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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G03G
審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G03G
管理番号 1056458
異議申立番号 異議2001-71201  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-04-16 
確定日 2002-01-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3100625号「導電ロール」の請求項1ないし14に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3100625号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3100625号は、平成3年1月11日に出願(優先権主張、平成2年1月12日、日本国)され、平成12年8月18日にその特許の設定の登録がなされ、その後、伊藤壽朗より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされその指定期間内である平成13年10月16日付けで訂正請求がなされた。

2.訂正の適否について
2.1 訂正の内容
平成9年11月20日付けの全文訂正明細書の第6頁17行、同第6頁19行、同第6頁20行、同第6頁21行、同第6頁22行、同第6頁23〜24行、同第7頁1行、同第7頁2行、同第7頁8行、同第7頁 10行、同第7頁11行、同第8頁24行、同第10頁2行、同第10頁16行、同第11頁3行、同第11頁5行、同第11頁6行、同第11頁15行、同第11頁22行、同第12頁6行、同第12頁15行、同第12頁17行、同第12頁18行、同第13頁22行、同第13頁24行、同第14頁15行、同第14頁17行、同第14頁20行、同第15頁4行、同第15頁6行、同第15頁9行、同第15頁13行、同第15頁15行、同第15頁19行、同第16頁16行、同第17頁2行、同第17頁11行、同第17頁13行、同第18頁1行、同第18頁5行、同第18頁7行、同第18頁20行、同第18頁22行、同第21頁1行、同第21頁3行、同第21頁4行、同第21頁20行、同第22頁12行、同第22頁13行、同第23頁3行、同第23頁11行、同第23頁12行、同第23頁14行、同第23頁16行、同第24頁14行、同第24頁15行、同第24頁21行、同第25頁5行、同第25頁9行、同第25頁19行、同第25頁21行、同第26頁1行、同第26頁4行、同第26頁第11〜17行の〔表3〕、同第26頁18行、同第26頁20行、同第26頁22行、同第27頁8行、同第28頁4行、同第28頁6行、同第28頁10行、同第28頁18行、同第29頁6行、同第29頁10行、同第29頁12行、同第29頁16行(2個所)、同第29頁17行、同第29頁20行、同第30頁5行、同第31頁2行、同第31頁16行の「実施例」をいずれも「実施の態様」と訂正する。
2.2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項は、実施例でないものを実施例と記載していたので、該当する記載を「実施の態様」と訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
2.3 むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下、「平成6年改正法という。」)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.本件発明
本件特許の請求項1ないし14に係る発明は次のとおりである。
「【請求項1】芯部に設けた良導体のシャフトと、このシャフトの外周に設けた導電性で、かつ伸縮性を備えた中間層と、この中間層の外周に設けた中間層よりも比抵抗の高い被覆膜とを有し、感光体若しくは転写用紙に対して接触しながら所定極性の電位を付与する導電ロールにおいて、前記中間層がシリコーンゴム,ウレタンゴム,ポリブタジエン系ウレタンゴム,ポリノルホルネンゴム,天然ゴム,ポリブタジエンゴム,スチレンブタジエンゴム,アクリロニトリルゴム,エチレンプロピレジエンゴム,アクリルゴム,エピクロルヒドリンゴム,エチレン酢酸ビニルゴム,フッ素ゴム等、及びこれらの混合物等の無発泡弾性体、或いはこれらの発泡弾性体で構成するとともに、ストラクチャ構造の発達していないカーボンブラックを混入し、かつこの中間層外周表面を極性化したことを特徴とする導電性ロール。
【請求項2】被覆膜の少なくとも中間層の接着面に極性の被覆物質を施したことを特徴とする請求項1に記載の導電ロール。
【請求項3】被覆膜が、一液性又は二液性のウレタンを使用したポリマーにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の導電ロール。
【請求項4】被覆膜が一液性ウレタン又は二液性ウレタンと塗料用カーボンとを有することを特徴とする請求項1に記載の導電ロール。
【請求項5】被覆膜に疏水性シリカが混合することを特徴とする請求項1,2または4に記載の導電ロール。
【請求項6】被覆膜が、酸化アンチモンをドープさせた酸化スズを有することを特徴とする請求項1,2,4または5に記載の導電ロール。
【請求項7】被覆膜形成材料に変性ナイロンを使用していることを特徴とする請求項1,2,4,5または6に記載の導電ロール。
【請求項8】被覆膜が、感光体若しくは転写用紙に対する汚染のない比較的硬質で、かつ薄く形成した上層及び比較的柔軟で、かつ上層よりも厚く形成した耐電性の良好な下層よりなる2層構造であることを特徴とする請求項1に記載の導電ロール。
【請求項9】上層の形成材料として、変性ナイロンを使用していることを特徴とする請求項8に記載の導電ロール。
【請求項10】上層が、酸化アンチモンをドープさせた酸化スズを含有することを特徴とする請求項8に記載の導電ロール。
【請求項11】下層の形成材料として、一液性又は二液性のウレタンを使用したポリマーにより形成されていることを特徴とする請求項8に記載の導電ロール。
【請求項12】上層の厚さが1〜20μmで、下層の厚さが50〜200μmであり、上層の抵抗値R1と下層の抵抗値R2との比(R2/R1)が1より大であること
を特徴とする請求項8に記載の導電ロール。
【請求項13】下層が一液性ウレタンと二液性ウレタンからなり、上層が変性ナイロンであることを特徴とする請求項8に記載の導電ロール。
【請求項14】下層が上層よりも柔軟で厚いことを特徴とする請求項8に記載の導電ロール。」

4.特許異議申し立ての判断
4.1 特許異議申立の概要
特許異議申立人 伊藤壽朗は本件特許請求の範囲の請求項1ないし14に係る発明は、
甲第1号証(特開昭64-66674号公報)
甲第2号証(特開昭60-150071号公報)
甲第3号証(米国特許第4312693号明細書)
甲第4号証(特開昭62-37157号公報)
甲第5号証(特開昭62-3947号公報)
甲第6号証(特開昭63-179959号公報)
甲第7号証(特開昭51-59636号公報)
甲第8号証(特開昭59-172666号公報)
に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができとものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 また、本件特許明細書及び図面の記載は特許法第36条に規定する要件を満たしていない、と主張する。
4.2 甲号各証の記載
甲第1号証には、
(1a)「N-メチルメトキシ化ナイロンを主体とする導電性樹脂組成物からなる導電性樹脂層によって表面層が形成されていることを特徴とする導電性ロール。」(特許請求の範囲)
(1b)「〔実施例1〕
第1図に示す構造の導電性ロール(金属シャフト10+導電性弾性層12a+導電性樹脂層11)を具体的に作製し、帯電ロールとしての機能を評価した。
すなわち、まず、N-メトキシメチル化ナイロン(M・M化度30%、トレジンEF-30T、帝国化学産業社製)を、メタノール/トルエン(前者/後者=7/3)混合溶剤に溶かしN-メチルメトキシ化ナイロン樹脂液を得た。この樹脂液を、粘度調整後ディップ液としてディップ用の層(第2図参照)に注入した。一方、シャフト径が8φの金属シャフトを用意し、その外周に導電性カーボンを配合したポリノルボーネンゴム組成物(硬度20°、電気抵抗103Ω・cm)を巻き付けて導電性弾性層を形成した。この、導電性弾性層の厚みは3mmとした。そして、上記導電性弾性層付金属シャフトを、先に準備した樹脂液入り層に浸漬し樹脂液をコーティングして常温で乾燥した。ついで60〜80℃で0.5〜3時間加熱して溶剤を除去し、導電性樹脂層を形成した。この導電性樹脂層の厚みは100μmとした。このようにして目的とする導電性ロールを得た。」(第4頁右上欄第15行〜左下欄第17行)と記載され、
(1b)第5頁右上欄の表には、実施例1の表面層の電気抵抗が1×108Ωである旨記載されている。

