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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1054914
異議申立番号 異議2001-71295  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-07-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-05-01 
確定日 2001-11-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3104252号「電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3104252号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 〔1〕手続の経緯
本件特許第3104252号の発明は、平成2年(1990)11月22日に特許出願され、平成12年9月1日に設定登録された。
その後、後藤昭雄より特許異議の申立がなされ、当審より平成13年7月9日付け取消理由が通知され、その指定期間内に訂正請求書および特許異議意見書が提出されている。
〔2〕訂正の適否についての判断
1.訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲を次のように訂正する。
「【請求項1】 エポキシ樹脂と多価フェノール化合物と55体積%以上の無機充填剤を含有する電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料において、エポキシ樹脂及び/又は多価フェノール化合物として構造式が

(式中、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、n及びmは繰り返し単位の数を表し、n/(n+m)は0.1以上0.5以下である。)で示され、ナフトールと1価のフェノール類をホルムアルデヒドを用いて共縮合して得られる両末端がナフトールでないフェノール樹脂(A)及び/又は構造式が


(式中、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、n及びmは繰り返し単位の数を表し、n/(n+m)は0.1以上0.5以下である。)で示され、上記フェノール樹脂(A)をエポキシ化して得られる両末端がグリシジルナフチルエーテルでないエポキシ樹脂(B)を必須成分とすることを特徴とする電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。」
2.訂正の適否の判断
訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
そして、(1)訂正事項aは、フェノール樹脂(A)及び/又はエポキシ樹脂(B)を明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を適法なものとして認める。
〔3〕特許異議の申立てについての判断
1.本件発明
異議申立の対象となった本件特許第3104252号の請求項1に係る発明は、その後上記訂正請求がなされ、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される前項〔2〕1.(1)訂正事項aに示すとおりのものとなっている。
2.特許異議申立理由の概要
特許異議申立人後藤昭雄は、平成13年5月1日付け特許異議申立書に添付して、甲第1号証(特開平2-189326号公報;刊行物1)および甲第2号証(特開昭62-167318号公報;刊行物2)を引用し、
(i)本件請求項1〜2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであること、および
(ii)本件特許は特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、
本件特許を取り消すべきである旨主張する。
3.引用刊行物の記載事項
当審が通知した取り消し理由において引用した刊行物には次の事項が記載されている。
(3.1)刊行物1(特開平2-189326号公報;甲第1号証)には、
「(1)下記の(A)〜(D)の各成分を含有してなることを特徴とする電子部品封止用エポキシ樹脂組成物。(A):ナフトール及びジヒドロキシナフタレンから選ばれた少なくとも1種のヒドロキシナフタレン化合物とアルデヒドとの縮合反応によって得られたポリヒドロキシナフタレン系化合物とエピハロヒドリンとから製造されたエボキシ樹脂。
(B):1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物からなる硬化剤
(C):硬化促進剤
(D):無機充填材」(特許請求の範囲)、
「本発明における(A)エポキシ樹脂製造用のポリヒドロキシナフタレン系化合物を得るための原料ヒドロキシナフタレン化合物としては、α-ナフトール・・などが挙げられる。・・さらにこれらのヒドロキシナフタレン化合物には、比較的少量の、すなわち全芳香族ヒドロキシ化合物の合計量に対して30モル%以下、好ましくは20モル%以下のフェノール類(たとえばフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシンなど)を併用して、アルデヒドと反応させてもよい。・・アルデヒドとしては、たとえばホルムアルデヒド・・があげられる。」(第2頁左下欄第17行〜第3頁左上欄第12行)、
「本発明における(B)硬化剤は、分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有するものである、・・・。具体例としては、フェノール・・などと、ホルムアルデヒドとを、酸性触媒の存在下で縮合して得られるフェノールノボラック樹脂があげられる。
・・さらに、前記の本発明の(A)エポキシ樹脂製造用の原料であるポリヒドロキシナフタレン系化合物も、本発明の(B)硬化剤として使用することができる。」(第4頁右上欄第14行〜左下欄第18行)、
「本発明における(D)無機充填材は、・・その無機充填材としては、たとえば・・石英ガラス粉・・があげられる。・・(D)無機充填材の配合割合は、前記のとおり、全樹脂組成物に対して50〜90重量%、好ましくは60〜85重量%である。」(第5頁左上欄第19行〜右上欄第11行)、
、第8頁の第1表には、実施例1〜6で得られたエポキシ硬化樹脂の物性が開示されており、具体的には、
「ガラス転移温度が「220〜255℃」、高温強度(215℃)が「6.1〜13.6kg/mm2(60〜133MPa )」、吸水後のハンダ処理クラックテスト(215℃及び260℃)の結果が「全て○」」(第8頁第1表、実施例1〜6)、
