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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  A01B
管理番号 1059552
異議申立番号 異議2001-72684  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-03-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-10-02 
確定日 2002-05-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第3151421号「トラクタにおける作業機連結装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3151421号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 一、手続の経緯
本件特許第3151421号の請求項1に係る発明は、昭和63年2月24日に出願された実願昭63-23291号を特願平8-185017号に出願変更し、さらにその一部を分割出願した特願平9-167947号の特許出願に係り、平成13年1月19日にその発明についての特許の設定登録がなされ、その後、請求項1に係る発明の特許に対して、井関農機株式会社(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成13年12月7日付けで請求項1に係る発明に対する取消理由を期間を指定して通知し、特許権者に意見書を提出する機会を与えたところ、特許権者から取消理由に対する意見書が提出されたものである。

二、特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件特許第3151421号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものである。
「【請求項1】機体の後部にリンク(2),(3)を介してヒッチフレーム(5)を装着し、該ヒッチフレーム(5)の上部と下部に被連結部(13),(15)を設け、該被連結部(13),(15)に対して作業機(10)の上部と下部に設けた連結部(30),(27)を着脱可能に連結すると共に、前記作業機(10)に検出装置(25)を付設したトラクタにおいて、
前記作業機(10)の連結部(30)近傍に前記検出装置(25)に連繋した後部接合体(37)の先端部(38)を臨ませ、また、前記ヒッチフレーム(5)の被連結部(13)近傍にそれを昇降させる油圧装置に連繋された前部接合体(41)の先端部を臨ませ、
前記作業機(10)をヒッチフレーム(5)に連結すべく機体を後退させた後、ヒッチフレーム(5)を上昇させた際、
上記前後の接合体(41),(37)の先端部は、当該ヒッチフレーム(5)の被連結部(13)と作業機(10)の連結部(30)が係合すると略同時に係合して、前記検出装置(25)が機体側の油圧装置(47)に自動的に連繋されるように構成したことを特徴とするトラクタにおける作業機連結装置。」

2.取消理由通知の概要
当審が通知した取消理由は、引用例1として実願昭62-31017号(実開昭63-138004号公報参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面(申立人提出の甲第1号証の1を参照)を引用し、本件発明は、本件特許出願の日前の実用新案登録出願であって、その出願後に出願公開された前記引用例1(甲第1号証の1参照)に記載された考案と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の実用新案登録出願に係る上記の考案をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記実用新案登録出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、本件発明についての特許は特許法第113条第2号に該当するから取消されるべきものである、というものである。

3.引用例1に記載の発明
当審が取消理由通知に引用した引用例1には、トラクターの作業機連結装置に関し、次の事項が記載されている。
「1.トラクター機体(T)の油圧シリンダー装置(10)によって昇降作動される3点リンク機構(L)の後端部へ、これとの一体的に昇降動作するヒッチフレーム(F)を装備させ、そのヒッチフレーム(F)へ耕耘作業機(I)を着脱自在に連結すると共に、
その作業機(I)におけるロータリーリヤーカバー(50)の対地作業レベルを検知して、上記油圧シリンダー装置(10)のコントロールバルブを自動制御させるべくフィードバックするセンサーワイヤ一を、そのリヤーカバー(50)と油圧コントロールバルブとの相互間に、前後方向への進退自在として連繋させたトラクターにおいて、
そのセンサーワイヤーを検知信号の発進(「発信」の誤記と認める。)側となるセンサーロッド(60)と、同じく受信側となるセンサーワイヤー(29)との前後一対として分断し、
そのセンサーワイヤー(29)の後端部を、上記ヒッチフレーム(F)に回動自在として軸支した応答レバー(30)へ連繋保持させる一方、センサーロッド(60)の前端部を作業機(I)にやはり回動自在として軸支したセンサーレバー(58)へ連繋保持させて、
上記ヒッチフレーム(F)へ作業機(I)を連結した時に、センサーワイヤー(29)とセンサーロッド(60)とが作用上自づと一体連繋的に前後方向へ進退動作するように、そのセンサーレバー(58)と応答レバー(30)とを係脱自在に係合させたことを特徴とするトラクターの作業機連結装置。
2.センサーレバー(58)とその応答レバー(30)との何れか一方に、遊転ローラー(32)を取付けて、そのローラー(32)を介して残る他方と係脱自在に係合させたことを特徴とする実用新案登録請求の範囲・第1項記載のトラクターの作業機連結装置。」(1頁5行〜3頁1行の実用新案登録請求の範囲)
「トラクター機体に対して作業機を着脱作業するに当っては、そのレリーズワイヤーも一々取りはずして、再度長さを調整しつつ連繋し直さなければならず、その作業上甚だ煩雑であると共に、万一正規な調整状態に再連繋されないと、所期する耕深度合いの自動制御効果を確実に得られないことが起ることにもなる。」(4頁2行〜4頁9行)
「尚、図では上記センサーレバー(58)の枢支ピン(59)による回動支点位置を、そのレバー(58)の一端部へ偏倚的に配設する一方、応答レバー(30)の枢支ピン(31)による回動支点位置を、そのレバー(30)の中途部に配置させているけれども、上記作用を達成できる限り、その回動支点位置はこれを図示以外に変更してもさしつかえない。」(15頁13行〜19行)
「冒頭に述べた従来技術の問題点が完全に解消され、作業機(I)をトラクター機体(T)に対して頗る効率良く、簡便に着脱作業できる効果がある。」(17頁11行〜14行)

