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審決分類 |
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 B32B 審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B32B 審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 B32B |
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管理番号 | 1058037 |
異議申立番号 | 異議2001-71521 |
総通号数 | 30 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-04-21 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-05-25 |
確定日 | 2002-01-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3111908号「ポリエチレン樹脂被覆鋼材」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3111908号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続きの経緯 本件の手続きの経緯は以下のとおりである。 特許出願 平成8年9月26日 特許権設定登録 平成12年9月22日 特許異議の申立て(申立人 川崎製鉄株式会社、請求項1に係る特許について) 平成13年5月25日 取消理由通知 平成13年8月17日 訂正請求 平成13年10月23日 取消理由通知 平成13年11月8日 訂正請求 平成13年11月28日 (なお、平成13年10月23日付け訂正請求書は、平成13年11月28日付けで取り下げられた。) II.平成13年11月28日付け訂正請求書による訂正の適否について 1.訂正の内容 訂正事項1 明細書の特許請求の範囲を下記の通り訂正する。 「【特許請求の範囲】 鋼材の表面にクロメート処理層、エポキシプライマー層、変性ポリエチレン接着樹脂層、ポリエチレン防食樹脂層を順次積層してなるポリエチレン被覆鋼材であって、エポキシプライマー層の膜厚が10μm以上100μm以下であり、かつ変性ポリエチレン接着樹脂層の密度ADとポリエチレン防食樹脂層の密度PDとの関係が、下記(1)式を満たす(AD=0.930かつPD=0.938である場合を除く)ことを特徴とするポリエチレン樹脂被覆鋼材。 -5.714×PD2+l0.287×PD-3.666≧AD≧5.155×PD2-10.222×PD+5.951・・・(1) 但し、AD及びPDは、ともに、g/cm3の単位で表示した値である。」 訂正事項2 明細書(特許公報)の【0017】を下記の通り訂正する。 「『鋼材の表面にクロメート処理層、エポキシプライマー層、変性ポリエチレン接着樹脂層、ポリエチレン防食樹脂層を順次積層してなるポリエチレン被覆鋼材であって、エポキシプライマー層の膜厚が10μm以上100μm以下であり、かつ変性ポリエチレン接着樹脂層の密度ADとポリエチレン防食樹脂層の密度PDとの関係が、下記(1)式を満たす(AD=0.930かつPD=0.938である場合を除く)ポリエチレン樹脂被覆鋼材。」 訂正事項3 明細書(特許公報)の【0030】を下記の通り訂正する。 「4.変性ポリエチレン接着樹脂層及びポリエチレン防食樹脂層 本発明で用いる変性ポリエチレン接着樹脂層とポリエチレン防食樹脂層の密度は、前記(1)式で示される関係を満足する(AD=0.930かつPD=0.938である場合を除く)ものとする。」 (なお、本件訂正明細書における丸囲み数字は、表記の都合上、括弧付き数字で表現した。以下においても同様である。) 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「下記(1)式を満たすことを特徴とするポリエチレン樹脂被覆鋼材」とあったのを、「下記(1)式を満たす(AD=0.930かつPD=0.938である場合を除く)ことを特徴とするポリエチレン樹脂被覆鋼材」に訂正し、AD、PDの値が特定の値である場合を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 特許時の明細書には、「AD=0.930かつPD=0.938である場合を除く」ことについては記載がないが、当該訂正は、特許法第29条第1項第3号を理由とする取消理由に対応して、先行技術に示された技術的事項を除外することを明示した訂正であるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものである。 (2)訂正事項2、3について 訂正事項2、3は、訂正事項1による訂正との整合性を図るためのものであるから、明りようでない記載の釈明を目的とするものである。そして、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (3)むすび したがって、この訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書き、及び特許法第120条の4第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、これを認める。 