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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1059464
異議申立番号 異議2000-74628  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-05-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-12-22 
確定日 2002-04-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3058903号「木目模様化粧シート」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3058903号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3058903号(平成2年9月28日出願、平成12年4月21日設定登録、請求項の数2)の全請求項に係る特許に対して、凸版印刷株式会社から特許異議申の申立があり、取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成13年11月27日に特許異議意見書と共に訂正請求書が提出された。
II.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
訂正事項は次のとおりである。
a-1.特許請求の範囲請求項2を削除する。
a-2.特許請求の範囲請求項1の記載「可撓性を有するプラスチック基材シート上に、木目模様下柄印刷層、シートの積層によりなる厚さ0.1mm以上の透明なプラスチック層および木目模様表面柄印刷層を順次設けてなり、この表面柄印刷層が黒ないし焦茶色の濃色でかつ艶消しインキを用いて木材の導管柄を印刷したインキ層であることを特徴とする木目模様化粧シート。」を次のとおりに訂正する。
「可撓性を有するプラスチック基材シート上に、光輝性顔料を添加したインキからなる木目模様下柄印刷層、シートの積層によりなる厚さ0.1mm以上の透明なプラスチック層、艶消し剤を添加したインキからなる艶消し効果を有する艶調整層、および木目模様表面柄印刷層を順次設けてなり、この表面柄印刷層が黒ないし焦茶色の濃色でかつ艶消しインキを用いて木材の導管柄を印刷してなると共に該艶調整層よりもさらに艶消しとなったインキ層であることを特徴とする木目模様化粧シート。」
b.明細書第3頁第16行〜第4頁第6行(公報第3欄第22行〜第34行)の記載を次のとおりに訂正する。
「すなわち、本発明は、可撓性を有するプラスチック基材シート上に、光輝性顔料を添加したインキからなる木目模様下柄印刷層、シートの積層によりなる厚さ0.1mm以上の透明なプラスチック層、艶消し剤を添加したインキからなる艶消し効果を有する艶調整層、および木目模様表面柄印刷層を順次設けてなり、この表面柄印刷層が黒ないし焦茶色の濃色でかつ艶消しインキを用いて木材の導管柄を印刷してなると共に該艶調整層よりもさらに艶消しとなったインキ層であることを特徴とする木目模様化粧シートが提供される。」
2.判断
(1)請求項2の記載を削除する訂正(a-1.)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(2)請求項1の訂正における「木目模様下柄印刷層」を「光輝性顔料を添加したインキからなる木目模様下柄印刷層」とする訂正(a-2-1.)は、 願書に添付した明細書第5頁第2行〜第6行(公報第3欄第49行〜第2行)に「木目模様下柄印刷層は、既知の印刷インキを用いて常用の印刷法で設ければよい。印刷インキは、木目の「照り」をよく表現できるように、パール顔料や金属粉などの光輝性顔料を添加したものが好ましい。」を根拠とするもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)「透明なプラスチック層および木目模様表面柄印刷層」を「透明なプラスチック層、艶消し剤を添加したインキからなる艶消し効果を有する艶調整層、および木目模様表面柄印刷層」とする訂正(a-2-2.)