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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 H01L |
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管理番号 | 1059450 |
異議申立番号 | 異議1998-72536 |
総通号数 | 31 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-05-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-05-22 |
確定日 | 2002-04-08 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2681733号「窒素-3族元素化合物半導体発光素子」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについてされた平成12年3月13日付け異議の決定に対し、東京高等裁判所において決定取消の判決(平成12年(行ケ)第143号平成13年10月9日判決言渡)があったので、さらに審理の結果次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2681733号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第2681733号に係る主な手続の経緯は以下のとおりである。 特許出願 平成4年10月29日 特許権設定登録 平成9年8月8日 特許公報発行 平成9年11月26日 特許異議の申立て(2件) 平成10年5月22日 及び平成10年5月26日 訂正請求 平成10年11月9日 異議決定 平成12年3月13日 高裁判決言渡 平成13年10月9日 取消理由通知(訂正拒絶理由通知兼用)平成13年12月11日 異議意見書 平成14年2月19日 2.訂正の適否について 2.1.訂正の内容 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1中の「前記p層は、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度p+層と、その高キャリア濃度p+層よりも正孔濃度が低い低キャリア濃度p層との2重層で構成され、」を 「前記p層は、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度p+層と、その高キャリア濃度p+層よりも正孔濃度が低く、正孔濃度が1×1014/cm3以上の低キャリア濃度p層との2重層で構成され、」と訂正する。 訂正事項2 特許明細書段落0005の「前記p層は、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度p+層と、その高キャリア濃度p+層よりも正孔濃度が低い低キャリア濃度p層との2重層で構成され、」を 「前記p層は、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度p+層と、その高キャリア濃度p+層よりも正孔濃度が低く、正孔濃度が1×1014/cm3以上の低キャリア濃度p層との2重層で構成され、」と訂正する。 2.2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項1は、低キャリア濃度p層のキャリア濃度を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許明細書の【0008】及び【0025】の記載に基づくものであり、新規事項に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正事項2は、上記訂正事項1の特許請求の範囲の訂正に伴い、それとの整合を図るために発明の詳細な説明を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当し、新規事項を含むものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 2.3.独立特許要件について 2.3.1.特許法第36条第5項第2号違反について (1)取消理由の概要 当審における平成13年12月11日付け取消理由通知(訂正拒絶理由通知兼用)の概要は、本件特許請求の範囲の請求項1には、発明の詳細な説明では望ましくないとされる低キャリア濃度p層の正孔濃度が高いものも含まれるから、請求項1の記載は、発明の詳細な説明の記載と矛盾し、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が明確に記載されていない、というにある。 (2)訂正明細書の記載事項 しかるに、訂正明細書には、第1実施例〜第3実施例に各々「正孔濃度が1×1016/cm3の低キャリア濃度p層」を形成することが記載されているとともに、以下の記載が認められる。 「本発明の目的は、窒素-3族元素化合物半導体・・・ 発光ダイオードの発光輝度を向上させること及び駆動電圧を低下させることである。」(【0004】)、 「・・・p層を、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度 p+層と、その高キャリア濃度p+ 層よりも正孔濃度が低い、低キャリア濃度p層との2重層で構成し、高キャリア濃度p+ 層に接合する電極をニッケル(Ni)とすることにより、良好なオーミック性を得ると共に駆動電圧が低下した。又、駆動電圧の低下により同一電圧では注入電流を大きくとることができ、発光輝度が向上した。」(【0007】)、 「又、低キャリア濃度p層の正孔濃度を1×1014〜1×1016/cm3とすることで、発光効率を向上させることができる。・・・」(【0008】)、 「又、上記低キャリア濃度p層51の正孔濃度は1×1014〜1×1016/cm3で膜厚は0.2〜1μmが望ましい。