III.特許異議の申立てについて 1.本件特許 本件特許第3111908号の特許請求の範囲に係る発明(以下、当該発明を請求項1に係る発明という)は、平成13年11月28日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである。 「鋼材の表面にクロメート処理層、エポキシプライマー層、変性ポリエチレン接着樹脂層、ポリエチレン防食樹脂層を順次積層してなるポリエチレン被覆鋼材であって、エポキシプライマー層の膜厚が10μm以上100μm以下であり、かつ変性ポリエチレン接着樹脂層の密度ADとポリエチレン防食樹脂層の密度PDとの関係が、下記(1)式を満たす(AD=0.930かつPD=0.938である場合を除く)ことを特徴とするポリエチレン樹脂被覆鋼材。 -5.714×PD2+10.287×PD-3.666≧AD≧5.155×PD2-10.222×PD+5.951・・・(1) 但し、AD及びPDは、ともに、g/cm3の単位で表示した値である。」 2.特許異議の申立ての理由の概要 特許異議申立人 川崎製鉄株式会社は、甲第1〜3号証を提出し、本件請求項1に係る発明は、その特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものである[理由1]、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項に違反するものである[理由2]、特許法第36条第4項又は第6項に規定する要件を満たさない特許出願に係るものである[理由3]から、その特許は、取り消すべきであると主張している。 3.理由1、2について (1)各号証の記載 甲第1号証(特開平7-60900号公報)の記載内容 ア.「クロメート処理した鋼材表面にエポキシプライマー層、変性ポリオレフィン樹脂層およびポリオレフィン樹脂層を順次積層したポリオレフィン被覆鋼材において、前記プライマー層がグリシジルアミノメチル基を有するビスフェノール型グリシジルエーテルとビスフェノール型グリシジルエーテルを含有するエポキシ樹脂組成物から形成されることを特徴とするポリオレフィン被覆鋼材。」(請求項1) イ.「本発明は、高温用環境下で優れた密着性および耐食性を与えるポリオレフィン 被覆鋼材に関するものである。」(段落【0001】) ウ.「実施例1 上記の合成例により得られたグリシジルアミン型エポキシ樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂プライマー ・・・の1:1組成物と脂肪族ジアミン硬化剤 (活性水素当量:130〜150)、2塩化メチレンの混合物を、あらかじめサンドブラスト処理によりスケールを除去し、シリカ系クロメート (関西ペイント製、商品名: コスマー100)をしごき塗りし、80℃に加熱して焼き付けた鋼管 (サイズ: 28×18t×1000 l) 面に膜厚10〜50μとなるようにエアーガンによりオンライン塗布し、150 ℃で硬化させた。 上記のエポキシプライマー層上に、変性ポリエチレン樹脂 (三井石油化学製、商品名: アドマー NE060、密度: 0.930)および中密度ポリエチレン (昭和電工製、密度: 0.938)を管温度130 ℃、圧力4kg/cm2の条件下でTダイ法にて膜厚がそれぞれ、0.5 mm、2.5 mmとなるように押出被覆し、その後水冷することによりポリエチレン被覆鋼管を得た。」(段落【0040】〜【0042】) エ.実施例で得られた、プライマーとして2種のエポキシ樹脂の組成物を用いるポリエチレン被覆鋼管の高温密着性及び耐陰極電解剥離性が、プライマーとしてビスフェノール型エポキシ樹脂のみを使用した比較例よりも優れていること(段落【0049】、表1) オ.「本発明によれば、ポリオレフィン被覆鋼材におけるエポキシプライマー層としてビスフェノール型グリシジルエーテルにグリシジルアミノメチル基を有するグリシジルアミン系化合物とビスフェノール型グリシジルエーテルの混合物を使用することにより、プライマー層のマトリックス樹脂の架橋密度を高くして耐熱性および耐水性を向上させることができる。従って、高温密着性、高温耐食性に優れたポリオレフィン被覆鋼材の製造が可能となる。」(段落【0052】) 甲第2号証(特開平6-340025号公報)の記載内容 カ.「クロメート処理した鋼材表面にエポキシプライマー層、変性ポリオレフィン樹脂層およびポリオレフィン樹脂層を順次積層したポリオレフィン被覆鋼材において、前記プライマー層が、芳香環上に2個のグリシジルエーテル基および1個のグリシジルアミノメチル基を有するグリシジルアミン化合物とビスフェノール型グリシジルエーテルを含有するエポキシ樹脂組成物から形成されることを特徴とするポリオレフィン被覆鋼材。」(請求項1) キ.「本発明は、高温用環境下で優れた密着性および耐食性を与えるポリオレフィン 被覆鋼材に関するものである。」(段落【0001】) ク.「実施例1 上記の合成例により得られたグリシジルアミン型エポキシ樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂プライマー (日本ペイント製、商品名:6610、エポキシ当量:180)の1:1組成物、複素環式ジアミン硬化剤 (活性水素当量:130 〜150)、2塩化メチレンの混合物を、予めサンドブラスト処理によりスケールを除去し、シリカ系クロメート (関西ペイント製、商品名:コスマー100)をしこぎ塗りし、80℃に加熱して焼き付けた鋼管 (サイズ:28×18t ×10001)面に膜厚20μとなるようにエアーガンによりオンライン塗布し、130 ℃で硬化させた。