と記載されている。
(3.2)刊行物2(特開昭62-167318号公報;甲第2号証)には、
「エポキシ樹脂を1分子中に2個以上有するエポキシ化合物を硬化するに際し、ナフタレン核に結合するヒドロキシル基を1分子中に少なくとも2個有するナフトール誘導体を用いることを特徴とするエポキシ樹脂の硬化方法。」(特許請求の範囲)、
「従来からエポキシ系樹脂は、・・封止用樹脂(特に電子部品用)・・等広範な用途に利用されている。」(第1頁左下欄第19行〜右下欄第8行)、
「・・且つ、その硬化物は…更に、低吸湿性、耐熱性・・等も改良されたエポキシ硬化樹脂を与えるエポキシ樹脂の硬化方法を提供することにある。」(第2頁左上欄第3行〜第8行)、
「かかる本発明の目的は、エポキシ基を1分子中に2個以上有するエポキシ化合物を硬化するに際し、ナフタレン核に結合するヒドロキシル基を1分子中に少くとも2個有するナフトール誘導体を用いることにより達成される。」(第2頁左上欄第10行〜第15行)、
「本発明において、ナフタレン核に結合するヒドロキシル基を1分子中に少くとも2個有するナフトール誘導体とは、一般に次のものを好適に包含する。・・より具体的な例をあげると以下の通りとなる。・・・・
(1-ロ)レゾルシノールノボラックに対応する物
*ジヒドロキシナフタレンホルムアルデヒド縮合物 (構造式は省略する)
等、及びそれらの核ハロゲン置換体、例えば、ブロム化体及びこれらのナフトール類の好ましくは50モル%以下をフェノール、クレゾール、キシレノール・・等のフェノール類におきかえたノボラック型化合物等が非常に好ましく用いることが出来る。」(第2頁左上欄第17行〜右下欄第16行)、
「本発明による硬化剤を用いたエポキシ樹脂硬化物は低吸湿性、電気特性、耐熱性にすぐれており、半導体封止剤用をはじめとする電気電子用途、・・分野に好適に用いる事が出来る。」(第5頁右上欄第11行〜第15行)、
と記載されている。
(4)対比・判断
(4.1)〈特許法第29条第2項について〉
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、吸水率が小さく、高温強度、Tg(ガラス転移温度)が高く、耐熱性に優れ、しかもリフロー時の耐クラック性及びリフロー後の耐湿性が従来のものと比べて向上して、耐パッケージクラック性に優れるという技術課題を解決した成形材料を提供することにある。
本件発明は、詳細には(a)エポキシ樹脂と(b)多価フェノール化合物と(c)55体積%以上の無機充填剤を含有する(d)電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料において、
(a)エポキシ樹脂及び/又は(b)多価フェノール化合物が上記特定の構造式で示される、ナフトールと1価のフェノール類をホルムアルデヒドを用いて共縮合して得られる両末端がナフトールでないフェノール樹脂(A)及び/又は上記特定の構造式で示される、上記フェノール樹脂(A)をエポキシ化して得られる両末端がグリシジルナフチルエーテルでないエポキシ樹脂(B)を必須成分とすることを特徴とする電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料である。
本件発明の(a)エポキシ樹脂は、刊行物1記載の(1)エポキシ樹脂と、前者の(b)多価フェノール化合物は後者の(B)硬化剤と、前者の(c)55体積%以上の無機充填剤を含有する点は後者の(D)無機充填剤と、および前者の(d)電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料は後者の「電子部品封止用エポキシ樹脂組成物」とそれぞれ概念的には一応一致する。
そこで、本件発明と刊行物1、2記載の発明とを子細に対比するに、本件発明の(a)エポキシ樹脂についてみると、ナフトールと1価のフェノール類をホルムアルデヒドを用いて共縮合して得られる両末端がナフトールでないフェノール樹脂(A)をエポキシ化したものであるのに対して、刊行物1記載のそれはヒドロキシナフタレン化合物とエピハロヒドリンから製造される、本質的にナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂であり、両者に構造上本質的な違いがある。
刊行物2記載の発明は、特定のエポキシ化合物を硬化するに際し、特定のナフトール誘導体を用いるものであり、このナフトール誘導体は、ナフトール類の好ましくは50モル%以下をフェノール類で置き換えたノボラック型化合物が好ましく用いる(第2頁右下欄下から10〜5行)という、いわゆるナフトール類を主体とするものであるから、本件発明の両末端がナフトールでないフェノール樹脂とは構造上本質的に異なるものである。
ということは、本件発明と刊行物1、2記載の発明とは、主要成分のエポキシ樹脂の違いに起因して、両者に本質的な違いがあるから、結局、本件発明は刊行物1、2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
本件発明は、本件明細書の記載にみるとおり、リフロー時の耐クラック性及びリフロー後の耐湿性において有意な作用効果を奏している。
したがって、本件発明1の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。
(4.2)〈特許法第36条違反について〉
本件明細書の記載に関して、本件特許異議申立人後藤昭雄は、特許異議申立書において、本件明細書には「両末端がナフトールでないフェノール樹脂(A)」、「両末端がグリシジルナフチルエーテルでないエポキシ樹脂(B)」と記載しているが、これは審査段階で明細書に挿入されたという事情もあり、本願明細書にはその入手法や、それを限定した技術的な根拠、或いは技術的意義について記載されていないという点は、この程度のことは、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂を構成するナフトールとフェノール類との組成割合を特定して反応条件を設定すれば容易に製造することが出来る程度のことであるから、上記理由によっては、本件明細書の記載に特段不備があるということにはならない。
したがって、本件特許は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の理由及び証拠によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料
(57)【特許請求の範囲】
1.エポキシ樹脂と多価フェノール化合物と55体積%以上の無機充填剤を含有する電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料において、エポキシ樹脂及び/又は多価フェノール化合物として構造式が

