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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正しない A63F
審判 訂正 2項進歩性 訂正しない A63F
管理番号 1052403
審判番号 訂正2001-39106  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-08-22 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2001-07-09 
確定日 2002-01-09 
事件の表示 特許第1961761号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第1961761号発明(平成1年12月22日特許出願、平成5年5月10日出願公告、平成7年8月25日設定登録)の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり、その訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1中の「必要なデータをバーコード表示したカードのバーコード読取手段」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「必要なデータをバーコード表示したカードの、密に配された白黒バーの読取りが可能な単一のバーコード読取手段」と訂正する。
(2)訂正事項2
平成4年12月16日付け手続補正書の補正の内容(2)の第4行及び同(3)の第3〜4行の「必要なデータをバーコード表示したカードのバーコード読取手段」(特公平5-30475号公報(以下、「本件公告公報」という)の第1頁第2欄第22〜24行及び同第3頁第6欄第44行〜第4頁第7欄第1行参照)を、訂正事項1による訂正に伴い、明りょうでない記載の釈明を目的として、「必要なデータをバーコード表示したカードの、密に配された白黒バーの読取りが可能な単一のバーコード読取手段」と訂正する。

2.訂正拒絶の理由
これに対して、平成13年8月20日付けで通知した訂正の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
(1)理由1(新規事項の追加)
バーコード読取手段で読取るバーコードのバーを密に配された白黒バーとする訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではないから、本件審判の請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しない。
(2)理由2(独立特許要件)
訂正後における特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、検甲第1号証(電子ゲーム機「ウルトラマン倶楽部LSIシミュレーションウルトラ大決戦」(株式会社バンダイ発売))及び検甲第2号証(電子ゲーム機「LSIGAMEカードベースボール熱血スタジアム」(株式会社バンダイ発売))のゲーム機により本件出願前に国内において公然実施をされた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件審判の請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年改正法による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しない。

3.理由1(新規事項の追加)について
バーコード表示したカードのバーコードのバーが「密に配された白黒バー」であることについては、願書に添付した明細書又は図面に記載されていない事項である。
請求人は、「密に配された白黒バー」であることが記載されていた根拠として、第1図において符号1aで示されるバーコードの記載をあげている。
しかし、上記「密」には、本件審判請求書の請求の原因の項に記載するように限定減縮の意図があるのであり、第1図に示されたバーコードのバーが意図的に密に配されているというためには、比較できる基準となるバーコードが必要であるところ、願書に添付した明細書にも図面にも比較できる基準となるバーコードについての記載はないことから、第1図に示されたバーコードのバーが意図的に密に配されているということはできない。
また、バーコードのバーの色については、白黒であるか否かを含めて、願書に添付した明細書にも図面にも何ら記載されていないのであり、バーコード一般において白黒バーが多いとしても、第1図に示されたバーコードが白黒バーであるということはできない。
したがって、本訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。

なお、請求人は、平成13年10月19日付け訂正意見書(以下、「意見書」という)において、第1図に示されたバーコードのバーを「密」と判断して限定的に補正しているのは特許権者自身であり、かかる限定的補正は自由である旨主張している。
しかし、該バーを「密」であるというためには、特許権者自身の判断に基づくのではなく、明細書又は図面の記載に基づかなければならないのであり、上述したように、その記載では「密」とも「粗」ともいえないから、この主張は採用できない。
また、請求人は、意見書において、図面の記載様式で規定された用紙の色である「白」と描いた線の「黒」とで作られるバーコードのバーを「白黒バー」と表現するのが最も自然である旨主張している。
しかし、図面の記載様式における用紙と描画線についての色の規定は、図面自体を理解しやすくするためのものであって、発明に係る構成要素の色を表すためのものではないから、この主張は採用できない。