及び 「導管柄を印刷したインキ層」を「導管柄を印刷してなると共に該艶調整層よりもさらに艶消しとなったインキ層」とする訂正(a-2-3.) は、訂正前の 請求項2「透明なプラスチック層と木目模様表面柄印刷層との間に艶調整層が存在し、かつ、該木目模様表面柄印刷層が、該艶調整層よりも艶消しとなっていることを特徴とする請求項1記載の化粧シート。」の記載及び「本発明の化粧シートにおいて場合により設けられる艶調整層は、公知の艶調整インキ、たとえば公知のビヒクルに炭酸カルシウム、シリカなどの艶消剤を適量添加したインキを用いてベタ印刷することにより形成することができるが、あらかじめ作製された艶調整層を熱圧縮成形により他の層と一体化してもよい。」(明細書第6頁第1〜7行、本件公報第4欄第16行〜第20)の記載を根拠として、艶調整層があること及び木目模様表面柄印刷層と艶調整層の関係を規定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項b.による訂正は、訂正事項a-1.〜a-2-3.による訂正に伴い、明細書の記載の不整合を正すものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項a-1.〜a-2-3.及び訂正事項b.による訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、本件訂正を認める。
III.本件発明
訂正は認められるので、本件の請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)は、訂正後の請求項1に記載されたとおりのものである。
IV.特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、甲第1号証として特開昭63-194949号公報、甲第2号証の1として実開昭64-36133号公報、甲第2号証の2として実願昭62-132510号(実開昭64-36133号)のマイクロフィルム、甲第3号証として特開昭49-16752号公報、甲第4号証として特開昭51-88616号公報、甲第5号証として特開平2-24138号公報および甲第6号証として特公昭49-39166号公報を提示して次の主張をしている。
(1)訂正前の請求項1〜2に係る発明は、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)明細書の記載には不備があるから、訂正前の請求項1〜2に係る発明は、特許法第36条第3項および同条第4項第1号の規定に違反する特許出願に対してされたものである。
V.甲第1号証〜甲第6号証の記載事実
a.甲第1号証には次の記載がなされている。
a-1.「シート基材上に、印刷層、透明樹脂層およびアクリル樹脂層を順に積層してあることを特徴とする化粧シート。」(特許請求の範囲第1項)
a-2.「アクリル樹脂層の上面に更に別の印刷層を有することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の化粧シート。」(特許請求の範囲第4項)
a-3.「印刷層は艶調整層を介してアクリル樹脂層上に形成される特許請求の範囲第4項記載の化粧シート。」(特許請求の範囲第5項)
a-4.「シート基材1としては、例えば、薄葉紙、樹脂混抄紙、樹脂含浸紙などの紙質基材、合成樹脂性基材、金属、不織布などを用いることができ・・・る。」(第2頁右下欄第8〜12行)
a-5.「印刷層2は、木目柄、抽象柄、石目柄など任意の模様を印刷により形成した模様層もしくは着色層である。」(第2頁右下欄第17〜19行)
a-6.「アクリル樹脂層4の厚みは、10μm〜100μmであることが好ましい。」(第3頁右上欄第17〜18行)
a-7.「透明樹脂層3は上記したアクリル樹脂層4を印刷層を施したシート基材1の上に直接に設けると良好な接着力が得られないので、それらの間の接着力を向上させる目的で設けるが、この層の存在により、化粧シートの全体の厚みが増加し、それにより、木端巻きやVカットなどの曲面加工適性が付与され、更に意匠的にも肉持ち感(塗料が多量に付着して深みがでること)を増加させる効果も生ずる。」(第3頁左下欄第2〜10行)
a-8.「透明樹脂層3の厚みとしては10μm〜50μmである。」(第3頁右下欄第5〜6行)