上記のエポキシプライマー層上に、変性ポリエチレン樹脂 (三井石油化学製、商品名:アドマーNE060 、密度:0.930)および中密度ポリエチレン (昭和電工製、商品名:G-109 V、密度:0.938)を、管温度130 ℃、圧力4kg/ cm2 の条件下でTダイ法にて膜厚がそれぞれ、0.5 mm、2.5 mmとなるように、押出被覆し、その後に、水冷することによりポリエチレン被覆鋼管を得た。」(段落【0044】) ケ.実施例1、2で製造されたポリエチレン被覆鋼管の耐陰極電解剥離性が、比較例に比して優れていること(段落【0050】、表1) コ.「本発明によれば、ポリオレフィン被覆鋼材におけるエポキシプライマー層として、芳香環上に2個のグリシジルエーテル基および1個のグリシジルアミノメチル基を有するグリシジルアミン化合物とビスフェノール型グリシジルエーテルの混合物を使用することにより、プライマー層のマトリックス樹脂の架橋密度を高くして耐熱性および耐水性を向上させることができる。従って、高温密着性および高温耐食性に優れたポリオレフィン被覆鋼材の製造が可能となる。」(段落【0052】) 甲第3号証(特開平8-487820号公報)の記載内容 サ.「鋼管の外周面に、下から順にプライマー層、変性ポリオレフィン接着層、およびポリオレフィン樹脂層を有するポリオレフィン被覆鋼管において、前記プライマー層が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂40〜60重量部、ノボラック型エポキシ樹脂0〜30重量部、フェニルグリシジルエーテル15〜35重量部、硬化剤10〜40重量部、および反応促進剤 1.5〜4重量部を含有するプライマー組成物から形成されたエポキシ系プライマー層であることを特徴とする、ポリオレフィン被覆鋼管。」(請求項1) シ.「本発明は、-60℃から60℃までの広範囲の温度域で使用でき、かつ鋼管の溶接ビード部における被覆層の膜厚減少(偏肉)現象が抑制されたポリオレフィン被覆鋼管とその製造方法に関する。」(段落【0001】) ス.「本発明により下記の効果が得られる。(1)エポキシ系プライマー層を本発明の範囲内のプライマー組成物から形成し、好ましくは下地にクロメート処理を併用することで、冷熱サイクルを長期間付与しても初期密着性を保持でき、-60℃での低温耐衝撃性が著しく向上する。(2)被覆層がポリエチレン樹脂であって、接着層が低温脆化温度-50℃以下、変性率0.2 %以上の変性ポリエチレン樹脂である場合には、さらに被覆層の強接着が可能となり、接着強度が増大し、高温耐食性が向上する。以上の(1)と(2)により、本発明のポリオレフィン被覆鋼管は-60℃から60℃の広い温度範囲で使用可能になる。(3)プライマー塗膜を従来より低温で短時間に硬化させることができるため、被覆層の積層を、被覆するポリオレフィン樹脂の融点以下の鋼管温度で行うことがで き、鋼管の溶接ビード部の偏肉が低減する。」(段落【0074】〜【0076】) (なお、甲第3号証における丸囲み数字は、表記の都合上、括弧付き数字で表現した。) (2)対比・判断 上記ア.〜コ.によれば、甲第1、2号証には、それぞれ、「クロメート処理した鋼材表面にエポキシプライマー層、変性ポリオレフィン樹脂層およびポリエチレン樹脂層を順次積層したポリエチレン被覆鋼材において、エポキシプライマー層の膜厚が10〜50μm(甲第2号証においては、20μm)であるポリエチレン被覆鋼材」が記載されている。 請求項1に係る発明と、甲第1、2号証に記載された発明とを対比すると、両者は、「鋼材の表面にクロメート処理層、エポキシプライマー層、変性ポリエチレン接着樹脂層、ポリエチレン防食樹脂層を順次積層してなるポリエチレン被覆鋼材であって、エポキシプライマー層の膜厚が10μm以上100μm以下であるポリエチレン被覆鋼材」である点において一致しているが、 請求項1に係る発明においては、変性ポリエチレン接着樹脂層の密度ADとポリエチレン防食樹脂層の密度PDとが、-5.714×PD2+10.287×PD-3.666≧AD≧5.155×PD2-10.222×PD+5.951・・・(1)の式を満たす(ただし、AD=0.930かつPD=0.938である場合を除く)関係にあるのに対し、甲第1、2号証に記載された発明においては、変性ポリエチレン接着樹脂層の密度ADとポリエチレン防食樹脂層の密度PDの関係について記載がない点 、 において、相違している。 そこで、上記相違点について検討する。 本件請求項1に係る発明は、耐陰極電解剥離性に加えて、さらに耐冷熱サイクル特性も良好なポリエチレン樹脂被覆鋼材を得るという発明の課題を、エポキシプライマー層の膜厚を一定の範囲とし、かつ、変性ポリエチレン接着樹脂層の密度とポリエチレン防食樹脂層の密度を上記(1)式の関係を満たすようにすることにより解決したものである。 一方、甲第1、2号証に記載された発明は、高温用環境下で優れた密着性および耐食性を与えるポリオレフィン被覆鋼材を得るという課題を、特定のエポキシ樹脂からなるプライマー層を設けることにより解決したものである。 