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審決分類 審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) E04G
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) E04G
管理番号 1050707
審判番号 無効2000-35610  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-06-20 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-11-06 
確定日 2001-10-15 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2562698号発明「コンクリ-ト埋設物の固定方法及び埋設方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2562698号の請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1 手続の経緯
本件特許特許第2562698号「コンクリート埋設物の固定方法及び埋設方法」は、昭和59年1月17日に出願された特願昭59-6833号の特許出願の一部を平成1年11月24日に分割した特願平1-306218号の特許出願に係り、平成8年9月19日に発明の数2として設定登録され、本件無効審判の答弁書提出期間内の平成13年2月13日に訂正請求がされた。

2 訂正の適否
(1)訂正の内容
上記訂正請求の内容は、図面第43図及び第44図とその説明を削除しようとするもので、次のとおり明細書及び図面を訂正するものである。
[1]「後者については第34図〜第50図に示されている。」(特許公報4欄6〜7行)を「後者については第34図〜第48図に示されている。」と訂正する。
[2]「この場合、突起(76)は第41図に示すように一端が切断された突片状のものであっても、第43図に示すように両端がボックス(10)の底壁につながった起伏状のものであってもよい。第41図に示す例の場合には支持部材(71)を前記突起(76)に当接させ、次いで第42図に示すように支持部材(71)を包むようにかしめて固定している。第43図に示す例の場合には支持部材(71)を前記突起(76)内側に挿通させ、次いで第44図に示すように突起(76)をつぶすことにより支持部材(71)をかしめて固定している。」(特許公報11欄8〜17行)を、 「第41図に示す例の場合には支持部材(71)を前記突起(76)に当接させ、次いで第42図に示すように支持部材(71)を包むようにかしめて固定している。」と訂正する。
[3]「第45図に示す例は、」(特許公報11欄18行)を「第43図に示す例は、」と訂正する。
[4]「第37図〜第45図」(特許公報11欄23行)を「第37図〜第43図」と訂正する。
「5]「第46図から第48図」(特許公報11欄28行)を「第44図から第46図」と訂正する。
[6]「第47図」(特許公報11欄39行)を「第45図」と訂正する。
[7]「第48図」(特許公報11欄43行目)を「第46図」と訂正する。
[8]「第49図および第50図」(特許公報11欄50行)を「第47図および第48図」と訂正する。
[9]「(第51図参照)」(特許公報12欄35行)を「(第49図参照)」と訂正する。
[10]「第40図から第44図まではボックスについてのさらに別例であり、第40図はその斜視図、第41図から第44図までは支持部材の固定状態を説明するための各断面図、第45図はボックスについての別例の斜視図、第46図から第48図まではインサートを例にした場合の一例であり、第46図はその斜視図、第47図は鉄筋に架設した状態の斜視図、第48図はコンクリート壁内に埋設した状態の側断面図、第49図および第50図はインサートについての別例であり、第49図はその斜視図、第50図はその断面図、第51図はプラスチック製型枠を用いコンクリート壁内にボックスを埋設した場合の側断面図である。」(14欄11〜22行)を「第40図から第42図まではボックスについてのさらに別例であり、第40図はその斜視図、第41図から第42図までは支持部材の頭定状態を説明するための各断面図、第43図はボックスについての別例の斜視図、第44図から第46図まではインサートを例にした場合の一例であり、第44図はその斜視図、第45図は鉄筋に架設した状態の斜視図、第46図はコンクリート壁内に埋設した状態の側断面図、第47図および第48図はインサートについての別例であり、第47図はその斜視図、第48図はその断面図.第49図はプラスチック製型枠を用いコンクリート壁内にボックスを埋設した場合の側断面図である。」と訂正する。
[11]第43図及び第44図を削除し、第45図を第43図に、第46図を第44図、第47図を第45図、第48図を第46図、第49図を第47図、第50図を第48図、第51図を第49図に、それぞれ訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記[2]、[11]の第43図及び第44図並びにその説明を削除する訂正については、平成1年11月24日の本件分割出願の際に追加された第43図及び第44図の実施例が、出願当初の実施例ではないことを明確にするためのもので、この訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とする。そして、この訂正は、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもない。
また、その余の訂正については、第43図及び第44図の削除に対応して、明細書及び図面の記載の整合をとるためのもので、明りょうでない記載の釈明を目的とし、新規事項を追加するものではなく、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでもない。
請求人は、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとして認めるべきであると主張する。
しかしながら、上記訂正は実施例の一部を削除するもので、特許請求の範囲の記載について訂正するものではない。また、特許請求の範囲の記載は一義的に明確であって、明細書の詳細な説明を参酌して解釈すべきであるとする事情も見あたらない。したがって、実施例の一部を削除するのみの上記訂正について、特許請求の範囲の減縮を目的とするということはできない。

(3)むすび
以上のとおり、平成6年改正前の特許法134条2項ただし書き及び134条5項において準用する平成6年改正前の126条2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3 本件発明
本件発明は、平成13年2月13日に訂正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項及び第2項に記載されたとおりの次のものと認められる。
「1.手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する支持部材を埋設物に設け、前記支持部材を折り曲げるとともにコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して、コンクリート埋設物の開口部が型枠に密接する位置に該埋設物を固定することを特徴とするコンクリート埋設物の固定方法。
2.手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する支持部材を埋設物に設け、先に立てかけた型枠に対して埋設物の開口部が密接するように前記支持部材を折り曲げるとともに支持部材をコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して、コンクリート埋設物を埋設位置に固定し、コンクリートを打設して埋設物を埋設することを特徴とするコンクリート埋設物の埋設方法。」

4 請求人の主張
(分割要件違反及び29条違反)
本件特許出願の分割は適法にされたものではないから、その出願日は、原出願の出願日まで遡及することなく、現実の出願日である平成1年11月24日又は平成5年10月29日付け手続補正書の提出日である平成5年10月29日であり、本件請求項1及び請求項2に係る発明は、本件特許出願前頒布された特開昭60-152747号公報に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
(36条4項違反)
また、本件特許出願は、明細書の特許請求の範囲の記載に不備があるため、本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許は、特許法36条4項(ただし、出願日が昭和59年1月17日に遡及する場合は特許法36条5項)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

5 被請求人の主張
本件特許出願の分割は適法にされたものであり、その出願日は、原出願の出願日である昭和59年1月17日であるから、請求人が引用する特開昭60-152747号公報は本件出願前頒布された刊行物ではない。
また、本件特許出願の明細書の特許請求の範囲の記載には不備はない。