甲第2号証には、
(2a)「ローラ芯金上にプライマーの塗布層を介してエピクロルヒドリンゴムを主体としたゴムを被覆してなることを特徴とする転写ローラ」(特許請求の範囲)
(2b)「実施例1〜7
脱脂したローラ芯金にプライマーメタロックPを約35μ厚に塗布し、これに表に示す配合のエピクロルヒドリンゴムを巻き付け、円筒状金型で150℃×30分加硫した。型からとり出して研削加工を行い直径20mm、長さ300mm、内厚10mmの転写ローラを製造した。」(第2頁左下欄第10〜16行)
(2c)「エピクロルヒドリンゴムの配合剤としては・・・・・・・充填剤として、クレー焼成クレー、シリカ、炭カル、乾式シリカ、チタン白、カーボンブラック等が好ましくタルクなど扁平形状のものは加工段階でゴムに配向が生ずるため好ましくない。」(第2頁右上欄第5〜11行)と記載され、
(2d)第3頁の表には、ゴム層中にFEFカーボンを配合した例が実施例5として記載されている。

甲第3号証には、
(3a)ポリウレタンへのシリコーンゴム表面の接着により積層体を製造する方法において、ガスプラズマにシリコーンゴムを接触させることによりポリウレタンに対する接着性をシリコーンゴム表面に付与することが記載されている。(特許請求の範囲第1項参照)

甲第4号証には、
(4a)コロナ放電処理したシリコーン重合体層と防汚・耐候性の優れた熱可塑性合成樹脂材料とを接着した防汚性シート材料が記載されている。(特許請求の範囲第1項参照)

甲第5号証には
(5a)不燃性基布と低温プラズマ処理したシリコーン樹脂又はゴムからなる不燃性被覆層とを接合した不燃性繊維シート材料が記載されている。(特許請求の範囲第1項参照)

甲第6号証には、
(6a)導電性金属の中空円筒上にポリウレタンエラストマーをコーティングしたトランスファーローラーが記載されている。(第8頁右下欄第7〜17行参照)

甲第7号証には、
(7a)アルミニウムコア上に室温体積抵抗率が5×109Ω・cmポリウレタンからなる第1被覆層、同抵抗値が3×1014Ω・cmのポリウレタンからなる第2被覆層塩化ビニリデンと疎水性二酸化珪素よりなる重合体被覆層よりなる転写ロールが記載されている。(第6頁左上欄第1〜20行参照)
甲第8号証には、
(8a)ロール芯金上に導電性プライマーの塗布層を介して導電性シリコーンゴムを被覆してなる転写ローラにおいて、アンチモンと酸化錫とからなる導電性物質を含有する導電性プライマーは接着力の低下がなく充分な導電性が得られることが記載されている。(特許請求の範囲、第2頁左上欄第16〜9行参照)

4.3 申立理由についての当審の判断
4.3.1 特許法第29条第2項違反について
(請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)について)
本件発明1は、上記請求項1に記載の構成要件を採用することにより、「感光体への密着性が高く、かつその感光体への汚染を極力抑えることができると共に外的環境変化等により電気抵抗値が変化するのを極力抑えることができ、しかも長期に亙りひびや摩耗の発生が少ない導電ロールを提供する」ことを目的とするものである。
一方、甲第1号証には、金属シャフトに導電性弾性層、導電性樹脂層が順次形成された導電性ロールに関し、導電性弾性層は導電性カーボンを配合した電気抵抗103Ω・cmのポリノルボーネンゴム組成物からなり、導電性樹脂層は電気抵抗値が1×108Ω・cmのN-メトキシメチル化ナイロン樹脂からなることが記載されている。
しかし、如何なる導電性カーボンを使用したのか記載するところはない。 甲第1号証に記載の「金属シャフト」、「導電性弾性層」及び「導電性樹脂層」は、それぞれ本件発明1の「芯部に設けた良導体のシャフト」、「伸縮性を備えた中間層」及び「被覆層」に相当する。 そして、甲第1号証に記載の「導電性被覆層」の抵抗値は「導電性弾性層」よりも高い値を示している。
そこで、本件発明1と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、次の本件発明1の構成要件が甲第1号証には記載されていない点で両者は相違する。
(1)中間層にストラクチャ構造の発達していないカーボンブラックを混入する。
(2)中間層外周表面を極性化した。
そこで、上記相違点について甲第2ないし8号証を検討する。
甲第2号証には、ローラ芯金上にプライマー塗布層を介してFEFカーボンを配合したエピクロルヒドリンゴム層を被覆した転写ローラが記載され、本件発明1と同じく「ストラクチャ構造の発達していないカーボンブラックであるFEFカーボンを混入した導電性弾性層」を有する導電性ロールに関するものではある。
しかしながら、甲第2号証には、エピクロルヒドリンゴムの充填剤として好ましい多種類の充填剤中の一例として「カーボンブラック」が示され、その具体例として、実施例にFEFカーボンが示されているにすぎない。また、「FEFカーボン」を用いた理由についての記載はなく、「ストラクチャ構造の発達していないカーボンブラック」に注目するものでもない。
したがって、甲第2号証に記載の多種類の充填剤の中から特に「ストラクチャ構造の発達していないカーボンブラック」を選定する動機付けとなるものはない。
また、甲第2号証に記載の導電ロールは被覆膜を有さず中間層外周表面を極性化する構成についての記載はない。
したがって、甲第2号証には、上記相違点(1)及び(2)に係る本件発明1の構成要件について記載又は示唆するものはない。
甲第3,4及び5号証には、ゴム表面をプラズマ処理、コロナ放電処理をすることによってゴム表面の接着性を改善すること、又は、同処理を施した樹脂層又はゴム層を有する防汚シート、不燃性繊維シートが記載されているものの、これらを技術が分野が全く異なる、感光体若しくは転写用紙に対して接触しながら所定極性の電位を付与する導電性ロールに適用することを示すものはない。
甲第6号証には、ポリウレタンエラストマーをトランスファーローラに使用することが記載され、甲第7号証には、ポリウレタンを中間層とし、被覆層に疎水性シリカを含む転写部材が記載され、甲第8号証には、中間層をポリウレタン、被覆層を塩化ビニリデンよりなる転写ローラが記載されているが、上記相違点(1)及び(2)に係る本件発明1の構成要件を記載又は示唆するものはない。
したがって、甲第1〜8号証には、上記相違点(1)及び(2)に係る本件発明1の構成要件を記載又は示唆するものはない。
そして本件発明1は、これらの構成要件を採用することによって、上記目的が達成できるものであって、実質的に意義のあるものであるから、甲第1〜8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(請求項2ないし14に係る発明について)
請求項2ないし14に係る発明は、請求項1の構成要件を実質上全て引用するものであるから、上記請求項1に係る発明の項で述べたと同様の理由により、甲第1〜8号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