そうすると、両発明は、解決すべき課題である、ポリエチレン樹脂被覆鋼材の特性については類似性があるものの、これを解決すべき手段は全く異なるのであるから、上記相違点は、甲第1、2号証に記載される発明に基づいて、当業者が容易になしうるものではない。 また、甲第3号証にも、耐陰極電解剥離性に加えて、さらに耐冷熱サイクル特性も良好なポリエチレン樹脂被覆鋼材を得るという課題を解決するために、変性ポリエチレン接着樹脂層の密度とポリエチレン防食樹脂層の密度を上記(1)式の関係を満たすようにすることについては何ら記載されていないから、上記相違点は、甲第3号証の記載に基づいて、当業者が容易になしうるものでもない。 そして、請求項1に係る発明は、上記「変性ポリエチレン接着樹脂層の密度とポリエチレン防食樹脂層の密度を上記(1)式の関係を満たすようにする」ことにより、「従来にない優れた耐冷熱サイクル特性と耐陰極電解剥離性をバランス良く兼備する」という優れた効果を奏するものである。 したがって、請求項1に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明ではなく、また、甲第1〜3号証に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 4.理由3について 異議申立人は、本件特許明細書には、 (1)発明の臨界性のデータが示されていないので、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されていない(特許法施行規則第24条の2の要件を満たしていない)、 (2)発明が当業者が実施できる程度に記載されていない、 (3)発明が明確に記載されていない、 から、本件請求項1に係る発明は、特許法第36条第4項または第6項に規定する要件を満たさない特許出願に係るものである旨主張している。(異議申立書第4〜25行) そこで、これらの点について検討する。 ・上記(1)の点について 上記3.(2)にも記載したように、請求項1に係る発明は、耐陰極電解剥離性に加えて、さらに耐冷熱サイクル特性も良好な、全ての性能をバランスよく備えたポリエチレン樹脂被覆鋼材を得るという課題を解決するために、エポキシプライマー層の膜厚を一定の範囲内とし、かつ、変性ポリエチレン接着樹脂層の密度とポリエチレン防食樹脂層の密度とを上記式(1)の関係を満たすようにしたものである。 そして、「変性ポリエチレン接着樹脂層の密度とポリエチレン防食樹脂層の密度とが上記式(1)の関係を満たす」ことの技術的意味については、-5.714×PD2+10.287×PD-3.666≧ADの関係を満たさないと、変性ポリエチレン接着樹脂層とポリエチレン防食樹脂層の内部応力が増加し、耐冷熱サイクルの低下を招くこと、及び、AD≧5.155×PD2-10.222×PD+5.951の関係を満たすと、陰極電解剥離を生じる反応に必要な最低限の水と酸素の透過が抑制され、結果として耐陰極電解剥離性が改善されることが記載されており(段落【0031】〜【0035】)、さらに、実施例1〜19と、比較例20〜29との対比では、上記(1)式を満足する場合には、耐陰極電解剥離性及び耐冷熱サイクル特性が良好で、上記(1)式を満足しない場合には、耐陰極電解剥離性及び耐冷熱サイクル特性が劣るということが、定量的にも把握できるものである。 そうすると、請求項1に係る発明の解決すべき課題と、その解決手段との関係は明確であり、発明の技術上の意義は明確に記載されていると認められる。 したがって、発明の詳細な説明は、特許法施行規則第24条の2の要件を満足する程度に記載されていると認められる。 ・上記(2)の点について 発明の詳細な説明には、請求項1に係るポリエチレン樹脂被覆鋼材の製造方法が、明確に記載されている。(明細書【0022】〜【0045】)変性ポリエチレン接着樹脂とポリエチレン防食樹脂の密度の調整方法については記載がないが、これは、当業者が技術常識に基づいて当業者が容易に実施できるものである。 したがって、発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明を当業者が実施しうる程度に記載しているものと認められる。 ・上記(3)の点について 請求項1の記載は、何ら不明確ではなく、特許を受けようとする発明が明確に記載されているものと認められる。 (なお、異議申立人は、実施可能要件違反、及び明確性違反については、何ら具体的な理由を示さなかった。) よって、請求項1に係る発明は、特許法第36条第4項及び第6項の要件を満たす特許出願に係るものである。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ポリエチレン樹脂被覆鋼材 (57)【特許請求の範囲】 鋼材の表面にクロート処理層、エポキシプライマー層、変性ポリエチレン接着樹脂層、ポリエチレン防食樹脂層を順次積層してなるポリエチレン被覆鋼材であって、エポキシプライマー層の膜厚が10μm以上100μm以下であり、かつ変性ポリエチレン接着樹脂層の密度ADとポリエチレン防食樹脂層の密度PDとの関係が、下記▲1▼式を満たす(AD=0.930かつPD=0.938である場合を除く)ことを特徴とするポリエチレン樹脂被覆鋼材。 -5.714×PD2+10.287×PD-3.666≧AD≧5.155×PD2-10.222×PD+5.951・・・・・▲1▼ 但し、AD及びPDは、ともに、g/cm3の単位で表示した値である。