6 分割要件違反についての判断
(1)請求人は、次の理由1〜3により、本件分割は適法ではないと主張する。
[理由1]
本件特許発明1及び2の「支持部材を埋設物に設け」る構成は、支持部材が埋設物のいかなる箇所にいかなる手段、方法、仕様で設けられる場合も包含するが、原明細書等には、そのような記載はない。
すなわち、原明細書等では、背面側の平らな面に着目して、ボックス(10)の平らな背面、インサート(50)の頭部の平らな背面、埋設物(30,40,50)の背面と対向する敵付部(32,42,52,)の平らな板面にそれぞれ線状の支持部を背面側よりあてがい、かつその状態で線状の支持部を取付けて、線状の支持部の押圧(矢印(63))が埋設物に一様に加えられるようにしたのであり、平らな面以外の別の個所に線状の支持部を取付けて埋設物を型枠に押圧できるようにした技術的思想を開示も示唆もしない。
それにもかかわらず、新たな位置での設け方についても包含できるように「支持部材を埋設物に設け」と変更したものであり、本件特許発明は、原明細書に記載した事項から明らかに逸脱し拡張しているものである。
したがって、本件特許発明に係る出願の出願日は、原出願の出願日に遡及することなく、「支持部材を埋設物に設け」と補正した平成5年10月29日である。
[理由2]
本件明細書第43図及び第44図に示す新たな実施態様は、原明細書等には全く記載されていない。したがって、本件特許発明に係る出願は適法になされた分割出願ではなく、本件特許発明に係る出願の出願日は、原出願の出願日に遡及することなく、本件分割出願の現実の出願日である平成1年11月24日である。
[理由3]
原明細書等の記載では、「線状の支持部材」又は「線状の支持部」であったものが、本件明細書の特許請求の範囲の記載では.平成5年10月29日の手続補正により単に「支持部材」と変更された。
このような「支持部材」の記載であれば、「線状の支持部材」以外のものも含まれることとなるが、原明細書等には、「線状の支持部材」以外のものを含むことについては全く記載されていない。
そうすると、本件特許発明に係る出願は適法になされた分割出願ではなく、本件特許発明に係る出願の出願日は、上記平成5年10月29日である。

(2)本件分割出願の原出願である特願昭59一6833号(特開昭60-152747号)の願書に最初に添付した明細書及び図面には、次のように記載されている。
(a)特許請求の範囲
「1 手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有する線状の支持部と、支持部をコンクリート壁内に埋設される埋設物に取付ける取付部とからなるコンクリート埋設物の架設具。
2 コンクリート埋設物とこれに一体に設けられた線状の支持部材よりなる架設具とからなり、支持部材は手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有し、支持部材を曲げてコンクリート壁内の支骨である鉄筋に架設し埋設物の位置決めを行うようになした架設具を有するコンクリート埋設物。」
(b)目的
「本発明に係る架設具は従来からある埋設物に取付けることができ、これの線状の支持部を手で折り曲げることによってコンクリート壁の支骨をなす鉄筋への架設状態を自由に設定できるようにし、また、本発明に係る埋設物は線状の支持部材である架設具を用いることによってコンクリート壁の支骨をなす鉄筋への架設状態を自由に設定できるようにしたもので、本発明の目的とするところは、埋設物を埋設するにあたって、埋設物の鉄筋への架設を容易かつ迅速に行い、作業の効率化を図ることにある。」(3頁3〜13行)
(c)線状の支持部と取付部とからなる架設具(第1、2図)
「まず、本発明に係る架設具について説明する。本発明に係る架設具は埋設物と別体に構成され、埋設物に取付けて使用するものである。本発明に係る架設具は、手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有する線状の支持部と、支持部をコンクリート壁内に埋設される埋設物に取付ける取付部とからなっている。
以下、図面にしたがって本発明に係る架設具を説明する。
第1図および第2図において、支持部(1)はコンクリート壁の支骨をなす鉄筋(5)に架設される部分である。支持部(1)は手で曲げることができるものであって曲げ方向を自在に設定できるものである。線状の支持部(1)の具体的な形状については、断面が円形のものや四角のもの、或いは、偏平なもの等色々考えられるが、特に支骨をなす鉄筋(5)への架設のしやすさ、さらに曲げ方向の自在性という点から断面円形のものがすぐれている。具体的には通称番線と呼ばれ、その中で8番線前後の軟鋼線が最適である。また、支持部(1)は、曲げられた状態で型枠に埋設物本体を押圧できる突っ張り強度を有するものであって、第1図に示すように、埋設物(4)を型枠(6)に押し当てた状態のときに、埋設物(4)に対して加わる矢印(61)方向の力に対して、支持部(1)が曲げられた状態で、これに対向するように矢印(62)方向に埋設物(4)を突っ張らせる押圧力を有している。この状態では埋設物(4)は支持部(1)によって、型枠(6)に押しつけられた状態換言すれば密接した状態に保たれている。
取付部(2)は、支持部(1)を埋設物(4)に取付けるための構造を有するものである。取付けには螺子による取付け、嵌合による取付け等種々の手段がある。取付部2の形状については埋設物(4)の外形状によって種々の態様をとる。しかし、第2図に示すように、埋設物(電気配線用ボックス)(4)に一様に支持部(1)の押圧(矢印63)が加わるような態様となるのが型枠への密着性の点から好ましい。」(3頁15行〜5頁18行)
(c-1)ボックスに取付ける架設具の一例(第3〜11図)
「第3図から第11図までは、電気配線用のボックス(10)に取付ける架設具についての一例である。第3図は架設具の平面図、第4図は架設具の断面図(A-A)である。この例の場合は、手による折り曲げ可能な線状の支持部(11)と板状の取付部(12)とからなり、支持部(11)は取付部(12)の両側に並設されている。取付部(12)はボックス(10)の外壁に取付けるための切り起こしによる突片(13)を有している。支持部(11)は、取付部(12)の両側に断面半円弧状に形成する凹部(14)に嵌め込まれて、スポット溶接により取付部12に固定されている。」(6頁1〜12行)
「 第6図は架設具をボックス10に取付けた状態の断面図を示したものである。」(7頁15〜16行)
(cー2)ボックスに取付ける架設具の別例(第12〜14図)
「第12図から第14図までは、ボックス(10)に取付ける架設具の別例を示したものである。この例の場合は、架設具の取付部(12)に突片(13)ではなく、孔(20)を設けたものである。ボックス(10)の外壁には前記孔(20)に合致する孔(21)が設けられている。」(11頁5〜10行)
(c-3)エンドカバーに取付ける架設具の一例(第15〜18図)
「次に、電線管の端末に使用される端末保護具であるエンドカバー(30)および仮枠ブッシング(40)に取付ける架設具の例について説明する。
第15図から第18図までは、エンドカバー(30)に取付ける架設具の一例を示すものである。この例の場合は、手による折り曲げ可能な線状の支持部(31)と、一方辺に支持部(31)を固定し、もう一方辺に挿通孔(33)を設けた略L字形状の取付部32とを有している。支持部(31)は、スポット溶接により取付部32に固定されている。
この例の場合は、取付部(32)はコネクター(34)とエンドカバー(30)の前壁面との間に挟持された状態に取付けられるようになっている。」(11頁17行〜12頁11行)
(c-4)エンドカバーに取付ける架設具の別例(第19〜20図)
「第19図および第20図は、エンドカバー(30)に取付ける架設具の別例を示したものである。この例の場合は、略L字形状の取付部(32)のうち線状の支持部(31)を固定している一方辺が、エンドカバー(30)の背壁面の形状に沿うように形成されている。」(14頁2〜7行)
(c-5)仮枠ブッシングに取付ける架設具の一例(第21〜24図)
「第21図から第24図までは、仮枠ブッシング(40)に取付ける架設具の一例を示したものである。この例の場合は、中央に挿通孔(43)を有する円板状の取付部(42)と、取付部(42)にスポット溶接により固定された手による折り曲げ可能な線状の支持部(41)とからなっている。」(14頁17行〜15頁4行)
(c-6)インサートに取付ける架設具の一例(第25〜28図)
「第25図から第28図までは、インサート(50)に取付ける架設具についての一例である。この例の場合は、インサート(50)の頭部の外形状に合致する内形状を有し、インサート(50)頭部に嵌挿される嵌挿部(53)を設けた取付部(52)と、取付部(52)上面にスポット溶接により固定された手による折り曲げ可能な線状の支持部(51)とからなっている。」(16頁11行〜16頁17行)
(c-7)インサートに取付ける架設具の別例(第29〜33図)
「第29図から第33図までは、インサート(50)に取付ける架設具の別例を示したものであり、支持部(51)をスポット溶接でなく取付部(52)に形成された弾性を有する凹部(54)により固定するようにしたものである。」(18頁1〜5行)
(d)線状の支持部材よりなる架設具を有する埋設物
