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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C07K
審判 全部申し立て 発明同一  C07K
管理番号 1056823
異議申立番号 異議1998-73683  
総通号数 29 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1987-10-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-07-27 
確定日 2002-04-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第2705791号「AIDS関連病の検出のための合成抗原」(発明の数:2)の特許請求の範囲第1項および第7項に係る特許に対する特許異議の申立てについてした平成12年12月27日付けの特許取消決定に対し、東京高等裁判所において決定取消の判決(平成13年(行ケ)第238号、平成13年12月13日判決言渡)があったので、さらに審理の結果、次のとおり決定する。 
結論 特許第2705791号の特許請求の範囲第1項および第7項に記載された発明についての特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
(1)本件特許第2705791号の発明についての出願は、昭和61年(1986年)4月21日(パリ条約による優先権主張:1985年4月29日、米国(US)、同年8月19日、米国(US)、1986年3月26日、米国(US))に国際出願され、平成9年10月9日に設定登録され、その後、ベーリンガー マンハイム ゲーエムベーハーより特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされた後、再度の取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成12年2月3日に訂正請求がなされたが、訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内に応答がなく、平成12年12月27日に特許取消決定がなされた。
(2)特許権者は、同決定の取消しを求める訴えを東京高等裁判所に提起する一方、平成13年5月17日に本件の明細書の訂正を求める審判を請求した(2001年審判第39076号事件)。特許庁は、平成13年6月19日、上記訂正を認める旨の審決をし、同審決は確定した。
(3)東京高等裁判所は、先の取消決定取消訴訟(平成13年(行ケ)第238号)について決定取消の判決(平成13年12月13日判決言渡)を行い、同判決は確定した。

II.特許異議の申立てについて
1.訂正後の本件特許発明
本件特許の発明の要旨は、訂正された特許明細書の特許請求の範囲第1項および第7項に記載された次のとおりのものである。(以下、それぞれ「本件第1発明」、「本件第2発明」という。)
<本件第1発明>
「1.サンプルを、LAV/HTLV-IIIエピトープ部位と免疫学的に競争するエピトープ部位を有するペプチドと混合し、それによって抗体がそのようなべプチドと結合し、特異的結合対複合体を形成し、そして複合体形成の量を決定することを含んで成る、LAV/HTLV-IIIウイルス又は LAV/HTLV-IIIウイルスに対する抗体を検出するための方法において、アッセイ培地中に、8〜50個のアミノ酸から成り、
(I)(15)
Asp-Cys-Lys-Thr-Ile-Leu-Lys-Ala-Leu-Gly-Pro-Ala-Ala-Thr-Leu-Glu-Glu-Met-Met-Thr-Ala-Cys,
(II)(17)
Leu-Lys-Glu-Thr-Ile-Asn-Glu-Glu-Ala-Ala-Glu-Trp-Asp-Arg-Val-His-Pro-Val-His-Ala,
(IV)(90)
Tyr-Ser-Pro-Thr-Ser-Ile-Leu-Asp-Ile-Arg-Gln-Gly-Pro-Lys-Glu-Pro-Phe-Arg-Asp-Tyr-Val-Asp-Arg-Phe-Tyr-Lys-Thr-Leu-Arg,
