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審決分類 |
審判 一部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て一部成立) A61F 審判 一部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て一部成立) A61F 審判 一部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て一部成立) A61F 審判 一部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効とする。(申立て一部成立) A61F |
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管理番号 | 1057485 |
審判番号 | 無効2000-35412 |
総通号数 | 30 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1994-01-18 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2000-07-27 |
確定日 | 2002-02-28 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2795782号発明「アイシング材」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2795782号の請求項1、請求項3、請求項6〜9に係る発明についての特許を無効とする。 特許第2795782号の請求項2、請求項4、請求項5、請求項10〜13に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、審判費用中参加によって生じたものは補助参加人の負担とし、その他の審判費用は、これを13分し、その6を被請求人の負担とし、その余を請求人の負担とする。 |
理由 |
〔1〕本件特許及び本件無効審判事件の手続の経緯 本件特許及び本件審判事件(特許第2795782号(以下「本件特許」という。)無効審判)に係る手続の経緯の概要は、以下のとおりである。 1)本件特許の出願日:平成4年7月23日(特願平4-218583号) 2)特許権の設定の登録:平成10年6月26日 3)特許異議の申立て:平成10年12月24日ほか(平成10年76255号) 4)訂正請求書の提出:平成11年8月6日付け 5)異議決定:平成11年9月16日(異議決定確定日) 6)本権の移転:平成12年3月22日(登録日) 7)本件無効審判の請求:平成12年7月27日 8)上申書(審判の中断願い)(加納達哉):平成12年10月6日 9)審判事件答弁書(被請求人):平成12年11月1日付け 10)訂正請求書の提出:平成12年11月1日付け 11)審尋(両当事者宛):平成12年11月10日付け 12)上申書(審判の中断願い)(加納達哉):平成12年11月2日付け 13)審判参加申請書:平成12年11月2日付け 14)意見書(請求人):平成12年12月14日付け 15)回答書(請求人):平成12年12月14日付け 16)参加申請に対する意見書(被請求人):平成12年12月22日付け 17)審尋に対する意見書(請求人):平成12年12月22日付け 18)口頭審理陳述要領書(被請求人):平成13年3月14日付け 19)上申書(請求人):平成13年3月14日付け 20)口頭による審尋:平成13年3月14日 21)口頭審理(第1回):平成13年3月14日 22)参加許否の決定:平成13年4月23日 23)上申書(請求人):平成13年5月31日付け 24)審判事件答弁書(第2回)(被請求人):平成13年8月14日付け 25)審判事件答弁書(補助参加人):平成13年8月16日付け 26)口頭による審尋:平成13年3月14日 27)口頭審理(第2回):平成13年9月11日 28)訂正拒絶理由通知(第2回):平成13年9月13日付け 29)訂正請求の取下げ:平成13年11月19日付け 〔2〕当事者の主張 1.