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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E21B
管理番号 1053269
異議申立番号 異議1999-70611  
総通号数 27 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-03-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-02-16 
確定日 2001-12-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第2789379号「ボーリングデーターの表示方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2789379号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2789379号に係る出願は、平成2年8月9日の出願であって、平成10年6月12日に特許の設定登録がなされ、その後、三和機材株式会社から特許異議の申立がなされ、取消理由通知が通知され、その指定期間内である平成11年8月30日に訂正請求がなされた後、訂正拒絶理由通知が通知され、それに対して、平成11年12月21日付けで手続補正書が提出されたものである。
2.訂正請求及び補正について
(1)訂正請求に対する補正の適否について
特許権者が行った、訂正請求に対する補正は、
イ.訂正請求書中の訂正事項bについて、『「掘削機の使用電流値」とあるを「掘削時の掘削機の使用電流値」と訂正する。』を誤記の訂正を目的として、『請求項1にあっては「掘削機の使用電流値」とあるを「杭穴掘削時の掘削機の使用電流値」と訂正し、請求項3にあっては「掘削機の使用トルク値」とあるを「掘削時の掘削機の使用トルク値」と訂正する。』と補正し、
ロ.訂正請求書中の訂正事項cについて、『 「掘削杭穴の深度別土質を把握するために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積する」と訂正する。』を特許請求の範囲の減縮を目的として、『「掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積する」と訂正する。』と補正し、
ハ.訂正請求書中の訂正事項dに関連して、全文訂正明細書の「課題を解決する為の手段」中「即ちこの発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、同一深度における、掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握するために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。また、N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記したものである。次に他の発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握するために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「即ちこの発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、同一深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。また、N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記したものである。次に他の発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。」と補正し、
ニ.訂正請求書中の訂正事項gについて、『 「掘削時の杭穴内の土質名を推定し得る」と訂正する。』を明りょうでない記載の釈明を目的として、『「杭穴掘削時の杭穴内の土質名を推定し得る」と訂正する。』と補正し、
ホ.訂正請求書中の訂正事項iについて、『 「各杭穴の掘削中に適切な対応を取り、基礎における総耐力を正確に推定する・・・」と訂正する。』を明りょうでない記載の釈明を目的として、『「また、深度別使用電流値又はトルク値を記憶蓄積したので、各杭穴の掘削中に適切な対応を取り、基礎における総耐力を正確に推定する・・・」と訂正する。』と補正するものであり、当該訂正請求に対する補正イは、誤記の訂正に該当し、補正ロは、訂正請求書に添付した明細書又は図面を基準とし、特許請求の範囲の減縮に該当するものであり、補正ハ〜ホは、いずれも、誤記の訂正及び減縮された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのもので、明りょうでない記載の釈明に該当するものであり、さらに、いずれの補正も、訂正請求書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内の補正であり、しかも、訂正請求書に添付した明細書又は図面における特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではないから、訂正請求書の要旨を変更するものではなく、当該訂正請求に対する補正は、特許法第120条の4第3項でさらに準用する同法第131条第2項の規定に適合する。
(2)訂正の要旨
訂正事項イ:特許請求の範囲を、特許請求の範囲の減縮を目的として、次のように訂正する。
「1 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法
2 N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記した請求項1記載のボーリングデーター表示方法
3 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法」