正孔濃度が1×1014/cm3 以下となる と、直列抵抗が高くなり過ぎるので望ましくなく、正孔濃度が1×1016/cm3 以上となると、低キャリア濃度n層4とのマッチングが悪くなり発光効率が低下するので望ましくない。又、膜厚が1μm以上となると直列抵抗が高くなるので望ましくなく、0.2μm以下となると発光輝度が低下するので望ましくない。」(【0025】)。 (3)特許法36条違反についての判断 ア)訂正明細書の記載によれば、低キャリア濃度p層の正孔濃度は1×1014〜1×1016/cm3で膜厚は0.2〜1μmが望ましく、正孔濃度が1×1016/cm3 以上となると、低キャリア濃度n層4とのマッチングが悪くなり発光効率が低下するので望ましくない、即ち、低キャリア濃度p層の正孔濃度を低く押さえることが望ましいとされていること、 イ)同じく、低キャリア濃度p層の実施例は、全て正孔濃度が1×1016/cm3であること、 ウ)本件の出願当初明細書【0004】【0025】には、訂正明細書の【0004】【0025】と同一の記載があり、低キャリア濃度p層の正孔濃度は低く押さえることが望ましいとされているが、低キャリア濃度p層の正孔濃度を高キャリア濃度p+層の正孔濃度に応じて高くする(キャリア濃度p層の正孔濃度の上限を高キャリア濃度p+層の正孔濃度とする)という考えは全く開示がないこと、 を総合的に勘案すると、訂正発明1の 「低キャリア濃度p層」は、正孔濃度が1×1014〜1×1016/cm3程度のキャリア濃度の低い層、すなわち、『正孔濃度が1×1014/cm3以上(実施例の1×1014〜1×1016/cm3)の低キャリア濃度p層』であると認められる。 又、「正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度p+層と、その高キャリア濃度p+層よりも正孔濃度が低く、正孔濃度が1×1014/cm3以上の低キャリア濃度p層」の記載は、下限値のみを規定した「高キャリア濃度p+層」及び「低キャリア濃度p層」相互の濃度の関係、すなわち両者の濃度が逆転することはないという当然の事項を限定したものと認められる。 そして、本件発明が目的とする発光輝度の向上及び駆動電圧の低下は、p層を、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度 p+層と、その高キャリア濃度 p+層よりも正孔濃度が低い、低キャリア濃度p層との2重層で構成し、高キャリア濃度p+ 層に接合する電極をニッケル(Ni)とすることにより達成されるものである。 してみれば、訂正発明1の記載事項は、発明の詳細な説明の記載と矛盾するとはいえず、また、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が明確に記載されていないとまではいえない。 2.3.2.特許法第29条第2項違反について (1)本件訂正発明 訂正された本件の請求項1ないし7に係る発明(以下、「訂正発明1」ないし「訂正発明7」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたとおりの次のものと認める。 「【請求項1】n型の窒素-3族元素化合物半導体(AlXGaYIn1-X-YN;X=0,Y=0,X=Y=0を含む)からなるn層と、p型の窒素-3族元素化合物半導体(AlXGaYIn1-X-YN;X=0,Y=0,X=Y=0を含む)からなるp層とを有する窒素-3族元素化合物半導体発光素子において、 前記p層は、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度p+層と、その高キャリア濃度p+層よりも正孔濃度が低く、正孔濃度が1×1014/cm3以上の低キャリア濃度p層との2重層で構成され、前記高キャリア濃度p+層に接合する電極をニッケル(Ni)としたことを特徴とする窒素-3族元素化合物半導体発光素子。 【請求項2】前記p層はマグネシウム(Mg)が添加されていることを特徴とする請求項1に記載の窒素-3族元素化合物半導体発光素子。 【請求項3】前記低キャリア濃度p層は、正孔濃度が1×1014〜1×1016/cm3であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の窒素-3族元素化合物半導体発光素子。 【請求項4】前記高キャリア濃度p+層は0.1〜0.5μmの厚さを有することを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の窒素-3族元素化合物半導体発光素子。 【請求項5】前記低キャリア濃度p層は0.2〜1.0μmの厚さを有することを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載の窒素-3族元素化合物半導体発光素子。 【請求項6】前記高キャリア濃度p+層に接合する前記電極と前記n層に接合する電極は同一面側に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載の窒素-3族元素化合物半導体発光素子。 【請求項7】前記低キャリア濃度p層及び前記高キャリア濃度p+層は半絶縁性窒素-3族元素化合物半導体層の一部をp型化して形成したことを特徴とする請求項1乃至請求項6に記載の窒素-3族元素化合物半導体発光素子。」 (2)刊行物記載の発明 刊行物1;特開昭59-228776号公報(異議申立人言上恵一の提出した甲第1号証)には、第4図と共に、サファイア基板3上に、n+層9、10、n又はp型の活性層11、p+層12、Inオーミック電極5をこの順に積層したAlGaN系半導体へテロ素子の発明が記載されている。 刊行物2;特開平2-288371号公報(同じく、言上恵一の甲第2号証)には、第7図と共に、SiC基板71上に、光反射層72、p型GaAlN/BP超格子層73(Mgドープ、キャリア濃度1×1017/cm3)、n型GaAlN/BP超格子層74(Siドープ、キャリア濃度2×1016/cm3)、n型GaNコンタクト層75を順次積層したLEDが記載されている。 