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審決分類 審判 全部無効 1項2号公然実施 無効としない B26B
審判 全部無効 2項進歩性 無効としない B26B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効としない B26B
管理番号 1054510
審判番号 無効2000-35192  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-08-12 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-04-13 
確定日 2001-03-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第2784482号発明「麺類等の切断具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2784482号発明は、平成8年1月31日の出願であって、平成10年5月29日に設定の登録がなされ(請求項の数6)、平成11年1月12日付けで、請求項1,2,3,および5項に係る特許異議の申立てがされ(平成11年審判第70097号)、これに対し訂正の請求がなされ、平成11年12月5日に「訂正を認める。請求項1乃至2,4に係る特許を維持する。」との決定が確定したものである。
これに対して、平成12年4月13日付けで、株式会社リッチェル(以下「請求人」という。)により無効審判の請求がなされ、被請求人・小嶋務は平成12年11月15日付けで答弁書を提出した。
2.無効審判請求の理由
請求人は、審判請求時に甲第1号証乃至甲第9号証及び参考資料1乃至6を提出して、被請求人がした訂正の請求は、特許法第120条の4第3項において準用される特許法第126条第1項ただし書き若しくは第2項から第4項までの規定に違反するから、本件特許は特許法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきであると主張し(「請求理由
1」という。)、また、本件請求項1に係る発明は甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明であり、またそれらに基づいて当業者が容易に発明をすることができたから、特許法第29条1項又は同第29条第2項の規定に違反して特許されたから、特許法第123条第1項第2号に該当し、その特許を無効とすべきであると主張し(「請求理由2」という。)、さらに、本件請求項2乃至請求項5に係る発明は、甲第1号証乃至甲第5号証及び甲第8号証の刊行物に記載された発明であるか、それらに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項2乃至請求項5に係る特許は特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであると主張(「請求理由3」という。)している。
証拠方法
(1)甲第1号証:「平成4年度通商産業省選定グッドデザイン商品」紹介32頁の写し(平成4年10月1日財団法人日本産業デザイン振興会編集・発行)
(2)甲第2号証:コロナブックス「プロが選んだ調理道具」第76頁乃至77頁及び第92頁(笠井一子著、1995年12月11日株式会社平凡社発行)
(3)甲第3号証:「鋏読本」第117頁(佐野裕ニ著、昭和62年5月25日新門出版社発行)。
(4)甲第4号証:実願昭61-17643号の願書に添付した明細書及び図面の内容を記載したマイクロフィルム(実開昭62-129977号参照)。
(5)甲第5号証:実公昭33-2975号公報。
(6)甲第6号証:米国特許第4,852,256号明細書。
(7)甲第7号証の1:実開昭50-30094号公報。
(8)甲第7号証の2:特開平1-227785号公報。
(9)甲第8号証:意匠登録第867484号公報。
(10)甲第9号証の1:平成11年異議70097号(本件特許に対する異議申立て)異議決定の写し。
(11)甲第9号証の2:特許第2784482号公報(体件特許の特許掲載公報)。
(12)甲第9号証の3:特開平9-206480号公報(本件特許の出願公開公報)。
(13)参考資料1:本件発明を補足説明する参考図面。
(14)参考資料2:本件発明に関連する参考例を示す説明図。
(15)参考資料3:甲第1号証に示す発明を補足説明する参考図面。
(16)参考資料4:甲第5号証に示す発明を補足説明する参考図面。
(17)参考資料5:甲第6号証に示す発明を補足説明する参考図面。
(18)参考資料6:甲第7号証に示す発明を補足説明する参考図面。
3.当審の判断
(1)請求理由1について
請求理由1の詳細はつぎの(a)〜(d)とおりである。