(式中、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、n及びmは繰り返し単位の数を表し、n/(n+m)は0.1以上0.5以下である。)で示され、ナフトールと1価のフェノール類をホルムアルデヒドを用いて共縮合して得られる両末端がナフトールでないフェノール樹脂(A)及び/又は構造式が

(式中、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、n及びmは繰り返し単位の数を表し、n/(n+m)は0.1以上0.5以下である。)で示され、上記フェノール樹脂(A)をエポキシ化して得られる両末端がグリシジルナフチルエーテルでないエポキシ樹脂(B)を必須成分とすることを特徴とする電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。
【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料に関するもので、特に、表面実装用プラスチックパッケージICの封止に好適に用いられる電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料に関する。
[従来の技術]
従来から、トランジスタ、ICなどの電子部品封止の分野ではエポキシ樹脂成形材料が広く用いられている。この理由としては、エポキシ樹脂が電気特性、耐湿性、耐熱性、機械特性、インサート品との接着性などの諸特性にバランスがとれているためである。特に、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂とフェノールノボラック硬化剤の組み合わせばこれらのバランスに優れており、IC封止用成形材料のベース樹脂として主流になっている。
[発明が解決しようとする課題]
近年、電子部品のプリント配線板への高密度実装化が進んでいる。これに伴い、電子部品は従来のピン挿入型のパッケージから、表面実装型のパッケージが主流になっている。IC、LSIなどの表面実装型ICは実装密度を高くし、実装高さを低くするために薄型、小型のパッケージになっており、素子のパッケージに対する占有体積が大きくなり、パッケージの肉厚は非常に薄くなってきた。更に、これらのパッケージは従来のピン挿入型のものと実装方法が異なっている。すなわち、ピン挿入型パッケージはピンを配線板に挿入した後、配線板裏面からはんだ付けを行うため、パッケージが直接高温にさらされることがなかった。しかし、表面実装型ICは配線板表面に仮止めを行い、はんだバスやリフロー装置などで処理されるため、直接はんだ付け温度にさらされる。この結果、ICパッケージが吸湿した場合、はんだ付け時に吸湿水分が急激に膨張し、パッケージをクラックさせてしまう。現在、この現象が表面実装型ICに係わる大きな問題となっている。
現行のベース樹脂組成で封止したICパッケージでは、上記の問題が避けられないため、ICを吸湿梱包して出荷したり、配線板へ実装する前に予めICを十分乾燥して使用するなどの方法がとられている。しかし、これらの方法は手間がかかり、コストも高くなる。
本発明はかかる状況に鑑みなされたもので、配線板への実装の際、特定の前処理をすることなく、はんだ付けを行うことができるICパケージを得ることができる電子部品封止用樹脂成形材料を提供しようとするものである。
[課題を解決するための手段]
発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ベース樹脂としてナフタレン骨格を有する特定の樹脂を配合することにより上記の目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明はエポキシ樹脂と多価フェノール化合物と55体積%以上の無機充填剤を含有する電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料において、エポキシ樹脂及び/又は多価フェノール化合物として構造式が

