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審決分類 審判 一部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  A61F
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  A61F
審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A61F
審判 一部申し立て 2項進歩性  A61F
管理番号 1051476
異議申立番号 異議2000-70478  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1989-06-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-02-02 
確定日 2001-10-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2930306号「変形可能な弾性眼内レンズ」の請求項1、5、7、24ないし26に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2930306号の請求項1、5、7、24ないし26に係る特許を維持する。 
理由
【1】手続の経緯

本件特許第2930306号発明は、昭和63年9月17日(パリ条約による優先権主張1987年9月17日、米国)の出願であって、平成11年5月21日にその特許権の設定登録がなされ、その後、株式会社メニコンにより特許異議の申立てがなされ、当審により平成12年5月24日付で第1回の取消理由通知がなされ、平成13年7月12日付で第2回の取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年7月18日に訂正請求がなされたものである。


【2】訂正の適否についての判断

1.訂正の内容

・訂正事項a
願書に添付された明細書(以下特許明細書という)の特許請求の範囲の請求項1,5,及び7中に
「 相対的に硬いメタクリル酸エステル 」
とあるのを
「 体温で相対的に硬いメタクリル酸エステル 」
と訂正し、
・訂正事項b
特許請求の範囲の請求項7中に
「 弾性レンズ本体 」
とあるのを
「 弾性眼内レンズ本体 」
と訂正するものである。

2.訂正の目的の適否、拡張・変更の存否、及び新規事項の追加の有無

(1)
(1-1) 訂正事項aは、単に「相対的に硬い」と規定されているメタクリル酸エステルを、特定の温度条件下で「相対的に硬い」と規定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、当該特定の温度条件を共通とすることにより「体温で相対的に柔らかいアクリル酸エステル」が相対的な硬軟の比較の対象であることを明確化するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもある。
(1-2) そして、特許明細書中には、「・・・。好ましくは、変形可能な弾性アクリル樹脂材料の形成においては、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルのコポリマーを約45〜55重量%比で混合し、そして相対的に硬いメタクリル酸エステルはフルオロアクリレートである。・・・」(特許第2930306号公報(以下特許公報という)第4頁第8欄第30〜34行)、「・・・混合物中のn-ブチルアクリレート又はエチルアクリレートは、その低ガラス転移温度のためメタクリル酸エステルの共存下で主に軟質性を与える。・・・」(特許公報第6頁第11欄第44〜46行)と、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとが並列的に記載されていることからみて、「相対的に硬いメタクリル酸エステル」に対する硬軟の比較対象がn-ブチルアクリレート又はエチルアクリレートといったアクリル酸エステルであること、及び該アクリル酸エステルが前記「相対的に硬いメタクリル酸エステル」より「相対的に柔らかい」ものであることは明らかである。
以上から、この訂正は、特許明細書に記載された範囲内のものであるといえる。

(2) 訂正事項bは、請求項7の弾性レンズ本体を、当該レンズ本体の特定の適用対象(適用箇所)を以て限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、この訂正は、特許明細書に記載された範囲内のものである。

(3) そして、これら訂正事項a,bの訂正はいずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

3.むすび

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


【3】特許異議の申立てについての判断

1.本件発明

上記【2】で示したように、上記訂正が認められるので、特許異議申立てがなされた本件の請求項1,5,7,24〜26に係る発明は、当該訂正明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりの以下のものである(上記【2】1.参照)。

「 【請求項1】体温で相対的に硬いメタクリル酸エステルと体温で相対的に柔らかいアクリル酸エステルとのコポリマーがジアクリル酸エステルで架橋されてなる、架橋済アクリル樹脂材料からなる変形可能な弾性レンズ本体であって、当該架橋済アクリル樹脂材料のガラス転移温度が-30〜25℃であることを特徴とし;並びに
眼内にレンズ本体を位置決めするためにレンズ本体に付着されている軟質触角状物
からなる変形可能な弾性眼内レンズ。
【請求項5】体温で相対的に硬いメタクリル酸エステル及び体温で相対的に柔らかいアクリル酸エステルのコポリマーとジアクリル酸エステルとを混合し、破断点において少なくとも100%の伸び率及び-30〜25℃のガラス転移温度を有するアクリル酸樹脂エステル樹脂材料を生成することにより形成された、架橋済アクリル樹脂材料からなる変形可能な弾性レンズ本体:並びに
眼内にレンズ本体を位置決めするためにレンズ本体に付着されている軟質触角状物
からなる変形可能な弾性眼内レンズ。
【請求項7】体温で相対的に硬いメタクリル酸エステル及び体温で相対的に柔らかいアクリル酸エステルのコポリマーがジアクリル酸エステルで架橋されてなる架橋済アクリル樹脂材料からなり、当該架橋済アクリル樹脂材料のガラス転移温度が-30〜25℃であることを特徴とする変形可能な弾性眼内レンズ本体。
【請求項24】メタクリル酸エステルがメチルメタクリレート以外である、請求項1記載の眼内レンズ。
【請求項25】メタクリル酸エステルがメチルメタクリレート以外である、請求項5記載の眼内レンズ。
【請求項26】メタクリル酸エステルがメチルメタクリレート以外である、請求項7記載のレンズ本体。 」

2.特許異議申立ての理由の概要

特許異議申立人株式会社メニコン(以下申立人という)は、甲第1〜5号証、参考資料1〜3を提出し、以下のように主張している:

(i) 本件訂正前の請求項1,5,7に係る各発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、各請求項に係る特許は特許法第29条第1項第3号に該当する発明に対してなされたものであり、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。
(ii) 本件訂正前の請求項1,5,7に係る各発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。
(iii) 本件訂正前の請求項7,26に係る各発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、各請求項に係る特許は特許法第29条第1項第3号に該当する発明に対してなされたものであり、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。
(iv) 本件訂正前の請求項7,26に係る各発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。
(v) 本件訂正前の請求項24,25、26に係る各発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。
(vi) 本件訂正前の請求項1,5,24,25に係る各発明は、甲第2〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。
(vii) 本件訂正前の請求項1,5,7の記載は、願書に添付した明細書について特許をすべき旨の査定の謄本の送達前になされた補正により、願書に添付した明細書の要旨を変更する記載を含んだものであるから、平成5年改正前特許法第40条の規定により、本件特許出願はその補正について手続補正書を提出した時になされたものとみなされる。
よって、本件請求項1,5,7に係る各発明は、甲第5号証に記載された発明と同一であるか、甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、各請求項に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明に対してなされたものであるか、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。
(viii) 本件特許明細書は、請求項1,5,7の記載及び発明の詳細な説明の記載に不備があるから、本件の上記請求項1,5,7に係る特許は、いずれも特許法第36条第3項又は第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、特許法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。
(ix) 本件特許明細書は、請求項5の記載及び発明の詳細な説明の記載に不備があるから、本件の上記請求項5に係る特許は、いずれも特許法第36条第3項又は第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、特許法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。

3.各甲号証の記載

(1) 甲第1号証(特開昭62-97559号公報)には、(A)メチルメタクリレート(以下MMAということがある)および(B)ガラス転移点が30℃以下であるアルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレート(以下アルキル(メタ)アクリレートということがある)から選ばれた1種または2種以上を主成分とする共重合体からなる眼内レンズ材、について記載されており(特許請求の範囲)、同眼内レンズ材が非含水性で適度な柔軟性を有し、機械的強度に優れたものであること(例えば第1頁右下欄第1〜4行)、即ち従来の眼内レンズよりも優れた柔軟性を有し、応力緩和性は大きいので反発力が小さく、得られた眼内レンズは手術時にピンセットで入れやすく、また眼内においては、支持部による接触組織への圧迫が少ないために眼内組織に与える影響が小さいという効果を奏するものであることが記載されている(第6頁左下欄[発明の効果]の項第一段落)。また、上記(A)について、重合したものが従来より生体適合性が良好であり、生体内での劣化が小さく、素材の安定性が優れているのでハードタイプの眼内レンズ材として使用されるものであることが記載されており(第2頁左下欄第10〜14行)、上記(B)について、(A)のメチルメタクリレートと共重合させることにより、非含水性で適度な柔軟性を有し機械的強度が大きい眼内レンズ材を得るための成分であるということも記載されており(第2頁左下欄第15〜20行)、(B)について「ガラス転移点が30℃をこえるものを使用した場合、得られる眼内レンズ材は30〜37℃の雰囲気中で柔軟性を失うので好ましくない。」とも記載されており(第2頁右下欄第1〜4行)、上記アルキル(メタ)アクリレートの具体例として、本件特許明細書で具体的に挙げられているn-ブチルアクリレートを含む、複数のものが例示されており(第2頁右下欄第10行〜第3頁左上欄第16行)、MMAとアルキル(メタ)アクリレートの混合比は重量比で30/70〜90/10、好ましくは70/30〜50/50となるように調合して用いられること、混合比率が30/70より小さい場合眼内レンズが軟らかすぎて形状安定性が悪く切削加工しにくくなること、90/10を超える場合は硬くなりすぎ柔軟性がなくなるので好ましくないことも記載されており(第3頁左上欄最下行〜右上欄第9行)(A),(B)の共重合の際に高い溶媒性を有し形状安定性に優れた眼内レンズ材を得るために架橋剤を添加することが好ましいこと、該架橋剤の例としてエチレングリコールジメタクリレート(本件請求項1に規定されるジアクリル酸エステルに該当する)が挙げられること等も記載されている(第3頁右上欄第10行〜左下欄第2行)。また、同眼内レンズ材を用いて調製した眼内レンズ本体に支持部を付着することも記載されている(第3頁右下欄第7行〜第4頁左上欄第4行)。さらに、具体例として、MMAを50〜80重量部、及びn-ブチルアクリレートを20〜50重量部、及び架橋剤としてエチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート、アゾビスジメチルバレロニトリルのいずれか1種又は複数種を併せて混合し架橋せしめた眼内レンズ材樹脂材料の態様について記載されている(第4頁左上欄〜第6頁左下欄の実施例1〜10,特に表1,2)。

