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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G02F
管理番号 1054955
異議申立番号 異議1999-70074  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-10-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-01-12 
確定日 2002-01-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 本件特許第2775823号「液晶表示素子」の特許異議の申立に対する審判事件について平成11年8月25日に請求項1〜5に係る特許を取り消すとした決定に対し、東京高等裁判所において取消決定取消しの判決(平成11(行ケ)第335号、平成13年2月28日判決言渡)があったので、更に審理の結果、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2775823号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
訂正特許第2775823号の特許請求の範囲の請求項1〜5に係る発明は、平成1年3月28日に特許出願され、平成10年5月1日に設定登録がなされ、特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年8月9日に特許異議意見書が提出され、平成11年8月25日に請求項1〜5に係る特許を取り消すとした決定がなされたところ、平成13年2月28日に前記決定を取り消すとの判決があり、再度、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年6月11日に訂正請求がなされ、審尋がなされ、その指定期間内である平成13年9月21日に回答書が提出されたものである。
2.訂正の適否について
ア.訂正の内容
訂正事項a
特許請求の範囲第1項に係る記載の「(1)ほぼ平行に・・・液晶表示素子。」を、
「(1)ほぼ平行に配置された配向制御膜を有する一対の透明電極付きの基板間に挟持された施光性物質を含有した誘電異方性が正のネマチック液晶によるねじれ角が160〜300°の液晶層と、この液晶層を挟持する上下の基板の透明電極間に電圧を印加する駆動手段とを有し、この液晶層の外側に一対の偏光板を設置し、液晶層の両外側であって一対の偏光板の内側に一対の複屈折板を配置した液晶表示素子において、液晶層での液晶の屈折率異方性△n1と液晶層の厚みd1との積△n1・d1が0.4〜1.5μmとされ、前記複屈折板(一軸延伸フィルムを除く)が3方向で屈折率が異なる複屈折板であって、3個の主屈折率をnx、ny、nzとし、nx、nyを複屈折板面内方向の屈折率とし (nx>ny)、nzを複屈折板の厚み方向の屈折率とした場合、 nx>nz>nyであることを特徴とする液晶表示素子。」に訂正する。
訂正事項b
明細書第6頁10行の「複屈折板が3方向で」を「複屈折板(一軸延伸フィルムを除く)が3方向で」に訂正する。
イ.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無又は特許請求の範囲の実質的な拡張又は変更の存否
訂正事項a
この訂正事項aは、取消理由通知に引用された先願明細書に記載の発明との関連において、特許請求の範囲の請求項1に記載された複屈折板を「複屈折板(一軸延伸フィルムを除く)」に特定し、一軸延伸フィルムを除外するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、新規事項を追加するものでなく、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものでもない。
訂正事項b
この訂正事項bは、上記訂正事項aの訂正に伴って、特許明細書の詳細な説明を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当し、新規事項を追加するものでなく、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものでもない。
ウ.独立特許要件について
(1)訂正発明
訂正後の特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に係る発明(以下、訂正発明1〜5という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】 ほぼ平行に配置された配向制御膜を有する一対の透明電極付きの基板間に挟持された施光性物質を含有した誘電異方性が正のネマチック液晶によるねじれ角が160〜300°の液晶層と、この液晶層を挟持する上下の基板の透明電極間に電圧を印加する駆動手段とを有し、この液晶層の外側に一対の偏光板を設置し、液晶層の両外側であって一対の偏光板の内側に一対の複屈折板を配置した液晶表示素子において、液晶層での液晶の屈折率異方性△n1と液晶層の厚みd1との積△n1・d1が0.4〜1.5μmとされ、各複屈折板は3方向で屈折率が異なる複屈折板であって、3個の主屈折率をnx、ny、nzとし、nx、nyを複屈折板面内方向の屈折率とし( nx>ny)、 nzを複屈折板の厚み方向の屈折率とした場合、 nx>nz>nyであることを特徴とする液晶表示素子。
【請求項2】
各複屈折板が2軸延伸フィルムであることを特徴とする請求項1記載の液晶表示素子。
【請求項3】
nx>nz>ny≧1.5818であることを特徴とする請求項1または2記載の液晶表示素子。
【請求項4】
複屈折板の屈折率が(nz-ny)/(nx-ny)≧0.1とされることを特徴とする請求項1、2または3記載の液晶表示素子。
【請求項5】
各複屈折板の屈折率異方性△n2とその厚みd2との積△n2・d2が、液晶層の△n1・d1の大きさのほぼ半分の値か、それよりも少し小さめであることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の液晶表示素子。」
(2)取消理由の概要
平成13年3月21日付け取消理由の概要は以下のとおりである。
「特許法第29条の2の規定違反について
ア.先願明細書に記載の発明について
特願平1-10405号の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、先願明細書という。特開平2-189518号公報参照)には下記の事項が記載されている。
「対向する2枚の電極基板間にねじれ配向した液晶を挟持してなる液晶セルと、前記液晶以外に少なくとも一層の光学的異方体と、それらを挟んで両側に配置された一対の偏光板とを備えた液晶電気光学素子において、前記光学的異方体が有する3つの主要な屈折率N1o、N2o、N3eの内、ある1つの屈折率N3eが他の2つの屈折率N1o、N2oよりも小さく、かつその屈折率N3eに対応する軸が、前記液晶セルの基板表面に対してほぼ水平な方向にあることを特徴とする液晶電気光学素子。」(第1頁左下欄特許請求の範囲(1))
