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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01F
管理番号 1055004
異議申立番号 異議2001-70008  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-07-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-01-10 
確定日 2001-12-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3060104号「ラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石及びその製造方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3060104号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3060104号に係る手続きの主な経緯は次のとおりである。
特許出願(特願平9-351585号) 平成 9年12月19日
特許権設定登録 平成12年 4月28日
特許異議申立 平成13年 1月10日
取消理由通知(1) 平成13年 5月22日
意見書・訂正請求書(1) 平成13年 7月31日
取消理由通知(2) 平成13年10月23日
訂正請求書(1)の取下書 平成13年11月 6日
訂正請求書(2) 平成13年11月 6日

2.訂正の適否についての判断
2.1 訂正の内容
2.1.1 訂正事項a
特許請求の範囲請求項1及び請求項2を削除する。

2.1.2 訂正事項b
特許請求の範囲請求項3
「【請求項3】異方性磁石粉末と熱硬化性樹脂とからなるコンパウンドを放射状の配向磁場中で該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形して所定形状のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石を製造する方法において、
配向磁場装置を具備する予備成形装置の予備成形型内で前記コンパウンドを加熱して該熱硬化性樹脂を溶融状態とするとともに放射状の配向磁場を作用させて該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形することにより、複数の配向予備成形体を同時に成形する配向工程と、
配向工程で得られた各該配向予備成形体を該予備成形装置から本成形装置の本成形型内にそれぞれ移送して積層する移送工程と、
該本成形型内で半溶融半硬化状態の各該配向予備成形体を加熱するとともに圧縮成形することにより、該熱硬化性樹脂を硬化状態とするとともに各該配向予備成形体を圧密化しつつ一体化して所定形状の磁気異方性樹脂結合型磁石とする本成形工程と、
からなることを特徴とするラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法。」を
「【請求項1】異方性磁石粉末と熱硬化性樹脂とからなるコンパウンドを放射状の配向磁場中で該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形してラジアル配向し、かつ、内径:d、外径:D、高さ:hとしたとき、
FR値=2Dh/d2 ・・・(1)
上記(1)で示されるラジアルファクター値(FR値)が1.0を越えるリング形状を有する磁気異方性樹脂結合型磁石を製造する方法において、
配向磁場装置を具備する予備成形装置の予備成形型内で前記コンパウンドを加熱して該熱硬化性樹脂を溶融状態とするとともに放射状の配向磁場を作用させて該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形することにより、複数の配向予備成形体を同時に成形する配向工程と、
配向工程で得られた各該配向予備成形体を該予備成形装置から本成形装置の本成形型内にそれぞれ移送して積層する移送工程と、
該本成形型内で半溶融半硬化状態の各該配向予備成形体を加熱するとともに圧縮成形することにより、該熱硬化性樹脂を硬化状態とするとともに各該配向予備成形体を圧密化しつつ一体化して所定形状の磁気異方性樹脂結合型磁石とする本成形工程と、
からなることを特徴とするラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法。」と訂正する。

2.1.3 訂正事項c
発明の名称「ラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石及びその製造方法」を「ラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法」と訂正する。

2.1.4 訂正事項d
明細書段落番号【0001】中の「本発明は、ラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石及びその製造方法に関する。」を「本発明は、ラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法に関する。」と訂正する。

2.1.5 訂正事項e
明細書段落番号【0013】中の「(イ)上記第1の課題を解決する請求項1記載のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、」を「(イ)上記第1の課題を解決するラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、」と訂正する。

2.1.6 訂正事項f
明細書段落番号【0014】中の「(ロ)上記第2の課題を解決する請求項2記載のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、請求項1記載のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石において、」を「(ロ)上記第2の課題を解決するラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、前記(イ)記載のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石において、」と訂正する。

2.1.7 訂正事項g
明細書段落番号【0015】中の「(ハ)上記第3の課題を解決する請求項3記載のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法は、」を「(ハ)上記第3の課題を解決する請求項1記載のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法は、」と訂正する。

2.1.8 訂正事項h
明細書段落番号【0028】中の「請求項3に記載された本発明に係るラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法により製造することができる。」を「請求項1に記載された本発明に係るラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法により製造することができる。」と訂正する。

2.2 訂正の目的の適否,新規事項の有無及び拡張・変更の存否
2.2.1 訂正事項a
上記訂正事項aは、請求項1及び請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮に相当する。

2.2.2 訂正事項b
上記訂正事項bは、訂正前の請求項3における「所定形状のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石」の所定形状を具体的に限定すると共に請求項1及び請求項2の削除に伴って項番を1に繰り上げたものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明に相当する。
そして、「内径:d、外径:D、高さ:hとしたとき、FR値=2Dh/d2・・・(1) 上記(1)で示されるラジアルファクター値(FR値)が1.0を越えるリング形状を有する磁気異方性樹脂結合型磁石」の記載は、訂正前の請求項1の記載から明らかである。
したがって、上記訂正事項bは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2.2.3 訂正事項c〜h
上記訂正事項c〜hは、特許請求の範囲の訂正に伴って、発明の名称又は発明の詳細な説明を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に相当する。
また、上記訂正事項c〜hは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2.3 訂正の適否のむすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立及び取消理由通知についての判断
3.1 特許異議申立の理由の概要及び取消理由通知の内容
3.1.1 特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人日立金属株式会社は、
1.刊行物1(甲第1号証):特開平3-235311号公報
2.刊行物2(甲第2号証):特開平8-167513号公報
3.刊行物3(甲第3号証):日本応用磁気学会誌、Vol.20,No.2,1996,P217-220
4.刊行物4(甲第4号証):新日鉄技報、第349号,1993,P51-55
5.刊行物5(甲第5号証):特開平8-31677号公報
6.刊行物6(甲第6号証):特開平9-205013号公報
7.刊行物7(参考資料1):JIS工業用語大辞典(第4版)1995年11月20日(財)日本規格協会発行 P1049
8.刊行物8(参考資料2):IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS,VOL.31,NO.6 NOVEMBER 1995 P3632-3633
を提出し、本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1〜6号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許を取り消すべきであると主張している。

3.1.2 取消理由通知の内容
取消理由通知の内容は、次のとおりのものである。
「1)本件特許の請求項1〜3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2)本件出願は、明細書及び図面の記載が下記Bの点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。

したがって、本件請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第113条第1項第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである。


1.刊行物1(甲第1号証):特開平3-235311号公報
2.刊行物2(甲第2号証):特開平8-167513号公報
3.刊行物3(甲第3号証):日本応用磁気学会誌、Vol.20,No.2,1996,P217-220
4.刊行物4(甲第4号証):新日鉄技報、第349号,1993,P51-55
5.刊行物5(甲第5号証):特開平8-31677号公報
6.刊行物6(甲第6号証):特開平9-205013号公報

A.第29条第2項について
刊行物1〜6には、特許異議申立人が提出した特許異議申立書の「(5)証拠の説明」記載の発明が記載されている。

(A-1)容易性の理由1
特許異議申立書の「(6)本件請求項1、(D)配向度の補足説明」及び「(7)本件特許発明と証拠との対比」記載の理由により、本件請求項1〜3に係る発明は、刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(A-2)容易性の理由2
刊行物1〜6の記載からも明らかなように、一般的に、ラジアルファクター値、相対密度、配向度及び同軸度が高い方が良いことは当然のことである。
また、ラジアルファクター値を1.0以上、相対密度を90%以上、配向度を80%以上及び同軸度を0.03mm以下としたことに格別の臨界的意義は見い出せない。
したがって、請求項1,2に係る発明は、製造方法が具体的に記載されていないので、単に高性能のものが良いという程度の意味しか認められず、請求項1,2に係る発明の構成は、刊行物1〜6に記載された発明から当業者であれば容易に考え得るものに過ぎない。

B.第36条について
(B-1)実施可能要件違反
以下の点において、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
(1)請求項1、2に係る発明は「異方性磁石粉末と熱硬化性樹脂とからなるコンパウンドを放射状の配向磁場中で該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形して得られるラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石であって、特定の性能(ラジアルファクター値:1.0以上、相対密度:90%以上、配向度:80%以上及び同軸度:0.03mm以下)を有する磁気異方性樹脂結合型磁石」である。
しかし、請求項1、2に係る発明に含まれる「異方性磁石粉末と熱硬化性樹脂とからなるコンパウンドを放射状の配向磁場中で該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形した」だけで特定の性能を有する磁気異方性樹脂結合型磁石については、実施例が無い。
通常、「異方性磁石粉末と熱硬化性樹脂とからなるコンパウンドを放射状の配向磁場中で該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形した」だけでは特定の性能を有する磁気異方性樹脂結合型磁石を製造することは困難と認められるが、その実施可能性が担保されていない。
(当審では、請求項3のような製造方法に限定しないと実施可能性は無いと判断している。)
(2)実施例(表1)には、ラジアルファクター値(請求項(以下同様):1.0以上)1.15〜2.35、相対密度(90%以上)93〜94、配向度(80%以上)80〜81及び同軸度(0.03mm以下)0.02〜0.03のものしかない。通常、これ以外の範囲、特に実施例より高い値を有する特性の磁石を製造することは困難と認められるが、その実施可能性が担保されていない。
(当審では、実施例の数値範囲に限定しないと実施可能性は無いと判断している。)