4.3.2 特許法第36条違反について
特許異議申立人は、本件特許明細書の記載は、請求項1に係る発明の実施例が記載されていないのみならず、発明の詳細な説明の項にも本件請求項1に係る発明を当業者が容易に実施できる程度に記載されていない旨主張する。
本件特許明細書の記載には、本件請求項1に係る発明の構成要件の全てを単独で満たす実施例は記載されていない。
しかしながら、本件特許明細書には、導電ロールの製造の際、ロールに導電性を付与する為に導電性粉末として、例えばケッチェンブラックECやアセチレンブラック等のような導電性カーボンを使用すると、添加するその粉末量の僅かな変化や粉末の分散不良等が原因して電気抵抗値が大きく変化する場合があり、使用するものによってはゴムロールの抵抗を104〜107程度の半導体領域の特定な狭い範囲に抑える必要が生じるが、この時ケッチェンブラックECやアセチレンブラック等の導電性カーボンを使用すると、導電性粉末の添加量の僅かなふれや分散不良で大きく抵抗が変化してしまい、所定の抵抗にコントロールしにくいことが記載されている(本件特許公報第4頁第7欄第20〜25行)。
そして、ケッチェンブラックECやアセチレンブラック等のような導電性カーボンよりも、(1)ストラクチャ構造の発達していない導電性の低いSAF,ISAF,HAF,MAF,FEF,GPF,SRF等の通常のゴム用カーボンを使用すると抵抗は安定してくること、(2)さらに、これらのゴム用カーボンを使用して抵抗を下げるには大量のカーボンを配合する必要があり、ゴムの硬度が高くなってしまうことから、低硬度で、かつ低抵抗値特性を合わせ持ったゴムを作るために、ケッチェンブラック,アセチレンブラック等の導電性カーボンと上記した様な通常のゴム用カーボン或いは塗料用カーボンとの併合が有効であることが記載されている(本件特許公報第4頁第7欄第25〜34行)。 また、第9の実施の態様には、「ケッチェンブラックEC」とストラクチャ構造の発達していないカーボンブラックである「HAF」とを配合した中間層を有する導電ロールの例が記載されている。
「ストラクチャ構造の発達していない通常ゴム用カーボンの使用方法や使用量等」については、第9の実施の態様において、表1に中間層に混合されるカーボンブラックとして、(1)導電性カーボン(ケッチェンブラックEC)のみを混合した場合(実験番号1〜5)、(2)導電性カーボン(ケッチェンブラックEC)+ストラクチャ構造が発達していないカーボン(HAF)を混合した場合(実験番号6〜13)、(3)ストラクチャ構造が発達していないカーボン(HAF)のみを混合した場合(実験番号14〜16)について、それぞれの硬度と抵抗値の関係を記載している(本件特許公報第7頁)」を参照することにより「ストラクチャ構造の発達していない通常ゴム用カーボンの使用方法や使用量等」については当業者が容易に把握できる。
一方、本件特許の請求項1に係る発明の構成要件である「中間層外周表面を極性化した導電性ロール」については、第2、10及び11の実施の態様に記載されており、特に第10及び11の実施の態様において、詳細に説明されている。(本件特許公報第7頁第13欄第49行〜第8頁第15欄第43行)
したがって、本件請求項1に係る発明の各構成要件については、第1、2、9及び10の実施の態様に具体的に記載されているところであり、それらを組み合わせることによって本件請求項1に係る発明が構成できることは、本件特許明細書全体の記載に基づいて当業者が容易に認識できるところであるから、本件特許明細書が、特許法第36条第3項に違反するものではない。
また、請求項2ないし14に係る発明についても、各請求項に係る発明の構成要件は本件特許明細書中に記載されており、各請求項に係る発明について当業者が容易に実施できる程度には記載されているので本件特許明細書が特許法第36条第3項に違反するものではない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により上記の通り決定する
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
導電ロール
【発明の詳細な説明】
技術分野
この発明は、電子写真記録装置に用いる現像用、帯電用、除電用、転写用等の導電ロールに係り、特に良導体の金属シャフトの芯を有するゴムあるいは発泡材のロール外周面に抵抗調整用の被覆膜を形成した構造の導電ロールに関する。
背景技術
複写機及びレーザビームプリンタ等に広く使用されている電子写真記録装置には、一般に感光体を備えており、その感光体に対して帯電・露光を行って静電潜像を形成し、その後感光体上の潜像に応じてトナーを吸着させて現像し、次にその感光体上のトナーを用紙に転移させて転写し、その後その感光体上を所定電位に除電すると共に感光体上に残留するトナーを清掃し、さらに次の記録に備えるようになっている。また、転写後の用紙に担持されていたトナーは最後に溶融・圧着されて用紙に定着するようになっており、これにより用紙に対する一連の記録作業が完了する。
ところで、この電子写真記録装置の感光体に対してその帯電領域に所定電位を付与する帯電手段、転写領域に搬送されて来た用紙に対して所定電位を付与する転写手段、或いは転写後の感光体においてその帯電領域を一定電位に均一化させる除電手段として、細径のワイヤに数百〜数千ボルトの高圧を印加してコロナ放電をおこすように構成したコロナ帯電方式のものが広く一般的に使用されている。
しかしながら、このようなコロナ帯電方式を用いたものにあっては、コロナ放電に伴い発生するオゾン等の活性分子が感光体及びその他の部品を劣化させたり、人体にも悪影響を及ぼしたりする虞れがあり、問題になっている。しかも、またこのような方式のものは、高電圧による感電事故等の危険や、さらにワイヤの汚損・断線等に対する保守・管理の面でも問題になっている。
そこで、このようなコロナ帯電方式とは異なり、例えば導電性ゴムローラを感光体に直接接触させて所定電圧を印加するように構成した、ローラ型の接触帯電器(以下これを導電ロールとよぶ)が提案されている。この導電ロールは、コロナ帯電方式のものほど高電圧を必要とせず、オゾン等も殆ど発生しない等の優れた特徴を有しているものである。
ところで、この導電ロールにあっては、感光体への均一な電位付与のため、ロールと感光体との密着性を極力高めこれによって感光体への均一な電位を付与することが重要な課題となっており、その有効な手段の開発が望まれている。
また、この導電ロールにあっては、密着性を向上させるためこの製造時に低分子量の液状化合物、例えばオイル等の軟化剤を混入すると、その軟化剤がロール表面に浸出し、感光体を汚染する虞れがある。
また、この導電ロールの製造の際、ロールに導電性を付与する為に導電性粉末として、例えばケッチェンブラックECやアセチレンブラック等のような導電性カーボンを使用すると、添加するその粉末量の僅かな変化や粉末の分散不良等が原因して電気抵抗値が大きく変化する場合がある。
また、このような導電ロールにあっては、電気抵抗値の制御調整が極めて困難であり更に、必要な帯電圧特性を付与するのが難しいものである。
しかも、このような導電ロールにあっては、特に湿度や温度等のような外的環境の変化に伴って電気抵抗値が大幅に変化することがあり、感光体に対し常時一定の電位を付与するのが困難な場合もある。
さらにこのような導電ロールにあっては、材質的に脆弱でひびが入りやすかったり、摩耗しやすかったりすることがあり、経年変化の極力少ないものの開発が望まれている。
ところで、通常このような導電ロールの製造方法としては、第1図に示すゴムあるいは、ウレタン発泡体のローラー100に、液状の被膜材を、静電塗装、ディッピング、ロールコーター等の湿式塗布法或いは乾式被覆法で塗布し、その後乾燥して抵抗調整用の被覆膜101を形成する(第2図参照)方法が採られている。そしてこの時、▲1▼被覆材がシャフト102に付着するのを防止し、また▲2▼被覆膜101の端部形状を第2図の如く形成するため、端部外径と同じ外径寸法aを有し、シャフト102の外径寸法bとほぼ同じ内径を有するチューブ103をシャフト102にかぶせて、マスキングを行うのが一般的である(第3図)。このようにシャフト102にマスキングして被覆材を塗布し、乾燥させ或いは乾式被覆した後、第4図の如く形成された被覆膜101をc部で切断し、マスキングのチューブ103を除去すれば、第2図の形状のものが得られる。
ところで、この様なマスキングでは、感光ドラムと電気抵抗の低いゴム或いは発泡体で形成したローラーとの間でスパークしないようにするにはかなり被覆膜をはり出さなければならない。しかしながら、あまり被覆膜をはみ出すと軸受けに当たり、ちぎれる等の不都合が生じる。
また押出し時には、チューブとロールの間にエアーが残っていると、押出した膜で空気が膨張してふくれ等の現象が発生し易く、その結果この部分の耐電圧特性が悪くなる事がある。又、このようなマスキングでは湿式塗布法の場合、塗布中あるいは乾燥中に、マスキングチューブ103とシャフト102との間、あるいは、マスキングチューブ103とローラー100端面との間に、わずかに存在する空気が、ローラー100端面部分の被覆にしみだして泡を生じ、この部分にピンホール101aを発生しやすく(第5図参照)、また被覆膜101が切れやすいという問題があった(第6図参照)。
