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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D04H
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  D04H
管理番号 1051616
異議申立番号 異議2001-71445  
総通号数 26 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-06-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-05-18 
確定日 2001-12-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第3109630号「不織布の製造方法」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3109630号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3109630号発明は、平成4年11月6日に出願され、平成12年9月14日に設定登録(請求項の数2)されたところ、平成13年5月17日に特許異議申立人大和紡績株式会社(以下、申立人1という)、平成13年5月18日に特許異議申立人宇部日東化成株式会社(以下、申立人2という)から特許異議の申し立てがされたものである。

2.特許異議申立について
(1)本件発明
特許第3109630号の請求項1ないし2に係る発明(以下、本件発明1ないし2という)は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認められる。
【請求項1】低融点成分、高融点成分からなる熱接着性繊維を含む繊維集合体を、熱処理冷却処理により接着する不織布の製法において、風速0.2〜5m/sec、加熱時間0.1〜300sec、低融点成分融点以上の温度の熱風で熱処理加工し、その直後に風速0.1〜1m/sec、冷却時間0.1sec以上、温度-30〜45℃の風圧のかからない低温気体で冷却処理し、低融点成分を固着することを特徴とする不織布の製造方法。
【請求項2】請求項1製造法において、熱処理加工後の比容積の60%以上を維持した状態で冷却する不織布の製造方法。

(2)申立の理由の概要
(2)-1 申立人1は、甲第1号証(特開昭58-13761号公報)、甲第2号証(「サーマルボンド不織布について」(NONWOVENS REVIEW VOL.2 No.3、1991年9月発行 第54頁〜62頁))、甲第3号証(特開昭60-94660号公報)を提出して、本件発明1ないし2は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当し、本件発明1ないし2に係る特許は取り消されるべきものであ旨主張している。

(2)-2 申立人2は、甲第1号証(特開昭58-13761号公報)、甲第2号証(特開昭63-92722号公報)、甲第3号証(特公昭61-9428号公報)、甲第4号証(特開昭60-94660号公報)、甲第5号証(特開昭61-89363号公報)を提出して、下記の理由1及び2により本件発明1ないし2に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
理由1
特許請求の範囲の請求項1ないし2には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が記載されておらず、請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第5項第2号の規定を満たしていない出願に対してなされたものであるから、取り消されるべきものである。

理由2
請求項1ないし2に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1ないし2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反して特許査定されたものであるから、取り消されるべきものである。

(3)甲各号証の記載
(3)-1 申立人1の提出した甲各号証の記載
甲第1号証には、
(あ)「熱接着性繊維単独または熱接着性繊維を20重量%以上含有する他の繊維との混合繊維からなる繊維集合体(以下単にウェッブと称することがある)をサクションドラム式熱風通気加熱装置を用いて該熱接着性繊維の熱接着性成分の融点以上でかつ他成分の融点以下に加熱した後、ただちにサクションドラム式通風冷却装置を用いて前記熱接着性成分の軟化点以下に冷却することにより繊維間に熱接着を形成せしめ、……不織布の製造方法。」(特許請求の範囲)、
(い)「更には融点を異にする成分を組み合せて成る熱接着性繊維(以下複合型熱接着性繊維と称する事がある)等を用いることができる。」(第2頁左下欄4〜7行)
(う)「従って、複合型熱接着性繊維を用いる場合には、低融点成分の融点以上で高融点成分の融点以下の温度で加熱処理することが好ましい。」(第3頁左上欄13〜15行)、
(え)「熱風がウェブを直交貫流するので非常に短時間で効率よく加熱出来、しかもウェブは外力によって加圧される事が少いので、嵩高い状態のまま加熱処理され、繊維間に熱接着が発現するものである。」(第3頁右上欄13〜17行)、
(お)「加熱部を通過したウェッブ15は後続して設置される冷却用サクションドラ12を備える冷却部17へ運ばれる。冷却用サクションドラム12は加熱用サクションドラムと同じような構造であるが、周囲は開放され、吸込まれた空気はワンパスで放出される所が相違している。冷却部17における通風冷却も、加熱部と同様に、空気がウェッブ15を直交貫流するのでウェッブの嵩高性を維持したままで非常に効果的に熱接着性成分の軟化点以下の温度にまで急速に冷却され、加熱処理により発現した熱接着が固定されウェッブが不織布化されるものである。」(第3頁右上欄18行〜左下欄9行、実際は数字12、15、17は○で囲まれている)、
(か)「ポリプロピレン(融点165℃、軟化点140〜160℃)と高密度ポリエチレン(融点130℃、軟化点100〜115℃)を複合成分とする50:50の並列型の熱接着性複合繊維(1.5d×51mm)50%とポリエステル繊維(2d×51mm)50%から構成される目付30g/m2のカードウェッブを140℃の熱風による加熱用サクションドラム、次いで室温の空気による冷却用サクションドラムを40m/minの速度で通過させた後、」(第4頁右上欄13行〜左下欄2行)
(き)「実施例1で用いられた熱接着性複合繊維(1.5d×5mm)25%とパルプ75%とから構成され、乾式パルプ法で得られた目付40g/m2のウェッブを、145℃の熱風による加熱用サクションドラム、次いで室温の空気による冷却用サクションドラムを50m/minの速さで通過させた後、」(第5頁左上欄2〜8行)
(く)「熱接着性繊維として実施例1で用いた複合繊維25%とエチレン・プロピレン・ブテン-1の三元共重合体繊維(融点134℃、軟化点105〜130℃、3d×51mm)25%、他の繊維としてポリプロピレン繊維(2d×51mm)50%で構成され、ランダムウェッバーで得られた目付27g/m2のウェッブを、140℃の熱風による加熱用サクションドラム、次いで室温の空気による冷却用サクションドラムを15m/minの速度で通過させた後、」(第5頁右下欄2〜11行)、
(け)「実施例1で用いた熱接着性複合繊維100%から構成された目付18g/m2のカードウェッブを、145℃の熱風による加熱サクションドラム、次いで室温空気による冷却サクションドラムを97m/minの速度で通過させて一次不織布を得た。」(第6頁左上欄下から11〜6行)が記載されていると認められる。