(B-2)数値限定の根拠・意義が不明
以下の点において、数値限定の根拠・意義が不明であり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載では、請求項1,2に係る発明の技術上の意義を理解することができない。(特許法施行規則第24条の2も参照)
(1)実施例には、ラジアルファクター値(請求項(以下同様):1.0以上)1.15〜2.35、相対密度(90%以上)93〜94、配向度(80%以上)80〜81及び同軸度(0.03mm以下)0.02〜0.03のものしかない。請求項1に係る発明のラジアルファクター値と相対密度の数値限定は、実施例の下限値とも異なり、数値限定の根拠が不明である。
(2)表2の第2の比較例は接着剤を使った従来例であるにも関わらず、ラジアルファクター値、相対密度、配向度全て請求項1に係る発明の数値限定をクリアーしている。即ち、請求項1に係る発明の数値限定は、従来例をも含んであり、数値限定の意義が不明である。」

3.2 特許法第29条第2項について
3.2.1 本件発明
上記2.で示したように上記訂正は認められるので、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】異方性磁石粉末と熱硬化性樹脂とからなるコンパウンドを放射状の配向磁場中で該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形してラジアル配向し、かつ、内径:d、外径:D、高さ:hとしたとき、
FR値=2Dh/d2 ・・・(1)
上記(1)で示されるラジアルファクター値(FR値)が1.0を越えるリング形状を有する磁気異方性樹脂結合型磁石を製造する方法において、
配向磁場装置を具備する予備成形装置の予備成形型内で前記コンパウンドを加熱して該熱硬化性樹脂を溶融状態とするとともに放射状の配向磁場を作用させて該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形することにより、複数の配向予備成形体を同時に成形する配向工程と、
配向工程で得られた各該配向予備成形体を該予備成形装置から本成形装置の本成形型内にそれぞれ移送して積層する移送工程と、
該本成形型内で半溶融半硬化状態の各該配向予備成形体を加熱するとともに圧縮成形することにより、該熱硬化性樹脂を硬化状態とするとともに各該配向予備成形体を圧密化しつつ一体化して所定形状の磁気異方性樹脂結合型磁石とする本成形工程と、
からなることを特徴とするラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法。」

3.2.2 取消理由通知で引用した刊行物に記載された発明
3.2.2.1 刊行物1(甲第1号証):特開平3-235311号公報
刊行物1は、磁気異方性プラスチックマグネットの製造方法に関するものであり、第1図と共に以下の点が記載されている。
「金型内で反発磁界を利用して磁場強度4kOe(エルステッド)を得た。
磁気異方性Nd-Fe-B磁性粉と、バインダーとして熱硬化性樹脂とを混練してコンパウンドを作製した。
次に、得られたコンパウンドを前記金型のダイスとコアで形成する間隙の間に充填した。コンパウンド充填後、予備成形温度が室温、予備成形圧力が3000kg/cm2の条件下で予備成形を行い、円筒形状の予備成形体を得た。
しかして作製した予備成形体2個を円筒形状に積層して150℃に加熱した本成形金型内に挿入し、本成形を行った。・・・
このようにして、外径が19mmφ、内径が17mmφ、高さが18.6mmの長い磁気異方性プラスチックマグネットを作製した。」(第2頁右下欄第12行〜第3頁左上欄第9行)

3.2.2.2 刊行物2(甲第2号証):特開平8-167513号公報
刊行物2は、ボンド型永久磁石とその製造方法に関するものであり、以下の点が記載されている。
「【0021】溶融した樹脂の流れ易さ(溶融粘度)は温度に大きく依存し、圧縮成形中の樹脂の流れ易さが、圧縮成形されたボンド型磁石における磁石粉末の充填率、磁石粉末の配向性や損傷の程度に大きく影響する。従って、圧縮成形時の樹脂の流れにより生ずる潤滑性の差が、圧縮成形されたボンド型磁石の磁気特性、機械的強度、耐熱性、耐食性(耐酸化性)、寸法精度、密度に大きな影響を及ぼす。つまり、圧縮成形時に磁石粉末が流動し易いほど、圧縮成形中の磁石粉末相互間の摩擦が低減し、充填率と配向性が向上して、磁石粉末の損傷が抑えられる結果、上記の各種特性が向上するのである。そして、この温間磁場中プレスによる上記効果は、特に磁気異方性を示すR-Fe-B系(即ち、希土類・鉄系)磁石粉末の場合に顕著である。」
「【0046】プレス成形
上で得た原料粉末を金型に充填した後、熱媒油により金型を表1に示す所定の樹脂温度になるまで加熱し、10kOeの垂直磁場(横磁場)の印加下に圧力6ton/cm2で圧縮成形した。脱型後、成形体をArガス中で150℃に60分間加熱してエポキシ樹脂を硬化させ、ボンド型磁石サンプルを得た。各実施例について、長さ100 mm、幅10mm、厚さ5mmの短冊形状と10mm立方の立方形状の2種類のボンド型磁石サンプルをそれぞれ複数個作製した。」

3.2.2.3 刊行物3(甲第3号証):日本応用磁気学会誌、Vol.20,No.2,1996,P217-220
刊行物3は、Nd-Fe-B系異方性ボンド磁石の圧縮成形技術開発に関するものであり、以下の点が記載されている。
「これらのコンパウンドを室温〜100℃に加熱し圧力6ton/cm2,配向磁場12kOeでプレス成形した。配向磁場はプレス方向と垂直な方向に印加した。得られたプレス成形体をAr中で80〜150℃にて1時間加熱することによりバインダーを硬化し,その後着磁して異方性ボンド磁石を得た。」(第217頁右欄第11行〜第16行)

3.2.2.4 刊行物4(甲第4号証):新日鉄技報、第349号,1993,P51-55
刊行物4は、Nd-Fe-B異方性ボンド磁石の開発に関するものであり、以下の点が記載されている。
「金型へ入れたコンパウンドに磁場を印加し,磁石粉末の個々の粒子の磁化容易軸方向を磁場方向に揃え,プレス成形する。プレス圧は4〜8tf/cm2である。成形体に100〜120℃で硬化処理をしてボンド磁石は出来上がりである。」(第52頁左欄第12行〜第15行)
「磁石強度と金型寸法の関係を表すのにラジアルファクターFrを導入すると便利である。コア径をa,ダイの内壁の径をb,ダイの高さをhとするとFr=2bh/a2で表される。」(第54頁右欄第12行〜第17行)

3.2.2.5 刊行物5(甲第5号証):特開平8-31677号公報
刊行物は、磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法および磁気異方性樹脂結合型磁石に関するものであり、以下の点が図1と共に記載されている。
「【0025】本発明は、かかる知見にもとづいて完成されたものであって、本発明の圧縮成形法による樹脂結合型磁石の製造方法は、図1に示す原理図により磁気異方性を有する磁石粉末と熱硬化性樹脂粉末とを主成分とする原料粉末を、加熱および磁界を制御できる成形用金型に充填して、熱硬化性樹脂粉末が加熱により溶融して液体状になったときから磁界を印加して磁石粉末を配向させ、次いで加圧による圧縮成形を行うことを特徴としている。」
「【0035】・・・縦磁場成形は、リング状の成形体であってラジアル方向に配向する場合や円柱状の成形体で軸方向への配向する場合に有効である。・・・」
「【0049】成形体の硬化処理は、磁界を印加しながら加圧による圧縮成形に引き続いて加熱を維持して行う。この場合には、連続的な生産方式を採用でき、最終製品の寸法を制御できる。また、圧縮成形後に金型から取り出して、新たに加熱炉で加熱してもよい。」
「【0065】150℃に昇温して保持している成形用金型に原料粉末を給粉した。熱硬化性樹脂粉末(A)が溶融して液体状になり樹脂の粘度が低下した時点から16kOeの磁界の印可を開始した。次に、150℃の加熱において最低粘度が得られる加熱時間の経過後(給粉開始から60秒経過後)、加圧を開始した。加圧力は8.0ton/cm2である。こうして加熱温度150℃に維持しながら磁界を印可と加圧成形を同時に行ない、液体状樹脂の架橋反応が進み粘度が増加したときに磁界の印可を終了する。その後、加熱および加圧を終了して成形用金型から樹脂結合型磁石を取り出す。この樹脂結合型磁石の硬化処理は150℃にて30分間保持して行なった。本実施例および次の比較例1〜2で成形して作製した樹脂結合型磁石の形状と寸法は10×10×7mmの直方体である。なお、以下の実施例および比較例においても樹脂結合型磁石の形状と寸法は10×10×7mmの直方体である。」

3.2.2.6 刊行物6(甲第6号証):特開平9-205013号公報
刊行物は、防錆被覆層を有するボンド磁石とその防錆被覆処理方法に関するものであり、以下の点が記載されている。
「【0009】【実施例】次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
実施例1
85at%Fe-10at%Nd-5at%B系合金の溶湯を超急冷法によって製造した平均粒径100μmのFe-Nd-B非晶質合金の磁石粉末に、バインダー成分としてエポキシ樹脂を2.5重量%を添加して混練したものを、金型内に装入し7.5t/cm2の圧力で圧縮成形を施し、外径6.0mm×内径5.0mm×長さ10.0mmの円筒状ボンド磁石を得た(図2、ステップ1;S1、以下同じ)。この磁石を約150℃で約60分間加熱処理し前記エポキシ樹脂成分を硬化させた(図2,S2)。・・・」