「次に、本発明に係るコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設する線状の支持部材よりなる架設具を有するコンクリート埋設物(以下本発明に係る埋設物という)について説明する。
本発明に係る埋設物は、埋設物とこれと一体に形成された線状の支持部材よりなる架設具とからなり、支持部材は手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有し、支持部材を曲げてコンクリート壁内の支骨である鉄筋に架設し埋設物の位置決めを行うようになしたものである。
支持部材は、前記架設具の支持部と同様に手による折り曲げが可能であり、また曲げられた状態で埋設物を型枠に押圧できる突っ張り強度を有するものである。従って、埋設物はこの支持部材折り曲げによって所定に位置決めがなされるようになっている。この線状の支持部材の具体的な形状については、断面が円形のものや四角のもの、或いは、偏平なもの等があるが、特に支骨をなす鉄筋(5)への架設のしやすさ、さらに曲げ方向の自在性という点から線状のものがすぐれている。具体的には通称番線と呼ばれ、その中で8番線前後の軟鋼線が最適である。」(19頁14行〜21頁1行)
(d-1)ボックスの一例(第34〜36図)
「以下、本発明に係る埋設物として電気配線用のボックス(10)およびインサート(50)を例にあげて説明する。
第34図から第36図までは、電気配線用のボックス(10)についての一例である。この例の場合は、手により折り曲げ可能な線状の支持部材である架設具(71)を並設してボックス(10)の外壁にスポット溶接により固定したものである。」(21頁5〜9行)
(d-2)ボックスの別例(第37〜39図)
「第37図から第39図までは、本発明に係るボックス(10)の別例であり、ビス(72)頭部の下面で支持部材である架設具(71)を固定しボックス(10)と一体に形成したものである。すなわちボックス(10)の外壁に仮設具(71)を嵌め込む溝(73)を設け、溝(73)近くにビス(72)を止め、ビス(72)頭部の下面で溝(73)に嵌め込まれた架設具(71)を押さえて固定し、ボックス(10)と一体に形成している。」(22頁15行〜23頁4行)
(d-3)ボックスの別例(第40〜42図)
「第40図から第42図までは、本発明に係るボックス(10)の別例を示したものである。この例の場合はボックス(10)の外壁に設けられた切り起こしによる突起(76)によって、架設具(71)をかしめボックス(10)と一体に形成したものである。この例の場合には、第41図に示すように架設具(71)を前記突起(76)に当接させ、次いで第42図に示すように架設具(71)を包むようにかしめて固定している。」(23頁17行〜24頁6行)
(d-4)ボックスの別例(第43図)
「第43図に示す例は、線状の支持部材である架設具(71)がボックス(10)の外壁に十字形に設けられているものである。このように架設具(71)がボックス(10)の外壁に十字形に設けられていると,上下方向にも広い範囲に架設具(71)の鉄筋(5)への架設が行なえる。」(24頁7〜12行)
(d-5)インサートの一例(第44〜46図)
「第44図から第46図までは本発明に係るインサート(50)についての一例である。この例の場合は、手で折り曲げ可能な線状の支持部材である架設具(81)を並設してインサート(50)の頭部にスポット溶接により固定してインサート(50)と一体に形成したものである。」(24頁15行〜25頁2行)
(d-6)インサートの別例(第44〜46図)
「第47図および第48図は本発明に係るインサート(50)の別例である。この例の場合には、インサート(50)の頭部に弾性を有する凹部(82)を形成し、これに手で折り曲げ可能な線状の支持部材である架設具(81)を嵌め込んでインサート(50)と一体に形成したものである。」(25頁17行〜26頁4行)

(3)理由1についての判断
原出願の当初明細書等には、「本発明に係る埋設物は線状の支持部材である架設具を用いることによってコンクリート壁の支骨をなす鉄筋への架設状態を自由に設定できるようにしたもので、本発明の目的とするところは、埋設物を埋設するにあたって、埋設物の鉄筋への架設を容易かつ迅速に行い、作業の効率化を図ることにある。」(上記(b))と記載され、特許請求の範囲第2項には、「コンクリート埋設物とこれに一体に設けられた線状の支持部材よりなる架設具とからなり、支持部材は手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有し、支持部材を曲げてコンクリート壁内の支骨である鉄筋に架設し埋設物の位置決めを行うようになした架設具を有するコンクリート埋設物。」(上記(a))と記載され、また、「本発明に係るコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設する線状の支持部材よりなる架設具を有するコンクリート埋設物(以下本発明に係る埋設物という)について説明する。
本発明に係る埋設物は、埋設物とこれと一体に形成された線状の支持部材よりなる架設具とからなり、支持部材は手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有し、支持部材を曲げてコンクリート壁内の支骨である鉄筋に架設し埋設物の位置決めを行うようになしたものである。」(上記(d))と記載されている。
この記載によれば、線状の支持部材は、曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できるように、コンクリート埋設物に一体に設けられるものであることを必要とするものの、それ以上の取付け位置・方法についての限定は認められない。
たしかに、線状の支持部材が埋設物に直接設けられる実施例(d-1)〜(d-6)については、線状の支持部材は、電気配線ボックスの場合は外壁に一体に形成され、インサートの場合は頭部に一体に形成されるものであることが認められ、図面を参照すると、いずれも埋設物の開口部の反対面に設けられ、鉄筋に架設して型枠に埋設物を押圧する機能を果たすことが認められ、また、取付部を介して埋設物に支持部を設ける実施例(c-1)〜(c-7)においても、板状の取付部の開口部に対する反対面に支持部が設けられ、型枠に埋設物を押圧するように構成されていることが認められる。
しかしながら、特許請求の範囲第2項等には、埋設物と一体に設けられた線状の支持部材が鉄筋に架設され型枠に埋設物を押圧するという技術思想が開示され、線状の支持部材により埋設物を鉄筋に架設することができ、型枠に埋設物を押圧する作用を果たせば、その取付け位置・方法を問うものではないから、「支持部材を埋設物に設け」るという技術思想は、原出願の当初明細書等に開示されていたというべきで、原明細書等に記載された発明を実施例として開示された態様に限定することは妥当ではない。
請求人は、親出願の出願当初明細書等では、埋設物の背面側の平らな面に着目して線状の支持部を取付けているのであり、平らな面以外の別の個所に線状の支持部を取付けて埋設物を型枠に押圧できるようにした技術的思想を開示も示唆もしないと主張する。
たしかに、親出願の出願当初明細書等に記載された実施例では、埋設物の背面側の平らな面に線状の支持部を取付けているが、親出願の出願当初明細書の特許請求の範囲第2項には、「コンクリート埋設物とこれに一体に設けられた線状の支持部材よりなる架設具」と記載され、支持部材の取付け位置を特に限定せずに、埋設物を型枠に押圧するという作用を果たすように取付けられるという技術思想が開示されている。実施例においては、埋設物を型枠に押圧するという作用を果たすために背面に線状の支持部を取付けるという技術的に自然な構成を採用したと解するのが自然で、線状の支持部材を背面側の平らな面に着目して取付けるという技術思想のみが開示されているとはいえない。
また、請求人は、親出願の出願当初明細書等に開示されたものは、ボックスの背面を意識してそこの面に取付けるものであることは、親出願の審査における平成1年11月24日付け意見書において被請求人が明確に述べていることであると主張するが、該意見書では、親出願の補正後の特許請求の範囲に記載された発明について、「すなわち本件発明は、コンクリート埋設用ボックスの架設具に関するものであって、その架設具の取付部はボックスの背面に取付けられるものであり」と記載されていると認められるが、取付部を介して支持部を取付ける架設具において、取付部がボックスの背面に取付けられることを述べているものであり、本件発明とは異なる別件の発明についての主張であって、親出願の出願当初明細書等に開示された技術思想が該意見書で言及されているもののみであるとすることはできない。

(4)理由2についての判断
上記訂正により、図43及び図第44並びにその説明は削除された。したがって、請求人の主張は妥当ではなくなった。
(5)理由3についての判断
原明細書等には、「本発明に係る架設具は従来からある埋設物に取付けることができ、これの線状の支持部を手で折り曲げることによってコンクリート壁の支骨をなす鉄筋への架設状態を自由に設定できるようにし、また、本発明に係る埋設物は線状の支持部材である架設具を用いることによってコンクリート壁の支骨をなす鉄筋への架設状態を自由に設定できるようにしたもので、本発明の目的とするところは、埋設物を埋設するにあたって、埋設物の鉄筋への架設を容易かつ迅速に行い、作業の効率化を図ることにある。」(上記6(2))と記載され、特許請求の範囲には、次のとおり記載されている。