(式中、Rは水素又はメチル基、tert-ブチル基などの炭素数1〜5のアルキル基を表し、n及びmは繰り返し単位の数を表し、n/(n+m)は0.1以上0.5以下である。)で示されるフェノール樹脂(A)及び/又は構造式が

(式中、Rは水素又はメチル基、tert-ブチル基などの炭素数1〜5のアルキル基を表し、n及びmは繰り返し単位の数を表し、n/(n+m)は0.1以上0.5以下である。)で示されるエポキシ樹脂(B)を必須成分とすることを特徴とする電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料を提供するものである。
本発明のエポキシ樹脂成形材料はエポキシ樹脂成分及び/又は多価フェノール化合物成分として骨格中にナフタレン環を有するものを用いることをによりリフロー時の耐クラック性及びリフロー後の耐湿性を大幅に改善することができる。
本発明におけるフェノール樹脂(A)は骨格中にナフタレン環を有するものであり、ナフトールと1価のフェノール類をホルムアルデヒドを用いて共縮合した化合物などがある。例えば、ナフトール成分としてはα-ナフトール、β-ナフトールがあり、1価のフェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ブチルフェノールなどがあり、これらを適宜組み合わせた組成で共縮合したノボラック樹脂などがある。
この場合、フェノール類では耐湿性、硬化性などを考慮すればクレゾールが好ましいが、特に限定するものではない。またフェノール樹脂(A)のナフトールとフェノール類の共縮合比[ナフトールのモル数/(ナフトール+フェノール類のモル数)]、すなわち、n/(n+m)は、0.1〜0.5の範囲であることが必要である。この理由としては、共縮合比0.1未満ではナフタレン環の比率が少なく、本の目的である耐リフロー性に対し効果が少ない。また、0.5を超えると樹脂の溶融粘度が高くなり成形時に支障が生じる。両者のバランスをとるためには、共縮合比は0.3〜0.5の範囲が更に好ましい。
本発明においては多価フェノール化合物成分としてフェノール樹脂(A)のほかに、電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料で一般に使用されているものと組み合わせて使用してもよい。例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのフェノール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒドとを酸性触媒下で縮合反応させて得られるノボラック型フェノール樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノーレF、ポリパラビニルフェノール樹脂、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノンなどの多価フェノールなどがあり、これらは単独又は2種類以上併用してもよい。
本発明のエポキシ樹脂(B)としては、上記フェノール樹脂(A)をエピクロルヒドリンを用いてエポキシ化した樹脂などが用いられ、構造上の特徴はフェノール樹脂(A)の化合物と同様である。
本発明のエポキシ樹脂(B)の純度、特に加水分解性塩素量はICなど素子上のアルミ配線腐食に係わるため少ない方がよく、耐湿性の優れた電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料を得るためには500ppm以下であることが好ましいが、特に限定するものではない。ここで、加水分解性塩素量とは試料のエポキシ樹脂1gをジオキサン30mlに溶解し、1N-KOHメタノール溶液5mlを添加して30分間リフラックス後、電位差滴定により求めた値を尺度としたものである。
本発明において用いられるエポキシ樹脂成分としては上記エポキシ樹脂(B)のほかに、電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料で一般に使用されているものを使用することができる。例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール類とアルデヒド類のノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどのジグリシジルエーテル、フタル酸、ダイマー酸などの多塩基酸とエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸などのポリアミンとエピクロルヒドリンの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸などの過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂及び脂環族エポキシ樹脂などがあり、これらを適宜何種類でも併用することができる。
また、エポキシ樹脂と多価フェノール化合物との当量比(水酸基数/エポキシ基数)は、特に限定はされないが、0.5〜1.5が好ましい。エポキシ樹脂と多価フェノール化合物の合計、すなわち、ベースレジンの量が成形材料全体の25〜45容量%とすることが好ましい。
本発明においてフェノール樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)の合計の配合比は、ベース樹脂全体の30重量%以上が好ましく、更には50重量%以上が好ましい。この理由としては、30重量%未満では本発明の目的である耐リフロー性に対して効果が少なく、特に有効な効果を発揮するためには50重量%以上が必要となるためである。