a-9.「本発明の化粧シートは、第3図に示すようにアクリル樹脂層4の表面に更に印刷層2’を有していてもよい。印刷層2’は意匠性を向上させ、かつ、立体感を現出させる作用がある。」(第4頁左上欄第11〜14行)
a-10.「印刷層2’の模様は任意であるが、化粧シートを木目のものとするときは、まず、印刷層2を導管を含むか、もしくは含まない木目模様として形成しておき、次に印刷層2’として導管の模様を形成すれば、表面に設けられた導管模様と下層の模様とが重なりあって見え、3次元的な深みのある立体感が得られる。印刷層2’は、アクリル樹脂層4の上に艶調整層6を介して設けてもよい(図示せず)。」(第4頁左上欄第19行〜右上欄第7行)
a-11.「実施例3 坪量65g/m2 の紙間強化紙(CB-FIX65S、三興製紙(株)製)の上に、アクリル樹脂をべヒクルとするインキ(HAT、諸星インキ(株)製)を用いて隠蔽用のべタ印刷層と、導管を除いたオーク柄とをグラビア輪転機を用いて印刷し、木目印刷紙を得た。得られた木目印刷紙の上に押出し機を用いてポリエチレン樹脂を膜厚30μmになるようコートしながら、別に準備した、予め接着面をコロナ放電処理済のアクリル樹脂系フィルム(鐘淵化学(株)製、サンデュレンフィルム 007 ナチュラル)をラミネートし、木目印刷紙/ポリエチレン/アクリル系樹脂フィルムの3層構成のものを得た。更にフィルムの表面にグラビア輪転機を用いてオーク柄の導管を艶消剤を含んだウレタン系のインキ(昭和インク工業所(株)製、C&M)で印刷した。このようにして得られた、木目印刷紙/ポリエチレン/アクリル系樹脂フィルム/導管印刷層の4層構成の化粧シートは実施例1の化粧シートと同様な性能を有していた。」(第5頁右下欄第1行〜第6頁左上欄第3行)
a-12.第6頁第3図には、基材シート、印刷層、透明樹脂層、アクリル樹脂層、艶調整層の5層からなる化粧シートを示す断面図
b.甲第2号証の2には次の記載がなされている。
b-1.「少なくとも2枚の透明プラスチックシートが貼り合わされていて、その2枚の透明プラスチックシートの間に模様を有している複合化粧シートが基板に接着されていることを特徴とする化粧板。」(実用新案登録請求の範囲第1項)
b-2.「第1図は本考案の化粧板の好ましい実施例を示すもので、透明プラスチックシート1および1’の間に模様3を有している複合化粧シート2が接着剤4を介して基板5に接着されたものである。第2図は本考案の化粧板の他の例を示すもので、基板に接着された複合化粧シート2は1、1’、および1”の3枚の透明プラスチックシートと各シートの間の模様3および3’とからなっているものである。」(第3頁第20行〜第4頁第9行)
b-3.「透明プラスチックシートの厚みは、0.03〜lmm、好ましくは0.2〜0.5mmである。」(第5頁第10〜11行)
b-4.「更に図示はしないが、複合化粧シートの最表面(第1図および第2図の最も上の面)に更に模様を設けてもよい。」(第6頁第16〜18行)
b-5.「この考案によれば、模様の下側に透明プラスチックシートがあるので、模様に奥行きが感じられ、深み、立体感が得られる。特に、模様を木目とし、接着剤としてパール顔料を含むものを使用したものは、天然の木の持つ模様の奥行き感、「照り」が表現でき、よりリアルな木目化粧板とすることができる。」(第10頁第2〜8行)
b-6.第12頁には化粧板を示す断面図として、基板、接着剤、透明プラスチックシート、模様、透明プラスチックシートの5層からなる第1図、基板、接着剤、透明プラスチックシート、模様、透明プラスチックシート、模様、透明プラスチックシートの7層からなる第2図
c.甲第3号証には次の記載がなされている。
c-1.「任意の基体シートの上に粒状固形分の含有量を順次増加させてなるインキないし塗料組成物を使用して少くとも木目模様の冬目部分、夏目部分及び導管溝部分の各々の模様を形成せしめてなる木目模様を設け、しかる後、該木目模様を含む全面に表面保護層を設けることを特徴とする化粧材の製造法。」(特許請求の範囲)
c-2.「粒状固形分の含有量を順次増加させてなるインキないし塗料組成物を使用して木目模様の冬目部分、夏目部分及び導管溝部分に相当する各々の模様を形成せしめてなる木目模様を設けるので、その各々の部分において艶の変化を生ぜしめると共に木質感の変化を現出せしめ、天然木の木目模様の艶或は木質感等とはほとんど遜色のない艶ないし木質感の変化を有するものである。」(第5頁右上欄第4〜12行)
