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審決分類 審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効としない A61C
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない A61C
審判 全部無効 2項進歩性 無効としない A61C
管理番号 1059118
審判番号 無効2001-35445  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-03-09 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-10-11 
確定日 2002-05-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第2873725号発明「根管長測定器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第2873725号(平成2年7月13日出願、平成11年1月14日設定登録。)の請求項1乃至3に係る発明(以下、「本件発明1」乃至「本件発明3」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】根管内に挿入されている測定電極の先端位置に対応した測定データを逐次検出するデータ検出手段と、
上記データ検出手段で得られる測定データを逐次補正し、補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータとなるように処理するデータ処理手段と、
上記データ処理手段で得られた補正後データを表示する表示手段、
とを備えたことを特徴とする根管長測定器。
【請求項2】測定データを目標とする補正後データに変換するための補正用テーブルを記憶手段に記憶しており、このテーブルから得られる補正値を測定データに加算して補正を行うようにした請求項1記載の根管長測定器。
【請求項3】測定データを目標とする補正後データに変換するための演算式を記憶手段に記憶しており、この演算式を用いて測定データの補正を行うようにした請求項1記載の根管長測定器。

2.請求人の主張
これに対して、請求人は、甲第1号証乃至甲第12号証を提出すると共に、審判請求書及び平成14年3月18日に実施された口頭審理を参酌すれば、
(1) 本件発明1は、甲第1号証乃至甲第3号証及び甲第8号証乃至甲第10号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下、「無効理由1」という。)、
(2) 本件発明1乃至3は、甲第11号証及び甲第12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1乃至3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(以下、「無効理由2」という。)、
(3) 本件特許明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の構成が記載されておらず、本件発明1乃至3に係る特許は、特許法第36条第3項に違反してなされたものである(以下、「無効理由3」という。)、
(4) 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明3については開示されていないため、本件発明3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に違反してなされたものである(以下、「無効理由4」という。)、
との各理由を挙げ、本件発明1乃至3に係る特許を無効とすべき旨主張している。