3.2.3 本件発明と刊行物記載の発明との対比・判断
刊行物1〜6には、本件発明の構成要件である「複数の配向予備成形体を同時に成形」し、「各該配向予備成形体を予備成形装置から本成形装置の本成形型内にそれぞれ移送して積層」し、「本成形型内で半溶融半硬化状態の各該配向予備成形体を加熱するとともに圧縮成形すること」が、記載されていないし、示唆もない。
また、本件発明は、上記構成により「高い磁気特性を維持するとともに、高い同軸度及び高い寸法精度を維持しつつ、高さアップを図ったラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石を生産性高く提供することが可能となる」という特許明細書記載の効果を奏する。
なお、刊行物1記載の発明は、配向磁場を作用させながら室温で加圧成形して得た予備成形体2個を円筒形状に積層して加熱した本成形金型内に挿入し、本成形を行ったものであり、本件発明のように半溶融半硬化状態の複数の配向予備成形体を積層して本成形していない。また、刊行物2〜6記載の発明は、一層のみのものであって、本件発明のように複数の配向予備成形体を積層して本成形するものではない。
したがって、本件発明が、上記刊行物1〜6記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3.3 特許法第36条について
取消理由通知における特許法第36条については、訂正前の請求項1、2に係る発明についてなされたものであるが、上記訂正により削除されたので、全て解消された。