甲第2号証には、
(こ)「バインダー繊維には図1に示す単一型と複合型がある。単一型は溶けて母体繊維の交点をカプセル状に包んで接着する。複合型にはサイドバイサイド(Side by side)とシースアンドコアー(Sheath & core)のタイプがあり、2つの繊維の中間の溶融温度で接着し繊維の状態を高融点成分が残すので布はかさ高くてソフトである。」(第54頁右欄7〜12行)、
(さ)「バインダー繊維はファインオープナーで予備開繊されてホッパーへ、母体繊維は2台のホッパーへ、再生屑繊維は1台のホッパーへ供給されてブレンドされ、ディストリビューターで2台のガーネット機に送られて混合開繊されてウェブとなり、ラッパーで重ね合わされ熱接着される。この際直ちに冷却しないとかさ高さを減ずる。」(第56頁左欄12〜18行)、
(し)「図9のKodelとはポリエステル繊維の商品名で、A図はKodel435が100%、B図はKodel435が85%とKodel410のバインダー繊維が15%のウェブで斜線柱の低速と白柱の高速で熱風を吹きつけ、熱風温度を変えたときのかさ高の減少を示す。高速の高温熱風を吹きつけるとかさを減じている。」(第58頁左欄14行〜右欄5行)が記載されていると認められる。