3.甲第1号証乃至甲第12号証
(1) 甲第1号証[特公昭62-2817号公報]には、根管内に挿入されている測定針と口腔粘膜に当接した片電極間のインピーダンス変化を検出する回路を備えると共に、該回路の出力を表示装置により、ブラウン管上あるいはメータ上に可視的に表示するようにした歯科用根尖孔位置検出装置が記載されている。
(2) 甲第2号証[「日本歯科保存学雑誌」第22巻第1号、昭和54年3月31日発行、株式会社デントロニクス社製根管長測定器ピオの広告頁]には、
その左下欄に「ピオのメーター」として、「30、32、34、36、38、40」と数字が付されたメーター指示値と共に歯の模式図が描かれ、これらメーター指示値「36、38、40」と根尖近傍の3つの位置が引き出し線により対応付けられ、メーター指示値「30」と「32」、「32」と「34」の各間隔は、比較的短かなほぼ等距離で、メーター指示値「34」と「36」、「36」と「38」、「38」と「40」の各間隔は、比較的長いほぼ等距離で設定されているものが図示されている。
また、同左下欄には、「■根尖前、約1mmで警報音・・・を発します。■Kcy Point(目盛りの振れ巾)を従来の8倍に拡大。」と記載されている。
(3) 甲第3号証[「精選アナログ実用回路集」CQ出版株式会社、1989年1月10日初版発行、第277〜278頁]には、S字カーブを5ポイントで近似できるダイオード折線近似回路に関するものであって、入出力特性の傾斜と折れ点を自由に設定できる折線回路は、非直線性を持つ特性を直線に近似したりする用途に用いられることが説明されている。
(4) 甲第4号証は、本件特許掲載公報[特許第2873725号公報]である。
(5) 甲第5号証は、大阪地方裁判所に出訴された特許権及び実用新案権に基づく差止請求並びに損害賠償請求事件[平成13年(ワ)第1334号]における(本件被請求人による)訴状である。
(6) 甲第6号証[東京都立産業技術研究所作成の成績証明書(13産技技評証第13号]には、本件請求人である藤栄電気株式会社製の根管長測定器「ジャスティII」における根管長と指示目盛との関係を測定した結果が記載されている。
(7) 甲第7号証[東京都立産業技術研究所作成の成績証明書(13産技技評証第12号)]には、小貫医器有限会社製の根管長測定器「エンドドンティックメーターSII」における根管長と指示目盛との関係を測定した結果が記載されている。
(8) 甲第8号証は、甲第6号証及び甲第7号証の各測定結果をグラフに表したものである。
(9) 甲第9号証[「日本歯科保存学雑誌」第32巻第3号、第811〜832頁、1989年6月]には、電気的根管長測定法に関するものであって、第813頁右欄第25〜31行に、「より小型化し,さらに全体の回路構成を低消費電力型とし,動作時の安定性を追求したのがエンドドンティックメーターSおよびエンドドンティックメーターSIIである.特にエンドドンティックメーターSIIにおいては,マイクロパワーICを採用したため,電源スイッチを切らなくても長期間(約1年間)使用することができる.」と記載されている。
(10)甲第10号証[「歯科材料・器械」Vol.3、No.2、第310〜315頁、1984年]には、第313頁右欄「IV.考察」の項の第1〜10行に、電気的根管長測定においては、術者の便宜を考えて異なった機種でも同一指示値で測定できるように電気回路の設計がされていることについて説明されている。
(11)甲第11号証[特開昭54-149295号公報]には、根管長測定装置に関するものであって、
・公報第2頁右上欄第9〜17行に、「リーマー(11)の先端が歯根膜(7)に到達していないときには、リーマー(11)と排唾管(12)との間の抵抗は大きく、抵抗器(22)に流れる電流は小さいので、メーター(24)の振れは小さい。しかし、リーマー(11)の先端が歯根膜(7)に近づくにつれメーター(24)の振れは次第に大きくなり、歯根膜(7)に到達したときには、リーマー(11)と排唾管(12)との間の抵抗はほぼ一定値(6〜6.5kΩ)を指示し、メーター(24)は大きく振れる。」、
・同第2頁右欄第19〜20行に、「従って、根管長lを測定するには、リーマー(11)を根管(3)内に静かに挿入していく。」、
とそれぞれ記載され、
・また、第2図には、発振回路21、電流検出用抵抗器22、アンプ23、メーター24からなる根管長測定装置が図示されている。
(12)甲第12号証[特開昭59-119500号公報]には、計測装置に関するものであって、
・公報第1頁右下欄第7〜11行には、「計測システムや分析システムにおいて各種物理量を検知するために使用されるセンサの特性は完全な直線性とならないので、センサからのアナログ信号を処理する計測装置にはリニアライザが不可欠である。」、
・同第1頁右下欄第11行〜第2頁左上欄第2行に、「センサのもつ非線形特性を補償するリニアライザには次のようなものがある。ダイオードを利用して構成する折線近似回路やIC化乗算回路を利用して構成したべき級数回路によるアナログリニアライザ、リニアライザデータをテーブル化しA-D変換データとアドレスが対応するようにしたROMを利用して構成したディジタルリニアライザ、センサの特性を近似する近似関数の高次多項式によりマイコンの演算機能を利用してリニアライズ計算するようにしたマイコンによるリニアライザ等がある。」、
とそれぞれ記載されている。