4.理由2(独立特許要件)について
(1)本訂正による請求項1に係る発明
本訂正による請求項1に係る発明は、訂正明細書及び図面の記載からみて、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「必要なデータをバーコード表示したカードの、密に配された白黒バーの読取りが可能な単一のバーコード読取手段と、該読取手段で読取った対戦データを記憶する記憶手段と、該記憶手段で記憶された対戦データのうち、一方を攻撃側、他方を守備側とする先攻判定手段と、前記データに従ってカードを対戦させるときに攻撃側が押す攻撃キーと、該攻撃キーを押したときに守備側カードのダメージを計算する計算手段と、該計算手段で計算されたダメージと守備側カードのデータとで計算し生存を判定する生存判定手段と、該生存判定手段による判定結果を表示する勝敗表示手段とを備えたことを特徴とするカードゲーム玩具。」(以下、「本件訂正発明」という。なお、下線を施した「と」を訂正明細書では「を」としているが、設定登録時の明細書のとおり「と」が正しいものと認定する)

(2)証拠関係
本件特許第1961761号発明に係る平成9年審判第14410号特許無効審判請求事件(以下、「当該無効審判事件」という)の審決において採用された、本件出願前に公然に販売され且つそれぞれの「取扱い説明書」に記載されたとおりのものであることについて当事者間に争いのない、検甲第1号証及び検甲第2号証のゲーム機とそれらによって示される技術的事項は次のとおりである。
1)検甲第1号証:電子ゲーム機「ウルトラマン倶楽部LSIシミュレーションウルトラ大決戦」(株式会社バンダイ発売)。
主としてマップ上にユニットを並べてゲームを行うものであるが、その「取扱い説明書」の第7頁の11「生き残りゲーム(2人用)」の項に、「基本ユニットと判定器だけでも、ゲームが楽しめます。1.基本ユニットを20個づつ、赤と緑に分けて持ちます。2.地形セレクトスイッチを、好きな位置に合わせます。3.好きなユニットを1個、同時に出し合い戦闘をします。4.ターン表示のある側が攻撃ボタン(ATTACK)を押します。5回攻撃するたびに、ターンを変えます。5.撃破されたユニットは、取り除きます。3〜5を繰り返し、ユニットが全部撃破された方が負け。」(丸数字の丸は特許庁の起案システムの都合により外した、以下同)と記載があり、「取扱い説明書」中の他の記載と実際に動作させたところによれば、以下の手順で対戦ゲームができるゲーム玩具である。
Step1:キャラクタシールを貼り、必要なデータを底部にピンコード表示した、表示媒体としての駒状のユニットを用意し、対戦する双方が適宜の1個を同時に出し合い、判定器の夫々のユニットセットスイッチ部にセットすると、読取手段によりピンコードが読取られる。
Step2:該読取手段でピンコードを読取ると、対戦データである、移動力、攻撃力、パワーが判定スクリーンに表示される。
なお、実際の動作によれば、表示後にユニットを取り外すと表示は消える。
Step3:該対戦データのうち、先ず、ウルトラマン側にターン表示がされて、ウルトラマン側が攻撃側となる。
なお、ユニットをセットしないでターンボタンを押すことでターン表示は相手側に移る。
Step4:上記データに従ってユニットを対戦させるときには攻撃側が攻撃キーを押す。
なお、実際の動作によれば、上記のように、データ表示後にユニットを取り外して表示が消えているときには攻撃キーに攻撃機能はない。
Step5:該攻撃キーを押したときに計算手段により、攻撃側と守備側の双方のダメージが計算される(取扱い説明書5頁右欄「攻撃」の項等参照)。
なお、「生き残りゲーム(2人用)」では、基本ユニットを用い、母船ユニットは用いないのであるが、母船ユニットをセットすると砲撃(FIRE)キーでも攻撃でき、砲撃キーで攻撃したときには守備側のみのダメージが計算される(取扱い説明書6頁左欄「砲撃」の項等参照)。
Step6:該計算手段で計算された双方のダメージと双方のデータとで、生存判定手段により双方の生存を判定する計算がなされる。
なお、母船ユニットによる砲撃キーでの攻撃では、守備側のダメージと守備側のデータとで生存を判定する計算がなされる。
Step7:該生存判定手段による判定結果を勝敗表示手段により表示する。
なお、実際の動作によれば、この表示はユニットを取り外しても消えることはない。