請求人は、「特許第2795782号を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」(請求の趣旨)ものであって、請求の理由(概要)は、(1)本件請求項1、3、6に係る発明は、甲第1号証に実質的に記載されているので特許法第29条第1項第3号に該当し(理由1)、(2)本件請求項1、3、6〜9に係る発明は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり(理由2)、(3)さらに、本件請求項1〜13に係る特許は、特許法第36条第4項及び第5項の規定により、無効とされるべきである(理由3)、というにあるものと認める。 そして、請求人は以下の証拠方法を提出している。 甲第1号証:特開昭62-215520号公報 甲第2号証:特開昭64-2647号公報 甲第3号証:高分子新素材 One Point 高吸水性ポリマー 第20〜23頁、1988年9月25日発行、共立出版株式会社 甲第4号証:水溶性高分子・水分散型樹脂の最新加工・改質技術と用途開発総合技術資料集、第220〜222頁、第474〜479頁、昭和56年1月23日発行、経営開発センター出版部 甲第5号証:特開昭64-83024号公報 甲第6号証:特開昭60-260513号公報 甲第7号証:特開昭59-204117号公報 (以上、平成12年7月27日付け審判請求書に添付) 甲第8号証:実験報告書(特許第2795782号アイシング材の冷却効果の検討) (平成13年5月31日付け上申書に添付) その他、以下の参考資料を提出している。 参考資料1:平成11年8月6日付けの訂正請求書及び全文訂正明細書 参考資料2:平成11年8月6日付けの特許異議意見書 2.一方、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」(答弁の趣旨)ものであり、以下の証拠方法を提出している。 乙第1号証:薬剤学、第124〜127頁、平成2年2月25日発行、株式会社広川書店 (平成13年3月14日付け口頭審理陳述要領書に添付) 乙第2号証:平成10年異議第76255号異議決定 (平成13年8月14日付け審判事件答弁書(第二回)に添付) その他、以下の参考資料を提出している。 資料1:特許第2795782号公報 資料2:本件発明のアイシング材に至る沿革 資料3:本件発明の特徴 資料4:甲号各証に対する反論 3.被請求人側への補助参加を認めた参加人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」(答弁の趣旨)ものであり、以下の証拠方法を提出している。 丙第1号証:「アイスラブ・アイシングバンデージ」のパンフレット 丙第2号証:「株式会社コールドメッド」の登記簿謄本 丙第3号証:大阪豊中警察署の回答書 (平成13年8月16日付け審判事件答弁書に添付) 〔3〕本件特許に係る発明 本件特許に係る発明は、平成11年8月6日付けで訂正された明細書及び図面からみて、特許請求の範囲の請求項1乃至請求項13に記載された以下のものにある。 「請求項1 基材とこの基材中に充填されるゲル剤とからなり、前記ゲル剤には少なくともポリビニルアルコール、ゲル化剤、水とが含有され、前記ゲル化剤の含有量が0.1〜1.2重量%であることを特徴とするアイシング材。 請求項2 前記ゲル剤が5〜15重量%のポリビニルアルコール、0.2〜1.2重量%のプロピルパラベン、0.2〜1.2重量%のメチルパラベン、0.1〜1.2重量%のゲル化剤、82〜94重量%の水から構成されてなることを特徴とする請求項1に記載のアイシング材。 請求項3 基材とこの基材に充填されるゲル剤とからなり、前記ゲル剤には少なくともポリビニルアルコール、ゲル化剤、グリコール、水とが含有されて、前記ゲル化剤の含有量は0.1〜1.2重量%であることを特徴とするアイシング材。 請求項4 前記ゲル剤が4〜15重量%のポリビニルアルコール、0.2〜1.2重量%のプロピルパラベン、0.2〜1.2重量%のメチルパラベン、0.1〜1.2重量%のゲル化剤、2〜10重量%のグリコール、80〜90重量%の水から構成されてなることを特徴とする請求項3に記載のアイシング材。 請求項5 前記基材が複数の細孔部を有する伸縮性発泡合成樹脂からなることを特徴とする請求項1乃至4に記載のアイシング材。 請求項6 前記基材が不織布からなることを特徴とする請求項1乃至4に記載のアイシング材。 