3.4 特許異議申立及び取消理由通知についての判断のむすび
以上のとおりであるから、特許異議申立及び取消理由通知の理由によっては本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】異方性磁石粉末と熱硬化性樹脂とからなるコンパウンドを放射状の配向磁場中で該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形してラジアル配向し、かつ、内径:d、外径:D、高さ:hとしたとき、
FR値=2Dh/d2 …(1)
上記(1)で示されるラジアルファクター値(FR値)が1.0を越えるリング形状を有する磁気異方性樹脂結合型磁石を製造する方法において、
配向磁場装置を具備する予備成形装置の予備成形型内で前記コンパウンドを加熱して該熱硬化性樹脂を溶融状態とするとともに放射状の配向磁場を作用させて該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形することにより、複数の配向予備成形体を同時に成形する配向工程と、
配向工程で得られた各該配向予備成形体を該予備成形装置から本成形装置の本成形型内にそれぞれ移送して積層する移送工程と、
該本成形型内で半溶融半硬化状態の各該配向予備成形体を加熱するとともに圧縮成形することにより、該熱硬化性樹脂を硬化状態とするとともに各該配向予備成形体を圧密化しつつ一体化して所定形状の磁気異方性樹脂結合型磁石とする本成形工程と、
からなることを特徴とするラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法に関する。本発明に係る磁気異方性樹脂結合型磁石は、例えば、ステップモータ(パルスモータ)、直流モータやリニアモータ等のアクチュエータについて、高性能化、高パワー化(高トルク化)や小型化を図る際に好適に利用することが可能である。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子デバイスの小型化が進み、磁石の磁気特性に対する要求が益々高まってきている。磁石の磁気特性を高めるためには、磁石粉末を配向させて磁気的に異方化することが有効である。
磁石粉末を磁気的に異方化する方法の一つとして、極異方配向法があり、従来より焼結フェライト磁石の分野で多用されている。この方法は、成形型に電磁コイル等の磁界発生手段を埋設し、該磁界発生手段により成形領域に配向磁場を発生させて圧縮成形するものである。この方法をリング形状の磁石に適用すれば、磁石粉末の配向方向と着磁方向とが一致するため、高い磁気特性が得られるという利点がある。
【0003】
しかし、上記極異方配向法では、配向の効率を上げるべく電磁コイルを磁性粉末にできるだけ接近させる必要があることから、その分、成形型として耐えうる面圧が低下することになる。この場合、焼結フェライト磁石の成形に要する圧力はせいぜい1ton/cm2程度であり、それほど問題になることはない。しかし、磁気異方性樹脂結合型磁石(異方性ボンド磁石)の製造においては、成形圧力として5〜10ton/cm2程度が必要となり、この極異方配向法の利用は、実質的に不可能となっていた。
【0004】
そのため、従来、リング形状の磁気異方性樹脂結合型磁石の圧縮成形を行う場合、プレスの上・下ラムに電磁石を取り付け、対向する磁力線の反発により放射状の配向磁場(以下、放射状の配向磁場のことを、適宜、ラジアル磁場と称する。)を形成し、このラジアル磁場中で磁石粉末をラジアル配向させて圧縮成形する、いわゆるラジアル配向法のみが用いられていた。
【0005】
ところで、上記ラジアル配向法において、磁石の磁気特性を効率的に高めるためには、ラジアル磁場の大きさをできるだけ大きくすることが重要となるが、このラジアル磁場の大きさは成形しようとする磁石のリング形状に依存する。すなわち、磁石の性能(磁気特性)は磁石の形状因子に左右される。
ここに、磁石の形状因子として、ラジアルファクター値(FR値)が提唱されている。これは、内径:d、外径:D、高さ:hのリング形状を有する磁気異方性樹脂結合型磁石を考えた場合、FR値=2Dh/d2で与えられる(リングの内周が囲む面積、すなわちリングの中心孔の断面積をS、リングの外周側面積をAとすれば、FR値=A/2Sで与えられる。)。そして、FR値<1のとき(内径に対して高さが比較的低いとき)は、磁束密度の確保により大きなラジアル磁場を発生させることができるので、磁石粉末は十分にラジアル配向して、十分に高い磁気特性を有するリング形状の異方性樹脂結合型磁石とすることができる。一方、1<FR値<2のとき(内径に対して高さが比較的高いとき)は、磁束密度の確保が不十分となり十分に大きなラジアル磁場を発生させることができないので、磁石粉末のラジアル配向が不十分となり、十分に高い磁気特性を有するリング形状の磁気異方性樹脂結合型磁石とすることができない。また、FR値>2となれば(内径に対して高さがきわめて高いとき)、もはや磁石粉末をラジアル配向させることができない。
【0006】
このように、リング形状のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石においては、内径(外径)と高さとの寸法比に制約があり、外内周差が1mm程度の通常のリング形状磁石では、外径の約2/5以下の高さまでしかラジアル配向させることができない(参照:プラスチックエージ 1988,8月号、下田達也著)。
【0007】
そこで、リング形状のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型樹脂において、磁石粉末を十分にラジアル配向させて良好な磁気特性を維持しつつ、外径に対して高さを高くすべく、以下に示す種々の方策が従来より考えられたり、採用されたりしている。
(a)第1の方策は、FR値<1のリング形状を有し、したがって磁石粉末が十分にラジアル配向して十分に高い磁気特性を有する複数個の磁気異方性樹脂結合型磁石をそれぞれ製造した後、これらを高さ方向に重ねて接着剤等で接合することにより、高さアップを図るものである。
(b)第2の方策として、特開平2-18905号公報には、異方性磁石粉末と樹脂結合剤とからなるコンパウンドを成形型内に複数回に分けて供給し、コンパウンドの供給とラジアル磁場における圧縮成形とを繰り返すことにより、高さを段々と高くする技術が開示されている。この公報に開示された実施例では、30〜40℃に加熱されたコンパウンドを圧力:3ton/cm2、配向磁場:約12kOeの条件でそれぞれ圧縮成形し、これにより最大エネルギー積(BH)maxが12.8MGOeの磁気異方性樹脂結合型磁石を得ることができるとされている。なお、この磁石のFR値は1.7程度である。
(c)第3の方策として、特開平3-235311号公報には、異方性磁石粉末と熱硬化性樹脂とからなるコンパウンドを加熱することなくラジアル磁場中で予備圧縮成形し、得られた予備成形体を本成形型内で複数個積層した状態でラジアル磁場を加えることなく予備成形圧力とほぼ同等の圧力で本圧縮成形して、高さアップを図る技術が開示されている。この公報に開示された実施例では、温度:室温、圧力:3ton/cm2、配向磁場:4kOeの条件で予備圧縮成形するとともに、温度:150℃、圧力:4ton/cm2の条件で本圧縮成形し、これにより最大エネルギー積(BH)maxが17MGOeの磁気異方性樹脂結合型磁石を得ることができるとされている。なお、この磁石のFR値は2.4程度である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記第1〜第3の方策には以下に示すそれぞれの欠点があり、いずれによっても十分に満足できる結果を得ることができない。
(a)第1の方策では、1個の磁気異方性樹脂結合型磁石を製造するのに要する労力に対して積層する個数倍の労力が必要であることに加えて、各磁石を接着剤等で接合する労力も必要であるため、製造工程が複雑であり生産性がきわめて低いものとなる。
【0009】
また、接着時の接着ムラ等により高さのバラツキが生じやすく、高い寸法精度を得ることが困難となる。
さらに、モータ等の回転体に磁石を適用する場合に不可欠となる同軸度の確保が困難となり、所定の同軸度を得るには別途後加工を施す必要がある。
(b)第2の方策では、ラジアル磁場中での圧縮成形のみによって最終成形体を得ていることから、金型上の制約を受け、成形圧力を高くして成形体を高密度化することが困難であるという問題がある。すなわち、成形領域で高い磁場を発生させるためには、柔らかい軟磁性材料、非磁性材料を金型に使用しなければならない。これらの材料は高圧力に耐え難いため、成形体を高密度化することが困難となり、ひいては高い磁気特性を得ることが困難となる。
【0010】
また、金型内で前以て成形されて残っている素形体は弾性体として振る舞うため、高さ方向で密度ムラを生じやすく、磁気特性のムラが発生しやすいという問題もある。すなわち、上記素形体上に新たに供給されたコンパウンドに印加される圧力は、素形体がその一部を吸収するため、多段階数が進むにすれて実行値が低下していく。このため、後の段階で成形される上の部分ほど密度が低下し、成形体全体としてみれば、密度ムラが発生する。したがって、一度のコンパウンドの供給及び圧縮成形により得られたものと比較して、磁気特性のムラが大きくなるとともに、密度ムラの生じている界面では機械的強度が他の部分より低下し易くなる。
【0011】
さらに、同一装置内で全く同様な操作を繰り返すため、生産性が著しく低くなる。
(c)第3の方策は、予備圧縮成形でコンパウンドを加熱することなくラジアル磁場を加えることにより、磁石粉末をラジアル配向させて磁石としての性能(磁気特性)を確保するものである。このように、コンパウンド中の熱硬化性樹脂が加熱溶融されていない状態でラジアル磁場を加えたとしても、磁石粉末自身の回転、移動等の動きが熱硬化性樹脂により妨げられ易いため、磁石粉末を十分にラジアル配向させることが困難である。このため、高い磁気特性を得ることが困難となる。しかも、上記特開平3-235311号公報に開示された実施例では、予備圧縮成形中に配向磁場:4kOeの磁界強さでラジアル磁場を加え、また4ton/cm2の圧力で本圧縮成形すると記載されているが、高保磁力を有する希土類磁石粉末がこのように弱い磁界強さで十分に配向するとは考えられず、またこのように低い圧力では高密度化することが困難である。したがって、現在、安定的に製造し得る磁石粉末を使用した場合に、当該公報に開示された実施例によっては、最大エネルギー積(BH)maxが15MGOe程度以上の高い磁気特性を有する磁気異方性樹脂結合型磁石を得ることができないと考えられる。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みて、以下の技術的課題を解決すべくなされたものである。
(イ)本発明の第1の課題は、磁石粉末の高配向化及び高密度化を維持することにより高い磁気特性を維持しつつ、高さアップを図ったラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石を提供することにある。
(ロ)本発明の第2の課題は、磁石粉末の高配向化及び高密度化を維持することにより高い磁気特性を維持するとともに、高い同軸度を維持しつつ、高さアップを図ったラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石を提供することにある。
(ハ)本発明の第3の課題は、磁石粉末の高配向化及び高密度化を維持することにより高い磁気特性を維持するとともに、高い同軸度及び高い寸法精度を維持しつつ、高さアップを図ったラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石を生産性高く提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、異方性磁石粉末と熱硬化性樹脂とからなるコンパウンド中での異方性磁石粉末の配向について検討と試作を繰り返した結果、コンパウンド中の熱硬化性樹脂が加熱されて溶融状態になったときに磁場を作用し圧縮成形することにより異方性磁石粉末が容易に高配向すること、および磁場の作用を切っても異方性磁石粉末の高配向が維持されることを発見、確認し、かかる発見に基づいて完成した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法の発明について、先に出願した(特願平8-175217号。)。本発明は、この先の出願に係る発明を改良することにより完成されたものである。
(イ)上記第1の課題を解決するラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、異方性磁石粉末と熱硬化性樹脂とからなるコンパウンドを放射状の配向磁場中で該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形して得られるラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石であって、
内径:d、外径:D、高さ:hとしたとき、
FR値=2Dh/d2 …(1)
上記(1)で示されるラジアルファクター値(FR値)が1.0を越えるリング形状を有し、
磁石の密度:ρM、異方性磁石粉末の密度:ρP、熱硬化性樹脂の密度:ρR、磁石の体積:VM、異方性磁石粉末の体積:VP、熱硬化性樹脂の体積:VRとしたとき、
相対密度=ρM/(ρP・VP/VM+ρR・VR/VM) …(2)
上記(2)式で示される相対密度が90%以上で、
Br:残留磁束密度、Is:飽和磁化としたとき、
配向度:Br/4πIs …(3)
上記(3)式で示される異方性磁石粉末の配向度が80%以上であることを特徴とする。
【0014】
このラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、磁石粉末の配向度が80%以上と高く、かつ、相対密度が90%以上と高いため、きわめて高い磁気特性を発揮する。そして、このように高い磁気特性を維持しつつ、ラジアルファクター値(FR値)が1.0を越えるように高さアップが図られているため、この磁気異方性樹脂結合型磁石をステップモータ(パルスモータ)、直流モータやリニアモータ等のアクチュエータに適用すれば、アクチュエータの高性能化、高パワー化(高トルク化)や小型化を効果的に達成することが可能となる。
(ロ)上記第2の課題を解決するラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、前記(イ)記載のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石において、0.03mm以下の高い同軸度を有することを特徴とする。
【0015】
このラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、同軸度が0.03mm以下と高いため、上記したモータ等の回転体に好適に利用することができる。
(ハ)上記第3の課題を解決する請求項1記載のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法は、異方性磁石粉末と熱硬化性樹脂とからなるコンパウンドを放射状の配向磁場中で該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形して所定形状のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石を製造する方法において、配向磁場装置を具備する予備成形装置の予備成形型内で前記コンパウンドを加熱して該熱硬化性樹脂を溶融状態とするとともに放射状の配向磁場を作用させて該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形することにより、複数の配向予備成形体を同時に成形する配向工程と、配向工程で得られた各該配向予備成形体を該予備成形装置から本成形装置の本成形型内にそれぞれ移送して積層する移送工程と、該本成形型内で半溶融半硬化状態の各該配向予備成形体を加熱するとともに圧縮成形することにより、該熱硬化性樹脂を硬化状態とするとともに各該配向予備成形体を圧密化しつつ一体化して所定形状の磁気異方性樹脂結合型磁石とする本成形工程と、からなることを特徴とする。
【0016】
この磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法では、その配向工程において、コンパウンドを構成する熱硬化性樹脂が溶融状態となりコンパウンドが最も低粘性となった状態でラジアル磁場を作用させる。このため、コンパウンドの他の構成成分である異方性磁石粉末は、溶融した熱硬化性樹脂の流動体としての性質に助けられてコンパウンド中で容易に回転、移動等して磁場方向に均一に配向する。そして、このように異方性磁石粉末がラジアル配向した状態で、型内で圧縮成形することにより、異方性磁石粉末のラジアル配向を維持しつつ、次工程での搬送のために必要な強度を付与された所定寸法の配向予備成形体が得られる。
【0017】