(VI)(97)
Arg-Glu-Leu-Glu-Arg-Phe-Ala-Val-Asn-Pro-Gly-Leu-Leu-Glu-Thr-Ser-Glu-Gly-Cys-Arg-Gln-Ile-Leu-Gly-Gln-Leu-Gln-Pro-Ser-Leu-Gln-Thr,
(VII)(71)
Asp-Thr-Gly-His-Ser-Ser-Gln-Val-Ser-Gln-Asn-Tyr,
(VIII)(36)
Val-Lys-Ile-Glu-Pro-Leu-Gly-Val-Ala-Pro-Thr-Lys-Ala-Lys-Arg-Arg-Val-Val-Gln-Arg-Glu-Lys-Arg-Ala,
(X)(39)
Arg-Ile-Leu-Ala-Val-Glu-Arg-Tyr-Leu-Lys-Asp-Gln-Gln-Leu-Leu-Gly-Ile- Trp-Gly-Cys-Ser-Gly-Lys-Leu-Ile-Cys,
(XI)(40)
Lys-Ser-Leu-Glu-Gln-Ile-Trp-Asn-Asn-Met-Thr-Trp-Met-Glu-Trp-Asp-Arg-Glu-Ile-Asn 、又は
(XII)(23)
His-Ser-Leu-Ile-Glu-Glu-Ser-Gln-Asn-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Gln-Glu-Leu-Leu-Glu-Leu-Asp-Lys-Trp,
からの LAV/HTLV-IIIの少なくとも8個の隣接するアミノ酸を有するペプチド
〔但し、次のアミノ酸配列:
(a)Met-Leu-Lys-Glu-Thr-Ile-Asn-Glu-Glu-Ala-Ala-Glu-Trp-Asp-Arg-Val-His-Pro-Val-His-Ala;
(b)Gly-Pro-Lys-Glu-Pro-Phe-Arg-Asp-Tyr-Val-Asp-Arg-Phe-Tyr-Lys-Thr-Leu-Arg-Ala-Glu-Gln-Ala-Ser-Gln-Glu-Val-Lys-Asn-Trp-Met-Thr-Glu-Thr-Leu-Leu-Val-Gln-Asn-Ala-Asn-Pro-Asp-Cys-Lys;
(c)Ala-Ser-Arg-Glu-Leu-Glu-Arg-Phe-Ala-Val;
(d)Pro-Thr-Lys-Ala-Lys-Arg-Arg-Val-Val-Gln-Arg-Glu-Lys-Arg;
(e)Ala-Val-Glu-Arg-Tyr-Leu-Lys-Asp-Gln-Gln;及び
(f)Leu-Ile-Glu-Glu-Ser-Gln-Asn-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Gln-Glu-Leu-Leu-Glu-Leu-Asp-Lys-Trp-Ala
から成るペプチド並びにこれらのペプチドの等価物を除く〕であって、
巨大分子(それに対する抗体はヒト血清中に実質的に存在しない)に結合しているか又は結合していないペプチドを使用することを特徴とする方法。」
<本件第2発明>
「7.LAV/HTLV-IIIエピトープ部位と免疫学的に競争するエピトープ部位を有するペプチドを含んで成る試薬であって、前記ペプチドが8〜50個アミノ酸から成り、
(I)(15)
Asp-Cys-Lys-Thr-Ile-Leu-Lys-Ala-Leu-Gly-Pro-Ala-Ala-Thr-Leu-Glu-Glu-Met-Met-Thr-Ala-Cys,
(II)(17)
Leu-Lys-Glu-Thr-Ile-Asn-Glu-Glu-Ala-Ala-Glu-Trp-Asp-Arg-Val-His-Pro-Val-His-Ala,
(IV)(90)
Tyr-Ser-Pro-Thr-Ser-Ile-Leu-Asp-Ile-Arg-Gln-Gly-Pro-Lys-Glu-Pro-Phe-Arg-Asp-Tyr-Val-Asp-Arg-Phe-Tyr-Lys-Thr-Leu-Arg,
(VI)(97)
Arg-Glu-Leu-Glu-Arg-Phe-Ala-Val-Asn-Pro-Gly-Leu-Leu-Glu-Thr-Ser-Glu-Gly-Cys-Arg-Gln-Ile-Leu-Gly-Gln-Leu-Gln-Pro-Ser-Leu-Gln-Thr,