「1 手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有する線状の支持部と、支持部をコンクリート壁内に埋設される埋設物に取付ける取付部とからなるコンクリート埋設物の架設具。
2 コンクリート埋設物とこれに一体に設けられた線状の支持部材よりなる架設具とからなり、支持部材は手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有し、支持部材を曲げてコンクリート壁内の支骨である鉄筋に架設し埋設物の位置決めを行うようになした架設具を有するコンクリート埋設物。」
このように原明細書等に記載された発明の目的ないし特許請求の範囲の記載からは、支持部ないし支持部材を手で折り曲げることによって鉄筋への架設状態を自由に設定できるためには、線状の支持部ないし支持部材であることが必須の構成であると認められる。
また、発明の詳細な説明の記載についてみても、線状の支持部ないし支持部材以外のものについては記載されておらず、本件発明の構成として線状でない支持部を用いることが自明のものとも認めらない。
とすると、「線状の支持部」を「支持部」とする補正は、線状でない支持部を含むことになり、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないといわざるを得ない。
被請求人は、本件特許請求の範囲に記載された「手による三次元方向に自在に折り曲げが可能」、「曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する」、「折り曲げるとともにコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設」、「コンクリート埋設物の開口部が型枠に密接する位置に該埋設物を固定」を満たす構成は、実質的に線状の支持部材であるから、直接「線状」との記載がなくとも、実質的に「線状」と限定されていると主張する。
しかしながら、「線状の支持部材」から「線状」の限定を削除すれば、線状でない支持部材も含まれることは明らかで、「手による三次元方向に自在に折り曲げが可能」なものは線状のもの以外にはないとはいえず、「曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する」、「折り曲げるとともにコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設」、「コンクリート埋設物の開口部が型枠に密接する位置に該埋設物を固定」という構成を併せ考慮しても、実質的に線状の支持部材に限定されているということはできない。
したがって、本件分割出願の明細書又は図面は、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含むから、本件分割は不適法なものであって、本件特許発明に係る出願の出願日は、平成5年10月29日である。

7 本件発明と引用発明との対比・判断
上記のとおり、本件出願の出願日は、平成5年10月29日であるから、原出願の公開公報である特開昭60-152747号公報(以下、「引用例」という。)は、本件特許出願前頒布された刊行物である。
引用例には、「コンクリート埋設物とこれに一体に設けられた線状の支持部材よりなる架設具とからなり、支持部材は手による折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有し、支持部材を曲げてコンクリート壁内の支骨である鉄筋に架設し埋設物の位置決めを行うようになした架設具を有するコンクリート埋設物。」(特許請求の範囲第2項)が記載され、該埋設物の埋設方法について、次のとおり記載されている。
「以下、本発明に係る埋設物として電気配線用のボックス(10)およびインサート(50)を例にあげて説明する。
第34図から第36図までは、電気配線用のボックス(10)についての一例である。この例の場合は、手により折り曲げ可能な線状の支持部材である架設具(71)を並設してボックス(10)の外壁にスポット溶接により固定したものである。
このボックス(10)を壁面を構成するコンクリート壁内に埋設するには、まずボックス(10)が所定の埋設位置にくる状態で、支持部材である架設具(71)をコンクリート壁の支骨をなすべく巡らされた鉄筋(5)に接するように適宜手で折り曲げる。そして架設具(71)と鉄筋(5)とが接する部分を針金(7)等で結束する。こうして第35図に示すようにボックス(10)の架設具(71)を鉄筋(5)に架設し、ボックス(10)位置決めがなされる。次に、ボックス(10)の開口部に向かって型枠(6)(第36図参照)を当接させる。このとき架設具(71)の突っ張り強度によってボックス(10)は型枠(6)に密接した状態に保たれている。この後、コンクリート打設を行ない、第36図に示すように、ボックス(10)をコンクリート壁90内に埋設する。
尚、上記埋設方法とは異なり、先に型枠6を立てかけてこれにボックス(10)を当接させ、後から架設具(71)を鉄筋(5)に架設するようにして埋設する方法にも本発明を適用できる。」(6頁左下欄2行〜同右下欄10行)
このように、引用例には、ボックス(埋設物)の架設具(線状の支持部材)を鉄筋に架設し、ボックスの位置決めをし、次に、ボックスの開口部に向かって型枠を当接させ、ボックスを型枠に密接した状態に保つことが記載されているから、「線状の支持部材」に限らない「支持部材」を用いたとしても、本件請求項1に係る、「支持部材を埋設物に設け、前記支持部材を折り曲げるとともにコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して、コンクリート埋設物の開口部が型枠に密接する位置に該埋設物を固定する」固定方法の発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、引用例には、先に型枠を立てかけてこれにボックスを当接させ、後から架設具を鉄筋に架設するようにして埋設する方法も記載されているから、「線状の支持部材」に限らない「支持部材」を用いたとしても、本件請求項2に係る、「支持部材を埋設物に設け、先に立てかけた型枠に対して埋設物の開口部が密接するように前記支持部材を折り曲げるとともに支持部材をコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して、コンクリート埋設物を埋設位置に固定し、コンクリートを打設して埋設物を埋設する」埋設方法の発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

8 記載不備についての判断
請求人は、本件明細書の特許請求の範囲に記載された「手による三次元方向に自在に折り曲げが可能・・・支持部材」について、力には個人差があり、力の弱い人は手で折り曲げるのが困難あるいは不可能な太さの支持部材があり、また、理設物から外方に突出する支持部材の中間はなんとか手で折り曲げられるが、その端側は工具でないと折り曲げるのが困難あるいは不可能な太さの支持部材もあり、どの程度の支持部材を指して記載しているのか特定することができず、不明確であるとして、特許請求の範囲の記載不備を主張している。
しかしながら、本件明細書には、「【0026】次に、本発明に係るコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設する線状の支持部材を埋設物本体に直接一体に設けて成る埋設物について説明する。
【0027】支持部材は、前記取付部を介して支持部材を一体に設けて成る埋設物と同様に、手による折り曲げが可能であり、かつ曲げられた状態で埋設物本体の開口部を型枠に押圧できる突っ張り強度を有するものである。従って、埋設物本体はこの支持部材の折り曲げによって所定に埋設位置への位置決めがなされるようになっており、さらに型枠に密接した状態に保たれるようになっている。この線状の支持部材の具体的な形状については、断面が円形のものや四角形のもの、或いは、偏平なもの等があるが、特に支骨をなす鉄筋への架設のしやすさ、さらに曲げ方向の自在性という点から線状のものがすぐれている。具体的には通称番線と呼ばれ、その中で8番線前後の軟鋼線が最適である。」と記載され、また、取付部を介して支持部材を一体に設けて成る埋設物について、「【0008】図1および図2において、支持部材1はコンクリート壁の支骨をなす鉄筋5に架設される部分である。支持部材1は手で曲げることができるものであって曲げ方向を自在に設定できるものである。線状の支持部材1の具体的な形状については、断面が円形のものや四角のもの、或いは、偏平なもの等色々考えられるが、特に支骨をなす鉄筋5への架設のしやすさ、さらに曲げ方向の自在性という点から断面円形のものがすぐれている。具体的には通称番線と呼ばれ、その中で8番線前後の軟鋼線が最適である。」と記載されている。
このように、特許請求の範囲の「手による三次元方向に自在に折り曲げが可能・・・支持部材」について、発明の詳細な説明には、折り曲げ可能であることの技術的意義が記載され、また、「線状の支持部材1の具体的な形状については、・・・、特に支骨をなす鉄筋5への架設のしやすさ、さらに曲げ方向の自在性という点から断面円形のものがすぐれている。」と記載され、さらに、「具体的には通称番線と呼ばれ、その中で8番線前後の軟鋼線が最適である。」との線状の支持部材を具体的に特定する記載があることから、不明確とはいえず特許請求の範囲の記載不備にはあたらない。