「(実施例1)
第1図に、本発明の実施例1における液晶電気光学素子の断面図を示す。図中、1は上側偏光板、2は液晶セル、3は一軸延伸フィルム、4は下側偏光板である。液晶セルには、チッソ社製の液晶SS-4008を用い、セルギャップdが6.0μmのセルにねじれ配向させた。
一方、一軸延伸フィルムには、・・・負の一軸性を持つ性質がある。この一軸延伸フィルムの屈折率は、N1o=1.516、N2o=1.518、N3e=1.509である。フィルム厚は50μm、リターデーションは0.45μmである。
第2図には、各種の関係図を示した。上側偏光板の偏光軸(吸収軸)方向10が液晶セルの上基板のラビング方向11となす角度20を左117°、液晶セルのねじれ角21を左240°、下側偏光板の偏光軸(吸収軸)方向14が13となす角度23を70°とした。
本発明の液晶電気光学素子は、パネル面に垂直な方向から見る限り、第3図に示した従来の液晶電気光学素子とほぼ同様の特性を示す。
第4図に、実施例1における液晶電気光学素子の視角特性を示した。本発明は、従来よりも非選択時の光量変化が少ないために、表示の反転が起こりにくく、コントラストの高い領域も広がっている。
(実施例2)
一軸延伸フィルムで、液晶セルのリターデーションを補償するためのセル条件は、実施例1で示した条件以外にも多数存在する。実施例2では、実施例1以外の条件について1つ紹介する。
第1図に、本発明の実施例1における液晶電気光学素子の断面図を示す。図中、1は上側偏光板、2は液晶セル、3は一軸延伸フィルム、4は下側偏光板である。液晶セルには、メルク社製の液晶ZLI-4151-100(Δn=0.18)を用い、セルギャップdが5.0μmのセルにねじれ配向させた。この時、リターデーションは0.90μmになる。
一方、一軸延伸フィルムには、PMFAを、シリコンオイル中100℃で延伸して用いた。この一軸延伸フィルムの屈折率は、N1o=1.534、N2o=1.538、N3e=1.502であり、光学的に負の一軸性を有する。フィルム厚は15μm、リターデーションは0.54μmである。
第5図には、各軸の関係図を示した。上側偏光板の偏光軸(吸収軸)方向10が液晶セルの上基板のラビング方向11となす角度20を左45°、液晶セルのねじれ角21を左210°、一軸延伸フィルムの延伸方向13が液晶セルの下基板のラビング方向12となす角度22を0°、下側偏光板の偏光軸(吸収軸)方向14が13となす角度23を左135°とした。
本実施例においても、従来のように光学的に正の一軸性を有する一軸延伸フイルムを使う場合と比べて、視角が拡がっている。」(第3頁左上欄第8行〜同頁右下欄第13行)
また、第1図には、一軸延伸フィルム3の厚み方向の屈折率をN1o、面内方向の屈折率をN2o、長さ方向の屈折率をN3oとしたことが示されている。
イ.対比・判断
(1)訂正発明1について
先願明細書に記載の「対向する2枚の電極基板」、「液晶」、「一対の偏光板」、「一軸延伸フィルム」、「液晶電気光学素子」は、それぞれ訂正発明1の「一対の基板」、「液晶層」、「一対の偏光板」、「複屈折板」、「液晶表示素子」に対応し、それぞれの対応に格別の差異がない。
そして、先願明細書の実施例1及び2に「液晶をねじれ配向させること」及び「ラビング方向」が記載されているから、先願明細書に記載の発明は、訂正発明1の「配向制御膜」を備えることは明らかである。
また、先願明細書の実施例1の「液晶セルのねじれ角を左240°」及び実施例2の「液晶セルのねじれ角21を左210°」が、訂正発明1の「ねじれ角度が160〜300°」の範囲内にあることは明らかである。
更にまた、先願明細書に記載の発明は「対向する2枚の電極」に電圧を印加して表示するものであるから、訂正発明1の「透明電極間に電圧を印加する駆動手段」を備えることは明らかである。
更にまた、先願明細書の実施例1の液晶(チッソ社製液晶SS-4008)のΔnは0.15(第2頁左上欄第1行)であり、そのリターデーションは0.9μm、また、その実施例2のリターデーションは0.90μmであるから、訂正発明1の「積△n1・d1が0.4〜1.5μm」の範囲内にあることは明らかである。
更にまた、先願明細書の実施例1の一軸延伸フィルムの屈折率はN1o=1.516、N2o=1.518、N3e=1.509であり、また、その実施例2の一軸延伸フィルムの屈折率は、N1o=1.534、N2o=1.538、N3e=1.502であり、そのN1oはnzに、そのN2oはnxに、そして、そのN3eはnyにそれぞれ対応するから、先願明細書に記載の発明においても、訂正発明1と同様に「複屈折板は3方向で異なる屈折率を有する複屈折板であり、3個の主屈折率をnx、ny、nzとし、nx、nyを複屈折板板面内方向の屈折率とし( nx>ny)、 nzを複屈折板の厚み方向の屈折率とした場合、 nx>nz>nyである」ことは明らかである。
そこで、訂正発明1と先願明細書に記載の発明とを対比すると、両者は、
「ほぼ平行に配置された配向制御膜を有する一対の透明電極付きの基板間に挟持された施光性物質を含有した誘電異方性が正のネマチック液晶によるねじれ角度が160〜300°の液晶層と、この液晶層を挟持する上下の基板の透明電極間に電圧を印加する駆動手段とを有し、この液晶層の外側に一対の偏光板を設置し、液晶層と偏光板の間に複屈折板を配置した液晶表示素子において、液晶層での液晶の屈折率異方性△n1と液晶層の厚みd1との積△n1・d1が0.4〜1.5μmとされ、前記複屈折板は3方向で異なる屈折率を有する複屈折板であり、3個の主屈折率をnx、ny、nzとし、nx、nyを複屈折板面内方向の屈折率とし( nx>ny)、 nzを複屈折板の厚み方向の屈折率とした場合、 nx>nz>nyであることを特徴とする液晶表示素子」であるという点で一致し、訂正発明1は「液晶層の両外側であって一対の偏光板の内側に一対の複屈折板を配置」しているのに対して、先願明細書に記載の発明は、その実施例においては「液晶層の一方の側であって偏光板の内側に一枚の複屈折板を配置」している点で一応相違している。
ところが、先願明細書の請求項1には「少なくとも一層の光学異方体」と記載されており、複屈折板(光学異方体)を用いて視野角を広くする液晶表示装置において、訂正発明1の如く、「液晶層の両外側であって一対の偏光板の内側に一対の複屈折板を配置」することは当業者に周知(特開昭64-519号公報第10図及びその関連記載参照)である。
してみると、上記相違は当業者の任意事項にすぎないから、訂正発明1は先願明細書に記載の発明と実質的に同一である。
(2)訂正発明5について
訂正発明5は、訂正発明1を「複屈折板の屈折率異方性△n2とその厚みd2との積△n2・d2が、液晶層の△n1・d1の大きさのほぼ半分の値である」に限定するものであるが、そのような限定は当業者に周知(特開昭64-519号公報第34図及びその関連記載参照)である。