(VII)(71)
Asp-Thr-Gly-His-Ser-Ser-Gln-Val-Ser-Gln-Asn-Tyr,
(VIII)(36)
Val-Lys-Ile-Glu-Pro-Leu-Gly-Val-Ala-Pro-Thr-Lys-Ala-Lys-Arg-Arg-Val-Val-Gln-Arg-Glu-Lys-Arg-Ala,
(X)(39)
Arg-Ile-Leu-Ala-Val-Glu-Arg-Tyr-Leu-Lys-Asp-Gln-Gln-Leu-Leu-Gly-Ile- Trp-Gly-Cys-Ser-Gly-Lys-Leu-Ile-Cys,
(XI)(40)
Lys-Ser-Leu-Glu-Gln-Ile-Trp-Asn-Asn-Met-Thr-Trp-Met-Glu-Trp-Asp-Arg-Glu-Ile-Asn 、又は
(XII)(23)
His-Ser-Leu-Ile-Glu-Glu-Ser-Gln-Asn-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Gln-Glu-Leu-Leu-Glu-Leu-Asp-Lys-Trp,
からの LAV/HTLV-IIIの少なくとも8個の隣接するアミノ酸を有するペプチド
〔但し、次のアミノ酸配列:
(a)Met-Leu-Lys-Glu-Thr-Ile-Asn-Glu-Glu-Ala-Ala-Glu-Trp-Asp-Arg-Val-His-Pro-Val-His-Ala;
(b)Gly-Pro-Lys-Glu-Pro-Phe-Arg-Asp-Tyr-Val-Asp-Arg-Phe-Tyr-Lys-Thr-Leu-Arg-Ala-Glu-Gln-Ala-Ser-Gln-Glu-Val-Lys-Asn-Trp-Met-Thr-Glu-Thr-Leu-Leu-Val-Gln-Asn-Ala-Asn-Pro-Asp-Cys-Lys;
(c)Ala-Ser-Arg-Glu-Leu-Glu-Arg-Phe-Ala-Val;
(d)Pro-Thr-Lys-Ala-Lys-Arg-Arg-Val-Val-Gln-Arg-Glu-Lys-Arg;
(e)Ala-Val-Glu-Arg-Tyr-Leu-Lys-Asp-Gln-Gln;及び
(f)Leu-Ile-Glu-Glu-Ser-Gln-Asn-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Gln-Glu-Leu-Leu-Glu-Leu-Asp-Lys-Trp-Ala
から成るペプチド並びにこれらのペプチドの等価物を除く〕であって、
巨大分子(それに対する抗体はヒト血清中に実質的に存在しない)に結合しているか又は結合していないペプチドであることを特徴とする試薬。」

2.申立ての理由の概要
特許異議申立人は、本件特許発明は、本願出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であり(理由1)、また本願出願前に頒布された甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものである(理由2)から、特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張している。
甲第1号証:WO86/02383公報
甲第2号証:Science 228,05.04,1985,93-96
甲第3号証:Cell 41,July 1985,979-986
甲第4号証:Bio/Technology 3,October 1985,905-909
甲第5号証:Bio/Technology 4,February 1986,128-133
甲第6号証:Proc.Natl.Acad.Sci,USA78,June 1981,3824-3828

3.当審の判断
3-1.理由1について
(1)甲第1号証(WO86/02383公報)は、1986年4月24日に公開された刊行物であって、本件特許発明の出願のパリ条約の優先権主張日である1985年4月29日、1985年8月19日および1986年3月26日より後に頒布された刊行物であるから、特許異議申立人の主張する理由1は、理由があるものではない。