甲第3号証には、
(す)「第2図は本発明装置の実施例を示す中間省略右側部分断面図であって、図中11は搬送装置である。該搬送装置11は、入口側の反転ロール12と出口側の駆動反転ドラム13との間にエンドレス状の搬送帯14が張架されていると共に、適所にガイドロール16、16…が配設されている。該搬送帯14は合成樹脂フィラメントの織物をエンドレス状に繋ぎ合せたものからなり、例えば、フィラメント材質がポリエステル、縦フィラメント径及び横フィラメント径が0.4mmφ並びに重量が0.45kg/m2からなる日本フィルコン(株)製のプラネット(商品名)が用いられる。前記反転ロール12は、搬送帯14に適度の張力(例えば、30乃至40kg/m)を付与するように、圧縮コイルバネ付きテイクアップ15、15に軸支されている。前記駆動反転ドラム13は、筒部13aが通気性を有し、側板13bの開口部13cと冷却ファン(図示省略)の吸引口とを接近さ、筒部13aの外周部の空気をドラム内へ吸引させて加熱成形済の不織布1’を冷却するように構成してある。また、駆動反転ドラム13の内部には、不織布1’が覆われていない領域Aのシール性を向上させるためのシール板13dと不織布1’が覆われている領域Cの冷却空気の通過風速分布を幅方向に亘って均一にさせるための整流多孔板13fとをドラム軸13eに軸支してある。」(第2頁左下欄5行〜右下欄9行)、
(せ)「該熱風流入室内22cへ供給された熱風は、上方の整流用仕切壁27、整流間隙22b及び下方の整流用仕切壁27を通過する間に整流され、熱風吐出領域22bから均一風速分布(例えば、0.5乃至1.7m/sec)の熱風として搬送帯14上の繊維集合体1へ吐出される。」(第4頁左上欄7〜12行)、
(そ)「(1)繊維集合体
1混綿率
ポリプロピレン等からなる熱融着繊維…50%
ポリエステル等からなる耐熱繊維…50%
2目付…20g/m23積層構造…2層交差重ね
4幅寸法…2400mm
(2)加熱室の構成
1室の長さが2400mmのものを3室
(3)熱風の風速及び温度
第1室内…1.5m/secで135℃
第2室内…1.5m/secで135℃
第3室内…1.5m/secで135℃
(4)冷却条件
1駆動反転ドラム径…1000mmφ
2冷風通過速度…2.0m/sec
(5)処理速度
60〜120m/min
(実験結果)
得られた不織布は、全体に亘って均一に加熱融着されており、不均一加熱時に発生する縞模様は皆無であった。」(第4頁右上欄2行〜左下欄6行、繊維集合体中の各行最初の数字1ないし4及び冷却条件中の各行最初の数字1、2は実際は丸で囲まれている)が記載されているとともに、
第2図には、その外周の約1/4が冷却空気の通路であって、不織布が覆われている領域Cとなっている駆動回転ドラム13が記載されていると認められる。

(3)-2 申立人2の提出した甲各号証の記載
甲第1号証には、
(た)「熱接着性繊維単独または熱接着性繊維を20重量%以上含有する他の繊維との混合繊維からなる繊維集合体(以下単にウェッブと称することがある)をサクションドラム式熱風通気加熱装置を用いて該熱接着性繊維の熱接着性成分の融点以上でかつ他成分の融点以下に加熱した後、ただちにサクションドラム式通風冷却装置を用いて前記熱接着性成分の軟化点以下に冷却することにより繊維間に熱接着を形成せしめ、……不織布の製造方法。」(特許請求の範囲)、
(ち)「近年不織布の需要の伸びは大きく、特に、使い捨て不織布として、薄物即ち低目付けの分野の伸びは顕著である。……、この分野の不織布は不織布強力と同時に毛羽立ちが無く、風合がソフトでかつ嵩高な事が要求される。」(第1頁右欄2〜8行)、
(つ)「本発明者等は、不織布強力と嵩高性並びにソフトな風合を兼ね備えた毛羽立ちの無い不織布の製造方法につき鋭意検討した結果本発明に到達したものである。」(第2頁左上欄16〜19行)、
(て)「更には融点を異にする成分を組み合わせて成る熱接着性繊維(以下複合型熱接着性繊維と称する事がある)等を用いることができる。このような繊維は、熱処理時に複合成分の1部のみ熱可塑化されるだけであるから、繊維形状を消失することがなく、出来上った繊維成形体は、単一繊維より良好な風合を有し、更に好ましく用いられるものである。」(第2頁左下欄4〜11行)、
(と)「従って、複合型熱接着性繊維を用いる場合には、低融点成分の融点以上で高融点成分の融点以下の温度で加熱処理することが好ましい。」(第3頁左上欄13〜15行)、
(な)「冷却部17における通風冷却も、加熱部と同様に、空気がウエッブ15を直交貫流するのでウエッブの嵩高性を維持したままで非常に効果的に熱接着性成分の軟化点以下の温度にまで急速に冷却され、加熱処理により発現した熱接着が固定されウエッブが不織布化されるものである。」(第3頁左下欄3〜9行)、
(に)「本方法によれば、充分な強力を有し、嵩高性とソフトな風合を兼ねそなえた不織布を得ることができる。」(第3頁右下欄9〜12行)、
(ぬ)「次いで室温の空気による冷却サクションドラムを40m/minの速度で通過させた後、」(第4頁右上欄最下行〜同左下欄2行)、
(ね)「次いで室温の空気による冷却サクションドラムを50m/minの速度で通過させた後、」(第5頁左上欄5〜7行)、
(の)「次いで室温空気による冷却サクションドラムを30m/minの速度で通過させた後、」(第5頁右上欄下から6〜4行)、
(は)「次いで室温空気による冷却サクションドラムを15m/minの速度で通過させた後、」(第5頁右下欄9〜11行)、
(ひ)「次いで室温空気による冷却サクションドラムを97m/minの速度で通過させて一次不織布を得た。」(第6頁左上欄下から8〜6行)が記載されていると認められる。