4.当審の判断
(1) 無効理由1について
本件発明1と甲第1号証乃至甲第3号証及び甲第8号証乃至甲第10号証に記載のものとを比較すると、上記甲各号証には、本件発明1を特定する事項である「データ検出手段で得られる測定データを逐次補正し、補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータとなるように処理するデータ処理手段」が記載されておらず、また、かかる事項を示唆する記載も見あたらない。
そして、本件発明1は上記の事項により、「測定電極先端の位置と表示値との相関が明瞭になると共に、最初は出力がほとんど変化しないで根尖付近で急激に変化するという測定原理に起因する表示値の急変がなくなる」という明細書に記載の効果を奏するものである。
確かに、甲第2号証には、根尖近傍の3つの位置とメーター指示値「36、38、40」との対応関係から、根尖近傍では根尖からの距離に応じてメーターの指示値がほぼリニアに変化しているように描かれてはいるが、「Kcy Point(目盛りの振れ巾)を従来の8倍に拡大」なる記載及びメーター指示値「30、32、34」の位置関係をも考慮すれば、このものは、根尖近傍に至るまでの目盛りの振れ巾に比べ、根尖近傍のそれを拡大することを目的としたものであって、根尖近傍にあっては、リーマーの僅かの移動でメータの指針が大きく振れることになってしまい、本件発明1の上記効果を奏し得ないものである。しかも、甲第2号証には、データの処理に関する記述はなされておらず、同号証記載のものが、本件発明1の上記「データ処理手段」を有するものとも認められない。
また、甲第3号証には、S字カーブを5ポイントで近似できるダイオード折線近似回路という、非直線性を持つ特性を直線に近似するための一般的な変換回路が記載されているだけであり、かかる変換回路が本件発明1の「測定データを逐次補正し、補正後データが・・・距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータとなるように処理するデータ処理手段」であるとは認められないばかりでなく、かかる変換回路技術を根管長測定器に適用するための動機付けを見出すこともできない。
また、甲第8号証に示される「エンドドンティックメーターSII」の指示値特性は、根管長の部分的な範囲において、ほぼリニアに変化していると見られないこともないが、全体として、リニアまたはほぼリニアに変化するものとは認め難く、しかも、甲第9号証を参酌しても、「エンドドンティックメーターSII」なるものが、本件発明1の上記「データ処理手段」を有するものであるとも認められない。
さらに、甲第1号証は、単に従来の根管長測定器を、また、甲第10号証は、電気的根管長測定において、異なった機種でも同一指示値で測定できるように電気回路の設計がされていることをそれぞれ開示しているにすぎず、いずれも、本件発明1を特定する上記の事項を示唆するものではない。
そうすると、本件発明1が、上記甲各号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

なお、請求人は、大阪地方裁判所に出訴された特許権及び実用新案権に基づく差止請求並びに損害賠償請求事件[平成13年(ワ)第1334号]の訴状(甲第5号証)において、ロ号物件(代表的な商品名「JUSTYII」)は本件特許発明の技術的範囲に属すると結論付けられていることを踏まえ、本件請求人の製品である「JUSTYII」(ただし、本件出願後に製造・販売された製品)と非常に類似した指示値特性を有している本件出願前に公知(甲第9号証参照)の「エンドドンティックメーターSII」の指示値特性は、本件発明1の「補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータ」を充足する旨主張している。
しかしながら、「JUSTYII」のデータ(甲第6号証)及び「エンドドンティックメーターSII」のデータ(甲第7号証)をグラフ化した甲第8号証を見る限り、「エンドドンティックメーターSII」の指示値特性が、「JUSTYII」のそれと非常に類似していることは窺えるものの、それが、リニアまたはほぼリニアに変化するデータであるとまでは言えないことは既に述べたとおりであり、しかも、データを補正するデータ処理手段に関しては何等の説明もなされていないことから、「エンドドンティックメーターSII」の指示値特性は、本件発明1の「補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータ」を充足するとの主張は到底容認できない。
また、請求人は、甲第10号証に基づき、「電気的根管長測定分野においては、術者の便宜を考えて異なった機種でも同一指示値で測定できるように電気回路の設計をすることが行われている」とした上で、「根管長測定にあたっては、術者は表示画面を見つつ測定するのであるから、・・・表示画面に示される指示値に限らず、指示の態様、例えば、目盛間隔、指示の感度、指示カーブなどについても従前の根管長測定器と同様の態様になるように設計することは、術者の便宜を考えれば当業者にとって格別困難なことではない」旨主張しているが、甲第10号証に記載のものにおける「異なった機種でも同一指示値で測定できる」という課題と、本件発明1における「測定原理に起因する表示値の急変をなくす」という課題とは、観点が全く相違しており、基本的な技術思想を異にするものであるから、甲第10号証の記載事項が本件発明1の進歩性を否定する根拠になり得ないことは明らかであり、請求人の上記主張も採用できない。