(2)しかしながら、甲第1号証記載の国際出願PCT/EP85/00548号(出願日昭和60年(1985)10月18日出願、パリ条約による優先権主張:1984年10月18日、フランス)は、平成11年7月14日付け取消理由通知書で引用した特願昭60-504853号の出願(以下、単に「先願」という。)であって、本件特許の出願の後に、出願公開又は1970年6月19日にワシントンで作成された特許協力条約第21条に規定する国際公開がされたものものである。(特表昭62-500592号公報(以下、単に「公表公報」という)、甲第1号証参照)

(3)先願との対比、検討
そこで、本件第1発明と、先願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面及びこれらの書類の第184条の4第4項の出願翻訳文(以下、単に「先願の当初明細書等」という)に記載された発明とを対比する。
イ)先願明細書等の記載
先願の当初明細書等には、次の事項が記載されている。
(i)請求の範囲第1項
「約110,000の分子量を有する糖タンパク質またはこれから誘導された低分子量の抗原のポリペプチド骨格を有し、LAVウィルスに対する抗体を含むヒト由来の血清で認識できる精製された生成物。」
(ii)請求の範囲第8項
「LAV DNAによってコードされているタンパク質から推定できるアミノ酸の配列を含有し、以下に定義されるポリペプチドのグループから選択されたペプチドであって、各ペプチドに関してつけた番号は第4a〜4e図に示したLAV DNAの位置5734〜5748にあるAAAによってコードされているリシン(アミノ 1)から出発して数えた各々のN-末端とC-末端のアミノ酸の位置に対応している請求の範囲1の精製生成物:
アミノ酸8-23,すなわち・・・
アミノ酸63-78,すなわち・・・
・・・
アミノ酸657-679,すなわちLeu-Ile-Glu-Glu-Ser-Gln-Asn-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Gln-Glu-Leu-Leu-Glu-Leu-Asp-Lys-Trp-Ala-
アミノ酸719-758,すなわち・・・
アミノ酸780-803,すなわち・・・Trp-Glu-またはこれらのペプチドの任意の組み合わせ。」
(iii)請求の範囲第9項
「LAV DNAによってコードされているタンパク質から推定できるアミノ酸の配列を含有し、以下に定義されるポリペプチドのグループから選択されたペプチドであって、各ペプチドに関してつけた番号は第4a〜4e図に示したLAV DNAのヌクレオチドの位置336〜338にあるATG配列によってコードされているメチオニン(アミノ酸 1)から出発して数えた各々のN-末端とC-末端の相対位置に対応しているペプチド:
アミノ酸12-32,すなわち・・・
アミノ酸37-46,すなわち・・・
・・・
アミノ酸200-220,すなわちMet-Leu-Lys-Glu-Thr-Ile-Asn-Glu-Glu-Ala-Ala-Glu-Trp-Asp-Arg-Val-His-Pro-Val-His-Ala-
・・・
アミノ酸492-498,すなわちLeu-Phe-Gly-Asn-Asp-Pro-Ser-
および上記ペプチドの組合せ。」
(iv)請求の範囲第14項
「生物学的流体、特にヒト血清中の抗LAVウイルス抗体の診断方法であって、請求の範囲1〜9のいずれかの生成物と前記抗体との複合体が形成されるのに適した条件下で前記生物学的流体を前記生成物に接触させ、前記生物学的流体中の前記抗体の存在の指標として前記複合体を検出することから成る方法。」
(v)明細書
(v-1)gag領域のペプチド(明細書第23頁10行〜第24頁末行、公表公報第10頁右上欄8行〜右下欄参照)
「本発明は更に、gag読取枠の対応するDNA断片によってコードされるポリペプチド断片に係る。gag読取枠中の特には後述する如く同定される。該ペプチドはLAV DNA配列中の336-338から始まるATGによってコードされたアミノ酸 1=メチオニンを始めとするように定義されgag配列中の順序に従って番号付けされている(第3a図)。各ペプチドに関する一番目及び二番目の数字は各々N-末端及びC-末端のアミノ酸を示す。