(a)訂正請求における「訂正事項1」において、特許請求の範囲の請求項1の記載における「歯の長さ方向と交差する方向に互いに噛み合う一対の歯部材を備えてなる」なる記載を「複数の幅方向に並列した歯を有する一対の歯板を備え、各歯板は前記歯の長さ方向と交差する方向で、かつ歯の厚み方向に互いに噛み合う」にする訂正は、「複数」、「幅方向」、「並列した」及び「厚み方向」という特許明細書に記載されていない文言を付加する訂正であるから、新規事項を追加するものであり、その目的も、特許法第120条の4第2項ただし書きのいずれの目的にも該当しせず、当該訂正は、特許法第120条の4第3項において準用される特許法第126条第2項から第4項若しくは特許法第120条の4第2項ただし書きの規定に違反するから、本件特許は特許法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきである(「理由(1‐a)」という)。
(b)請求項1の「複数の幅方向に並列した歯を有する一対の歯板を備え、各歯板は前記歯の長さ方向と交差する方向で、かつ歯の厚み方向に互いに噛み合う」なる記載において「歯板」と「歯」の取り付け関係が不明であり、歯の厚みは測る方向によって変わるから「歯の厚み方向に互いに噛み合う」構成が特定できないから、該訂正請求は、特許法第120条の4第3項において準用する特許法第126条第4項の規定に違反してされたから、本件特許は特許法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきである(「理由(1‐b)」という)。
(c)訂正請求の「訂正事項3」において、特許明細の特許請求の範囲の請求項3の記載における「歯の長さ方向と一致する接線をもつ凹状湾曲面が形成されている」なる記載を「歯の長さ方向と一致する接線をもち、前記歯の長さ方向に湾曲する凹状湾曲面が形成されている」にする訂正は、「歯の長さ方向に湾曲する」なる文言が特許明細書に記載されておらず、しかも「湾曲する」という構成が一義的に定まらず構成が特定できないから、当該訂正は新規事項の追加に該当し、その目的も、特許法第120条の4第2項ただし書きのいずれの目的にも該当せず、当該訂正は、特許法第120条の4第3項において準用される特許法第126条第2項から第4項若しくは特許法第120条の4第2項ただし書きの規定に違反するから、本件特許は123条第1項第8号に該当し、無効とすべきである(「理由(1‐c)」という)。
(d)さらに、訂正後における請求項1及び2にかかる発明が出願の際独立して特許を受けることができるものでないから、該訂正請求は、特許法第120条の4第3項において準用する特許法第126条第4項の規定を満たさず、本件特許は特許法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきである(「理由(1-d)」という)。
そこでこれらの理由につき検討する。
(A)理由1‐aについて
「複数の」なる語が「歯」を修飾する語であることは文言解釈上明らかである。
一方、特許明細書の段落0017の「一方の歯板laは図4に示すように3枚の歯10a,11a,11aを有し、歯1laは歯10aよりも幅が小さくなっている。他方の歯板lbは2枚の歯10b,10bを有し、これらの歯10b,10bの幅は一方の歯板laの歯10a,11aの間隔に等しく、歯板la,lbは柄3a,3bの回動により歯の長さ方向と交差する方向に互いに噛み合うようになっている。」との記載から、歯板には、2乃至3枚の歯が設けられていることは明らかであるから、歯板に「複数の歯」が設けられていると表現しても特許明細書の記載事項の範囲内であるから、新規事項を追加するものであるとは言えない。
また、特許明細書中「幅」若しくは「幅方向」なる語に関連して次のように記載されている。
1)「柄3a,3bは、ピン9をピン挿入穴8に挿入することにより互いに枢支され、柄の幅方向を含む面内を回動可能である。」(段落0016末尾参照)
2)「歯板la,lbは、その幅方向と柄3a,3bの幅方向とが交差するように、すなわち柄3a,3bの回動面を横切るように柄3a,3bに設けられている。」(段落0017の冒頭参照)
3)「一方の歯板laは、図4に示すように3枚の歯10a,11a,11aを有し、歯11aは歯10aよりも幅が小さくなっている。他方の歯板lbは2枚の歯10b,10bを有し、これらの歯10b,10bの幅は一方の歯板laの10a,11aの間隔に等しく、歯板la,lbは柄3a,3bの回動により歯の長さ方向と交差する方向に互いに噛み合うように
なっている。」(段落0017参照)
4)「歯10a,10bは麺類を所要長さ(例えばlcm程度)に切断するための歯であり、その切断長さに対応した幅に設定されている。」(段落0017末尾参照) これらの記載から、歯の「幅」とは、図4及び図5において、歯(10a,11a,10b)を紙面内で水平方向に測った長さであり、特許明細書の上記記載3)及び図4及び図5において、幅方向に並列した歯が記載されているから、「幅方向に並列した歯」なる文言を追加した訂正が新規事項の追加ということはできない。