(2) 無効理由2について
本件発明1乃至3と甲第11及び12号証に記載のものとを比較すると、上記甲各号証には、本件発明1乃至3を共通して特定する事項である「データ検出手段で得られる測定データを逐次補正し、補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータとなるように処理するデータ処理手段」が記載されておらず、また、かかる事項を示唆する記載も見あたらない。
そして、本件発明1乃至3は上記の事項により、「測定電極先端の位置と表示値との相関が明瞭になると共に、最初は出力がほとんど変化しないで根尖付近で急激に変化するという測定原理に起因する表示値の急変がなくなる」という明細書に記載の効果を奏するものである。
確かに、甲第11号証には、根管にリーマーを静かに挿入しなければ、メーターが大きく振れて根管長の測定に不都合が生じることが示唆されているが、このものは、かかる不都合を解消することに関しては何等言及しておらず、ましてや、測定データの逐次補正によって解消しようとするものでもない。
また、甲第12号証には、リニアライザデータをテーブル化してメモリに記憶させておく方式が例示されてはいるが、このものは、センサ自体の持つ非線形特性を補償するためのものであって、本件発明1乃至3のように、測定原理に起因する表示値の急変をなくすためのものではない。
したがって、甲第12号証に記載の技術手段を、甲第11号証に記載の根管長測定装置に組み合わせることは、その動機付けが見出せない以上、当業者といえども容易に想到し得ないことであり、本件発明1乃至3が、甲第11及び12号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

なお、請求人は、甲第11号証について、『発振回路22、電流検出用抵抗器22、アンプ23、メーター24からなる根管長測定装置が開示されており、メーター24が本件特許発明の「上記データ処理手段で得られた補正後データを表示する表示手段」に対応し、発振回路22、電流検出用抵抗器22、アンプ23からなる回路構成が本件特許発明の「根管内に挿入されている測定電極の先端位置に対応した測定データを逐次検出するデータ検出手段」に対応することは明らかである。』と主張しているが、甲第11号証には、そもそも測定データを逐次補正することに関して何等の記載若しくは開示がなされていないのであるから、上記の如き対応関係があるとは到底考えられない。
また、請求人は、甲第12号証について、『センサ自体の特性が完全な直線性でないことから最終的な表示が完全な線形性を示さずにリニアライザが不可欠となることも、測定対象物のセンサ出力特性が完全な直線性でないことから最終的な表示が完全な直線性を示さずにリニアライザが不可欠となることも、最終的な表示が完全な直線性を示さず不便であることからリニアライザが不可欠となる点では同一である。」とした上で、「根管長設定測定装置のように測定対象物のセンサ出力特性が完全な直線性でないことから最終的な表示が完全な直線性を示さない場合にも、最終的な表示が直線性を示すように特開昭59-119500号公報で列挙されているようなリニアライザを用いようと考えることは自然なことである。』と主張している。
しかしながら、甲第12号証に記載のものは、あくまでも、センサ自体の持つ非線形特性を補償するためにリニアライザを用いる技術に関するものであって、このものが、センサ自体の持つ非線形特性を問題点として捉えておらず、しかも、リニアライザの使用について言及のない甲第11号証に記載の根管長測定装置と同一の課題を有するものであるとは到底認められず、したがって、甲第12号証に記載のリニアライザを甲第11号証に記載の根管長測定装置に適用させることが自然なことであるとも認められない。