c-3.「印刷物の上に下記の配合割合のものを充分混練したインキ組成物を使用して版深65μのグラビア版を用いて、木目模様の導管部分を印刷した。(組成物)カーボンブラック20部 硫酸バリウム40部 ニトロセルロースアルキッド樹脂15部 助剤5部 酢ブチ、トロール、MEK50部 計130部」(第6頁左上欄第1〜11行)
d.甲第4号証には次の記載がなされている。
d-1.「基材表面に常法により天然木材の木目部分を印刷した後、使用インキに不溶性で平均粒径0.1μ〜40μの範囲内の無機物質を0.5〜50重量%含有し、且塗料を反撥する印刷インキにより、前記天然木材の道管溝部分を先に印刷した木目印刷に合わせて印刷し、その上に塗料を塗装し、乾燥させ、該道管溝印刷部分の塗膜を反撥させ、その部分の塗膜を欠如させその塗膜欠如部分においてインキ中に含有する無機物質により微細な凹凸が生じるようにしたことを特徴とする化粧材の製造法。」(特許請求の範囲)
d-2.「実施例1 厚さ4m/m 2×8尺のラワン合板表面に常法により目止処理、チークと同色の下地塗装をしたものを基材として、チーク材の板目の木目部分をグラビヤオフセット印刷法により印刷、乾燥した後、平均粒径1μ〜2μの酸化鉄(Fe2 O3 )15部、酸化鉄で褐色になっているチーク道管溝色に調整するため有機顔料3部、ベヒクルとしてシリコーンワニス50部、溶剤としてシクロヘキサン(キシレン)40部から成る印刷インキでチーク板目の道管溝部分を先の木目部分に合わせて印刷する。この印刷インキを乾燥後アミノアルキッド樹脂塗料をロールコーターにより55g/m2 塗布し60℃の乾燥機中で20分間乾燥させ、塗膜を完全硬化させると、チークの環孔材としての道管溝部分が撥かれ、陥没した状態で硬化する。しかも、その陥没した部分の底部が印刷インキ中に含まれる無機物質であるところの酸化鉄によって、微細な凹凸を生じ、もとの天然チーク材に極めて酷似した化粧材を製造し得た。」(第3頁右上欄第13行〜左下欄第12行)
e.甲第5号証には次の記載がなされている。
e-1.「透明ポリエステルフィルムに絵柄を印刷し、弾性球状樹脂ビーズを含む塗料を塗布した後、ポリエステルフイルム面にポリ塩化ビニルフィルムを貼り合わせることを特徴とする柔軟性艶消し化粧シートの製造方法。」(特許請求の範囲)
e-2.「第1図において、2はポリエステルフィルムであり、この片面に印刷絵柄3、他の片面に塗料1が施されている。そして、この印刷絵柄3面が、接着剤4を介してポリ塩化ビニル5面に接着されている。」(第2頁右上欄第7行〜第11行)
e-3.「こうして得られる塗料1の塗膜は、ベルベット調あるいはスウェード調の艶消し状の透明な塗膜であり、この塗膜とフィルム2を透して絵柄3を見ることができ、しかもこの塗膜は弾性ビーズのため、極めて耐擦傷性に優れている。ポリ塩化ビニルフィルム5は、化粧シートを合板等に張り合わせた後、この合板を折曲げ加工する場合、あるいは曲面に化粧シートを貼り合せ場合等において、化粧シートとしての伸びと強度を担保するもので、厚さ70〜200μの半硬質の着色したポリ塩化ビニルシートを用いる。」(第3頁左上欄第3〜13行)
e-4.「本発明に係わる化粧シートは、例えば合板等に貼り合せ、この合板裏面をV字状に削り取って、この部分から折り曲げる(Vカット加工)等の加工をしたり、あるいは曲面もしくは巻込みを有する建装材等の表面に貼り合わせる等の方法で使用する。」(第3頁左上欄第18行〜右上欄第3行)
f.甲第6号証には次の記載がなされている。
f-1.「紙、合成樹脂フイルム等の薄シートに木目模様を印刷し、この上に透明合成樹脂塗料を上塗りしこの塗膜の未硬化中に艶消剤を含有せる硬化型の印刷インキを用いて、上記木目模様に合わせて導管溝模様を印刷し、しかる後この塗膜と印刷インキとを硬化させることを特徴とする木目模様を有するオーバーレイ材の製造方法。」(特許請求の範囲)