(2) 甲第2号証(特開昭48-75047号公報)には、「少なくとも10重量%(遊離カルボキシル基として計算)のペンダントカルボン酸置換分 -この置換分はカルボキシル、低級アルキルカルボキシレートエステル及びカルボン酸無水物基及びこれらの基の混合物から成る群から選択されたものである- を含有する適度に架橋された炭素-炭素背骨重合体のガラス転移温度を低下させる方法に於いて、前記の重合体を下記の群の1つ又はそれ以上の化学的変換反応: a)前記ペンダントカルボキシル及びカルボン酸無水物基の直接のエステル化; b)前記ペンダントカルボキシル及びカルボン酸無水物基の間接のエステル化; 及びc)前記低級アルキルカルボキシレートエステル基のエステル交換 によって処理することを特徴とする、ガラス転移温度を低下させる方法」、及び、当該方法により得られる重合体から形成されたコンタクトレンズについて記載されている(特許請求の範囲)。また、「特に本発明は・・・より屈曲性且つ比較的に軟らかい製品となすことに関する。更に特に本発明は・・・コンタクトレンズを形成し、・・・生理的に適合しうるレンズに硬質のレンズを変換することに関する。」(第2頁左上欄第5〜16行)、「・・使用者にとって強く、便利で安全で快適な・・・、依然屈曲性コンタクトレンズを製造する為の使用に適している組成物が必要である。」(第2頁右上欄下から第2行〜左下欄第2行)、「ここで得られた新規な重合体組成物は実際疎水性(・・・)であり、ガラス転移温度20℃以下、通常0℃以下を有する。」(第3頁左下欄第9〜13行)、「好ましい一態様に於ては硬質重合体はアクリル酸、2-メトキシメチルメタクリレート及び1,4-ブタンジオールジメタクリレートとの混合物を重合することによって製造される。」(第3頁左下欄下から第2行〜右下欄第2行)、「本発明による製法に有用な代表的アクリル型エステルモノマーには、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル及びブチルアクリレート及びメタクリレート;2-ヒドロキシエチルアクリレート及びメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート及びメタクリレート、及び特にアルコキシアルキルアクリレート及びメタクリレートエステル(・・・)が含まれる。」(第5頁左下欄第6〜18行)、「本発明による方法に有用な代表的架橋剤には、以下の種類が含まれる:・・・(4)前記のような酸基のアクリル型酸の脂肪族ジオール(グリコール型)エステル、例えば・・・。グリコール型アクリレート及びメタクリレート架橋剤が好ましい。」(第6頁右上欄第6行〜左下欄第10行)、「本発明による生理的に適合するプラスチック材料、コンタクトレンズ、生物材料(biomaterial)等並びにガスケット、バルブ、シール及び類似の製品を製造する為の種々の変性は・・・」(第11頁左上欄第4〜12行)、と記載されており、モノマーとしてアクリル酸或いはその無水物、及び2-メトキシエチルメタクリレート或いはN-ブチルメタクリレート、の二者を採用し架橋剤を加え混合して調製してなる「コンタクトレンズ」又は「レンズ」が記載されている(例1〜17。2-メトキシエチルメタクリレート採用の例は例1〜8,N-ブチルメタクリレート採用の例は例11〜17)。

(3) 甲第3号証(特開昭62-127823号公報)には、アクリル酸エステル19.9〜90モル%、メタクリル酸エステル9.9〜80モル%、ならびに分子中に環状構造および2個以上の官能基を有し、かつ環状構造と官能基間の原子数が2以上である架橋性モノマー0.1〜20モル%を用いた共重合体からなることを特徴とする非含水ソフトコンタクトレンズについて記載されている(特許請求の範囲)。また、「本発明は、・・・。さらに詳しくは、本発明は機械的強度の向上した実質的に非含水性のソフトコンタクトレンズに関する。」(第1頁[産業上の利用分野])、「本発明のソフトコンタクトレンズを構成する共重合体のモノマー成分のうち、アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル基の炭素数が4以上であるn-ブチルアクリレート、・・・などを挙げることができる。・・・。本発明のソフトコンタクトレンズを構成する共重合体のモノマー成分のうちメタクリル酸エステルとしては、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、・・・などを挙げることができる。・・・。」(第2頁右上欄第4行〜第5頁第7行)、「本発明のソフトコンタクトレンズを形成する前記モノマーよりなる共重合体は (1)前記モノマー成分をコンタクトレンズ形状の成型中で直接重合する方法、 (2)アクリル酸およびアクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種の化合物、メタクリル酸およびメタクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種の化合物、ならびに架橋性モノマーからなる硬質共重合体をコンタクトレンズ形状に切削し、研磨した後、・・・エステル化処理および/またはエステル交換処理を行うことにより軟質化する方法 などにより得ることができる。」(第4頁左下欄第11行〜右下欄第4行)、「・・・、(1)の方法では、・・・。このときのモノマーの使用量は、アクリル酸エステルが19.9〜90モル%、好ましくは40〜75モル%、メタクリル酸エステルが9.9〜80モル%、好ましくは25〜60モル%、および架橋性モノマーが0.1〜20モル%、好ましくは1〜10モル%である。」「上記アクリル酸およびアクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種の化合物、メタクリル酸およびメタクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種の化合物ならびに架橋性モノマーの使用量は、得られる硬質共重合体のガラス転移温度が好ましくは50℃以上、かつ、エステル化処理および/またはエステル交換処理によって得られるソフトコンタクトレンズを構成する共重合体のガラス転移温度が好ましくは20℃以下、特に好ましくは0℃以下となるように調節される。」(第5頁左上欄最下行〜右上欄第9行)、と記載されており、具体的に調製したソフトコンタクトレンズの例(実施例1〜4の項)および当該各例のレンズにおける引張強度、破断伸び(破断点における伸びを意味するものと認める)、初期弾性率のデータについて記載されている(第7頁表1)。

(4) 甲第4号証(特開昭58-146346号公報)には、眼内に移植する人工レンズとして用いるに適した眼内レンズであって、所定の記憶特性を有する変形可能な光学帯域部を包含し、この記憶特性により、前記光学帯域部を圧縮したり、巻いたり、折り曲げたり、伸ばしたりしてその圧力のかかっていない状態のときの横断面直径の80%またはそれより小さい直径にすることによってレンズを変形させることができ、しかも眼内に移植した後にレンズがその当初の形状、完全寸法、一定焦点距離にもどることができるようにしてあることを特徴とする眼内レンズ、及び同眼内レンズを眼内に支える手段を包含するものについて記載されており(特許請求の範囲第1項)、前記光学帯域部がシリコーン・エラストマー、ポリウレタン・エラストマー、ヒドロゲル・ポリマー、コラーゲン化合物、有機ゲル化合物、合成ゲル化合物からなるグループから選択した化合物で調製されたものであることが記載されており(特許請求の範囲第19項)、「本発明は眼球組織に作った比較的小さい切開部を通して移植することのできる改良した眼内レンズ構造およびその移植方法、装置に関するものである。もっと詳しく言えば、本発明のレンズ構造は、所定の記憶特性を有する変形可能な光学帯域部を包含し、この記憶特性により、光学帯域部を圧縮したり、巻いたり、折曲げたり、引延ばしたり、これらを組合わせて行なったりして当初の横断面直径の80%またはそれ以下の直径にしてレンズを変形させることができ、しかもレンズが眼内挿入後、当初の形状、完全寸法、定焦点距離にもどることができる。・・・・・・人工眼内レンズを移植する本発明の方法は、・・・・・・。すなわち、所定の記憶特性を持った変形可能な光学帯域部を有する眼内レンズを容易する段階と、このレンズの光学帯域部をその圧力のかかっていない状態の横断面直径の約80%またはそれより小さい直径まで変形させる段階と、眼球組織に作った比較的小さい切開部を通して眼内レンズを挿入する段階と、この挿入段階後にレンズ移植体をその当初の形状、完全寸法、定焦点距離にもどさせる段階とを包含し、・・・・・・」と記載されている(第4頁左上欄第1行〜右上欄第7行)。

(5) 甲第5号証(特開平1-158949号公報)は、本件特許出願の公開公報であり、本件特許出願当初に添付された明細書及び図面が記載されている。

(6) 参考資料1(平成12年1月21日付、名古屋工業大学材料工学科教授・辻田義治の名で提出された実験成績証明書1)には、甲第1号証記載の眼内レンズを構成する共重合体が「-30〜25℃のガラス転移温度を有し、少なくとも100%の破断点における伸び率を有するものである」ことを立証することを目的として、実験例1〜3として、MMA含量が順に47,40,30重量部、n-ブチルアクリレートを順に53,60,70重量部、エチレングリコールジメタクリレートを各々3重量部、混合し調製してなる共重合体のガラス転移点が、順に24℃、6℃、-3℃である実験結果が示されている。

(7) 参考資料2(平成12年1月21日付、名古屋工業大学材料工学科教授・辻田義治の名で提出された実験成績証明書2)には、甲第2号証記載のレンズ製品を構成する重合体が「-30〜25℃のガラス転移温度を有し、少なくとも100%の破断点における伸び率を有するものである」ことを立証することを目的として、実験例1として甲第2号証第10頁右上欄第1行〜左下欄第8行記載の「例13」に準拠して重合体1を得、当該重合体1のガラス転移点温度が-6℃、破断点における伸び率が150%であったこと、また、実験例2としてn-ブチルメタクリレート48モル%、n-ブチルアクリレート48モル%及びエチレングリコールジメタクリレート4モル%からなるモノマー混合物100重量部に対し、0.20重量部のアゾビスイソブチロニトリルと0.05重量部のアゾビスジメチルバレロニトリルとを均一に攪拌して得られる混合液から重合体2を調製し、当該重合体2のガラス転移温度が-7℃、破断点における伸び率が105%であった実験結果が示されている。