これらの親水性ペプチドは以下のアミノ酸を含む。
アミノ酸12-32即ち・・・
アミノ酸37-46即ち・・・
・・・
アミノ酸200-220即ちMet-Leu-Lys-Glu-Thr-Ile-Asn-Glu-Glu-Ala-Ala-Glu-Trp-Asp-Arg-Val-His-Pro-Val-His-Ala-
アミノ酸226-234即ち・・・
・・・
アミノ酸492-498即ちLeu-Phe-Gly-Asn-Asp-Pro-Ser-
本発明は更にこれらペプチドの任意の組み合わせに係る。」
(v-2)env領域のペプチド(明細書第28頁6行〜第30頁19行、公表公報第12頁右上欄11行〜第13頁11行参照)
「このように本発明はより特定的には、envタンパク質に含まれ、このタンパク質から切り出され得る(または同一のアミノ酸構造を有する)ペプチド配列に係る。・・・・・
env読取り枠内の他の親水性ペプチドとしては後記のものが挙げられる。これらのペプチドはLAV DNA配列(第4a図及び第4e図)中の位置5734-5748でAAAによりコードされるアミノ酸1=リシンから始まる定義され、以後末端配列に対する順序に従って番号付けされる。各ペプチドに関する第1及び第2の数字は、そのペプチドのN-末端アミノ酸及びC-末端アミノ酸を示す。
これらの親水性ペプチドとしては下記のものが挙げられる。
アミノ酸8-23、即ち・・・
アミノ酸63-78、即ち・・・
・・・
アミノ酸657-679,即ちLeu-Ile-Glu-Glu-Ser-Gln-Asn-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Gln-Glu-Leu-Leu-Glu-Leu-Asp-Lys-Trp-Ala-
アミノ酸719-758,即ち・・・
アミノ酸780-803,即ち・・・Trp-Glu-
本発明はこれらのペプチドを任意に組合わせたものにも係る。」
(v-3)抗LAV抗体の検出(明細書第43頁33行〜第45頁5行、公表公報第18頁右上欄3行〜左下欄下から3行参照)
「本発明の糖タンパク質、タンパク質及びポリペプチド(以後総じて“抗原”と呼称する)は、LAVウィルス試料から精製状態で得ても、あるいはまた-特にペプチドに関し-化学的合成によって得ても、特にLASあるいはAIDSを診断し得るという観点から生物学的媒質、特にヒトあるいは動物の血清のような生物学的流体における抗LAV抗体の存在を検出する方法において有用である。
本発明は特に、抗LAV抗体を有するヒトの血清中に前記抗体を検出するのにエンベロープ糖タンパク質(あるいは該糖タンパク質のエピトープを有するポリペプチド)を用いるインビトロ診断方法に関わる。上記以外のポリペプチド-特にコアタンパク質エピトープを有するもの-も使用可能である。
本発明方法の好ましい具体例は、
-上記抗原の1種以上を所定量だけ滴定マイクロプレートのカップ内に入れること、
-前記カップ内へ、診断されるべき生物学的流体すなわち血清を希釈したものを希釈度を上げながら導入すること、
-マイクロプレートをインキュベートすること、
-マイクロプレートを適当な緩衝液で注意深く洗浄すること、
-特異的に標識した、血液免疫グロブリンに対する抗体をカップ内に添加すること、及び
-生物学的流体中にLAV抗体が存在することを支持する形成された抗原抗体複合体を検出すること
を含む。
・・・・・
このように好ましい方法は、特にELISA技術による酵素免疫測定方式あるいは蛍光抗体方式である。・・・こうして、調査血清中の抗体を定量的に滴定し得る。」
(v-4)抗原性ペプチドの等価物(明細書第47頁5行〜12行、公表公報第19頁右上欄15行〜左下欄2行参照)
「後記請求の範囲各項は生成物(糖タンパク質、ポリペプチド,DNA等)のあらゆる等価物を包含するものと理解されるべきであり、その際の等価物とは、上記請求の範囲各項のいずれかにおいて定義された所定ポリペプチドから、例えば、1個以上のアミノ酸の点で区別されるが、前記所定ポリペプチドと実質的に同じ免疫学的もしくは免疫原的特性を有する生成物すなわちポリペプチドである。」
(vi)図面の記載
第4a図〜第4e図にLAVウイルスのDNA配列およびそれによりコードされるアミノ酸配列が記載してある。