このようにピンホール101aがあったり、被覆膜101が切れて、第6図のように被覆膜101端面と、ローラー100端面が同一面形状になると、ローラー100端部で火花放電を起こしやすくなり、感光ドラムの損傷を招いていた。
この発明は、上記した従来の欠点に鑑みなされたものであって、感光体への密着性が高く、かつその感光体への汚染を極力抑えることができると共に外的環境変化等により電気抵抗値が変化するのを極力抑えることができ、しかも長期に亙りひびや摩耗の発生が少ない導電ロールを提供することを目的とするものである。
発明の開示
この発明に係る請求項1に記載の導電ロールによれば、芯部に設けた良導体のシャフトと、このシャフトの外周に設けた導電性で、かつ伸縮性を備えた中間層と、この中間層の外周に設けた中間層よりも比抵抗の高い被覆膜とを有し、感光体若しくは転写用紙に対して接触しながら所定極性の電位を付与する導電ロールにおいて、前記中間層がシリコーンゴム,ウレタンゴム,ポリブタジエン系ウレタンゴム,ポリノルホルネンゴム,天然ゴム,ポリブタジエンゴム,スチレンブタジエンゴム,アクリロニトリルゴム,エチレンプロピレンジエンゴム,アクリルゴム,エピクロルヒドリンゴム,エチレン酢酸ビニルゴム,フッ素ゴム等、及びこれらの混合物等の無発泡弾性体、或いはこれらの発泡弾性体で構成するとともに、ストラクチャ構造の発達していないカーボンブラックを混入し、かつこの中間層外周表面を極性化したものである。
図面の簡単な説明
第1図乃至第4図は従来の導電ロールの製造方法を示す工程図、第5図及び第6図は従来の導電ロールの欠点を示す説明図、第7図はこの発明に係る第1の実施の態様の導電ロールを示す断面図、第8図はこの発明に係る第2の実施の態様の導電ロールを示す断面図、第9図はこの発明に係る第3の実施の態様の導電ロールを示す断面図、第10図はこの発明に係る第4の実施の態様の導電ロールを示す断面図、第11図はこの発明に係る第5の実施の態様の導電ロールを示す断面図、第12図はこの発明に係る第6の実施の態様の導電ロールを示す断面図、第13図はこの発明に係る第7の実施の態様の導電ロールを示す断面図、第14図は第13図に示す第7の実施の態様の導電ロールにおける被覆膜の上層及び下層での各温湿度変化に対する抵抗値の変化を示すグラフ、第15図乃至第21図はこの発明に係る導電ロールの製造方法を示す工程図である。
発明を実施するための最良の形態
以下、この発明の実施の態様について添付図面を参照しながら説明する。
第7図はこの発明に係る第1の実施の態様の導電ロールを示すものであり、この実施の態様の導電ロールは、電子式複写機の帯電器として使用するようになっており、シャフト1と、柔軟性を有する中間層2と、被覆膜3とから構成されている。
シャフト1は、この導電ロールの芯部においてその軸芯方向に沿って設けられており、良導体を用いて円柱状に形成されている。
中間層2は、ドラム状の感光体(以下これを感光ドラムという)に対する密着性の向上を図るため、固形ゴムに軟化剤として液状ゴムを10〜50PHR配合したものを使用して形成(以下これをゴムロールとよぶ)されている。つまり、このゴムロール2は、例えば固形ポリブタジエンゴムと液状のポリイソプレンゴム(以下IRと略す)とを含む材料により、具体的にはシス1,4-ポリブタジエン60PHR(日本合成ゴム(株)製BR02LL)と液状ポリイソプレン40PHR(クラレイソプレン:LIR30)とケッチェンブラックEC10PHRを材料として使用して形成されている。
なお、使用する液状ゴムは主鎖に2重結合を有し数平均分子量は10000以上のものが望ましく、この程度の分子量であると、大部分のものは加硫時に固形ゴムと反応して結合してしまい、塗料中に溶け出すことがない。又、未反応で残ったものも高分子量の為に塗料中に溶け出しにくい。従ってこの様なゴムでゴムロール2を作り、その外周面上に塗料を塗って被覆膜3を形成した場合、塗膜表面に軟化剤が移行してくることが無く、このゴムロール2が感光ドラムと接した時感光ドラムを汚染しにくいようになっている。また、その液状ゴムとしては液状IR、液状BRが使用できるが、特に液状IRが好ましい。また固形BRと液状IRにすると、▲1▼軟らかいゴムを作り易い、▲2▼液状IRを多量にブレンドしてもバンバリーやロールヘの付着が少ない。
▲3▼加硫時のモールド離れがよい、▲4▼加硫が速い、▲5▼加硫物の圧縮永久歪が少ない等の特徴がある。
そして、この様なゴムロールを作るには、通常、ゴムの電気抵抗が高い為、何らかの方法でゴムの電気抵抗を下げなければならないが(以下これを導電性ゴム体とよぶ)、この実施の態様の導電性ゴム体では、導電性の粉末すなわち表面に導電化の処理をした各種金属酸化物、例えば先のケッチェンブラックECの他にも酸化亜鉛、酸化チタン、酸化錫等やカーボンブラックを混合する事によって抵抗を下げることができるように構成されている。
また、使用するものによってはゴムロールの抵抗を104〜107Ω程度の半導体領域の特定な狭い範囲に抑える必要が生じるが、この時ケッチェンブラックECやアセチレンブラック等の導電性カーボンを使用すると、導電性粉末の添加量の僅かなふれや分散不良で大きく抵抗が変化してしまい、所定の抵抗にコントロールしにくい。そこで、これ等よりもストラクチャーの発達していない導電性の低いSAF,ISAF,HAF,MAF,FEF,GPF,SRF等の通常のゴム用カーボンを使用すると抵抗は安定してくる。ところが、抵抗を下げる為には大量のカーボンを配合する必要があり、ゴムの硬度が高くなってしまう。このような事情から、低硬度で、かつ低抵抗値特性を合わせ持ったゴムを作るためには、ケッチェンブラック,アセチレンブラック等の導電性カーボンと上記した様な通常のゴム用カーボン或いは塗料用カーボンとの併合が有効である。また、カーボンブラックに比べコストがかなり高価にはなるが、上記した様な導電性金属酸化物を用いても、低硬度で半導体領域の特定な抵抗にコントロールしたゴムを作ることができる。つまり、これは導電性金属酸化物に補強性が無い事と、その導電性が導電性カーボン程高くないからである。
なお、この中間層としては特にこの実施の態様のものに限定されるものではなく、これ以外に例えばシリコンゴム,ウレタンゴム,BR系ウレタン,ノーソレックス(ポリノルボルネンゴム)等の無発泡弾性体或は発泡弾性体等でもよい。
被覆膜3は、エピクロルヒドリン,アクリルゴム,接着性のあるシリコンゴム,クロルスルホン化ポリエチレン,フルオロオレフィンビニルエーテル共重合体,一液性或いは二液性のポリウレタン,N-メトキシメチルナイロン等の変性ナイロン等、様々なものが使用でき、これ等は極性処理したゴム表面との接着が可能である。この被覆膜3は、それ単独で必要な抵抗値になるものがあるが、そうならない場合には導電性粉末を分散して抵抗値を調整するようにしてもよい。
従って、この第1実施の態様によれば、中間層2として先に説明した材料を使用することにより、粘着が少なく、ニーダーやバンバリーミキサーで混練した後に簡単に取出すことができる。また、この材料を使用することにより、加硫後のモールド離れも非常に良好でロールを損傷することなく容易に取出すことができる。
なお、この発明の導電ロールは、湿式塗布法若しくは乾式被覆法の何れで製造してもよい。例えば乾式被覆をした場合でも、液状ゴムが被覆膜へ移行しない為、膜に感光ドラム汚染物の移行防止作用をもたせる必要が無く、膜の選択範囲が広がるものである。
次にこの発明に係る第2の実施の態様の導電ロールについて説明する。
第8図はこの発明に係る第2の実施の態様の導電ロールを示すものであり、この実施の態様の導電ロールは、中間層を構成するゴムロール4の表面を塩素ガス等のハロゲンガス或いはNN-ジクロルパラトルエンスルホン酸アミド,トリクロルイソシアヌレート等の有機ハロゲン化剤を使用してハロゲン化処理する事により形成されており、これによりゴムロール4の電気抵抗を高める事ができるようになっている。つまり、ゴムロール4は、例えば103Ω以下の電気抵抗を有するロールをハロゲン化処理する事により104Ω程度の電気抵抗を有するロールにする事ができる。またこのゴムロール4は、第1の実施の態様で用いた比抵抗調整用の導電性粉末の添加とを併用することにより、更に抵抗の高い例えば105〜107Ωのロールを作る事もできる。なお、このゴムロール4は、製造途中にハロゲン化処理,コロナ放電或いはプラズマ放電等による極性処理により、表面を極性化させておくようになっている。
また、この第2の実施の態様の被覆膜5には、ウレタン,ナイロン,エピクロルヒドリンゴム,アクリルゴム等のような極性の材料を使用することにより、表面が極性化されたゴムロール4への接着が容易に行えるようになっている。なおこれ等の材料は湿式或いは乾式いずれの方法で被覆されてもかまわないものであり、何れの方法であってもゴムロール4と被覆膜5とを接着する事により抵抗の経時変化等、抵抗の変動を抑えることができる。