2)検甲第2号証:電子ゲーム機「LSIGAMEカードベースボール熱血スタジアム」(株式会社バンダイ発売)。
選手のキャラクタを図柄で表示し、かつ、選手のデータをバーコード表示したカードを、単一のカードリーダーにより複数読み込んで記憶させ、打順や先発ピッチャー等を適宜入れ替えた希望のチームを記憶データとして編成し、記憶されたデータによってチーム同士を対戦させるものである。

(3)対比
検甲第1号証のゲーム機における、ピンコードのデータと、それを読取った後の処理について、前示当該無効審判事件に係る東京高等裁判所平成10年(行ケ)第255号判決(以下、「当該判決」という)が、その第21頁第12行〜第25頁第3行において、
『2 取消事由(相違点2(対戦のための記憶手段の点)の認定の誤り)について
(1)
ア 前記当事者間に争いのない検甲第1号証の認定、検甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、検甲第1号証のゲーム機(ウルトラ大決戦)は、以下の構成を有するものと認められる。
(ア)駒の生命力、攻撃力などの対戦データは検甲第1号証のゲーム機内のROMに記憶されている。
(イ)同ゲーム機の電源がONになると、駒の対戦データはROMからRAMに書き込まれる。
(ウ)駒には9本のピンがあり、9ビットの情報を提供しているが、対戦データとの関係でいえば、駒には対戦データそのものはなく、どの駒であるかを同定する情報(同定データ)のみが存在する。
(エ)ある駒が判定器にセットされると、そのピンから駒の同定データが読み取られ、ROMからRAMへ書き込まれていたその駒の対戦データはRAM中の演算のためのエリア(ワークエリア)に移される。
(オ)駒を外すとデータの表示は消え、対戦は実行できない。
イ 以上をまとめれば、検甲第1号証のゲーム機(ウルトラ大決戦)においては、駒にはどの駒であるかを識別する同定データのみが存在し、駒自体には対戦データが記憶されておらず、判定器に駒がセットされると、その駒を識別する同定データによってあらかじめ判定器に記憶されていた対応する対戦データが読み出され、対戦のためにRAM内の演算エリア(ワークエリア)に記憶されるものである。
そうすると、検甲第1号証のゲーム機は、「読取手段で読取った対戦データを記憶する記憶手段」を有するものであり、「ユニットをセット部から取り外すと表示が消えて攻撃もダメージの計算もできなくなること」を理由として、「読取った対戦データを対戦のために記憶する記億手段が無い」とした審決の相違点2の認定は誤りである認められる。
(2)
ア 被告は、検甲第1号証のゲーム機は、駒から同定データを読み取るにすぎず、そのため、本件発明のゲーム機のように、一般の商品にも付されているバーコードをも対戦ゲームの主体として登場させることができないものであるから、本件発明のゲーム機とは構成を異にする旨主張する。
しかしながら、本件明細書の特許請求の範囲には、「必要なデータをバーコード表示したカードのバーコード読取手段と、該読取手段で読取った対戦データを記憶する記憶手段と、」と記載され、甲第2号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明中には、「対戦データ」について直接定義したり、説明している記載はなく、「必要なデータ」について実施例における例示として、「カード1は必要なデータ、例えば攻撃力、守備力及び生命力などのデータがバーコード1aにより表示されている。」(3欄19行ないし22行)との記載はあるが、それ以上に、効果の欄等に、一般の商品にも付されているバーコードを使用することができる旨の記載はないことが認められる。
そうすると、本件発明における必要なデータの記憶方法は、カードに固有の対戦データを直接記憶させるものだけでなく、同定データをもって間接的に記憶させるものも含むものと認められる(なお、仮にこの点を本件発明と検甲第1号証との相違点だとしても、検甲第2号証によれば、検甲第2号証のゲーム機(ベースボールゲーム)においては、カードが必要なデータを直接記憶しているものと認められるから、検甲第2号証の技術を検甲第1号証に適用してユニット(駒)に対戦データそのものを直接記憶させるようにすることは、当業者が容易に想到できることと認められる)。
したがって、被告の上記主張は理由がない。
イ 被告は、ユニットを外すと攻撃もダメージ計算もできなくなるのであれば「対戦」を行うことはできないので、検甲第1号証のゲーム機には読み取った対戦データを「対戦のために」記憶する手段はない旨主張する。
しかしながら、弁論の全趣旨によれば、検甲第1号証のゲーム機が駒を外すとデータの表示は消え、対戦を実行できないように構成されているのは、技術的な問題からではなく、対戦ゲームの性格上、そのユニットの対戦が一旦終了したことを報知するためのものと認められるから、このことをもって、検甲第1号証のゲーム機には「読取手段で読取った対戦データを記憶する手段」はないものと認めることはできず、被告の上記主張は理由がない。
(3)
よって、審決の相違点2の認定は誤りであり、原告主張の取消事由2は理由がある。』
と判示しているとおり、検甲第1号証のゲーム機は、「読取手段で読取った対戦データを記憶する記憶手段」を有するものであり、また、本件訂正発明における必要なデータの記憶方法が、カードに固有の対戦データを直接記憶させるものだけでなく、同定データをもって間接的に記憶させるものも含むものであるところ、検甲第1号証のゲーム機もピンコードによる同定データをもって対戦データを間接的に記憶させるものである。
そして、本件訂正発明(前者)と検甲第1号証のゲーム機(後者)とを対比すると、前者と後者の、「バーコード表示」と「ピンコード表示」、「カード」と「ユニット」、「先攻判定手段」と「ターン表示」は、それぞれ、「コード表示」、「表示媒体」、「先攻指示手段」として対応することから、両者の一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
必要なデータをコード表示した表示媒体の、コードの読取りが可能なコード読取手段と、該読取手段で読取った対戦データを記憶する記憶手段と、該記憶手段で記憶された対戦データのうち、一方を攻撃側、他方を守備側とする先攻指示手段と、前記データに従って表示媒体を対戦させるときに攻撃側が押す攻撃キーと、該攻撃キーを押したときにダメージを受ける側の表示媒体のダメージを計算する計算手段と、該計算手段で計算されたダメージとダメージを受ける側の表示媒体のデータとで計算し生存を判定する生存判定手段と、該生存判定手段による判定結果を表示する勝敗表示手段とを備えたことを特徴とする表示媒体ゲーム玩具。
<相違点1>
データをコード表示した表示媒体とコード読取手段について、前者が、表示媒体をカードとし、データを密に配された白黒バーによりバーコード表示し、単一のバーコード読取手段で読取るのに対して、後者は、表示媒体を駒状のユニットとし、データをピンによりピンコード表示し、ウルトラ側と怪獣側とのそれぞれのユニットセットスイッチ部で読取る点。
<相違点2>
先攻指示手段について、前者はゲーム玩具自体が先攻を判定して指示するのに対して、後者は予め決められている先攻をゲーム玩具が単に表示して指示する点。
<相違点3>
計算手段について、前者が守備側のダメージを計算するものであるのに対して、後者は攻守双方のダメージ計算の場合と守備側のみのダメージ計算の場合とを兼用できるものである点。
<相違点4>
生存判定手段について、前者が守備側の生存を判定するのに対して、後者は攻守双方の生存を判定する点。

