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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C08L |
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管理番号 | 1053174 |
異議申立番号 | 異議2001-70850 |
総通号数 | 27 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1991-10-18 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-03-16 |
確定日 | 2001-10-17 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3088108号「ポリエステル樹脂水分散液の製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3088108号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
〔1〕手続の経緯 本件特許第3088108号の発明は、平成2年(1990)2月9日に特許出願され、平成12年7月14日に設定登録された。 その後、東レ株式会社より特許異議の申立がなされ、当審より平成13年6月22日付け取消理由が通知され、その指定期間内に訂正請求書および特許異議意見書が提出されている。 〔2〕訂正の適否についての判断 1.訂正事項は次のとおりである。 (1)訂正事項a 明細書の特許請求の範囲の請求項1に「全多塩基酸成分・・」とあるのを、「ポリエステルフイルムの接着および密着性の向上剤として用いられ、全多塩基酸成分・・」と訂正する。 2.訂正の適否の判断 訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものである。 そして、(1)訂正事項aは、ポリエステルフイルムの接着および密着性の向上剤として用いられることを限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前のれいによるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を適法なものとして認める。 〔3〕特許異議の申立てについての判断 1.本件発明 異議申立の対象となった本件特許第3082768号の請求項1に係る発明は、その後上記訂正請求がなされ、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものとなっている。 「【請求項1】 ポリエステルフイルムの接着および密着性の向上剤として用いられ、全多塩基酸成分のうち7.5〜10.9モル%がスルホン酸塩基含有ジカルボン酸である多塩基酸成分(l)とポリオール成分(ll)を含む分子量2,000〜30,000の非晶質ポリエステル樹脂(A)と水(B)とが、下記(1)式及び(2)式を満足する様に混合された水分散液で、かつ、リン酸塩化合物を含まない水分散液を製造するに当たり、前記非晶質ポリエステル樹脂(A)を有機溶媒を使用することなく水(B)に加えて撹拌することを特徴とするポリエステル樹脂水分散液の製造方法。 A+B=100(重量%)・・・(1) A/B=1〜70/99〜30(重量比) 【請求項2】 ポリエステル樹脂(A)を、70〜80℃の温水に加え、2〜5時間撹拌するものである請求項1に記載のポリエステル樹脂水分散液の製造方法。 」 2.特許異議申立理由の概要 特許異議申立人東レ株式会社は、平成13年3月16日付け特許異議申立書に添付して、甲第1号証(特公昭47-40873号公報)および甲第2号証(森本努作成「実験報告書」)を提出し、 (i)本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであること、および (ii)本件請求項1〜2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであること、および (iii)本件特許は特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、 本件特許を取り消すべきである旨主張する。 3.