従って、この第2の実施の態様の導電ロールは、中間層であるゴムロール4の内部抵抗をコントロールできると、所定値の固有抵抗の導電ロールを作る際にゴムロール4と被覆膜5との抵抗比率を自由にコントロールする事ができる。そして使用時にこの導電ロール全体にかかる電圧は、この抵抗比率に応じて中間層と被覆膜5とに印加される事になるので、被覆膜5に充分な耐電圧が無いような場合には、中間層側での内部抵抗の比率を上げる事によってロール全体の耐電圧を上げる事ができる。
次にこの発明に係る第3の実施の態様の導電ロールについて第9図を参照しながら説明する。
この第3の実施の態様の導電ロールは、中間層として第1の実施の態様と同様の軟化剤により柔軟化されたゴムロール6が使用されており、また被覆膜7には一液性ウレタンを使用したポリマーが用いられている。
被覆膜7は、一液性ウレタンを使用することにより柔軟処理したゴムロール6に対し強固に接着することができるものであり、特に導電性粉末を混入して抵抗を調整したエステル系ウレタン、エーテル系ウレタンはいずれも高い耐電圧を示すことがわかっている。例えば体積固有抵抗が108〜1010Ω・cm付近で膜厚が100〜200μmの時、耐電圧特性は1.5〜2.5KV程度を有するものである。なお、この被覆膜7の抵抗合わせには、導電性金属酸化物、例えば酸化亜鉛,酸化チタン,酸化錫やカーボンブラック等の導電粉末の分散によってなされている。そして、例えばこのカーボンブラックを使用する場合には、ケッチェンブラックECやアセチレンブラックの様な高度な導電性カーボンではなく、SAF,ISAF,HAF,MAF,FEF等のDBP吸油量(ASTM D2414)150以下程度のストラクチャーを有したゴム用カーボン或いは塗料用のカーボンを用いることにより、膜の体積固有抵抗を106〜1010Ω・cm程度の半導体域の特定の値にコントロールする事が可能である。この発明者による研究・実験の結果、特にエステル系一液性ウレタン塗料にDBP吸油量50〜130程度の塗料用カーボンブラックを分散した場合には、表面を処理して酸性にしてある塗料用カーボンブラックはウレタンとの馴染も良く、非常に分散が良いため、バラつきの安定した抵抗の膜を作る事ができることが判明した。
次に、この発明に係る第4の実施の態様の導電ロールについて第10図を参照しながら説明する。
この第4の実施の態様の導電ロールは、被覆膜8に疎水性シリカを混在させたものが使用されている。
通常一般に、被覆膜の抵抗値は、置かれた環境の湿度に大きく依存し、多くの場合使用する環境条件内で適正な範囲を越えてしまうことがある。
そこでこの発明者が種々の試みを行った結果、塗料に疎水性シリカ(シリカにシリコンオイルを化学的に結合したもの)を5〜50PHR程度混入すると、抵抗の変化が少なくなるという事実が判明した。即ちこれは、シリコンオイルによって被覆膜全体が撥水性になるからである。なお、その被覆膜は、一般にシリコンオイルそのものを混入すると、膜からブリードして感光ドラムを汚染する等の問題を発生するが、シリカに付加してあるとブリードしないので、この様な問題も起こらず、その点でも好都合である。
次に、この発明の第5の実施の態様について第11図を参照しながら説明する。
この第5の実施の態様の導電ロールは、被覆膜9に対する抵抗調整用の導電性粉末として、酸化アンチモンをドープした導電性の酸化錫が使用されている。
従って、この第5の実施の態様の導電ロールによれば、この酸化錫の粒径が0.1μm以下と極小であり、分散性が非常に良好であるので、分散量を適宜変更することにより被覆膜9の抵抗値を容易にコントロールすることができる。
また、この酸化錫は、球状であるので、加工時のシェアーのかわり方による膜の抵抗の異方性が現れにくく、従ってロールとして良好な特性を発揮することができる。
次にこの発明の第6の実施の態様について第12図を参照しながら説明する。
この第12図の実施の態様の導電ロール6は、被覆膜10の形成材料としてN-メトキシメチルナイロン等のような変性ナイロンが使用されている。
そして、この発明者が第6の実施の態様の導電ロールを用いて各種実験を行ったところ、感光ドラムに被覆膜10を密着状態で接触させ一ヶ月間放置したときに、その感光ドラムヘの汚染が無いことがわかった。
次にこの発明に係る第7の実施の態様の導電ロールについて第13図を参照しながら説明する。
この第7の実施の態様の導電ロールは、被覆膜が上層11及び下層12の2層構造から構成されている。
上層11は、多少硬く耐電圧が低くとも感光ドラムヘの汚染の全く無い材料を1〜20μm程度に薄く被覆するようになっている。そして、この実施の態様の上層11には、この形成材料として例えばN-メトキシメチルナイロン等の変性ナイロンが使用されていると共に、これに酸化アンチモンをドープさせた酸化錫を分散させた構成となっており、湿度等の外的環境の変動(例えば32.5℃で82.5%RH〜15℃10%RH)に対しても記録時の画像に悪影響を及ぼさないようになっている。なお、N-メトキシメチルナイロンのような変性ナイロンは上述したように、上層として好適な材料であるが、▲1▼これらは全く架橋しないと感光ドラムヘの密着が乏しいこと、▲2▼架橋しすぎると膜がもろくなり摩耗しやすくなったり、表面にヒビが入り、耐電性が低下すること、▲3▼導電性の粉末を入れても電気抵抗が高くなりすぎる傾向にあること等の欠点がある。
そこで、これ等の被覆膜の架橋度を適度にコントロールすることにより、例えば架橋度のコントロールを酸触媒或いは加温によって行うことにより、上記した欠点を大幅に改善することができるようになっている。
下層12は、軟らかく、かつ耐電圧が良好で、しかも中間層2のゴム又は発泡体への汚染をもたらす物質を透過させない材料を用いて50〜200μm程度に厚く被覆した構成のものである。特にこの実施の態様の下層12の材料としては、一液性又は二液性のポリウレタン,エピクロルヒドリンゴム,アクリルゴム,クロルスルホン化ポリエチレン,変性ナイロン等が好ましい。
なお、被覆層を構成する上層11と下層12との比抵抗については、上層11側の抵抗値をR1、下層12側の抵抗値をR2とすると、
(R2/R1)>1
とすることが望ましく、これによって温湿度の影響を効果的に抑えることができる。
従って、この第7の実施の態様の導電ロールによれば、被覆膜として下層12と、この下層12の膜厚より抵抗値の低い上層11とで構成することにより、導電ロールの抵抗の環境依存性を少なくする事ができる。即ちこれは、第14図に示すように低湿度条件で高くなる下層12の接触抵抗を抵抗値の低い膜つまり上層11を介在させる事によって下げることができるからである(なお、この第14図は、片対数目盛であり、縦軸側のロール抵抗値を対数で表示している)。
次にこの発明に係る第8の実施の態様について第15図を参照しながら説明する。
この第8の実施の態様の導電ロールは、中間層16と被覆層17の抵抗の比が1:1.5となるように比抵抗が調整されている。
中間層16は、ポリブタジエンと液状ボリイソプレンにカーボンを混合し、射出成形して形成されており、ロール抵抗(外周面に1cm幅のアルミ箔を巻装し1KVの電圧を印加して測定したもの)が1×108Ωを有する構成となっている。
被覆層17は、中間層16の外周面に80μmの厚さがカーボン入ポリウレタン塗料を塗布して形成されており、同様にロール抵抗が1.5×108Ωを有する構成となっている。
従って、この第8実施の態様に係る導電ロールにおいて、この中間層16と被覆層17との間に1.5KVの高電圧を印加してみたが、電圧破壊をおこさぬことが確認された。
次にこの発明に係る第9の実施の態様について表1を参照しながら説明する。
この第9実施の態様では、中間層に固形ゴムと軟化剤として液状ゴムを含む場合(a)と、中間層に液状ゴムを含まない場合(b)との双方に対して、夫々導電性カーボン(c)であるケッチェンブラックECと非導電性カーボン(d)であるHAFとを混入させた場合の硬度並びに抵抗について測定したところ、次の表1の如きデータが得られた。
この表1から、▲1▼固形ゴムと液状ゴムとを併用すると、硬度が低くて抵抗が安定すること、▲2▼併用する液状ゴムとして、ポリブタジエン(BR)70PHRと液状ポリイソプレン(LIR)30PHRを用いると、カーボンの配合量が少なくても電気抵抗の低いものが得られること、が判明した。
従って、この第9の実施の態様により、軟らかく、かつ導電性の良好な加硫ゴムを作ることができる。
なお、この第9の実施の態様では、液状ゴムを含む場合(a)には、ポリブタジエン(BR)70PHRと液状ボリイソプレン(LIR)30PHRにカーボンブラックをバンバリーで混練し、プレス加硫してシートを作り、硬度と抵抗とを測定した。また、液状ゴムを含まない場合(b)には、スチレンブタジエンゴム(SBR),天然ゴム(NR)にカーボンブラックをバンバリーで混練し、プレス加硫してシートを作り、硬度と抵抗とを測定したものである。