(8) 参考資料3は、本件特許出願に係る平成9年9月25日付の手続補正書である。

4.対比・判断

(1)2.(i)・(ii)について

(A) 本件請求項1について

(A-1) 新規性の判断
本件請求項1に係る発明と甲第1号証記載の発明を対比するに、甲第1号証において(A)のメチルメタクリレートが例えばハードタイプの眼内レンズとして使用されるものである旨記載されており、かつ(B)のアルキル(メタ)アクリレートのガラス転移点が30℃以下であることが記載されていることから、(A)のメチルメタクリレート及び(B)のアルキル(メタ)アクリレートは「体温で相対的に硬いメタクリル酸エステルと体温で相対的に柔らかいアクリル酸エステル」に相当すると認められるので、両者は
体温で相対的に硬いメタクリル酸エステルと体温で相対的に柔らかいアクリル酸エステルとのコポリマーがジアクリル酸エステルで架橋されてなる、架橋済アクリル樹脂材料からなる変形可能な弾性レンズ本体、及び、眼内にレンズ本体を位置決めするためにレンズ本体に付着されている軟質触角状物からなる変形可能な弾性眼内レンズ
であるという点で共通している。
しかしながら、前者は、弾性レンズ本体を構成する架橋済アクリル樹脂材料のガラス転移点温度が-30〜25℃であるのに対し、後者では、対応する架橋済アクリル樹脂材料のガラス転移点について-30〜25℃の範囲内に属するという旨の記載は文言上みられない。この点について甲第1号証を詳細に検討する。
既に述べたように、甲第1号証中には、(B)のアルキル(メタ)アクリレートについて「ガラス転移点が30℃をこえるものを使用した場合、得られる眼内レンズ材は30〜37℃の雰囲気中で柔軟性を失うので好ましくない。」(第2頁右下欄第1〜4行)、と記載されている。かかる記載は、(B)のアルキル(メタ)アクリレートとして、この記載とは逆のガラス転移点が30℃を超えないものを採用すれば、得られる眼内レンズ材は少なくとも30〜37℃の雰囲気中で適度な柔軟性を有することを意味するものであるとも理解できるものの、仮にそう理解したとしても、得られる架橋済アクリル樹脂材料が、30〜37℃よりさらに低い-30〜25℃の範囲においてガラス転移点を有するほどの柔軟性を示すものであることについてまで、上の記載から具体的に明らかであるとは到底いえないことは勿論、当該得られる架橋済アクリル樹脂材料の任意の態様のもののガラス転移点が-30〜25℃の範囲にあることが、甲第1号証の記載から明らかであるともいえない。
また、この点に関し、申立人は参考資料1(名古屋工業大学材料工学科教授・辻田義治による平成12年1月21日付実験成績証明書)を提出し、同資料1のデータに基づいて、甲第1号証記載の眼内レンズを構成する共重合体が「-30〜25℃のガラス転移温度を有」するものである旨を主張する。
そこで、同参考資料1記載の実験例1〜3の実験結果を検討すると、該共重合体におけるMMA及びn-ブチルアクリレートの混合比は、いずれも甲第1号証記載の(A),(B)の混合比30/70〜90/10の範囲には一応包含されるものではあるが、甲第1号証中に具体的に記載された態様のもの(実施例1〜10)とは、いずれも(A),(B)の混合比において異なっているし、(A),(B)の混合比において好ましい範囲とされる70/30〜50/50の範囲にも該当するものではない。さらに、実験例1〜3においては、実験例3,2,1の順でMMAの混合比が増加する(30,40,47)のに対応して、ガラス転移温度はこの順に-3℃,6℃,24℃と増加傾向にあることが読みとれる。かつ、MMAがアクリル樹脂材料の硬度を付与するのに寄与する成分である旨甲第1号証に記載されていることは、既に述べたとおりである。一方、甲第1号証に例示されている実施例1〜10の架橋済アクリル樹脂材料におけるMMAの混合比は、いずれも50〜80の間であって上記実験例1〜3における混合比と比較して多いことから、少なくとも上記実施例1〜10の架橋済アクリル樹脂材料のガラス転移温度は、いずれも24℃を超えている、さらに言えば、25℃を超えている、ことは容易に推認されるところである。
したがって、甲第1号証に好ましい態様として記載されている、MMAの混合比が50以上の架橋済アクリル樹脂材料のガラス転移温度は、いずれも25℃以上のものである蓋然性が非常に高いといえるから、甲第1号証記載の発明においては、弾性レンズ本体を構成する架橋済アクリル樹脂材料で、ガラス転移温度が-30〜25℃の範囲内に属するものについてまでは記載されているとはいえず、またこの点において本件請求項1に係る発明と相違するものである。
よって、本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるとまではいえない。

(A-2) 進歩性の判断
本件の請求項1に係る発明と甲第1号証記載の発明との間の相違点は、(A-1)で述べたとおりである。
また、甲第1号証記載の発明の眼内レンズは、既に述べたとおり「従来の眼内レンズよりも優れた柔軟性を有し、応力緩和性は大きいので反発力が小さく、えられた眼内レンズは手術挿入時にピンセットで入れやすく、また眼内においては、支持部による接触組織への圧迫が少ないために眼内組織に与える影響が小さい」(第6頁左下欄第8〜15行)という程度の変形が可能なものであって、特に眼内への埋め込みの前に、眼内レンズを室温下で折り曲げ、丸め、圧縮等による変形を容易とし、眼内への挿入を容易とするものであり、該眼内レンズを構成する架橋済アクリル樹脂材料のガラス転移温度を-30℃〜25℃とすることについて、甲第1号証中には何等具体的に示唆されていない。
そして、本件の請求項1に係る発明は、弾性眼内レンズ本体を構成する架橋済アクリル樹脂材料について、同請求項の規定に係るガラス転移温度を有することを要件として具備することにより、眼内に挿入する以前に室温下で相対的に小さな外形寸法に折り曲げたり又は丸めたりでき、相対的に小さな切開によって眼内に装着できる等の、特許明細書記載の効果を奏するものである。
以上からみて、本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(B)本件請求項5,7について

本件の請求項5,7に係る発明は、弾性レンズ本体が「体温で相対的に硬いメタクリル酸エステル」及び「体温で相対的に柔らかいメタクリル酸エステル」とのコポリマーがジアクリル酸エステルで架橋されてなる架橋済アクリル樹脂材料からなるものであること、及び当該架橋済アクリル樹脂材料のガラス転移温度が-30〜25℃であること、を要件とする点において、本件請求項1に係る発明と共通しているから、いずれも、甲第1号証記載の発明と対比するに、少なくとも上記(A)(A-1)で述べた相違点を有するものであることが明らかである。
してみると、本件の請求項5,7に係る発明は、上記(A)(A-1)〜(A-2)で述べたと同様の理由から、いずれも、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。

(2)2.(iii)・(iv)について

(A) 請求項7について

(A-1) 新規性について
本件請求項7に係る発明と甲第2号証記載の発明を対比するに、両者は、コポリマーがジアクリル酸エステルで架橋されてなる、架橋済アクリル樹脂材料からなる変形可能な弾性レンズ本体であって、当該架橋済アクリル樹脂材料のガラス転移点温度が-30〜25℃である弾性レンズ、について記載されているという点で共通しているが、前者は眼内レンズ本体に係る発明であるのに対し、後者においては、特にコンタクトレンズの調製が主目的とされており、またその他の用途として生理的に適合するプラスチック材料、生物材料(biomaterial)等、ガスケット、バルブ、シール等の製品の製造に用いられ得ることが一応記載されているのみであって、少なくとも得られる重合体組成物を特に眼内レンズ用の構成成分として採用することについては記載されていないし、またその旨の具体的な示唆もみられない
という点において少なくとも相違している。
よって、本件請求項1記載の発明は、甲第2号証に記載された発明であるということはできない。