9 むすび
以上のとおり、本件分割出願は不適法なものであって、その出願日は、平成5年10月29日であり、本件請求項1及び請求項2に係る発明は、出願前頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法123条1項1号に該当し、無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
コンクリート埋設物の固定方法及び埋設方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する支持部材を埋設物に設け、前記支持部材を折り曲げるとともにコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して、コンクリート埋設物の開口部が型枠に密接する位置に該埋設物を固定することを特徴とするコンクリート埋設物の固定方法。
【請求項2】 手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する支持部材を埋設物に設け、先に立てかけた型枠に対して埋設物の開口部が密接するように前記支持部材を折り曲げるとともに支持部材をコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して、コンクリート埋設物を埋設位置に固定し、コンクリートを打設して埋設物を埋設することを特徴とするコンクリート埋設物の埋設方法。
【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明はコンクリート壁の支骨をなす鉄筋を利用して各種コンクリート埋設物(以下、埋設物という)を埋設位置に固定するための固定方法及び埋設方法に関する。
(従来の技術)
本発明者は、先にコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に埋設物を架設し、これの位置決めを行ない、次いで型枠を埋設物に当接させてコンクリート打設を行ない、以って埋設物をコンクリート壁内に埋設する方法を考え出した(特願昭58-251662号)。この方法によれば、埋設物を容易かつ迅速に埋設することができ作業性の向上と共に、従来より行なわれている埋設物を釘等で型枠に打ちつけて固定し埋設物を埋設する方法と比べ、釘打ちの煩雑な作業を必要とせず、また型枠取外し後の釘処理を要せず、また釘さびによる壁表面のシミの発生がないといった顕著な効果がある。
(発明が解決しようとする課題)
本発明は、かかる開発の一環としてなされたもので、埋設物を埋設するにあたって、コンクリート壁の支骨をなす鉄筋への架設状態を自由に設定でき、埋設物を容易かつ迅速に設置し、作業の効率化を図ることのできる埋設物の固定方法及び埋設方法を提供することにある。
(課題を解決するための手段)
すなわち、第1の発明に係る埋設物の固定方法は、手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する支持部材を埋設物に設け、前記支持部材を折り曲げるとともにコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して、埋設物の開口部が型枠に密接する位置に埋設物を固定することを特徴とするものである。
又、第2の発明に係る埋設方法は、手による三次元方向に自在に折り曲げが可能で、かつ曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有する支持部材を埋設物に設け、先に立てかけた型枠に対して埋設物の開口部が密接するように前記支持部材を折り曲げるとともに支持部材をコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設して、埋設物を埋設位置に固定し、コンクリートを打設して埋設物を埋設することを特徴とするものである。
(作用)
上記固定方法にあっては、手による三次元方向に自在に折り曲げが可能な線状の支持部材による曲げの自在性を利用して、縦横あるいは斜めに配筋された支骨鉄筋に対して自由に架設することができ、これによって埋設物を埋設したい位置に容易に固定することができる。また、支持部材は曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有するから埋設物を型枠に確実に密接させておくことができる。
又、上記埋設方法にあっては、先に立てかけた型枠と鉄筋との間隔が異なる場合にも、手による三次元方向に自在に折り曲げ可能な支持部材によってその間隔に容易に対応させることができ、さらに支持部材は折り曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有するから、型枠に対して埋設物の開口部が密接するように固定することができる。これにより、埋設物を埋設位置へ容易かつ迅速に設置することができ、埋設作業を効率的に行うことができ、埋設物を釘等で型枠に打ちつけて固定する従来の方法と比べ、釘打ちの煩雑な作業を必要とせず、また型枠取外し後の釘処理を要せず、さらに釘さびによって壁表面にシミを発生させることもない。
(実施例)
以下、本発明に係る埋設物の固定方法及び埋設方法について、図に示す各種埋設物の例とともに説明する。
本発明の固定方法及び埋設方法にあっては、埋設物に取付部を介して支持部材を一体に設ける場合と、埋設物に直接線状の支持部材を一体に設ける場合とがある。前者については、第1図〜第33図に示されており、後者については第34図〜第48図に示されている。
まず、前者の場合について説明すると、第1図および第2図において、支持部材(1)はコンクリート壁の支骨をなす鉄筋(5)に架設される部分である。支持部材(1)は手で曲げることができるものであって曲げ方向を三次元方向に自在に設定できるものである。線状の支持部材(1)の具体的な形状については、断面が円形のものや四角のもの、或いは、偏平なもの等色々考えられるが、特に支骨をなす鉄筋(5)への架設のしやすさ、さらに曲げ方向の自在性という点から断面円形のものがすぐれている。具体的には通称番線と呼ばれ、その中で8番線前後の軟鋼線が最適である。また、支持部材(1)は、曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突っ張り強度を有するものであって、第1図に示すように、埋設物(4)を型枠(6)に押し当てた状態のときに、埋設物(4)に対して加わる矢印(61)の方向の力に対して、支持部材(1)が曲げられた状態で、これに対向するように矢印(62)方向に埋設物(4)を突っ張らせる押圧力を有している。この状態では埋設物(4)は支持部材(1)によって、型枠(6)に押しつけられた状態換言すれば密接した状態に保たれている。
取付部(2)は、支持部材(1)を埋設物(4)に取付けるための構造を有するものである。取付けには螺子による取付け、嵌合による取付け等種々の手段がある。取付部(2)の形状については埋設物(4)の外形状によって種々の態様をとる。しかし、第2図に示すように、埋設物(電気配線用ボックス)(4)に一様に支持部材(1)の押圧(矢印(63))が加わるような態様となるのが型枠への密着性の点から好ましい。
第3図から第11図までは、埋設物が電気配線用のボックス(10)についての例である。第3図は支持部材及び取付部の平面図、第4図は第3図のA-A断面図である。この例の場合は、手による三次元方向に自在に折り曲げ可能な線状の支持部材(11)と板状の取付部(12)とを有し、支持部材(11)は取付部(12)の両側に並設されている。取付部(12)はボックス(10)の外壁に取付けるための切り起こしによる突片(13)を有している。支持部材(11)は、取付部(12)の両側に断面半円弧状に形成する凹部(14)に嵌め込まれて、スポット溶接により取付部(12)に固定されている。
これは、例えば取付部(12)の凹部(14)を弾性を有する部材により形成し、凹部(14)の内径が支持部材(11)の径より小径になるようにして凹部(14)の弾性を利かせて支持部材(11)を強制的に凹部(14)に嵌め込んで嵌着するようにしてもよく、また凹部(14)を形成することなく単に支持部材(11)を取付部(12)にスポット溶接により固定してもよい。
(15)は螺孔であり、取付部(12)をボックス(10)に取付けた状態ではボックス(10)に設けられた透孔(17)と一致するように形成されている。この螺孔(15)および透孔(17)には雄ねじを有する別体のスタットボルトが螺挿されるようになっている。これは、壁面でのボックス(10)の取付けの場合にボックス(10)と型枠(6)とを更に確実に密接固定するのに用いられるものである。したがってスラブでのボックスの取付けのように螺孔(15)を必要としない場合には、第8図に示すように、これに蓋(19)を設けて密閉しておけばよい。或いは螺孔(15)はなしでよい。(16)は取付部(12)の変形を防ぐための補強リブである。