その後の移送工程では、得られた配向予備成形体の複数個が予備成形装置から本成形装置の本成形型内に移送されて積層される。ここに、溶融状態とされた熱硬化性樹脂が熱により硬化するためには所定の時間を必要とし、熱硬化性樹脂が硬化する前に各配向予備成形体は予備成形型内から本成形型内に移送される。この配向予備成形体は異方性磁石粉末がラジアル配向してチェーン状の連鎖を形成しており、連鎖を形成している異方性磁石粉末の周囲には半溶融半硬化状態の樹脂及び微細空間が存在している。
【0018】
その後の本成形工程では、本成形型内で半溶融半硬化状態の各配向予備成形体が加熱されるとともに再び圧縮成形される。これにより、未だ完全には硬化していない熱硬化性樹脂が異方性磁石粉末間の狭い間隙に浸透しつつ上記微細空間が押し潰されて各配向予備成形体が圧密化されるとともに、該熱硬化性樹脂の硬化反応の進行に伴って各配向予備成形体同士はその界面がほぼ消失して一体化され、高寸法精度で高ラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石となる。また、本成形型内で配向予備成形体を積層するとともに積層された各配向予備成形体を圧縮成形により一体的に接合するため、得られる磁気異方性樹脂結合型磁石は同軸度の高いものとなる。なお、熱硬化性樹脂の硬化がほぼ完了した配向チェーン間の未硬化分が潤滑剤として働き、本成形時に高圧力が作用したとしても、それによって異方性磁石粉末の配向が乱されることはない。
【0019】
このように、この製造方法では、異方性磁石粉末の配向を配向工程の予備成形で行い、高圧縮を必要とする圧縮成形を本成形で行い、異なる機能をそれぞれ異なる工程で付与している。そして、磁場配向と高圧縮とを同時に達成しなくても、得られる磁気異方性樹脂結合型磁石の磁気特性は変わらない。このため、この製造方法では、成形装置を安価にすることができるとともに、配向工程と再圧縮の本成形工程とを連続化し、同時進行することにより、生産性を倍増することができる。また、金型を磁場配向用と再圧縮用に分けることにより金型の寿命が長くなる。そして得られる磁気異方性樹脂結合型磁石は型成形されたものであり、寸法精度が高い。
【0020】
したがって、この製造方法によれば、磁石粉末の高配向化及び高密度化を維持することにより高い磁気特性を維持するとともに、高い同軸度及び高い寸法精度を維持しつつ、高さアップを図ったラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石を生産性高く製造することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明に係るラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、異方性磁石粉末と熱硬化性樹脂とからなるコンパウンドを放射状の配向磁場中で該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形して得られる。なお、必要に応じて、潤滑剤、カップリング剤、硬化剤や硬化促進剤等をコンパウンド中に含ませることも可能である。
【0022】
上記コンパウンドを構成する熱硬化性樹脂は粒径44μm程度以下の微粉末がよい。また、異方性磁石粉末の粒径は44〜425μm程度とすることがよい。具体的な熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂を挙げることができる。異方性磁石粉末としては、フェライト磁石粉末も使用できるが、磁気特性の優れた希土類磁石粉末が好ましい。希土類磁石としては、具体的にNd-Fe-B系、Sm-Co系、Sm-Fe-N系等を挙げることができる。
【0023】
熱硬化性樹脂の配合割合は、コンパウンド全体を100体積%としたとき、10〜20体積%とすることが好ましい。熱硬化性樹脂の配合割合が多いと、得られる磁石の磁気特性が低くなる。逆に、熱硬化性樹脂の配合割合が少ないと、成形性が悪くなるとともに後述する配向工程での異方性磁石粉末の配向が不十分となり、磁気特性が低下する。
【0024】
本発明に係るラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、内径:d、外径:D、高さ:hとしたとき、FR値=2Dh/d2で示されるラジアルファクター値(FR値)が1.0を越えるリング形状を有し、また磁気異方性樹脂結合型磁石の密度:ρM、異方性磁石粉末の密度:ρP、熱硬化性樹脂の密度:ρR、磁気異方性樹脂結合型磁石の体積:VM、異方性磁石粉末の体積:VP、熱硬化性樹脂の体積:VRとしたとき、相対密度=ρM/(ρP・VP/VM+ρR・VR/VM)で示される相対密度が90%以上で、さらにBr:残留磁束密度、Is:飽和磁化としたとき、配向度=Br/4πIsで示される異方性磁石粉末の配向度が80%以上であることを特徴とする。
【0025】
ここに、磁気異方性樹脂結合型磁石の密度ρMは、磁気異方性樹脂結合型磁石の質量と見掛けの体積とから求めた見掛けの密度である。
上記FR値の上限については、特に限定されず、本発明に係る磁気異方性樹脂結合型磁石に要求される磁石性能(磁気特性)やサイズ等に応じて適宜設定可能であるが、あまりにもFR値が大きすぎると配向予備成形体の積層数が多くなり、生産効率が低下するおそれがあるため、2程度とすることが好ましい。
【0026】
上記相対密度については、相対密度が高ければ高いほど磁気特性を高くすることができるため、可能な限り高くすることが好ましいが、相対密度を高くするには成形圧力も高くする必要があり、その分金型寿命が低下するおそれがある。このため、金型寿命の観点からその上限は95%程度とされる。
上記配向度については、配向度が高ければ高いほど磁気特性を高くすることができるため、可能な限り高くすることが好ましい。ただし、配向度を高くするには、磁気誘導する金型の材質の飽和磁束密度を高くして配向磁場を高くする必要があるが、飽和磁束密度を高くするとその分強度が低下して、配向予備成形型の耐久性が低下するおそれがある。このため、磁気誘導を行う配向予備成形型の耐久性の観点からその上限は90%程度とされる。
【0027】
また、本発明に係るラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、好適な態様において、0.03mm以下の高い同軸度を有することを特徴とする。
ここに、同軸度とは、データム軸直線と同一直線上にあるべき軸線のデータム軸直線からの狂いの大きさをいう(JIS B 0621の幾何偏差の定義に基づく)。
【0028】
上記同軸度については、高ければ高いほど好ましいが、金型のクリアランス等の観点からその上限(同軸度を示す数値の下限)は0.01mm程度とされる。
上述の構成を有する本発明に係るラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、請求項1に記載された本発明に係るラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法により製造することができる。この製造方法は、配向工程と移送工程と本成形工程とからなる。
【0029】
上記配向工程では、配向磁場装置を具備する予備成形装置を使用する。この予備成形装置は配向磁場装置を組み込んだ圧縮成形装置と考えることができる。配向磁場装置及び圧縮成形装置共に従来より公知のものを使用できる。ここに、成形領域での高い配向磁場を確保するために、予備成形型の材質を配向磁場に適した軟磁性体又は非磁性体とすることが好ましい。こららの軟磁性体又は非磁性体は、高圧力に耐えうることが困難であるため、一般に型の材質としては好ましくない材料である。しかし、本発明に係る配向工程では、異方性磁石粉末のラジアル配向を維持しつつ、次工程での搬送のために必要な強度を付与する程度の圧力で圧縮成形すれば足りることから、軟磁性体又は非磁性体よりなる予備成形型であっても圧縮成形時の圧力に十分に耐えうる。なお、圧縮成形時の圧力を小さくし、型の材質としては好ましくない材料で作られた予備成形型を保護することもできる。
【0030】
なお、配向工程では、成形する配向予備成形体の個数に応じて予備成形装置を複数使用し、それぞれの予備成形装置における予備成形を同時進行させる。
この配向工程では、まず予備成形型にコンパウンドを供給する。コンパウンドの供給量は得られる磁石の寸法精度に影響するため正確に所定量のコンパウンドを予備成形型に投入しなければならない。コンパウンドの加熱は予備成形型を加熱し型から伝達される熱で加熱することができる。なお、成形性に悪い影響がなければ、他の加熱手段を採用することもできる。例えば、予めコンパウンドを無加熱で加圧成形してグリーンコンパクトとし、このグリーンコンパクトを予備成形型外で加熱し、直ちに予備成形型に投入して配向工程を実施することもできる。
【0031】
磁場を作用させる時期および加圧時期は、熱硬化性樹脂の粘度が最も低くなった時である。熱硬化性樹脂は加熱により軟化して溶融する。その後、硬化反応が進行し固くなる。磁場を作用させる時期および加圧時期は、この熱硬化性樹脂が加熱されて軟化した後で、かつ、硬化反応の進行により粘度が高くなる前とする。なお、硬化反応の速さ、軟化した時の樹脂粘度は熱硬化性樹脂の種類、使用する硬化促進剤等の助剤等によって異なる。従って、使用する熱硬化性樹脂は成形タクト等の成形条件に合わせて選択する必要がある。また、磁場を作用させる時期および加圧時期も使用する熱硬化性樹脂によって管理する必要がある。
【0032】
ここに、配向工程で得られた配向予備成形体の密度及び熱硬化性樹脂の硬化度合は、本成形後に得られる磁気異方性樹脂結合型磁石の磁気特性に影響を与える。すなわち、配向予備成形体の密度が低すぎると、磁気異方性樹脂結合型磁石の最大エネルギー積(BH)maxが低くなり、また高さ方向における最大エネルギー積(BH)maxの差が大きくなる。このため、配向予備成形体の密度は、本成形工程完了により製造される磁気異方性樹脂結合型磁石の密度に対して、85%以上とすることが好ましく、90%以上とすることが特に好ましい。なお、配向予備成形体の密度が高めると、磁気異方性樹脂結合型磁石の最大エネルギー積(BH)maxも向上するが、予備成形する際の成形型の寿命が短くなる。また、本成形工程完了後の完全に硬化した熱硬化性樹脂の硬化度合に対する配向予備成形体における熱硬化性樹脂の硬化度合の割合(以下、「配向予備成形体の相対硬化度」という)が低すぎる場合又は高すぎる場合は、磁気異方性樹脂結合型磁石の最大エネルギー積(BH)maxが低くなる。このため、配向予備成形体の相対硬化度は20〜80%とすることが好ましく、30〜50%とすることが特に好ましい。
【0033】
配向工程において、作用させる磁界の強さは8〜12kOe程度でよく、磁界はパルス的に作用させても、静的に作用させてもよい。また、成形圧力は1.0〜3.0ton/cm2程度とすることができるが、上述したように配向予備成形体の密度を磁気異方性樹脂結合型磁石の密度に対して85%以上とすべく、2.0ton/cm2以上とすることが好ましい。なお、成形圧力が3.0ton/cm2を越えると、予備成形時の成形型の寿命に低下させるおそれがある。これにより異方性磁石粉末が十分に配向し、所定形状を持ちかつ取り扱える程度に固い配向予備成形体が成形できる。なお、予備成形型からの脱型を容易にするため、異方性磁石粉末を配向させた後減磁処理を施すこともできる。減磁処理は通常実施されている減磁処理をそのまま採用できる。また、成形温度については、上述したように配向予備成形体の相対硬化度を20〜80%とすべく、95〜160℃とすることが好ましく、また配向予備成形体の相対硬化度を30〜50%とすべく、100〜120℃とすることが特に好ましい。
【0034】
本発明の移送工程は予備成形装置で製造された配向予備成形体の複数個を予備成形装置から本成形装置に移送して積層する工程である。この移送工程では、減圧吸着アタッチメント等のロボットアームを用いて配向予備成形体を予備成形装置から本成形装置に移送してもよいし、プレス装置のトランスファー装置のように、予備成形装置と本成形装置との間に配向予備成形体を移送する移送保持具を配置して行ってもよい。
【0035】
なお、配向予備成形体が加熱されており、硬化反応が進行しているため、できるだけ早く本成形を行うのが好ましい。このため移送工程は迅速に行うのが望ましい。
本発明の本成形工程は、本成形型内で半溶融半硬化状態の各配向予備成形体を加熱するとともに圧縮成形することにより、熱硬化性樹脂を硬化状態とするとともに各配向予備成形体を圧密化しつつ一体化して所定形状の磁気異方性樹脂結合型磁石とするものである。この本成形工程では本成形装置を使用する。この本成形装置は通常の圧縮成形装置をそのまま使用してもよい。本成形工程では配向工程における成形圧力より強い圧力を作用させるようにするのが好ましい。また、加熱圧縮成形条件については、熱硬化性樹脂による異方性磁石粉末の固定がより確実となるように、温度、圧力、時間を最適化する。具体的には、温度:150〜180℃、圧力:7.0〜10.0Ton/cm2、時間:3〜10秒の加圧持続が好ましい。なお、この本成形工程では、各配向予備成形体は10%程度以上の圧縮率(圧縮成形前の配向予備成形体の比容積:Vb、圧縮成形後の配向予備成形体の比容積:Vaとしたとき、{(Vb-Va)/Vb}×100(%)の値が10%以上)で圧縮される。
【0036】
本成形工程でも成形型を加熱し、成形型で配向予備成形体をさらに加熱するのが好ましい。
本成形装置から取り出した後、得られた磁気異方性樹脂結合型磁石を加熱炉中に入れ、さらに加熱して熱硬化性樹脂の硬化を完了させる後加熱工程を実施してもよい。また、得られた磁気異方性樹脂結合型磁石の着磁を行う着磁工程を実施することもできる。
【0037】
【実施例】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
(実施例1)
磁気合金の化学組成が、Nd:12.7(at%)、B:6.0(at%)、Co:17.1(at%)、Ga:0.3(at%)、Zr:0.1(at%)、Fe:残り(合金全体で100原子%)となる合金原料をボタンアーク溶解炉にて溶解・鋳造してインゴットを作製した。得られた合金のインゴットを1100℃で40時間の均質化処理を施した。
【0038】
均質化処理後のインゴットを30mm程度の塊に粗砕した後、水素ガス吸蔵処理を施した。この水素ガス吸蔵処理は、水素ガス圧力0.5kg/cm2の雰囲気下で室温から800℃まで約1時間かけて昇温し、800℃で3時間保持することにより行った。その後、5×10-5Torrの真空雰囲気下で800℃にて30分間保持して脱水素処理を行い、室温に急冷した。得られた原料合金は、乳鉢で軽く粉砕して、異方性磁石粉末を得た。
【0039】
得られた異方性磁石粉末は、最大エネルギー積((BH)max)が34MGOe、残留磁束密度(Br)が13.0kG、保磁力(iHc)が12.5kOe、粒径が44〜180μmであった。
一方、主剤としてのエポキシ樹脂粉末(油化シェル社製の商品名「エピコート1004」)と、硬化剤としてのジアミノジフェニルメタン(DDM)(和光純薬工業社製)とを加熱混合した後に粉砕して、粒径44μm以下の熱硬化性樹脂粉末とした。
【0040】
上記異方性磁石粉末を80vol%、上記熱硬化性樹脂粉末を20vol%の配合比でそれぞれ秤量して混合し、これにシラン系カップリング剤を0.3重量%添加、混合してコンパウンドを得た。
本実施例では図1に示す磁気異方性樹脂結合型磁石の製造装置を使用した。この装置は、配向磁場装置10を具備する予備成形装置20と本成形装置40とからなる。
【0041】
予備成形装置20は、加熱源(ロッドヒータ)21を内蔵し中央に貫通孔からなる成形孔23を区画する筒状の予備成形ダイ22と、成形孔23内に上側開口から挿入される筒状の上パンチ24と、成形孔3内に下側開口から挿入される筒状の下パンチ25と、上パンチ24内に上側開口から挿入可能な円柱状の上コア26と、下パンチ25内に下側開口から挿入可能で上コア26と当接する円柱状の下コア27と、上パンチ24の上端に溶接して一体化されている上パンチ基部28と、下パンチ27の下端にネジ止めして一体化されている下パンチ基部29と、上コア26及び下コア27を互いに近接する方向に加圧するコア加圧装置30と、上パンチ基部28及び下パンチ基部29を互いに近接する方向に加圧するパンチ加圧装置31とからなる。ここに、上記上パンチ基部28及び下パンチ基部29は、それぞれ上可動磁極及び下可動磁極として機能する。
【0042】
配向磁場装置10は、上可動磁極としての上パンチ基部28及び下可動磁極としての下パンチ基部29にそれぞれ磁気を供給する上電磁コイル11及び下電磁コイル12を備えている。ここに、予備成形ダイ22、上コア26、下コア27、上可動磁極としての上パンチ基部28及び下可動磁極としての下パンチ基部29は軟磁性材料としてのパーメンジュールで形成されており、上パンチ24及び下パンチ25は非磁性プレス鋼(HPM75)で形成されている。
【0043】