(A-2) 進歩性について
本件の請求項7に係る発明と甲第2号証記載の発明との間の相違点は、(A-1)で述べたとおりであり、前者が眼内レンズ本体に係る発明であるのに対し、後者においてはあくまで、使用者にとって強く便利で安全で快適な屈曲性コンタクトレンズを調製することが主目的とされているものである。そして、同じ眼に関連するレンズとはいえ、人体における適用部位、適用法等において、眼内レンズとコンタクトレンズは全く異なるものであるし、その構成成分である共重合体について直ちに相互転用が可能であるともいえない。してみると、甲第2号証の記載に基づき、同号証記載のコンタクトレンズの構成成分と同一の共重合体から特に眼内レンズを調製することが、当業者にとり直ちに容易に想到し得たことであるとはいえない。
また、特に眼内への埋め込みの前に、眼内レンズを室温下で折り曲げ、丸め、圧縮等による変形を容易とし、眼内への挿入を容易とするものであって、該眼内レンズを構成する架橋済アクリル樹脂材料のガラス転移温度を25℃以下とすることについて、甲第2号証中には何等具体的に示唆されていない。
そして、本件の請求項7に係る発明は、弾性眼内レンズ本体を構成する架橋済アクリル樹脂材料について、同請求項の規定に係るガラス転移温度を有することを要件として具備することにより、眼内に挿入する以前に室温下で相対的に小さな外形寸法に折り曲げたり又は丸めたりでき、相対的に小さな切開によって眼内に装着できる等の、特許明細書記載の効果を奏するものである。
以上からみて、本件の請求項7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(B) 請求項26について
請求項26に係る発明は、請求項7を引用して記載された発明であるから、上記(A)(A-1)、(A-2)で既に述べたと同様の理由から、甲第2号証に記載された発明であるこということはできないし、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)2.(v)について
この理由に関する申立人の特許異議申立書における主張は、請求項24,25,26に係る各発明(以後各請求項の発明ということがある)と甲第1号証記載の発明とは、前者においては「メタクリル酸エステルがメチルメタクリレート以外である」のに対し後者ではメタクリル酸エステルがメチルメタクリレートであるという点のみにおいて相違するところ、メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルのコポリマーをジアクリル酸エステルで架橋してなる架橋済アクリル樹脂材料で「メタクリル酸エステルがメチルメタクリレート以外である」ものは甲第3号証に記載されているから、甲第1号証記載の発明及び甲第3号証記載の発明を適宜組み合わせて各請求項の発明とすることは当業者にとり容易である、というものである。
しかしながら、請求項24,25,26に係る各発明は、この順に請求項1,5,7を各々引用して規定されているものであり、かつ(1)(A),(B)で既に述べたように、甲第1号証記載の発明においては、弾性レンズ本体を構成する架橋済アクリル樹脂材料で、ガラス転移温度が-30〜25℃の範囲内に属するものについては記載されているとはいえない、という点で本件請求項1,5,7に係る各発明と相違しているから、各請求項の発明と甲第1号証記載の発明との間には、(1)(A),(B)で述べた上記相違点が既に存在している。
そして、かかる相違点について、甲第1号証の記載に基づき当業者が容易に想到し得たものでないことはこれまた既に上記(1)(A),(B)で述べたとおりである。また、甲第3号証には、ソフトコンタクトレンズを構成する共重合体のガラス転移温度が好ましくは20℃以下、特に好ましくは0℃以下となるように調節される旨記載されていることは既に述べたとおりであるものの、甲第3号証に記載されているのはあくまでソフトコンタクトレンズに係る発明であって、同じ眼に関連するレンズとはいえ、人体における適用部位、適用法等において眼内レンズとは異なるものであり、その構成成分について直接相互に転用が可能であるとはいえないから、甲第3号証に記載されたソフトコンタクトレンズを構成する共重合体を、甲第1号証における弾性眼内レンズ本体の構成成分として採用することが、当業者にとり直ちに容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、「メタクリル酸エステルがメチルメタクリレート以外である」という点について対比・検討するまでもなく、請求項24,25,26に係る発明は、いずれも甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)2.(vi)について

(A) 本件請求項1に係る発明と甲第2号証記載の発明との相違点について上記(2)で既に述べたとおり、甲第2号証はあくまでコンタクトレンズであって、同じレンズであっても眼内に挿入するための眼内レンズである本件請求項1の発明に係る弾性眼内レンズとは、適用する箇所や適用法等において異なるものである。また、本件請求項1に係る発明と甲第3号証記載の発明との相違点についても同様である。
また、甲第4号証には、眼に適用するための弾性レンズについて記載されており、同弾性レンズについて、変形が容易であること、またそれ故に比較的小さい切開部を通して移植することのできるものであることが記載されていることは既に述べたとおりであるものの、弾性レンズを構成する光学帯域部についてシリコーン・エラストマー、ポリウレタン・エラストマー、ヒドロゲル・ポリマー、コラーゲン化合物、有機ゲル化合物、合成ゲル化合物からなるグループから選択した化合物で調製されるものであることが記載されているのみで、甲第2号証或いは甲第3号証に記載されるような共重合体を当該弾性レンズの構成成分として採用することについて記載も示唆もみられないのみならず、同弾性レンズの構成成分となる重合体の調製原料等についても、何等具体的な記載がみられるわけではない。
そして、眼に適用する弾性レンズであるという点で共通するとはいえ、甲第2〜3号証に記載されるようなコンタクトレンズと、本件請求項1の発明や甲第4号証記載の発明におけるような眼内レンズとは、人体における適用部位、適用法等において互いに異なるものであり、またその構成成分について直接相互に転用が可能であるとはいえないことは、これまでにも述べたとおりである。
してみれば、甲第2号証或いは甲第3号証のコンタクトレンズに係る記載と、甲第4号証記載の弾性眼内レンズに係る記載を組み合わせることが、当業者にとり直ちに容易であったということはできず、また甲第2〜4号証の記載をいかに組合せても、特定のモノマーからなるコポリマーを構成成分とし、特定のガラス転移温度範囲を有する架橋済アクリル樹脂材料を構成成分とした、本件請求項1の発明におけるような弾性レンズ本体を、当業者が直ちに容易に調製し得たということもできない。
そして、本件の請求項1に係る発明は、弾性眼内レンズ本体を構成する架橋済アクリル樹脂材料について、同請求項の規定に係るガラス転移温度を有することを要件として具備することにより、特許明細書記載の効果を奏するものである。
してみれば、本件請求項1に係る発明は、甲第2〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(B) 本件の請求項5に係る発明について、「体温で相対的に硬いメタクリル酸エステル」及び「体温で相対的に柔らかいメタクリル酸エステル」とのコポリマーがジアクリル酸エステルで架橋されてなる架橋済アクリル樹脂材料からなり、当該架橋済アクリル樹脂材料のガラス転移温度が-30〜25℃である弾性レンズ本体を要件とする点において、本件請求項1に係る発明と共通していることは、既に述べたとおりである。
よって、本件の請求項5に係る発明は、上記(A)で述べたと同様の理由から、甲第2〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。
また、請求項1を引用して記載されている請求項24に係る発明、及び請求項5を引用して記載されている請求項25に係る発明についても同様である。

(5)2.(vii)について
この理由に関し、申立人は特許異議申立書において、
本件訂正前の請求項1,5,7の構成要件として「相対的に硬いメタクリル酸エステルと(及び)体温で相対的に柔らかいアクリル酸エステル」の記載があり、かかる記載はそもそも参考資料3(平成9年9月25日に本件特許権者により提出された手続補正書)の第1頁第2〜8行、同第18〜25行及び第1頁末行〜第2頁第3行にあるように、本件特許発明の出願時の願書に添付した明細書(甲第5号証の記載と同じ。以下甲第5号証という)における請求項1,5,7中の記載、即ち「相対的に硬くそして体温で相対的に柔らかい、メタクリレートエステル及びアクリレートエステル」を補正したものであるところ、かかる記載で「相対的に硬くそして体温で相対的に柔らかい」との語句は直後の「メタクリレートエステル」のみを説明するものであるか、もしくは「メタクリレートエステル」及び「アクリレートエステル」の両方を説明するものであると理解されるにもかかわらず、本件訂正前の請求項1,5,7においては、前記補正により「相対的に硬い」ものは「メタクリル酸エステル」、「体温で相対的に柔らかい」ものは「アクリル酸エステル」と一対一対応の記載となったが、甲第1号証には、本件請求項1,5,7のごとき「相対的に硬い」ものは「メタクリル酸エステル」、「体温で相対的に柔らかい」ものは「アクリル酸エステル」との一対一対応の記載の根拠となる記載や示唆は一切ないから、本件請求項1,5,7の記載には、前記補正により本件特許出願の願書に添付した明細書の要旨を変更する記載が含まれている、
という旨主張しており(特許異議申立書中の例えば第55頁下から第7行〜第55頁第24行)、これを申立理由2.(vii)の根拠としている。
しかしながら、甲第5号証には、「・・・。好ましくは、変形可能な弾性アクリル樹脂材料の形成においては、メタクリレートエステル及びアクリレートエステルのコポリマーを約45〜55重量%比で混合し、そして相対的に硬いメタクリレートエステルはフルオロアクリレートである。・・・」(第5頁右下欄第9〜11行)と記載されていることから、「相対的に硬い」ものとして「メタクリレートエステル」(「メタクリル酸エステル」と同義と認められる)が一対一対応で記載されているものと認められる。また、「・・・。混合物中のn-ブチルアクリレート又はエチルアクリレートは、その低ガラス転移温度のためメタクリレートエステルの共存下で主に軟質性を与える。・・・」ことも記載されているから、上記「相対的に硬いメタクリレートエステル」と対比する対象としてのアクリレート類即ちアクリル酸エステルは、該「メタクリレートエステル」と比較して「体温で相対的に柔らかい」ものであることが記載されているといえる。
そして、請求項1,5,7においては、「相対的に硬いメタクリル酸エステル」は訂正により「体温で相対的に硬いメタクリル酸エステル」と訂正され、当該「体温で相対的に硬いメタクリル酸エステル」と「相対的」な比較の対象が「体温で相対的に柔らかいアクリル酸エステル」であることがより明確になったことは、既に【2】(1)で述べたとおりである。
してみると、「相対的に硬い」ものは「メタクリル酸エステル」、「体温で相対的に柔らかい」ものは「アクリル酸エステル」との一対一対応の記載の根拠となる記載や示唆が甲第5号証中に一切ないとする申立人の主張は認容できず、本件請求項1,5,7の記載には、前記補正により本件特許出願の願書に当初に添付した明細書の要旨を変更する記載が含まれているとはいえない。
以上より、本件特許出願が平成9年9月25日付手続補正書を提出した時になされたものとみなすことはできないから、甲第5号証の記載についてあらためて検討するまでもなく、本件請求項1,5,7に係る発明は、甲第5号証に記載された発明であるとすることはできないし、甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

(6)2.(viii)について
(6-1) 申立人は特許異議申立書において、本件請求項1,5,7(以下各請求項という)中の「相対的に硬いメタクリル酸エステル」「相対的に柔らかいアクリル酸エステル」は、各々何を比較対象として「硬い」「柔らかい」のか明確な規定がないし、しかも「メタクリル酸エステル」自体、「アクリル酸エステル」自体はモノマーであっていずれも液体であるのに「硬い」「柔らかい」と表現されており、不適切であるから、各請求項中の上記「相対的に硬いメタクリル酸エステル」「相対的に柔らかいアクリル酸エステル」はいずれも不明りょうであること、及び、これら不明りょうな点について発明の詳細な説明において何等具体的な記載がなされていないこと、を主張している。