してみると、訂正発明5は、上記「(1)訂正発明1について」に記載したと同様の理由により、先願明細書に記載の発明と実質的に同一である。
ウ.むすび
したがって、訂正発明1及び5は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、訂正発明1及び5の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、訂正発明1及び5の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、訂正発明1及び5は、特許法第29条の2第1項の規定に違反して特許されたものである。
特許法第36条第4項の規定違反について
(1)訂正発明3について
訂正発明3の「nx>nz>ny≧1.5818の2軸延伸フィルム」及びその製法等は、訂正特許明細書及び図面に記載されておらず、訂正発明3の出願の時に当業者に周知又は自明の事項でもない。
また、訂正発明の出願の日前に公開された特開昭56-62126号公報、特開昭53-49050号公報、特開昭53-104644号公報及び特公昭53-16433号公報(以下、公知例1〜4という。)には、「nx>nz>nyの2軸延伸フィルム」及びその製法等は記載されているものの、訂正発明3の「nx>nz>ny≧1.5818の2軸延伸フィルム」及びその製法等は記載されていない。
そして、訂正発明3の「nx>nz>ny≧1.5818の2軸延伸フィルム」及びその製法等は、上記公知例1〜4に記載の「nx>nz>nyの2軸延伸フィルム」及びその製法等から当業者が容易に想到し得ることでもない。
してみると、訂正発明3は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、訂正特許明細書及び図面に記載されているとすることができない。
(2)訂正発明1について
訂正発明1には訂正発明3が内在するから、訂正発明1は、上記「(1)訂正発明3について」において記載した理由により、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、訂正特許明細書及び図面に記載されているとすることができない。
(3)訂正発明2について
訂正発明2には訂正発明3が内在するから、訂正発明2は、上記「(1)訂正発明3について」において記載した理由により、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、訂正特許明細書及び図面に記載されているとすることができない。
(4)訂正発明4について
訂正発明4は、訂正発明3を引用するものであるから、上記「(1)訂正発明3について」において記載した理由により、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、訂正特許明細書及び図面に記載されているとすることができない。
(5)訂正発明5について
訂正発明5は、訂正発明3を引用するものであるから、上記「(1)訂正発明3について」において記載した理由により、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、訂正特許明細書及び図面に記載されているとすることができない。
(6)むすび
したがって、訂正発明1〜5は、特許法第36条第4項の規定に違反して特許されたものである。」
(3)当審の判断
(3-1)特許法第29条の2の規定違反について
a)先願明細書に記載の発明について
上記「2.ウ.(2)ア.先願明細書に記載の発明について」を参照。
b)対比・判断
訂正発明1〜5の「3個の主屈折率をnx、ny、nzとし、nx、nyを複屈折板面内方向の屈折率とし( nx>ny)、 nzを複屈折板の厚み方向の屈折率とした場合、 nx>nz>nyである」ことは、先願明細書に記載も示唆もされておらず、当業者に周知又は自明の事項でもない。
また、訂正発明1〜5は、複屈折板を「複屈折板(一軸延伸フィルムを除く)」に特定して、一軸延伸フィルムに係る発明を除外しているから、先願明細書の実施例1及び2に係る発明に該当しないものである。
したがって、訂正発明1〜5は、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることができないから、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものとすることができない。
(3-2)特許法第36条第4項の規定違反について
a)技術水準としての刊行物
特開昭56-62126号公報(以下、公報1という。)には、2軸延伸操作で3方向の屈折率の関係を調整する方法が記載されており(2頁右上欄10行目〜左下欄10行目)、しかも、nα(厚み方向の屈折率)がnβ(短軸方向の屈折率)とnγ(長軸方向の屈折率)の間の値をとるPPSから成る2軸延伸フィルムが記載されている。すなわち、公報1記載の発明の実施例3(9頁左上欄)には、PPSポリマを溶融成形して得たフィルムを、延伸装置で長手方向と幅方向に延伸して2軸延伸フィルムを形成することが記載され、その表-3(9頁下欄)には、2軸延伸フィルムの特性が記載されているところ、その試料記号A-8-1の2軸延伸フィルムは、厚み方向の屈折率nαが短軸方向の屈折率nβと長軸方向の屈折率nγの間の値をとることが明らかであり、本件発明の複屈折板として使用できるものであることが開示されている。
特開昭53-49053号公報(以下、公報2という。)には、Nz(厚み方向の屈折率)がNx(長さ方向の屈折率)とNy(幅方向の屈折率)の間の値をとる、ポリアミド含有エチレン・酢酸ビニル共重合体から成る2軸延伸フィルムが記載されている。すなわち、表2(19頁左上欄)のNO.17の2軸延伸フィルムは、その屈折率NzがNxとNyの間の値をとるという関係を有していることは明らかであり、したがって、この2軸延伸フィルムは、本件屈折率を有することが明らかである。
特開昭53-104644号公報(以下、公報3という。)の第1表(4頁左下欄)のフィルムDは、厚さ500μのアイソタクチックポリプロピレンの未延伸フィルムをフィルムAと同じ延伸条件で延伸したフィルムであり(4頁左上欄16行目〜18行目)、すなわち、140℃でMD(縦方向)に1.2倍延伸した後、TD(横方向)に3倍延伸し、次いで155℃で10秒問熱処理したもの(同1行目〜3行目)であって、Ny(幅方向の屈折率)>Nz(厚み方向の屈折率)>Nx(長さ方向の屈折率)の関係を有することが分かる。
特開昭53-16433号公報(以下、公報4という。)の表-3(8頁)の実験番号3-7のフィルムは、PP/PE/EPC=35/30/35(重量比)のフィルムをMD(縦方向)に1.2倍延伸して固定し、TD(横方向)に25.0倍延伸した(15欄1行目〜4行目及び16欄1行目〜3行目)ものであって、Ny(幅方向の屈折率)>Nz(厚み方向の屈折率)>Nx(長さ方向の屈折率)の関係を有することが分かる。