引用刊行物の記載事項 当審が通知した取り消し理由において引用した刊行物および実験報告書には次の事項が記載されている。 (3.1)刊行物1(特公昭47-40873号公報;甲第1号証)には、 「本発明は、著しいサイジング性及び接着性を有する水に消散しうる(Water-dissipatable)ポリエステルの製造法に関する。」(第1頁第1欄最下行〜同第2欄第2行)、 「本発明はグリコール成分、ジカルボン酸成分、及び少なくとも2個のエステル形成官能基と金属塩の形のスルホネート基とを有する共単量体に由来する水に消散しうるポリエステルの製造方法に関する」(第1頁第2欄第3〜7行)、 「ポリエステルの製造に使用される少なくとも約20モル%のジオール成分は式 H(-OCH2CH2-)nOH(上式中、nは2〜10までの整数である)のポリ(エチレングリコール)である。適当な・・及びそれらの混合物である。」(第3頁第5欄第3〜13行)、 「ジオール成分の残りの部分は少くとも1種の脂肪族、脂環族、又は芳香族ジオールである。これらのジオールの例はエチレングリコール、プロピレングリコール、・・、1,4-ブタンジオール、・・、1,6-ヘキサンジオール、・・、1,4-シクロヘキサンジメタノール、・・を含む。 共重合体は上述のジオール2種又はそれ以上から製造することができる。」(第3頁第5欄第16〜41行)、 「ポリエステルの製造に使用される第3成分は、芳香族核に結合した-SO3M基(但し、Mは水素又は金属イオン)を含有する二官能性単量体である。この二官能性単量体成分は-SO3M基を含有するジカルボン酸(又はその誘導体)又は-SO3M基を含有するジオールのいずれであってもよい。」(第3頁第5欄第42行〜第6欄第4行)、 「-SO3M基を有する二官能性単量体が酸又はその誘導体(例えばエステル)である場合、ポリエステルは全酸含有に基づいて少くとも約8モル%の単量体を含有していなければならず、10モル%以上の場合には特に有利な結果を与える。」(第4頁第7欄第31〜35行)、 「実施例2 次の表はスルホネート基を含有する・・・比較の目的で示した。 表1 ・・・ C イソフタール酸 90 SIP 10.0 DEG 100 0.55 消散する」(第5頁実施例2 表1)、 「本発明の方法によって製造した非晶性ポリエステルは、水又は水性溶液中に消散せしめた場合、」(第7頁第14欄第21〜22行)、 「本発明の新規なサイズは次の方法で使用することができる。室温より僅かに低い温度から100℃までの便利な温度において粉末又はペレット状のサイズを水に添加し、穏やかに撹拌する。」(第8頁第16欄第5〜8行)、 「実施例7 イソフタール酸90モル%、5-ソジオスルホイソフタール酸10モル%及びジエチレングリコールに由来するポリエステルサイジング組成物(I.V.0.5)15部及び水85部の混合物は、・・分散液を与える。」(第8頁第16欄第25〜31行)、 「前記実施例において使用したサイズ/水比(重量/重量)が15/85及び7.5/92.5であることは特記されるであろう。しかしながらサイズ/水の比は1/99〜50/50の範囲で変えることができる。」(第9頁第17欄第21〜25行)、 と記載されている。 (3.2)実験報告書1(東レ株式会社 滋賀事業場内 フイルム研究所勤務 森本努作成「実験報告書-1」;甲第2号証)には、 「甲第1号証の実施例2-C記載のポリエステルの分子量が、・・検証する。・・・ 4.結果 上記3項の(1)で得られたポリエステルの数平均分子量は2,700、重量平均分子量は10,500であった。甲第1号証記載のものは、本件特許請求の範囲(請求項1)に規定されているポリエステルの分子量の要件を満たした。」旨記載されている。 (4)対比・判断 (4.1)〈特許法第29条第1項第3号違反について〉 本件請求項1〜2に係る発明(以下、「本件発明1〜2」という。)と刊行物1記載の発明とを対比すると、本件発明1は、 (a)ポリエステルフイルムの接着および密着性の向上剤として用いられ、全多塩基酸成分のうち7.5〜10.9モル%がスルホン酸塩基含有ジカルボン酸である多塩基酸成分(l)と (b)ポリオール成分(ll)を含む (c)分子量2,000〜30,000の非晶質ポリエステル樹脂(A)と (d)水(B)とが、 (e)下記(1)式及び(2)式を満足する様に混合された水分散液で、かつ、 A+B=100(重量%)・・・(1) A/B=1〜70/99〜30(重量比) (f)リン酸塩化合物を含まない水分散液を製造するに当たり、 (g)前記非晶質ポリエステル樹脂(A)を有機溶媒を使用することなく水(B)に加えて撹拌することを特徴とするポリエステル樹脂水分散液の製造方法、という技術要件からなるものである。 