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審決分類 |
審判 訂正 1項3号刊行物記載 訂正する C01G 審判 訂正 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 訂正する C01G 審判 訂正 2項進歩性 訂正する C01G 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C01G |
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管理番号 | 1058817 |
審判番号 | 訂正2002-39026 |
総通号数 | 31 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1989-11-28 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2002-02-01 |
確定日 | 2002-03-25 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2862875号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2862875号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
I.本件訂正審判請求に至る経緯 特許出願:昭和63年5月23日 特許権設定登録(特許第2862875号):平成10年12月11日 異議決定(特許取消):平成13年2月28日 高裁出訴(平成13年東京高裁(行ケ)第157号):平成13年4月17日 訂正審判請求(訂正2002-39026号):平成14年2月1日 II.請求の要旨 本件審判請求の要旨は、特許第2862875号の特許明細書を特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、訂正審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項a乃至訂正事項gのとおり訂正することを求めるものである。 (1)訂正事項a:特許請求の範囲の請求項1の「Mnを0.1〜0.3重量%含有し、Pの含有量が0.005重量%以下で、残部は実質的に酸化鉄の化学成分よりなる単一の酸化物であることを特徴とする、フェライト用の酸化鉄」を、「酸による溶解で得た溶液を焙焼することにより得られた酸化鉄であって、Mnを0.1〜0.3重量%含有し、Pの含有量が0.0029重量%以下で、SiO2の含有量が0.005〜0.0095重量%で、残部は実質的に酸化鉄の化学成分よりなる単一の酸化物であることを特徴とする、フェライト用の酸化鉄」と訂正する。 (2)訂正事項b:特許明細書(特許公報第3欄38〜39行)の「Mnを0.1〜0.3重量%含有し、Pの含有量が0.005重量%以下である」を、「酸による溶解で得た溶液を焙焼することにより得られた酸化鉄であって、Mnを0.1〜0.3重量%含有し、Pの含有量が0.0029重量%以下で、SiO2の含有量が0.005〜0.0095重量%で、残部は実質的に酸化鉄の化学成分よりなる単一の酸化物であることを特徴とする」と訂正する。 (3)訂正事項c:特許明細書(特許公報第4欄32〜38行)の「本発明のNo1〜8は・・・Pが0.0064〜0.016重量%のNo9〜No13とは異なる。」を、「本発明のNo1〜5はMnを0.1〜0.3重量%含有するため、Mnが0.05〜0.07重量%のNo14やNo15とは異なる。本発明ではMnを格別に除去しないために、本発明のNo1〜No5のMnは0.1〜0.3重量%となり、No9〜No13と同じレベルである。しかし本発明のNo1〜No5はPが0.0029重量%以下であるため、Pが0.0064〜0.016重量%のNo9〜No13とは異なる。」と訂正する。 (4)訂正事項d:特許明細書(特許公報第3頁)の第2表のNo6〜8についての備考の「本発明の酸化鉄」を「本発明の範囲外の酸化鉄」と訂正する。 (5)訂正事項e:特許明細書の(特許公報第5欄38行、第7欄9行、第8欄3〜4行及び7〜8行)の「0.005重量%以下」を、「0.0029重量%以下」と訂正する。 (6)訂正事項f:特許明細書(特許公報第7欄1行及び11行)の「No1〜No8」を、「No1〜No5」と訂正する。 (7)訂正事項g:第1図及び第2図から第3表のNo6〜8のデータを削除する。 III.当審の判断 1.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否について 訂正事項aは、「フェライト用の酸化鉄」について、「酸による溶解で得た溶液を焙焼することにより得られた酸化鉄であって、」及び「SiO2の含有量が0.005〜0.0095重量%」の構成を追加し、また「Pの含有量が0.005重量%以下」を「Pの含有量が0.0029重量%以下」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。 また、「酸による溶解で得た溶液を焙焼することにより得られた酸化鉄であって、」は、特許明細書の「酸化鉄の製造方法の一例」(特許公報第4欄)に記載されており、また「SiO2の含有量が0.005〜0.0095重量%」や「Pの含有量が0.0029重量%以下」は、特許明細書の第2表の実施例に裏付けられているから、これら訂正の内容は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 訂正事項b乃至gは、特許請求の範囲の減縮に伴って明細書の内容を整理するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。そして、これら訂正事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 2.独立特許要件について (1)本件訂正発明 本件訂正後の発明は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本件訂正発明1」という)。 「【請求項1】酸による溶解で得た溶液を焙焼することにより得られた酸化鉄であって、Mnを0.1〜0.3重量%含有し、Pの含有量が0.0029重量%以下で、SiO2の含有量が0.005〜0.0095重量%で、残部は実質的に酸化鉄の化学成分よりなる単一の酸化物であることを特徴とする、フェライト用の酸化鉄。」 (2)当審の判断 本件特許第2862875号については、別途特許異議申立て(平成11年異議第73228号)がなされ、平成13年2月28日付けで異議決定(特許取消)がなされている(高裁出訴中、平成13年(行ケ)第157号)から、本件訂正の独立特許要件については、上記異議決定の理由及び証拠や特許異議申立ての理由及び証拠に基いて判断することとする。 (2-1)異議決定の理由について 平成13年2月28日付け異議決定の理由と証拠の記載内容は、次のとおりである。 (理由と証拠) 異議決定の理由は、本件発明は次に示す引用例に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができないというものである。 引用例:Franklin F.Y.Wang,“Advances in Ceramics Vol.15 Fourth International Conference on Ferrites,Part1” The American Ceramic Society,Inc.,(1985),p.103-107 著者 M.J.Ruthner の「噴霧焙焼した酸化鉄:微量不純物の性質」と題する報文であって、これには次の事項が記載されている。 (a)「現在ソフトフェライトの製造に使用されている、噴霧焙焼された酸化第2鉄の化学分析値が表1に示されている。」(103頁下から15行乃至14行 ) (b)「表1 ソフトフェライトの製造に使用される酸化第2鉄(噴霧焙焼)の化学分析値 Fe2O3 +99.4Wt% Al2O3 400-1200ppm Cr2O3 150-350ppm Ce2O3 50-500ppm MnO 2500-3500ppm NiO 150-350ppm MgO 50-150ppm CaO 100-250ppm SiO2 150-350ppm ・・(中略)・・ V2O 50-250ppm P2O 50-500ppm Cl’ 500-1500ppm CO3” 300-500ppm 