本件屈折率を有する2軸延伸フィルムの製法についても、公報1には、「実施例3(1)PPSポリマの準備・・・(2)溶融成形・・・(3) 二軸延伸・・・(4)熱処理・・・A-8-1を得た。」(9頁左上欄1行目〜18行目)と記載され、公報2には、「エチレン含量27モル%・・・のEVOHにナイロン6 ・・・を15wt%ブレンドし・・・各種フィルムを作った(表3)。」(18頁右下欄1行目〜9行目)と記載され、公報3(甲第15号証)には、「実施例1.・・・比較のためアイソタクチックポリプロピレンを厚さ500μの未延伸フィルムに成形し、(A)と同じ延伸条件で延伸してフィルムD ・・・ を得た。」(3頁右下欄16行目〜4頁左上欄19行目)と記載され、また、公報4(甲第16号証)には、「実施例3 実施例2で用いたのと同一の重合体を用い・・・MD延伸倍率を1.2倍に固定し、TD延伸倍率は表-3に示した範囲で各々設定し・・・フィルムを得、さらに粘着テープとした。」(15欄1行目〜4行目及び16欄1行目〜3行目)と記載されている。
b)判断
訂正発明1及び2について
本件出願日である平成元年3月28日の10年以上前から、本件屈折率を有する2軸延伸フィルム及びその製法は公報1〜4において繰り返し開示されていたことが認められる。また、公報1表-3(9頁)において、本件屈折率を有する試料記号A-8-1のものは、同表の備考欄に「比較例」と記載され、公報2(甲第13号証)表2(19頁)にはNO.17が比較例である旨記載され、公報3第1表(4頁)に記載のフィルムDが「本発明」でなく「比較」の欄に記載され、また、公報4表-3(8頁)の実験番号3-7は、「発明の内外の表示」の欄が「外」と記載されている。これらの公報の記載は、すべて、本件屈折率を有する2軸延伸フィルムが、これら公報の明細書が作成された時点において既に、新たに発明されたものとしてではなく、比較のために従来から存在した技術として記載されているというほかはない。
以上を総合すると、訂正発明1及び2の屈折率を有する2軸延伸フィルム及びその製法は、本件出願当時において、当業者にとって周知又は慣用の技術であったと認めることができる。
してみると、訂正発明1及び2は、当業者が容易に実施できる程度に本件特許明細書に記載されていないとは言えないから、特許法第36条第4項の規定に違反して特許されたものとすることができない。
訂正発明3〜5について
上記公報1に記載の試料記号A-8-1の2軸延伸フィルムは、訂正発明3〜5の屈折率関係”nx>nz>ny≧1.5818”を満たすものと推定され、そして、比較のために従来から存在した製法により製造されたものと考えられるから、訂正発明3〜5の”nx>nz>ny≧1.5818の2軸延伸フィルム”は上記公報1に記載されて当業者に周知の技術的事項であるというほかはない。
してみると、訂正発明3〜5は、当業者が容易に実施できる程度に本件特許明細書に記載されていないとは言えないから、特許法第36条第4項の規定に違反して特許されたものとすることができない。
エ.むすび
以上のとおり、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立について
ア.本件発明
上記「2.ウ.(1)訂正発明」に記載したとおりである。
イ.異議申立の理由の概要
異議申立人 日東電工株式会社は、下記の理由により本件発明1〜5は特許法第36条第4項の規定に違反して特許されたものであるから、それらの特許は取り消されるべき旨主張している。
本件特許明細書には、2軸延伸フィルムを用いる場合において、nzがnxとnyの間の値を取る2軸延伸フィルムの製法等が記載されていないから、本件発明1〜5は当業者が容易に実施することができる程度に記載されていない。
ウ.当審の判断
上記「2.ウ.(2)特許法第36条第4項の規定違反について」において述べたとおりである。
エ.むすび
以上のとおり、異議申立の理由によっては、本件発明1〜5についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜5についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
液晶表示素子
(57)【特許請求の範囲】
(1)ほぼ平行に配置され配向制御膜を有する一対の透明電極付きの基板間に挟持された旋光性物質を含有した誘電異方性が正のネマチック液晶によるねじれ角が160〜300°の液晶層と、この液晶層を挟持する上下の基板の透明電極間に電圧を印加する駆動手段とを有し、この液晶層の外側に一対の偏光板を設置し、液晶層の両外側であって一対の偏光板の内側に一対の複屈折板を配置した液晶表示素子において、液晶層での液晶の屈折率異方性Δn1と液晶層の厚みd1との積Δn1・d1が0.4〜1.5μmとされ、各複屈折板(一軸延伸フィルムを除く)が3方向で屈折率が異なる複屈折板であって、3個の主屈折率をnx、ny、nzとし、nx、nyを複屈折板面内方向の屈折率とし(nx>ny)、nzを複屈折板の厚み方向の屈折率とした場合、nx>nz>nyであることを特徴とする液晶表示素子。
(2)各複屈折板が2軸延伸フィルムであることを特徴とする請求項1記載の液晶表示素子。
(3)nx>nz>ny≧1.5818であることを特徴とする請求項1または2記載の液晶表示素子。
(4)各複屈折板の屈折率が(nz-ny)/(nx-ny)≧0.1とされることを特徴とする請求項1、2または3記載の液晶表示素子。
(5)各複屈折板の屈折率異方性Δn2とその厚みd2との積Δn2・d2が、液晶層のΔn1・d1の大きさのほぼ半分の値か、それよりも少し小さめであることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は、高密度表示に適した液晶表示素子に関するものである。
[従来の技術]
従来、両電極間の液晶分子のツイスト角を大きくして、鋭い電圧-透過率変化を起し、高密度のドットマトリクス表示をする方法として、スーパーツイスト素子(T.J.Scheffer and J.Nehring, Appl.,Phys.,Lett.45(10)1021-1023(1984))が知られていた。
しかし、この方法は用いられる液晶表示素子の液晶の複屈折率Δnと液晶層の厚みdとの積Δn・dの値が実質的に0.8〜1.2μmの間にあり(特開昭60-10720号)、表示色として、黄緑色と暗青色、青紫色と淡黄色等、特定の色相の組み合せでのみ、良いコントラストが得られていた。
このようにこの液晶表示素子では白黒表示ができなかったことにより、マイクロカラーフィルターと組み合せて、マルチカラー又はフルカラー表示ができない欠点があった。
一方、同様な方式を使用し、液晶の複屈折率と厚みとの積Δn・dを0.6μm付近と小さく設定することにより、ほぼ白と黒に近い表示が得られる方式が提案されている。(M.Schadt et al, Appl.Phys.Lett. 50(5), 1987, p.236)
しかし、この方式を使用した場合においては表示が暗く、かつ、最大コントラストがあまり大きくなく、青味を帯びるため、表示の鮮明度に欠ける欠点があった。