(ロ)対比・判断
(ロ-1)本件第1発明について
本件明細書の【発明の詳細な説明】の「発明の分野」の項の冒頭にも記載されているように、LAVウィルス、HTLV-IIIウィルスと呼ばれるレトロウィルスは同一のウィルスであり、本件発明ではそれをLAV/HTLV-IIIウィルスと呼称しているものと認められるから、先願明細書等に記載のLAVウィルスと相違するものではない。また、先願の当初明細書等において、生物学的流体、特にヒト血清中の抗LAVウイルス抗体との複合体が形成されるのに適した条件下で前記生物学的流体を接触させ、前記生物学的流体中の前記抗体の存在の指標として前記複合体を検出することから成る方法に使用される、請求の範囲1〜9、特に同8項および9項に列挙されたペプチドは、前記抗体との複合体を形成する以上、LAVウイルスのエピトープ部位と免疫学的に競争するエピトープ部位を有するペプチドであると記載されているに等しいものである。
しかしながら、前記訂正審判により訂正された本件第1発明では、アミノ酸配列(II)(17)や(XII)(23)などに関連した先願明細書に記載されたペプチドと同一であるペプチドが、アミノ酸配列(a)〜(f)から成るペプチドおよびその等価物を除く、と削除されて減縮されたことにより、先願に記載された発明と区別することができるものとなり、同一発明でなくなったものであるから、特許出願の際独立して特許を得ることができない発明ではない。

(ロ-2)本件第2発明について
本件第2発明は、検出方法の発明である本件第1発明で使用されるペプチドからなる試薬についての発明であるから、本件第1発明と同様に、先願に記載された発明とは同一でない。

3-2.理由2について
甲第1号証は、前記の如く、本件特許の優先権主張日前に頒布された刊行物ではないので、甲第2〜6号証について対比、検討する。
(1)甲第2〜6号証の記載事項
(イ)甲第2号証には、AIDS患者の血清と免疫反応するAIDSウイルスのgagおよびenv領域からの組換えポリペプチドの製造法を開示し、HTLV-IIIゲノムのgag領域から2つのポリベプチド、それぞれbp1202-bp1669(クローン175)及びbp1462-bp1690(クローン191)からの領域内のDNA配列によってコードされるポリペプチド(以下、それぞれ「ペプチド175」、「ペプチド191」という。)と、env領域から3つのポリペプチド、それぞれbp7077-bp7716(クローン113)、bp7478-bp7722(クローン121)及びbp7376-bp7700(クローン127)からの領域内のDNA配列によってコードされるポリペプチド(以下、それぞれ「ペプチド113」、「ペプチド121」、「ペプチド127」という。)が記載されている(95頁中欄表1)。
(ロ)甲第3号証には、HTLV-IIIenv領域の第44位アミノ酸から第640位のアミノ酸までの約600個のアミノ酸に対応するenv遺伝子を大腸菌中で発現して得られる、68kdのタンパク質と内部開始生成物と思われるより小さな35kd、25kd、17kdのポリペプチドがAIDS患者の血清によって認識され、HTLV-III感染の診断に有用であることを示唆することが、HTLV-IIIゲノムのenv領域遺伝子核酸配列と共に記載されている(979頁要約、980頁図1、982頁右欄15行〜983頁44行)。
(ハ)甲第4号証にも、HTLV-IIIのenv-lor領域における遺伝子セグメントによりコードされた組換えペプチドであって、82アミノ酸残基からなる「ペプチド121」が、免疫反応性試薬として、HTLV-III感染の定量的イムノアッセイに開発可能てあると記載されている(905頁、要約)。
(ニ)甲第5号証にも、AIDSウイルスのエノベロープ膜貫通タンパク質gp41envの120アミノ酸セグメントをコードするウイルスゲノム領域を大腸菌中で発現させ得られた融合ポリペプチドが、実質的に全てのAIDS患者血清によってELISAで検出されたことが記載されている(128頁、要約)。