請求項7 前記アイシング材が開閉自在な密閉容器内に収納されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。 請求項8 前記アイシング材がシート状に形成されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。 請求項9 前記アイシング材がテープ状に形成されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。 請求項10 前記アイシング材が靴内底に配設されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。 請求項11 前記アイシング材がベスト状に形成されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。 請求項12 前記アイシング材がフェイスマスク状に形成されてなることを特徴とする請求項1乃至6に記載のアイシング材。 請求項13 前記ゲル剤にL-メントールとdL-カンフルが混合されてなることを特徴とする請求項1乃至12に記載のアイシング材。」 〔4〕甲第1、2号証刊行物の記載 これに対して、請求人の提出した甲第1、2号証刊行物には、以下の事項が記載されているものと認める。 1.甲第1号証 甲第1号証には、「粘着性ゲル組成物」に関して、以下の点が記載されている。 (ア)「ポリビニルアルコールと水を主要成分とする粘着性ゲル組成物であって、上記ポリビニルアルコールが完全けん化型ポリビニルアルコールと部分けん化型ポリビニルアルコールからなることを特徴とする粘着性ゲル組成物」(特許請求の範囲第1項)。 (イ)「この発明は、消炎、鎮痛用パップ剤、冷却用具等の含水貼付剤の基剤として用いられる粘着性に優れたゲル組成物に関するものである。」(第1頁右下欄第13〜15行)。 (ウ)「上記ゲル組成物を創傷治療剤や湿布用保冷剤として皮膚表面にもちいる場合、・・・保水性及び貼着性に優れ、しかも直接皮膚表面に固定しうる粘着性を有するゲル組成物を提供することを目的とする。」(第2頁左上欄第15行〜同右上欄第3行)。 (エ)「この発明の粘着性ゲル組成物には、必要に応じて上記原料とともに多価アルコールを用いることができ、・・・上記多価アルコールとしては、・・・ポリエチレングリコール、プロピレングリコール・・・等があげられる。」(第3頁左上欄第9〜20行)。 (オ)「この発明の粘着性ゲル組成物は、支持体と貼り合わせることによりパップ剤等として製品化することができる。上記支持体としては、例えば、・・・脱脂綿などの不織布、布、・・・等があげられ、その用途に応じて適宜選択することができる。・・・この発明の粘着性ゲル組成物を用いた基剤には、さらに他の水溶性高分子、・・・各種架橋剤、・・・等のその他の添加剤を目的に応じて適宜に配合することができる。」(第4頁左上欄第3〜17行)。 (カ)「この発明の粘着性ゲル組成物は、局所保冷剤、パップ剤膏体、生体電極ゲル等として幅広く応用することができるのである。」(第4頁右上欄第7〜9行)。 (キ)「(実施例17) けん化度99.5モル%、平均重合度1700の完全けん化型PVA15%、けん化度88モル%、平均重合度1900の部分けん化型PVA10%、水74.55%のPVA溶液にホウ砂0.45%加えゲル化させ、この発明のゲル組成物を得た。」(第5頁左下欄第6〜12行)。 2.甲第2号証 甲第2号証には、「湿布用品」に関して、以下の点が記載されている。 (ア)「7〜11重量%のポリビニルアルコール、2〜5重量%のポリビニルアルコール凝固剤、18〜24重量%のグリコール、65〜75重量%の水からなるゲル剤が構成され、このゲル剤が不織布に含有されて湿布材が構成され、この湿布材が開閉自在の密封容器内に収容されてなる湿布用品。」(特許請求の範囲第1項) (イ)「前記不織布がテープ形状である特許請求の範囲第1項記載の湿布用品。」(特許請求の範囲第2項) (ウ)「前記不織布がシート形状である特許請求の範囲第1項記載の湿布用品。」(特許請求の範囲第3項) (エ)「この発明は湿布用品に関し、その目的は冷蔵庫への保存を要することなく、単に湿布材を容器中に保存するのみで、湿布材の自己冷却機能により冷却状態を復元し、湿布材を再使用できる湿布用品の提供にある。」(第1頁左下欄第17行〜同右下欄第1行)。 (オ)「従来、打撲、負傷等により身体の炎症部分の治療には基布表面に粘着剤とともに抗炎症剤を塗布した湿布材や、ビニル製袋内に寒冷剤を収納したものがある。」(第1頁右下欄第3〜6行)。 (カ)「ポリビニルアルコール凝固剤の配合量を2〜5重量%としたのは、2重量%末では充分なゲル状態が得られず、一方、5重量%を超える量はゲル化に際して不必要だからである。」(第2頁右下欄第1〜4行)。 (キ)「ポリビニルアルコール凝固剤としては、硼酸ナトリウム、・・・、硫酸アルミニウム、・・・等の無機化合物又はレゾルシノール、アゾ化合物等の有機化合物があげられる。」(第2頁右下欄5〜9行)。 (ク)「グリコールとしては、プロピレングリコール、エチレングリコールが好適に用いられる。」(第2頁右下欄第19行〜末行)。 (ケ)「水を65〜75重量%としたのは、65重量%未満では水分蒸発による湿布材(2)の冷却機能が不充分となり、一方、75重量%を越えるとゲルが充分なゲル状態を得られないからである。」(第3頁左上欄第1〜4行)。 (コ)「不織布にゲル剤を含有させるには不織布の形成後にゲル剤を含浸させればよい。」(第3頁左上欄末行〜右上欄第1行)。 (甲第3号証以下、略) 〔5〕当審の判断 1.請求項1に係る発明について (1)甲第1号証には、粘着性ゲル組成物について記載されており、そのの実施例17についてみてみると、実施例17中の「ホウ砂」は、本件発明の「ゲル化剤」に相当し(本件特許の明細書段落0016、請求人提出の参考資料1の第8頁第14〜15行参照)、「ゲル剤」として、前記「ホウ砂」(ゲル化剤)のほかポリビニルアルコール及び水が含有されている。これを本件発明と対比すれば、本件発明が「アイシング材」としているのに対して、甲第1号証では「消炎、鎮痛用パップ剤、冷却用具等の含水貼付剤」としている点で相違するとしても、その組成(ゲル組成物)の配合比においては同一であると認められる。 この点に関し、参加人は、平成13年9月11日期日の口頭審理において、両者は下記のように違うものである旨陳述した。 「本件特許発明の「アイシング材」とは、「自己接着性軟質含水ゲル中に可及的多量に含まれる水分が人体の外方向へ揮散することによる気化熱の作用により、人体局部の熱を長時間に亘り放散し、更に再利用可能な治療剤」である。また、甲第1号証記載の「局所保冷剤」とは、「保冷剤中の水分に人体局部の熱を吸熱する治療剤」である。甲第1号証は、特に強度を持った粘着性ゲル組成物をゲル化剤を用いないで得る技術を開示したものであり、甲第1号証の実施例17は、強度を得るゲル部材を得るために他の実施例1乃至16同様、冷凍によりゲル化させ、硼砂はゲル化阻害として働く部分けん化型のポリビニールアルコールのゲル化阻害を防止する目的で用いられるゲル化助剤にすぎない。したがって、同実施例17は、冷凍なしにこの程度のゲル化助剤の量ではゲル化せず、本件発明とは技術分野を全く異にする技術である。」 また、被請求人は、同じく平成13年9月11日期日の口頭審理において、下記のように陳述した。 「本件発明は含水量65乃至75重量パーセントとした甲第2号証のものを改良し、好適なゲル状態のもとで含水量を可及的に高めるため、ゲル化剤を0.1乃至1.2重量パーセントとした点に特徴がある。したがって、甲第2号証と同程度の含水量のものとは区別されるべきである。」 (2)ところで、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない場合には発明の詳細な説明の記載を参酌して認定すべきと解されるから(最高裁平成3年3月8日判決、民集45巻3号123頁、リパーゼ事件、参照)、本件特許の発明の詳細な説明の記載を参酌して、参加人主張のように解釈すべきかについて検討する。 本件特許の発明の詳細な説明中「アイシング材」に関する説明としては、(ア)「この発明はアイシング材に係り、その目的は前もって冷蔵させておくことなく直接関節等に使用でき、患部への貼着と同時に即効的な冷却と圧迫とが行なえ、しかも連続して長期間使用できるアイシング材、或いは運動中の足部の熱を吸収し、疲労回復の促進や障害を予防するアイシング材、または消防防火作業時や、日焼け後のほてりを和らげる美顔用、更には医療用といった様々な分野で好適に使用できるアイシング材の提供にある。」