この予備成形装置20では、上電磁コイル11から出る磁力線は上可動磁極としての上パンチ基部28及び上コア26を通り、上コア26から遠心方向に放射状に成形孔23を通り予備成形ダイ22に入る。そして予備成形ダイ22より上電磁コイル11に戻る。一方、下電磁コイル12から出る磁力線は下可動磁極としての下パンチ基部29及び下コア27を通り上コア26に入る。そして上コア26から遠心方向に放射状に成形孔53を通り予備成形ダイ22に入る。そして予備成形ダイ22より下電磁コイル12に戻る。このように、この予備成形装置20ではその成形孔23には磁力線が遠心方向に放射線状に伸びてラジアル磁場が形成される。このため、内周面側が一方の磁極となり外周面側が他方の磁極となる配向予備成形体が成形できる。
【0044】
なお、予備成形装置20は成形する配向予備成形体の個数分だけ準備し、それぞれの予備成形装置20における予備成形は同時に進行される。
本成形装置40は、加熱源41をもち中央に貫通孔からなる成形孔43を区画する筒状の本成形ダイ42と、成形孔43内に上側開口から挿入される筒状の上パンチ44と、成形孔43内に下側開口から挿入される筒状の下パンチ45と、上パンチ44内に上側開口から挿入可能な円柱状の上コア46と、下パンチ45内に下側開口から挿入可能で上コア46と当接する円柱状の下コア47と、上パンチ44の上端にネジ止めして一体化されている上パンチ基部48と、下パンチ45の下端に溶接して一体化されている下パンチ基部49と、上コア46及び下コア47を互いに近接する方向に加圧するコア加圧装置50と、上パンチ基部48及び下パンチ基部49を互いに近接する方向に加圧するパンチ加圧装置51とからなる。
この本成形装置40は予備成形装置20で着磁された配向予備成形体をより高圧で圧縮成形するもので、配向磁場装置は設けられていない。なお、本成形ダイ42、上パンチ44及び下パンチ45は合金工具鋼(SKD61)で形成されている。
【0045】
上記構成の製造装置を用い、図2に斜視図を示すリング状の磁気異方性樹脂結合型磁石を製造した。
(配向工程)
まず、各予備成形装置20を用いて、温度:120℃、圧力:3.0ton/cm2、配向磁場:10kOeの予備成形条件で前記コンパウンドから2個の配向予備成形体1を同時に成形した。この際の成形タイミングは、以下のとおりである。すなわち、コンパウンドを供給してから10秒間静置してコンパウンドを所定温度とした後、磁場を投入した。磁場を投入してからさらに10秒間磁場を作用させ続けて保持した後、磁場を作用させ続けながら5秒間加圧維持した。
【0046】
ここに、得られた配向予備成形体1の外形寸法は、外径(D):21.9mm、内径(d):19.5mm、高さ(h):5.5mmである。
(移送工程)
得られた2個の配向予備成形体1を、減圧吸着アタッチメントを用いて予備成形装置20から本成形装置40に移送して積層した。
【0047】
(本成形工程)
そして、本成形装置40を用いて、温度:150℃、圧力:10.0ton/cm2の本成形条件で、積層された配向予備成形体1を本成形した。この際の成形タイミングは、以下のとおりである。すなわち、配向予備成形体1の積層が完了してから10秒間静置して各配向予備成形体1を所定温度とした後、10秒間加圧維持した。
【0048】
ここに、得られた磁気異方性樹脂結合型磁石2の外形寸法は、外径(D):21.9mm、内径(d):19.5mm、高さ(h):10.0mmである。
(実施例2)
配向予備成形体1の積層数を4個として、得られる磁気異方性樹脂結合型磁石2の外形寸法を外径(D):21.9mm、内径(d):19.5mm、高さ(h):20.0mmとすること以外は、上記実施例1と同様である。
【0049】
(実施例3)
配向予備成形体1の外形寸法を外径(D):30.1mm、内径(d):27.7mm、高さ(h):11.0mmとして、得られる磁気異方性樹脂結合型磁石2の外形寸法を外径(D):30.1mm、内径(d):27.7mm、高さ(h):20.0mmとすること以外は、上記実施例1と同様である。
【0050】
(実施例4)
配向予備成形体1の積層数を4個として、得られる磁気異方性樹脂結合型磁石2の外形寸法を外径(D):30.1mm、内径(d):27.7mm、高さ(h):30.0mmとすること以外は、上記実施例3と同様である。
[第1の比較例]
この比較例は、1個の配向予備成形体を積層することなくそのまま本成形したものである。
【0051】
(比較例1)
上記実施例1と同様の方法及び予備成形条件で、上記実施例1で準備したコンパウンドから外形寸法が外径(D):21.9mm、内径(d):19.5mm、高さ(h):5.5mmの配向予備成形体を1個成形した。そして、この配向予備成形体を上記実施例1と同様の本成形条件で本成形して、外形寸法が外径(D):21.9mm、内径(d):19.5mm、高さ(h):5.0mmの磁気異方性樹脂結合型磁石を製造した。
【0052】
(比較例2)
配向予備成形体の外形寸法を外径(D):30.1mm、内径(d):27.7mm、高さ(h):11.0mmとして、磁気異方性樹脂結合型磁石の外形寸法を外径(D):30.1mm、内径(d):27.7mm、高さ(h):10.0mmとすること以外は、上記比較例1と同様である。
【0053】
[第2の比較例]
この比較例は、FR値が1.0以下のリング形状の磁気異方性樹脂結合型磁石を複数個積層し、各磁気異方性樹脂結合型磁石を接着剤で接合して一体化することにより、FR値が1.0を越えるリング形状の磁気異方性樹脂結合型磁石を製造するものである。
【0054】
(比較例3)
上記実施例1と同様の方法及び予備成形条件で、上記実施例1で準備したコンパウンドから外形寸法が外径(D):21.9mm、内径(d):19.5mm、高さ(h):5.5mmの配向予備成形体を複数個成形した。そして、各配向予備成形体を上記実施例1と同様の本成形条件で本成形した。得られた磁気異方性樹脂結合型磁石を2個積層し、接着剤で接合して一体化することにより、外形寸法が外径(D):21.9mm、内径(d):19.5mm、高さ(h):10.0mmの磁気異方性樹脂結合型磁石を製造した。
【0055】
(比較例4)
配向予備成形体の積層数を4個として、最終的に得られる磁気異方性樹脂結合型磁石の外形寸法を外径(D):21.9mm、内径(d):19.5mm、高さ(h):20.1mmとすること以外は、上記比較例1と同様である。
(比較例5)
配向予備成形体の外形寸法を外径(D):30.1mm、内径(d):27.7mm、高さ(h):11.0mmとするとともに、配向予備成形体の積層数を2個として、最終的に得られる磁気異方性樹脂結合型磁石の外形寸法を外径(D):30.1mm、内径(d):27.7mm、高さ(h):20.1mmとすること以外は、上記比較例1と同様である。
【0056】
(比較例6)
配向予備成形体の積層数を3個として、最終的に得られる磁気異方性樹脂結合型磁石の外形寸法を外径(D):30.1mm、内径(d):27.7mm、高さ(h):30.1mmとすること以外は、上記比較例5と同様である。
[第3の比較例]
この比較例は、コンパウンドを成形型内に複数回に分けて供給し、コンパウンドの供給とラジアル磁場における圧縮成形とを繰り返すことにより、高さを段々と高くして最終的にFR値が1.0を越えるリング形状の磁気異方性樹脂結合型磁石を製造するものである。
【0057】
(比較例7)
上記実施例1で用いた予備成形装置20を用いて、温度:150℃、圧力:3.0ton/cm2、配向磁場:10kOeの成形条件で、上記実施例1で準備したコンパウンドから磁気異方性樹脂結合型磁石を製造した。この際、コンパウンドの供給とラジアル磁場における圧縮成形とを繰り返しことにより、高さを段々と高くして最終的に外形寸法が外径(D):21.9mm、内径(d):19.5mm、高さ(h):10.0mmの磁気異方性樹脂結合型磁石を製造した。
【0058】
(比較例8)
成形圧力を6.0ton/cm2とするとともに、最終的な外形寸法を外径(D):21.9mm、内径(d):19.5mm、高さ(h):20.1mmとすること以外は、上記比較例7と同様である。
(比較例9)
最終的な外形寸法を外径(D):30.1mm、内径(d):27.7mm、高さ(h):20.1mmとすること以外は、上記比較例7と同様である。
【0059】
(比較例10)
成形圧力を6.0ton/cm2とするとともに、最終的な外形寸法を外径(D):30.1mm、内径(d):27.7mm、高さ(h):30.1mmとすること以外は、上記比較例7と同様である。
[第4の比較例]
この比較例は、コンパウンドを加熱することなくラジアル磁場中で予備圧縮成形し、得られた予備成形体を本成形型内で複数個積層した状態でラジアル磁場を加えることなく予備成形圧力とほぼ同等の圧力で本圧縮成形することにより高さアップを図って、最終的にFR値が1.0を越えるリング形状の磁気異方性樹脂結合型磁石を製造するものである。
【0060】
(比較例11)
上記実施例1で用いた予備成形装置20を用いて、温度:室温、圧力:3.0ton/cm2、配向磁場:4kOeの予備成形条件で、上記実施例1で準備したコンパウンドから配向予備成形体を複数個成形した。この配向予備成形体は、上記実施例1で成形した配向予備成形体1と同様の外形寸法(外径(D):21.9mm、内径(d):19.5mm、高さ(h):5.5mm)を有する。そして、上記実施例1で用いた本成形装置40を用い、得られた各配向予備成形体を2個積層した状態で、温度:150℃、圧力:4.0ton/cm2の本成形条件で本成形して、外形寸法が外径(D):21.9mm、内径(d):19.5mm、高さ(h):10.0mmの磁気異方性樹脂結合型磁石を製造した。
【0061】
(比較例12)
配向予備成形体の積層数を4個として、得られる磁気異方性樹脂結合型磁石の外形寸法を外径(D):21.9mm、内径(d):19.5mm、高さ(h):20.1mmとすること以外は、上記比較例11と同様である。
(比較例13)
配向予備成形体の外形寸法を外径(D):30.1mm、内径(d):27.7mm、高さ(h):11.0mmとするとともに、配向予備成形体の積層数を2個として、得られる磁気異方性樹脂結合型磁石の外形寸法を外径(D):30.1mm、内径(d):27.7mm、高さ(h):20.1mmとすること以外は、上記比較例11と同様である。
【0062】
(比較例14)
配向予備成形体の積層数を3個として、得られる磁気異方性樹脂結合型磁石2の外形寸法を外径(D):30.1mm、内径(d):27.7mm、高さ(h):30.1mmとすること以外は、上記比較例13と同様である。
(評価)
上記実施例1〜6及び比較例1〜14の磁気異方性樹脂結合型磁石について、FR値、同軸度、最大エネルギー積(BH)max、高さ方向における最大エネルギー積(BH)maxの分布、密度、相対密度、及び配向度を調べた。その結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0063】
ここに、最大エネルギー積(BH)maxは、磁気異方性樹脂結合型磁石の一部を切り出した後、VSM振動型磁力計により調べた。そして、高さ方向における最大エネルギー積(BH)maxの分布については、磁石の高さ方向において、(BH)maxが最大になる部位での最大値と、(BH)maxが最小になる部位での最小値との差を求め、この差の(BH)maxの平均値に対する割合を求め、これを(BH)maxの差(%)として求めた。したがって、(BH)maxの差の値が大きければ、高さ方向において最大エネルギー積(BH)maxが部位によって大きくばらつくことを示す。また、表1及び表2に示す最大エネルギー積(BH)maxの値は、最大エネルギー積(BH)maxの平均値である。
【0064】
同軸度は、真円度計(ミツトヨ製、「ラウンドテスター」)により測定した。
密度は磁気異方性樹脂結合型磁石の質量と見掛けの体積とから求めた見掛けの密度である。また、相対密度は前述の(2)式から求めた値である。
配向度は、残留磁束密度Br及び飽和磁化IsをVSM振動型磁力計により調べ、これらの測定値を基に前述の(3)式から求めた値である。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表1から明らかなように、本実施例1〜4の磁気異方性樹脂結合型磁石は、同軸度が0.02〜0.03mmと高く、最大エネルギー積(BH)maxが17.3MGOe以上と大きく、最大エネルギー積(BH)maxの差が5.7%以下と小さく、密度が6.13g/cm3と高く、相対密度が93%以上と高く、配向度が80%以上と高かった。したがって、本実施例の製造方法により、FR値が1.0を越えるようなリング形状であっても、磁気特性、同軸度及び寸法精度が高く、また磁気特性が高さ方向において均一な磁気異方性樹脂結合型磁石を提供することが可能となる。
【0068】
これに対し、表2から明らかなように、積層した磁気異方性樹脂結合型磁石を接着剤で接合した第2の比較例に係る比較例3〜6では、同軸度が0.10mm以上と低く、また最大エネルギー積(BH)maxの差が7.0%以上と大きかった。
また、コンパウンドの供給とラジアル磁場における圧縮成形とを繰り返して製造した第3の比較例に係る比較例7〜10では、最大エネルギー積(BH)maxが15.3MGOe以下と小さく、最大エネルギー積(BH)maxの差が9.5%以上と大きく、密度が5.85g/cm3と低く、相対密度が89%以上と低く、配向度が72%以下と低かった。最大エネルギー積(BH)maxが小さいのは、密度及び相対密度が低く、また配向度も低いことに因る。最大エネルギー積(BH)maxの差が大きく、高さ方向において(BH)maxの値がばらつくのは、高さ方向で密度ムラが生じていることに因るものと考えられる。密度及び相対密度が低いのは、ラジアル磁場中での圧縮成形のみによって最終成形体を得る製造方法では、金型上の制約を受けるため、成形圧力を高くできないことに因る。配向度が低いのは、圧力の繰り返し印加により配向を乱したためと考えられる。
【0069】
また、コンパウンドを加熱することなくラジアル磁場中で予備圧縮成形し、得られた予備成形体を本成形型内で複数個積層した状態でラジアル磁場を加えることなく本圧縮成形して製造した第4の比較例に係る比較例11〜14では、最大エネルギー積(BH)maxが14.5MGOe以下と小さく、密度が5.60g/cm3と低く、相対密度が85%以上と低く、配向度が72%以下と低かった。最大エネルギー積(BH)maxが小さいのは、密度及び相対密度が低く、また配向度も低いことに因る。密度及び相対密度が低いのは、本圧縮成形時の成形圧力が低いことに因る。なお、第4の比較例で示した製造方法は、配向工程での予備圧縮成形で磁石としての機能(磁気特性)を確保し、本成形で積層された予備成形体を加熱、圧縮して一体化させるものである。このような方法では、本成形時に未硬化樹脂分が溶融して潤滑作用と強く働き、また空気の逃げ道が形成されるので、熱硬化性樹脂の硬化が比較的進行してそのままの形で維持され易い配向チェーンが形成される本実施例の方法と比較して、本成形時に高圧力が付与されることにより磁石粉末の配向が乱され易い。このため、第4の比較例で示した方法では、本成形時に高圧力を付与することが困難である。配向度が低いのは、配向工程での予備圧縮成形時にコンパウンド中の熱硬化性樹脂が加熱溶融されていない状態でラジアル磁場を加えているため、磁石粉末自身の回転、移動等の動きが熱硬化性樹脂により妨げられ易いことに因る。
【0070】
[第2の実施例]
前述の第1の実施例に係る実施例2において、配向工程における成形条件(温度、圧力)を種々変更して、配向予備成形体の密度及び相対硬化度を種々変更し、磁気異方性樹脂結合型磁石の磁気特性に対する影響を調べた。
(実施例2)
前述の実施例2の配向工程における成形条件は、温度:120℃、圧力3.0ton/cm2、配向磁場:10kOeであり、本成形工程における成形条件は温度:150℃、圧力:10.0ton/cm2である。なお、実施例2で得られた磁気異方性樹脂結合型磁石の外形寸法は、外径(D):21.9mm、内径(d):19.5mm、高さ(h):20.0mmである。
【0071】
(実施例5)
配向工程における成形条件を温度:100℃とすること以外は、上記実施例2と同様である。
(実施例6)
配向工程における成形条件を温度:160℃とすること以外は、上記実施例2と同様である。
【0072】
(実施例7)
配向工程における成形条件を温度:80℃とすること以外は、上記実施例2と同様である。
(実施例8)
配向工程における成形条件を圧力:1.5ton/cm2とすること以外は、上記実施例2と同様である。
【0073】
(実施例9)
配向工程における成形条件を圧力:4.0ton/cm2とすること以外は、上記実施例2と同様である。
(評価)
上記実施例2、5〜9について、配向工程後に得られた配向予備成形体1の密度、最大エネルギー積(BH)max及び相対硬化度を調べた。なお、相対硬化度は、ゲル抽出法による定量分析で測定することにより調べた。さらに、本成形工程後に得られた磁気異方性樹脂結合型磁石の密度、最大エネルギー積(BH)max及び最大エネルギー積(BH)maxの差を調べた。これらの結果を表3に示す。なお、表3中、配向予備成形体の密度における括弧内の数値は、磁気異方性樹脂結合型磁石の密度に対する配向予備成形体1の密度の割合である。
【0074】
【表3】