また、エポキシ樹脂とフェノール性水酸基を有する化合物の硬化反応を促進する硬化促進剤を使用することができる。この硬化促進剤としては、例えば、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級アミン類、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレートなどのテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、2-エチル-4-メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N-メチルモルホリン・テトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などがある。
ここで、本発明の目的であるリフロー時のクラックに対し鋭意検討した結果、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7及びそのフェノール類の誘導体又はテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート類を硬化促進剤として使用することが特に有効であることを見出した。更に、テトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレートとしては、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレートが好ましい。この理由としては、硬化促進剤が硬化物特性に及ぼす影響は大きなものであり、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7及びそのフェノール類の誘導体又はテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート類を用いた場合、耐熱性の指標であるTg(ガラス転移温度)が比較的高く、吸水率が小さくなるため、一定時間加湿したICパッケージをはんだ処理してもクラックが発生しなくなったと推察できる。したがって、本発明の樹脂系の効果を有効に発現するためには、上記硬化促進剤との組み合わせが好ましいが、特に限定するものではない。配合比はベースレジンに対して0.5〜10重量%とすることが好ましい。
また、充填剤としては吸湿性低減及び強度向上の観点から無機充填剤を用いることが必要である。無機充填剤としては結晶シリカ、溶融シリカ、アルミナ、ジルコン、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭化珪素、窒化珪素、窒化ホウ素、ベリリア、マグネシア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニアなどの粉体又はこれらを球形化したビーズなどが挙げられ、1種類以上用いることができる。充填剤の配合量としては同様の理由から、55容量%以上が必要であり、更には60容量%以上が好ましい。
その他の添加剤として液状又は固形のシリコーン化合物、テレキリックゴム、熱可塑性エラストマなどの可撓剤、高級脂肪酸、高級脂酸金属塩、エステル系ワックスなどの離型剤、カーボンブラックなどの着色剤、エポキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、アルキルシラン、有機チタネート、アルミニウムアルコレートなどのカップリング剤及び難燃剤などを用いることができる。
以上のような原材料を用いて成形材料を作製する一般的な方法としては、所定の配合量の原材料をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、押出機などによって混練し、冷却、粉砕することによって、成形材料を得ることができる。
本発明で得られる成形材料を用いて、電子部品を封止する方法としては、低圧トランスファー成形法が最も一般的であるが、インジェクション成形法、圧縮成形法によっても可能である。
[作用]
ICパッケージがリフロー時に受けるダメージは、ICの保管時に吸湿した水分がリフロー時に急激に膨張することが原因であり、この結果、パッケージのクラック及び素子やリードフレームと樹脂界面の剥離を生じる。したがって、リフローに強い樹脂としては、吸水率が低いこと、及び高温で強度が高いことが要求される。
本発明の主成分となるエポキシ樹脂(B)は骨格にナフタレン環を有するため、従来のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂と比較して、官能基濃度が小さくなる(エポキシ当量が大きくなる)。すなわち、極性の高い官能基が少なくなることで、吸水率を低減できたと推察できる。一般に、エポキシ当量が大きくなると耐熱性が低下するが、本発明のエポキシ樹脂(B)は剛直なナフタレン環を有するために、高温強度も良好なレベルを維持できたと推察できる。
本発明のフェノール樹脂(A)を用いた場合の上記と同様なことがいえる。
[実施例]
以下実施例により本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
構造式

を主成分とするエポキシ当量233、軟化点87℃のエポキシ樹脂(B)80重量部、臭素比率50重量%、エポキシ当量375の臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂20重量部、水酸基当量106、軟化点83℃のフェノールノボラック樹脂42重量部、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(1.5重量部)、カルナバワックス(2重量部)、カーボンブラック(1重量部)、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(2重量部)、石英ガラス粉(70重量%)を配合し、10インチ径の加熱ロールを使用して、混練温度80〜90℃、混練時間7〜10分の条件でエポキシ樹脂成形材料を作製した。
実施例2
フェノールノボラック樹脂42重量部を構造式