訂正事項ロ:特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明瞭でない記載の釈明を目的として、本件特許明細書の第2頁第16行〜第3頁第4行の「即ちこの発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、同一深度における、掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握するために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。また、N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記したものである。次に他の発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握するために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。」という記載を、「即ちこの発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、同一深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。また、N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記したものである。次に他の発明は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法である。」と訂正する。
訂正事項ハ:特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明瞭でない記載の釈明を目的として、本件特許明細書の第3頁第5〜9行の「N値と電流値又はトルク値とを対比表示」という記載を、「杭穴掘削時にN値と電流値又はトルク値とを対比表示」と訂正し、「明確になり、適切な対応をとることができる」という記載を、「明確になり、杭穴掘削時に適切な対応をとることができる」と訂正する。
訂正事項ニ:特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明瞭でない記載の釈明を目的として、本件特許明細書の第5頁第11〜16行の「深度別対比表示するので、グラフの変化傾向を読むことにより標準貫入試験における既知の土質名を基準にして掘削電流値の変化から杭穴内の土質名を推定し得る効果がある。従って、各杭穴共に深度方向の土質が明らかになる為に、基礎における総耐力を正確に推定する」という記載を、「杭掘削時に、深度別対比表示するので、グラフの変化傾向を読むことにより標準貫入試験における既知の土質名を基準にして掘削電流値の変化から、杭穴掘削時の杭穴内の土質名を推定し得る効果がある。よって各杭穴の表示を総合的にすれば、例えば基礎杭構築現場の全地層を高精度で推定できる効果がある。従って、各杭穴共に深度方向の土質が明らかになる為に、また深度別使用電流値又はトルク値を記憶蓄積したので、各杭穴の掘削中に適切な対応を取り、基礎における総耐力を正確に推定する」と訂正する。
(3)訂正の適否
A.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項イに係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、しかもその訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項ロ〜ニに係る訂正は、訂正事項イに関連してなされた明瞭でない記載の釈明に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
B.独立特許要件の判断
イ.訂正明細書の請求項1乃至3に係る発明
訂正明細書の請求項1及び2に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された以下のとおりのものである(以下、「訂正後発明1」、「訂正後発明2」及び「訂正後発明3」という。)。
「1 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用電流値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法
2 N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記した請求項1記載のボーリングデーター表示方法
3 同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の使用トルク値とを、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるために、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積することを特徴としたボーリングデーターの表示方法」
ロ.引用刊行物記載の発明
訂正後発明1乃至3に対して、当審が先に通知した訂正拒絶理由で引用した、基礎工 1986年10月号 第14巻第10号(昭和61年10月15日)(株)総合土木研究所 p.104,105 (以下、「刊行物1」という。)には、
a.「本工法は、打込み工法と同様に直接地盤に回転押込みさせるので、既成杭の先端に閉塞逆円錐体状で複数のカッターを設けた先端金具(写真-1参照)を取付けて、杭中空部に挿入したロッドを介して、先端金具と杭体を回転させることにより、搭載荷重及び先端金具の錐状効果と、先端より噴出される圧力水の効果を併用して、地盤を周辺に押付けながら回転押込みを行うと同時に、杭の貫入中は、自動計測記録装置Automatic Recording System(ARシステム)により、杭の回転押込み状況と先端地盤の性状を記録させることができる工法である。
2.2 自動計測記録装置(ARシステム)
ARシステムは、杭が地中に回転押込みされながら自然貫入する状態での貫入状況と地盤抵抗を示す計測記録は、地盤の力学的性状を反映したものと考えられる。
ARシステムで自動計測される諸数値は次のものである(図-1参照)。
1) 杭の回転押込み深度 S(m)
2) オーガーの負荷電流 A(Amp)
3) 杭の回転数 R(rpm)
4) 杭の押込み時間 T(min)
5) 噴出水圧 P(kg/cm2)
これらの数値を組合わせることにより、A,Tは土質柱状図との相関性が考えられ、下記の事項の判断が可能となる。
○貫入深度と貫入状況の測定
○先端地盤性状の連続的な測定
○支持層の確認と支持層への貫入量の測定
○砂質土、粘性土の判断
○地盤と透水性の関連性の測定
○地盤変化に対応した測定
○A,Tの数値からN値の推定
○A,T,Pの数値から支持力の推定」(第104頁左欄下から7行〜右欄第27行参照)