【0075】
表3から明らかなように、配向工程での予備成形時の成形圧力が1.5ton/cm2と低く、このため配向予備成形体1の密度が5.05g/cm2(磁気異方性樹脂結合型磁石の密度に対する割合は84%)と低い実施例8は、磁気異方性樹脂結合型磁石の最大エネルギー積(BH)maxが15.8MGOeと他のものと比べて低くなり、また高さ方向における最大エネルギー積(BH)maxの差も他のものと比べて大きくなる。これにより、配向工程での予備成形時の成形圧力を2.0ton/cm2程度以上、より好ましくは3.0ton/cm2程度として、配向予備成形体1の密度を5.5g/cm3程度以上(磁気異方性樹脂結合型磁石の密度に対する配向予備成形体1の密度割合を85程度%以上)とすることが好ましいことがわかる。
【0076】
また、配向工程での成形温度が80℃と低く、このため配向予備成形体1の相対硬化度が10%と低い実施例7、及び成形温度が160℃と高く、このため相対硬化度が50%と高い実施例6は、相対硬化度が30〜50%の実施例2及び5と比べて、いずれも最大エネルギー積(BH)maxが低くなる。これにより、配向工程での予備成形時の成形温度を100〜120℃程度として、配向予備成形体1の相対硬化度を30〜50%とすることが特に好ましいことがわかる。
【0077】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明に係る磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法により、磁石粉末の高配向化及び高密度化を維持することにより高い磁気特性を維持するとともに、高い同軸度及び高い寸法精度を維持しつつ、高さアップを図ったラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石を生産性高く提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例に係り、磁気異方性樹脂結合型磁石の製造に用いた成形機の断面模式図である。
【図2】 本発明の実施例に係り、磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法を模式的に説明する斜視図である。
【符号の説明】
1…配向予備成形体 2…磁気異方性樹脂結合型磁石
10…配向磁場装置 20…予備成形装置
40…本成形装置 22…予備成形ダイ
42…本成形ダイ 11,12…電磁コイル
 