次にこの発明に係る第10の実施の態様について第2表を参照しながら説明する。
この第10の実施の態様に係る導電ロールは、中間層の表面が極性化された構成となっている。この実施の態様では、このような構成のものを2種の処理方法、即ち▲1▼トリクロロイソシアヌレートのアセトン4%で2回浸漬させた場合(e)と、▲2▼トリクロロイソシアヌレートの酢酸エチル4%で2回浸漬させた場合(f)とについてその処理前後でのロール抵抗(ロールに1cm幅のアルミ箔を巻き1KVの電圧を印加して測定したもの)を測定したところ、表2のような結果が得られた。
この表2から、極性化処理を行うことにより、固有体積抵抗値を増大させることができ、換言すれば中間層の抵抗制御を行うことが可能となることがわかる。つまり、これは、処理剤が中間層内部に含浸し、表面に極性化された数十ミクロンの層が形成されるからである。
また、この極性化処理を行うことにより、表面の粘着性が低下したゴミが付着しにくくなるとともに極性化させた被覆膜と容易に接着させることも可能となる。
なお、この実施の態様では、(e)の場合に用いる中間層として、シス1,4-ポリブタジエン60PHR(日本合成ゴム(株)製BR02LL)、液状ポリイソプレン40PHR(クラレイソプレン(株)製のLIR30)、ケッチェンブラックEC(ケッチェン・ブラック・インターナショナル(株)製)10PHRと加硫剤をB型バンバリーで混練後、射出成形したものである。また、(f)に用いたものは、シス1,4-ポリブタジエン70PHR、液状ポリイソプレン30PHR、ケッチェンブラックEC8PHRと加硫剤をB型バンバリーで混練後、射出成型して形成したものである。