また、白黒表示でかつコントラストの高い液晶表示素子として、互いに逆らせんの液晶セルを2層積層し、一方のセルのみ電圧を印加し、他方のセルは単なる光学的な補償板として使用する方式が提案されている。(奥村ほか、テレビジョン学会技術報告、11(27),p.79,(1987))
しかし、この方式は2層セルでのΔn・dのマッチングが非常に厳しく、歩留りの向上が困難な上、液晶セルが2層必要なため、液晶セルの薄く軽いという特長を犠牲にしている欠点があった。
また、上述した2層セルの一方を1軸性の複屈折フィルムで置き換え、白黒表示を可能にしたフィルム積層型液晶表示素子も提案されている(特開昭63-271415号等)。
[発明の解決しようとする課題]
このような1軸性の複屈折フィルム方式のフィルム積層型液晶表示素子では、液晶セルの補償を1軸性の複屈折フィルムで行っているので、垂直方向では見栄えが良いが、斜め方向から見た場合に色付いたり、白黒が逆転したりする欠点があった。このため、明るく、白黒度が良く、かつ、視野角の広い液晶表示素子を、歩留り良く生産することが困難であった。
明るく視野角の広い白黒表示素子は、単に特有な色付きがなく見易いというだけでなく、カラーフィルターをセル内部またはセル外部に形成して、従来通常の90°ツイストのツイストネマチック(TN)素子で実現されていた様な、モノカラーまたはマルチカラーまたはフルカラー表示を実現でき、薄く、軽く、低消費電力という特長を発揮して、その市場が飛躍的に拡大すると予想される。
このため、コントラストがよく、明るく、かつ、視野角の広い白黒表示素子を、歩留りよく生産できる液晶表示素子が望まれていた。
[課題を解決するための手段]
本発明は、前述の問題点を解決すべくなされたものであり、ほぼ平行に配置され配向制御膜を有する一対の透明電極付きの基板間に挟持された旋光性物質を含有した誘電異方性が正のネマチック液晶によるねじれ角が160〜300°の液晶層と、この液晶層を挟持する上下の基板の透明電極間に電圧を印加する駆動手段とを有し、この液晶層の外側に一対の偏光板を設置し、液晶層の両外側であって一対の偏光板の内側に一対の複屈折板を配置した液晶表示素子において、液晶層での液晶の屈折率異方性Δn1と液晶層の厚みd1との積Δn1・d1が0.4〜1.5μmとされ、各複屈折板(一軸延伸フィルムを除く)が3方向で屈折率が異なる複屈折板であって、3個の主屈折率をnx、ny、nzとし、nx、nyを複屈折板面内方向の屈折率とし(nx>ny)、nzを複屈折板の厚み方向の屈折率とした場合、nx>nz>nyであることを特徴とする液晶表示素子を提供するものである。
本発明では、液晶層と偏光板との間の両側に、3個の主屈折率をnx、ny、nzとし、nx、nyを複屈折板面内方向の屈折率とし(nx>ny)、nzを複屈折板の厚み方向の屈折率とした場合、nx>nz>nyとなるような関係を有する複屈折板を配置したものである。
このため、液晶層は1層でよく、生産性を下げたり、色ムラを起こしやすい第2の液晶層を設けなくても、明るい白黒表示の液晶表示素子が容易に得られる。さらに、1軸性の複屈折板を用いた場合に比して、斜め方向から見た場合の表示の品位の劣化が少なく、視野角の広い白黒表示の液晶表示素子が容易に得られる。
この液晶層は従来のスーパーツイスト液晶表示素子の液晶層と同じ構成の液晶層であり、電極群が対向しており、これにより各ドット毎にオンオフを制御可能とされる。この液晶層のツイスト角は約160〜300°とされる。
具体的には、ほぼ平行に配置された一対の透明電極基板間に旋光性物質を含有した誘電異方性が正のネマチック液晶を挟持し、両電極間での液晶分子のツイスト角を160〜300°とすれば良い。これは、160°未満では急峻な透過率変化が必要とされる高デューティでの時分割駆動をした際のコントラストの向上が少なく、逆に300°を越えるとヒステリシスや光を散乱するドメインを生じ易いためである。
また液晶層の液晶の屈折率異方性(Δn1)とその液晶層の厚み(d1)との積Δn1・d1が0.4〜1.5μmとされる。
これが、0.4μm未満では、オン時の透過率が低く、青味がかった表示色になりやすく、また、1.5μmを越えると、オン時の色相が黄色から赤色を呈し、白黒表示となりにくい。
特に、表示色の無彩色化が厳しく要求される用途では、液晶層のΔn1・d1は0.5〜1.0μmとされることが好ましい。
なお、このΔn1・d1の範囲は、その液晶表示素子の使用温度範囲内で満足されるようにされることが好ましく、使用温度範囲内で美しい表示が得られる。もっとも外の性能の要求のために、使用温度範囲の一部でのみ、この関係を満足するようにされることもありうる。この場合には、Δn1・d1の範囲が上記範囲からはずれる温度範囲では、表示が色付いたり、視野角特性が低下したりすることとなる。
所望のパターンにパターニングをしたITO(In2O3-SnO2)、SnO2等の透明電極を設けたプラスチック、ガラス等の基板の表面にポリイミド・ポリアミド等の膜を設け、この表面をラビングしたり、SiO等を斜め蒸着したりして配向制御膜を形成した透明電極付きの基板を準備して、この透明電極付きの基板の間に、前記した誘電異方性が正のネマチック液晶による160〜300°ツイストの液晶層を挟持するようにされる。この代表的な例としては、多数の行列状の電極が形成されたドットマトリックス液晶表示素子があり、一方の基板に640本のストライプ状の電極が形成され、他方の基板にこれに直交するように400本のストライプ状の電極が形成され、640×400ドットのような表示がなされる。さらにこの640本のストライプ状の電極を夫々3本一組として1920本のストライプ状の電極とし、RGBのカラーフィルターを配置してフルカラーで640×400ドットの表示をすることもできる。
なお、電極と配向制御膜との間に基板間短絡防止のためにTiO2、SiO2、Al2O3等の絶縁膜を設けたり、透明電極にAl、Cr、Ti等の低抵抗のリード電極を併設したり、カラーフィルターを電極の上もしくは下に積層したりしてもよい。
この液晶層の両外側に一対の偏光板を配置する。この偏光板自体もセルを構成する基板の外側に配置することが一般的であるが、性能が許せば、基板自体を偏光板と複屈折板で構成したり、基板と電極との間に複屈折層と偏光層として設けてもよい。
本発明では、上記液晶層の両側に隣接して、厚み方向の屈折率が面内方向の屈折率と異なる複屈折板を積層する。この複屈折板は、液晶層と偏光板との間に設ければよい。
また、この複屈折板は液晶層と偏光板との間に設ければよく、例えば、液晶層と電極の間に層状に設けたり、電極と基板の間に層状に設けたり、基板自体を複屈折板としたり、基板と偏光板との間に層状に設けたり、それらを組み合わせて設けたりすれば良い。
本発明の複屈折板は、後述の複屈折性を示す透明板であれば使用でき、プラスチックフィルム、無機の結晶板等が使用可能である。
この複屈折板とは、3個の主屈折率をnx、ny、nzとし、nx、nyを複屈折板面内方向の屈折率とし(nx>ny)、nzを複屈折板の厚み方向の屈折率とした場合、nx>nz>nyとなるような複屈折板である。
