出願当初明細書だけにある記載を考慮することは許されない。したがって、特許明細書の記載からは、訂正前の「主成分として33〜66(モル%)のFe2O3,30〜42(モル%)のMnO,及び4〜19(モル%)のZnOを含有し、」の数値が矛盾しており(Fe2O3の最小値33モル%に他の成分の最大値42モル%と19モル%を加えても94モル%で、100モル%にならない)、3つの主成分の内の少なくとも1つの数値が間違っていることが一義的に導かれるだけであり、Fe2O3の数値が間違っており、しかも「残部」であるということを、一義的に導くことはできない。 したがって、当該訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではなく、また、実質的に特許請求の範囲を変更するものである。 2.3.2 訂正事項bについて 訂正事項bは、訂正前にあった「該Fe2O3,該MnO,及び該ZnOの主成分に対する混合物の総重量を100重量%とした場合にあって、」を削除しているが、この記載は「主成分の総重量を100重量%とする」ことを意味することは明らかであって、明りょうであるから、この訂正は、明りょうでない記載の釈明に該当せず、しかも特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正にも該当しない。 したがって、当該訂正は、訂正の目的制限(特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明)に違反し、また、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものである。 2.3.3 訂正事項cについて 訂正事項cで訂正された、副成分として「0.020〜0.15(重量%)のCaO,0.005〜0.10(重量%)のSiO2,0.50重量%以下(0を含まず)のGa2O3を添加して成ると共に」については、願書に添付した明細書又は図面には記載されておらず、しかも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項から当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項とも認められない。 なお、請求人は請求の原因中(第4頁第26行〜第27行)で「実施例中の第1表に開示された組成のもの(実施例1〜実施例3の試料番号1〜12に対応するもの)に従ってより狭い範囲に制限した」ものと主張している。しかし、特許明細書の実施例1の記載及び第1表に開示された組成には、副成分として0.020〜0.15(重量%)のCaO及び0.005〜0.10(重量%)のSiO2を必ず添加するとの記載はない。すなわち、実施例1には、「0.02重量%のSiO2,0.06重量%のCaO,0.50重量%以下(0を含まず)のGa2O3,0.80重量%以下(0を含まず)のHfO2,0.50重量%以下(0を含まず)のTa2O5,0.50重量%以下(0を含まず)のZrO2のうちの少なくとも一種を添加し」(本件特許公報第2頁第4欄第7行〜第11行)と記載され、「0.02重量%のSiO2,0.06重量%のCaO」は選択肢の1つとして記載されているだけであり、「0.02重量%のSiO2,0.06重量%のCaO」が実施例1の試料1〜12に含まれているか否か不明であり、これらの記載から上記訂正事項cを一義的に導くことはできない。 したがって、当該訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではなく、また、実質的に特許請求の範囲を変更するものである。 2.4 訂正の適否についてのむすび 以上のとおりであるから、他の訂正事項について検討するまでもなく、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合しないので、当該訂正は認めない。 3.特許異議申立及びこれについての判断 3.1 特許異議申立の理由及び取消理由通知の概要 特許異議申立人ティーディーケイ株式会社は、甲第1号証(刊行物1:特開平4-93003号公報)、甲第2号証(刊行物2:電子材料シリーズ「フェライト」平賀他著、丸善発行、(昭和61年11月30日発行)P46-47)、甲第3号証(刊行物3:特開昭63-151620号公報)、甲第4号証(刊行物4:特開昭58-36974号公報)及び甲第5号証(刊行物5:特公昭45-39976号公報)を提出し、平成12年1月31日付けでした手続補正は、本件当初明細書の要旨を変更するものであるから、本件特許出願は、特許法第40条の規定により、その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなされ、本件請求項1に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明である、もしくは甲第2〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号もしくは同条第2項の規定に違反してされたものであり、また、本件特許は、明細書の記載に不備があり、特許法第36条に規定する要件を満たしていないので、特許を取り消すべきであると主張している。 取消理由通知は、同様の趣旨の他に、平成12年1月31日付け手続補正書により「主成分として33〜66(モル%)のFe2O3」と補正しているが、出願当初明細書には「33」なる数値はなく、また100モル%から他の主成分の最大値を引いた値「100-(42+19)=39」とも異なり、しかも自明でもないので要旨変更である旨追記した。 3.2 本件発明 上記2.で示したように上記訂正は認められないので、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「主成分として33〜66(モル%)のFe2O3,30〜42(モル%)のMnO,及び4〜19(モル%)のZnOを含有し、副成分として該Fe2O3,該MnO,及び該ZnOの主成分に対する混合物の総重量を100重量%とした場合にあって、0.020〜0.15(重量%)のCaO,0.005〜0.10(重量%)のSiO2,0.50重量%以下(0を含まず)のGa2O3,0.30重量%以下(0を含まず)のTa2O5,1.0重量%以下(0を含まず)のHfO2,及び0.50重量%以下(0を含まず)のZrO2のうちの少なくとも一種を含有して成ることを特徴とする低損失酸化物磁性材料。」 3.3 要旨変更及び第29条第1項第3号(1)について 特許権者が平成12年1月31日付けでした手続補正(以下、「手続補正」という。)が、本件明細書の要旨を変更するものであるか否かについて検討する。 