b.「この記録により、杭先端地盤の状況と貫入状況を逐次連続的に把握して、支持層地盤の位置を確認し、所定長を根入れしたことを計測記録して、支持地盤に杭を回転押込み定着させる。ARの記録は、設計図書に基づいた土質柱状図と対比して、支持層位置、根入れ長等の確認をし、杭長等の変更の資料として、その施工現場で役立つことができる記録である。」(第105頁左欄第下から8行〜最下行参照)
c.「杭に先端金具を取付け、杭を回転させ、直接地盤に回転押込むという独特な方法で杭を貫入させ、地盤性状を把握できる」(第105頁右欄第2〜4行参照)
という記載があり、これらの記載及び第105頁図-1の自動計測記録(ARの記録)を参照すると、「杭の貫入中のオーガーの負荷電流、杭の押込み時間及び杭の回転数を自動計測し、対応深度における、オーガーの負荷電流、杭の押込み時間を杭の回転押込みと同時に自動計測記録装置(ARシステム)により計測記録し、この記録により、杭先端地盤の状況と貫入状況を逐次連続的に把握すると共に、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、オーガーの負荷電流及び杭の押込み時間の数値から推定されたN値も、図-1のように表示し、ARの記録は、杭長等の変更の資料として、その施工現場で役立てるボーリングデーターの表示方法及び、標準貫入試験N値に対応する土質名を深度別に対比付記した表示方法」が記載されていると認められる。
ハ.訂正後発明1及び2に対しての対比・判断
本件訂正後発明1及び2と刊行物1に記載された発明とを比較すると、刊行物1に記載された発明の「オーガー」、「杭の貫入中」及び「オーガーの負荷電流及び杭の押込み時間の数値から推定されたN値」は、訂正後発明1及び2の「掘削機」、「杭穴掘削時」及び「掘削杭穴の深度別土質」に相当し、また、刊行物1に記載された発明における「オーガーの負荷電流値」と、訂正後発明1及び2の「掘削機の使用電流値」は、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の、標準貫入試験におけるN値と対比して表示する「対比数値」であることで共通しており、さらに、刊行物1に記載された発明におけるARの記録は、杭長等の変更の資料として、その施工現場で役立てるということは、蓄積することであるから、両者は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積し、またN値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記したボーリングデーターの表示方法の点で一致し、下記の点で相違している。
a.対比数値が、訂正後発明1及び2では掘削機の使用電流値であるのに対し、刊行物1に記載された発明では、掘削機の負荷電流値である点。
b.同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積するのは、訂正後発明1及び2では、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるためであるのに対し、刊行物1に記載された発明では、そのような目的であるか否かはっきりしない点。
相違点aについて検討すると、特許権者は意見書で、訂正後発明1及び2の「使用電流値」は、刊行物1に記載された発明の「負荷電流値」とは異なり、「積算電流値」であると述べているが、特許請求の範囲においてそのような限定はない。仮に、使用電流値が積算電流値であったとしても、刊行物1に記載された発明においても、負荷電流値と時間は同時に計測されており、刊行物1に記載された発明の負荷電流値を、同時に計測された時間により積算電流値とすることは、当業者が容易になしうることにすぎないから、刊行物1に記載された発明の「負荷電流値」は、訂正後発明1及び2の「使用電流値」に相当すると解される。
次に、相違点bについて検討すると、刊行物1に記載された発明においても、杭貫入と同時に杭の回転押込み状況と先端地盤の性状を記録させ、この記録により杭先端地盤の状況と貫入状況を逐次連続的に把握しており、これを、杭穴掘削中に適切な対応をとるために使用することは、当業者が容易になし得ることにすぎない。
そして、全体として訂正後発明1及び2の奏する効果も、刊行物1に記載された発明から予測しうる程度のもので、格別顕著でない。
ニ.訂正後発明3に対しての対比・判断
本件訂正後発明3と刊行物1に記載された発明とを比較すると、刊行物1に記載された発明の「オーガー」、「杭の貫入中」及び「オーガーの負荷電流及び杭の押込み時間の数値から推定されたN値」は、訂正後発明3の「掘削機」、「杭穴掘削時」及び「掘削杭穴の深度別土質」に相当し、また、刊行物1に記載された発明における「オーガーの負荷電流値及び杭の押込み時間」と、訂正後発明3の「掘削機の使用トルク値」は、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の、標準貫入試験におけるN値と対比して表示する「対比数値」であることで共通しており、さらに、刊行物1に記載された発明におけるARの記録は、杭長等の変更の資料として、その施工現場で役立てるということは、蓄積することであるから、両者は、同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積するボーリングデーターの表示方法の点で一致し、下記の点で相違している。
c.同一現場の標準貫入試験におけるN値と、対応深度における、杭穴掘削時の掘削機の対比数値とを、杭穴掘削と同時に対比して表示し、蓄積するのは、訂正後発明3では、掘削杭穴の深度別土質を把握して、杭穴掘削中に適切な対応をとるためであるのに対し、刊行物1に記載された発明では、そのような目的であるか否かはっきりしない点。
d.対比数値が、訂正後発明3では掘削機の使用トルク値であるのに対し、刊行物1には使用トルク値に関しての記載がない点。
相違点cについては、訂正後発明1及び2に対しての対比・判断で検討したとおりであり、また、相違点dについて検討すると、掘削機の使用トルク値は、掘削機の負荷電流値と回転数等のパラメータにより求めることができるものであり、刊行物1に記載された発明において自動計測される諸数値の一つに杭の回転数(オーガー付きの杭であるから掘削機の回転数となる)があること、及び、本件特許公報第2頁第4欄第16〜19行にも記載されているように、「トルク値と電流値とは一定の比較関係にあるので、N値とトルク値についてもN値と電流値と同様の対比関係が成立する。」ことから、刊行物1に記載された発明の負荷電流値に代えて使用トルク値を用いて表示することは、当業者が容易になしうる程度のことである。
