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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て一部成立) E06B
審判 全部無効 1項1号公知 無効とする。(申立て一部成立) E06B
管理番号 1057486
審判番号 無効2000-35503  
総通号数 30 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-10-05 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-09-19 
確定日 2002-02-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第2857389号発明「フラッシュドアの製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2857389号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 特許第2857389号の請求項3に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その3分の1を請求人の負担とし、3分の2を被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第2857389号(平成10年3月19日出願、平成10年11月27日設定登録)の請求項1〜3に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次の事項により特定されるものである。(以下、請求項1〜3に係る発明を「本件発明1」〜「本件発明3」という。)
【請求項1】(本件発明1)
金属製の表面パネル(1)に開口窓(2)を開口する開口工程と、表面パネル(1)を開口窓(2)に沿ってプレス加工して、コーナー半径が20mm以下となるように内側に折曲してフランジ代(3)を設けるプレス工程と、フランジ代(3)の設けられた表面パネル(1)をドア枠に固定する工程とからなるフラッシュドアの製造方法において、
プレス加工する前工程で、フランジ代(3)のコーナー部に位置し、かつ、コーナーの切断縁(8)を連結させる状態で貫通孔(6)を開口し、貫通孔(6)の設けられた表面パネル(1)をプレス加工して内側に折曲されたフランジ代(3)を設けることを特徴とするフラッシュドアの製造方法。
【請求項2】(本件発明2)
貫通孔(6)が、円形、曲げ線(7)に沿う細長い楕円形あるいは三日月状の何れかである請求項1に記載するフラッシュドアの製造方法。
【請求項3】(本件発明3)
貫通孔(6)を開口する工程において、貫通孔(6)の周縁であって曲げ線(7)に接近する部分を、曲げ線(7)に沿って折曲して補強リブ(10)を設けることを特徴とする請求項1に記載するフラッシュドアの製造方法。

2.請求人の主張
(1)無効理由1
本件発明は、仮処分事件の審理の中で、平成10年3月16日に、被請求人から請求人の代理人である三山峻司弁護士にFAXで送付された変更案の図面に記載されたものと同一のものであって、公然と知られるに至ったものであるから、特許法第29条第1項第1号若しくは同条第2項の規定により特許を受けることができないと主張し、証拠方法として甲第2号証(大阪地方裁判所平成9年(ヨ)第2741号仮処分命令事件で提出された乙第39号証)、甲第3号証(平成10年3月16日付け郵便送付書)、甲第4号証(平成10年3月17日付け受領書)などを提出している。(審判請求書)
また、三山峻司弁護士は、甲第2号証や甲第13号証その他の証拠等を請求人にFAX送信し関係書類を請求人の社員に渡し、請求人では、それを担当役員や開発担当者に回覧し、各部署の担当者を集めて検討を行っているから、本件発明は出願前に公知となっていたものであると主張し、証拠方法として甲第13号証(大阪地裁平成9年(ヨ)第2741号仮処分命令申立事件、平成10年3月16日付け債務者作成の準備書面)、甲第16号証(弁護士三山峻司の平成13年6月22日付け陳述書)、甲第17号証(近畿車輛株式会社小玉忠光の陳述書)などをさらに提出している。(平成13年7月2日付け口頭審理陳述要領書)
(2)無効理由2
本件発明は、明細書に記載された効果は期待し得ず、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと主張し、証拠方法として甲第1号証(特公平5-43037号公報)、甲第9号証(大阪市立工業研究所の報告書(大工研報第837号))、甲第10号証(大阪市立工業研究所の報告書(大工研報第853号))、甲第11号証(採光窓付玄関扉の開口コーナー部に関する試験結果)などを提出している。(審判請求書)