f-2.「本発明は上述した通りであつて、特に透明合成樹脂塗料を上塗りした後、この塗膜の未硬化中に艶消剤を含有せる硬化型の印刷インキを用いて、すでに印刷形成した木目模様に合わせて導管溝模様を印刷し、その後でこの塗膜と印刷インキとを乾燥させるようにしたから、木目模様と導管溝模様が透明塗膜を挟んで木目模様は下側に導管溝模様上側に形成される結果、これら模様が立体的となり、かつこれが艶のある透明塗膜上に艶のない導管溝模様が形成されるので、この立体感が視覚を通して幻惑され、あたかも導管溝模様が窪んでみえ、木目模様と相まつて極めてリアルな木質感を生じさせることができる。」(第2頁左欄第3〜15行)
VI.特許異議の申立理由についての判断
1.特許異議申立人の主張(1)について
甲第1号証の特許請求の範囲第5項に記載された発明(甲第1号証の摘示記載a-3.参照)は、第3図(甲第1号証の摘示記載a-12.参照)及び実施例3の記載(甲第1号証の摘示記載a-11.参照)を考慮すると、基材シート、印刷層(隠蔽用ベタ印刷層及びオーク柄印刷層)、透明樹脂層(ポリエチレン樹脂)、アクリル系樹脂層(アクリル系樹脂フィルム)、艶調整層(艶調整塗膜)及び印刷層(艶調整剤を含んだインキによる導管柄印刷層)からなる化粧シートとして把握できるものである。
本件発明と甲第1号証に記載された発明(特許請求の範囲第5項に記載された発明)とを対比する。
甲第1号証に記載された発明における、透明樹脂層及びアクリル系樹脂層は、本件発明における、透明プラスチック層に対応するので、可撓性を有する基材シート上に、木目模様下柄印刷層、透明なプラスチック層、艶消し剤を添加したインキからなる艶消し効果を有する艶調整層、および木目模様表面柄印刷層を順次設けてなる木目模様化粧シートで一致するが、本件発明の木目模様化粧シートにおいては、
(1)基材シートの材料について、前者はプラスチックシートと特定しているのに対して、後者は、紙質基材、合成樹脂性基材、金属、不織布などを挙げていて、特にプラスチックシートに限定していない点(甲第1号証の摘示記載a-4.参照)(相違点1)
(2)透明なプラスチック層の厚さについて、前者は、0.1mm以上と特定しているのに対して、後者は、0,1mm以上を具体的に示していない点(相違点2)
(3)木目模様下柄印刷層について、前者が光輝性顔料を添加したインキからなることを特定しているのに対して、後者は、そのようなことを明らかにしていない点(相違点3)
(4)表面柄印刷層と艶調整層の関係について、前者が表面柄印刷層が黒ないし焦茶色の濃色でかつ艶消しインキを用いて木材の導管柄を印刷してなると共に該艶調整層よりもさらに艶消しとなったインキ層であると特定しているのに対して、後者は、そのようなことを明らかにしていない点(相違点4)、で相違する。
そこで、これらの相違点について検討する。
(相違点1について)
甲第1号証には、基材シートに合成樹脂性基材、すなわちプラスチックシートが記載されているから、これを選定することは、当業者が容易になし得たことと認められる。
(相違点2について)
甲第1号証には、アクリル樹脂層の厚みが10μm〜100μmであることが好ましく、透明樹脂層の厚みは10μm〜50μmであることが記載されているから、透明樹脂層およびアクリル樹脂層の厚みの和を100μm以上、即ち、0.1mm以上とすることは、当業者が容易になし得たことと認められる。
(相違点3について)
本件発明において、木目模様下柄印刷層において、光輝性顔料を添加したインキ用いるのは、木目の照りをよく表現できるようにするためである。一方、甲第2号証には、2枚の透明プラスチックシートの間に模様を有している複合化粧シートが基板に接着されている化粧板において、模様を木目とし、接着剤として光輝性顔料の一種であるパール顔料(本件特許公報第2頁右欄第1行〜第2行)を含むものを使用したものは、天然の木の持つ模様の奥行き感、「照り」が表現でき、よりリアルな木目化粧板とすることができることが記載されている(甲第2号証の摘示記載b-5.参照)。しかし、木目模様層とパール顔料を含む接着剤層は別の層として形成されものであり、木目模様自体の印刷にパール顔料を用いることは記載されていないから、甲第1号証に記載された発明における木目印刷を、光輝性顔料の一種であるパール顔料を用いたインキにより形成することが、甲第2号証から容易になし得たこととは認められない。
甲第3号証〜甲第6号証には、木目模様印刷のインキとして光揮性顔料を用いたインキを使用することを開示するところがない。