さらに、「厚さ方向」に関し、特許明細書には、「柄3a,3bはいずれも、その厚さ方向に屈曲された屈曲部4a,4bよりも先端側の第1部分5a,5bと、第1部分5a,5bと平行に延びる基部側の第2部分6a,6bとからなっている。」(段落0016冒頭及び図面参照)と記載されている。該記載における「厚さ」とは、通常技術用語として用いられる「厚さ」なる語と同義すなわち縦横に広がる平面を持つ板状部材の平面に垂直方向に測った量を指していることは明らかである。
そして、板状をなす本件切断具の歯が歯の平面に対して垂直方向に噛み合うことが記載されているか.ら、板状の歯板の厚さ方向に噛み合うことが実質的に記載されているといえる。
したがって、「厚み方向に互いに噛み合う」という文言が特許明細書にないからといって、「歯の長さ方向と交差する方向に互いに噛み合う」なる記載を「厚み方向に互いに噛み合う」とする訂正は新規事項の追加であるということはできない。
そして、該訂正は、「一対の歯部材」を「複数の幅方向に並列した歯を有する一対の歯板」と限定し、「歯の長さ方向と交差する方向に互いに噛み合う」なる記載を「歯の長さ方向と交差する方向で、かつ歯の厚み方向に互いに噛み合う」と訂正して、明りょうでない記載を明りようにするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
(B)理由1‐bについて
特許請求の範囲には、発明の構成に欠くことができない事項を記載すればよいのであって、「歯板」と「歯」の取り付け関係を実施形態のものに特定しないと本件発明の麺類切断具が実施できないとはいえない。
また、板状部材の厚みとは、たとえ湾曲部を有しているとしても、厚さを測る部位において、その湾曲面に対し垂直方向に測ることは技術常識といえる。本件発明の麺類切断具の歯は凹状湾曲面や張出部を有しているからその厚みが測る箇所や方向によって多少変わるとしても、板状部材から形成されているから、その厚さ方向が特定できないとはいえない。
したがって、「複数の幅方向に並列した歯を有する一対の歯板を備え、各歯板は前記歯の長さ方向と交差する方向で、かつ歯の厚み方向に互いに噛み合う」なる記載によっては発明を特定できないとは言えない。
(C)理由1‐cについて
「歯の長さ方向」に関して、特許明細書には次のように記載されている。
1)「歯板la,lbは柄3a,3bの回動により歯の長さ方向と交差する方向に互いに噛み合うようになっている。」(段落0017末尾参照)
2)「この凹状湾曲面13a,13bは、各歯の長さ方向と一致する接線をもつ湾曲面である。」(段落0018末尾)
これらの記載から、互いに歯が噛み合う方向と交差する方向が歯の長さであるが、その方向は一義的には定まらず、歯の幅方向も歯が噛み合う方向と交差する方向である。しかし、歯の幅方向は、上記したように複数の歯が並列した方向であるから、歯の長さとは、図4及び図5において歯を紙面上下方向に測った長さであり、長さ方向とは紙面上下方向であることは明らかである。そして、「歯の長さ方向に湾曲する」とは、特許明細書に記載された「厚さ方向に屈曲された」、「幅方向に屈曲された」(段落0016参照)なる表現に倣ったもので、同記載を追加する訂正が新規事項を追加するとはいえないし、該記載によっては発明の構成が特定できないとは言えない。
また、「歯の長さ方向と一致する接線をもつ凹状湾曲面が形成されている」なる記載では、凹状湾曲面を特定できないから(何故なら、幅方向に湾曲する凹状湾曲面も歯の長さ方向と一致する接線を持つから。)、該記載を「歯の長さ方向と一致する接線をもち、前記歯の長さ方向に湾曲する凹状湾曲面が形成されている」にする訂正は、明りようでない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
(D)理由1‐dについて
請求項1及び2の記載不備に基づく特許法第120条の4第3項において準用される特許法第126条第4項の訂正要件違反については、上記(A)〜(C)において、すでに述べたとおり、請求人の主張は理由がない。
また、請求項1乃至2に係る発明の独立特許要件違反については、以下に述べるとおり理由があるとはいえない。
(2)請求理由2について
次に、本件請求項1に係る発明の新規性及び容易推考性に関する主張について検討する。
(a)本件発明
本件請求項1乃至請求項5に係る発明(以下「本件発明1」乃至「本件発明5」という。)は、願書に添付した(訂正された)明細書及び図面の記載からみて、その請求項1乃至請求項5に記載された次の通りのものと認める。
「【請求項1】麺類等を多数片に切断するための切断具であって、
複数の幅方向に並列した歯を有する一対の歯板を備え、各歯板は前記歯の長さ方向と交差する方向でかつ歯の厚み方向に互いに噛み合うことを特徴とする麺類等の切断具。
【請求項2】前記歯の内面に歯の長さ方向と一致する接線をもち、前記歯の長さ方向に湾曲する凹状湾曲面が形成されていることを特徴とする請求項1記載の麺類等の切断具。