」(104頁1行乃至24行) (対比・判断) 上記引用例には、噴霧焙焼で製造された酸化第2鉄の化学分析値が記載されており、この酸化第2鉄も「酸による溶解で得た溶液を焙焼することにより得られた酸化鉄」と云えるから、これを本件訂正発明1の記載ぶりに則って整理すると、「酸による溶解で得た溶液を焙焼することにより得られた酸化鉄であって、MnOを0.25〜0.35重量%含有し、P2Oの含有量が0.005〜0.05重量%で、SiO2の含有量が0.015〜0.035重量%で、残部は実質的に酸化鉄の化学成分よりなる単一の酸化物であることを特徴とする、フェライト用の酸化鉄」が記載されていると云える。 ところで、上記引用例の「P2O」の記載については、通常「P2O5」のような5価の酸化物として存在することが周知であるから、「P2O5」の誤記であるとすると、引用例のソフトフェライト製造用酸化第2鉄中のPの含有量は、「0.0022〜0.0220重量%」となる。また「MnO0.25〜0.35重量%」は、換算すると「Mn0.1900〜0.2700重量%」となる。 そうすると、引用例には、「酸による溶解で得た溶液を焙焼することにより得られた酸化鉄であって、Mnを0.1900〜0.2700重量%含有し、Pの含有量が0.0022〜0.0220重量%で、SiO2の含有量が0.0150〜0.0350重量%で、残部は実質的に酸化鉄の化学成分よりなる単一の酸化物であることを特徴とする、フェライト用の酸化鉄」の発明(以下、「引用例発明」という)が記載されていると云える。 そこで、本件訂正発明1と引用例発明とを対比すると、両者は、「酸による溶解で得た溶液を焙焼することにより得られた酸化鉄であって、Mnを0.1900〜0.2700重量%含有し、Pの含有量が0.0022〜0.0029重量%で、残部は実質的に酸化鉄の化学成分よりなる単一の酸化物であることを特徴とする、フェライト用の酸化鉄」という点で一致し、次の点で相違していると云える。 相違点:本件訂正発明1は、「SiO2の含有量が0.0050〜0.0095重量%」であるのに対し、引用例発明は、「SiO2の含有量が0.0150〜0.0350重量%」である点 次に、この相違点について検討すると、引用例には、上記「ソフトフェライト製造用酸化第2鉄」の化学分析値が記載されているだけであって、この酸化第2鉄の磁気特性、特に酸化第2鉄の不純物と磁気特性との関係については何ら示唆されていないから、「SiO2」の含有量を加減するための動機付けとなる根拠はなく、SiO2の含有量を「0.0150〜0.0350重量%」から本件訂正発明1の「0.0050〜0.0095重量%」とすることは当業者といえど容易に思い付くことではないと云うべきである。 してみると、本件訂正発明1は、上記引用例に記載された発明であるとすることはできないし、また上記引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。 なお、引用例の「P2O」の記載について、これを「P2O5」の誤記でないとした場合には、引用例の酸化第2鉄のP含有量は、「0.0040〜0.0400重量%」であり本件訂正発明1の「0.0029重量%以下」とこのP含有量の点でも相違することとなるから、この場合でも上記と同様の結論となることは明らかである。 (2-2)特許異議申立ての理由について 平成11年異議第73228号の特許異議申立てにおいて指摘されている理由と証拠方法は、次のとおりである。 (理由) (イ)本件発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるか、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきである。 (ロ)本件特許明細書は、その記載が次の点で不備であるから、本件発明についての特許は、特許法第36条第3項又は第4項及び第5項の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきである。 (ロ-1)酸化鉄中の「P含有量」の下限値が規定されていないから、特許明細書の第2表中に示されている最少含有量の「26ppm」より少ない場合でも優れた磁気特性を発揮するのか確認することができない。 (ロ-2)酸化鉄中の「P含有量」と磁気特性との関係は一様ではなく、「P含有量」が少なければ磁気特性が優れているということにはならない。