本件発明1の、「ポリエステル樹脂水分散液の製造方法」における、技術要件(a)〜(g)を子細に対比すると、本件発明1の要件(a)の、全多塩基酸成分のうち7.5〜10.9モル%がスルホン酸塩基含有ジカルボン酸である多塩基酸成分(l)と(b)ポリオール成分(ll)を含む非晶質ポリエステルという点は、刊行物1に、「グリコール成分、ジカルボン酸成分、及び少くとも2個のエステル形成官能基と金属塩の形のスルホネート基とを有する共単量体に由来する水に消散しうるポリエステルの製造法に関する。」(第1頁第2欄第3〜7行)こと、「-SO3M基〔但し、Mは水素又は金属イオン〕を含有する二官能性単量体である。この二官能性単量体成分は-SO3M基を含有するジカルボン酸(又はその誘導体)又は-SO3M基を含有するジオールのいずれであつてもよい。」(第3頁第5欄第42行〜第6欄第4行)であること、この二官能性単量体は、「ポリエステルは全酸含有に基づいて少くとも約8モル%の単量体を含有しなければならず、10モル%以上の場合には特に有利な結果を与える」(第4頁第7欄第31〜35行)と記載されており、さらに、刊行物1にジオール成分(第3頁第5欄第3〜13行、同第16〜41行)が例示された非晶質ポリエステル(第7頁第14欄第21〜22行)であるから、両者は非晶質ポリエステル樹脂という点で一致する。 さらに、本件発明1は、非晶質ポリエステル樹脂に関して、「要件(c)分子量2,000〜30,000」と限定しており、刊行物1にはその分子量を明示する記載はないが、これを上記実験報告書1(甲第2号証)によれば、刊行物1の実施例2-Cのポリエステルの数平均分子量が2,700であることを証明している。 そこで検討するに、刊行物1記載のポリエステルのI.V.は0.55であり、このI.V値を技術常識からみれば分子量2,700とは異常に低いようにも解され得るが、いずれにせよ本件発明1は「分子量2,000〜30,000」と刊行物1記載のポリエステルの分子量を包含することが有り得る広範囲なものを対照としているという事情からすれば、実験報告書におけるそのI.V値と分子量に関する齟齬が、本件発明1と刊行物1記載の非晶質ポリエステル樹脂との本質的な違いの為の理由にはなりえない。 本件発明1の要件(d)、(e)は、刊行物1に、「実施例7・・ポリエステルサイジング組成物(I.V.0.5)15部及び水85部との混合物は、・・分散液を与える。」(第8頁第16欄第25〜31行)こと、および「前記実施例において使用したサイズ/水比(重量/重量)が15/85及び・・比は1/99〜50/50の範囲で変えることができる。」(第9頁第17欄第21〜25行)と記載されており、この点での両者に違いはない。 本件発明の要件(f)についても、刊行物1には、リン酸塩化合物を含む水分散液については何ら記載されていないから、この点でも差異はない。 本件発明の要件(g)について、刊行物1においては、「粉末又はペレット状のサイズを水に添加し、緩やかに撹拌する」(第8頁第16欄第5〜8行)と記載されており、刊行物1には実施例も含めてポリエステル分散液を製造するに際し有機溶媒を用いることについての記載がないから、この点において両者に違いがない。 そうすると、本件発明1と刊行物1記載の発明との違いは、次の(i)、(ii)の二点に集約されるものといえる。まず、 (i)本件発明1は、「ポリエステル樹脂水分散液の製造方法」であるのに対して、刊行物1は「水に消散しうるポリエステルの製造法」であること、および (ii)本件発明1の非晶質ポリエステルは、「ポリエステルフイルムの接着および密着性の向上剤として用いられる」という点を限定しているのに対して、刊行物1記載のものは、「サイジング性及び接着性を有する水に消散しうるポリエステル(第1頁第1欄最下行〜第2欄第2行)というものである。 まず、この(i)の点を検討するに、刊行物1には用語として「消散しうる」とは、一応「ポリエステルを溶解及び/又は分散する状態を包含して使用される」(第2第3欄第36〜42行)という広義で使用され得ることを明示しているが、実際には特に、実施例を含む具体的な態様は殆どが専ら「水溶性ポリエステル」を指していることがわかる。 ということは、この「消散しうる」という用語の単なる文言だけに依拠してその技術的意味を、ポリエステル分散液の製造法までが記載されていると解する論拠には、技術的根拠の開示が無さ過ぎるというべきである。 