【請求項3】前記歯の内面であって、その先端から離間した位置に張出部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の麺類等の切断具。
【請求項4】前記各歯板が、先端に握り部を有しかつ中間部において互いに枢支された一対の柄の基部にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の麺類等の切断具。
【請求項5】前記各歯板が、ピンセット状又は氷つかみ状にされた一対の柄の自由端にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の麺類等の切断具。」
(b)甲各号証の記載事項
これに対して、請求人が提出した甲第1号証乃至甲第8号証には、それぞれ次の事項が記載されている。
(bl)甲第1号証:
ハープ等を多数片に切断するための切断具であって、
複数の並列した歯とその歯を連結する基端部を有する一対のブロック状又は棒状の歯部材を備え、各歯部材は前記歯の長さ方向と交差する方向で、かつ各歯の厚み方向と直交する方向に互いに噛み合ぅことを特徴とするハーブ用の切断具。
(b2)甲第2号証:
ハーブ等を多数片に切断するための切断具であって、
複数の並列した歯とその歯を連結する基端部を有する一対のブロック状又は棒状の歯部材を備え、各歯部材は前記歯の長さ方向と交差する方向で、かつ各歯の厚み方向と直交する方向に互いに噛み合うことを特徴とするハーブ用の切断具。
(b3)甲第3号証:
ステーキの筋を切断するための切断具であって、
複数の並列した歯とその歯を連結する基端部を有する一対のブロック状又は棒状の歯部材を備え、各歯部材は前記歯の長さ方向と交差する方向で、かつ各歯の厚み方向と直交する方向に互いに噛み合うことを特徴とするステーキ筋切り用切断具。
(b4)甲第4号証,
麺類等を細かく切ったり押し潰したりする食事用はさみであって、先端に握り部(4,5)を有しかつ中間部において互いに枢支された一対の柄の他の端部に一対の歯板(6,7)を備え、歯板の長さ方向と交差する方向で、歯板の厚みと直交する方向に噛み合う食事用はさみ。
(b5)甲第5号証:
フォーク(1,2)に抱合的な湾曲部aが連続して形成され、湾曲部(a,b)は歯の長さ方向と一致する接線を有し、その先端から離間した位置に背合的な湾曲部bが形成され、フォークの歯部は、互いに齟齬して対向しており、フォークを閉じた場合歯部の先端及び湾曲部bが噛合的に互いに入り組み、該フォークがピンセット状又は氷つかみ状にされた一対の把手(3)の自由端にそれぞれ設けられたうどん等の麺類を挟特できるうどん挟み。
(b6)甲第6号証:
歯の厚さ方向に複数並列したblades(歯)を有するcutting grid(4)と、この歯の進入を許す複数配列したreceiving groove(受け入れ溝)を有するreceiving depression(収容部5)を有し、歯列と収容部がピンセット状又は氷つかみ状にされた一対の柄の自由端にそれぞれ設けられ、cutting bladesの幅方向にcutting gridとreceiving depressionを噛み合わせてマッシュルームをスライスするための器具。
(b7)甲第7号証の1:
並列に配置された2本の鋏A,Bが、誘導角軸5,5’を介して把手部8に連結された均一幅裁断用鋏。
(b8)甲第7号証の2:
並列に配置された3本の鋏32,42,44が共通な軸58を介して連結され、把持部38,40により連動機構54により連動されるフリーハンドカット用ハサミ。
(b9)甲第8号証:
複数の幅方向に並列した歯を有する一対の歯板を有し、各歯板は歯の長さ方向と交差する方向で歯の厚み方向に接近離間するスパゲッツティ、うどん、マカロニ等をはさむ道具。
(c)本件発明1の新規性及び進歩性について
本件発明1と上記甲第1号証乃至4号証に記載の発明とを対比する。
一般に「板」とは、その厚さに比べて幅及び長さが十分大きい物体をいうのであるから、本件発明1における歯板とは、その幅及び長さが歯の厚さに比べて十分大きい部材をいうと解される。
一方、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された切断具は、複数の並列した歯を有する一対の歯部材を備えているものの、該部材はブロック状又は棒状の部材であり、複数の幅方向に並列した歯を有する歯板を備えているとは言えないばかりか、各歯部材は前記歯の長さ方向と交差する方向で、かつ歯の厚み方向に互いに噛み合うともいえない。
また、甲第4号証に記載された切断具は、麺類を多数片に切断するための切断具であるが、やはり複数の幅方向に並列した歯を有する歯板を備えているとは言えないし、各歯部材は前記歯の長さ方向と交差する方向で、かつ歯の厚み方向に互いに噛み合うともいえない。
したがって、甲第1号証乃至4号証には、いずれも本件発明1の必須の構成である「複数の幅方向に並列した歯を有する一対の歯板を備え、各歯板は前記歯の長さ方向と交差する方向で、かつ歯の厚み方向に互いに噛み合う」構成(以下この構成を「構成A」という。)を具備していない。