第6図は取付部(12)をボックス(10)に取付けた状態の断面図を示したものである。この例の場合、ボックス(10)の外壁には、取付部(12)の突片(13)が挿入される挿入孔(18)が形成されている。まず、取付部(12)の突片(13)をボックス(10)の外壁に向かうようにし、次いでボックス(10)の外壁に形成された挿入孔(18)に挿入し、突片(13)の先端をボックス(10)の内側へ突出させる。次に、この突出部分を、第7図に示すように、ボックス(10)の内壁に向かって折り曲げる。このとき、第6図に示すように突片(13)の先端が相互に矢印(64)および(65)に示すように反対方向に向くように折り曲げると取付部(12)がボックス(10)から外れにくくなる。このように、突片(13)でボックス(10)の外壁を挟持させ、取付部(12)をボックス(10)に固定し、支持部材(11)を一体に設けるようになっている。
さて、本発明の固定方法にあっては、型枠が既に立っているところに埋設物を固定する場合、即ち、先に型枠を立てかける場合と、型枠が立つ前に埋設物を固定する場合、即ち、後で型枠を立てかける場合とを含んでいる。いずれも、支持部材を鉄筋に架設して埋設物の開口が型枠に密接する位置に埋設物を固定するものである。
以下、ボックス(10)を例に、先に型枠を立てかけた場合の固定方法について説明する。この場合は、第9図に示すように、ボックス(10)に支持部材(11)を設け、先に立てかけた型枠(6)に向かってボックス(10)の開口部が密接するように、前記支持部材(11)を折り曲げるとともにコンクリート壁の支骨をなす鉄筋(5)に架設して固定する。すなわち、線状の支持部材(11)を手で折り曲げてコンクリート壁の支骨をなすように巡らされた鉄筋(5)に接しさせる。このときボックス(10)をコンクリート壁内の埋設する位置にくるように、支持部材(11)の曲げ具合を調節する。支持部材(11)は手で折り曲げることができるから調節は容易に行なえる。次いで支持部材(11)と鉄筋(5)との接する部分を針金(7)等で結束して、支持部材(11)を鉄筋(5)に架設する。このとき、第10図に示すように、支持部材(11)の突張り強度によって矢印(66)方向にボックス(10)を押圧し、ボックス(10)は型枠(6)に密接した状態に保たれている。こうしてボックス(10)を所定の埋設位置に固定することができる。
支持部材(11)を手による三次元方向に自在に折り曲げることができるから、例えば、第10図に点線で示すように鉄筋(5a)が配筋されている場合であっても、支持部材(11a)を第10図に一点鎖線で示すように折り曲げてきて鉄筋(5a)に架設することは容易に行なえる。また、鉄筋(5)の配筋状態により、一方の支持部材(11)を第10図の縦に走る鉄筋(5b)に架設するようにしてもよい。
この固定方法は、後で型枠を立てかける場合においても同様に、ボックス(10)に支持部材(11)を設け、支持部材(11)を折り曲げるとともにコンクリート壁の支骨をなす鉄筋(5)に架設することによって行うことができる。ボックス(10)は開口部が型枠(6)に密接する位置に固定されており、後から立てかける型枠(6)にボックス(10)の開口部を密接させることができる。
又、本発明の埋設方法は、第9図に示すように、支持部材(11)を鉄筋(5)に架設してボックス(10)を所定の埋設位置に固定した後、コンクリート打設を行ない、第11図に示すようにボックス(10)をコンクリート壁(90)内に埋設するものである。第10、11図中、(8)はボックス(10)に連結する電線管であり、(9)は、ボックス(10)と電線管(8)とを接続するコネクターである。
なお、本発明の固定方法及び埋設方法にあっては、支持部材(11)を折り曲げて支骨をなす鉄筋(5)に架設しても良く、あるいは支持部材(11)を鉄筋(5)に架設しておいてから折り曲げるようにしても良い。
上記固定方法及び埋設方法は、壁面を構成するコンクリート壁内にボックス(10)を固定又は埋設する方法の一例であり、例えばスラブを構成するコンクリート壁内にボックス(10)を固定又は埋設場合にも同様に行える。
第12図から第14図までは、ボックス(10)に支持部材(11)を設ける場合についての別例を示したものである。この例の場合は、取付部(12)に突片(13)ではなく孔(20)を設けたものである。このボックス(10)の外壁には前記孔(20)に合致する孔(21)が設けられている。この場合の取付部(12)のボックス(10)への取付けは、第13図に示すようにタッピングネジ(22)を孔(20)および孔(21)に螺入して取付けてもよいし、また、第14図に示すようにボルト(23)を孔(20)および孔(21)に貫通させ、貫通したボルト(23)の先端からナット(24)を螺着して取付けてもよい。
次に、埋設物が電線管の端末に使用される端末保護具であるエンドカバー(30)および仮枠ブッシング(40)の例について説明する。
第15図から第18図までは、エンドカバー(30)の例を示すものである。この例の場合は、手による三次元方向に自在に折り曲げ可能な線状の支持部材(31)と、一方辺に支持部材(31)を固定し、もう一方辺に挿通孔(33)を設けた略L宇形状の取付部(32)とを有している。支持部材(31)は、スポット溶接により取付部(32)に固定されている。
この例の場合は、取付部(32)はコネクター(34)とエンドカバー(30)の前壁面との間に挟持された状態に取付けられるようになっている。すなわち、取付部(32)に設けられた挿通孔(33)にコネクター(34)の一端に形成された雄ねじ部分(35)を挿通し、次いでコネクター(34)の雄ねじ部分(35)をエンドカバー(30)の前壁面に設けられた取付孔(36)に挿入する。次いでエンドカバー(30)の内側からコネクター(34)の雄ねじ部分(35)に螺合する雌ねじを有する止め具(37)を螺挿することにより、第16図に示すように取付けられている。
第17図は、エンドカバー(30)をスラブを構成するコンクリート壁内に固定又は埋設する場合に、エンドカバー(30)を鉄筋(5)に架設した状態を示したものである。このようなエンドカバー(30)をスラブを構成するコンクリート壁内に固定又は埋設するには、まずエンドカバー(30)の開口部を型枠(6)(第18図参照)に当接させ、かかる状態で支持部材(31)を手で折り曲げることにより適宜近くの鉄筋(5)に接しさせる。そして、支持部材(31)の押圧力によりエンドカバー(30)が型枠(6)に密接した状態に保たれるようにする。次いで支持部材(31)と鉄筋(5)との接した部分を針金(7)等で結束する。このようにして、支持部材(31)を鉄筋(5)に架設し、所定の埋設位置にエンドカバー(30)を固定する。そして、この後、コンクリート打設を行い、第18図に示すようにエンドカバー(30)をコンクリート壁(90)内に埋設する。
なお、上記固定方法及び埋設方法においては、先に支持部材(31)を鉄筋(5)に架設しておいてから、支持部材(31)を折り曲げエンドカバー(30)の開口部を型枠(6)に密接するように固定しても良い。
第19図および第20図は、別例のエンドカバー(30)を示したものである。この例の場合は、略L字形状の取付部(32)のうち線状の支持部材(31)を固定している一方辺が、エンドカバー(30)の背壁面の形状に沿うように形成されている。このように取付部(32)がエンドカバー(30)の背壁面の形状に沿うように、形成されていることにより、第20図に示すように支持部材(31)を鉄筋(5)に架設した状態のときエンドカバー(30)の端部(30a)に直に支持部材(31)の押圧力が加わるためエンドカバー(30)を型枠(6)に強固に密接させておくことができる。従って、コンクリート打設によるトロの侵入を防ぐことができ、また電線管(8)との連結状態により端部(30a)が浮きやすくなるのを防止することができる。
第21図から第24図までは、仮枠ブッシング(40)の例を示したものである。この例の場合は、中央に挿通孔(43)を有する円板状の取付部(42)と、取付部(42)にスポット溶接により固定された手による三次元方向に自在に折り曲げ可能な線状の支持部材(41)とを備えている。取付部(42)の仮枠ブッシング(40)への取付けは、まず取付部(42)をコネクター(44)と仮枠ブッシング(40)との間に位置させ、取付部(42)の挿通孔(43)を仮枠ブッシング(40)の取付部(46)に合わせる。次いで、上からコネクター(44)の雄ねじ部分(45)を挿通孔(43)および取付部(46)に挿入する。そして仮枠ブッシング(40)の内側より雄ねじを有する止め具(47)をコネクター(44)の雌ねじ部分(45)に螺合させ、第22図に示すように仮枠ブッシング(40)に取付ける。
第23図は仮枠ブッシング(40)をスラブを構成するコンクリート壁(90)内に固定又は埋設する場合において、仮枠ブッシング(40)を鉄筋(5)に架設した状態を示したものである。この場合は、まず仮枠ブッシング(40)の開口部を型枠(6)(第24図参照)に向かって当接させ、かかる状態で支持部材(41)を手で折り曲げて鉄筋(5)に接しさせる。次いで接した部分を針金(7)等で結束し支持部材(41)を鉄筋(5)に架設する。このとき仮枠ブッシング(40)は支持部材(41)の押圧力により型枠(6)に密着した状態に保たれている。こうして所定の埋設位置に仮枠ブッシング(40)を固定する。次いで、コンクリート打設を行い第24図に示すように仮枠ブッシング(40)をスラブを構成するコンクリート壁(90)内に埋設する。なお、仮枠ブッシング(40)を固定又は埋設する場合、支持部材(41)を先に鉄筋(5)に架設しておいてから支持部材(41)を折り曲げ、仮枠ブッシング(40)の開口部が型枠(6)に密接するように固定してもよい。
次に、インサート(50)の例について説明する。