次に、上記(ii)の点について、本件発明1は、「ポリエステル樹脂水分散液の製造方法」という、いわゆる「製法」の発明であり、このような場合に、「ポリエステルフイルムの接着および密着性の向上剤として用いられる」という特定の用途を限定することが、製法の発明に於いて適正に機能し得るかという点で一応吟味する必要も有ろうが、本件発明1においては、「ポリエステルフイルムの接着および密着性の向上剤として用いられる非晶質ポリエステルの製造方法」という点においては、その発明の実態が明確に把握できるという事情を考慮すれば、それは刊行物1記載の非晶質ポリエステルを、「ポリエステルおよび他の物質に対する熱溶融接着剤としての用途」(第4頁第8欄第14〜15行)を包含する、いわゆる「サイジング性及び接着性を有する水に消散しうるポリエステルの製造法」(第1頁第1欄最下行〜同第2欄第2行)とは、対象物が違う製造方法の発明であり、両者は一応明確に区別できるものと解するべきである。 以上のとおり、本件発明1の上記技術要件が、刊行物1記載のものと相違するから、結局、本件発明1は上記実験報告書1の証明事項を参酌しても、刊行物1に記載された発明とはいえない。 したがって、本件発明1の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではない。 (4.2)〈特許法第29条第2項について〉 本件特許発明は、「有機溶媒を一切使用する必要のないポリエステル樹脂水分散液の製造方法を提供すること」を目的とするものである(公報第2頁第3欄第28〜31行参照)。 本件発明1と刊行物1記載の発明とは、上記理由1の項で詳細に検討したとおり、両者に違いがあることは既に指摘したとおりである。 本件発明1と刊行物1記載の発明との対比に於いて、上記理由1の項で指摘した(i)、(ii)の相違点は、当業者が容易に想到し得る程度の技術的論拠などもない。 ということは、本件発明1は、実験報告書を考慮しても、刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 本件発明2は、ポリエステル樹脂(A)を、70〜80℃の温水に加え、2〜5時間撹拌するものであるが、刊行物1においても、「室温より僅かに低い温度から100℃までの便利な温度において・・」(第8頁第16欄第5〜8行に)の条件下でポリエステルを水に加える程度のことが明記されてはいるが、本件発明2は本件発明1を引用していることからすれば、本件発明2は、本件発明1の検討に於いて指摘したそれと同じ理由で刊行物1記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 本件発明1、2の作用効果は、刊行物1記載の発明とは異なる技術課題の解決を指向しているという事情からすると、予測できることではない。 したがって、本件発明1〜2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。 (4.3)〈特許法第36条違反について〉 本件明細書の記載に関して、特に「分子量の測定法や測定条件に関する記載がない。」、「分子量の説明や定義もないこと。」という点は、この程度の技術用語は、乙第1〜2号証および乙第6号証を参考にするまでもなく、高分子の技術分野において通常使用される慣用の技術用語であり、この技術用語の詳細が明確に示されていないという理由で基づいて本件明細書の記載が不備であるということにはならない。 したがって、本件特許は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。 (5)むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立人の理由及び証拠によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ポリエステル樹脂水分散液の製造方法 (57)【特許請求の範囲】 (請求項1)ポリエステルフィルムの接着および密着性の向上剤として用いられ、全多塩基酸成分のうち7.5〜10.9モル%がスルホン酸塩基含有ジカルボン酸である多塩基酸成分(I)とポリオール成分(II)を含む分子量2,000〜30,000の非晶質ポリエステル樹脂(A)と水(B)とが、下記(1)式及び(2)式を満足する様に混合された水分散液で、かつリン酸塩化合物を含まない水分散液を製造するに当たり、前記非晶質ポリエステル樹脂(A)を有機溶媒を使用することなく水(B)に加えて撹拌することを特徴とするポリエステル樹脂水分散液の製造方法。 