3.被請求人の主張
(1)無効理由1について
甲第2号証に本件特許発明が記載されているわけではないし、上記仮処分事件は非公開の審理がなされたから、該事件において攻撃防御方法として疎明書類を提出したことによって、該疎明書類が公然知られるに至ったものとはいえないし、弁護士が疎明書類を受信したのは、上記仮処分事件における一方当事者の訴訟代理人としての業務上の立場によるものであり、また弁護士は、弁護士法第23条によって職務上知り得た事項について秘密保持の義務を負担しているから、同じく疎明書類が公然知られるに至ったとはいえない。(答弁書)
また、被請求人は法令の規定によって裁判所提出書類を送付したのであるから、これを受け取った請求人は、法理上、条理上秘密保持の義務を負担しているというべきであり、特に企業秘密(トレードシークレット)が関係する、特許権侵害を巡る仮処分事件においては当事者に法理上、条理上の義務が存在することが明らかであるから、甲第2号証、甲第13号証は公知となったものではない。(平成13年7月25日付け口頭審理陳述要領書)
(2)無効理由2について
本件発明は、そもそも甲第1号証を従来技術として摘示し、その問題点を解決するために、甲第1号証と異なる構成を備えたものであるところ、請求人提出の甲号証に、この甲第1号証と異なる構成について示すところがないから、本件発明を甲第1号証に記載の発明に基づいて容易推考し得たとすることはできない。(答弁書)

4.当審の判断
4-1.無効理由1について
4-1-1.甲第2号証及び甲第13号証の記載事項
(1)甲第2号証
甲第2号証には、「エミカライン表面材加工図変更」図として、フランジ代のコーナー部に位置し、かつ、コーナーの切断縁を連結させる状態で貫通孔を開口した、板材を示す図面が記載されていると認められる。
(2)甲第13号証
甲第13号証の第12頁第16行から第14頁第3行までには、「二 債務者製造方法」として次の記載がある。
1 債務者におけるドア製造方法は、以下のとおりである。
(1)0.6ミリの板厚の鋼板を用い、コーナー半径を5ミリに形成する両面フラッシュドアであって、
(2)前面と背面パネルの双方の窓部の折り曲げ線より内側に7.1ミリのフランジ代を残した開口を設け、
(3)該開口の各コーナーに前記折り曲げ線の各コーナーに8ミリ幅のフランジ代を形成するとともに該フランジ代のコーナーの曲線部分中央からの最短距離が3ミリの位置に該隅フランジ代の面内に独立した2.3ミリ径の透孔を形成し、
(4)上記構成の両パネルをNCタレットパンチプレス機による数センチピッチの断続送り下による順次のプレス加工によって折り曲げ線の部分で内側に折り曲げ、
(5)順次のプレス加工によって生じた開口端部隅フランジ近傍の波打ち状歪みをハンマー加工によって矯正し、
(6)フランジ代が折り曲げられた両パネルをドア枠体と窓枠とに接着剤を用いて固着し、
(7)両パネルと一体化された窓枠に窓ガラスを挿入して保持させ、
(8)フランジおよび隅フランジを着色パテまたは着色ビードで被覆し、上記プレス加工によって生じた破断部分を目隠した、
(9)窓付き鋼製ドアの製造方法

4-1-2.公然と知られるに至ったかどうかの判断
請求人は、先ず、甲第2号証等が三山弁護士にFAXで送信されることにより公然と知られるに至ったと主張してる。
しかし、甲第2号証等は、非公開で行われた仮処分事件の審理の中で、債権者の代理人である弁護士に送付されたものである。そして、弁護士は、弁護士法によって、職務上知った事項については守秘義務があるから、代理人である弁護士が甲第2号証等を受け取ったからといって、公然知られるに至ったということはできない。

次に、請求人は、請求人の社員が甲第2号証等を弁護士から受け取り検討したから、公然と知られるに至ったと主張している。
しかし、甲第2号証等は非公開で行われた仮処分事件の手続において、代理人である弁護士を通じて債権者に送られたものであり、また、甲第13号証には第12頁第1〜2行に「債務者方法は、特許出願を弁理士に依頼済であるから、近く出願が完了する予定である。」との記載があるから、これらを受け取った債権者の社員は、変更案を秘密扱いとすることが暗黙のうちに求められ、かつ、期待されていたので、秘密を保つべき関係にあったと考えられる。したがって、債権者の社員に変更案が送られたからといって、公然知られるに至ったということはできない。
以上のことから、無効理由1によっては、本件発明を無効とすることはできない。