甲第2号証には、
(ふ)「近年急激に需要量が増大している使い捨ておむつや生理用吸収体の被覆紙等の不織布においては、肌ざわりのよいソフトな風合、目付が少ないこと、引張強力が高いことといった諸特性が要求される。」(第1頁右欄14〜18行)、
(へ)「不織布に要求される性能も前述の目付が少ないながらも強力があることと肌ざわりがソフトである風合とが近年強く要求されている。これらの諸性能を満たすには複合型の熱接着繊維が理想的である。」(第2頁左上欄15〜19行)、
(ほ)「145℃で15秒間にわたり熱風サクション式熱処理機による加熱処理をして不織布とした。得られた不織布の性能は優れており柔らかい風合の非常に良好な不織布であった。」(第4頁右下欄2〜5行、15〜18行)、
(ま)「本発明で得られる熱接着繊維からは不織布にして柔らかさと手ざわりの風合が優れているものが得られ特に使い捨ておむつの内張りのような用途に特に適したものとなる。」(第5頁右上欄7〜10行)が記載されていると認められる。

甲第3号証には、
(み)「なお、該熱風供給装置5内の出口側には、不織布9の形成をより確実にするために、冷風供給機その他適宜の冷却装置24を設けることもある。」(第3頁左欄10〜13行)
(む)「全幅に亘って均一風速分布状態の低風速乃至高風速の熱風を繊維集合体の両面へ供給させることができるから、風速値を適宜設定することにより熱融着繊維の混綿割合と相俟って、硬軟度が均一な風合の不織布を柔らかいものから堅いものまで自由に製造することが可能となる。」(第3頁右欄29〜34行)が記載されていると認められる。

甲第4号証には、
(め)「熱風速度により適宜選択されるものであり……通過風速を0.5乃至1.7m/secとしたときの」(第3頁右上欄17〜19行)、
(も)「熱風吐出領域22bから均一風速分布(例えば、0.5乃至1.7m/sec)の熱風として搬送帯14上の繊維集合体へ吐出される。」(第4頁左上欄10〜12行)、
(や)「[実験条件]
(1)繊維集合体……
(2)加熱室の構成
1室の長さが2400mmのものを3室
(3)熱風の風速及び温度
第1室内…1.5m/secで135℃
第2室内…1.5m/secで135℃
第3室内…1.5m/secで135℃
(4)冷却条件
1駆動反転ドラム径…1000mmφ
2冷風通過速度…2.0m/sec
(5)処理速度
60〜120m/min」(第4頁右上欄第1行〜左下欄第2行、冷却条件中の各行最初の数字1、2は実際は丸で囲まれている)が記載されているとともに、
第2図には、その外周の約1/4が冷却空気の通路であって、不織布が覆われている領域Cとなっている駆動回転ドラム13が記載されていると認められる。

甲第5号証には、
(ゆ)「熱融着性繊維を混綿した繊維集合体Aを搬入コンベア1から外周面を金網で被覆した吸引ドラム2へ移送し、繊維集合体Aが吸引ドラム2の吸引領域を通過する間に繊維集合体Aの非搬送面側から吸引ドラム2へ前記融着繊維の融着温度Tm(例えば、110〜140℃)以上の熱風を通過させて繊維集合体Aを加熱し、繊維同志を熱融着したものを冷却ドラム3で冷却して不織布Bを得ていた。」(第2頁左上欄1〜9行)、
(よ)「熱風の速度は、供給熱風量を吸引ドラム6の吸引領域Dの有効平面積で除して得た所謂前面風速値が0.5〜5.0m/secとなるように設定される」(第3頁左下欄14〜17行)、
(わ)「前記熱風供給室13の下方に設けた搬出コンベア16は、無端状のワイヤーネット等からなり、裏面側に冷気吸引式の冷却手段17が設けられている。」(第3頁右下欄12〜15行)、
(を)「繊維集合体A’は、搬出コンベア16上で冷却手段17により強制冷却されて不織布Cとなる。」(第4頁左下欄6〜8行)、
(ん)「(3)加熱条件
1 熱風の前記前面風速値 2.0m/sec」(第4頁右下欄第13〜15行、数字1は実際は丸で囲まれている)が記載されるとともに、
第5頁左上欄の表中試番1〜7には、加熱領域の滞留時間が1.1sec〜4.4secであることが記載されていると認められる。