(段落0001)、(イ)「使用後は、図7に示すようにナイロン袋(b)等にアイシング材(1)を収納し、このナイロン袋(b)に水を入れ、アイシング材(1)に水分を吸収させた後、余分な水分を捨て、図8に示すようにナイロン袋(b)の開口部を中のアイシング材(1)が乾燥しないようにモール等によりしっかりと密封して、容器(4)内に収納し、冷暗所等に保管させておけば、冷蔵させることなく、再使用が可能となる。」(段落0022)、旨の記載が認められる。 これらの記載によれば、本件発明でいう「アイシング材」とは、「前もって冷蔵させておくことなく直接関節等に使用でき(る)」こと、「運動中の足部の熱を吸収し、疲労回復の促進や障害を予防する」こと、「消防防火作業時や、日焼け後のほてりを和らげる美顔用、更には医療用といった様々な分野で好適に使用できる」こと、「医療用といった様々な分野で好適に使用できる」ことなどを目的としたものであって、「使用後は、ナイロン袋等にを収納し、このナイロン袋に水を入れ、アイシング材に水分を吸収させた後、余分な水分を捨て、ナイロン袋の開口部を中のアイシング材が乾燥しないようにモール等によりしっかりと密封して、容器内に収納し、冷暗所等に保管させておけば、冷蔵させることなく、再使用が可能となる」というものである。 これらの記載からすれば、本件発明の「アイシング材」が、参加人が上記主張するような「自己接着性軟質含水ゲル中に可及的多量に含まれる水分が人体の外方向へ揮散することによる気化熱の作用により、人体局部の熱を長時間に亘り放散し、更に再利用可能な治療剤」と限定して解釈すべきとまではいえない。むしろ、本件特許の請求項13では、ゲル剤にL-メントールとdL-カンフルが混合されたものをも「アイシング材」としているなど、明細書全体からみると、本件特許の出願前にすでに広く用いられているいわゆるパップ剤や保湿用保冷剤などの含水貼付剤なども包含する広範囲なものとして記載されているというべきであり、一方、甲第1号証には、そのゲル組成物を不織布などの支持体に施し(第4頁左上欄第3〜11行)、冷却用具として局所保冷剤として用いることも記載されている(第4頁右上欄第7〜9行)のであるから、これらを総合すれば、本件発明の「アイシング材」は、甲第1号証でいう「パップ剤」や「湿布用保冷剤」(及び甲第2号証でいう「湿布用品」など)も包含する(ないしは重複する)概念であるとして解するのが相当である。 なお、甲第1号証の実施例17中の「ホウ砂」はその使用量からみてもゲル剤であると認められ、ゲル化助剤であってゲル剤ではないとする参加人の主張には首肯できない。 (3) そうすると、本件請求項1に係る発明は実質的に甲第1号証に記載された発明であるというほかない。 したがって、本件請求項1に係る発明は、特許法第29条1項3号に該当する。 なお、本件発明の「アイシング材」が、参加人のいうような「自己接着性軟質含水ゲル中に可及的多量に含まれる水分が人体の外方向へ揮散することによる気化熱の作用により人体局部の熱を長時間に亘り放散する」「再利用可能な治療剤」であるとしても、甲第2号証にはかかる機能を有するアイシング材(湿布用品)が記載されている(被請求人は平成12年11月1日付け審判事件答弁書において「アイシング材」であるとしている、7頁第20行参照)のであるから、甲第1号証及び甲第2号証に記載された各発明をもってすれば当業者には容易に発明をすることができたものというべきである。 以上のとおりであるから、その余の理由について検討するまでもなく、本件請求項1に係る発明についての特許は無効とすべきである。 2.請求項2、4、5、10〜13に係る発明について 請求人は、本件請求項1〜13に係る発明は、当業者が容易に実施できる程度に記載されていないから特許法第36条第4項及び第5項の規定により無効とされるべきである(理由3)と主張し、その理由として、甲第4号証の表11を引用して、「PVAのゲル化剤としてホウ酸を用いる場合にはPVAの平均重合度にもよるが、最低でも1.35重量%(2.7重量%を訂正)以上の量を用いることが必要であるが、本件発明で規定する0.1〜1.2重量%では、PVAがゲル化しないので本発明の目的を達成することができない」という。 そこで、甲第4号証とくに表11の記載を検討すると、表11には、「PVAのゲル化剤として最も普通に用いられているほう酸、ほう砂の最低濃度とPVAの関係」が示されているが、「普通に用いられている」と記載されているのであって、「PVAがゲル化しない」とはしておらず、表は、PVAの平均重合度に大きく左右されることを表しており、さらに、表に示される「PVA水溶液濃度(%)」が重量%である旨の記載もない。 