第25図から第28図までは、インサート(50)についての一例である。この例の場合は、インサート(50)の頭部の外形状に合致する内形状を有し、インサート(50)頭部に嵌挿される嵌挿部(53)を設けた取付部(52)と、取付部(52)上面にスポット溶接により固定された手による三次元方向に自在に折り曲げ可能な線状の支持部材(51)とを備えている。この例の場合、取付部(52)の嵌挿部(53)は弾性を有する材質により形成し、これを外側に押し拡げながら第26図に示すようにインサート(50)の頭部に強制的に嵌め込むことにより、抜け止めにして、インサート(50)に取付けるようにしている。
第27図はスラブを構成するコンクリート壁(90)内にインサート(50)を固定又は埋設する場合において、インサート(50)を鉄筋(5)に架設した状態を示したものである。この場合は、まずインサート(50)の底部を型枠(6)(第28図参照)に当接させ、支持部材(51)を鉄筋(5)に接するように手で折り曲げる。次いで支持部材(51)を鉄筋(5)との接する部分を針金(7)等で結束して、支持部材(51)を鉄筋(5)に架設する。このときインサート(50)は支持部材(51)の押圧力により型枠(6)に密接した状態に保たれている。こうして、インサート(50)を所定の埋設位置に固定する。次いで、コンクリート打設を行ない、第28図に示すようにスラブを構成するコンクリート壁(90)内にインサート(50)を埋設する。なお、インサート(50)を埋設位置に固定又は埋設する場合、支持部材(51)を先に鉄筋(5)に架設しておいてから支持部材(51)を折り曲げ、インサート(50)の開口部(底部)が型枠(6)に密接するように固定しても良い。
第29図から第33図までは、インサート(50)についての別例を示したものであり、支持部材(51)をスポット溶接でなく取付部(52)に形成された弾性を有する凹部(54)により固定するようにしたものである。この例の場合凹部(54)の開口(55)は支持部材(51)の径よりわずかに狭くなっている。また、凹部(54)の内径は支持部材(51)の径に合致するようになっている。而して、第31図から第33図までに示すように、支持部材(51)を凹部(54)の開口(55)に押しあて、凹部(54)の開口(55)を外方へ押し拡げるようにして支持部材(51)を押し込み、凹部(55)内に支持部材(51)を嵌合させることによって支持部材(51)を取付部(52)に固定している。この場合の取付部(52)は樹脂成形により作製するとよい。
次に、本発明に係るコンクリート壁の支骨をなす鉄筋に架設する線状の支持部材を埋設物に直接設ける場合の固定方法及び埋設方法について説明する。
支持部材は、埋設物に取付部を介して支持部材を一体に設ける場合と同様に、手による三次元方向に自在に折り曲げが可能であり、かつ曲げられた状態で埋設物の開口部を型枠に押圧できる突っ張り強度を有するものである。従って、この埋設物はこの支持部材の折り曲げによって所定に埋設位置への位置決めがなされるようになっており、さらに型枠に密着した状態に保たれるようになっている。この線状の支持部材の具体的な形状については、断面が円形のものや四角形のもの、或いは、偏平なもの等があるが、特に支骨をなす鉄筋への架設のしやすさ、さらに曲げ方向の自在性という点から線状のものがすぐれている。具体的には通称番線と呼ばれ、その中で8番線前後の軟鋼線が最適である。
以下、埋設物が電気配線用のボックス(10)およびインサート(50)の場合を例をあげて説明する。
第34図から第36図までは、電気配線用のボックス(10)についての一例である。この例の場合は、手により折り曲げ可能な線状の支持部材(71)を並設してボックス(10)の外壁にスポット溶接により固定したものである。
このボックス(10)を壁面を構成するコンクリート壁内の埋設位置に固定するには、第35図に示すように、まずボックス(10)の開口部に向かって型枠(6)を当接させる。ボックス(10)が所定の埋設位置にくる状態で、支持部材(71)をコンクリート壁の支骨をなすべく巡らされた鉄筋(5)に接するように適宜手で折り曲げる。このとき支持部材(71)の突っ張り強度によってボックス(10)は型枠(6)に密接した状態に保たれている。そして支持部材(71)と鉄筋(5)とが接する部分を針金(7)等で結束する。こうしてボックス(10)の支持部材(71)を鉄筋(5)に架設し、ボックス(10)を位置決めして固定する。
さらに埋設するには、この後、コンクリート打設を行い、第36図に示すように、ボックス(10)をコンクリート壁(90)内に埋設する。
線状の支持部材を埋設物に直接設ける場合の固定方法及び埋設方法についても、埋設物に取付部を介して支持部材を一体に設ける場合と同様に、支持部材を折り曲げて支骨をなす鉄筋に架設しても良く、あるいは支持部材を鉄筋に架設しておいてから折り曲げるよにしても良い。さらに固定方法については、先に型枠を立てかける場合、又は、後で型枠を立てかける場合のいずれであっても良く、支持部材を鉄筋に架設して埋設物の開口部が型枠に密接する位置に埋設物を固定するものである。
上記例は、支持部材(71)をスポット溶接によってボックス(10)の外壁に固定することによってボックス(10)に支持部材(71)を設ける場合であるが、支持部材(71)の固定手段についてはこれに限るものではない。
第37図から第39図までは、ボックス(10)に支持部材(71)を設ける場合の別例であり、ビス(72)頭部の下面で支持部材(71)を固定しボックス(10)と一体に形成したものである。すなわちボックス(10)の外壁に支持部材(71)を嵌め込む溝(73)を設け、溝(73)近くにビス(72)を止め、ビス(72)頭部の下面で溝(73)に嵌め込まれた支持部材(71)を押さえて固定し、ボックス(10)と一体に形成している。この場合は、第38図に示すようにビス(72)を溝(73)近くに形成する下孔(74)に螺入することによって支持部材(71)は強く締付けられボックス(10)に強固に固定される。
この例の場合、ビス(72)を下孔(74)に螺入するのを調整することによって、外径の異なる支持部材(71)の固定ができる。尚、ビス(72)はタッピングネジとしてもよい。
尚、(75)はスタットボルト螺挿用の螺孔で、本発明にあっては螺孔(75)はなくてもよい。
第39図は、ボックス(10)を鉄筋に架設した状態を示したものである。
第40図は、ボックス(10)の別例を示したものである。この例の場合はボックス(10)の外壁に設けられた切り起こしによる突起(76)によって、支持部材(71)をかしめボックス(10)と一体に形成したものである。第41図に示す例の場合には支持部材(71)を前記突起(76)に当接させ、次いで第42図に示すように支持部材(71)を包むようにかしめて固定している。
第43図に示す例は、線状の支持部材(71)がボックス(10)の外壁に十字形に設けられているものである。このように支持部材(71)がボックス(10)の外壁に十字形に設けられていると、上下方向にも広い範囲に支持部材(71)の鉄筋(5)への架設が行える。
これら第37図〜第43図に示されるボックス(10)についても、第9図及び第10図において説明の固定方法、あるいは第9図〜第11図において説明の埋設方法を採ることができる。
次に、埋設物がインサート(50)の場合について説明する。第44図から第46図までに示すように、この例の場合は、手で折り曲げ可能な線状の支持部材(81)を並設してインサート(50)の頭部にスポット溶接により固定してインサート(50)と一体に形成したものである。
このインサート(50)をスラブを構成するコンクリート壁内に固定又は埋設するには、インサート(50)の底部を型枠(6)に向かって当接させる。そして、インサート(50)が所定の埋設位置にくる状態で支持部材(81)をインサート壁の支骨をなすべく巡ぐらされた鉄筋(5)に接するように適宜手で折り曲げる。次に支持部材(81)と鉄筋(5)とが接する部分を針金(7)等で結束して、第45図に示すように支持部材(81)を鉄筋(5)へ架設する。このとき、支持部材(81)の突張り強度によってインサート(50)は型枠(6)に密接した状態に保たれている。かかる状態でコンクリート打設を行い、第46図に示すようにインサート(50)をコンクリート壁(90)内に埋設する。
なお、インサート(50)を埋設位置に固定又は埋設する場合、支持部材(81)を先に鉄筋(5)に架設しておいてから支持部材(81)を折り曲げ、インサート(50)の開口部(底部)が型枠(6)に密接するように固定しても良い。
第47図および第48図はインサート(50)に支持部材(81)を設ける場合の別例である。この例の場合には、インサート(50)の頭部に弾性を有する凹部(82)を形成し、これに手で折り曲げ可能な線状の支持部材(81)を嵌め込んでインサート(50)と一体に形成したものである。この例の場合、凹部(82)の開口は支持部材(81)の径よりわずかに狭くなっており、また、凹部(82)の内径は支持部材(81)の径に合致するようになっている。したがって凹部(82)に嵌め込まれた支持部材(81)は凹部(82)の内側で挟持されて固定されるようになっている。
(発明の効果)
本発明に係る埋設物の固定方法によれば、手による三次元方向に自在に折り曲げが可能な線状の支持部材によって曲げの自在性を利用して、縦横あるいは斜めに配筋された支骨鉄筋に対して自由に架設することができ、これによって埋設物を埋設したい位置に容易に固定することができる。また、支持部材は曲げられた状態で型枠に埋設物を押圧できる突張り強度を有するから埋設物を型枠に確実に密接させておくことができる。