(4)対比・判断
(4)-1 申立人1の特許異議申立について
[本件発明1について]
本件発明1(前者)と甲第1号証に記載された発明(後者)とを対比すると、両者は、
低融点成分、高融点成分からなる熱接着性繊維を含む繊維集合体を、熱処理冷却処理により接着する不織布の製法において、低融点成分融点以上の温度の熱風で熱処理加工し、その直後に室温の低温気体で冷却処理し、低融点成分を固着することを特徴とする不織布の製造方法である点で共通しているが、
(a)前者では、熱風の風速が0.2〜5m/sec、加熱時間が0.1〜300secで熱処理を行うのに対し、後者では熱処理におけるこれらの条件が不明である点、
(b)前者では、冷却時間が0.1sec以上であるのに対し、後者では冷却時間が不明である点、
(c)前者では、低温気体の風速が0.1〜1m/sec、風圧のかからない低温気体で冷却処理を行うのに対し、後者では冷却処理におけるこれらの条件が不明である点で相違していると認められる。
相違点(a)について検討する。
甲第3号証の(そ)には、加熱室の長さと処理速度の記載からみて、加熱時間3.6〜7.2sec、熱風の風速1.5m/secで熱融着繊維と耐熱繊維とから成る繊維集合体を加熱処理し、全体に亘って加熱融着された不織布を製造することが記載されていると認められ、甲第1号証に記載された方法の熱風の風速及び加熱時間として甲第3号証の(そ)に記載された数値の処理条件を検討し、採用することは当業者にとって容易に実施できることと認められる。
相違点(b)について検討する。
甲第3号証には、その(そ)及び駆動回転ドラムの外周の約1/4が冷却域と把握される第2図の記載からみて、冷却時間=冷却ドラムの冷却域の長さ[(1000mm×3.14)1/4]÷冷却処理速度(60〜120m/min)で計算すると、冷却時間が約0.393〜0.783secと算出される、不織布の製造方法が記載されていると認められるので、甲第1号証に記載された方法の冷却時間として、甲第3号証に記載された数値の処理条件を検討し、採用することは当業者にとって容易に実施できることと認められる。
相違点(c)について検討する。
甲第2号証には、冷却処理における、低温気体の風速が記載されておらず、本件発明1における低温気体風速の数値範囲について示唆する記載も認められない。
また、甲第3号証には、(そ)の記載からみて、冷却時間(冷却用駆動反転ドラムの外周値、その冷却域の範囲及び処理速度の各記載から算出)0.393〜0.785sec、冷風通過速度2m/secで冷却処理を行うことが記載されているが、低温気体の風速を0.1〜1m/secとすることは記載も示唆もされていないと認められる。
なお、申立人1は、この相違点に関し、甲第1号証(え)中の「しかもウェブは外力によって加圧される事が少いので、嵩高い状態のまま加熱処理され」という記載及び(お)の「冷却部17における通風冷却も、加熱部と同様に、空気がウェッブ15を直交貫流するのでウェッブの嵩高性を維持したままで」という記載を根拠に、甲第1号証には、熱処理及び冷却処理において外力による加圧(風圧)がかからないようにすることによりウェブの嵩高い状態を維持することが示唆されていると主張している。
しかし、(え)の記載は他の加熱法による処理に対比して熱風による加熱処理の場合には外力による加圧がかからないので嵩高い状態のまま加熱処理されることを意味すると認められ、(お)の記載も同様に、空気を通風して冷却することにより、外力による加圧がかからないので嵩高い状態のまま冷却処理されることを意味すると認められから、これらの記載における外力による加圧に熱風及び冷却風の風圧が包含されること又はそれが示唆されているとは認められないので、上記主張は認められない。
また、申立人1は、甲第2号証には、熱処理加工直後に室温で風圧がかからないように冷却処理をし、繊維集合体の嵩高を維持しつつ、低融点成分を固着することが記載されている旨を主張している。
しかし、甲第2号証には、熱風による不織布の熱接着処理において、高速の高温熱風を吹きつけるとかさを減じることが記載され、この記載から加熱処理における熱風の風速が不織布の嵩高さに影響することは認められるものの、冷却処理時の冷却風風圧の影響については記載されておらず、熱風の風速が不織布の嵩高さに影響するという記載を考慮しても、バインダー繊維の溶融により極めて接着状態の保持が困難である加熱処理時と異なり、バインダー繊維が冷却固着される冷却処理時においても、冷却風の風速が熱風の風速と同様に不織布の嵩高さに影響するものとは、当業者であっても容易に想到することができないと認められるので、この主張も採用できない。
そして、本件発明1は、低温気体の風速が0.1〜1m/secであることを発明の構成に欠くことができない事項の一部とすることにより、特許明細書に記載された、不織布強力の低下がほとんど見られず、簡便に、嵩高性と風合いの改良された不織布を得ることができるという効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1は、甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとは認められない。