(3) 無効理由3について
無効理由3の具体的な理由について請求人は、『本件特許明細書(甲第4号証の)第3頁右欄第2行〜第6行には、「係数aを測定データに乗すれば目標とする補正後データになるように選定した1次式y=ax、あるいは必要に応じてこれに加える定数bを適宜選定した1次式y=ax+bを演算式として用いて補正を行うこともできる。」として、演算式を用いて補正を行う実施例が開示されている。
しかしながら、1次式またはほぼ1次式で表される測定データ以外の測定データに1次式y=axまたはy=ax+bの演算を行っても、演算後の補正データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化することはない。測定データに1次式y=axまたはy=ax+bの演算を行って演算後の補正データがリニアまたはほぼリニアに変化するのは、測定データがもともとリニアまたはほぼリニアに変化している場合であり、このような場合には補正する必要はない。また特許明細書には複数の1次演算式を用いて測定データを測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するように補正する記載は見られない。』とした上で、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の構成が記載されておらず、本件発明1乃至3に係る特許は、特許法第36条第3項に違反してなされたものであるから無効とすべきである旨主張している。
しかしながら、「係数aを測定データに乗すれば目標とする補正後データになるように選定した1次式y=ax、あるいは必要に応じてこれに加える定数bを適宜選定した1次式y=ax+b」との記載によれば、「定数b」が一定の値を有するものであるのに対し、「係数a」は、「測定データに乗すれば目標とする補正後データになるように選定した」ものであるところから、適宜その値が変化するものであると解するのが合理的解釈である。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明における「演算式」とは、「測定データに乗すれば目標とする補正後データになるように選定した」適宜その値が変化する「係数a」、あるいは必要に応じてこれに加える定数bを適宜選定した「式y=ax、あるいは式y=ax+b」と捉えるのが相当であり、一般に言う「1次式」とは概念或いは定義が異なるものであると認められる。
そして、補正用テーブルを利用するものと同様に、かかる「演算式」を利用するものによっても、本件発明が実施可能であることは明らかである。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その構成が記載されていないとすることはできず、請求人の上記主張は認められない。

(4) 無効理由4について
無効理由4の具体的な理由について請求人は、『1次式またはほぼ1次式で表される測定データ以外の測定データに1次式y=axまたはy=ax+bの演算を行っても、演算後の補正データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化することはなく、そして、特許明細書には複数の1次演算式を用いて測定データを測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するように補正する記載は見られない。
従って、特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許の請求項3に記載されている発明、すなわち「根管内に挿入されている測定電極の先端位置に対応した測定データを逐次検出するデータ検出手段と、上記データ検出手段で得られる測定データを逐次補正し、補正後データが測定電極先端と根尖間の距離に応じてリニアまたはほぼリニアに変化するデータとなるように処理するデータ処理手段と、上記データ処理手段で得られた補正後データを表示する表示手段、とを備え、根管長測定データを目標とする補正後データに変換するための演算式を記憶手段に記憶しており、この演算式を用いて測定データの補正を行う根管長測定器」は開示されておらず、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されていない。』とした上で、本件発明3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に違反してなされたものであるから無効とすべきである旨主張している。
しかしながら、特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明3における「演算式」として、「測定データに乗すれば目標とする補正後データになるように選定した」適宜その値が変化する「係数a」、あるいは必要に応じてこれに加える定数bを適宜選定した「式y=ax、あるいは式y=ax+b」が記載されていると捉えうることは、上記(3)で述べたとおりであるから、請求人の上記主張は認めることができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発明1乃至3についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定を適用する。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-03-26 
結審通知日 2002-03-29 
審決日 2002-04-09 
出願番号 特願平2-186329
審決分類 P 1 112・ 121- Y (A61C)
P 1 112・ 531- Y (A61C)
P 1 112・ 532- Y (A61C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 寛治  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 岡田 和加子
和泉 等
登録日 1999-01-14 
登録番号 特許第2873725号(P2873725)
発明の名称 根管長測定器  
代理人 篠田 實  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 河野 登夫  
代理人 野河 信久  
代理人 福原 淑弘  

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