そうすると、相違点3は、甲第1〜6号証から、当業者が容易に導き出せた事項とは認められない。
(相違点4について)
甲第2号証〜甲第6号証には、表面柄印刷層が黒ないし焦茶色の濃色でかつ艶消しインキを用いて木材の導管柄を印刷してなると共に該艶調整層よりもさらに艶消しとなったインキ層であるようにすることは開示されていない。
本件発明の木目模様化粧シートは、上記の相違点1〜4により、明細書記載の効果、即ち、Vカット加工、Uカット加工などを行って折り曲げることが容易であり、立体感のある木目模様が得られ、立体形状の製品に使用しても立体感が維持され、産業上きわめて有用である等の効果を奏したものと認められる。
したがって、本件発明が甲第1号証〜甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。2.特許異議申立人の主張(2)について
特許異議申立人が述べる、明細書の記載に不備があるとする理由は次のとおりである。
実施例の記載において、木目模様下柄をグラビア印刷したポリ塩化ビニルシートの印刷面にダブリング(積層)された「無色透明な厚さ0.08mmのポリ塩化ビニルシート『W-500』(理研ビニル(株)製)」は、厚さが0.1mmよりも薄いものであるから、請求項1における「厚さ0.1 mm以上の透明なプラスチック層」との規定と一致していない。
検討すると、本件明細書の発明の詳細な説明(公報第2頁右欄第13行〜第15行)には、透明プラスチック層の厚さに関して、「意匠に立体感をもたせるために、プラスチック層の厚さは0.1mm以上、特に0.2mm以上とすることが好ましい。」と記載されているから、特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
そして、透明なプラスチック層の具体例として、「実施例」として記載したポリ塩化ビニルシート「W-500」(理研ビニル(株)製)は、その厚さは0.08 mmであり、特許請求の範囲の記載における「厚さ0.1mm以上の透明なプラスチック層」の範囲外のものであるが、この記載を参酌して、厚さ0.1mm以上の透明なプラスチック層を用いて、木目模様化粧シートを製造することは、当業者が容易に実施できることと認められる。
したがって、本件明細書の記載は、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満足していると認められる。
VII.結び
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由および証拠によっては、本件特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
木目模様化粧シート
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 可撓性を有するプラスチック基材シート上に、光輝性顔料を添加したインキからなる木目模様下柄印刷層、シートの積層によりなる厚さ0.1mm以上の透明なプラスチック層、艶消し剤を添加したインキからなる艶消し効果を有する艶調整層、および木目模様表面柄印刷層を順次設けてなり、この表面柄印刷層が黒ないし焦茶色の濃色でかつ艶消しインキを用いて木材の導管柄を印刷してなると共に該艶調整層よりもさらに艶消しとなったインキ層であることを特徴とする木目模様化粧シート。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、木目模様を有する化粧シートの改良に関する。
〔従来の技術〕
従来、家具、家電製品、建材などの製造に、木目模様をもつ化粧シートがよく使用されている。この種の化粧シートは、天然木と同様な深みや照りを感じさせるものが好ましく、さまざまな製品が試作されて提供されている。
その一例として、本出願人は先に、紙類を代表とする基材シート上に、合成樹脂層、隠蔽ベタ印刷層、絵柄印刷層および艶調整層を順に積層し、エンボスを施してなる化粧シートを提案した(特開昭61-293854号)。この化粧シートの諸態様のうちでも、とくにヘアライン状のエンボスを設けたものは、木の繊維質がよく表現されている。
〔発明が解決しようとする課題〕