(6-2) しかしながら、各請求項においては、当該「体温で相対的に硬いメタクリル酸エステル」及び「体温で相対的に柔らかいアクリル酸エステル」同士が互いに「相対的」な比較対象であることは、既に上の【2】(1)で述べたとおりであるし、硬軟の程度についてその絶対的な比較基準が明確に規定されていないからといって、二者を硬軟の相互比較の対象として規定すること自体が直ちに不明りょうであるとはいえない。
また、ホモポリマーの硬軟やガラス転移点に係る表現を当該ホモポリマーを構成するモノマーで表現することは、例えば甲第1号証の記載(例えば、「ガラス転移点が30℃以下であるアルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレート」(特許請求の範囲等)、「メチルメタクリレートなどの硬質素材」・「2-ヒドロキシエチルメタクリレート」(第1頁右下欄第12〜16行)、「該アルキル(メタ)アクリレートのなかでもガラス転移点が30℃をこえるもの・・・」(第2頁右下欄第1〜2行))にもあるように、当業者にとり知られたことである。
してみると、技術用語として望ましい記載の仕方であるか否かはともかく、各請求項の「体温で相対的に硬いメタクリル酸エステル」、「体温で相対的に柔らかいアクリル酸エステル」における、「体温で相対的に軟らかい」「体温で相対的に硬い」成る性質が、いずれも各々修飾するモノマー「メタクリル酸エステル」「アクリル酸エステル」からなるホモポリマーについてのものであると理解することは、当業者にとり自然である。
以上から、「相対的に硬いメタクリル酸エステル」「相対的に柔らかいアクリル酸エステル」について、各請求項の記載が不明りょうであるとはいえないし、また、発明の詳細な説明から上記「相対的に硬いメタクリル酸エステル」「相対的に柔らかいアクリル酸エステル」について当業者が容易に理解・実施し得ないとまでいうこともできない。

(7)2.(ix)について
この理由について、申立人は特許異議申立書において、請求項5に規定される「破断点における伸び率」は温度依存性の物性値であるにもかかわらず、同請求項5中に測定温度の記載がないばかりか、特許明細書の発明の詳細な説明においても測定温度の記載がなく、上記「伸び率」の測定方法そのものに関する具体的な記載すらみられないことを、その主張の根拠としている。
しかしながら、本件請求項5に規定されるような樹脂材料の破断点における伸び率の測定方法、及び測定時の測定温度が23℃程度とすることは、本件特許出願前後において当業者にとり技術常識であったと認められる(要すれば、 例えば「JISハンドブック プラスチック」(財)日本規格協会 1977版(1977-5-10第1版第1刷)又は1989版(1989-4-12第1版第1刷) K7113「プラスチックの引張試験方法」中の 「状態調節」又は「試験編の状態調節、試験温度及び湿度」の項 参照)。
してみれば、特許明細書中に伸び率測定時の具体的な測定温度の記載がなくても、かかる技術常識を加味すれば、上記23℃程度の温度条件を採用しつつ破断時の伸び率を測定し、特定することは、当業者にとり容易に実施し得ることであるし、また、請求項5中に上記測定温度に係る規定がないからといって、直ちに破断点における伸び率に係る規定について当業者が明りょうに理解し得ないとまではいえない。
よって、発明の詳細な説明の欄に上記測定温度が記載されていないからといって、同欄には請求項5に係る発明を当業者が容易に実施することができる程度の記載がなされていないとまではいえないし、上記測定温度が請求項5中に具体的に記載されていないことを以て、同請求項の記載が不明りょうであるということもできない。