また、甲第5号証に記載のうどん挟みは、複数の幅方向に並列した歯を有する一対のフォーク(歯板)を備え、各フォークの先端の歯及び背合的な湾曲部は前記歯の長さ方向と交差する方向で、かつ歯の厚み方向に互いに入り組む程度に噛み合うもののうどんを保持する空間を確保するために、フォークの抱合的な湾曲部が噛み合わないから、やはり本件発明1の切断具の「複数の幅方向に並列した歯を有する一対の歯板を備え、各歯板は前記歯の長さ方向と交差する方向で、かつ歯の厚み方向に互いに噛み合う」という構成を具備してるとはいえない。
また、甲第6号証記載のマッシュルームをスライスするための器具は、歯の厚さ方向に複数並列したblades(歯)を有するcutting grid(4)の歯が、receiving depression(収容部5)に設けられた複数配列したreceiving groove(受け入れ溝)に進入するものであり、やはり、「複数の幅方向に並列した歯を有する一対の歯板を備え、各歯板は前記歯の長さ方向と交差する方向で、かつ歯の厚み方向に互いに噛み合う」構成を具備していない。
また、甲第7号証の1及び甲第7号証の2に記載のハサミは、並列に配置された複数の鋏の一対の刃が、その幅(又は高さ)方向に噛み合うもので、やはり「複数の幅方向に並列した歯を有する一対の歯板を備え、各歯板は前記歯の長さ方向と交差する方向でかつ歯の厚み方向に互いに噛み合う」構成を具備していない。
また、甲第8号証に記載のスパゲッツテイ、うどん、マカロニ等をはさむ道具は、複数の幅方向に並列した歯を有する一対の歯板を有し、各歯板は歯の長さ方向と交差する方向で歯の厚み方向に接近離間するものであり、切断を行うために歯板が噛み合うものではない。したがってやはり「複数の幅方向に並列した歯を有する一対の歯板を備え、各歯板は前記歯の長さ方向と交差する方向で、かつ歯の厚み方向に互いに噛み合う」構成を具備しているとはいえない。
以上のとおり、甲第1号証乃至甲第8号証のいずれも、本件発明1の必須の構成である構成Aを具備しているとはいえない。
そして、本件発明1は、この構成により、「麺類等を乳幼児が食べられるような長さに簡単な操作で短時間で切断することができる。」という明細書記載の効果を奏するものであるから、本件発明1が上記甲第1号証乃至甲第8号証に記載された発明であるとも、これら甲号証に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたともいえない。
したがって、本件発明1が、甲第1号乃至甲第8号証に記載された発明であり、又は甲第1号乃至甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた発明であるとする請求人の請求理由1は理由がない。
(3)請求理由3について
本件請求項2乃至請求項5は、請求項1の構成を直接または間接に引用して記載されているから、本件発明2乃至5は、本件発明1の必須の構成を全て具備するものであり、当然上記構成Aを具備している。
しかるに、上記「(2)請求理由2について」において述べたように、構成Aは、甲第1号証乃至甲第8号証のいずれにも記載されていないから、本件発明2乃至5が甲第1号証乃至第8号証のいずれかに記載された発明であるとは言えないし、これら甲号証を組み合わせて本件発明2乃至5の構成のようにすることもできない。
したがって、本件発明2乃至5が、甲第1号証乃至5号証及び甲第8号証に記載された発明であり、またはそれらに基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるとする請求人の請求理由3は理由がない。
4.以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件請求項1乃至請求項5に係る特許を無効にすることはできない。
本件審判に関する費用の負担については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟瀦61条の規定を適用する。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-12-21 
結審通知日 2001-01-09 
審決日 2001-01-22 
出願番号 特願平8-37151
審決分類 P 1 112・ 113- Y (B26B)
P 1 112・ 121- Y (B26B)
P 1 112・ 112- Y (B26B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 充  
特許庁審判長 小林 武
特許庁審判官 鈴木 孝幸
播 博
登録日 1998-05-29 
登録番号 特許第2784482号(P2784482)
発明の名称 麺類等の切断具  
代理人 佐藤 年哉  
代理人 佐藤 正年  
代理人 端山 博孝  

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