次にこの発明に係る第11の実施の態様について説明する。
この第11の実施の態様に導電ロールは、中間層がポリブタジエンと液状ポリイソプレンにカーボンブラックと加硫剤を混合して射出成型して形成したものである。これをトリクロルイソシアヌレートのアセトン2%溶液で極性化処理し、これにカーボンの入った熱可塑性ウレタン塗料を塗布し、乾燥させて被覆膜を形成した。
このようにして形成した導電ロールを、実験室内に1ヶ月間放置してみたところ、ロール抵抗がはじめ2.2×105Ωを有していたものが、2.3×105Ωとなり、殆ど変化していないことが判明した。因に、極性化処理を行なわずに同一材料と同様に形成したものを同一期間放置してそのロール抵抗を測定したところ、はじめ2.0×105Ωだったものが1.0×106Ωへと大きく変化することがわかった。
従って、この実施の態様によれば、抵抗について経時経年変化の発生を抑えられることが可能であることがわかる。即ちこれは、中間層と被覆膜とが強固に接着されるため、接着不良に伴い接着部位に発生する僅かな隙間に中間層から成分がブリードして抵抗値を変化させることが防止されているのである。また、中間層に被覆膜を接着させる際に被覆膜のずれやしわが防止できるので、複写の際の画像の乱れも防止できる。
次にこの発明に係る第12の実施の態様について説明する。
この実施の態様の導電ロールは、被覆膜が一液性ウレタン又は二液性ウレタンを使用したポリマーにより形成されており、特にこの実施の態様ではウレタンの主鎖がアジピン酸エステルにより形成されている。
即ち、この実施の態様の導電ロールは、中間層としてポリブタジエンと液状ポリイソプレンにカーボンブラックと加硫剤とを入れ、混練させて射出成型により形成したものを使用している。このようにして形成した中間層に、トリクロルイソシアヌレートのアセトン2%溶液で処理し、カーボンを分散させた熱可塑性ウレタン塗料(ミラクトラン社製の商品名P22S)を塗布し、乾燥させて4μmの被覆膜を形成させた構成となっている。
このようにして形成した導電ロールに、ポリカーボネイトを主原料とする感光体の応力腐食割れ実験を行ったところ、ウレタンの被覆膜を有する導電ロールを感光体に密着させた場合には、20日以上に亙り割れの発生がみられなかった。また、中間層のみからなるものを感光体に密着させた場合には8時間でその中間層に割れが発生した。
この実験から、ウレタンは部分的に結晶化して強度が高く、また接着処理した中間層、つまりゴムロールと強固に接着することがわかる。また、このウレタンは耐電圧が高く、カーボンや導電製金属酸化物で半導体域に抵抗を合わせたときにも高耐電圧が発揮できるものであり、特にアジピシ酸エステルの耐電圧は優れているものである。
次にこの発明に係る第13の実施の態様について説明する。 この第13の実施の態様の導電ロールは、被覆膜がエステル系一液性ウレタン塗料にDBP吸油量130〜50程度の塗料用カーボンブラックを分散した構成となっており、特にこのような構成とすることにより、バラツキの少ない安定した抵抗の膜が得られることが、この発明者の研究・実験により確認されている。
即ち、この実施の態様のものは、被覆膜として、1,4-ブタンジオールとアジピシ酸のエステルをMDI(4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート)で鎖延長した一液性ポリウレタン(日本ミラクトン社商品名P22S100PHRをジオキサン/MEKの16%濃度に溶解し、これに平均粒子径22μm、DBP吸油量が100ml/100g,PH3.5のカーボン(三菱化成社商品名MA100)を18PHRを加えた塗料を使用したものである。そして、この実施の態様の導電ロールは、この塗料をトリクロルイソシアヌレート溶液でハロゲン化処理した中間層におよそ200μmの膜厚となるように塗布して、120℃で5時間乾燥させて形成したものである。
なお、この実施の態様の被覆膜として使用する先の塗料から厚さ100μmのフィルムを何枚か作成し、これを120℃で5時間乾燥後、体積固有抵抗を測定したところ、6.0×108-8.0×108の狭い範囲に再現性よくおさまることが、この発明者による実験・測定から確認することができた。また、このようにして先の塗料を塗布した導電ロールについて、回転させながら直流電圧を印加して耐電圧実験を行ったところ、2.0KVで電圧破壊をおこさないことが確認され、少なくとも2.0KV以上の耐電圧特性を有することも判明した。
次に、この発明に係る第14の実施の態様について説明する。
この第14実施の態様の導電ロールは、被覆膜として疎水性シリカを混在させたものが使用されており、これによって次の第3表に示す如く、抵抗の環境変化が少なくなることが確認された。
なお、この実施の態様においては、中間層としてポリブタジエンと液状ポリイソプレンにカーボンブラックと加硫剤を入れ、射出成型して形成したゴムロールを使用している。そして、この実施の態様の導電ロールは、このようにして形成した中間層をトリクロルイソシアヌレートのアセトン2%溶液で処理し、この外周面に疎水性シリカとして日本シリカ(株)社製の商品名SS10を使用し、これを10PHR含むカーボンの入った熱可塑性ウレタン塗料を塗布して乾燥させて被覆膜を形成させた構成となっている。