(4)判断
1)相違点1についての判断
前示のとおり、検甲第1号証のゲーム機には、マップ上にユニットを並べてゲームを行う本来の遊び方のほかに、基本ユニットと判定器のみを用いた「生き残りゲーム(2人用)」という遊び方があるものであり、この遊び方においては、対戦するユニットの優劣を競うことをゲームの本質とするものと認められる。
そして、検甲第1号証のゲーム機では、立体的な駒状のユニットにピンコード表示した入力媒体が使用されているが、「生き残りゲーム(2人用)」においては、もっぱら駒状のユニットの対戦データに意味があり、駒状のユニットが立体的な形状のユニット媒体であることは、ゲームに趣を添えるものではあるが、技術的にはさほどの意味を持たないものと認められる。
また、本件明細書に、「従来からカードに絵、文字、記号を記入し、そのカードに性格や強さを与え、そのデータに従ってカードとカードを見せ合って対戦させて勝敗を決する遊びがある。」(本件公告公報第1頁第2欄第1〜4行参照)と記載されていることが認められ、この記載によれば、従来からある対戦ゲームにおいても、カードを使用することが一般的なものであるということができる。
そして、検甲第2号証のゲーム機は、選手のデータをバーコード表示したカードを単一のカードリーダーにより複数読み込んで記憶させ、打順や先発ピッチャー等を適宜入れ替えた希望のチームを記憶データとして編成し、記憶されたデータによってチーム同士を対戦させるものであり、カード同士を検甲第1号証のゲーム機のように1対1で対戦させるものではないが、対戦のために必要なデータを表示媒体に表示されたコードを読取って得ている対戦ゲーム機である点で検甲第1号証のゲーム機と共通するものであって、選手のデータをバーコード表示したカードを使用し、それを単一のカードリーダーにより読み込ませているものである。
そうすると、検甲第1号証のゲーム機の立体的な駒状のユニットを検甲第2号証のゲーム機の平面的な形状のカードに置き換えることによっても、検甲第1号証のゲーム機の「生き残りゲーム(2人用)」というゲームの本質に変化がないものと認められ、読取手段を単一とすることも含めて、この置換えは当業者にとって容易に想到することができるものと認められる。
加えて、バーコード一般においてバーをデータ量に応じて密に配することや白黒バーとすることは周知であって、これを対戦ゲーム機用のバーコードへ適用することに阻害要因があるとも認められないから、バーコードのバーを密に配された白黒バーとした点は当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項にすぎないものと認められる。
請求人は、前示当該無効審判事件の審理における主張に加え前示当該判決に示された主張も勘案すると、検甲第1号証のゲーム機においては、キャラクタのシールを付した立体的な駒という視覚的、触覚的に具体的な存在を対戦の主体としているのに対し、本件訂正発明は、一般の商品にも付されているバーコードを主体として戦い得るようゲーム機を構成している点に画期的な意義を有する旨主張している。
しかしながら、検甲第1号証のゲーム機の「生き残りゲーム(2人用)」では、もっぱら駒状のユニットの対戦データに意味があり、駒状のユニットが立体的な形状のユニット媒体であることは、ゲームに趣を添えるものではあるが、技術的にはさほどの意味を持たないものであることは前示のとおりである(なお、検甲第2号証のゲーム機においても、バーコードはカードの裏面に記録され、カードの表面には投手、捕手、野手等の選手のキャラクタが特徴ある図柄をもって表示されていることが認められ、立体的な形状のデータ媒体を平面的なカード形状のものに置き換えることで趣がすべて失われてしまうというものではない)。
さらに、本件訂正発明は一般の商品にも付されているバーコードを主体として戦い得るようゲーム機を構成しているとの点については、前示当該判決が判示したように(前記「(3)対比」の項参照)、本件明細書に記載がなく、本件明細書に接する当業者に自明の効果とも認められない。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
また、請求人は、検甲第2号証のゲーム機は、補助的な情報を手入力から簡易に入力し得るようにしたという程度の意義しか持たず、しかも、カードを対戦させるゲーム機ではない旨も主張している。
しかしながら、検甲第2号証のゲーム機には、ゲーム機における入力を容易にするために、バーコード表示されたカードと、カードリーダーを使用することは開示されているものであるから、検甲第2号証のゲーム機の遊び方がカード対戦ゲームではないことは、上記容易推考性の判断を左右するものではなく、請求人のこの主張も理由がない。
よって、相違点1は当業者が容易になし得た設計の変更である(これについては、前示当該判決の第25頁第4行〜第28頁第9行も参照)。