上記の化粧シートは、壁などの平面材に使用する限りは問題ないが、立体形状をもつ製品に使用することは難しい。というのは、この化粧シートを木質基材に貼ったものはVカット加工やUカット加工が困難であるし、また折り曲げ部において木目柄と導管柄がずれてしまったり、エンボスによって表現した立体感が十分でなくなってしまうからである。
在来品の代表である、ポリ塩化ビニルシートに絵柄を印刷しダブリングエンボスして得た化粧シートは、Vカット加工などを容易に行ないうるが、模様に立体感が乏しく、高度の意匠性をもつ製品を得ることができない。
本発明は、上記した問題点を解消し、立体形状の製品の製造にも適した性能を有する木目模様を有する化粧シートを提供することを目的としている。
〔課題を解決するための手段〕
上記目的を達成するため本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、これらの化粧シートにおいて加工後にその外観に対しもっとも影響を与えるのが最外層である点に着目し、そのための特別な条件を選択することによって所期の効果が奏されることを知見して本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、可撓性を有するプラスチック基材シート上に、光輝性顔料を添加したインキからなる木目模様下柄印刷層、シートの積層によりなる厚さ0.1mm以上の透明なプラスチック層、艶消し剤を添加したインキからなる艶消し効果を有する艶調整層、および木目模様表面柄印刷層を順次設けてなり、この表面柄印刷層が黒ないし焦茶色の濃色でかつ艶消しインキを用いて木材の導管柄を印刷してなると共に該艶調整層よりもさらに艶消しとなったインキ層であることを特徴とする木目模様化粧シートが提供される。
第1図は、本発明の木目模様化粧シートの基本的な構成を示す断面図である。この図に示すように、本化粧シートは、プラスチック基材シート(1)、木目模様下柄印刷層(2)、透明プラスチック層(3)および木目模様表面柄印刷層(4)から構成される。第2図は、本化粧シートの他の構成を示す断面図であって、木目模様表面柄印刷層(4)と透明プラスチック層(3)との間に艶調節層(5)が存在する。
本発明において、基材シートとして用いられ可撓性のあるプラスチックのシートは、たとえば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ABS樹脂またはポリエチレンなどの合成樹脂シートである。そのほか上質紙、薄葉紙などの紙、紙にポリ塩化ビニルをゾルコートした壁紙原反なども使用できる。
木目模様下柄印刷層は、既知の印刷インキを用いて常用の印刷法で設ければよい。印刷インキは、木目の「照り」をよく表現できるように、パール顔料や金属粉などの光輝性顔料を添加したものが好ましい。
透明プラスチック層は、無色のものでも着色のものでもよい。この層を形成するプラスチックを例示すると、ポリオレフィン、ビニル重合体、ポリエステル、ロジン変性エステル重合体、スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリウレタン、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、クマロン樹脂、ポリアミド、セルロース誘導体、アクリル樹脂などである。このようなプラスチックは、適宜の溶剤に溶解して塗料として塗布してもよいし、シートの系で積層してもよい。塗布および積層の手段は、従来と同様の手段が用いられる。
意匠に立体感をもたせるために、プラスチック層の厚さは0.1mm以上、とくに0.2mm以上とすることが好ましい。
本発明の化粧シートにおいて場合により設けられる艶調整層は、公知の艶調整インキ、たとえば公知のビヒクルに炭酸カルシウム、シリカなどの艶消剤を適量添加したインキを用いてベタ印刷することにより形成することができるが、あらかじめ作製された艶調整層を熱圧形成により他の層と一体化してもよい。
木目模様表面柄(好ましくは木材の導管柄)を印刷するインキも、常用のもの、例えば黒ないし焦茶系の濃色インキが用いられる。この表面柄印刷インキは、艶調整インキよりも艶消効果が高いことが好ましい。
〔実施例〕
本発明を実施例により説明する。
実施例1