次に、この発明に係る第15の実施の態様について説明する。
この第15の実施の態様の導電ロールは、被覆膜が酸化アンチモンをドープさせた酸化スズを有する構成となっている。即ち、この実施の態様の導電ロールは、被覆膜として導電性の酸化錫を用いており、これによって次のような効果が得られることが判明した。
▲1▼含有する酸化錫の粒径が0.1μm以下と極小であり、分散性が非常に良好であるので、分散量を適宜変更することにより、被覆膜の抵抗値を容易にコントロールすることができる。
▲2▼また酸化錫は、球状なので加工時のシェアーのかかり方による膜抵抗の異方性が現れにくく、従って導電ロールとして良好な特性を発揮することができる。
また、この実施の態様に係る導電ロールと各種材料で被覆膜を形成した導電ロールとについてこの発明者が各種実験を行うために実際に被写機内の現像ロールとして使用してみたところ、次のような表4のような画質についての知見が得られた。

また、同様に酸化錫を変性ナイロンに入れて2層に構成された被覆膜の上層に塗布した場合と、その他の各種材料を変性ナイロンに入れて被覆膜の上層に塗布した場合とについても全く同様に表4のような結果も得られた。
次に、この発明に係る第16の実施の態様について説明する。
この実施の態様の導電ロールは、被覆膜の形成材料に変性ナイロンを使用すると共に、この変性ナイロンの架橋度が感光ドラムヘの高密着性、脆弱性の発生防止及び高耐電性等を考慮した所定値を有する構成となっている。
即ち、この実施の態様の導電ロールの被覆膜には、変性ナイロンとしてN-メトキシメチルナイロン(帝国化学社製商品名トレジンEF30T)を使用しているが、これ以外に例えばN-メトキシメチル化共重合ナイロン(帝国化学社製商品名トレジンG550)や変性共重合アミド(東レ社製商品名AQナイロンP-70)、ポリエーテル、ポリエステル共重合柔軟化ナイロン(東レ社製商品名ペバックス2533,同3533)でもよい。
なお、この実施の態様に使用するN-メトキシメチルナイロン等の変性ナイロンは、被覆膜の上層として好適な材料であるが、▲1▼これらは全く架橋しないと感光ドラムヘの密着が乏しいこと、▲2▼架橋しすぎると膜がもろくなり摩耗しやすくなったり、表面にヒビが入り、耐電性が低下すること、▲3▼導電性の粉末を入れても電気抵抗が高くなりすぎる傾向にあること、等の欠点を有している。
そこで、このような事情から、この発明者が各種研究を行った結果、被覆膜の架橋度をコントロールすることにより、例えば架橋度のコントロールを酸触媒或は加温で行うことにより、先の欠点が大幅に改善されることが判明したものである。
従って、この実施の態様の被覆膜に使用する架橋N-メトキシメチルナイロンと同一のものを用いて形成したものを感光ドラムに密着させて1箇月間放置させたところ、感光ドラムヘの汚染が無いことが判明した。
次に、この発明に係る第17の実施の態様について説明する。
この第17の実施の態様の導電ロールは、被覆膜が上層及び下層の2層から構成されている。
上層は、感光ドラムヘの汚染密着のない材料を用いて、下層外周面上に3〜50μmの厚さで形成されており、特にこの実施の態様では第7の実施の態様と同様の変性ナイロンが使用されている。そして、この実施の態様の上層は、下層に比べ薄く形成するので、多少硬く耐電圧が低くてもよい。
下層は、先の第7実施の態様と同様に軟らかく、かつ耐電性が良好で、しかも中間層のゴムや発泡体中の感光ドラムヘの汚染をもたらす物質を透過させない材料を用いて、50〜200μm程度に厚く中間層外周面上に形成した構成となっている。即ち、この下層としては、JISA硬度80度前後の軟らかい熱可塑性ウレタンを使用しており、これにより耐電性が良好で、しかも中間層のゴムや発泡体の感光ドラムヘの汚染をもたらす物質を透過させるおそれがないようになっている。
従って、この第17実施の態様によれば、上層と下層とで夫々機能を分離分担させることにより、これらの各層に使用する材料の選択範囲が大幅に拡大するものである。
なお、下層について塗料用カーボンを分散させた一液性ウレタン塗料で被覆すると、所定の抵抗に合わせることは容易だが、カーボンの軸方向への配向のため、感光ドラムにピンホールがあると、その部分の軸方向に亙って帯電不良をもたらし、画像に黒線を発生し易いことが判った。特に、ロール抵抗の環境による変動や通電による上昇等を考慮して、ロール抵抗を低く(3×105Ω以下)したとき、この現象が起こり易いことが判明した。そこで、この発明者が種々の実験研究を行ったところ、先の一液性ウレタン塗料による被覆の後に、導電性酸化錫を分散させたトレジンを3〜20μm程度被覆することによって、黒線の発生を抑えることができた。これは、酸化錫が微細な球状を有することから、配向が少ないことが理由として考えられる。導電性酸化錫はカーボンと比べ著しく高価であるが、下層にカーボンのような安い導電材料を使い、上層に薄く(5〜30μm)高価ではあるが性能の良い導電材料を用いることにより、高性能の帯電ロールを安価に作ることが出来る。
また、この実施の態様において、特に高い耐電圧特性を付与する場合、下層だけのロール抵抗値を上げる必要がある(3×105Ω以上)。ところが、このときロール抵抗の環境依存性が出てくるが、下層膜の比抵抗より上層膜の比抵抗を低抵抗とすることによって、特に湿度等の外的環境依存度を大幅に低下することができる。なお、下層だけのロール抵抗が2×105Ω以下と低い場合には、上層膜の比抵抗を下層膜の比抵抗より下げなくとも外的環境依存性は少ない。また、導電粉を配合したウレタンは高湿下で比抵抗が高くなるが、導電粉を配合した変性ナイロンは高湿下で比抵抗が下がる。従って、ウレタンを下層、変性ナイロンを上層とする2層被膜とすることは特に好ましく、導電ロールの環境依存性を少なくすることが出来る。
次に、この発明に係る第1の実施の態様の導電ロールについてその製造方法を第15図乃至第21図を参照しながら説明する。
(1)まず外径8mmの金属シャフト1に、導電性の接着剤13を塗布する(第15図参照)。つまり、これはシャフト1とゴムロール2とを堅固に接着させ、回転時の耐久性を向上させ、かつ、シャフト1とゴムロール2との間の接触抵抗を均一にし、電気的な抵抗ムラをなくすためである。
(2)次に、このシャフト1の周囲にインジェクション成形、あるいは、押し出し成形で、外径15mmのゴムロール2を成形、加硫する(第16図参照)。
このとき使用するゴム材料には、被膜材の溶剤に充填油がしみださないように、固形ゴムに軟化材として液状ゴムを混合し、かつ、導電材料を配合した導電性のものを使用する。
(3)シャフト1の両端に、ポリプロピレン製の、内径6mm、外径9mmのチューブ14を被せる(第17図参照)。
このチューブ14の材質は、被膜溶液を汚染しないもので、かつシャフトを弾力的に把持するものが良い。なお、このときピンホールの発生を防止するため、ゴムロール2とチューブ14との外径差を0.5mm以上確保するのが望ましい。特に液溜りをつくるための段差Sとしては、0.25mm以上を確保するのが好ましい。
(4)その後、ゴムロール2表面の異物を除去するために、純水あるいはメタノール、トルエン等で洗浄し、乾燥する。
(5)そして、ゴムロール2と被覆膜3とを接着させるため、ハロゲンガス若しくは有機ハロゲン化剤でゴムロール2表面を極性化処理する。
即ちこれは、コムロール2と被覆膜3との間にわずかでも空気層があると、耐電圧特性が劣り、また電気抵抗のムラが発生するからであり、被覆膜3がゴムロール2と堅固に接着することが重要となっているからである。
(6)次に、ゴムロール2の一端部を保持して、垂直に立て、被膜材溶液15にディッピングする(第18図参照)。この被膜材溶液は、カーボン,グラファイトや導電化した金属酸化物、すなわち酸化チタン,酸化亜鉛,酸化スズ等を導電材とした電動性ウレタンが好ましい。このウレタンは、柔らかくハロゲン系処理でゴムロール2と良く接着するので、導電ロールの被覆膜には適した材料であるが、その他に、アクリル,エピクロ,若しくはナイロンでも良い。
なお、発泡体の場合には、比較的粘度の高い被膜材溶液の使える、ロールコーターやナイフコーター等のコーター方式が適している。
(7)そして、そのゴムロール2及びマスキング用のチューブ14を加熱乾燥させると、被覆膜3の収縮によりロール端部は、第19図の状態から第20図に示すように変化してフィレットAを形成する。このフィレットAは、先に述べたように端部の耐電圧特性を向上するのに役立つ。なお、ゴムロールを縦にして被膜材溶液を塗布乾燥させる場合には、ゴムロール端面に余計に付着した被膜材溶液が乾燥中徐々にゴムロール側面に垂れてきて、被覆膜3の厚みにムラを生ずる虞れがあるので、ゴムロールとチューブとの外径差を2.5mm以下にするのが好ましい。
(8)最後に、被覆膜3のB部分において円周方向全体に亙りナイフで傷を入れ(第20図参照)、マスキングチューブを取り外す(第21図参照)。
産業上の利用可能性
以上のように、この発明に係る導電ロールは、電子写真記録装置に用いる現像用,帯電用,除電用,転写用等の導電ロールとして有用であり、特に複写機の感光体に対する電位の付与若しくは除去用として好適である。
(57)【特許請求の範囲】
1.芯部に設けた良導体のシャフトと、このシャフトの外周に設けた導電性で、かつ伸縮性を備えた中間層と、この中間層の外周に設けた中間層よりも比抵抗の高い被覆膜とを有し、感光体若しくは転写用紙に対して接触しながら所定極性の電位を付与する導電ロールにおいて、
前記中間層がシリコーンゴム,ウレタンゴム,ポリブタジエン系ウレタンゴム,ポリノルホルネンゴム,天然ゴム,ポリブタジエンゴム,スチレンブタジエンゴム,アクリロニトリルゴム,エチレンプロピレンジエンゴム,アクリルゴム,エピクロルヒドリンゴム,エチレン酢酸ビニルゴム,フッ素ゴム等、及びこれらの混合物等の無発泡弾性体、或いはこれらの発泡弾性体で構成するとともに、ストラクチャ構造の発達していないカーボンブラックを混入し、かつこの中間層外周表面を極性化したことを特徴とする導電性ロール。
2.被覆膜の少なくとも中間層の接着面に極性の被覆物質を施したことを特徴とする請求項1に記載の導電ロール。
3.被覆膜が、一液性又は二液性のウレタンを使用したポリマーにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の導電ロール。
4.被覆膜が一液性ウレタン又は二液性ウレタンと塗料用カーボンとを有することを特徴とする請求項1に記載の導電ロール。
5.被覆膜に疏水性シリカが混在することを特徴とする請求項1,2または4に記載の導電ロール。
6.被覆膜が、酸化アンチモンをドープさせた酸化スズを有することを特徴とする請求項1,2,4または5に記載の導電ロール。
7.被覆膜形成材料に変性ナイロンを使用していることを特徴とする請求項1,2,4,5または6に記載の導電ロール。
8.被覆膜が、感光体若しくは転写用紙に対する汚染のない比較的硬質で、かつ薄く形成した上層及び比較的柔軟で、かつ上層よりも厚く形成した耐電性の良好な下層よりなる2層構造であることを特徴とする請求項1に記載の導電ロール。
9.上層の形成材料として、変性ナイロンを使用していることを特徴とする請求項8に記載の導電ロール。
10.上層が、酸化アンチモンをドープさせた酸化スズを含有することを特徴とする請求項8に記載の導電ロール。
11.下層の形成材料として、一液性又は二液性のウレタンを使用したポリマーにより形成されていることを特徴とする請求項8に記載の導電ロール。
12.上層の厚さが1〜20μmで、下層の厚さが50〜200μmであり、上層の抵抗値R1と下層の抵抗値R2との比(R2/R1)が1より大であることを特徴とする請求項8に記載の導電ロール。
13.下層が一液性ウレタンと二液性ウレタンからなり、上層が変性ナイロンであることを特徴とする請求項8に記載の導電ロール。
14.下層が上層よりも柔軟で厚いことを特徴とする請求項8に記載の導電ロール。
15.中間層がハロゲン化処理されていることを特徴とする請求項8に記載の導電ロール。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第3100625号の明細書を次のとおり訂正する。
平成9年11月20日付けの全文訂正明細書の、
第6頁17行、同第6頁19行、同第6頁20行、同第6頁21行、同第6頁22行、同第6頁23〜24行、同第7頁1行、同第7頁2行、同第7頁8行、同第7頁10行、同第7頁11行、同第8頁24行、同第10頁2行、同第10頁16行、同第11頁3行、同第11頁5行、同第11頁6行、同第11頁15行、同第11頁22行、同第12頁6行、同第12頁15行、同第12頁17行、同第12頁18行、同第13頁22行、同第13頁24行、同第14頁15行、同第14頁17行、同第14頁20行、同第15頁4行、同第15頁6行、同第15頁9行、同第15頁13行、同第15頁15行、同第15頁19行、同第16頁16行、同第17頁2行、同第17頁11行、同第17頁13行、同第18頁1行、同第18頁5行、同第18頁7行、同第18頁20行、同第18頁22行、同第21頁1行、同第21頁3行、同第21頁4行、同第21頁20行、同第22頁12行、同第22頁13行、同第23頁3行、同第23頁11行、同第23頁12行、同第23頁14行、同第23頁16行、同第24頁14行、同第24頁15行、同第24頁21行、同第25頁5行、同第25頁9行、同第25頁19行、同第25頁21行、同第26頁1行、同第26頁4行、同第26頁第11〜17行の〔表3〕、同第26頁18行、同第26頁20行、同第26頁22行、同第27頁8行、同第28頁4行、同第28頁6行、同第28頁10行、同第28頁18行、同第29頁6行、同第29頁10行、同第29頁12行、同第29頁16行(2個所)、同第29頁17行、同第29頁20行、同第30頁5行、同第31頁2行、同第31頁16行の「実施例」を、明細書の不明瞭な記載の釈明を目的として、いずれも「実施の態様」と訂正する。
異議決定日 2001-12-04 
出願番号 特願平3-502316
審決分類 P 1 652・ 531- YA (G03G)
P 1 652・ 121- YA (G03G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 彌一  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 植野 浩志
阿久津 弘
登録日 2000-08-18 
登録番号 特許第3100625号(P3100625)
権利者 株式会社ブリヂストン
発明の名称 導電ロール  
代理人 増田 竹夫  
代理人 増田 竹夫  

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