これらを総合すれば、請求人の主張する理由及び証拠からは、PVAのゲル化剤としてホウ酸を用いる場合には最低でも1.35重量%以上の量を用いることが必要であること、本件発明で規定する0.1〜1.2重量%ではPVAがゲル化しないので本発明の目的を達成することができない、とまで断ずることはできない。 そうすると、本件請求項2、4、5、10〜13に係る特許が特許法第36条第4項及び第5項の規定に違反するものであるとはいえない。 3.請求項3に係る発明について 請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明のゲル剤にグリコールが含有されたものであるが、甲第1号証にはゲル剤に必要に応じてグリコールを含有されることが記載されているのであるから、上記請求項1に係る発明について述べたと同様の理由により、本件請求項3に係る発明は実質的に甲第1号証に記載された発明であると認められる。 したがって、本件請求項3に係る発明は、特許法第29条1項3号に該当する。 なお、本件発明の「アイシング材」が、参加人のいうようなものであるとしても、前述のとおり、甲第1号証及び甲第2号証に記載された各発明をもってすれば当業者には容易に発明をすることができたものというべきである。 以上のとおりであるから、その余の理由について検討するまでもなく、本件請求項3に係る発明についての特許は無効とすべきである。 4.請求項6〜9に係る発明について 請求項6〜9のように、基材を不織布とする点、アイシング材を開閉自在な密閉容器内に収納する点、シート状に形成する点、テープ状に形成する点は、甲第2号証に湿布用品についていずれも記載されているように本件特許の出願前に広く行われていることであるから、請求項6〜9に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された各発明をもってすれば当業者には容易に発明をすることができたものというべきである。 以上のとおりであるから、その余の理由について検討するまでもなく、本件請求項6〜9に係る発明についての特許は無効とすべきである。 〔6〕以上のとおりであるから、本件請求項1、請求項3、請求項6〜9に係る発明についての特許は無効とすべきであり、本件請求項2、請求項4、請求項5、請求項10〜13に係る発明についての特許は、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては無効とすることはできない。 また、審判に関する費用については、審判費用中参加によって生じたものは補助参加人の負担とし、その他の審判費用は、これを13分し、その6を被請求人の負担とし、その余を請求人の負担とする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2002-01-07 |
結審通知日 | 2002-01-10 |
審決日 | 2002-01-22 |
出願番号 | 特願平4-218583 |
審決分類 |
P
1
122・
113-
ZC
(A61F)
P 1 122・ 534- ZC (A61F) P 1 122・ 531- ZC (A61F) P 1 122・ 121- ZC (A61F) |
最終処分 | 一部成立 |
前審関与審査官 | 藤井 彰 |
特許庁審判長 |
青山 紘一 |
特許庁審判官 |
岡田 和加子 和泉 等 |
登録日 | 1998-06-26 |
登録番号 | 特許第2795782号(P2795782) |
発明の名称 | アイシング材 |
代理人 | 今城 俊夫 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 竹内 英人 |
代理人 | 清原 義博 |
代理人 | 宍戸 嘉一 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 中野 収二 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 西島 孝喜 |
代理人 | 中村 稔 |
代理人 | 村社 厚夫 |
復代理人 | 平山 孝二 |