所望の複屈折効果を得るためにΔn2・d2=(nx-ny)・d2を調整して使用するが、1枚の板では調整できない場合には、同じ複屈折板または異なる複屈折板を複数枚組合せて用いてもよい。
良好な白黒表示を行うためには、ある特定のツイスト角とΔn1・d1を持った液晶層に対し、複屈折板のΔn2・d2の大きさ及びそれらの貼り付け方向、さらに一対の偏光板の偏光軸の方向を最適化することが重要である。
複屈折板のΔn2・d2の大きさは、この複屈折板を液晶層の両面に配置するため、概略液晶層のΔn1・d1の大きさのほぼ半分の値か、それよりも少し小さめに設定すれば良好な白黒表示を得易い。具体的には、約0.1〜0.75μmとされればよい。またこの複屈折板を複数枚重ねて使用する場合には、総合したΔn2・d2の値が上記の範囲になるようにすれば良い。
そして、次に角度依存性を良くするために、nzの調整が必要である。
本発明では、(nz-ny)/(nx-ny)の値を0.1以上にすることが好ましい。これは、この値が0.1未満の場合には、一軸性の複屈折板との効果の差が十分得られにくいためである。
以下図面を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
第1図は本発明による液晶表示素子を模式的に現わした斜視図である。第2図(A)(B)は、夫々上から見た第1図の上側の偏光板の偏光軸方向、複屈折板の主屈折率nxの方向及び液晶層の上側の液晶分子の長軸方向、並びに、下側の偏光板の偏光軸方向、複屈折板の主屈折率nxの方向及び液晶層の下側の液晶分子の長軸方向の相対位置を示した平面図である。
第1図において、1、2は一対の偏光板、3は文字や図形を表示するためのΔn1・d1が0.4〜1.5μmの誘電異方性が正のネマチック液晶によるねじれ角が160〜300°の左らせん(上から見て反時計方向のねじれ)液晶層、4A、4Bはその上下に積層された複屈折板、5は上側の偏光板の偏光軸、6は下側の偏光板の偏光軸、7は液晶層の上側の液晶分子、8は液晶層の下側の液晶分子、9Aは上側の複屈折板の主屈折率nxの方向、9Bは下側の複屈折板の主屈折率nxの方向を示している。
本発明で用いる複屈折板の主屈折率の定義について第3図を参照して説明する。
本発明の複屈折板は、x、y、zの3方向で屈折率が異なっている。このため、複屈折板の面内方向での屈折率の大きい方向をx軸方向とし、屈折率の小さい方向をy軸方向とし、厚み方向をz軸方向とする。この夫々の方向の屈折率をnx、ny、nzとする。この場合、nx>nyであり、Δn2=nx-nyであり、本発明では、nx>nz>nyとされる。なお、dは複屈折板の厚みである。
第2図において、液晶層の上側の液晶分子7の長軸方向からみた上側の偏光板の偏光軸5の方向を時計回りに計ったものをθ1、液晶層の上側の液晶分子7の長軸方向からみた上側の複屈折板の主屈折率nxの方向9Aを時計回りに計ったものをθ2、液晶層の下側の液晶分子8の長軸方向からみた下側の偏光板の偏光軸6の方向を時計回りに計ったものをθ3、液晶層の下側の液晶分子8の長軸方向からみた下側の複屈折板の主屈折率nxの方向9Bを時計回りに計ったものをθ4とする。本発明では、このθ1、θ2、θ3、θ4を白黒表示となるように最適化すればよい。
本発明の液晶表示素子をネガ型表示で使用する場合に、例えば、液晶層のねじれ角を240°程度とし、そのΔn1・d1を0.8μm程度とし、その上下に配置した一対の複屈折板の夫々のΔn2・d2を0.4μm程度とすれば、一対の偏光板の偏光軸をほぼ60〜120°程度の角度で交差するように配置することが好ましい。
また、同じ液晶層と複屈折板とを使用し、ポジ型表示で使用する場合には、一対の偏光板の偏光軸をほぼ±30°程度の角度で交差するように配置することが好ましい。これにより、この液晶表示素子は、視角特性に優れたコントラストの高い白黒表示が可能となる。
この場合、特にネガ表示については、5°≦θ2≦140°、40°≦θ4≦170°とすることにより、オフの透過率が低く、オンの透過率が高い充分なコントラストを持つ表示が実現できるため好ましい。
また、θ1、θ2、θ3、θ4に関しては、θ1<θ2とした場合にはθ3<θ4とすることが好ましく、θ1>θ2とした場合にはθ3>θ4とすることが好ましい。
これにより、この液晶表示素子は、視野角特性に優れたコントラスト比の高い白黒表示が可能となる。
特に、40°≦θ2≦140°でかつ40°≦θ4≦140°とするか、-20°≦θ2≦20°でかつ-20°≦θ4≦20°とすることにより、オフの透過率が低く、充分なコントラスト比が得られるため好ましい。
また、上記例では、液晶層を左らせんとしたが、らせんが逆の場合には、液晶層の液晶分子の長軸方向、偏光板の偏光軸の方向、複屈折板の主屈折率nxの方向との関係θ1、θ2、θ3、θ4を反時計回りにして、同様に選ぶことにより、上記例と同様に容易に白黒表示が得られる。
以上の説明は、液晶表示素子の垂直方向に対して得られた最適化であり、一軸性の複屈折板を用いた場合と同様である。しかし、一軸性の複屈折板で補償した場合には、垂直方向ではうまく補償して高コントラストの白黒素子にできても、斜め方向では補償がずれて色付いたり、白黒が逆転してしまうことがある。
本発明では、nx>nz>nyとすることにより、斜め方向から見た場合の色付を防止し、見栄えを向上させることができる。
このnzは、nxより大きくても、nyより小さくても、角度依存性は低下し、斜め方向から見た場合の見栄えが低下する。特に、(nz-ny)/(nx-ny)≧0.1とすることにより、この効果が大きい。
このような複屈折板としては、2軸延伸フィルムや、雲母、石膏、硝石等の2軸性結晶を用いれば良い。
また、以上の説明では簡単に説明するために、複屈折板の厚み方向の屈折率nzが厚み方向に対して均一であると仮定しているが、必ずしも均一である必要はなく、厚み方向の平均の屈折率が前記した条件を満足していれば良く、厚み方向に対し、nzが不均一でも同様な効果を生じる。
なお、本発明では、白黒表示に近く、視野角の広い表示が得られるため、カラーフィルターを併用してカラフルな表示が可能となる。特に、高デューティ駆動でも、コントラスト比が高く採れるため、フルカラーによる階調表示も可能であり、液晶テレビにも使用できる。
このカラーフィルターは、セル内面に形成することにより、視角によるズレを生じなく、より精密なカラー表示が可能となる。具体的には、電極の下側に形成されてもよいし、電極の上側に形成されてもよい。
また、より色を完全に白黒化する必要がある場合には、色を補正するためのカラーフィルターや、カラー偏光板を併用したり、液晶中に色素を添加したり、あるいは特定の波長分布を有する照明を用いたりしてもよい。
本発明は、このような構成の液晶セルに電極に電圧を印加するための駆動手段を接続し、駆動を行う。
特に、本発明では明るい表示が可能なため、透過型でも反射型でも適用可能であり、その応用範囲が広い。
なお、透過型で使用する場合には裏側に光源を配置する。もちろん、これにも導光体、カラーフィルター等を併用してもよい。