5.むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠方法によっては、本件の請求項1,5,7,24〜26に係る発明の特許を取り消すことはできない。また、他に前記各請求項に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおりに決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
変形可能な弾性眼内レンズ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 体温で相対的に硬いメタクリル酸エステルと体温で相対的に柔らかいアクリル酸エステルとのコポリマーがジアクリル酸エステルで架橋されてなる、架橋済アクリル樹脂材料からなる変形可能な弾性レンズ本体であって、当該架橋済アクリル樹脂材料のガラス転移温度が-30〜25℃であることを特徴とし;並びに眼内にレンズ本体を位置決めするためにレンズ本体に付着されている軟質触角状物からなる変形可能な弾性眼内レンズ。
【請求項2】 架橋済アクリル樹脂材料が、実質的に粘着性のない表面、1000〜3000psi(6.9×106〜20.7×106パスカル)の引張弾性率及び破断点において少なくとも100%の伸び率を有する、請求項1記載の眼内レンズ。
【請求項3】 コポリマーの部分重合混合物をジアクリル酸エステルで化学的に架橋し、架橋済アクリル樹脂を硬化し、べーター緩和温度未満の温度に硬化済架橋済アクリル樹脂を維持しながらレンズ本体を機械加工することによりレンズ本体が形成されている、請求項1記載の眼内レンズ。
【請求項4】 各触角状物がレンズ本体の縁部の小穴中にその広げた先端を強制的に押し込むことによって付着されている、請求項3記載の眼内レンズ。
【請求項5】 体温で相対的に硬いメタクリル酸エステル及び体温で相対的に柔らかいアクリル酸エステルのコポリマーとジアクリル酸エステルとを混合し、破断点において少なくとも100%の伸び率及び-30〜25℃のガラス転移温度を有するアクリル樹脂材料を生成することにより形成された、架橋済アクリル樹脂材料からなる変形可能な弾性レンズ本体:並びに眼内にレンズ本体を位置決めするためにレンズ本体に付着されている軟質触角状物からなる変形可能な弾性眼内レンズ。
【請求項6】 ジアクリル酸エステルで混合する前にコポリマーを混合し部分的に重合する、請求項5記載の眼内レンズ。
【請求項7】 体温で相対的に硬いメタクリル酸エステル及び体温で相対的に柔らかいアクリル酸エステルのコポリマーがジアクリル酸エステルで架橋されてなる架橋済アクリル樹脂材料からなり、当該架橋済アクリル樹脂材料のガラス転移温度が-30〜25℃であることを特徴とする変形可能な弾性眼内レンズ本体。
【請求項8】 アクリル樹脂材料が、実質的に粘着性のない表面、1000〜3000psi(6.9×106〜20.7×106パスカル)の引張弾性率及び破断点において少なくとも100%の伸び率を有する、請求項7記載のレンズ本体。
【請求項9】 相対的に硬いメタクリル酸エステル及び体温で相対的に柔らかいアクリル酸エステルのコポリマーを反応させ、-30〜25℃のガラス転移温度を有する反応生成物を得、該反応生成物を部分的に重合させ、そしてそれをジアクリル酸エステルと混合し、架橋済アクリル樹脂を生成し、該アクリル樹脂を硬化し、そして硬化済アクリル樹脂からレンズ本体に機械加工することにより形成された架橋済アクリル樹脂材料からなる変形可能な弾性眼内レンズ本体。
【請求項10】 相対的に硬いメタクリル酸エステルがフルオロメタクリル酸エステルである、請求項9記載のレンズ本体。
【請求項11】 反応生成物がエチルメタクリレート、トリフルオロエチルメタクリレート及びアクリル酸エステルを含み、各々25〜45重量%、5〜25重量%及び30〜60重量%濃度で存在する、請求項9記載のレンズ本体。
【請求項12】 アクリル酸エステルが、n-ブチルアクリレート、エチルアクリレート及び2-エチルヘキシルアクリレートから選択される、請求項11記載のレンズ本体。
【請求項13】 ジアクリル酸エステルが0.5〜3.0重量%濃度で存在する、請求項12記載のレンズ本体。
【請求項14】 ジアクリル酸エステルがエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート及びエチレングリコールジアクリレートから選択される、請求項13記載のレンズ本体。
【請求項15】 (a)相対的に硬いメタクリル酸エステル及び体温で相対的に柔らかいアクリル酸エステルのコポリマーを混合し;
(b)工程(a)の生成物を部分的に重合し;
(c)工程(b)の生成物をジアクリル酸エステルで化学的に架橋し;
(d)工程(c)の生成物を硬化し;そして(e)工程(d)の生成物から所定の光学特性を有するレンズ本体を形成する各工程からなる、変形可能な弾性眼内レンズ本体の形成方法。
【請求項16】 工程(e)が、レンズ本体に機械加工中、べーター緩和温度未満の温度に、工程(d)の生成物を維持することからなり、得られたレンズ本体のガラス転移温度が-30〜25℃であることを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】 メタクリル酸エステル対アクリル酸エステルがほぼ45対55重量%比で、これらを一緒に混合する、請求項15記載の方法。
【請求項18】 工程(c)のジアクリル酸エステルが0.5〜3.0重量%組成で存在する、請求項17記載の方法。
【請求項19】 工程(a)で、紫外線吸収剤及び遊離基開始剤の混合を更に含める、請求項18記載の方法。
【請求項20】 相対的に硬いメタクリル酸エステルがフルオロメタクリレートである、請求項15記載の方法。
【請求項21】 工程(a)に、5〜25重量%濃度のフルオロメタクリレートを、25〜45重量%濃度のエチルメタクリレート及び30〜60重量%濃度の、n-ブチルアクリレート、エチルアクリレート又は2-エチルヘキシルアクリレートから選択されるアクリル酸エステルと共に混合することを更に含める、請求項20記載の方法。
【請求項22】 フルオロメタクリレートがトリフルオロエチルメタクリレートである、請求項21記載の方法。
【請求項23】 工程(a)に、10重量%以下の濃度の紫外線吸収剤及び0.05〜0.2重量%濃度の遊離基開始剤を混合することを更に含める、請求項22記載の方法。
【請求項24】 メタクリル酸エステルがメチルメタクリレート以外である、請求項1記載の眼内レンズ。
【請求項25】 メタクリル酸エステルがメチルメタクリレート以外である、請求項5記載の眼内レンズ。
【請求項26】 メタクリル酸エステルがメチルメタクリレート以外である、請求項7記載のレンズ本体。
【請求項27】 メタクリル酸エステルがメチルメタクリレート以外である、請求項9記載のレンズ本体。
【請求項28】 メタクリル酸エステルがメチルメタクリレート以外である、請求項15記載の方法。
【発明の詳細な説明】
本発明は、眼内への外科的埋め込みのために予定された眼内レンズ(以下「IOL」と称することがある。)の改良に関し、例えば白内障性の水晶体又は損傷した水晶体の代用としてのIOLに関する。更に詳細には、本発明は、相対的に小さなが外形寸法に折り曲げたり又は丸めたりでき、相対的に小さな切開によって眼内に装着でき、次いで眼内で予め決められた光学特性を有する、最初の変形していない形に自然に戻ることのできる、変形可能なIOLの改良に関する。
通常、白内障症状と呼ばれる混濁のために、典型的には外科的に除去する水晶体の代用として眼内への埋め込みのためのIOLは当業界に周知である。かかるIOLは、所望の一連の光学特性に達成するために適切に形づくられたレンズ表面を有する透明なガラス又はプラスチック製材料の小デイスクから作られている。IOLは、典型的には、視覚の標準線外の強膜等の眼組織の切開によって、水晶体除去後に、眼内に直接埋め込む。多くのIOLは、角膜及び瞳孔の後方のいわゆる眼の後眼房中へ埋め込むようになっている。又、その他のIOLは、角膜及び瞳孔の前方の前眼房に設置するようになつている。ほとんどのIOLのデザインでは、支持構造体が中心のレンズ本体又は光学体に付着されるか、又は一体となって形成され、後眼房又は前眼房の周囲において、眼組織と接触すべく中心のレンズ本体又は光学体から外方に該支持構造体が突出し、それにより、瞳孔を通過する視覚の線とほぼ中心決めされた関係に中心のレンズ本体又は光学体を保持する。
従来、殆どのIOLは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)から形成されている。PMMAは相対的に軽量で、優れた光学特性を有し、眼内に埋め込んだとき比較的不活性であるとほぼ考えられるため、不利な組織反応を避けうる。しかしながら、PMMAは、レンズの形に形成されると、高い硬質性を有し、折り曲げ、丸め、圧縮等によって変形できないプラスチツクマトリツクスである。従って、PMMAからなるレンズの使用は、レンズ本体の全直径に適応させるのに足る眼内組織の相対的に大きな切開を必要とする。即ち、典型的には、付帯するレンズ支持構造体を含めて6ミリメートル又はそれ以上である。ポリプロピレン製のループ若しくは触角状物等の弾力のあるレンズ支持構造体が通常使用され、挿入中レンズ本体上に有利に折り曲げ得るかもしれないが、このような弾力のある触角状物が硬質のプラスチックレンズ体の周縁に固定されており、すると、IOLの埋め込み中に速いスナップ様の動作で最初の変形していない形にはねもどる傾向にあり、その結果、感受性の眼組織に好ましくない外傷をもたらす。
硬質PMMAレンズ本体のIOLは広範囲の支持を得て使用されているが、変形可能なIOLが、硬質のレンズ本体を含む現在のIOLに関連するものを相当超えて医用利点を与える可能性のあることが認められている。更に詳細には、小さな外形寸法に折り曲げたり丸めたりしうる変形可能な透明レンズ本体を含むIOLは、眼内組織に相対的に小さな切開により装着でき、眼内への挿入及び解放後その自然の弾力により初めの寸法と形に戻りうる。より小さな切開の使用は、より少ない縫合ですむ全体を通して安全な外科的処置、及び感染症等の術後合併症の少ないという可能性を有利にもたらすであろう。更に、より小さな切開は、術後乱視の頻度を減少し、そして、実質的にリハビリテーション時間を減少しうるであろう。第二に、変形可能なレンズ本体を有するIOLが繊細なぶどう膜組織に対する接触又は摩擦への二次的合併症の可能性を減じることが期待される。又、変形可能なIOLは色素性分散又は色素性緑内障を減少しうる。最後的に、変形可能なIOLが血液疾患、凝固障害及び血液学的マトグラント(matogrant)疾患をもつ患者に、更にそれらの患者が抗凝血療法を施されている場合に、該患者に対して追加の安全性率を与えるであろうことが期待できる。
従って、シリコーン及びヒドロゲルから形成された変形可能なIOLが埋め込み用に提唱された。例えば、1983年にフヨードロフ(Fyodorov)氏はシリコーンIOLの化学試験について報告した(フヨードロフ氏等の「シリコーン製眼内レンズの初期臨床試験(Initial Clinical Testing of a Silicone Intraocular Lens)」東西シベリア及び極東の眼科医の区域内科学/臨床コンフエランス(Interzonal Scientific/Practical Conference of Ophthalmologists of Western and Eastern Siberia and the Far East)コンフエランス会報4:第22〜24頁、1983年、ウラジオストーク)。又、1983年にマザコ(Mazzacco)氏とダビッドソン(Davidson)氏は3mmの切開により、6mm光学領域をもつシリコーン製IOLの埋め込みについての最初のデータを提供した(マザコ(Mazzacco)T.R.氏とダビッドソン(Davidson)V.A.氏の「3mm創傷に対する6mm光学(6mm Optic for a 3mm Wound)A.I.O.I.S.合衆国眼内レンズシンポジウム、1983年3月、ルイジアナ州、ニユーオリンズ、において提供」。ウイッチターレ(Wichterle)氏と彼の協力者は、1960年に眼窩埋め込み及び眼房内埋め込み用の親水性ポリアクリレートのヒドロゲルを開発し、一方、エプシュタイン(Epstein)氏は1976年及び1977年にポリ(ヒドロヒドロキシエチルメタクリレート)からなる軟質IOLを埋め込んだ。このようなレンズを埋め込まれた何人かの患者の症状を1984年まで追跡した(「HEMA製レンズの挿入技法及び臨床経験(Insertion Techniques and Clinical Experience with HEMA Lenses)」、白内障外科手術における軟質埋め込み用レンズ、第11頁、テイ・アール・マザコ氏、ジー・エム・ラジャシチ(Rajacich)氏、イー・エプシユタイン氏著、サラック(Slack)社1986年発行)。