A+B= 100(重量%) ……(1) A/B=1〜70/99〜30(重量比)……(2) (請求項2)ポリエステル樹脂(A)を、70〜80℃の温水に加え、2〜5時間撹拌するものである請求項1に記載のポリエステル樹脂水分散液の製造方法。 【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明は有機溶剤を併用しなくとも良好な乳化安定性を示すポリエステル樹脂水分散液に関するものである。 [従来の技術] 有機溶剤の使用による大気汚染や作業環境汚染の問題、更には火災の危険といった問題から、ポリエステル樹脂を利用する各種産業分野においても脱有機溶剤化の強い要請が出ている。 この様な要請に答えるべく、本出願人の一人は、特公昭61-58092、同62-21380、同62-21381並びに同63-32100に開示した様な発明を次々に開発してきた。これらの発明はポリエステル樹脂の水分散化を達成しようという方向の下で研究された成果を開示するもので、いずれもスルホン酸塩基含有ジカルボン酸をポリエステル構成々分の1つとして利用するという点で共通するところがある。しかしこれらの発明では、更に幾つかの技術的工夫を付加しているにもかかわらず、いずれの場合も有機溶剤の併用を前提におき、その使用量を軽減することに苦心しているというのが実情である。例えば特公昭62-21380では、全多塩基酸成分の0.1〜7.4モル%をスルホン酸塩基含有ジカルボン酸で構成することを必須要件とし、また同62-21381では全多塩基酸成分の11〜100モル%をスルホン酸塩基含有ジカルボン酸で構成することを必須要件としているが、いずれの場合もポリオール成分を特定のものに制限する他、特定の水溶解度を有する有機溶媒を使用することが必須となっている。また特公昭63-32100は全多塩基酸成分の0.1〜2モル%をスルホン酸塩基含有ジカルボン酸で構成するポリエステルセグメントに、特定のポリエーテルエステル樹脂を配合するという特異な構成にしつつ、なお且つ特定の水溶性有機化合物を使用しなければならないものである。これらに対しスルホン酸金属塩基含有ジカルボン酸成分の使用量を0.5〜10モル%にするという技術を開示したが(特公昭61-58092)、この技術においても沸点60〜200℃の水溶性有機化合物を併用することを前提としてカルボン酸成分側条件、ポリオール成分側条件、前記有機化合物や水との配合比条件等をこと細かに制限するという技術思想をベ一スとしており、有機溶媒と水を併用する概念からの脱却は図れておらない。 [発明が解決しようとする課題] 本発明は上記の様な状況下になされたものであって、有機溶媒を一切使用する必要のないポリエステル樹脂水分散液の製造方法を提供することを目的とするものである。 [課題を解決する為の手段] 本発明によって提供されるポリエステル樹脂水分散液は、全多塩基酸成分のうち7.5〜10.9モル%がスルホン酸塩基含有ジカルボン酸である多塩基酸成分(I)とポリオール成分(II)を含む分子量2,000〜30,000の非晶質ポリエステル樹脂(A)と水(B)とが、下記(1)式及び(2)式を満足する様に混合された水分散液を製造するに当たり、前記非晶質ポリエステル樹脂(A)を有機溶媒を使用することなく水(B)に加えて撹拌することを要旨とするものである。 A+B=100(重量%) ……(1) A/B=1〜70/99〜30(重量比)……(2) [作用] 前記の様な構成、即ちスルホン酸塩基含有ジカルボン酸成分を全多塩基酸成分の7.5〜10.9モル%含有する分子量2,000〜30,000の非晶質ポリエステル樹脂(A)を用いる場合は、水(B)との配合比を適切に定めることにより、有機溶媒の使用を一切必要としなくなったということは、これまでの研究開発の経緯からして非常に意外な事実である。即ち上記従来の開発経緯によれば、スルホン酸塩基含有ジカルボン酸成分の使用量が7.4モル%未満では水への分散が不可能であると考えられ、一方11モル%以上になると水への分散は容易となるが、この水分散液を適用した製品、例えばフィルム製品の耐水性が悪く、また耐ブロッキング性においても劣るところがあるという欠点を有していた。