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、耐冷熱サイクル特性及び耐陰極電解剥離性に優れたポリエチレン樹脂被覆鋼材に関する。 【0002】 【従来の技術】 土壌や海水中等の湿潤環境、氷塊や流木の衝突等が繰り返される海洋環境等の厳しい環境で使用される鋼材は、高耐食性と強度をともに備えたポリエチレン樹脂で被覆されることが多い。このようなポリエチレン樹脂被覆鋼材の被覆層は、通常、4つの層から構成される。すなわち、鋼材側から順に、鋼材に直接施される非常に薄いクロメート処理層、数十〜数百μmの厚さのエポキシプライマー層、0.1〜0.5mm程度の変性ポリエチレン接着樹脂層、そして最も厚い1〜5mm程度のポリエチレン防食樹脂層の4層からなる。この中で変性ポリエチレン接着樹脂層は、ポリエチレン防食樹脂層を下地のエポキシプライマー層に接着する役割を担う。 【0003】 このような4層からなる被覆を施すことにより、通常の環境ではポリエチレン樹脂被膜全体は長期間剥離せずに高耐食性を維持する。しかし、以下に示すような使用条件においては、上記4層からなるポリエチレン樹脂被覆鋼材においても剥離が発生し、かつ進展する。 【0004】 まず、電気防食を行うと上記のポリエチレン樹脂層の剥離が促進されるという現象がある。鋼矢板、鋼管杭、ラインパイプ等は、数十年以上の長期にわたり補修なしで使用されるので、ポリエチレン樹脂被覆による防食と併用して、カソード防食法が適用される。施工の際、ポリエチレン樹脂に鋼材面にまで達する疵がついた場合、鋼材はカソード防食の効果によって防食されるが、ポリエチレン樹脂被覆はカソード防食のため、かえって剥離が促進される。この現象は、防食電流によってアルカリが発生し、このアルカリのためにポリエチレン樹脂層の剥離が発生する、いわゆる“陰極電解剥離”として知られているものである。ここで、“カソード防食”とは、鋼材の電位を腐食が生じる電位よりも下げて、不変態領域の電位とする防食法をさし、犠牲アノードを用いる方法と強制通電による方法の2方法がある。通常、ラインパイプ等では、簡便さの観点から強制通電による方法が採用される。 【0005】 近年ラインパイプ等では、管内の重質油の流動性を高め、輸送能力を向上させるために、重質油を加熱する方法が採用され、その温度もますます高温化する趨勢にある。高温においては、ポリエチレン樹脂は外部から水又はイオンが微量浸透し、この浸透した微量の水又はイオンがさらにポリエチレン樹脂被覆の剥離を促進させる。 【0006】 このような高温化に伴い、ラインパイプに用いるポリエチレン樹脂被覆鋼材も、高温での耐陰極電解剥離性を備えることが重要な課題となってきた。以後の説明において、“高温での耐陰極電解剥離性”を、単に“耐陰極電解剥離性”という。 【0007】 さらに、ポリエチレン樹脂被覆鋼材の使用環境が寒冷地から熱帯に至るまでの広い温度域に拡大し、特に、砂漠地帯などの寒暖の気温変動が大きい場合は、その冷熱サイクルによる鋼材とポリエチレン樹脂被覆との剥離が問題となる。このため、砂漠地帯に使用されるラインパイプ等では耐冷熱サイクル特性を備えることが必要となる。 【0008】 上記の問題に対してこれまでとられてきた方法は、つぎのものに限られる。 【0009】 耐陰極電解剥離性の向上策としては、例えば、リン酸と無水クロム酸の混合液を有機系還元剤で部分的に還元したものに、シリカ系微粒子とシランカップリング剤を加えて得られるクロメート処理液を用いる方法が提案されている(特開平3-234527号公報)。 【0010】 また、同じく耐陰極電解剥離性を向上させる方法として、フェノールノボラック型のグリシジルエーテルを含むエポキシ樹脂、ジシアンジアミド系硬化剤、イミダゾール系硬化剤及び無機顔料からなるエポキシプライマー層を有するポリエチレン被覆鋼材の提案がなされている(特開平3-126550号公報)。 【0011】 しかしながら、これらの方法は、クロメート処理層又はエポキシプライマー層の改良によって耐陰極電解剥離性の向上を図ったものであるが、耐冷熱サイクル特性については考慮されていない。耐陰極電解剥離性に加えて、さらに耐冷熱サイクル特性も良好な、全ての性能をバランスよく備えたポリエチレン樹脂被覆鋼材は未だ開発されていない。 【0012】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、耐陰極電解剥離性に加えて耐冷熱サイクル特性も備えたポリエチレン樹脂被覆鋼材を提供することを目的とする。 【0013】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、上述の問題点を解決するために、ブラスト処理を施した鋼材にクロメート処理層、エポキシプライマー層、変性ポリエチレン接着樹脂層およびポリエチレン防食樹脂層を順次積層してなるポリエチレン被覆鋼材について検討を重ねた結果、下記の事項を確認することができた。 【0014】 (a)変性ポリエチレン接着樹脂層の密度が小さく、ポリエチレン防食樹脂層の密度との関係において一定以下の範囲にあるとき耐冷熱サイクル特性は改善される。 【0015】 (b)しかし、上記の変性ポリエチレン接着樹脂の密度が小さすぎると耐陰極電解剥離性は劣化する。 【0016】 本発明者らは、これまで着目されたことがなかった変性ポリエチレン接着樹脂層とポリエチレン防食樹脂層の密度をそれぞれ変化させて、綿密な実験を繰り返した結果、上記(a)及び(b)の範囲を数式化することに成功した。