例えば甲第3号証の段落【0010】の表1及び段落【0015】の表2から、No.14とNo.16の磁気特性を比較すると、Pが23ppmのNo.14は、その磁気特性μiが10800であるのに対し、Pが2ppmのNo.16は、その磁気特性μiが7200である。 そうすると、Pの含有量が少なければ磁気特性が優れているとはいえないから、結晶精製法でない方法で得た本件発明の酸化鉄の場合でも、所望の高透磁率を得るためにはP含有量に下限値が存在する可能性がある。 したがって、「P含有量」の下限値を規定しない請求項1の記載は、この点で不備である。 (証拠方法) 甲第1号証:上記引用例と同じ 甲第2号証:特開昭62-235221号公報 (a)「本発明は高純度酸化鉄の製造法であり、特に各種磁性材料として用いられるMn-Zn系フェライト、Mn-Mg系フェライト等の原料に好適な低シリカ、低燐酸化鉄の製造法に関するものである。」(第1頁右欄第3行乃至第7行) (b)「本発明は、SiO250ppm以下、P30ppm以下その他不純物の少ないフェライト原料用高純度酸化鉄を簡単、かつ、確実に製造する方法を提供することにある。」(第2頁右上欄第13行乃至第16行) (c)「本発明は鉄を陽極、黒鉛を陰極とし、pH5〜6に調整した塩化アンモニウム水溶液を電解液として電解する第1工程と、・・・水酸化第二鉄フロックを濾過分離する第2工程と、・・・濾液をアルカリ性とし、酸化処理して得られた沈澱を回収し、焼成する第3工程とからなる高純度酸化鉄の製造法である。」(第2頁右上欄第18行乃至左下欄第8行) (d)第4頁下段の実施例1及び実施例2には、酸化鉄のSiO2がそれぞれ「31ppm」と「61ppm」、Mnがそれぞれ「503ppm」と「550ppm」であると記載されている。 甲第3号証:特開平7-176420号公報(本件出願である特願昭63-124022号の分割出願の特願平6-147454号の公開公報) 第3頁の段落【0010】の表1及び第4頁の段落【0015】の表2には、結晶精製法による高純度酸化鉄のNo.14とNo.16の不純物含有量と磁気特性が記載されており、Pが23ppmのNo.14の磁気特性μiは10800、Pが2ppmのNo.16の磁気特性μiは7200と記載されている。 (対比・判断) (i)上記理由(イ)について 甲第1号証(上記引用例)については、上記「(2-1)異議決定の理由について」で述べたとおりである。また、甲第2号証は、本件特許明細書において従来技術として引用されたものであり、この証拠には、酸化鉄のすべての不純物を一様に低減することができるように工夫された電解精製による酸化鉄の製造法が記載されているだけである。そして、上記(b)の「本発明は、SiO250ppm以下、P30ppm以下その他不純物の少ないフェライト原料用高純度酸化鉄を簡単、かつ、確実に製造する方法を提供することにある。」という記載によれば、この証拠に記載された「酸化鉄」は、基本的にはSiO2を「50ppm以下」とするものであり、また、上記(d)の実施例によれば、そのMnも「503ppm」と「550ppm」であるから、本件訂正発明1の「SiO20.0050〜0.0095重量%、Mn0.1〜0.3重量%」の酸化鉄と大きく相違するものである。 そうすると、甲第2号証には、本件訂正発明1の如き「酸による溶解で得た溶液を焙焼」して得られた酸化鉄や「0.1〜0.3重量%」の範囲でMnを比較的多めに含有させた酸化鉄中の不純物と磁気特性との関連性については何ら示唆されていないし、しかもこの証拠に記載の酸化鉄は、基本的には「SiO250ppm以下」とするものであるから、この記載の限りでは「0.0150〜0.0350重量%」を本件訂正発明1の「0.0050〜0.0095重量%」とすることは当業者といえど容易に思い付くことではないと云うべきである。 したがって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできないし、また甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができない。 (ii)上記理由(ロ)について (ii-1)理由ロ-1について 特許明細書には、特許請求の範囲で請求されている発明のすべての具体例について、その実験結果の詳細な開示まで求められているわけではない。