なお、請求人は、意見書において、検甲第1号証のゲーム機の立体的な駒状ユニットを検甲第2号証のゲーム機の平面的な形状のカードに置き換えることは、カードにどのように「ピンコード表示」するのか不明であって現実性がない旨主張している。
しかし、上記相違点1についての判断は、ピンコード表示の駒状ユニットをバーコード表示にすることを含めてカードに置き換えることが容易であるとしているのであって、ピンコード表示をバーコード表示にすることなくカードに置き換えるとしているのではなく、この点は、前示当該判決の「3 取消事由3(相違点1(表示媒体がバーコードカードか否かの点)についての判断の誤り)について」(第25頁第4行〜第28頁第9行)における判示に従った判断でもあるから、この主張は採用できない。
また、請求人は、意見書において、対戦ゲーム機用のバーコードに周知の密に配された白黒バーを適用することについて、バーコード読取手段の価格を考慮しなければ適用阻害要因がないことは認めるが、本件発明のような「玩具」に高価なバーコード読取手段の組込みは阻害要因であるところ、本件発明はそれを解消したものである旨主張している。
しかし、本件明細書にはバーコード読取手段の価格を考慮する旨の記載は一切なく、密に配された白黒バーの読取りが可能なバーコード読取手段は全て安価であるというわけではないから、この主張は採用できない。
さらに、請求人は、意見書において、密に配された白黒バーの読取りが可能なバーコード読取手段であれば一般の商品に付されているバーコードをも読取れることは自明である旨主張している。
しかし、上記相違点1についての判断において、一般の商品に付されているバーコードをも読取れることについては本件明細書に記載がなく、本件明細書に接する当業者に自明の効果とも認められないとしているのは、前示当該判決の判示(特に同判決第23頁第5〜末行及び第27頁第13〜17行参照)に従ったものであり、該判示は当然に図面の記載も参酌の上でなされているのであって、図面に記載されたバーコードのバーを密に配された白黒バーと表現したからといって該判示の内容に影響を与えるものではないから、この主張は採用できない。
さらにまた、請求人は、意見書において、検甲第2号証のゲーム機は、カードとカードを対戦させるものではないから、「カード対戦ゲーム」であるとの認定は誤りである旨主張している。
しかし、上記相違点1についての判断においては、検甲第2号証のゲーム機について、「カード同士を検甲第1号証のゲーム機のように1対1で対戦させるものではない」及び「遊び方がカード対戦ゲームではない」とし、「対戦のために必要なデータを表示媒体に表示されたコードを読取って得ている対戦ゲーム機である点で検甲第1号証のゲーム機と共通する」としているのであって、「カード対戦ゲーム」であるとの認定はしていないことから、この主張は採用できない(この点の判断は、前示当該判決の判示(特に同判決第27頁第18行〜第28頁第7行参照)に従ったものでもある)。