そして、全体として訂正後発明3の奏する効果も、刊行物1に記載された発明から予測しうる程度のもので、格別顕著でない。
ホ.むすび
したがって、訂正後発明1乃至3は、いずれも、刊行物1に記載された発明から、当業者が容易に発明できたものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
C.訂正の適否のむすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項でさらに準用する特許法第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
3.異議の申立てについての判断
(1)本件発明
特許第2789379号の請求項1乃至3に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」及び「本件発明3」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された次の事項により構成されるとおりのものである。
「【請求項1】標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の使用電流値とを対比して表示することを特徴としたボーリングデーターの表示方法
【請求項2】N値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記した請求項1記載のボーリングデーター表示方法
【請求項3】標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の使用トルク値とを対比して表示することを特徴としたボーリングデーターの表示方法 」
(2)引用刊行物記載の発明
当審が先に取消理由通知において引用した刊行物1(基礎工 1986年10月号 第14巻第10号(昭和61年10月15日)(株)総合土木研究所 p.104,105)にはそれぞれ上記2.(3)B.ロ.に記載したとおりの発明が記載されている。
(3)本件発明1及び2に対しての対比・判断
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを比較すると、刊行物1に記載された発明の「オーガー」は、本件発明1及び2の「掘削機」」に相当し、また、刊行物1に記載された発明における「オーガーの負荷電流値」と、本件発明1及び2の「掘削機の使用電流値」は、対応深度における、標準貫入試験におけるN値と対比して表示する「対比数値」であることで共通しているから、両者は、標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の対比数値とを対比して表示し、またN値には、これに対応する土質名を深度別に対比付記したボーリングデーターの表示方法の点で一致し、下記の点で相違している。
a.対比数値が、本件発明1及び2では掘削機の使用電流値であるのに対し、刊行物1に記載された発明では、掘削機の負荷電流値である点。
相違点aについて検討すると、刊行物1においてもオーガーの負荷電流値と時間は同時に計測されており、これらの数値からN値を推定していることから、刊行物1に記載された発明の「負荷電流値」は、本件発明1及び2の「使用電流値」に相当すると解される。
そして、全体として本件発明1及び2の奏する効果も、刊行物1に記載された発明から予測しうる程度のもので、格別顕著でない。
(4)本件発明3に対しての対比・判断
本件発明3と刊行物1に記載された発明とを比較すると、刊行物1に記載された発明の「オーガー」は、本件発明3の「掘削機」に相当し、また、刊行物1に記載された発明における「オーガーの負荷電流値及び杭の押込み時間」と、本件発明3の「掘削機の使用トルク値」は、対応深度における、標準貫入試験におけるN値と対比して表示する「対比数値」であることで共通しているから、両者は、標準貫入試験におけるN値と、対応深度における掘削機の対比数値とを対比して表示するボーリングデーターの表示方法の点で一致し、下記の点で相違している。
b.対比数値が、本件発明3では掘削機の使用トルク値であるのに対し、刊行物1には使用トルク値に関しての記載がない点。
相違点bについて検討すると、掘削機の使用トルク値は、掘削機の負荷電流値と回転数等のパラメータにより求めることができるものであり、刊行物1に記載された発明において自動計測される諸数値の一つに杭の回転数(オーガー付きの杭であるから掘削機の回転数となる)があること、及び、本件特許公報第2頁第4欄第16〜19行にも記載されているように、「トルク値と電流値とは一定の比較関係にあるので、N値とトルク値についてもN値と電流値と同様の対比関係が成立する。」ことから、刊行物1に記載された発明の負荷電流値に代えて使用トルク値を用いて表示することは、当業者が容易になしうる程度のことである。
そして、全体として本件発明3の奏する効果も、刊行物1に記載された発明から予測しうる程度のもので、格別顕著でない。
(5)まとめ
したがって、本件発明1乃至3は、いずれも、上記刊行物1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1乃至3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1乃至3についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第1項及び第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-02-10 
出願番号 特願平2-210746
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (E21B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 川島 陵司  
特許庁審判長 片寄 武彦
特許庁審判官 斎藤 利久
鈴木 憲子
登録日 1998-06-12 
登録番号 特許第2789379号(P2789379)
権利者 三谷セキサン株式会社
発明の名称 ボーリングデーターの表示方法  
代理人 永井 浩之  
代理人 佐藤 一雄  
代理人 黒瀬 雅志  
代理人 鈴木 正次  
代理人 岡田 淳平  
代理人 涌井 謙一  

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