本件発明の効果を把握するに足る必要最小限の実施例や本件発明を当業者が容易に実施することができる程度の実施例の開示で足りるとされている。 そこで、本件特許明細書の記載についてこの観点から検討すると、本件特許明細書の第2表及び第3表には、訂正後のP含有量が0.0029重量%以下の範囲の、26ppm、27ppm、28ppm及び29ppmの実施例が記載され、これら実施例の磁気特性μiはいずれも比較例に比べ優れた値を示すことが明確に記載されている。また、本件訂正審判請求と同時に提出された「実験成績証明書」(甲第3号証)の結果によれば、P含有量が26ppm以下の場合でも同様の優れた磁気特性が発揮されることを確認することができるから、本件特許明細書には、特許を取り消すほどの記載不備はないと云える。 (ii-2)理由ロ-2について 特許異議申立てにおいて指摘された上記甲第3号証のNo.14とNo.16の具体的数値は、「結晶精製法による高純度酸化鉄」に関するものであり、本件訂正発明1の「酸による溶解で得た溶液を焙焼することにより得られた酸化鉄」とその製造法が異なる「酸化鉄」に係るデータであるから、このデータを直ちに本件訂正発明1に適用して記載不備であるとすることはできない。特許異議申立てにおいても、「P含有量の下限値が存在する可能性が十分にある。」と可能性を推測しているだけであって、その根拠となる直接的な証拠を提示するまでに至っていない。 むしろ、特許権者が本件訂正審判請求と同時に提出した「実験成績証明書」(甲第3号証)の結果によれば、酸化鉄のP含有量が26ppm以下の例えば4ppmの場合でも、同様の優れた磁気特性が発揮されることを確認することができるから、甲第3号証の間接的な証拠だけからでは本件特許明細書に記載不備があるとすることはできない。 (2-3)むすび したがって、本件訂正発明1は、上記異議決定の理由や特許異議申立ての理由によって特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとすることはできない。 また、他に本件訂正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由及び証拠を発見しない。 IV.むすび 以上のとおり、本件訂正審判の請求は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 フェライト用の酸化鉄 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 酸による溶解で得た溶液を焙焼することにより得られた酸化鉄であって、Mnを0.1〜0.3重量%含有し、Pの含有量が0.0029重量%以下で、SiO2の含有量が0.005〜0.0095重量%で、残部は実質的に酸化鉄の化学成分よりなる単一の酸化物であることを特徴とする、フェライト用の酸化鉄。 【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明は、フェライトの製造に用いられる酸化鉄に関する。 [従来の技術] 高級ソフトフェライトは、一般に不純物の含有量が少ない酸化鉄を用いて製造される。第1表はこの高級ソフトフェライト用の高純度酸化鉄の不純物の含有量の例である。 第1表のA及びBは結晶精製法で製造した酸化鉄の例である。結晶精製法では硫酸鉄や塩化鉄の水溶液から硫酸鉄や塩化鉄の結晶を晶出せしめ、この結晶を酸化して酸化鉄とする。しかしこの方法では不純物の一部が結晶に混入するため一回晶出では不純物を十分には低減し難い。従って得られた結晶を水等に再度溶解し、再度結晶を晶出せしめる等の処理を繰り返して、不純物の含有量を低減する。この方法によると全ての種類の不純物の含有量が極めて少ない酸化鉄が得られるが、結晶の再溶解や再晶出を繰り返すために工程は煩瑣で、酸化鉄の製造コストも高い。尚この方法では、酸化鉄中のMn含有量は0.1重量%未満である。第1表のC及びDは、特開昭62-235221号公報に記載された酸化鉄で、SiO2が0.005重量%以下でPが0.002重量%以下の酸化鉄である。しかし特開昭62-235221号の方法は、鉄を電解し、陽極液を分離し、フロックを添加し、濾過分離し、液をアルカリ性とし、酸化処理し、沈殿を回収し、これを焼成する方法で、酸化鉄の製造工程が煩瑣で、製造コストも高いと想考される。