本発明は、この数式化された技術的思想を基にさらにこれら効果の確認をおこなった末に完成されたもので、下記のポリエチレン樹脂被覆鋼材をその要旨とする。 【0017】 『鋼材の表面にクロメート処理層、エポキシプライマー層、変性ポリエチレン接着樹脂層、ポリエチレン防食樹脂層を順次積層してなるポリエチレン被覆鋼材であって、エポキシプライマー層の膜厚が10μm以上100μm以下であり、かつ変性ポリエチレン接着樹脂層の密度ADとポリエチレン防食樹脂層の密度PDとの関係が、下記▲1▼式を満たす(AD=0.930かつPD=0.938である場合を除く)ポリエチレン樹脂被覆鋼材。 【0018】 -5.714×PD2+10.287×PD-3.666≧AD≧5.155×PD2-10.222×PD+5.951・・・・▲1▼ 但し、密度、AD及びPDは、ともに、g/cm3の単位で表示された値である。』 上記の「エポキシプライマー層の膜厚」とは、重量法、電磁微厚計等で測定できる平均的膜厚を意味する。したがって、ブラスト処理後の表面凹凸のトップ部(凸部)からエポキシプライマー層の表面までの膜厚(最小膜厚)、またはボトム部(凹部)からエポキシプライマー層表面までの膜厚(最大膜厚)等のミクロ的な位置によって変動する膜厚は該当しない。 【0019】 上記において、「変性ポリエチレン接着樹脂層及びポリエチレン防食樹脂層の密度」は、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤剤等の添加剤を含まない状態での密度である。 【0020】 図1は上記▲1▼式を満たす変性ポリエチレン接着樹脂の密度AD及びポリエチレン防食樹脂の密度PDの範囲をあらわす図面である。以後の説明において、図1における曲線1(曲線:AD=-5.714×PD2+10.287×PD-3.666をあらわす)を冷熱サイクル特性限界線、また、曲線2(曲線:AD=5.155×PD2-10.222×PD+5.951をあらわす)を陰極電解剥離限界線と呼ぶ。 【0021】 【発明の実施の形態】 次に本発明の限定理由について詳細に説明する。 【0022】 1.鋼材 まず、本発明に用いる鋼材の材質としては、炭素鋼、低合金鋼、さらにステンレス鋼等の高合金鋼でもよい。鋼材の形状はとくに限定せず、ラインパイプ、鋼管杭等の管状材でもよく、また、鋼矢板等の形状でも良い。 【0023】 鋼材は、クロメート処理を行う前に、その外表面を予め公知のショットブラスト、グリッドブラスト、サンドブラスト等、従来用いられている物理的手段、又は酸洗、アルカリ脱脂などの化学的手段を適切に組み合わせることにより、表面が清浄化されているのが好ましい。 【0024】 2.クロメート処理 鋼材の表面には、一般に密着性や防食性を高めるために、下地処理として化成処理(クロメート処理、燐酸亜鉛処理)が施されるが、本発明においてはクロメート処理が施される。 【0025】 このうちシリカ系塗布型クロメート処理は、作業性にも優れ、一次密着力も高いので、望ましい下地処理方法である。また有機還元剤を用いた高還元クロメート処理がほどこされたものであってもよく、耐陰極電解剥離性の向上に好適である。 【0026】 クロメート処理層は、表面を清浄化した鋼材表面に、しごき塗り、エアスプレーなどの公知の方法によりクロメート処理剤が塗布されて形成される層である。その付着量は、全クロム量として50〜1000mg/m2の範囲にあることが好ましい。クロム付着量が50mg/m2未満では耐陰極電解剥離性が劣り、一方、1000mg/m2を超えると、クロメート皮膜自体が厚くなりすぎ、耐冷熱サイクル特性および一次密着力が低下する場合がある。 【0027】 3.エポキシプライマー層 エポキシプライマー層は、公知のエポキシ樹脂と硬化剤を主成分とし、顔料を所望により添加したもので形成される。代表的なエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA、フェノールノボラックタイプ等が、また、硬化剤としては、アミン系硬化剤、ジシアンジアミド系硬化剤やイミダゾール硬化剤等が挙げられ、二液硬化型エポキシプライマーまたは硬化剤をマイクロカプセル化した潜在硬化性一液型熱硬化エポキシプライマーも使用できる。また不飽和エポキシエステルとアクリル酸エステルモノマー、重合開始剤を混合した活性エネルギー硬化型エポキシプライマーも使用できる。 【0028】 本発明のポリエチレン樹脂被覆鋼材において、エポキシプライマー層の膜厚は10μm以上100μm未満であることが必須であり、より好ましくは10μm以上50μm以下である。 【0029】 エポキシプライマーの膜厚が10μm未満であると、ブラスト処理後のトップ部分のエポキシプライマーの膜厚の非常に薄い部分の面積が大きくなり、耐陰極電解剥離性が著しく低下する。一方、エポキシプライマー層の硬化過程で生じる残留応力はエポキシプライマーを剥離させる方向に働くため、膜厚が100μmを超えると、次に述べる変性ポリエチレン接着樹脂とポリエチレン防食樹脂の密度に拘わらず、耐冷熱サイクル特性が著しく低下する。 【0030】 4.変性ポリエチレン接着樹脂層及びポリエチレン防食樹脂層 本発明で用いる変性ポリエチレン接着樹脂層とポリエチレン防食樹脂層の密度は、前記▲1▼式で示される関係を満足する(AD=0.930かつPD=0.938である場合を除く)ものとする。 