刊行物3;特開平4-68579号公報(同じく、言上恵一の甲第3号証、異議申立人木村和夫の提出した甲第2号証)には、 第1の実施例(第1図)に関して、「3はZnO層(n型)1μmであり、4はGaNエピタキシャル層(n型)膜厚は3μmであり、5はGaNエピタキシャル層(p型)、膜厚1μm、6はAl正電極、そして7はAl負電極である。」(第5頁左上欄第4行〜第7行)及び「このようにして形成したGaN:Oエピタキシャル膜4はキャリア濃度5×1017cm-3、抵抗率0.1Ω・cmであり、発光中心としては微量のZnを添加してある。p型GaN:Znエピタキシャル層5は、・・・キャリア濃度1×1017cm-3、抵抗率4Ω・cmである。」(5頁右下欄5〜12行)と記載され、 Al電極に関して、「電極形成用の金属元素としてAlに限って説明したがその他In、Ga、Ni、Ti、Cu、Au、Ag、Cr、Si、Ge等の単体あるいは混合金属膜のいずれもがオーミック用電極として、適用可能であることは明らかである。」(8頁左下欄第11〜15行)と記載され、 第2の実施例(第2図)に関して、「GaN:Mg層13は・・・・にて成膜した2μm厚、p型抵抗率10Ω・cm、キャリア濃度6×1016cm-3の低抵抗p型エピタキシャル膜である。」(6頁右上欄16行〜左下欄1行)と記載されている。 これらによれば、上記刊行物3には、 「n型のGaNからなるn層と、p型のGaNからなるp層とを有する窒素-3族元素化合物半導体発光素子において、Mgをドープした前記p層の正孔濃度が6×1016cm-3であり、前記p層に接合する電極は、Alである窒素-3族元素化合物半導体発光素子」の発明が記載されているとともに、上記Al電極はNiでも適用可能であると記載されている。 刊行物4;米国特許第5,006,908号公報(同じく、言上恵一の甲第4号証)明細書10欄12行から13行に、「p型InxGayAl1-x-yN層45の上に、Au-Zn-Niからなる電極を形成し、その上にAuを形成してなるp型のオーミック電極47」が開示されている。 刊行物5;138/SPIE Vol,1361:Physical Concepts of Novel Optoelectronic Device Application(1990)138〜149頁(同じく、言上恵一の甲第5号証)には、Mgをドープした高抵抗なi型GaNに低速電子線照射を行うことにより低抵抗なp型GaNに変化させることができることが記載され、そのp型GaNのMg濃度とホール濃度の関係がFig.8に示されて、低速電子線照射のためのエミッション電流が70μAのとき、ホール濃度が1016〜1017/cm3の範囲にある4点が示されている。 刊行物6;特開平4-163972号公報(同じく、言上恵一の甲第6号証)には、サファイア基板1上にバッファ層2,高キャリア濃度n+層、低キャリア濃度n層、i層を電子線照射したp型GaN層5、Al電極7が順に形成された発光ダイオードが記載されている。 刊行物7;特開昭49-29770号公報(異議申立人木村和夫の提出した甲第1号証)には、ドープするpの気相濃度を変化させることによって、GaN成長層内に4×1017〜1×1018cm-3のキャリア濃度勾配を生ぜしめるGaNの結晶成長方法が記載されている。(請求項2及び3頁左下欄9〜12行参照。) 刊行物8;特開昭57-153479号公報(同じく、木村和夫の甲第3号証)には、第3図と共に、サファイア基板1上にn-GaN2,i-GaN3を積層し、i層の電極として、Ti,Niを積層したMIS型の発光素子が記載されている。 刊行物9;特開昭57-62579号公報(同じく、木村和夫の甲第4号証)には、基板1上にGaN2、半絶縁性GaN層3を形成した発光素子において、半絶縁性GaN層3のうえにNi膜の電極を設けることが記載されている。 刊行物10;特開平3-252178号公報(同じく、木村和夫の甲第5号証)には、MIS型の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、I層を、N層と接合する側から順に、低不純物濃度層と高不純物濃度層との二層構造としたものにおいて、低不純物濃度層の不純物濃度が1×1016/cm3以下となるとN導電型となることが記載されている。(第1図及び2頁左上欄5〜14行参照。) 刊行物11;特開平4-242985号公報には、窒化ガリウム系化合物半導体レーザダイオードの電極と接触する部分付近のキャリア濃度を、オーム性電極組成を容易とするために高濃度とすることが記載されている。(【0038】参照) 刊行物12;特開昭58-219790号公報には、GaAs系半導体発光素子の発光層上にp型GaAsからなるキャップ層として、オーミック接触を良好となすために、キャリア濃度が、2〜3×1018/cm3、6〜7×1018/cm3、1〜1.5×1019/cm3の三層を順次形成したことが記載されている。(特許請求の範囲、2頁左上欄14行〜右上欄3行、第2図等を参照。) (3)対比・判断 [訂正発明1について] 訂正発明1と刊行物3(平成12年3月13日付け異議決定の理由に引用された)記載の発明(以下、「引用発明」という。)とを対比する。 引用発明の「GaNからなるn層」、「GaNからなるp層」は、訂正発明1の「窒素-3族元素化合物半導体(AlXGaYIn1-X-YN;X=0,Y=0,X=Y=0を含む)からなるn層」、「窒素-3族元素化合物半導体(AlXGaYIn1-X-YN;X=0,Y=0,X=Y=0を含む)からなるp層」に相当し、両者は、 「n型の窒素-3族元素化合物半導体(AlXGaYIn1-X-YN;X=0,Y=0,X=Y=0を含む)からなるn層と、p型の窒素-3族元素化合物半導体(AlXGaYIn1-X-YN;X=0,Y=0,X=Y=0を含む)からなるp層とを有する窒素-3族元素化合物半導体発光素子。」で一致し、下記の点で相違する。 相違点;訂正発明1のp層は、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度p+層と、その高キャリア濃度p+層よりも正孔濃度が低く、正孔濃度が1×1014/cm3以上の低キャリア濃度p層との2重層で構成され、前記高キャリア濃度p+層に接合する電極をニッケル(Ni)としたのに対し、引用発明のp層は、正孔濃度が6×1016/cm3の単一の層であり、前記p層に接合する電極は、Alである点。 