4-2.無効理由2について
4-2-1.甲第1号証記載の発明
甲第1号証には、次の記載がある。
(ア)「1 採光窓部の絞り線のコーナー半径が絞り加工によってほぼ20mm以下に形成される両面フラッシュドアにおいて、前面と背面パネルの少なくともいずれか一方の採光窓部の絞り線より内側にパネル板厚のほぼ8倍以上のフランジ代を残した開口を設け、該開口の各コーナー部に前記絞り線の各コーナーの曲線部分中央からの最短距離がパネル板厚のほぼ8倍以下となる隅フランジ代を、先端に丸味を備えた切れ目または切り欠きによって形成し、上記構成の両パネルを絞り加工によって絞り線の部分で内側に折り曲げ、フランジ代が折り曲げられた両パネルをドア枠体と採光窓枠とに接着剤その他の手段を用いて固着し、両パネルと一体化された採光窓枠に採光用窓ガラスを挿入して保持させたことを特徴とする採光窓付き鋼製ドアの製造方法。」(特許請求の範囲)
(イ)「(作用)上記製造方法によって採光窓付き鋼製ドアを作ると、採光窓部の各絞り線に沿ったフランジ代をパネル板厚の8倍以上でドアの構成に必要な寸法に設定した場合にも、採光窓部の各コーナーの隅フランジ代を絞り加工によって歪みが生じないパネル板厚のほぼ8倍以下にするとともに、切れ目または切り欠きの先端部に形成した丸味によって隅フランジ代に板割れを生じさせないから、表裏パネルの美感を損なわせなくなる。」(第2頁右欄第32〜41行)
(ウ)「設定された大きさの採光窓部3を絞り加工によって前面パネル1に形成する場合には、採光窓部3の大きさを定める長方形の絞り線4の内側にパネル板厚のほぼ8倍以下、例えば、3mm程度のフランジ代5を残して開口6を打ち抜く。開口6が打ち抜かれた前面パネル1を絞り加工によって長方形の絞り線4に沿って内側に絞り、絞り線4の内側の上下、左右各一対のフランジ代5,5を前面パネル1と直角をなす方向に折り曲げる。この前面パネル1の絞りにおいては、フランジ代5の寸法はパネル板厚のほぼ8倍以下であるため、前面パネル1の絞り線4の各コーナー部に応力集中による歪が発生して美感を損なうこともなければ、フランジ代5の代コーナー部に板割れが発生することもない。」(第3頁左欄第7〜21行)
(エ)「フランジ代10がパネル板厚のほぼ8倍以上になった場合、背面パネル2の絞り線8の各コーナーの曲線部分中央から開口9の各コーナーに向かう隅フランジ代11の最短距離をパネル板厚のほぼ8倍以下となるようにする切れ目12が、開口9の各コーナーから絞り線8の各コーナーの曲線部分中央に向けて設けられている。切れ目12の先端部には、背面パネル2を絞り線8に沿って絞ったときに、切れ目12の延長線上の隅フランジ代11に板割れが発生しないようにするため、小径の丸穴13が設けられている。」(第3頁左欄第30〜40行)
(オ)第4図には、絞り加工前の背面パネルとして、隅フランジ代11に丸穴13を設け、丸穴13から開口9のコーナーに向かって切れ目12を設けたものが記載されている。