本発明の液晶表示素子は透過型で使用することが多いが、明るいため反射型で使用することも可能である。
透過型で使用する場合、画素以外の背景部分を印刷等による遮光膜で覆うこともできる。また、遮光膜を用いるとともに、表示したくない部分に選択電圧を印加するように、逆の駆動をすることもできる。
本発明は、この外、本発明の効果を損しない範囲内で、通常の液晶表示素子で使用されている種々の技術が適用可能である。
本発明では、時分割特性がスーパーツイスト液晶表示素子と同程度であるうえ、前述したように明るく鮮明な白黒表示が可能なため、赤、緑、青の三原色の微細カラーフィルターをセル内面等に配置することにより、高密度のマルチカラー液晶表示素子とすることも可能である。
本発明の液晶表示素子は、パーソナルコンピューター、ワードプロセッサー、ワークステーション等の表示素子として好適であるが、この外液晶テレビ、魚群探知器、レーダー、オシロスコープ、各種民生用ドットマトリックス表示装置等白黒表示、カラー表示をとわず種々の用途に使用可能である。
[作用]
本発明の動作原理については、必ずしも明らかではないが、およそ次のように推定できる。
まず、液晶表示素子を垂直方向から見た場合について考察する。
第4図(A)は、本発明の液晶表示素子と対比するために複屈折板を使用しないスーパーツイスト液晶表示素子の構成を示す側面から見た模式図であり、ねじれ角が160〜300°で、Δn1・d1が0.4〜1.5μmの正の誘電異方性を有するネマチック液晶による液晶層13、とその上下に配置された一対の偏光板11、12とを示している。この例では上下に配置された一対の偏光板11、12の偏光軸の交差角を90°としている。
このような構成の液晶表示素子の場合、液晶層に電圧が印加されていない状態または非選択電圧のような低い電圧が印加された状態において、入射側の下側の偏光板12を通してほぼ完全に直線偏光化された光が、この液晶層13を透過すると、だ円偏光状態となる。このだ円偏光の形や方向は光の波長により異なり、光を赤緑青の3原色に分けて考えると、第4図(B)のようになる。これらの形も方向も異なっただ円偏光が出射側の上側の偏光板11を通過すると、赤緑青の光によって通過する光の強度が夫々異なり、そのため特定の色に着色して見えることとなる。なお、第4図(B)において15、16は夫々偏光板11、12の偏光軸を示す。
これに対して、本発明では第5図(A)にその側面から見た模式図を示すようになる。第5図(A)は、ねじれ角が160〜300°で、Δn1・d1が0.4〜1.5μmの正の誘電異方性を有するネマチック液晶による液晶層23、その両側に配置された各1枚の2軸性の複屈折板24A、24B、さらにその上下に配置された一対の偏光板21、22とを示している。
この例では、液晶層のねじれ角を240°、Δn1・d1を0.82μmとし、上下に配置された一対の偏光板21、22の偏光軸の交差角を90°としている。なお、この例では説明を簡単にするために本発明の複屈折板を両側に各1枚配置して使用しているが、両側に2枚以上の複屈折板を用いても良い。
この複屈折板は、それ自体を偏光板の間に挟持すると、垂直方向から見た場合、この複屈折板のΔn2・d2の値によって、入射直線偏光を任意のだ円偏光にしたり、円偏光にしたり、あるいは直線偏光に戻したりできる性質がある。そのため、適当なΔn2・d2の複屈折板を液晶層に重ねることにより、第5図(B)のようにすることができる。
即ち、液晶層に電圧が印加されていない状態または非選択電圧のような低い電圧が印加された状態において、入射側の下側の偏光板22を通してほぼ完全に直線偏光化された光が、この下の複屈折板24Bで適当なだ円偏光となる。このだ円偏光が、液晶層23を透過すると、また別のだ円偏光状態となる。このだ円偏光となった光をさらに複屈折板24Aを通過させることにより、条件によってはだ円偏光を再度直線偏光に近い状態に戻せる場合がある。
これは、光を赤緑青の3原色に分けて考えると、第5図(B)のようになる。この例のように、赤緑青の偏光軸の方向がほぼ揃い、かつ、ほぼ直線偏光に戻っている場合、出射側の偏光軸の向きにかかわらず、通過する光強度の波長依存性をなくすことができる。即ち、無彩色化することができることとなる。
この例のように、その偏光軸を90°交差して偏光板を設置して、出射側での偏光が出射側である上側の偏光板の吸収軸と一致している場合には、透過光強度は最も小さくなり、黒く見えることとなる。これにより、ネガ表示となる。なお、第5図(B)において25、26は夫々偏光板21、22の偏光軸を示す。
逆に、上側の偏光板の偏光軸を下側の偏光板の偏光軸とほぼ平行にしてあれば、これらの強度は大きいこととなり白く見えることとなり、ポジ表示となる。
なお、表示のネガ、ポジは、液晶層のねじれ角、そのΔn1・d1、複屈折板のΔn2・d2、それらと偏光板との角度θ1、θ2、θ3、θ4等の構成要件を変えることにより、変わる。
一方、この構成で液晶層に充分な電圧を印加した場合には、液晶層を透過しただ円偏光の形や方向が電圧印加前と異なってくる。
そのため、複屈折板を通過した後のだ円偏光状態も異なり、これによって透過率が変化し、表示が可能になる。
しかし、複屈折板の挿入により、電圧を印加しない状態でうまくだ円偏光の形や方向を揃えられて黒または白の状態ができたとはいえ、かならずしも電圧印加状態で白または黒の状態になるとは限らない。このため、液晶層のツイスト角、Δn1・d1等のパラメータにより、複屈折板のΔn2・d2、その光軸方向、偏光板の偏光軸方向等を実験的に最適化することが好ましい。
このように、液晶表示素子を垂直方向から見た場合には、複屈折板として単に一軸性の複屈折板を使用しても、条件を最適化すれば、良好な白黒表示素子を得ることができる。
しかし、このような白黒表示素子を斜め方向から見た場合には、表示が色付いて見えたり、白黒が逆転して見えたりすることがある。
これは、もともと液晶分子は自体は一軸性であるが、第6図のように液晶セル内ではらせん構造を取っており、さらにマルチプレックス駆動のために、液晶セルに選択電圧や非選択電圧を印加した場合には、中央付近の液晶分子が立ち上がっているため、もはや一軸性の媒体とは見なせなく、疑似的な二軸性の媒体と見なせる。
また、この時、第6図のように、液晶セル中央付近の液晶分子に着目し、この領域における平均的な主屈折率をnLx、nLy、nLz(ここでnLxは中央の液晶分子の基板への投影方向における平均的屈折率、nLyは基板面内にありnLxと直角な方向の平均的屈折率、nLzは厚み方向の平均的屈折率)とすると、この領域では液晶分子が少しらせん構造を取っており、かつ、立ち上がっているので、nLx>nLz>nLyとなっていることが予想される。
このため、このような液晶セルを斜め方向からも補正するためには、同じような特性の複屈折板が好ましく、本発明のnx>nz>nyとなるような複屈折板を使用することが好ましいこととなる。
[実施例]
実施例1、2
第1の基板として、ガラス基板上に設けられたITO透明電極をストライプ状にパターニングし、蒸着法によりSiO2による短絡防止用の絶縁膜を形成し、ポリイミドのオーバーコートをスピンコートし、これをラビングして配向制御膜を形成した基板を作成した。