上記相違点に付き検討する。 上記刊行物3には、p層に接合する電極をAlに代えてNiとすることが記載されているから、窒素-3族元素化合物半導体発光素子のp層に接合する電極をNiとすることに格別困難性はない。又、オーミック性を良好にするために、電極と接触する層(或いは部分)を高キャリア濃度にすることは、刊行物11及び刊行物12(どちらも平成12年3月13日付け異議決定の理由に引用された)に記載されているように周知の事項であるから、p層を、電極と接する側のキャリア濃度を高くした2層構造とすること自体は当業者が容易に想到し得るものである。 しかし、p層を高キャリア濃度p+層と、正孔濃度が1×1014/cm3以上の低キャリア濃度p層(低キャリア濃度n層4とのマッチングを考慮し、正孔濃度を1×1014〜1×1016/cm3程度の低濃度とした低キャリア濃度p層)との2重層で構成し、かつ、前記高キャリア濃度p+層に接合する電極をニッケル(Ni)とすることまでは、上記刊行物1ないし刊行物12のいずれにも記載されていない。そして、窒素-3族元素化合物半導体発光素子において、このような構成が周知であるとは言えない。 しかも、訂正発明1は、「p層を、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度 p+層と、その高キャリア濃度p+ 層よりも正孔濃度が低い、低キャリア濃度p層との2重層で構成し、高キャリア濃度 p+層に接合する電極をニッケル(Ni)とすることにより、良好なオーミック性を得ると共に駆動電圧が低下した。又、駆動電圧の低下により同一電圧では注入電流を大きくとることができ、発光輝度が向上した。」という、明細書の段落【0007】記載の作用効果を奏するものである。 したがって、訂正発明1は、刊行物1〜刊行物12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 [訂正発明2〜7について] 訂正発明1の構成を全て引用する訂正発明2〜訂正発明7は、訂正発明1に対すると同様の理由により、刊行物1〜刊行物12に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 2.4.訂正の適否のむすび 以上のとおり、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、改正前の特許法第126条第1項ただし書、同条第2項及び同条第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議申立について (1)特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人言上恵一は、甲第1号証〜甲第6号証(上記刊行物1〜6)を提出し、本件の請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証〜甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである旨、主張している。 又、特許異議申立人木村和夫は、甲第1号証〜甲第5号証(上記刊行物3,7〜10)を提出し、本件の請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証〜甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に該当するから、同法第49条の規定により拒絶すべきものである旨、主張している。 (2)本件発明 本件の請求項1ないし7に係る発明は、訂正明細書の請求項1ないし7に記載されたとおりのものと認める。(上記2.3.2(1)訂正発明を参照。) (3)当審の判断 本件の請求項1ないし7に係る各発明は、上記2.3.2.(3)対比・判断で述べた理由により、刊行物1〜刊行物10に記載された発明及び刊行物11,12に示された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 4.むすび 以上のとおり、特許異議申立人言上恵一及び木村和夫の特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし7に係る発明の特許を取り消すことはできない。 又、他に本件請求項1ないし7に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 窒素-3族元素化合物半導体発光素子 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 n型の窒素-3族元素化合物半導体(AlXGaYIn1-X-YN;X=0,Y=0,X=Y=0を含む)からなるn層と、p型の窒素-3族元素化合物半導体(AlXGaYIn1-X-YN;X=0,Y=0,X=Y=0を含む)からなるp層とを有する窒素-3族元素化合物半導体発光素子において、 前記p層は、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度p+層と、その高キャリア濃度p+層よりも正孔濃度が低く、正孔濃度が1×1014/cm3以上の低キャリア濃度p層との2重層で構成され、 前記高キャリア濃度p+層に接合する電極をニッケル(Ni)としたことを特徴とする窒素-3族元素化合物半導体発光素子。 【請求項2】 前記p層はマグネシウム(Mg)が添加されていることを特徴とする請求項1に記載の窒素-3族元素化合物半導体発光素子。 【請求項3】 前記低キャリア濃度p層は、正孔濃度が1×1014〜1×1016/cm3であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の窒素-3族元素化合物半導体発光素子。 【請求項4】 前記高キャリア濃度p+層は0.1〜0.5μmの厚さを有することを特徴とする請求項1及至請求項3に記載の窒素-3族元素化合物半導体発光素子。 【請求項5】 前記低キャリア濃度p層は0.2〜1.0μmの厚さを有することを特徴とする請求項1及至請求項4に記載の窒素-3族元素化合物半導体発光素子。 