2)相違点2についての判断
本件訂正発明の特許請求の範囲には、先攻判定手段について、「記憶手段で記憶された対戦データのうち、一方を攻撃側、他方を守備側とする先攻判定手段」と規定されているところ、本件明細書の発明の詳細な説明中の実施例には、「データに従って対戦カードの先攻を判定する先攻判定手段」(本件公告公報第2頁第4欄第25〜26行)、「ゲームスタートによりマイクロコンピュータ(先攻判定手段)7が作動し、カードAとカードBのデータに従って対戦カードの先攻判定(ステップ501)を行う。この判定は例えば比較定数を比べて大きい方を先攻とする如くし、その結果は・・・表示される。上記判定において「P1側先攻」となったときは、P1側の者は攻撃キー5aをONする(ステップ502)。」(本件公告公報第3頁第5欄第30〜40行)と記載されていることが認められる。
この記載によれば、本件訂正発明は、いわゆる交互対戦型ゲームとして、対戦する一方を攻撃側、他方を守備側としてゲームを開始するものであるところ、検甲第1号証のゲーム機のように攻撃側を予め固定することはせず、公平に決定するためのものとして先攻判定手段を設けることにしたものであることが認められる。
そして、交互対戦型のゲームにおいて、先攻側を予め決めておくか、いずれが先攻側となるかを決める手段を設けるかは、任意に選択し得る慣用技術であることが明らかであるから、本件訂正発明にいう「先攻判定手段」には、上記認定以上に格別の技術的意義があるものではないというべきである。
そうすると、ウルトラマン側を先攻と決めてある検甲第1号証のゲーム機の構成に代えて、先攻判定手段を設けることは、当業者が適宜に選択すべき単なる設計変更にすぎないものと認められる。
請求人は、前示当該無効審判事件の審理における主張に加え前示当該判決に示された主張も勘案すると、本件訂正発明のようなバーコードを主体として把握するという新規なゲーム機を構成するに際し、先攻判定手段をそもそも存在させるということ自体に新規性及び進歩性がある旨主張する。
しかし、本件訂正発明が先攻判定手段の点以外の点(バーコードを主体として把握したゲーム機を構成した点)からも進歩性を有するとの主張が理由がないことは、前記「(3)対比」及び「(4)判断 1)相違点1について」の項に示したとおりであるから、請求人の上記主張は、その前提を欠き、採用することができない。
よって、相違点2は、当業者が適宜に選択すべき単なる設計変更にすぎない(これについては、前示当該判決の第28頁第10行〜第30頁第6行も参照)。