(ホ)甲第6号証には、(i)「最も大きな局在的親水性位置を見つけるために、アミノ酸配列を分析することによって、タンパク質抗原決定基の位置を示す方法を述べる。この方法は、各アミノ酸に数値(親水性値)を割り当てた後、ペプチド鎖に沿ってこれらの値を繰り返し平均することによって行なわれた。最も高い局在平均親水性値の位置は、抗原決定基内、あるいはその極く近傍に位置している。この予測成功率は、最適の結果をもたらすヘキサペプチドの平均値と共に、平均する基の長さに依存していることが明らかにされた。この方法は、広範囲に免疫化学的検定が実施されていた12種のタンパクを用いて開発され、続いて次のタンパクに関する抗原決定基を予測するために用いられた:B型肝炎表面抗原、インフルエンザ血球凝集素、・・・連鎖球菌性Mタンパク。B型肝炎表面抗原お配列は化学的な方法で合成され、ラジオイムノアッセイによって抗原活性を持つことが示された。」(第3824頁、要約)と記載されているが、
(ii)クジラの精子ミオグロビンについて、そのアミノ酸配列をアミノ酸6個づつに区切り、各領域の親水性をその領域を構成するアミノ酸から計算し、親水性である領域をエピトープとして推定した結果が「Fig.1」として第3825頁に示されるとともに、同頁左欄第2〜9行目に、「プロフィールの高い点である位置60.5はミオグロビン抗原部位2(1)に属する。他の蛋白質について正しいと一般に認められているいくつかの知見をミオグロビンプロットに見ることかできる。第1に、すべての抗原決定基が親水性の高い点に関連しているわけではなく(例えば、抗原部位4、残基 113〜119);第二に、高い点のすべてが抗原決定基に関連しているわけではない(位置79.5)。」と記載されてる。

(2)対比・検討
(2-1)甲第2号証記載のペプチドとの対比・検討
本件第1発明で使用するペプチドと甲第2号証記載のペプチドとを対比すると、甲第2号証記載の「ペプチド175」(bp1202-bp1669)のアミノ酸配列は、前者の29個のアミノ酸からなるアミノ酸配列(IV)(90)(bp1164-bp1250)とはそのC末端側で16個重複する配列であるものの、アミノ酸配列(b)からなるペプチドが前者から除かれていることにより重複する配列部分がないが、前者の22個のアミノ酸からなるアミノ酸配列(I)(15)(bp1320-bp1385)をすべて包含する。
また、後者の「ペプチド113」(bp7077-bp7716)のアミノ酸配列は、前者の24個のアミノ酸からなるアミノ酸配列(VIII)(36)(bp7246-bp7317)、26個のアミノ酸からなるアミノ酸配列(X)(39)(bp7516-bp7593)および20個のアミノ酸からなるアミノ酸配列(XI)(40)(bp7636-bp7689)をすべて包含するが、先の2者にはアミノ酸配列(d)、(e)に関する記載により除かれている配列が存在し、前者の24個のアミノ酸からなるアミノ酸配列(XII)(23)(bp7708-bp7779)とは、そのN-末端側の3個が重複するものの、アミノ酸配列(f)に関係するペプチドが除外されていることにより実質的に重複する配列部分がない。
後者の「ペプチド121」(bp7478-bp7722)および「ペプチド127」(bp7376-bp7700)は、「ペプチド131」のC-末端側にほぼ包含されるアミノ酸配列を有するので、前者のアミノ酸配列(X)および(XI)に関連したペプチドとの対比関係が同じである。
甲第2号証記載の各ペプチドは、本件第1発明で使用する8〜50個のアミノ酸からなるペプチドに比べて、そのアミノ酸数が「ペプチド175」で約156個、「ペプチド191」で約76個、「ペプチド113」で約213個、「ペプチド121」で約82個、「ペプチド127」で約108個と大きなペプチドである。そして、これらペプチドの抗原決定基がどこに存在するのかは、甲第2号証には記載されていない。確かに、甲第6号証には、抗原決定基の推定方法が記載されているが、前記(1)(ホ)の記載(ii)にあるように、抗原決定基と親水性の高い点の関連は絶対的なものではない。
そうすると、甲第2号証記載の上記ペプチドのアミノ酸配列と本件第1発明記載のアミノ酸配列(I)、(VIII)、(X)および(XI)との間に上記の重複関係が存在し、甲第6号証記載の推定方法が存在しているからといって、それら4種のアミノ酸数20〜26の特定アミノ酸配列からの少なくとも8個の隣接するアミノ酸を有する本件第1発明記載のペプチドを、LAV/HTLV-IIIウイルス又はLAV/HTLV-IIIウイルスに対する抗体を検出するために使用することが、当業者に容易に想到し得ることであるとすることはできない。