そうすると、これらの記載事項から甲第1号証には次の発明が記載されていると認められる。
「鋼製の背面パネル2に開口9を設ける開口工程と、背面パネル2を開口9に沿って絞り加工して、コーナー半径が20mm以下となるように内側に折り曲げてフランジ代を設ける絞り加工工程と、フランジ代の設けられた背面パネル2をドア枠体と採光窓枠とに固着する工程とからなる採光窓付き鋼製ドアの製造方法において、絞り加工する前工程で、隅フランジ代11に丸穴13を設けるとともに、丸穴13から開口9のコーナーに向かって切れ目12を設け、丸穴13及び切れ目12の設けられた背面パネル2を絞り加工して内側に折り曲げたフランジ代を設ける鋼製ドアの製造方法」(甲第1号証記載の発明)が記載されていると認められる。

4-2-2.本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比する。
甲第1号証記載の発明の「鋼製の背面パネル2」「開口9」「ドア枠体」「隅フランジ代11」「丸穴13」がそれぞれ本件発明1の「金属製の表面パネル」「開口窓」「ドア枠」「フランジ代のコーナー部」「貫通孔」に相当することは明らかである。また、「絞り加工」は「プレス加工」に含まれるから、甲第1号証記載の発明の「絞り加工」は本件発明1の「プレス加工」に該当する。
そして、甲第1号証記載の「採光窓付き鋼製ドア」は、「5-1.甲第1号証記載の発明」の欄の上記記載事項(ア)から「両面フラッシュドア」であるから、本件発明1の「フラッシュドア」に相当する。

してみると、両者は次の一致点で一致し、次の相違点で相違する。
[一致点]
「金属製の表面パネルに開口窓を開口する開口工程と、表面パネルを開口窓に沿ってプレス加工して、コーナー半径が20mm以下となるように内側に折曲してフランジ代を設けるプレス工程と、フランジ代の設けられた表面パネルをドア枠に固定する工程とからなるフラッシュドアの製造方法において、
プレス加工する前工程で、フランジ代のコーナー部に位置する貫通孔を開口し、貫通孔の設けられた表面パネルをプレス加工して内側に折曲されたフランジ代を設けることを特徴とするフラッシュドアの製造方法。」
[相違点]
プレス加工する前の表面パネルが、本件発明1においては、「コーナーの切断縁を連結させる状態で」貫通孔を開口しているのに対し、甲第1号証記載の発明においては、貫通孔からコーナーの切断縁に切れ目が設けられている点。

(2)判断
甲第1号証記載の発明は、フランジ代の寸法がパネル板厚のほぼ8倍以下であると、絞り加工によって開口部を絞り線に沿って内側に折り曲げても、各コーナー部に応力集中による歪みが発生して美観を損なうこともなければ、フランジ代のコーナー部に板割れが発生することもないが、パネル板厚の8倍よりずっと大きくなると、板割れが発生する恐れがあるので、絞り線の各コーナーの曲線部分中央から開口の各コーナーに向かう隅フランジ代の最短距離をパネル板厚のほぼ8倍以下となるようにする切れ目を設けることによって、絞り加工におけるフランジ代の加工を、フランジ代の寸法がパネル板厚のほぼ8倍以下の場合と同様の加工となるようにするとともに、切れ目の先端に丸穴を設けることによって、板割れを効果的に防止するというものである。
これに対して、本件発明も段落[0022]に「金型9で折曲されたフランジ代3のコーナー部は、図9に示すように、切断縁8が切り離される。・・・表面パネル1は、プレスされるときに、切断縁8が伸びる。伸びるときに切断縁8に内部応力が作用する。切断縁8が伸びて、それ以上は伸びることができない状態になって初めてこの部分が切断される。」とあるように、プレス加工中にコーナー部の連結された切断縁、即ち連結部は破断されることを前提とした製造方法であり、破断後は、曲げ線7から貫通孔6までの隅フランジ代(内側幅W1)を有するフランジ代のものと同様の加工となるものであるし、破断後に破断線と連通する貫通孔は板割れを防止するように作用する。
そこで、甲第1号証記載の発明のように予め切れ目を設けることによって隅フランジ代が短いものと同様の加工ができるようにするに代えて、あえて加工の途中で破断することを前提とした連結部を設けて、連結部を破断させた後に甲第1号証記載の発明と同様の加工となるように変更することは、当業者ならば容易に想到しうるものである。