[本件発明2について]
本件発明2は、本件発明1をさらに技術的に限定したものであるから、本件発明1についての理由と同様に、甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとは認められない。

(4)-2 申立人2の特許異議申立について
(4)-2-1 理由1について
申立人2は、下記、1)ないし6)の点からみて、請求項1ないし2に係る発明は、その発明の外延が不明確であるため、発明が明確に把握できず、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないと主張していると認められる。
1)請求項1ないし2には、熱処理加工の条件として、風速条件0.2〜5m/sec、加熱時間0.1〜300secという数値範囲限定がされているが、実施例1ないし12において採用された条件は、風速1.5m/sec、加熱時間15秒のみであるから、本件発明1ないし2の熱風速数値範囲の下限値0.2m/sec、上限値5m/secの臨界的意義が不明確である。
このため、本件発明1ないし2の構成、ひいてはその技術的意義が不明確である。
2)熱処理工程においては、不織布を構成する熱接着性繊維の種類に特有の融点、所望する不織布の強力、嵩高及び風合いとの関係から、好適な熱風の風速条件及び加熱時間が定まるものと考えられるところ、特許請求の範囲には、不織布を構成する熱接着性繊維の種類が具体的に明らかにされていない。
3)本件特許明細書において開示された実施例1ないし12で採用された冷却風速は、0.3、0.5、0.7m/secのいずれかであるから、下限値0.1m/sec、上限値1m/secのいずれについてもその臨界的意義が全く実証されていない。
なお、特許公報段落0019の記載は、なんら実証されているものではなく、漠然としたものであるので客観性を欠くものである。
従って、かかる記載により、冷却風速の数値限定の臨界的意義を主張することは困難である。
4)特許明細書中の「また風速0.1m/sec未満の遅い風速の低温気体では冷却時間が長くなるなど実用的でない。」という記載から明らかなように、冷風風速の下限値は、冷却温度及び冷却時間の長さと相関して定められるものである。しかし、特許請求の範囲に記載された「冷却時間0.1sec以上」なる冷却時間及び「温度-30〜45℃」なる冷却温度との相関によって、「冷却風速0.1m/sec以上」が定まったという記載がなく、実施例でも実証されていない。従って、風速0.1m/secという下限値は、根拠に乏しいものであるので、その技術的意義が不明である。
5)「冷却時間0.1sec以上」という数値限定は、下限値のみが記載されているので、特許を受けようとする発明の外延が不明確である。
6)特許請求に範囲に記載された「風圧のかからない」という記載は、風速0.1〜1m/sec程度のものであっても風圧は生じるものであるので、自然法則に反した記載である。
したがって、この「風圧のかからない」なる記載の技術的意義が不明である。