(1) 厚さ0.08mmのポリ塩化ビニルシート「W-500」(理研ビニル(株)製)に、塩ビ系印刷インキ「化×」(昭和インク(株)製)で木目模様下柄をグラビア印刷した。
(2) (1)のシートの印刷面に、無色透明な厚さ0.08mmのポリ塩化ビニルシート「W-500」(理研ビニル(株)製)を重ね、フラット熱ロール処理することにより両シートをダブリングした。
(3) (2)で得られら積層物の表面に、印刷インキ「G&M」(昭和インク(株)製)で木材の導管柄をグラビア印刷し、本発明の化粧シートを得た。得られた化粧シートは第1図に示す構成を有する。
実施例2
実施例1の(2)で得られた積層物の表面に、艶調整インキ「ワイピングNo.18opニスΘ」(昭和インク(株)製)でベタ印刷した後、この印刷面上に、実施例1の(1)と同様にして木材の導管柄をグラビア印刷した。得られた化粧シートは第2図に示す構成を有する。
〔発明の効果〕
本発明による化粧シートは、以上説明したように構成されており、基材シートとして可撓性のあるプラスチックシートを採用しているので、Vカット加工、Uカット加工などを行なって折り曲げることが容易であるという効果が奏される。また、木目模様は、まず下柄があって、その上に透明プラスチック層をへだてて木目模様表面柄印刷層がある為、立体感のある木目模様が得られる。本発明の化粧シートは立体形状の製品に使用しても立体感が維持され、産業上きわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の化粧シートの基本的構成を示す断面図、第2図は本発明の他の構成を示す断面図である。
1…プラスチック基材シート
2…木目模様下柄印刷層
3…透明プラスチック層
4…木目模様表面柄印刷層
5…艶調整層
 
訂正の要旨 訂正事項は次のとおりである。
a-1.特許請求の範囲請求項2を削除する。
a-2.特許請求の範囲請求項1の記載「可撓性を有するプラスチック基材シート上に、木目模様下柄印刷層、シートの積層によりなる厚さ0.1mm以上の透明なプラスチック層および木目模様表面柄印刷層を順次設けてなり、この表面柄印刷層が黒ないし焦茶色の濃色でかつ艶消しインキを用いて木材の導管柄を印刷したインキ層であることを特徴とする木目模様化粧シート。」を次のとおりに訂正する。
「可撓性を有するプラスチック基材シート上に、光輝性顔料を添加したインキからなる木目模様下柄印刷層、シートの積層によりなる厚さ0.1mm以上の透明なプラスチック層、艶消し剤を添加したインキからなる艶消し効果を有する艶調整層、および木目模様表面柄印刷層を順次設けてなり、この表面柄印刷層が黒ないし焦茶色の濃色でかつ艶消しインキを用いて木材の導管柄を印刷してなると共に該艶調整層よりもさらに艶消しとなったインキ層であることを特徴とする木目模様化粧シート。」
b.明細書第3頁第16行〜第4頁第6行(公報第3欄第22行〜第34行)の記載を次のとおりに訂正する。
「すなわち、本発明は、可撓性を有するプラスチック基材シート上に、光輝性顔料を添加したインキからなる木目模様下柄印刷層、シートの積層によりなる厚さ0.1mm以上の透明なプラスチック層、艶消し剤を添加したインキからなる艶消し効果を有する艶調整層、および木目模様表面柄印刷層を順次設けてなり、この表面柄印刷層が黒ないし焦茶色の濃色でかつ艶消しインキを用いて木材の導管柄を印刷してなると共に該艶調整層よりもさらに艶消しとなったインキ層であることを特徴とする木目模様化粧シートが提供される。」
異議決定日 2002-03-19 
出願番号 特願平2-257225
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鴨野 研一  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 石井 克彦
加藤 志麻子
登録日 2000-04-21 
登録番号 特許第3058903号(P3058903)
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 木目模様化粧シート  
代理人 平木 祐輔  
代理人 早川 康  
代理人 平木 祐輔  
代理人 早川 康  

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