上記摘記事項からみて、引用例1には、
「トラクター機体(T)の油圧シリンダー装置(10)によって昇降作動される3点リンク機構(L)の後端部へ、これとの一体的に昇降動作するヒッチフレーム(F)を装備させ、そのヒッチフレーム(F)へ耕耘作業機(I)を着脱自在に連結すると共に、その作業機(I)におけるロータリーリヤーカバー(50)の対地作業レベルを検知して、上記油圧シリンダー装置(10)のコントロールバルブを自動制御させるべくフィードバックするセンサーワイヤ一を、そのリヤーカバー(50)と油圧コントロールバルブとの相互間に、前後方向への進退自在として連繋させたトラクターにおいて、
そのセンサーワイヤーを検知信号の発信側となるセンサーロッド(60)と、同じく受信側となるセンサーワイヤー(29)との前後一対として分断し、そのセンサーワイヤー(29)の後端部を、上記ヒッチフレーム(F)に回動自在として軸支した応答レバー(30)へ連繋保持させる一方、センサーロッド(60)の前端部を作業機(I)にやはり回動自在として軸支したセンサーレバー(58)へ連繋保持させて、
上記ヒッチフレーム(F)へ作業機(I)を連結した時に、センサーワイヤー(29)とセンサーロッド(60)とが作用上自づと一体連繋的に前後方向へ進退動作するようにして、センサーレバー(58)とその応答レバー(30)との何れか一方に、遊転ローラー(32)を取付けて、そのローラー(32)を介して残る他方と係脱自在に係合させることにより、そのセンサーレバー(58)と応答レバー(30)とを係脱自在に係合させたトラクターの作業機連結装置」の考案が記載されている。