都合の悪いことに、シリコーン及びヒドロゲルには、IOLとしてのそれらの使用を妨げるいくつかのよく実証されている欠点がある。特に、シリコーンは、生物不適合の症状である、C-4タンパク質の生成を導く補体活性をもたらす。又、シリコーンは折り曲げることが可能であるが、解放されるとき、突然の回復又はあまりに速くその折り曲げていない形に回復する傾向があり、眼の内皮細胞層の無傷な状態を維持することが難しい。更に、紫外線吸収性のシリコーン剤の長期安定性が確認されていない。ヒドロゲルに関しては、水和されると、ヒドロゲル材料が水分含量を含む組成にロットからロットで変動することが見いだされている。かかる変動可能性はヒドロゲル材料から形成されるIOLレンズ本体の屈折力に相応の変動可能性をもたらす。従って、ヒドロゲルIOLは埋め込まれた状態の屈折力を決定するために水和されていなければならない。不都合なことに水和されているレンズは、滅菌状態を損失しないままで湿った状態で安全に貯蔵できない。もし水和されているレンズが続いて脱水されるならば、熱水循環がIOL材料の引張強度を減少させ、レンズ本体に亀裂やきずを起こさせるかもしれない。
その他の変形可能なIOLは米国特許第4,573,998号明細書及び第4,608,049号明細書に記載されている。更に詳細に説明すると、第4,573,998号明細書は変形可能なIOLの埋め込み方法に関する。該明細書はポリウレタンエラストマー、シリコーンエラストマー、ヒドロゲルポリマー コラーゲン化合物、有機若しくは合成ゲル化合物及びこれらの組み合わせ等の材料のうちから構成される、光学領域部分を有するIOLを記載している。実際には、かかる材料はシリコーン及びヒドロゲル材料について前に考察した欠点を有する。
第4,608,049号明細書は基本的な二種類の変形可能なIOLを記載している。最初の種類は、レンズの埋め込み中のようにレンズ本体の外形を小さくしたいとき、お互いに重なるようにちょうつがい取り付け又は連結された一若しくはそれ以上の硬質部分のレンズ本体を含む。かかるレンズの形態は移植中に構成したり取り扱っかったりするのが難しく、更に、硬質IOLであることに関連する制限を受ける。第4,608,049号明細書に記載されているIOLの第二番目の種類は、眼内への挿入後変形していない形態に戻ることのできるように特徴づけられている変形可能なレンズ体を含む。該レンズ本体は、シリコーンゴム又はゴムのコンシステンシーの材料を生成する架橋剤としてエチレングリコールジメタクリレートを有するアクリレートポリマーからなるものでありうる。該変形可能なレンズ本体は、L-型装着部材に固定されており、眼内への挿入中にレンズ体が該装着部材の回りに巻けるようになっている。第4,608,049号明細書のシリコーンゴムIOLは前で考察したシリコーン製IOLについての制限を受ける。第4,608,049号明細書中に記載されているアクリレートポリマーレンズ本体は、(前述のヒドロゲルで考察した問題を被る)相対的に硬いコンシステンシーのヒドロゲルであるが、柔軟性があると知られているその他のアクリレートポリマーは圧縮や折り曲げに機械的欠陥を起こしやすく、眼内で劣化を受ける。
以上より、優れた光学特性、軟質性、弾性、弾性記憶及び引張強度の改良されたバランスを有する眼内レンズ及びレンズ材料の必要性が有ることが明らかである。本発明はこれらの必要性を満足させる。
概要すれば、本発明は、架橋済アクリル樹脂材料からなる変形可能な弾性透明レンズ本体を有するIOLからなる。該架橋済アクリル樹脂材料は、IOLの周りで成長する組織によって及ぼされる力による等の、眼内への埋め込み後の変形に抵抗するに足る引張強度;眼内への小さな切開による埋め込みのためにレンズ本体を小さな外形状態に容易に折り曲げたり、丸めたり、変形したりできるのに足る、破壊点での伸び率によって測定される軟質性;折り曲げられたレンズ本体を自然に制御された速度で最初の形でかつ眼組織を損傷若しくは外傷させることなく光学分解性能に戻ることができる弾性記憶;及び眼内で挿入及び位置決め中にレンズ本体を保持しガイドするのに使用される外科用器具にくっつかないような低粘着性表面等の諸特性を有する。具体的には、架橋済アクリル樹脂材料は、相対的に硬くそして体温において相対的に柔らかい、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルのコポリマーが、ジアクリル酸エステルで架橋されて、実質的に接着性のない表面、-30〜25℃のガラス転移温度、1000〜3000psiの引張弾性率及び破断点において100%〜300%の伸び率を有するアクリル樹脂材料にしたものからなる。かかるレンズ本体を、小さな切開によって挿入するために小さな外形に容易に折り曲げたり、丸めたり、若しくは変形し、たとえ、長い間レンズ本体が小さな外形状態に変形されていたとしても、挿入後20〜180秒のゆっくりと制御された速度でその最初の光学分解性能に自然に戻りうる。戻りの遅さのため、レンズ本体がその最初の形と分解性能に戻る前に、外科医は適切な時間、眼内で折り曲げられているIOLを設置でき、レンズの広がりが眼組織を損傷若しくは外傷をさせないことを保証する。更に、前述の材料及び組成物のレンズ本体は、所望の引張強度を有し、埋め込まれたレンズ本体の周りに成長する組織により及ぼされる力に応じる変形に抵抗し、それによりレンズ本体の所望の光学特性及び分解性能を維持する。
好ましくは、変形可能な弾性アクリル樹脂材料の形成においては、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルのコポリマーを約45〜55重量%比で混合し、そして相対的に硬いメタクリル酸エステルはフルオロメタアクリレートである。フルオロメタアクリレートは表面エネルギー低下剤として機能すると同時に、得られる材料の柔軟性に悪影響を及ぼさないでポリマーに長期間安定な不活性性及び引張強度性与えるモノマーとして機能する。この点について、フルオロメタアクリレートは5〜25重量%の濃度で存在し、好ましくは、トリフルオロエチルメタクリレートである。又、架橋されているアクリル樹脂の好ましい処方では、0.5〜3.0重量%の濃度のジアクリル酸エステルで化学架橋する前にコポリマーの混合物を部分的に重合する。
得られた架橋済アクリル樹脂材料を成形し、所望の光学特性及び分解性能を有するように機械加工され、レンズ本体に一体となっているか又は付着されレンズ本体から延びている触角状物をもつレンズ本体を形成できる。好ましくは、本発明に従って形成される、架橋されているアクリル樹脂材料は、-10〜-80℃、好ましくは-60℃の低温で機械加工及びその他の加工をする。特に、切断中ではレンズ本体を該材料がそのガラス転移温度におけるよりも一層硬い温度であるべーター緩和温度未満の温度に維持する。
図面に示されているように、本発明のIOLの好ましい形体を、第1〜5図の参照番号10で示す。本発明の改良されたレンズ10は、小さな外形寸法に変形可能であり(第4及び5図)、相対的に小さな切開14によって眼内12に埋め込みできる。レンズ10を、選択した一連の物理的特性を持つように形成し、該レンズ10は眼内でゆっくりであるが実質的に完全にその最初の変形していない状態でかつ光学分解性能を有するように、繊細な眼組織に外傷を与えることなく広がる。
第1,2及び3図に示されているように、本発明のIOL10は、典型的には約6ミリメートルオーダーの適切な直径寸法を有し、かつ例示的な図面の例のために示されている平凸型を持つ、選択した光屈折特性を与えるために前-後両側に一組の表面形を有する伝統的なディスク型レンズ本体16からなるIOL10は、典型的には、白内障症状による、水晶体の外科的除去後に眼内12に埋め込むようになっている。別に、所望なら、IOLを水晶体の屈折状態の矯正を得るために埋め込むことができる。一対の外方に放射状に広がって曲がった弾性ループ又は触角状物18等の支持構造体をレンズ本体16に固定し、該支持構造体は、さらに詳細に記載するように、眼内12でレンズ本体を支持する機能を有する。触角状物18は第2図に示されているように前面方向に角度を持たせてもよく、そして/又は、特定の眼内レンズデザインに関連させて、例えば、三つ組のループ若しくはレンズ本体と一体に形成された別の支持構造体等のその他の配置を与えてもよい。
公知の眼内レンズ埋め込み技術に従って、IOL10は、第5図に示されているように、標準視覚線から外れた位置で、透明な虹彩19を通過し、さらに角膜22によって画定されている瞳孔20を通過して、眼組織に形成されている切開14によって眼内に埋め込むようになっている。IOL10を、第5図に示されているように、瞳孔20を通過して、角膜22の後ろのいわゆる後眼房24、典型的には、水晶体の包外の突出の方向に前方に出ている水晶体包26内に埋め込むためにデザインできる。又、所望なら、角膜22の前側の前眼房28に、IOL10を埋め込むことができる。どちらの場合でも、例示した一対の外方に曲がった支持ループ等の支持構造体は前記房縁における周辺組織に対して固定し、レンズ本体16を標準視覚線にほぼ中心決めして維持する。複数の穴32の位置決めもレンズ本体16の縁近くに与えてもよく、適切な外科用器具(示していない)により容易に引っ掛けられ、眼内の所望の位置への外科医によるレンズの取り扱いを容易にする。
本発明の主要な態様では、IOL10のレンズ本体16を、埋め込みそしてそれに続く使用中に重要な利点を得る、軟質性、弾性、引張強度及び柔軟性の諸特性の独特なバランスをもつ、変形可能で弾性の架橋されている透明アクリル樹脂材料から形成する。更に詳細には、その改良された軟質性のため、IOLは、従来のポリメチルメタクリレート(PMMA)等からなる硬質プラスチックレンズと比較して、小さな外形にでき、小さい寸法の切開14によって装着できる。その制御された弾性のため、レンズ本体16は、、その応力のかかっていない通常の位置への触角状物18の急速な若しくはスナップ動作を避けるのに足る制動をもたらす該触角状物18を固着し、それにより、触角状物を眼組織に鋭く衝突させず、損傷させない。更に、レンズ本体は、第4図に示されているような変形した状態から、約20〜180秒のゆっくりした戻り若しくは回復速度を有し、眼組織に衝突し損傷を避けるようにその最初の変形していない状態になる。又、レンズ本体は、折り曲げ線若しくは折り曲げしわ又は光学品質を損なうようなその他の変形等の形体の塑性変形がなく、変形のない状態に実質的に完全に戻ることを保証する。
IOL10のための、好適な架橋済アクリル樹脂材料は、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルのコポリマーからなり、該コポリマーは相対的に硬くかつ体温で相対的に柔らかく、部分的に重合され、ジアクリル酸エステルで化学的に架橋され、そして硬化されている。得られたアクリル樹脂は、体温に相当するかそれに近い温度状態で相対的に革様特性を有する。更に詳細には、第6図を参照すると、架橋済アクリル樹脂組成物は、体温よりいくらか低いガラス転移温度を有するように選択され、その結果、レンズは、相対的に革様特性をもたらす体温環境で剛性(ヤング率)を示しうる。更に、架橋済アクリル樹脂組成物は、実質的に塑性変形がなくそして相対的に回復速度の遅い、高度の弾性特性又は粘弾性特性を有するように選択される。このような特性の組み合わせで、IOL10を第4及び第5図に示されているように、小さな切開14を通過して小さな挿入管36によって容易化された埋め込みのために、触角状物18と共にそれ自身を丸めることができる。特に、中空挿入管36に、潤滑目的のために、ヒアロン(Healon:商標)等を予じめ充填できる。レンズ本体16及び触角状物18を含むIOL10を、予じめ実質的に体温の温度にしてもよく、その温度でIOL10及び管36を、切開14より眼内、例えば、後眼房24内に押し進め、そこでレンズを管36から眼内に排出できる。かくて放出されたレンズはその最初の変形していない状態に戻りうる。重要なことは、この戻り動作が、少なくとも約20秒を超える優れた弾性記憶でもってゆっくり起こることである。レンズが実質的に完全に広がったとき、眼内のレンズ位置は、適切な器具で、例えば、位置決め穴32を引っ掛けて手際よく処理でき、その後、切開を閉じ、埋め込み処置を完了する。
好ましいレンズ本体材料を、透明なアクリルモノマー及びメタクリルモノマーの共重合によって製造する。前記コポリマーは相対的に硬くかつ体温環境で相対的に柔らかい物理特性を示し、そして約25〜約-30℃の範囲、より好ましくは、0℃のガラス転移温度(Tg)を示す。好ましくは、前記モノマーには、眼内でレンズ本体の不粘着の不活性特性及び引張強度特性を増強するためのフルオロモノマーが含まれ、得られるアクリル樹脂をジアクリルエステルで化学架橋により処理し、所望の弾性特性及び弾性記憶特性を有する安定な相互貫入ポリマーの網状構造を形成する。
次の表は、架橋されているアクリル樹脂材料の所望のコポリマーを製造するのに使用しうる(真空蒸留等により精製した)種々のモノマー、並びに該モノマーの濃度範囲(重量%)及び好ましい配合物I、II(重量%組成)を示す。