【請求項6】 前記高キャリア濃度p+層に接合する前記電極と前記n層に接合する電極は同一面側に形成されることを特徴とする請求項1及至請求項5に記載の窒素-3族元素化合物半導体発光素子。 【請求項7】 前記低キャリア濃度p層及び前記高キャリア濃度p+層は半絶縁性窒素-3族元素化合物半導体層の一部をp型化して形成したことを特徴とする請求項1乃至請求項6に記載の窒素-3族元素化合物半導体発光素子。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は青色発光の窒素-3族元素化合物半導体発光素子に関する。 【0002】 【従来技術】 従来、青色の発光ダイオードとしてGaN系の化合物半導体を用いたものが知られている。そのGaN系の化合物半導体は直接遷移型であることから発光効率が高いこと、光の3原色の1つである青色を発光色とすること等から注目されている。 【0003】 最近、GaNの発光ダイオードにおいても、Mgを添加して電子線を照射することによりp型のGaNが得られることが明らかとなった。この結果、従来のn層と半絶縁層(i層)との接合に代えてpn接合を有するGaN発光ダイオードが提案されている。この発光ダイオードの電極は、n層がアルミニウム(Al)、p層が金(Au)である。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 しかし、上記のpn接合を有する発光ダイオードであっても、発光輝度は未だ十分ではなく、また、駆動電圧も高い。 そこで、本発明の目的は、窒素-3族元素化合物半導体(AlXGaYIn1-X-YN;X=0,Y=0,X=Y=0を含む)発光ダイオードの発光輝度を向上させること及び駆動電圧を低下させることである。 【0005】 【課題を解決するための手段】 本発明の第1の特徴は、n型の窒素-3族元素化合物半導体(AlXGaYIn1-X-YN;X=0,Y=0,X=Y=0を含む)からなるn層と、p型の窒素-3族元素化合物半導体(AlXGaYIn1-X-YN;X=0,Y=0,X=Y=0を含む)からなるp層とを有する窒素-3族元素化合物半導体発光素子において、 p層を、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度p+層と、その高キャリア濃度p+層よりも正孔濃度が低く、正孔濃度が1×1014/cm3以上の低キャリア濃度p層との2重層で構成し、高キャリア濃度p+層に接合する電極をニッケル(Ni)とすることである。 【0006】 第2の特徴は、p層はマグネシウム(Mg)が添加されていることである。 第3の特徴は、低キャリア濃度p層は、正孔濃度が1×1014〜1×1016/cm3であることである。 第4の特徴は、高キャリア濃度p+層は0.1〜0.5μmの厚さを有することである。 第5の特徴は、低キャリア濃度p層は0.2〜1.0μmの厚さを有することである。 第6の特徴は、高キャリア濃度p+層に接合する電極とn層に接合する電極は同一面側に形成されることである。 第7の特徴は、低キャリア濃度p層及び高キャリア濃度p+層は半絶縁性窒素-3族元素化合物半導体層の一部をp型化して形成したことである。 【0007】 【発明の作用及び効果】 本発明は、p層及びn層を有する窒素-3族元素化合物半導体(AlXGaYIn1-X-YN;X=0,Y=0,X=Y=0を含む)発光素子において、p層を、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度p+層と、その高キャリア濃度p+層よりも正孔濃度が低い低キャリア濃度p層との2重層で構成し、高キャリア濃度p+層に接合する電極をニッケル(Ni)とすることにより、良好なオーミック性を得ると共に駆動電圧が低下した。又、駆動電圧の低下により同一電圧では注入電流を大きくとることができ、発光輝度が向上した。 【0008】 又、低キャリア濃度p層の正孔濃度を1×1014〜1×1016/cm3とすることで、発光効率を向上させることができる。さらに、高キャリア濃度p+層の厚さを0.1〜0.5μmとすることで、直列抵抗を低下させ、正孔の注入効率を向上させることができる。さらに、低キャリア濃度p層を厚さを0.2〜1.0μmとすることで、直列抵抗を低下させ発光効率を向上させることができる。 【0009】 【実施例】 第1実施例 図1において、発光ダイオード10は、サファイア基板1を有しており、そのサファイア基板1に500ÅのAlNのバッファ層2が形成されている。そのバッファ層2の上には、順に、膜厚約2.2μm、電子濃度2×1018/cm3のシリコン添加GaNから成る高キャリア濃度n+層3、膜厚約1.5μm、電子濃度1×1016/cm3の無添加GaNから成る低キャリア濃度n層4が形成されている。更に、低キャリア濃度n層4の上には、順に、膜厚約0.5μm、正孔濃度1×1016/cm3のマグネシウム(Mg)添加GaNから成る低キャリア濃度p層51、膜厚約0.2μm、正孔濃度2×1017/cm3の高キャリア濃度p+層52が形成されている。そして、高キャリア濃度p+層52に接続するニッケルで形成された電極7と高キャリア濃度n+層3に接続するニッケルで形成された電極8とが形成されている。電極8と電極7とは、溝9により電気的に絶縁分離されている。 【0010】 次に、この構造の発光ダイオード10の製造方法について説明する。 上記発光ダイオード10は、有機金属化合物気相成長法(以下「MOVPE」と記す)による気相成長により製造された。 用いられたガスは、NH3とキャリアガスH2とトリメチルガリウム(Ga(CH3)3)(以下「TMG」と記す)とトリメチルアルミニウム(Al(CH3)3)(以下「TMA」と記す)とシラン(SiH4)とビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Mg(C5H5)2)(以下「CP2Mg」と記す)である。 【0011】 まず、有機洗浄及び熱処理により洗浄したa面を主面とする単結晶のサファイア基板1をMOVPE装置の反応室に載置されたサセプタに装着する。