4.当審の判断
a.一致点・相違点
本件発明と引用例1に記載の考案(以下、「引用考案」という。)とを比較すると、引用考案の「トラクター機体(T)」「3点リンク機構(L)」「ヒッチフレーム(F)」「挟持プレート(19)及びピン受け入れ凹溝(21)」「挟持プレート(25)及びピン受け入れ凹溝(26)」「耕耘作業機(I)」「連結ピン(46)」「連結ピン(45)」「ロータリーリヤーカバー(50)」「トラクター」「センサーロッド(60)の前端部のセンサーレバー(58)」「センサーワイヤー(29)の後端部を連繋保持する応答レバー(30)の遊転ローラー(32)」「油圧シリンダー装置(10)」「作業機連結装置」が、それぞれ本件発明の「機体」「リンク(2),(3)」「ヒッチフレーム(5)」「上部被連結部(13)」「下部被連結部(15)」「作業機(10)」「上部連結部(30)」「下部連結部(27)」「検出装置(25)」「トラクタ」「後部接合体(37)の先端部(38)」「前部接合体(41)の先端部」「油圧装置(47)」「作業機連結装置」に相当する。
そうすると、前記引用考案の「トラクター機体(T)の油圧シリンダー装置(10)によって昇降作動される3点リンク機構(L)の後端部へ、これとの一体的に昇降動作するヒッチフレーム(F)を装備させ、そのヒッチフレーム(F)へ耕耘作業機(I)を着脱自在に連結すると共に、その作業機(I)におけるロータリーリヤーカバー(50)の対地作業レベルを検知して、上記油圧シリンダー装置(10)のコントロールバルブを自動制御させるべくフィードバックするセンサーワイヤ一を、そのリヤーカバー(50)と油圧コントロールバルブとの相互間に、前後方向への進退自在として連繋させたトラクター」の構成が、本件発明の「機体の後部にリンク(2),(3)を介してヒッチフレーム(5)を装着し、該ヒッチフレーム(5)の上部と下部に被連結部(13),(15)を設け、該被連結部(13),(15)に対して作業機(10)の上部と下部に設けた連結部(30),(27)を着脱可能に連結すると共に、前記作業機(10)に検出装置(25)を付設したトラクタ」に相当することは明らかである。
そして、引用考案の「そのセンサーワイヤーを検知信号の発信側となるセンサーロッド(60)と、同じく受信側となるセンサーワイヤー(29)との前後一対として分断し、そのセンサーワイヤー(29)の後端部を、上記ヒッチフレーム(F)に回動自在として軸支した応答レバー(30)へ連繋保持させる一方、センサーロッド(60)の前端部を作業機(I)にやはり回動自在として軸支したセンサーレバー(58)へ連繋保持させて、」の構成における「上記ヒッチフレーム(F)に回動自在として軸支し」及び「作業機(I)にやはり回動自在として軸支し」は、それぞれ本件発明の「前記ヒッチフレーム(5)の被連結部近傍に臨ませ、」及び「前記作業機(10)の連結部近傍に臨ませ、」に対応するから、引用考案と本件発明の両者は、「前記作業機(10)の連結部近傍に前記検出装置(25)に連繋した後部接合体(37)の先端部(38)を臨ませ、また、前記ヒッチフレーム(5)の被連結部近傍にそれを昇降させる油圧装置に連繋された前部接合体(41)の先端部を臨ませ、」の構成を共に具備するものということができる。
さらに、引用考案の「そのセンサーワイヤー(29)の後端部を、上記ヒッチフレーム(F)に回動自在として軸支した応答レバー(30)へ連繋保持させる一方、センサーロッド(60)の前端部を作業機(I)にやはり回動自在として軸支したセンサーレバー(58)へ連繋保持させて、上記ヒッチフレーム(F)へ作業機(I)を連結した時に、センサーワイヤー(29)とセンサーロッド(60)とが作用上自づと一体連繋的に前後方向へ進退動作するようにして、センサーレバー(58)とその応答レバー(30)との何れか一方に、遊転ローラー(32)を取付けて、そのローラー(32)を介して残る他方と係脱自在に係合させることにより、そのセンサーレバー(58)と応答レバー(30)とを係脱自在に係合させた」の構成は、引用考案のトラクターの作業機連結装置を用いた連結作業においては、ヒッチフレーム(F)へ作業機(I)を連結すると、センサーワイヤー(29)とセンサーロッド(60)とが連結作用により自ら一体連繋的に前後方向へ進退動作して、センサーロッド(60)の前端部であるセンサーレバー(58)とセンサーワイヤー(29)の後端部である応答レバー(30)の遊転ローラー(32)とが係脱自在に係合することを意味しているから、引用考案も、本件発明の「前記作業機(10)をヒッチフレーム(5)に連結する際、上記前後の接合体(41),(37)の先端部は、当該ヒッチフレーム(5)の被連結部(13)と作業機(10)の連結部(30)が係合すると略同時に係合して、前記検出装置(25)が機体側の油圧装置(47)に自動的に連繋されるように構成した」に相当する構成を具備しているということができる。
そうしてみると、本件発明と引用考案の両者は「機体の後部にリンク(2),(3)を介してヒッチフレーム(5)を装着し、該ヒッチフレーム(5)の上部と下部に被連結部(13),(15)を設け、該被連結部(13),(15)に対して作業機(10)の上部と下部に設けた連結部(30),(27)を着脱可能に連結すると共に、前記作業機(10)に検出装置(25)を付設したトラクタにおいて、前記作業機(10)の連結部近傍に前記検出装置(25)に連繋した後部接合体(37)の先端部(38)を臨ませ、また、前記ヒッチフレーム(5)の被連結部近傍にそれを昇降させる油圧装置に連繋された前部接合体(41)の先端部を臨ませ、前記作業機(10)をヒッチフレーム(5)に連結する際、上記前後の接合体(41),(37)の先端部は、当該ヒッチフレーム(5)の被連結部(13)と作業機(10)の連結部(30)が係合すると略同時に係合して、前記検出装置(25)が機体側の油圧装置(47)に自動的に連繋されるように構成したトラクタにおける作業機連結装置」である点で一致し、次の点で一応相違する。
相違点1:前記検出装置(25)に連繋した後部接合体(37)の先端部(38)及び油圧装置に連繋された前部接合体(41)の先端部を臨ませる位置を、本件発明が「前記作業機(10)の連結部(30)近傍に」及び「前記ヒッチフレーム(5)の被連結部(13)近傍に」のように記載していて、係合位置が上部連結部(30)と上部被連結部(13)のある「上部」であることを限定しているのに対し、引用考案では、それぞれ単に「作業機(I)に」及び「上記ヒッチフレーム(F)に」のように記載されていて、係合位置が「上部」に限定されていない点。
相違点2:ヒッチフレームに作業機を連結する際に、本件発明が「機体を後退させた後、ヒッチフレーム(5)を上昇させ」る作業手順を踏むのに対し、引用考案では、単に「上記ヒッチフレーム(F)へ作業機(I)を連結した時に、」とされていて、前記「機体を後退させた後、ヒッチフレーム(5)を上昇させ」る作業手順について明らかではない点。