尚この方法による酸化鉄中のMn含有量は0.1重量%未満である。 [発明が解決しようとする課題] 高級ソフトフェライト用の酸化鉄の不純物には、フェライト特性を損う不純物とフェライト特性を損わない不純物がある。全ての不純物の含有量を一様に低減した従来の高純度の酸化鉄は、前記の如く製造工程が複雑で酸化鉄のコストも高くなる。フェライト特性を損う不純物の種類を特定し、この特定した不純物を重点的に簡易に除去できると、高級ソフトフェライト用の酸化鉄が簡易な工程で製造できコストも安くなる。 本発明は、フェライト特性を損なうこの不純物を特定し、このフェライト特性を損う不純物の含有量が少なく、フェライト特性を損わない不純物を除去しない、高級ソフトフェライト用の新規な酸化鉄を開示するものである。 [課題を解決するための手段] 本発明はフェライト特性を最も損なう不純物がPであり、他の不純物はフェライト特性を損なうことが少ないという従来になかった新たな知見を得、またP以外の不純物は格別に低減しないでPを重点的に低減する酸化鉄の新たな製造方法の知見を得、この新たな両知見に基づいて本発明をなすに至った。 即ち本発明は、酸による溶解で得た溶液を焙焼することにより得られた酸化鉄であって、Mnを0.1〜0.3重量%含有し、Pの含有量が0.0029重量%以下で、SiO2の含有量が0.005〜0.0095重量%で、残部は実質的に酸化鉄の化学成分よりなる単一の酸化物であることを特徴とする、フェライト用の酸化鉄である。 本発明の酸化鉄の製造方法の一例を説明する。濃度が18%の塩酸に軟鋼板(炭素鋼)を加えて、PHが約1.0になる迄溶液を加熱撹拌して軟鋼板を溶解させた。次にこの溶液1m3に対して濃度60%の硝酸を20L加え1時間煮沸した。次に煮沸した溶液に軟鋼板を再度加えてPHが3.5になるまで加熱撹拌した。この液を濾布(P-91SC,(株)栗田機械製作所製)を用いて不溶物を濾別し、濾液を流動層の温度が700℃の流動焙焼炉で酸化焙焼して酸化鉄とした。第2表のNo1〜No8はこの方法で製造した酸化鉄の不純物含有量の例である。No9〜13は一般フェライト用として市販されている酸化鉄の例である。 No14,No15は第1表のA及びBで、結晶精製法による従来の高級ソフトフェライト用酸化鉄の例である。 本発明のNo1〜5はMnを0.1〜0.3重量%含有するため、Mnが0.05〜0.07重量%のNo14やNo15とは異なる。本発明ではMnを格別に除去しないために、本発明のNo1〜No5のMnは0.1〜0.3重量%となり、No9〜No13と同じレベルである。しかし本発明のNo1〜No5はPが0.0029重量%以下であるため、Pが0.0064〜0.016重量%のNo9〜No13とは異なる。 [作用] 本発明で、Mnを0.1〜0.3重量%とし、Pを0.0029重量%以下とする理由を以下に説明する。軟鋼は約0.3重量%のMnを含有している。この軟鋼を酸に溶解し、溶液から前記の方法でPを除去し、Pを除去した溶液を焙焼すると本発明の酸化鉄となるが、この間に格別にMnの除去は行わない。従って溶液においても酸化鉄においてもFe100grに対して0.3grのMnが含有されている。Fe100grは酸化鉄になると約140grになる。従って本発明の酸化鉄は、酸化鉄約140grに対して約0.3grのMnを含有し、従って計算上は約0.2%のMn含有量となるが、得られた酸化鉄の実際のMn含有量は第2表のNo9〜No13の如く0.1〜0.3重量%となる。 本発明者は、第2表の各酸化鉄を用い、これに高純度酸化マンガンや高純度酸化亜鉛等を調合して、Fe2O3:MnO:ZnOがモル比で、53:24.5:22.5になるよう通常の方法で配合し、1350℃で焼成し、外径:25mm、内径:15mm、厚さ:5mmのリング状のテストピースを作成し、JIS C 2561に沿って、1KHz、25℃における交流初透磁率μiacと相対損失係数tanδ/μiacを測定した。第3表に各テストピースの配合粉の成分と磁気特性を示した。第3表のテストピースのNoは、使用した第2表の酸化鉄のNoに対応する。 尚第1図は第3表のNo1〜15について配合粉の組成欄のPppmと磁気特性欄のμiacをプロットした図で、第2図は第3表のNo1〜15について配合粉の組成欄のPppmと磁気特性欄のtanδ/μiacをプロットした図である。 