1)について検討する。
本件特許明細書の段落【0018】には、「本発明の熱処理加工とは、風速0.2〜5m/sec、加熱時間0.1〜500sec、低融点成分融点以上の温度の熱風で加工することである。これにより、熱接着性繊維の低融点成分を溶融し、この溶融分が接する繊維と融着し、溶融しない高融点成分が繊維形状を残し、繊維集合体の嵩高を保つ加工である。本発明の目的から、加熱媒体、加熱媒体温度、加熱時間、加熱媒体風速が選ばれ、熱接着性繊維の低融点成分の融点以上、高融点成分の融点以下の温度に加熱した空気、蒸気を、ブロアー等で加速し、繊維集合体にあて、さらに反対方向からサクションすることで繊維集合体中を貫通させ、低融点成分を溶融し、接する繊維と融着することができる」と記載されており、本件発明1ないし2は、熱風の風速を0.2〜5m/secの範囲内で、その他の要件と組み合わせて実施すれば所期の目的を達成することができるものと認められる。そして、熱風の風速値範囲の上限値、下限値における臨界的意義の有無にかかわらず、その範囲に包含されるか否かは明確であり、また、その範囲内で、熱風温度等の諸条件を勘案して熱風の風速を選定することは当業者にとって容易に実施できることと認められるから、熱風の風速値範囲の上限値、下限値における臨界的意義について特に特許明細書中に開示する必要を認めない。
したがって、1)の点に基づいた申立人の主張は採用できない。
2)について検討する。
1)についての判断と同様に、不織布を構成する熱接着性繊維の種類に特有の融点、所望する不織布の強力、嵩高及び風合い等を勘案して、好適な熱風の風速条件及び加熱時間を選定することは当業者にとって容易に実施できることと認められるから、不織布を構成する熱接着性繊維の種類を特定することが本件発明1ないし2における必須の技術的要件であるとは認められないので、2)の点に基づいた申立人の主張は採用できない。
3)について検討する。
特許明細書には、実施例1ないし12として冷風風速0.3、0.5、0.7m/secの例が、比較例1ないし7として冷風風速2.0m/secの例が記載されたおり、実施例は、比較例に比して、製品不織布の強力の低下がほとんど見られず、比容積が大きいといういう効果を得ていることが認められ、また、段落【0019】には、「本発明の冷却処理とは、前記熱処理加工直後に、風速0.1〜1m/sec、冷却時間0.1sec以上、冷風温度-30〜45℃の風圧のかからない冷却処理し、低融点成分を固着する。……。風速1m/sec以下の風圧のかからない低温気体で冷却処理することにより、嵩高性やソフトな風合の不織布とすることができる。また、風速0.1m/sec未満のおそい風速の低温気体では冷却時間が長くなるなど実用的ではない」が記載されており、これらの記載からみて、本件発明1ないし2は、冷風の風速を0.1〜1m/secの範囲内で、その他の要件と組み合わせて実施すれば所期の目的を達成することができることは明らかであるものと認められる。
したがって、1)についての判断と同様に、冷風の風速値範囲の上限値、下限値における臨界的意義の有無にかかわらず、その範囲に包含されるか否かは明確であり、また、その範囲内で、冷風の温度や熱処理条件等の諸条件を勘案して冷風の風速を選定することは当業者にとって容易に実施できることと認められるから、冷風の風速値範囲の上限値、下限値における臨界的意義について特に特許明細書中に開示する必要を認めない。
したがって、3)の点に基づいた申立人の主張は採用できない。
4)について検討する。
3)についての判断において述べたように、本件発明1ないし2は、冷却風速を0.1〜1m/secの範囲内で、その他の要件と組み合わせて実施すれば所期の目的を達成することができるものと認められ、また、特許明細書段落【0019】中の「風速0.1m/sec未満のおそい風速の低温気体では冷却時間が長くなるなど実用的ではない」という記載内容については、それを否定する理由も認められないので、「冷却時間0.1sec以上」という冷却時間、「温度-30〜45℃」という冷却温度と相関させた具体的事実に基づく下限値の選定根拠の開示の有無にかかわらず、冷却風の風速0.1m/secという下限値は、本件発明1ないし2の構成に欠くことができない事項として意味があるものと認められる。
したがって、4)の点に基づいた申立人の主張は採用できない。
5)について検討する。
冷却時間は、本件発明1ないし2の所期の効果が得られる限り、他の諸条件との組合せにおいて適宜決定されるものであると認められ、この場合0.1sec以上であれば全て本件発明に包含されるものであるから、冷却時間の範囲に上限が規定されていないという理由で本件発明の外延が不明確であるとは認められない。
したがって、5)の点に基づいた申立人の主張は採用できない。
6)について検討する。
特許請求の範囲の請求項1の「風速0.1〜1m/sec、冷却時間0.1sec以上、温度-30〜45℃の風圧のかからない低温気体で冷却処理し」という記載、及び特許明細書の段落【0019】の「風速1m/sec以下の風圧のかからない低温気体で冷却処理することにより、嵩高性やソフトな風合の不織布とすることができる」という記載からみて、「風圧のかからない」という記載は、風圧がゼロということではなく、風速が0.1〜1.0m/secである低温気体で処理することを修飾する程度のものと認められ、風圧が0であることを意味するものとは認められない。
したがって、6)の点に基づいた申立人の主張は採用できない。
よって、本件発明1ないし2に係る特許は、特許法第36条第5項第2号に違反し、特許法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである、という申立人2の主張する理由1には正当な理由を認めることができない。