(2-2)甲第3号証記載のペプチドとの対比・検討
甲第3号証記載の68kdのペプチドは、env領域の広い遺伝子部分に対応しているので、本件第1発明記載のペプチドのアミノ酸配列(VIII)と(X)のすべて、そして(XI)の大部分を包含するものではあるが、68kdのタンパクは約600個のアミノ酸に対応し、env領域のどの部分に対応するものか不明な35kdはアミノ酸約300個に、25kdはアミノ酸約207個に、17kdはアミノ酸約140個に対応するポリペプチドであって、これらペプチドの抗原決定基がどこに存在するのかは、甲第3号証には記載されていない。このような甲第3号証記載と甲第6号証記載の推定方法が存在しているからといって、env領域の4種のアミノ酸数20〜26の特定アミノ酸配列からの少なくとも8個の隣接するアミノ酸を有する本件第1発明記載のペプチドを、LAV/HTLV-IIIウイルス又はLAV/HTLV-IIIウイルスに対する抗体を検出するために使用することが、当業者に容易に想到し得ることであるとすることはできない。

(2-3)甲第4号証記載のペプチドとの対比・検討
甲第4号証記載の「ペプチド121」は、甲第2号証記載の「ペプチド121」と同じものと認められるので、上記(2-1)における検討結果と同様に、甲第4号証の記載と甲第6号証の記載を組み合わせてみても、「ペプチド121」のアミノ酸配列から本件第1発明の2種のアミノ酸数26と20の特定のアミノ酸配列(X)および(XI)からの少なくとも8個の隣接するアミノ酸を有する本件第1発明記載のペプチドを、LAV/HTLV-IIIウイルス又はLAV/HTLV-IIIウイルスに対する抗体を検出するために使用することが、当業者に容易に想到し得ることであるとすることはできない。

(2-4)甲第5号証記載のペプチドとの対比・検討
甲第5号証記載のペプチドは、ゲノムのenv領域のどこをコードして得られたものか不明であり、そのアミノ酸数も120個であるので、そのような甲第5号証の記載と甲第6号証の記載を組み合わせてみても、env領域の4種のアミノ酸数20〜26の特定アミノ酸配列からの少なくとも8個の隣接するアミノ酸を有する本件第1発明記載のペプチドを、LAV/HTLV-IIIウイルス又はLAV/HTLV-IIIウイルスに対する抗体を検出するために使用することが、当業者に容易に想到し得ることであるとすることはできない。

(2-5)そうすると、本件第1発明は、甲第2〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件第2発明は、検出方法の発明である本件第1発明で使用されるペプチドからなる試薬について発明であるから、本件第1発明と同様に、甲第2〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件第1発明及び本件第2発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件第1発明及び本件第2発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-12-27 
出願番号 特願昭61-502443
審決分類 P 1 651・ 121- YB (C07K)
P 1 651・ 161- YB (C07K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 一色 由美子  
特許庁審判長 渡部 利行
特許庁審判官 森 竜介
関根 洋之
後藤 千恵子
橋場 健治
登録日 1997-10-09 
登録番号 特許第2705791号(P2705791)
権利者 バイオーラッド ラボラトリーズ,インコーポレイティド
発明の名称 AIDS関連病の検出のための合成抗原  
代理人 西舘 和之  
代理人 大屋 憲一  
代理人 石井 貞次  
代理人 石田 敬  
代理人 西山 雅也  
代理人 平木 祐輔  

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