第3表のNo1〜No5は、本発明の酸化鉄を使用したテストピースであるが、No9〜No13の一般フェライト用酸化鉄を使用したテストピースと比べて磁気特性は非常に優れている。とくに第3表のNo1〜No5はPが30ppm以下で、その磁気特性は、結晶精製法による酸化鉄を使用したテストピースNo14,及びNo15の磁気特性と比べても遜色なく、優位性が顕著である。 本発明者等はMnの含有量が0.1〜0.3重量%でPの含有量が0.0029重量%以下の各種酸化鉄を製造して、第3表以外にも前記と同様のテストピースを作成して磁気特性を調査したが、何れも第3表のNo1〜No5と同様の結果であった。また、本発明の酸化鉄を用いた高周波電源用フェライトコアのパワーロス値は、一般フェライト用市販品の酸化鉄を用いた場合に較べて、明らかな向上が認められた。従って本発明はMnを0.1〜0.3重量%、Pを0.0029重量%以下とする。 本発明者等は酸化鉄のPを重点的に除去する方法を新に見出して、本発明を完成するに至った。 次に、先に例として述べた方法で、Pが0.0029重量%以下の酸化鉄が得られる理由を説明する。 軟鋼板(炭素鋼)は通常0.03%のPを含有している。軟鋼板を塩酸に溶解するとPも溶液中に溶解する。この溶液中のPをP+5に酸化するために溶液に硝酸を加えて煮沸する。溶液中に生成したP+5は下記(1)〜(3)式の如くに挙動する。 H3PO4=H++H2PO4-……(1) H2PO4-=H++HPO4-2……(2) HPO4-2=H++PO4-3……(3) 溶液のPHが小さいと解離は進行しないが、H3PO4あるいはH2PO4-の金属塩は水溶性であるため、PHが小さいとPを水溶液から分別できない。 この煮沸した溶液に軟鋼板を再度加えてPHを3.5とすると解離は(2)又は(3)式の如くに進行して、HPO4-2やPO4-3が生成するが、これ等の金属塩は不溶性であるため、不溶性の金属塩としてPを水溶液から濾別できる。 先に例として述べた方法は軟鋼板を原料としたが、類似の方法によって、Pが高い酸化鉄から本発明の酸化鉄を製造する事もできる。 [発明の効果] 高級ソフトフェライト用の酸化鉄は、従来は全ての不純物を一様に低減する結晶精製法で製造していたため製造工程が複雑で且つ酸化鉄のコストも高かった。本発明は、フェライト原料としての酸化鉄が含有する各種の不純物のうちで、フェライトにした際にフェライト特性を大きく損なう不純物はPであるという新たな知見に基づく。また酸化鉄中のPを低減するための、結晶精製法よりも簡易な方法を新たに確立した事に基づく。即ち本発明は結晶精製法よりも簡易な方法で、Pの含有量を重点的に低減せしめた酸化鉄である。従って本発明の酸化鉄はフェライト特性を損わないMnを不純物として含有するが、この酸化鉄を用いて常法によりソフトフェライトを製造すると、結晶精製法で製造されていた従来の酸化鉄を用いたソフトフェライトの場合と同等の優れた磁気特性を有するソフトフェライトが得られる。 本発明の酸化鉄は、従来の結晶精製法による酸化鉄とは組成が異なる別異の酸化鉄であり、結晶精製法による酸化鉄に比べて極めて簡単な製造工程により安価に製造することができる。 【図面の簡単な説明】 第1図は本発明の効果の例を説明する図。 第2図は本発明の他の効果の例を説明する図。 【図面】 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 本件訂正の要旨は、本件特許第2862875号発明の特許明細書を平成14年2月1日付け訂正審判請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、次の訂正事項a乃至gのとおりに訂正するものである。 (1)訂正事項a:特許請求の範囲の請求項1の「Mnを0.1〜0.3重量%含有し、Pの含有量が0.005重量%以下で、残部は実質的に酸化鉄の化学成分よりなる単一の酸化物であることを特徴とする、フェライト用の酸化鉄」を、「酸による溶解で得た溶液を焙焼することにより得られた酸化鉄であって、Mnを0.1〜0.3重量%含有し、Pの含有量が0.0029重量%以下で、SiO2の含有量が0.005〜0.0095重量%で、残部は実質的に酸化鉄の化学成分よりなる単一の酸化物であることを特徴とする、フェライト用の酸化鉄」と訂正する。 (2)訂正事項b:特許明細書(特許公報第3欄38〜39行)の「Mnを0.1〜0.3重量%含有し、Pの含有量が0.005重量%以下である」を、「酸による溶解で得た溶液を焙焼することにより得られた酸化鉄であって、Mnを0.1〜0.3重量%含有し、Pの含有量が0.0029重量%以下で、SiO2の含有量が0.005〜0.0095重量%で、残部は実質的に酸化鉄の化学成分よりなる単一の酸化物であることを特徴とする」と訂正する。 (3)訂正事項c:特許明細書(特許公報第4欄32〜38行)の「本発明のNo1〜8は・・・Pが0.0064〜0.016重量%のNo9〜No13とは異なる。」を、「本発明のNo1〜5はMnを0.1〜0.3重量%含有するため、Mnが0.05〜0.07重量%のNo14やNo15とは異なる。本発明ではMnを格別に除去しないために、本発明のNo1〜No5のMnは0.1〜0.3重量%となり、No9〜No13と同じレベルである。しかし本発明のNo1〜No5はPが0.0029重量%以下であるため、Pが0.0064〜0.016重量%のNo9〜No13とは異なる。」と訂正する。 (4)訂正事項d:特許明細書(特許公報第3頁)の第2表のNo6〜8についての備考の「本発明の酸化鉄」を「本発明の範囲外の酸化鉄」と訂正する。 (5)訂正事項e:特許明細書の(特許公報第5欄38行、第7欄9行、第8欄3〜4行及び7〜8行)の「0.005重量%以下」を、「0.0029重量%以下」と訂正する。 (6)訂正事項f:特許明細書(特許公報第7欄1行及び11行)の「No1〜No8」を、「No1〜No5」と訂正する。 (7)訂正事項g:第1図及び第2図から第3表のNo6〜8のデータを削除する。 |
審決日 | 2002-03-12 |
出願番号 | 特願昭63-124022 |
審決分類 |
P
1
41・
856-
Y
(C01G)
P 1 41・ 121- Y (C01G) P 1 41・ 532- Y (C01G) P 1 41・ 113- Y (C01G) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 平塚 政宏、天野 斉 |
特許庁審判長 |
沼沢 幸雄 |
特許庁審判官 |
多喜 鉄雄 冨士 良宏 野田 直人 石井 良夫 |
登録日 | 1998-12-11 |
登録番号 | 特許第2862875号(P2862875) |
発明の名称 | フェライト用の酸化鉄 |
代理人 | 竹内 英人 |
代理人 | 村社 厚夫 |
代理人 | 竹内 英人 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 吉田 和彦 |
代理人 | 平山 孝二 |
代理人 | 宍戸 嘉一 |
代理人 | 中村 稔 |
代理人 | 中村 稔 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 今城 俊夫 |
代理人 | 今城 俊夫 |
代理人 | 西島 孝喜 |
代理人 | 吉田 和彦 |
代理人 | 平山 孝二 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 吉田 和彦 |
代理人 | 西島 孝喜 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 中村 稔 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 西島 孝喜 |
代理人 | 村社 厚夫 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 中村 稔 |
代理人 | 宍戸 嘉一 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 平山 孝二 |
代理人 | 村社 厚夫 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 宍戸 嘉一 |
代理人 | 竹内 英人 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 今城 俊夫 |
代理人 | 小川 信夫 |