【0031】 図1において、変性ポリエチレン接着樹脂の密度ADが冷熱サイクル特性限界線1以下の場合、すなわち、AD≦-5.714×PD2+10.287×PD-3.666の関係が満たされるとき、耐冷熱サイクル特性は優れたものになる。 【0032】 変性ポリエチレン接着樹脂層の密度が冷熱サイクル特性限界線1を超えると、冷熱サイクルを受けるとき変性ポリエチレン接着樹脂層とポリエチレン防食樹脂層の内部応力が増加し、変性ポリエチレン接着樹脂層か又はポリエチレン防食樹脂層の何れか一方、あるいは双方によって、冷熱サイクル時の応力を緩和することができなくなる。このような樹脂内の内部応力の増大は、ポリエチレン防食樹脂層を剥離させる方向に働き、耐冷熱サイクル特性の低下を招く。 【0033】 一方、変性ポリエチレン接着樹脂層の密度ADが、陰極電解剥離限界線2以上の場合、すなわち、AD≧5.155×PD2-10.222×PD+5.951の関係が成り立つ場合、耐陰極電解剥離性は優れたものになる。 【0034】 陰極電解剥離は、カソード防食時のカソード反応2H2O+O2+4e-→4OH-によって生じるアルカリによってクロメートまたはプライマーの近傍が剥離する現象である。 【0035】 この反応に関与する水(H2O)及び酸素(O2)は、主にポリエチレン防食樹脂層及び変性ポリエチレン接着樹脂層を透過してクロメートまたはプライマーの近傍において陰極電解剥離を促進する。密度ADが陰極電解剥離限界線2以上のとき、この反応に必要な最低限の水と酸素の透過は、変性ポリエチレン接着樹脂層及びポリエチレン防食樹脂層によって抑制され、その結果、耐陰極電解剥離性は大きく改善されたものになるのである。 【0036】 本発明に用いることのできる変性ポリエチレン接着樹脂層としては、無水マレイン酸変性ポリエチレンが特に高い接着性を示すため好ましいが、その他、エチレン共重合体(例、エチレン/酢酸ビニル共重合体)系の樹脂、もしくはアクリル酸、又はカルボン酸変性ポリエチレン樹脂なども使用可能である。また、変性ポリエチレン接着樹脂には、さらに公知の着色顔料が含まれていても差し支えない。この変性ポリエチレン接着樹脂層の厚さは、0.1〜0.5mm程度が一般的である。 【0037】 ポリエチレン防食樹脂層は、一般に鋼材の被覆に用いられているポリエチレンの何れでも、上記の密度の範囲を満足すれば使用できる。例えば低密度もしくは、中密度又は高密度のポリエチレン等のいずれでもよく、また、少量の他のオレフィンまたはビニルモノマー(例えば、プロピレン、酢酸ビニル、アクリル酸エステル等)が共重合されたものであってもよい。なお、上記のポリエチレンには、慣用の酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、充填剤等の添加剤を配合してもよい。ポリエチレン防食樹脂層の厚みは、1mm〜5mmが機械的強度と経済性の観点より好適である。 【0038】 変性ポリエチレン接着樹脂及びポリエチレン防食樹脂の被覆は、溶融丸ダイ共押出被覆や溶融Tダイ押出被覆を使用した慣用の方法により行うことができる。 【0039】 【実施例】 つぎに実施例により本発明の効果を説明する。 【0040】 鋼材として直径216mmの配管用炭素鋼鋼管(JIS G 3452)を用い、クロメート処理前にグリッドブラストにより表面を除錆度Sa3に調整した。つぎに誘導加熱装置により鋼管を60℃に加熱し、管移動速度3m/minで搬送ロール上を移動させながら全クロム付着量が250mg/m2になるようにクロメート処理を施した。用いたクロメートは、コスマー100(関西ペイント製)を水で希釈したものを用いた。 【0041】 その後、エポキシプライマーとして、二液型アミン硬化エポキシプライマー(日本ペイント製No66エポキシプライマー)を表1に示す膜厚になるように塗布し、誘導加熱装置により加熱硬化させた。 【0042】 表1は、エポキシプライマー層の膜厚、および後述する変性ポリエチレン接着樹脂層とポリエチレン防食樹脂層それぞれの膜厚と密度をしめす。 【0043】 【表1】 【0044】 図1においてアンダーラインを付した番号は、表1の試験番号を表示したものである。比較例は試験番号20、21以外は、いずれも変性ポリエチレン接着樹脂層とポリエチレン防食樹脂層の密度は本発明の範囲外であることが分かる。試験番号20、21は、ともに変性ポリエチレン接着樹脂層及びポリエチレン防食樹脂層の密度は本発明の範囲内であるが、膜厚が本発明の範囲外である。 【0045】 このように下地処理を行った鋼管に、表1に示す密度を変化させた無水マレイン酸変性ポリエチレン接着樹脂層を介して、同様に密度を変化させたポリエチレン防食樹脂層を被覆し、外面ポリエチレン被覆鋼管を得た。 【0046】 上記のポリエチレン被覆鋼管から150mm長さ×70mm幅に切りだしたサンプルについて、つぎの陰極電解剥離性の試験を行った。試験片の被覆層に、直径5mmの鋼面に達する人工疵を設け、これを80℃に保った3%NaCl食塩水に接液させ、飽和カロメル電極に対して-1.5Vの電位に保ち60日間保持し、人工疵からの剥離距離を測定し、これを陰極剥離長さとして評価の指標とした。 【0047】 また、耐冷熱サイクル特性の評価として、上記陰極電解剥離性試験と同じ形状の試験片を用いてつぎの試験を行った。すなわち、-45℃に8時間保持し次いで80℃に16時間保持する熱サイクルを1サイクルとして、20サイクルの冷熱サイクルを付与し、その後、剥離した面積率(150mm長さ×70mm幅の試験片面積10500mm2に対する面積率)を測定した。