次に、常圧でH2を流速2liter/分で反応室に流しながら温度1100℃でサファイア基板1を気相エッチングした。 【0012】 次に、温度を400℃まで低下させて、H2を20liter/分、NH3を10liter/分、TMAを1.8×10-5モル/分で供給してAlNのバッファ層2が約500Åの厚さに形成された。次に、サファイア基板1の温度を1150℃に保持し、H2を20liter/分、NH3を10liter/分、TMGを1.7×10-4モル/分、H2で0.86ppmまで希釈したシラン(SiH4)を200milliliter/分の割合で30分間供給し、膜厚約2.2μm、電子濃度2×1018/cm3のGaNから成る高キャリア濃度n+層3を形成した。 【0013】 続いて、サファイア基板1の温度を1150℃に保持し、H2を20liter/分、NH3を10liter/分、TMGを1.7×10-4モル/分の割合で20分間供給し、膜厚約1.5μm、電子濃度1×1016/cm3のGaNから成る低キャリア濃度n層4を形成した。 【0014】 次に、サファイア基板1を1150℃に保持して、H2を20liter/分、NH3を10liter/分、TMGを1.7×10-4モル/分、CP2Mgを2×10-7モル/分の割合で7分間供給して、膜厚0.5μmのGaNから成る低キャリア濃度p層51を形成した。この状態では、低キャリア濃度p層51は、まだ、抵抗率108Ωcm以上の絶縁体である。 【0015】 次に、サファイア基板1を1150℃に保持したまま、H2を20liter/分、NH3を10liter/分、TMGを1.7×10-4モル/分、CP2Mgを3×10-6モル/分の割合で3分間供給して、膜厚0.2μmのGaNから成る高キャリア濃度p+層52を形成した。この状態では、高キャリア濃度p+層52は、まだ、抵抗率108Ωcm以上の絶縁体である。 【0016】 次に、反射電子線回析装置を用いて、上記の高キャリア濃度p+層52及び低キャリア濃度p層51に一様に電子線を照射した。電子線の照射条件は、加速電圧10KV、試料電流1μA、ビームの移動速度0.2mm/sec、ビーム径60μmφ、真空度2.1×10-5Torrである。この電子線の照射により、低キャリア濃度p層51は、正孔濃度1×1016/cm3、抵抗率40Ωcmのp伝導型半導体となり、高キャリア濃度p+層52は、正孔濃度2×1017/cm3、抵抗率2Ωcmのp伝導型半導体となった。このようにして、図2に示すような多層構造のウエハが得られた。 【0017】 以下に述べられる図3から図7は、ウエハ上の1つの素子のみを示す断面図であり、実際は、同一構造の素子が連続的に形成されているウエハについて、処理が行われ、その後、そのウエハは各素子毎に切断される。 【0018】 図3に示すように、高キャリア濃度p+層52の上に、スパッタリングによりSiO2層11を2000Åの厚さに形成した。次に、そのSiO2層11上にフォトレジスト12を塗布した。そして、フォトリソグラフにより、高キャリア濃度p+層52上において、高キャリア濃度n+層3に至るように形成される孔15に対応する電極形成部位Aとその電極形成部を高キャリア濃度p+層52の電極と絶縁分離する溝9を形成する部位Bのフォトレジストを除去した。 【0019】 次に、図4に示すように、フォトレジスト12によって覆われていないSiO2層11をフッ化水素酸系エッチング液で除去した。次に、図5に示すように、フォトレジスト12及びSiO2層11によって覆われていない部位の高キャリア濃度p+層52とその下の低キャリア濃度p層51、低キャリア濃度n層4、高キャリア濃度n+層3の上面一部を、真空度0.04Torr、高周波電力0.44W/cm2、BCl3ガスを10milliliter/分の割合で供給しドライエッチングした後、Arでドライエッチングした。この工程で、高キャリア濃度n+層3に対する電極取出しのための孔15と絶縁分離のための溝9が形成された。 【0020】 次に、図6に示すように、高キャリア濃度p+層52上に残っているSiO2層11をフッ化水素酸で除去した。次に、図7に示すように、試料の上全面に、ニッケル層13を蒸着により形成した。これにより、孔15には、高キャリア濃度n+層3に電気的に接続されたニッケル層13が形成される。そして、そのニッケル層13の上にフォトレジスト14を塗布して、フォトリングラフにより、そのフォトレジスト14が高キャリア濃度n+層3及び高キャリア濃度p+層52に対する電極部が残るように、所定形状にパターン形成した。 【0021】 次に、図7に示すようにそのフォトレジスト14をマスクとして下層のニッケル層13の露出部を硝酸系エッチング液でエッチングした。この時、絶縁分離のための溝9に蒸着されたニッケル層13は、完全に除去される。次に、フォトレジスト14をアセトンで除去し、高キャリア濃度n+層3の電極8、高キャリア濃度p+層52の電極7が残された。その後、上記の如く処理されたウエハは、各素子毎に切断され、図1に示すpn構造の窒化ガリウム系発光素子を得た。 【0022】 また、この発光ダイオード10に印加する電圧Vと流れる電流Iとの関係を測定した。その結果を図8に示す。又、比較のためにアルミニウムで電極を形成した場合のV-I特性の測定結果を図9に示す。駆動しきい値電圧は7Vから3Vに低下した。 【0023】 このようにして製造された発光ダイオード10の駆動電流20mAにおける発光強度を測定したところ10mcdであり、この発光輝度は、従来のpn接合のGaN発光ダイオードの発光輝度に比べて2倍であった。又、素子寿命は、104時間であり、従来のpn接合のGaN発光ダイオードの素子寿命に比べて1.5倍であった。 【0024】 尚、上記実施例で用いたマグネシウム(Mg)のドーピングガスは、上述のガスの他、メチルシクロペンタジエニルマグネシウムMg(C6H7)2を用いても良い。また、上記のp層を図10に示すように1層に形成しても良い。その場合にはp層5の正孔濃度は1×1016〜1×1019/cm3である。又、p層52に対する電極7のみニッケルとし、高キャリア濃度n+層3に対する電極8はアルミニウムとしても良い。 