従って本発明の様にスルホン酸金属塩基含有ジカルボン酸成分の使用量を7.5〜10.9モル%に定めたものは水分散性が良好となり、且つ該水分散液を適用した製品の耐水性および耐ブロッキング性が良好なものになるという事実は非常に意外な発見であって、本発明は上記発見を基礎とし、更に種々検討の結果、上記の様な特定の構成要件に到達したものである。 本発明に係るポリエステル樹脂は、多塩基酸成分またはそのエステル形成性誘導体に、ポリオール成分またはそのエステル形成性誘導体を反応させることによって得られる実質的に線状のポリマーである。 多塩基酸成分におけるもっとも中心的な多塩基酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサノンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸等を非限定的に例示することができ、これらの中から1種若しくは2種以上が使用される、 本発明において特徴的に用いられるスルホン酸塩基合有ジカルボン酸はポリエステル樹脂内に親水基を導入する為のものであって、代表的なものとしては、例えば5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-アンモニウムスルホイソフタル酸、4-ナトリウムスルホイソフタル酸、4-メチルアンモニウムスルホイソフタル酸、2-ナトリウムスルホテレフタル酸、5-カリウムスルホイソフタル酸、4-カリウムスルホイソフタル酸、2-カリウムスルホテレフタル酸、ナトリウムスルホコハク酸等の様にアルカリ金属スルホン酸塩基、アンモニウムスルホン酸塩基、スルホン酸アミン塩基等を置換分として含む芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または脂環族ジカルボン酸が例示される。そしてこれらのスルホン酸塩基含有ジカルボン酸成分は全多塩基酸成分に対して7.5〜10.9モル%、好ましくは10モル%超、10.9モル%以下使用するものであり、これによって本発明の特有の効果が発揮される。 一方ポリオール成分については一切の制限がなく、脂肪族、芳香族並びに脂環族の如何を間わないが、特に代表的なものを例示すると、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール等が挙げられる。 本発明のポリエステル樹脂は上述した多塩基酸成分とポリオール成分のみからなるものに限定されず、これらの成分と共に、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸等の不飽和脂肪族又は不飽和脂環族多塩基酸、またはp-ヒドロキシ安息香酸、p-(β-ヒドロキシエトキシ)安息香酸等のヒドロキシカルボン酸等を使用することができ、それらは多くても全成分中10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。 非晶質ポリエステル樹脂(A)の分子量を2,000〜30,000と定めたのは、2,000未満では皮膜の機械的強度が不十分になり、30,000を超えると水分散液の粘度が高くなり過ぎて非晶質ポリエステル樹脂の濃度を高くすることができないからである。 これらの諸成分を用いて公知の重縮合反応を行なってポリエステル樹脂を得た後、水分散液を調製するに当たっては、樹脂濃度1〜70重量%、好ましくは20〜40重量%となる様に上記ポリエステル樹脂を70〜80℃の温水に加え、2〜5時間程度加温下に攪拌する。その結果ポリエステル樹脂が温水中へ均一に溶解分散し、これを常温まで冷却しても均一分散状態は安定に維持される。また非晶質ポリエステル樹脂(A)の水(B)の比率を1〜70/99〜30と定めたのは、ポリエステル樹脂が少ないときは粘度が低過ぎて被処理物への付着性が悪くなり、他方多過ぎると粘度が高くなり過ぎて作業性の低下を招くからである。 尚上記分散液の調製に際しては、該分散液の用途に応じて種々の添加剤を加えることができる。例えば造膜性を考慮してポリエステル樹脂100重量部に対して30重量部以下、好ましくは10重量部以下の可塑剤を添加することができる。また他の例としては、帯電防止剤、ブロッキング防止剤(ワックスやポリエチレンエマルジョン等)、フィラー(炭酸カルシウム、クレー、シリカ等)等が挙げられる。尚更に必要であれば他の水溶性樹脂、例えばウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等を混合して使用することもできる。 [実施例] 第1表に示す組成からなるポリエステル樹脂を重縮合反応によって製造し、下記実施例及び比較例に供した。 実施例1,2、比較例1,2 第1表のA1〜A4で示したポリエステル樹脂30重量部を70〜80℃の温水70重量部に加え、70℃に保持しながら4時間攪拌した後、冷却し、固形分30重量%のポリエステル樹脂水分散液を得た。 尚上記水分散液のpHは実施例1、比較例2が6.5、実施例2、比較例1が6.6であった。 上記した水分散液に水を加えて固形分濃度を10重量%に薄め、通常のポリエステルフィルム上にバーコーターNo.8を用いて塗布した後、95℃×1分の乾燥及び180℃×30秒のキュアリングを施し、以下述べる評価を行なった。結果は第2表に示す。 評価基準 (1)乳化安定性;70〜80℃の温水と樹脂の乳化分散後の液の安定性を肉眼にて判定する。 ○…良好 ×…乳化不可 (2)耐水性 ;塗工ポリエステルフィルムを常温水に24時間浸漬し、フィルム塗工面の変化を肉眼にて判定する。 ○…変化なし △…若干白化 ×…完全白化、剥離あり (3)耐ブロッキング性 ;50℃×85%RH条件にて、塗工面と未塗工面を重ねて、荷重10Kg/cm2をかけ24時間放置後のフィルムの剥離状態を判定する。 ○…軽く剥離する △…若干剥離に抵抗あり ×…フィルムが接着する (4)ポリエステルフィルムヘの密着性 ;塗工面に碁盤目に切り込みを入れ、ニチバン(株)セロテープを貼ってゴムローラを押しあてた後180°の剥離状態を判定し、塗工面の残存碁盤目を確認する。 ○…残存率100% △…残存率80%以上 ×…残存率80%未満 (5)接着性 ;塗工したポリエステルフィルム上に、塩ビ-酢ビ溶液を塗工して乾燥後、碁盤目に切り込みを入れて、ニチバン(株)のセロテープを貼り、180°の剥離状態を判定し、塗工面の残存碁盤目を確認する。 ○…残存率100% △…残存率80%以上 ×…残存率80%未満 上記評価結果のように、5-ナトリウムスルホイソフタル酸が7モル%以下の場合は乳化不可であり、11モル%以上の場合は耐水性、ブロッキング性が悪く、接着性も若干悪い結果が得られた。 [発明の効果] 本発明は上記の様に構成されているので、完全無溶剤型のポリエステル樹脂水分散液を得ることが望まれていた分野、例えば、ポリエステルフィルム生産時のインライン工程におけるクローズドシステム方式で使用される塗布剤として大いに期待される。 また、大気汚染の観点からみても、塗料、インキ、接着剤等の分野においては完全無溶剤型のポリエステル樹脂水分散液の開発が望まれており、これらの要請に対応することが可能となった。 その他、ポリエステルフィルム以外のプラスチックフィルム、紙、木材、金属、ガラス等に対する接着および密着性の向上剤としての使用も可能である。 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 1.訂正事項は次のとおりである。 (1)訂正事項a 明細書の特許請求の範囲の請求項1に「全多塩基酸成分・・」とあるのを、「ポリエステルフイルムの接着および密着性の向上剤として用いられ、全多塩基酸成分・・」と訂正する。 2.訂正の目的 訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものである。 そして、(1)訂正事項aは、ポリエステルフイルムの接着および密着性の向上剤として用いられることを限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 |
異議決定日 | 2001-09-26 |
出願番号 | 特願平2-31061 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(C08L)
P 1 651・ 531- YA (C08L) P 1 651・ 121- YA (C08L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 森川 聡 |
特許庁審判長 |
三浦 均 |
特許庁審判官 |
谷口 浩行 柿沢 紀世雄 |
登録日 | 2000-07-14 |
登録番号 | 特許第3088108号(P3088108) |
権利者 | 東洋紡績株式会社 高松油脂株式会社 |
発明の名称 | ポリエステル樹脂水分散液の製造方法 |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 植木 久一 |
代理人 | 小谷 悦司 |