次に、本件発明の効果について検討する。
本件明細書には、「発明の効果」の欄に「本発明のフラッシュドアの製造方法は、開口窓のコーナー半径を小さくして、コーナー部の破断部が表面近くまで延長されるのを有効に阻止できる特長がある。それは、本発明の製法が、プレス加工する前工程で、表面パネルのフランジ代となるコーナー部の切断縁を連結させる状態で貫通孔を開口し、この状態に加工された表面パネルをプレス加工して、内側に折曲されたフランジ代を設けているからである。切断縁を連結する状態でプレス加工される表面パネルは、折曲されるにしたがって、フランジ代のコーナー部に引張応力が作用する。引張応力は、貫通孔の内側と外側に分散される。貫通孔の外側、すなわち、コーナー部の切断縁の部分に作用する引張応力は、コーナー部の切断縁部分を限界まで伸長して、貫通孔の内側に作用する引張応力を少なくして、ここの破断を防止する。切断縁は、限界まで切断されずにコーナー部を引き延ばし、限界を越えたときに切断される。切断縁が限界を越えて破断して後は、貫通孔で破断の進行が阻止される。」と、また、段落[0018]に「外側幅(W2)を広くすると、プレス加工するときに、貫通孔6の内側での引っ張り応力が強くなって、貫通孔6の内側にできる破断をより有効に防止できる。」と記載されている。
しかし、甲第21号証(平成13年7月27日付け大阪大学教授 工学博士小坂田宏造氏の意見書)で「3)連結部は加工プロセスの比較的早い段階で破断する。 4)破断以降は、日本フネンの方法においても連結部が破断しているためコーナーフランジ部の変形については近畿車輛の方法と同様の変形挙動を示し、ほぼ同一の形状となる。 5)したがって、絞り加工完了時には、近畿車輛の方法による製品と日本フネンの方法による製品はほぼ同様の形状となる。」と述べられているように、本件発明において、切断縁を連結する状態で表面パネルをプレス加工しても、連結部はプレス加工の比較的早い段階で破断すると考えられる。なぜなら、表面パネルがプレス加工されるときに、フランジ代の曲げ線側よりも切断縁側の方がより大きく引き伸ばされ、引っ張り力が大きくなり、切断縁から破断が発生するからである。そして、連結部が破断がした後は、切れ目が設けられている甲第1号証記載の発明の方法と同様の変形をするから、プレス加工完了時には両方法による製品は同様の形状になると考えられる。
このことは、甲第9号証(大阪市立工業研究所の報告書(大工研報第837号))及び甲第10号証(大阪市立工業研究所の報告書(大工研報第853号))の試験結果をまとめた甲第11号証からも確認することができる。すなわち、甲第11号証の表1によれば、(1)切り残し部(連結部)の幅W2を2.3mmとした場合、切れ目を入れたものの割れ深さの平均値は2.1mm及び1.6mmであるのに対して、切れ目を入れないものの割れ深さの平均値は2.1mm及び1.8mm、(2)切り残し部(連結部)の幅W2を4mmとした場合、切れ目を入れたものの割れ深さの平均値は2.1mm及び2.0mmであるのに対して、切れ目を入れないものの割れ深さの平均値は2.1mm及び1.9mm、(3)切り残し部(連結部)の幅W2を5mmとした場合、切れ目を入れたものの割れ深さの平均値は2.0mm及び2.0mmであるのに対して、切れ目を入れないものの割れ深さの平均値は2.2mm及び2.0mm、であるから、切れ目を入れないもの(連結部を設けたもの)と切れ目を入れたものとの間に、発生する割れ深さに格別差異はなく、また、連結部の長さを大きくしても、発生する割れが小さくなることはない。
なお、請求人が、甲第9〜11号証として本件発明の製品と従来技術による製品の比較試験の結果を提出し、また、甲第21号証として意見書を提出しているのに対して、被請求人は、本件発明が明細書記載の効果を奏することを示す実験データも、客観的に効果を確認できる説明も提出していない。
してみれば、本件発明は、コーナー部の破断部が表面近くまで延長されるのを有効に阻止できるという効果について、切れ目を設けた従来技術と同程度の効果しか奏しないものであって、格別のものではない。