【0025】 又、上記低キャリア濃度p層51の正孔濃度は1×1014/cm3〜1×1016/cm3で膜厚は0.2〜1μmが望ましい。正孔濃度が1×1014/cm3以下となると、直列抵抗が高くなり過ぎるので望ましくなく、正孔濃度が1×1016/cm3以上となると、低キャリア濃度n層4とのマッチングが悪くなり発光効率が低下するので望ましくない。又、膜厚が1μm以上となると直列抵抗が高くなるので望ましくなく、0.2μm以下となると発光輝度が低下するので望ましくない。 【0026】 更に、高キャリア濃度p+層52の正孔濃度は1×1016/cm3以上で膜厚は0.1〜0.5μmが望ましい。正孔濃度が1×1016/cm3より小さくなると、直列抵抗が高くなるので望ましくない。又、膜厚が0.5μm以上となると、直列抵抗が高くなるので望ましくなく、膜厚が0.1μm以下となると、正孔の注入効率が減少するので望ましくない。 【0027】 第2実施例 図11において、発光ダイオード10は、サファイア基板1を有しており、そのサファイア基板1に500ÅのAlNのバッファ層2が形成されている。そのバッファ層2の上には、順に、膜厚約2.2μm、電子濃度2×1018/cm3のシリコン添加GaNから成る高キャリア濃度n+層3、膜厚約1.5μm、電子濃度1×1016/cm3の無添加GaNから成る低キャリア濃度n層4が形成されている。更に、低キャリア濃度n層4の上には、順に、膜厚約0.2μm、Mg濃度1×1019/cm3のMg添加GaNから成る低不純物濃度i層61、膜厚約0.5μm、Mg濃度2×1020/cm3の高不純物濃度i+層62が形成されている。 【0028】 そして、その低不純物濃度i層61及び高不純物濃度i+層62の所定領域には、それぞれ、電子線照射によりp伝導型化した正孔濃度1×1016/cm3の低キャリア濃度p層501、正孔濃度4×1017/cm3の高キャリア濃度p+層502が形成されている。 【0029】 又、高不純物濃度i+層62の上面からは、高不純物濃度i+層62、低不純物濃度i層61、低キャリア濃度n層4を貫通して高キャリア濃度n+層3に至る孔15が形成されている。その孔15を通って高キャリア濃度n+層3に接合されたニッケルで形成された電極81が高不純物濃度i+層62上に形成されている。又、高キャリア濃度p+層502の上面には、高キャリア濃度p+層502に対するニッケルで形成された電極71が形成されている。高キャリア濃度n+層3に対する電極81は、高キャリア濃度p+層502及び低キャリア濃度p層501に対して高不純物濃度i+層62及び低不純物濃度i層61により絶縁分離されている。 【0030】 次に、この構造の発光ダイオード10の製造方法について説明する。 製造工程を示す図12から図17は、ウエハにおける1素子のみに関する断面図であり、実際には図に示す素子が繰り返し形成されたウエハに関して次の製造処理が行われる。そして、最後に、ウエハが切断されて各発光素子が形成される。 【0031】 第1実施例と同様にして、図12に示すウエハを製造する。次に、図13に示すように、高不純物濃度i+層62の上に、スパッタリングによりSiO2層11を2000Åの厚さに形成した。次に、そのSiO2層11上にフォトレジスト12を塗布した。そして、フォトリソグラフにより、高不純物濃度i+層62において低キャリア濃度n層4に至るように形成される孔15に対応する電極形成部位Aのフォトレジストを除去した。 【0032】 次に、図14に示すように、フォトレジスト12によって覆われていないSiO2層11をフッ化水素酸系エッチング液で除去した。次に、図15に示すように、フォトレジスト12及びSiO2層11によって覆われていない部位の高不純物濃度i+層62とその下の低不純物濃度i層61と低キャリア濃度n層4と高キャリア濃度n+層3の上面一部を、真空度0.04Torr、高周波電力0.44W/cm2、BCl3ガスを10milliliter/分の割合で供給しドライエッチングした後、Arでドライエッチングした。この工程で、高キャリア濃度n+層3に対する電極取出しのための孔15が形成された。次に、図16に示すように、高不純物濃度i+層62上に残っているSiO2層11をフッ化水素酸で除去した。 【0033】 次に、図17に示すように、高不純物濃度i+層62及び低不純物濃度i層61の所定領域にのみ、反射電子線回析装置を用いて電子線を照射して、それぞれp伝導型を示す正孔濃度4×1017/cm3の高キャリア濃度p+層502、正孔濃度1×1016/cm3の低キャリア濃度p層501が形成された。 【0034】 電子線の照射条件は、加速電圧10KV、試料電流1μA、ビームの移動速度0.2mm/sec、ビーム径60μmφ、真空度2.1×10-5Torrである。この時、高キャリア濃度p+層502及び低キャリア濃度p層501以外の部分、即ち、電子線の照射されなかった部分は、絶縁体の高不純物濃度i+層62及び低不純物濃度i層61のままである。従って、高キャリア濃度p+層502及び低キャリア濃度p層501は、縦方向に対しては、低キャリア濃度n層4に導通するが、横方向には、周囲に対して、高不純物濃度i+層62及び低不純物濃度i層61により電気的に絶縁分離されている。 【0035】 次に、図18に示すように、高キャリア濃度p+層502と、高不純物濃度i+層62と、高不純物濃度i+層62の上面と孔15を通って高キャリア濃度n+層3とに、ニッケル層20が蒸着により形成された。そして、そのニッケル層20の上にフォトレジスト21を塗布して、フォトリングラフにより、そのフォトレジスト21が高キャリア濃度n+層3及び高キャリア濃度p+層502に対する電極部が残るように、所定形状にパターン形成した。次に、そのフォトレジスト21をマスクとして下層のニッケル層20の露出部を硝酸系エッチング液でエッチングし、フォトレジスト21をアセトンで除去した。このようにして、図11に示すように、高キャリア濃度n+層3の電極81、高キャリア濃度p+層502の電極71を形成した。その後、上述のように形成されたウエハが各素子毎に切断された。 【0036】 このようにして製造された発光ダイオード10のV-I特性を測定したとろこ、図8と同様な特性が得られた。