で示される水酸基当量127、軟化点110℃のフェノール樹脂(A)50重量部に変更した以外は実施例1と同様にエポキシ樹脂成形材料を作製した。
実施例3
実施例2のエポキシ樹脂(B)をエポキシ当量220、軟化点78℃のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂80重量部に変更した以外は実施例2と同様にエポキシ樹脂成形材料を作製した。
比較例1
エポキシ当量220、軟化点78℃のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(80重量部)をベース樹脂とした以外は実施例1と同様に作製した。
実施例1〜3及び比較例1の特性を第1表に、試験法の詳細を第2表に示す。実施例は比較例と比べ、吸水率が小さく、高温強度、Tg(ガラス転移温度)が高く、耐熱性に優れることがわかる。
本発明の効果を明確にするために、評価用ICを用いたリフロー時の耐クラック性及びリフロー後の耐湿性の結果を示す。耐クラック性評価に用いたICは外形が19×14×2.0(mm)のフラットパッケージであり、8×10×0.4(mm)の素子を搭載した80ピン、42アロイリードのものである。試験条件は85℃、85%RHで所定時間加湿した後、215℃のべーパーフェーズリフロー炉で90秒加熱するものである。評価は外観を顕微鏡観察し、パッケージクラックの有無を判定することにより行った。
また、耐湿性の評価に用いたICは350mil幅、28ピンのスモールアウトラインパッケージであり、10μm幅のアルミ配線を施した5×10×0.4(mm)テスト素子を搭載し、25μmの金線を用いてワイヤボンディングしたものである。試験条件は85℃、85%RHで72時間加湿し、215℃のべーパーフェーズリフロー炉で90秒加熱した後、2気圧、121℃、100%RHの条件で所定時間加湿し、アルミ配線腐食による断線不良を調べたものである。
なお、ICパッケージの成形は180℃、90秒、70kgf/cm2の条件で行い、成形後180℃、5時間の後硬化を行った。
第3表にリフロー時の耐クラック性及びリフロー後の耐湿性の結果を示す。第3表から実施例1〜3に示すように、本発明のエポキシ樹脂を用いることにより、従来樹脂系と比較してリフロー時の耐クラック性及びリフロー後の耐湿性を大幅に改善できる。



[発明の効果]
本発明によって得られたエポキシ樹脂成形材料はリフロー時の耐クラック性及びリフロー後の耐湿性が従来のものと比べ大きく改善できる。電子部品の分野、特にFP(フラットパッケージ)、SOP(スモールアウトラインパッケージ)などのICではパッケージが薄形、小形になり、素子の大形化と相俟って侯って耐パッケージクラック性が強く要求されており、これらの製品へ広く適用でき、その工業的価値は大きい。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲を次のように訂正する。
「【請求項1】 エポキシ樹脂と多価フェノール化合物と55体積%以上の無機充填剤を含有する電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料において、エポキシ樹脂及び/又は多価フェノール化合物として構造式が

(式中、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、n及びmは繰り返し単位の数を表し、n/(n+m)は0.1以上0.5以下である。)で示され、ナフトールと1価のフェノール類をホルムアルデヒドを用いて共縮合して得られる両末端がナフトールでないフェノール樹脂(A)及び/又は構造式が

(式中、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基を表し、n及びmは繰り返し単位の数を表し、n/(n+m)は0.1以上0.5以下である。)で示され、上記フェノール樹脂(A)をエポキシ化して得られる両末端がグリシジルナフチルエーテルでないエポキシ樹脂(B)を必須成分とすることを特徴とする電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。」
2.訂正の目的
訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
そして、(1)訂正事項aは、フェノール樹脂(A)及び/又はエポキシ樹脂(B)を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
異議決定日 2001-10-15 
出願番号 特願平2-319492
審決分類 P 1 651・ 534- YA (C08G)
P 1 651・ 121- YA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小林 均  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 佐野 整博
柿沢 紀世雄
登録日 2000-09-01 
登録番号 特許第3104252号(P3104252)
権利者 日立化成工業株式会社
発明の名称 電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料  
代理人 三好 秀和  
代理人 若林 邦彦  
代理人 若林 邦彦  
代理人 三好 秀和  

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