3.3.1 手続補正の主な内容 上記手続補正は、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1である 「主成分として,30〜42モル%の一酸化マンガン(MnO),4〜19モル%の酸化亜鉛(ZnO),及び残部酸化第二鉄(Fe2O3)を有し、副成分として0.020〜0.15重量%の酸化カルシウム,及び0.005〜0.10重量%の二酸化ケイ素を有する低損失酸化物磁性材料において, 0.50重量%以下(0を含まず)の酸化ガリウム(Ga2O3)を含むと共に、 0.30重量%以下(0を含まず)の酸化タンタル(Ta2O5),1.0重量%以下(0を含まず)の酸化ハフニウム(HfO2),0.50重量%以下(0を含まず)の酸化ジルコニウム(ZrO2)の少なくとも一種を含む ことを特徴とする低損失酸化物磁性材料。」を 「主成分として33〜66(モル%)のFe2O3,30〜42(モル%)のMnO,及び4〜19(モル%)のZnOを含有し、副成分として該Fe2O3,該MnO,及び該ZnOの主成分に対する混合物の総重量を100重量%とした場合にあって、0.020〜0.15(重量%)のCaO,0.005〜0.10(重量%)のSiO2,0.50重量%以下(0を含まず)のGa2O3,0.30重量%以下(0を含まず)のTa2O5,1.0重量%以下(0を含まず)のHfO2,及び0.50重量%以下(0を含まず)のZrO2のうちの少なくとも一種を含有して成ることを特徴とする低損失酸化物磁性材料。」と補正するものである。 3.3.2 要旨変更の検討 手続補正により「主成分として33〜66(モル%)のFe2O3」と補正しているが、当初明細書及び図面には、「33」なる数値はない。また、「残部酸化第二鉄(Fe2O3)」という記載はあるが、100モル%から他の主成分の最大値を引いた値である残部は「100-(42+19)=39」であり、「33」とも異なり、しかも自明でもない。 また、当初明細書の請求項1では、CaO、SiO2、Ga203はいずれも不可欠の副成分であり、さらにTa2O5、HfO2、ZrO2の少なくとも一種が含まれていなければならない。これに対し補正後の請求項1には、CaO、SiO2、Ga203はいずれも含まれていない場合も包含されていることとなり、特許請求の範囲が拡張されている。そして、この拡張部分については当初明細書及び図面に、その実施例はおろかそれを示唆する記載すらなく、自明でもない。 したがって、上記手続補正は、本件当初明細書の要旨を変更するものであるから、本件特許出願は、特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第2条第2項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成5年法律第26号による改正前の特許法第40条の規定により、その補正について手続補正書を提出した平成12年1月31日にしたものとみなす。 3.3.3 第29条第1項第3号(1)について 本件特許の出願日である平成12年1月31日以前に発行された特開平4-93003号公報(本件特許に係る公開公報、以下「刊行物1」という)には、本件発明に含まれる実施例が記載されているから、本件発明は、刊行物1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反する。 3.4 第29条第1項第3号(2)について 3.4.1 刊行物3(甲第3号証):特開昭63-151620号公報に記載された発明 刊行物3は、低損失酸化物磁性材料に関するものであり、特許請求の範囲には、「1.主成分として30〜37モル%の一酸化マンガン(MnO),10〜15モル%の酸化亜鉛(ZnO)及び残分として酸化第二鉄(Fe2O3)を含み,副成分として0.04〜0.10重量%の酸化カルシウム(CaO)と0.015〜0.100重量%の二酸化ケイ素(SiO2)を含む低損失酸化物磁性材料において,0.15重量%以下(0%を含まず)の二酸化ジルコニウム(ZrO2)を添加したことを特徴とする低損失酸化物磁性材料。」と記載されている。 さらに、第2頁左上欄第17行〜右上欄第7行には、「[実施例]以下,本発明の1実施例を図面を参照して説明する。第1図は主成分として52.0モル%の酸化第二鉄(Fe2O3),34.5モル%の一酸化マンガン(MnO)及び13.5モル%の酸化亜鉛(ZnO)を含有し副成分として0.018重量%の二酸化ケイ素(SiO2)と0.043重量%の酸化カルシウム(CaO)を含有する従来組成のMn-Zn系フェライトに0.15重量%以下の二酸化ジルコニウム(ZrO2)を添加し」と記載されている。 3.4.2 本件発明と刊行物3との対比判断 刊行物3に記載された実施例の成分及びその成分量は、本件発明における成分及びその成分量の範囲に含まれ、一致する。 したがって、本件発明は、刊行物3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反する。 3.5 特許法第36条について 本件明細書の記載(本件特許公報第2頁第4欄第23行〜第28行)によれば、「試料番号13のものは、従来のフェライト系酸化物磁性材料であり、主成分として、53.0モル%のFe2O3,39.0モル%のMnO,及び8.0モル%のZnOを含有し、副成分として、これらのFe2O3,MnO,及びZnOの主成分に対する混合物の総重量を100重量%とした場合にあって、0.015重量%のSiO2及び0.08重量%のCaOを含有し」たものである。 したがって、試料番号13のものは、本件発明に含まれるものであるが、それにも拘らず、これを従来例としているのは、明らかに矛盾していて不明瞭であり、特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない。 3.6 特許異議申立についての判断のむすび 以上のとおりであるから、本件発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号及び同法第36条第3項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2001-09-17 |
出願番号 | 特願平2-209184 |
審決分類 |
P
1
651・
03-
ZB
(H01F)
P 1 651・ 531- ZB (H01F) P 1 651・ 113- ZB (H01F) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 平塚 義三 |
特許庁審判長 |
張谷 雅人 |
特許庁審判官 |
浅野 清 橋本 武 |
登録日 | 2000-05-19 |
登録番号 | 特許第3066600号(P3066600) |
権利者 | 株式会社トーキン |
発明の名称 | 低損失酸化物磁性材料 |
代理人 | 山本 格介 |
代理人 | 小林 邦雄 |
代理人 | 後藤 洋介 |
代理人 | 池田 憲保 |
代理人 | 内山 英夫 |