コポリマーを形成するための方法の好ましい形体を、第7図に示す。示されているように、エチルメタクリレートと、n-ブチルアクリレート又はエチルアクリレートとを、好ましくは、各々34%及び52%の重量%濃度で混合する。エチルメタクリレート及びn-ブチルアクリレート又はエチルアクリレートからなるメタクリレートエステル及びアクリル酸エステルに加えて、混合物には、表面エネルギー低下剤として機能するフルオロメタアクリレートを10重量%含める。前記フルオロメタアクリレートはパーフルオロオクタルメタクリレート又はより好ましくはトリフルオロエチルメタクリレートでありうる。混合物中のn-ブチルアクリレート又はエチルアクリレートは、その低ガラス転移温度のためメタクリル酸エステルの共存下で主に軟質性を与える。しかし、n-ブチルアクリレート又はエチルアクリレートは、該混合物を粘着性にする。かかる粘着性をフルオロメタアクリレート、特にトリフルオロエチルメタクリレートにより可及的に小さくする。前記の成分に加えて、第7図に示されているように、混合物には、紫外線吸収剤(UV-2098)及び遊離基開始剤(好ましくはUSP 245、脂肪族過酸化物の一種)を含める。紫外線吸収剤及び遊離基開始剤は1.5及び0.05重量%濃度で存在する。この組み合わせを混合し、脱泡し、約60℃のオーブン中に2時間入れる。混合物は部分的な重合を受け、約25℃に冷却したとき粘稠なシロップ状液体を生成する。前記粘稠なシロップ状液体は、後工程の架橋剤及び遊離基開始剤との混合のために-15℃で数日間貯蔵できる。
別のシロップの製造方法は、ポリ(エチルメタクリレート)及びポリ(n-ブチルアクリレート)等の低分子量ポリマー(平均分子量数30,000〜50,000)を1:5〜1:3のポリマー-モノマー比において、同じ相対濃度で溶解することである。シロップを使用直前に0.2ミクロンフイルターで濾過できる。
又、第7図に示されているように、架橋剤はエチレングリコールジメタクリレートであることができる。別に、架橋剤はプロピレングリコールジメタクリレート又はエチレングリコールジアクリレートであってもよい。本明細書中、架橋剤であるジアクリル酸エステルにはジアクリル酸エステル及びジメタクリル酸エステルの双方を含む。各場合、架橋剤を、約2.5重量%濃度で混合し、架橋することにより、所望の弾性記憶及び弾性をもつポリマーを与える。特に、折り曲げるとき、得られたレンズ本体16は、約20〜180秒で、好ましくは、約30秒で自然にその開始時の状態に戻るであろう。
前記の特性を有するレンズ本体16をもつIOL10を得るために、そして、第7、8及び9図に示されているように、シロップ、架橋剤及び開始剤(示された重量%濃度)を混合、脱泡し、得られた混合物を、第8図に例示されている金型1若しくは2又は第9図に例示されている金型に注ぐ。第8図の金型に関して、得られた混合物を、ゴム製ガスケットで仕切られているアルミニウム板1上に注ぐ。ゴム製ガスケットの頭部上にガラス板3を置き、クランプ4で前記の組み合わせを一緒に型締めする。金型をオーブン中に入れ、約60℃に加熱し、約16時間硬化させる。次いで、金型を約90℃で24時間後硬化させる。
硬化後、金型を分解し、その中で形成したシート状物を、金型1の場合には円筒形レンズブランクに切断するために、又は金型2の場合にはレンズ本体へのばり取りをするために準備する。別に、第9図に示されている金型底を使用できる。例示されているように、金型は、適切な角度で触角状物を与えるために、アルミニウム底面に機械加工されたスロットを有する。第9図の金型から注型された部材は、ばりのある薄いシート状物に包まれた光学要素と触角状物要素とからなり、機械加工で取り去り最終のIOLを製造できる。
所望のIOLを製造するための切断や機械加工には、部材が室温よりかなり低い温度、好ましくは、-10〜-80℃に保持されることの外は従来のフライス削り技術及び旋盤技術を含んでもよい。特に、材料を切断中そのべーター緩和温度以下に保持することが望ましい。好ましくは、切断中、部材を所望の温度範囲内に維持しかつ切断操作に所望の湿度を与える液体窒素スプレーに部材をさらすことによって低い温度環境を形成する。前記したように、べーター緩和温度又はそれ以下では、コポリマー材料は高速でかつ効率的な切断に適した特に硬い特性を有する。
第1図に示されているような分離した触角状物を含む数個構成IOLを製造するのに使用される手順の例を以下に示す。まず、前記したように、2mm〜8mmの厚さで、架橋済アクリル樹脂の平らなシート状物を成形し、ホルダー上に載せる。次いで、前記材料を前記したように低温で旋盤工作切断でディスクに切断し、曲面及び切断した端部を形成する。得られたレンズ本体を20分間フレオン及びクロロフルオロ炭化水素中に浸漬し、次いで60℃の真空オーブン中で30分間乾燥する。次いでレンズ本体の曲面を低温で磨く。次ぎに、レンズ本体に位置決め穴32と更に触角状物18を入れるための端部の穴をあける。位置決め穴は典型的には0.3mmであるが、触角状物を入れる端部の穴は典型的には直径0.1mmである。該端部の穴に触角状物を設置するために、触角状物をステンレススティール製の針中に入れ、触角状物の一端を融かし、太くなった先のとがっていない先端を形成する。次いで、室温で、針を該レンズ本体の端部の穴に入れ、触角状物の先のとがっていない先端を強制的にその穴に入れる。針を注意深く取り去り、該端部の穴の壁をその通常の位置に戻させ触角状物をその場でつかみ締めさせる。次いでこの操作をその他の触角状物のために繰り返す。
又、第8図で例示する金型2を使用するレンズ本体成形のために、レンズ本体の領域のシート状物を取り、該シート状物からレンズ本体を切断する。次いで、得られたレンズ本体に適切なホルダーに設置し、前記の操作を繰り返す。
最後に、第9図に例示されている金型から成形される部材については、ミル上でばりを取り去り、所望の一個構成IOLを形成できる。
以上より、本発明のIOLが小さな外形に折り曲げたり丸めたりするようになっている種々の形を与えることにより、小さな寸法の切開により眼内に埋め込みできることが理解されるべきである。眼内で変形されていたレンズがその最初の変形されていない状態に戻る。しかし、本発明では、レンズを、優れた弾性記憶特性及び低速度の回復特性の結合された特性を有する材料から形成する。レンズは、従って、眼組織を傷つけることなく変形していない状態にゆっくりと戻るが、その最終的な変形していない状態は、折り目、しわ、若しくはその他の構造的偏差がなく、光学的ひずみをもたらさない状態にある。
明細書中に記載されている発明に対する種々の更なる修正及び改良は、当業者に明らかであると信じられる。従って、明細書中の記載によって限定されることを意図していない。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の新規な特徴に従って形成されている模範的なIOLの正面図である。
第2図は、第1図に示したIOLの側面図である。
第3図は、眼の後眼房に埋め込まれている第1図のIOLを示す部分正面図である。
第4図は、埋め込み前に小さな外形に丸められた第1図のレンズを示す拡大斜視図である。
第5図は、眼の後眼房へのレンズの埋め込みを示す部分断面図である。
第6図は、温度の関数としてIOLの本体の相対的な剛性を示す図表である。図表中、縦軸は剛性を示し、横軸は温度を示す。
第7図は、本発明のIOLのレンズ本体である変形可能な弾性アクリル樹脂材料の製造方法の好ましい形体を示す工程系統図である。
第8図は、眼内レンズ本体のアクリル樹脂材料を形成するための、本発明の方法に有用な二種類の金型の例示である。
第9図は、本発明の一個構成IOLを形成するのに有用な金型の底面部分の平面図である。第9図は、又、かかる金型から製造される部材の平面図でもある。
図中、1……アルミニウム板
2……ガスケット、3……ガラス板
4……クランプ、10……IOL
12……眼内、14……切開
16……レンズ本体
18……触角状物、19……虹彩
20……瞳孔、22……角膜
24……後眼房、28……前眼房
32……穴、36……挿入管。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
・訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1,5,及び7中に
「 相対的に硬いメタクリル酸エステル 」
とあるのを、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として
「 体温で相対的に硬いメタクリル酸エステル 」
と訂正する。
・訂正事項b
特許請求の範囲の請求項7中に
「 弾性レンズ本体 」
とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として
「 弾性眼内レンズ本体 」
と訂正する。
異議決定日 2001-10-04 
出願番号 特願昭63-233368
審決分類 P 1 652・ 113- YA (A61F)
P 1 652・ 531- YA (A61F)
P 1 652・ 532- YA (A61F)
P 1 652・ 121- YA (A61F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大橋 賢一  
特許庁審判長 宮本 和子
特許庁審判官 大久保 元浩
深津 弘
登録日 1999-05-21 
登録番号 特許第2930306号(P2930306)
権利者 エイエムオー・プエルト・リコ・インコーポレーテッド
発明の名称 変形可能な弾性眼内レンズ  
代理人 増井 忠弐  
代理人 社本 一夫  
代理人 社本 一夫  
代理人 今井 庄亮  
代理人 小林 泰  
代理人 狩野 剛志  
代理人 栗田 忠彦  
代理人 今井 庄亮  
代理人 小林 泰  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 増井 忠弐  
代理人 佐木 啓二  
代理人 栗田 忠彦  
代理人 狩野 剛志  

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