駆動電圧は3Vであった。 又、発光強度を測定したところ、第1実施例と同様に、10mcdであり、素子寿命は104時間であった。 【0037】 第3実施例 図1に示す構造の第1実施例の発光ダイオードにおいて、高キャリア濃度n+層3、低キャリア濃度n層4、低キャリア濃度p層51、高キャリア濃度p+層52を、それぞれ、Al0.2Ga0.5In0.3Nとした。高キャリア濃度n+層3は、シリコンを添加して電子濃度2×1018/cm3に形成し、低キャリア濃度n層4は不純物無添加で電子濃度1×1016/cm3に形成した。低キャリア濃度p層51はマグネシウム(Mg)を添加して電子線を照射して正孔濃度1×1016/cm3に形成し、高キャリア濃度p+層52は同じくマグネシウム(Mg)を添加して電子線を照射して正孔濃度2×1017/cm3に形成した。そして、高キャリア濃度p+層52に接続するニッケルで形成された電極7と高キャリア濃度n+層3に接続するニッケルで形成された電極8とを形成した。 【0038】 次に、この構造の発光ダイオード10も第1実施例の発光ダイオードと同様に製造することができる。トリメチルインジウム(In(CH3)3)がTMG、TMA、シラン、CP2Mgガスに加えて使用された。生成温度、ガス流量は第1実施例と同じである。トリメチルインジウムを1.7×10-4モル/分で供給することを除いて他のガスの流量は第1実施例と同一である。 【0039】 次に、第1実施例と同様に、反射電子線回析装置を用いて、上記の高キャリア濃度p+層52及び低キャリア濃度p層51に一様に電子線を照射してp伝導型半導体を得ることができた。 【0040】 次に、第1実施例と同様に、高キャリア濃度n+層3及び高キャリア濃度p+層52に対するニッケルで形成された電極7、8を形成した。 【0041】 また、この発光ダイオード10に印加する電圧Vと流れる電流Iとの関係を測定した。アルミニウムで電極を形成した場合に比べて、第1実施例と同様に、駆動しきい値電圧は7Vから3Vに低下した。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の具体的な第1実施例に係る発光ダイオードの構成を示した構成図。 【図2】 同実施例の発光ダイオードの製造工程を示した断面図。 【図3】 同実施例の発光ダイオードの製造工程を示した断面図。 【図4】 同実施例の発光ダイオードの製造工程を示した断面図。 【図5】 同実施例の発光ダイオードの製造工程を示した断面図。 【図6】 同実施例の発光ダイオードの製造工程を示した断面図。 【図7】 同実施例の発光ダイオードの製造工程を示した断面図。 【図8】 同実施例の発光ダイオードの電圧-電流特性の測定図。 【図9】 従来のアルミニウム電極を用いた発光ダイオードの電圧-電流特性の測定図。 【図10】 第1実施例の変形例にかかる発光ダイオードの構成を示した構成図。 【図11】 本発明の具体的な第2実施例に係る発光ダイオードの構成を示した構成図。 【図12】 同実施例の発光ダイオードの製造工程を示した断面図。 【図13】 同実施例の発光ダイ朴の製造工程を示した断面図。 【図14】 同実施例の発光ダイオードの製造工程を示した断面図。 【図15】 同実施例の発光ダイオードの製造工程を示した断面図。 【図16】 同実施例の発光ダイオードの製造工程を示した断面図。 【図17】 同実施例の発光ダイオードの製造工程を示した断面図。 【図18】 同実施例の発光ダイオードの製造工程を示した断面図。 【符号の説明】 10…発光ダイオード 1…サファイア基板 2…バッファ層 3…高キャリア濃度n+層 4…低キャリア濃度n層 51,501…低キャリア濃度p層 52,502…高キャリア濃度p+層 61…低不純物濃度i層 62…高不純物濃度i+層 7,8,71,81…電極 9…溝 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 ▲1▼訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1中の「前記p層は、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度p+層と、その高キャリア濃度p+層よりも正孔濃度が低い低キャリア濃度p層との2重層で構成され、」を 「前記p層は、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度p+層と、その高キャリア濃度p+層よりも正孔濃度が低く、正孔濃度が1×1014/cm3以上の低キャリア濃度p層との2重層で構成され、」と訂正する。 特許請求の範囲の限定的減縮である。 ▲2▼訂正事項2 特許明細書段落0005の「前記p層は、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度p+層と、その高キャリア濃度p+層よりも正孔濃度が低い低キャリア濃度p層との2重層で構成され、」を 「前記p層は、正孔濃度が1×1016/cm3以上の高キャリア濃度p+層と、その高キャリア濃度p+層よりも正孔濃度が低く、正孔濃度が1×1014/cm3以上の低キャリア濃度p層との2重層で構成され、」と訂正する。 特許請求の範囲の訂正に伴う、課題解決手段の訂正である。 よって、明瞭でない記載の釈明である。 |
異議決定日 | 2000-03-13 |
出願番号 | 特願平4-316597 |
審決分類 |
P
1
651・
534-
YA
(H01L)
P 1 651・ 121- YA (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 吉野 三寛 |
特許庁審判長 |
青山 待子 |
特許庁審判官 |
平井 良憲 森 正幸 吉田 禎治 稲積 義登 |
登録日 | 1997-08-08 |
登録番号 | 特許第2681733号(P2681733) |
権利者 | 天野 浩 豊田合成株式会社 赤崎 勇 |
発明の名称 | 窒素-3族元素化合物半導体発光素子 |
代理人 | 藤谷 修 |
代理人 | 藤谷 修 |
代理人 | 藤谷 修 |
代理人 | 藤谷 修 |