訂正の要旨 訂正の要旨
訂正事項a
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲請求項1及び請求項2を削除する。
訂正事項b
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲請求項3
「【請求項3】異方性磁石粉末と熱硬化性樹脂とからなるコンパウンドを放射状の配向磁場中で該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形して所定形状のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石を製造する方法において、
配向磁場装置を具備する予備成形装置の予備成形型内で前記コンパウンドを加熱して該熱硬化性樹脂を溶融状態とするとともに放射状の配向磁場を作用させて該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形することにより、複数の配向予備成形体を同時に成形する配向工程と、
配向工程で得られた各該配向予備成形体を該予備成形装置から本成形装置の本成形型内にそれぞれ移送して積層する移送工程と、
該本成形型内で半溶融半硬化状態の各該配向予備成形体を加熱するとともに圧縮成形することにより、該熱硬化性樹脂を硬化状態とするとともに各該配向予備成形体を圧密化しつつ一体化して所定形状の磁気異方性樹脂結合型磁石とする本成形工程と、
からなることを特徴とするラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法。」を
「【請求項1】異方性磁石粉末と熱硬化性樹脂とからなるコンパウンドを放射状の配向磁場中で該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形してラジアル配向し、かつ、内径:d、外径:D、高さ:hとしたとき、
FR値=2Dh/d2 ・・・(1)
上記(1)で示されるラジアルファクター値(FR値)が1.0を越えるリング形状を有する磁気異方性樹脂結合型磁石を製造する方法において、
配向磁場装置を具備する予備成形装置の予備成形型内で前記コンパウンドを加熱して該熱硬化性樹脂を溶融状態とするとともに放射状の配向磁場を作用させて該異方性磁石粉末をラジアル配向させながら圧縮成形することにより、複数の配向予備成形体を同時に成形する配向工程と、
配向工程で得られた各該配向予備成形体を該予備成形装置から本成形装置の本成形型内にそれぞれ移送して積層する移送工程と、
該本成形型内で半溶融半硬化状態の各該配向予備成形体を加熱するとともに圧縮成形することにより、該熱硬化性樹脂を硬化状態とするとともに各該配向予備成形体を圧密化しつつ一体化して所定形状の磁気異方性樹脂結合型磁石とする本成形工程と、
からなることを特徴とするラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法。」と訂正する。
訂正事項c
明りょうでない記載の釈明を目的として、発明の名称「ラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石及びその製造方法」を「ラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法」と訂正する。
訂正事項d
明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書段落番号【0001】中の「本発明は、ラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石及びその製造方法に関する。」を「本発明は、ラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法に関する。」と訂正する。
訂正事項e
明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書段落番号【0013】中の「(イ)上記第1の課題を解決する請求項1記載のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、」を「(イ)上記第1の課題を解決するラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、」と訂正する。
訂正事項f
明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書段落番号【0014】中の「(ロ)上記第2の課題を解決する請求項2記載のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、請求項1記載のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石において、」を「(ロ)上記第2の課題を解決するラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石は、前記(イ)記載のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石において、」と訂正する。
訂正事項g
明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書段落番号【0015】中の「(ハ)上記第3の課題を解決する請求項3記載のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法は、」を「(ハ)上記第3の課題を解決する請求項1記載のラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法は、」と訂正する。
訂正事項h
明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書段落番号【0028】中の「請求項3に記載された本発明に係るラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法により製造することができる。」を「請求項1に記載された本発明に係るラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石の製造方法により製造することができる。」と訂正する。
異議決定日 2001-11-19 
出願番号 特願平9-351585
審決分類 P 1 651・ 536- YA (H01F)
P 1 651・ 121- YA (H01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 植松 伸二  
特許庁審判長 松本 邦夫
特許庁審判官 橋本 武
浅野 清
登録日 2000-04-28 
登録番号 特許第3060104号(P3060104)
権利者 愛知製鋼株式会社
発明の名称 ラジアル配向した磁気異方性樹脂結合型磁石及びその製造方法  

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