なお、被請求人は、平成13年7月30日付け口頭審理陳述要領書(2)で、「本件特許発明は、(1)前工程で「貫通孔」を開口した後に、この貫通孔設置の表面パネルをプレス加工するものであるところ、貫通孔の設置は、貫通孔の形状に合わせた比較的単純な金型を用いることができ、複雑形状の金型を使用する必要がない。従って(2)市販の金型の使用が可能となり、金型コストを低下させるとともに金型製作の期間を不要とし又は短縮することができる。(3)フランジ代の幅(フラッシュドアの厚さ)が変化しても同一の金型を共用使用することができる。(4)これによってフラッシュドアの製造を簡易化し生産性を向上することができる。という作用効果を奏する。」と述べている。
しかし、そもそもこの作用効果は明細書に記載されているものではない。そして、貫通孔及び切れ目を設ける場合には、「貫通孔用の金型」及び「切れ目用の金型」の2つの金型が必要ではあるが、格別複雑形状の金型が必要となるものではない。また、切れ目を設けなければ「切れ目用の金型」が不要となることは、甲第1号証記載の発明から当業者であれば予測し得るものであって、格別なものではない。

したがって、本件発明1は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-2-3.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を「貫通孔(6)が、円形、曲げ線(7)に沿う細長い楕円形あるいは三日月状の何れかである」と限定するものである。
しかし、甲第1号証には、「4-2-1.甲第1号証記載の発明」の欄の上記記載事項(エ)及び(オ)に「丸穴13」を設けること、すなわち、貫通孔を円形とするものが記載されているから、本件発明2も甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-2-4.本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を「貫通孔(6)を開口する工程において、貫通孔(6)の周縁であって曲げ線(7)に接近する部分を、曲げ線(7)に沿って折曲して補強リブ(10)を設ける」と限定するものである。
そして、甲第1号証には、本件発明3の「貫通孔を開口する工程において、貫通孔の周縁であって曲げ線に接近する部分を、曲げ線に沿って折曲して補強リブを設ける」という構成は記載されておらず、またその示唆もない。また、「貫通孔の周縁であって曲げ線に接近する部分を、曲げ線に沿って折曲して補強リブを設ける」という構成が、周知であるということもない。
そして、本件発明3は、「本発明の製造方法は、フランジ代のコーナー部に貫通孔を開口する工程において、貫通孔の周縁を内側に折曲させて、補強リブを設けることもできる。図10に示す貫通孔6は、貫通孔6の周縁であって曲げ線7に接近する部分を、曲げ線7に沿って折曲して補強リブ10を設けている。・・・この位置に補強リブ10を有する貫通孔6は、表面パネル1をプレス加工して折曲されたフランジ3を設けるときに、フランジ代3のコーナー部に破断が発生するのを、さらに有効に防止できる特長がある。それは、最も破断が発生しやすい部分が、補強リブ10によって補強されているからである。」(段落[0025])という明細書記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明3は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1及び本件発明2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び2に係る本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
また、請求項3に係る本件特許については、請求人の主張及び証拠方法によっては、無効とすることはできない。。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、3分の2を被請求人の、その余を請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-12-21 
結審通知日 2001-12-27 
審決日 2002-01-10 
出願番号 特願平10-92485
審決分類 P 1 112・ 121- ZC (E06B)
P 1 112・ 111- ZC (E06B)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 新井 夕起子  
特許庁審判長 石川 昇治
特許庁審判官 安藤 勝治
高橋 泰史
登録日 1998-11-27 
登録番号 特許第2857389号(P2857389)
発明の名称 フラッシュドアの製造方法  
代理人 小山 方宣  
代理人 田村 公総  
代理人 福島 三雄  
代理人 野中 誠一  
代理人 内藤 義三  

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