(4)-2-2 理由2について
[本件発明1について]
本件発明1(前者)と甲第1号証に記載された発明(後者)とを
対比すると、両者は、
低融点成分、高融点成分からなる熱接着性繊維を含む繊維集合体を、熱処理冷却処理により接着する不織布の製法において、低融点成分融点以上の温度の熱風で熱処理加工し、その直後に室温の低温気体で冷却処理し、低融点成分を固着することを特徴とする不織布の製造方法である点で共通しているが、
(a)前者では、熱風の風速が0.2〜5m/sec、加熱時間が0.1〜300secで熱処理を行うのに対し、後者では熱処理におけるこれらの条件が不明である点、
(b)前者では、冷却時間が0.1sec以上であるのに対し、後者では冷却時間が不明である点、
(c)前者では、低温気体の風速が0.1〜1m/sec、風圧のかからない低温気体で冷却処理を行うのに対し、後者では冷却処理におけるこれらの条件が不明である点で相違していると認められる。
相違点(a)について検討する。
甲第4号証の(や)には、加熱室の長さと処理速度の記載からみて、加熱時間3.6〜7.2sec、熱風の風速1.5m/secで、甲第5号証の(よ)、(ん)及び第5頁左上欄の表中には、それぞれ、熱風の風速0.5〜5.0m/sec、2.0m/sec、加熱領域の滞留時間(加熱時間)1.1sec〜4.4secで、熱融着繊維と耐熱繊維とから成る繊維集合体を加熱処理し、全体に亘って加熱融着された不織布を製造することが記載されていると認められ、甲第1号証に記載された方法の熱風の風速及び加熱時間として甲第4ないし5号証に記載された熱風の風速値及び加熱時間を採用することは当業者にとって容易に実施できることと認められる。
相違点(b)について検討する。
甲第4号証には、その(や)及び駆動回転ドラムの外周の約1/4が冷却域と把握される第2図の記載からみて、冷却時間=冷却ドラムの冷却域の長さ[(1000mm×3.14)1/4]÷冷却処理速度(60〜120m/min)で計算すると、冷却時間が約0.393〜0.783secと算出される、不織布の製造方法が記載されていると認められるので、甲第1号証に記載された方法の冷却時間として、甲第4号証に記載された数値の処理条件を検討し、採用することは当業者にとって容易に実施できることと認められる。
相違点(c)について検討する。
甲第2号証には、冷却処理について記載されておらず、甲第3及び5号証には冷却用の低温気体の風速が記載も示唆もされていない。さらに、甲第4号証には、低温気体の風速である、冷風通過速度が2.0m/secの例が記載されているだけで、低温気体の風速を0.1〜1m/secとすることは記載も示唆もされていない。
なお、申立人2は、相違点(b)に対して、(イ)ウエッブを冷風によって冷却する手段を採用する場合において、冷風速条件を不織布の性能に好ましい範囲に選択するのは、当業者の常套手段である旨、(ロ)低風圧の冷却処理を選択して、穏やかに繊維の接点が固着されるようにし、冷却ゾーンでの嵩へたりを極力抑制するのは、不織布の嵩高性維持を重要な課題としてきた不織布製造業界の当業者が通常用いてきた手段であり、技術常識である旨を主張している。
しかし、甲第4号証には2.0m/secという冷風速値が記載され、この2.0m/secという数値は本件発明の比較例中の冷風速値であって、嵩高さを低下させる範囲のものであることからみて、当業者が冷風による冷却処理の実施に際して検討する場合はこの数値の前後の範囲に止まるものと考えられ、嵩高さが減じることの少ない、低風圧の、0.1〜1m/secのような風速範囲を容易に選択できるものとは認められないので、上記(イ)の主張は認められない。
また、上記(ロ)の主張についてみても、具体的な根拠に基づくものではないので、採用することができない。
そして、本件発明1は、低温気体の風速が0.1〜1m/secであることを発明の構成に欠くことができない事項の一部とすることにより、特許明細書に記載された、不織布強力の低下がほとんど見られず、簡便に、嵩高性と風合いの改良された不織布を得ることができるという効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1は甲第1ないし5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとは認められない。

[本件発明2について]
本件発明2は、本件発明1をさらに技術的に限定したものであるから、本件発明1についての理由と同様に、甲第1ないし5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとは認められない。

3.むすび
以上のとおりであるから両申立人の特許異議申立の理由及び証拠によっては本件発明1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2001-11-21 
出願番号 特願平4-322816
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D04H)
P 1 651・ 534- Y (D04H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 小林 正巳
特許庁審判官 石井 克彦
喜納 稔
登録日 2000-09-14 
登録番号 特許第3109630号(P3109630)
権利者 チッソ株式会社
発明の名称 不織布の製造方法  
代理人 渡邊 薫  

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