なお、請求人は、意見書において、「交互対戦型のゲームにおいて、先攻側を予め決めておくか、いずれが先攻側となるかを決める手段を設けるかは、任意に選択し得る慣用技術である」とする根拠が全く示されていない旨主張している。
しかし、この点の判断は前示当該判決の判示(特に同判決第29頁第10〜12行参照)に従ったものであるから、この主張は採用できない。

3)相違点3及び4についての判断
検甲第1号証のゲーム機の遊び方の内、「生き残りゲーム(2人用)」では、基本ユニットのみを用い、母船ユニットは用いないのであるが、母船ユニットをセットして砲撃キーを押せば、守備側のみのダメージが計算されて勝敗が表示されることが示されていることから、攻守双方のダメージを計算することに替えて、守備側のみのダメージを計算してその生存判定結果を勝敗表示するようになすことは、当業者ならば容易に想到できたことと認められる。
よって、上記相違点3及び4は当業者が容易に想到できた設計の変更である(前示当該判決の第21頁第10〜11行には、この判断について当事者間に争いはないとある)。

なお、請求人は、意見書において、守備側のみのダメージを計算することにはカードゲームによる勝敗をテンポ良く行うという効果がある旨主張している。
しかし、検甲第1号証のゲーム機において、母船ユニットによる攻撃の場合には守備側のみのダメージを計算していることからみて、基本ユニット間で攻守双方のダメージを計算するようにしてあることは、技術的な理由からではなく、ユニットをマップ上に並べてゲームを行う本来の遊び方の都合によるものと考えられ、1対1の基本ユニット間のみで単に勝敗を決めるだけであれば守備側のみのダメージを計算するようになすことは容易に想起できることであり、かつ、検甲第1号証のゲーム機の取扱い説明書の1頁の「1 ゲームのあらまし」には「ユニット同士のバトル結果や各種データを瞬時に表示、リアルでスピーディーな展開ができます。」とあって、上記効果も格別のものとはいえないから、この主張は採用できない。

4)まとめ
以上のことから、本件訂正発明は、検甲第1号証及び検甲第2号証のゲーム機により本件出願前に国内において公然実施をされた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
したがって、本件審判の請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年改正法による改正前の、特許法第126条第1項ただし書の規定及び特許法第126条第3項の規定に適合しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-11-13 
結審通知日 2001-11-16 
審決日 2001-11-27 
出願番号 特願平1-333373
審決分類 P 1 41・ 121- Z (A63F)
P 1 41・ 851- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神 悦彦  
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 小澤 和英
二宮 千久
登録日 1995-08-25 
登録番号 特許第1961761号(P1961761)
発明の名称 カ―ドゲ―ム玩具  
代理人 椙山 敬士  
代理人 内田 実  
代理人 石新 智規  
代理人 堀井 敬一  
代理人 羽村 行弘  

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