上記冷熱サイクルにおいて80℃に16時間保持している間は、相対湿度を95%に保持した。 【0048】 これらの試験結果を表1に併せて示す。 【0049】 本発明例である試験番号1〜19に示しように、エポキシプライマーの膜厚が10μm以上100μm以下であり、かつ変性ポリエチレン接着樹脂層の密度ADとポリエチレン防食樹脂層の密度PDが、前記▲1▼式の関係を満足する場合、耐陰極電解剥離性と耐冷熱サイクル性がともに優れることがわかる。 【0050】 一方、比較例の試験番号20に示すように、エポキシプライマーの膜厚が10μm未満になると、耐陰極電解剥離性が低下する。 【0051】 試験番号21のようにエポキシプライマーの膜厚が100μmを超えると耐陰極電解剥離性は優れるものの耐冷熱サイクル特性は著しく劣化することがわかる。 【0052】 試験番号22〜25に示すように変性ポリエチレン接着樹脂層の密度ADが、陰極電解剥離限界線2より小さく、AD<5.155×PD2-10.222×PD+5.951の場合、耐冷熱サイクル性には優れるが、耐陰極電解剥離性が低下する。 【0053】 また、試験番号26〜29に示すように、変性ポリエチレン接着樹脂層の密度ADが、冷熱サイクル特性限界線1を超えて、-5.714×PD2+10.287×PD-3.666<ADの場合には、耐陰極電解剥離性には優れるが、耐冷熱サイクル特性が低下する。 【0054】 【発明の効果】 本発明のポリエチレン樹脂被覆鋼材は、エポキシプライマー層の膜厚、変性ポリエチレン接着樹脂層とポリエチレン防食樹脂層の密度を制御することにより、従来にない優れた耐冷熱サイクル特性と耐陰極電解剥離性をバランス良く兼備する。本発明は、厳しい環境条件下で使用される鋼矢板、鋼管杭、配管、特に原油の流動性を高めるために加熱されるラインパイプ等への素材として好適であり、気温変化の激しい環境下でもポリエチレン樹脂層の剥離を生じることなく優れた防食性を維持できる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明における変性ポリエチレン接着樹脂の密度ADとポリエチレン防食樹脂の密度PDとが満たすべき範囲を示す。 【符号の説明】 1…冷熱サイクル特性限界線 2…陰極電解剥離限界線 3…▲1▼式を満たす変性ポリエチレン接着樹脂層の密度ADとポリエチレン防食樹脂層の密度PDの範囲 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 訂正事項1 特許明細書の特許請求の範囲を、特許請求の範囲の減縮を目的として下記の通り訂正する。 「【特許請求の範囲】 鋼材の表面にクロメート処理層、エポキシプライマー層、変性ポリエチレン接着樹脂層、ポリエチレン防食樹脂層を順次積層してなるポリエチレン被覆鋼材であって、エポキシプライマー層の膜厚が10μm以上100μm以下であり、かつ変性ポリエチレン接着樹脂層の密度ADとポリエチレン防食樹脂層の密度PDとの関係が、下記▲1▼式を満たす(AD=0.930かつPD=0.938である場合を除く)ことを特徴とするポリエチレン樹脂被覆鋼材。 -5.714×PD2+10.287×PD-3.666≧AD≧5.155×PD2-10.222×PD+5.951・・・・・▲1▼ 但し、AD及びPDは、ともに、g/cm3の単位で表示した値である。」 訂正事項2 特許明細書の【0017】を、明りょうでない記載の釈明を目的として、下記の通り訂正する。 「『鋼材の表面にクロメート処理層、エポキシプライマー層、変性ポリエチレン接着樹脂層、ポリエチレン防食樹脂層を順次積層してなるポリエチレン被覆鋼材であって、エポキシプライマー層の膜厚が10μm以上100μm以下であり、かつ変性ポリエチレン接着樹脂層の密度ADとポリエチレン防食樹脂層の密度PDとの関係が、下記▲1▼式を満たす(AD=0.930かつPD=0.938である場合を除く)ポリエチレン樹脂被覆鋼材。」 訂正事項3 特許明細書の【0030】を、明りょうでない記載の釈明を目的として、下記の通り訂正する。 「4.変性ポリエチレン接着樹脂層及びポリエチレン防食樹脂層 本発明で用いる変性ポリエチレン接着樹脂層とポリエチレン防食樹脂層の密度は、前記▲1▼式で示される関係を満足する(AD=0.930かつPD=0.938である場合を除く)ものとする。」 |
異議決定日 | 2001-12-20 |
出願番号 | 特願平8-254172 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(B32B)
P 1 651・ 113- YA (B32B) P 1 651・ 536- YA (B32B) P 1 651・ 854- YA (B32B) P 1 651・ 851- YA (B32B) P 1 651・ 537- YA (B32B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鴨野 研一 |
特許庁審判長 |
石井 淑久 |
特許庁審判官 |
石井 克彦 加藤 志麻子 |
登録日 | 2000-09-22 |
登録番号 | 特許第3111908号(P3111908) |
権利者 | 住友金属工業株式会社 |
発明の名称 | ポリエチレン樹脂被覆鋼材 |
代理人 | 穂上 照忠 |
代理人 | 森 道雄 |
代理人 | 穂上 照忠 |
代理人 | 三和 晴子 |
代理人 | 森 道雄 |
代理人 | 渡辺 望稔 |