第2の基板として、ガラス基板上に設けられたITO透明電極を第1の基板と直交するようにストライプ状にパターニングし、SiO2の絶縁膜を形成し、ポリイミドのオーバーコートをし、これを第1の基板のラビング方向と交差角60°となるようにラビングして配向制御膜を形成した基板を作成した。
この2枚の基板の周辺をシール材でシールして、液晶セルを形成し、この液晶セル内に誘電異方性が正のネマチック液晶を注入して240°ねじれの液晶層となるようにし、注入口を封止した。この液晶層ではΔn1・d1は0.82μmであった。
この液晶セルの両面に一枚ずつ第1表に示すような屈折率を持つ種々の複屈折板を貼り付けて視野角の広さを比較した。

この液晶表示素子の液晶分子の長軸方向、偏光板の偏光軸方向及び複屈折板の主屈折率nxの方向との相対的な関係は、θ1=150°、θ2=80°、θ3=115°、θ4=90°とした。
また、評価は、1/200デューティ、1/15バイアスで駆動してオン状態、オフ状態でのコントラスト比で行った。
その結果を第7図〜第11図に示す。第7図〜第11図は、等コントラスト曲線と呼ばれるもので、セルの観察方向を極座標表示し、その角度を(θ、Ψ)と表わした場合、この(θ、Ψ)により、液晶セルのコントラスト比がどのように変化しているかをθを0〜50°で変化させ、Ψを0〜360°変化させて示したものである。なお、Ψは図の主視角方向(下方)を0°とし、反時計回りに0〜360°とし、θは中心を0°とし、同心円状に0〜50°とした。コントラスト比の曲線は1、10、50のみを示した。
第9図、第10図が、本発明による液晶表示素子の実施例であり、第7図、第8図、第11図は比較例である。
本発明では、第1表に示すように、nx>nz>nyとなるような複屈折板を使用しているので、従来の単なる一軸性の複屈折板の場合(nx>ny=nz、比較例2、第8図)より、斜線で示したコントラスト比が1以下、即ち、白黒のコントラストが逆転してしまう領域が非常に小さくなった。また、コントラスト比が高い領域(10以上)も広くなり、視野角が広く高コントラスト比の素子が可能になった。
一方、本発明以外の二軸性複屈折板を用いた場合、即ち、比較例1(nx>ny>nz)及び比較例3(nz>nx>ny)の場合には、夫々第7図及び第11図のように、やはり本発明のものよりも視野角が狭く、かつ、コントラスト比の高い領域も狭いことがわかった。
実施例1、2の液晶表示素子の電極付の基板の一方の基板として、基板上にストライプ状に3色のカラーフィルター層を形成し、その上に電極を形成した電極付基板を用いてセルを構成し、駆動することにより、フルカラーの階調駆動が可能である。
[発明の効果]
以上に説明したように本発明は、従来の2層型スーパーツイスト液晶表示素子または一軸性複屈折板を積層したスーパーツイスト液晶表示素子と比べて、広い視野角及びより優れたコントラスト比を持つ白黒表示が可能となり、鮮明で表示品位の高いポジ型あるいはネガ型の表示が得られる。
また、時分割表示特性や視野角特性も従来のスーパーツイスト液晶表示素子と遜色がない等の優れた効果を有する。
また、表示が白黒に近く、かつ、広視野ということから、カラーフィルターと組み合わせることにより、カラフルな表示が可能となり、特に、赤、緑、青のカラーフィルターを画素ごとに配置することにより、マルチカラーやフルカラーの表示も実現できるという効果も認められより多様性のある応用が開ける。
特に、本発明では白黒表示が可能であるにもかかわらず、明るい表示可能であり、透過型のみならず、反射型の表示も可能であり、その応用範囲が広いものである。
さらに、本発明では、単に複屈折板を配置するのみで、第2の液晶層を設けなくても明るい白黒表示が可能なものであり、液晶表示素子の生産性が極めて高いという利点も有する。
本発明は、本発明の効果を損しない範囲内で今後とも種々の応用が可能なものである。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明による液晶表示素子を模式的に現わした斜視図である。
第2図(A)(B)は、夫々上から見た上側及び下側の液晶分子の長軸方向、偏光板の偏光軸方向及び複屈折板の主屈折率nxの方向の相対位置を示した平面図である。
第3図は、複屈折板の主屈折率の定義を示す斜視図。
第4図(A)(B)は、単なるスーパーツイスト液晶表示素子の構成を示した模式図及びその偏光の状態を説明する平面図。
第5図(A)(B)は、本発明の液晶表示素子の構成を示した模式図及びその偏光の状態を説明する平面図。
第6図は、液晶セルの分子配列を示した図。
第7図〜第11図は、液晶表示素子の等コントラスト曲線を示した図。
1、2、11、12、21、22は偏光板、
3、13、23は液晶層、
4A、4B、24A、24Bは複屈折板、
5、6、15、16、25、26は偏光軸、
7、8は液晶分子の長軸方向、
9A、9Bは複屈折板の主屈折率nxの方向
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(a)訂正事項a
明細書の特許請求の範囲第1項に係る記載の
「(1)ほぼ平行に・・・液晶表示素子。」を、
「(1)ほぼ平行に配置され配向制御膜を有する一対の透明電極付きの基板間に挟持された旋光性物質を含有した誘電異方性が正のネマチック液晶によるねじれ角が160〜300°の液晶層と、この液晶層を挟持する上下の基板の透明電極間に電圧を印加する駆動手段とを有し、この液晶層の外側に一対の偏光板を設置し、液晶層の両外側であって一対の偏光板の内側に一対の複屈折板を配置した液晶表示素子において、液晶層での液晶の屈折率異方性Δn1と液晶層の厚みd1との積Δn1・d1が0.4〜1.5μmとされ、各複屈折板(一軸延伸フィルムを除く)が3方向で屈折率が異なる複屈折板であって、3個の主屈折率をnx、ny、nzとし、nx、nyを複屈折板面内方向の屈折率とし(nx>ny)、nzを複屈折板の厚み方向の屈折率とした場合、nx>nz>nyであることを特徴とする液晶表示素子。」
に訂正する。
(b)訂正事項b
明細書の6頁10行に係る記載の「複屈折板が3方向で」を「複屈折板(一軸延伸フィルムを除く)が3方向で」に訂正する。
異議決定日 1999-08-25 
出願番号 特願平1-73952
審決分類 P 1 651・ 531- YA (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮本 昭彦  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 青山 待子
吉田 禎治
東森 秀朋
稲積 義登
登録日 1998-05-01 
登録番号 特許第2775823号(P2775823)
権利者 オプトレックス株式会社
発明の名称 液晶表示素子  
代理人 角田 衛  
代理人 角田 衛  

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