又、本発明に係る埋設物の埋設方法によれば、先に立てかけた型枠と鉄筋との間隔が異なる場合にも、手による三次元方向に自在に折り曲げ可能な支持部材によってその間隔に容易に対応させることができ、さらに支持部材は曲げられた状態で型枠に埋設物の開口部を押圧できる突張り強度を有するから、型枠に対して、埋設物の開口部が密接するように固定することができる。これにより、埋設物を埋設位置へ容易かつ迅速に設置することができ、埋設作業を効率的に行うことができ、埋設物を釘等で型枠に打ちつけて固定する従来の方法と比べ、釘打ちの煩雑な作業を必要とせず、また型枠取外し後の釘処理を要せず、さらに釘さびによって壁表面にシミを発生させることもない。
このような本発明に係る固定方法及び埋設方法は、近時開発されたプラスチック製型枠(6a)を用いた工法においても使用することができる。(第49図参照)この場合、従来は型枠に埋設物(図は電気配線用のボックス)をテープではりつけて固定していたのに比べ、本発明に係る固定方法及び埋設方法を使用すれば、支持部材(71)が型枠(6a)に埋設物を押圧できる突張り強度を有するから、より堅固に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図及び第2図は本発明に係る固定方法及び埋設方法に使用される埋設物の使用状態における作用を説明するための側面図および平面図、第3図は支持部材及び取付部の平面図、第4図は第3図のA-A断面図、第5図から第11図まではボックスを例にした場合の一例を示したものであり、第5図は取付部をボックスに取付ける前の斜視図、第6図は取付部をボックスに取付けた状態の断面図、第7図は取付部の取付け構造を示す断面図、第8図は蓋を設けて取付部をボックスに取付けた状態の断面図、第9図は鉄筋に架設した状態の斜視図、第10図は型枠を当接させた状態の側断面図、第11図はコンクリート壁内に埋設した状態の側断面図、第12図から第14図まではボックスの別例を示したものであり、第12図は取付部をボックスに取付ける前の斜視図、第13図はタッピングネジを用いて取付部をボックスに取付ける状態の断面図、第14図はボルトとナットを用いて取付部をボックスに取付ける状態の断面図、第15図から第18図まではエンドカバーを例にした場合の一例を示したものであり、第15図は取付部をエンドカバーに取付ける前の分解斜視図、第16図は取付部をエンドカバーに取付けた状態の側断面図、第17図は鉄筋に架設した状態の斜視図、第18図はコンクリート壁内に埋設した状態の側断面図、第19図および第20図はエンドカバーに取付ける取付部の別例を示したものであり、第19図は取付部をエンドカバーに取付け鉄筋に架設した状態の斜視図、第20図はコンクリート壁内に埋設した状態の側断面図、第21図から第24図までは仮枠ブッシングを例にした場合の一例を示したものであり、第21図は取付部を仮枠ブッシングに取付ける前の分解斜視図、第22図は取付部を仮枠ブッシングに取付けた状態の側断面図、第23図は鉄筋に架設した状態の斜視図、第24図はコンクリート壁内に埋設した状態の側断面図、第25図から第28図まではインサートに取付ける取付部の一例を示したものであり、第25図は取付部をインサートに取付ける前の斜視図、第26図は取付部をインサートに取付けた状態の側断面図、第27図は鉄筋に架設した状態の斜視図、第28図はコンクリート壁内に埋設した状態の側断面図、第29図から第33図まではインサートの別例を示したものであり、第29図は取付部をインサートに取付ける前の斜視図、第30図は取付部の取付け状態を示す側断面図、第31図から第33図までは支持部材の固定状態を説明するための断面図、第34図から第36図まではボックスを例にした場合に一例であり、第34図はその斜視図、第35図は鉄筋に架設した状態の斜視図、第36図はコンクリート壁内に埋設した状態の側断面図、第37図から第39図まではボックスについての別例であり、第37図はその斜視図、第38図は支持部材の固定部分の断面図、第39図は鉄筋に架設した状態の斜視図、第40図から第42図まではボックスについてのさらに別例であり、第40図はその斜視図、第41図から第42図までは支持部材の固定状態を説明するための各断面図、第43図はボックスについての別例の斜視図、第44図から第46図まではインサートを例にした場合の一例であり、第44図はその斜視図、第45図は鉄筋に架設した状態の斜視図、第46図はコンクリート壁内に埋設した状態の側断面図、第47図および第48図はインサートについての別例であり、第47図はその斜視図、第48図はその断面図、第49図はプラスチック製型枠を用いコンクリート壁内にボックスを埋設した場合の側断面図である。
図中、(1)(11)(31)(41)(51)(71)(81)は支持部材、(2)(12)(32)(42)(52)は取付部、(4)は埋設物、(5)は鉄筋、(6)は型枠、(10)はボックス、(30)はエンドカバー、(40)は仮枠ブッシング、(50)はインサートである。
【図面】

















































 
訂正の要旨 訂正の要旨
明瞭でない記載の釈明を目的として、明細書及び図面を、次の[1]〜[11]のとおり訂正する。
[1] 「後者については第34図〜第50図に示されている。」(特許公報4欄6〜7行)を「後者については第34図〜第48図に示されている。」と訂正する。
[2] 「この場合、突起(76)は第41図に示すように一端が切断された突片状のものであっても、第43図に示すように両端がボックス(10)の底壁につながった起伏状のものであってもよい。第41図に示す例の場合には支持部材(71)を前記突起(76)に当接させ、次いで第42図に示すように支持部材(71)を包むようにかしめて固定している。第43図に示す例の場合には支持部材(71)を前記突起(76)内側に挿通させ、次いで第44図に示すように突起(76)をつぶすことにより支持部材(71)をかしめて固定している。」(特許公報11欄8〜17行)を、「第41図に示す例の場合には支持部材(71)を前記突起(76)に当接させ、次いで第42図に示すように支持部材(71)を包むようにかしめて固定している。」と訂正する。
[3] 「第45図に示す例は、」(特許公報11欄18行)を「第43図に示す例は、」と訂正する。
[4] 「第37図〜第45図」(特許公報11欄23行)を「第37図〜第43図」と訂正する。
「5] 「第46図から第48図」(特許公報11欄28行)を「第44図から第46図」と訂正する。
[6] 「第47図」(特許公報11欄39行)を「第45図」と訂正する。
[7] 「第48図」(特許公報11欄43行目)を「第46図」と訂正する。
[8] 「第49図および第50図」(特許公報11欄50行)を「第47図および第48図」と訂正する。
[9] 「(第51図参照)」(特許公報12欄35行)を「(第49図参照)」と訂正する。
[10] 「第40図から第44図まではボックスについてのさらに別例であり、第40図はその斜視図、第41図から第44図までは支持部材の固定状態を説明するための各断面図、第45図はボックスについての別例の斜視図、第46図から第48図まではインサートを例にした場合の一例であり、第46図はその斜視図、第47図は鉄筋に架設した状態の斜視図、第48図はコンクリート壁内に埋設した状態の側断面図、第49図および第50図はインサートについての別例であり、第49図はその斜視図、第50図はその断面図、第51図はプラスチック製型枠を用いコンクリート壁内にボックスを埋設した場合の側断面図である。」(特許公報14欄11〜22行)を「第40図から第42図まではボックスについてのさらに別例であり、第40図はその斜視図、第41図から第42図までは支持部材の頭定状態を説明するための各断面図、第43図はボックスについての別例の斜視図、第44図から第46図まではインサートを例にした場合の一例であり、第44図はその斜視図、第45図は鉄筋に架設した状態の斜視図、第46図はコンクリート壁内に埋設した状態の側断面図、第47図および第48図はインサートについての別例であり、第47図はその斜視図、第48図はその断面図.第49図はプラスチック製型枠を用いコンクリート壁内にボックスを埋設した場合の側断面図である。」と訂正する。
[11] 第43図及び第44図を削除し、第45図を第43図に、第46図を第44図、第47図を第45図、第48図を第46図、第49図を第47図、第50図を第48図、第51図を第49図に、それぞれ訂正する。
審理終結日 2001-08-06 
結審通知日 2001-08-09 
審決日 2001-08-31 
出願番号 特願平1-306218
審決分類 P 1 112・ 121- ZA (E04G)
P 1 112・ 532- ZA (E04G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 伸夫  
特許庁審判長 伊坪 公一
特許庁審判官 後藤 千恵子
志村 博
登録日 1996-09-19 
登録番号 特許第2562698号(P2562698)
発明の名称 コンクリ-ト埋設物の固定方法及び埋設方法  
代理人 樋口 武尚  
代理人 鈴江 孝一  
代理人 鈴江 正二  
代理人 樋口 武尚  

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