b.相違点についての判断
(1)相違点1について
引用例1に「尚、図では上記センサーレバー(58)の枢支ピン(59)による回動支点位置を、そのレバー(58)の一端部へ偏倚的に配設する一方、応答レバー(30)の枢支ピン(31)による回動支点位置を、そのレバー(30)の中途部に配置させているけれども、上記作用を達成できる限り、その回動支点位置はこれを図示以外に変更してもさしつかえない。」(15頁13行〜19行)と記載されていることを勘案すると、引用考案においても、後部接合体(60)の先端部と前部接合体(30)の先端部の係合位置を、作業機(I)の上部連結部である連結ピン(46)とヒッチフレーム(F)の上部被連結部である挟持プレート(19)とからなる上部連結部の近傍に位置させることが、実質的に引用例1に記載されているということができるから、本件発明の「前記作業機(10)の連結部(30)近傍に前記検出装置(25)に連繋した後部接合体(37)の先端部(38)を臨ませ、また、前記ヒッチフレーム(5)の被連結部(13)近傍にそれを昇降させる油圧装置に連繋された前部接合体(41)の先端部を臨ませ」の構成は、当業者が適宜なし得る設計事項である。

(2)相違点2について
トラクタの機体後部のヒッチフレーム(5)に作業機(10)を連結しようとする際に、重量のために運搬移動しにくい作業機(10)を運搬移動して機体後部のヒッチフレーム(5)に接近させるよりは、エンジン及び車輪等の移動手段を有するトラクタ機体を運転操作して後方に移動することにより機体側を作業機(10)に接近させることの方が、遙かにスムーズに連結作業を進めることができ、簡単容易であることは、当業者に自明のことであり、かつ、このようなヒッチフレーム(5)に作業機(10)を連結するときの作業手順は、本件特許出願時に普通に採用されていた周知慣用技術にすぎないものである。
そうしてみると、前記相違点2に係る「機体を後退させた後、ヒッチフレーム(5)を上昇させ」る作業手順によってヒッチフレームに作業機を連結することは、当業者が適宜行う常套手段にすぎない。

c.まとめ
そうしてみると、本件発明と引用考案との間には実質上の構成の差異を認めることができず、また、本件発明の奏する作用効果に引用考案との格別顕著な差異を認めることができないので、本件発明と引用考案とは同一である。
したがって、本件発明は、当該特許出願の日前の実用新案登録出願であって、当該特許出願後に出願公開がされた上記実願昭62-31017号(実開昭63-138004号公報参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面(引用例1)に記載された考案と同一であると認められ、しかも、その考案をした者が本件発明の発明者と同一の者であるとも、本件特許出願の時において、その特許出願人が上記他の実用新案登録出願の出願人とが同一の者であるとも認められないから、本件発明についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

d.特許権者の主張について
特許権者は、特許異議意見書において、本件発明と引用考案との差異について概略次のように主張する。
(イ)『先願当初明細書1(「引用例1」を参照)には、そのヒッチフレーム(F)に耕耘作業機(I)を連結する具体的な連結方法、並びに前後の応答レバー(30)とセンサーレバー(58)が係合する具体的なタイミングが何等、記載されていません。』
(ロ)『先願当初明細書1のもの(「引用考案」を参照)は、前述のようにトラクター機体(T)を後退させて耕転作業機(I)を連結するものではなく、寧ろ第3図の状態から耕伝作業機(I)を、そのロータリーフロントカバー(47)と挟持プレート(25)が接当しないように配慮しながらヒッチフレーム(F)側に向けて人力によって回動させ、そして、それによってピン受け入れ凹溝(26)に連結ピン(45)を納めるものである、と解するのが相当です。また、先願当初明細書1のものは、ヒッチフレーム(F)から耕転作業機(I)を取り外す場合にも上記とは逆の方法によって人力により耕転作業機(I)を取り外さなければならず、結局、先願当初明細書1のものは、耕転作業機(I)の着脱の際、操縦者がトラクター機体(T)から降りて耕耘作業機(I)の着脱、並びにセンサーワイヤ一(29)とセンサーロッド(60)との連繋を人力によって行わなければなりませんから、その労力と共に迅速な着脱を望めないものです。』
(ハ)『ところが、本件発明は、その明細書及び図面に記載する通り、作業機連結準備状態を示す側面図である【図2】の状態から、ヒッチフレーム(5)の上部の被連結部(13)が、作業機(10)の前方側へ延出した上部の連結部(30)の下方に臨む位置迄、トラクタを後退させた後へトラクタを停止させて油圧装置(47)を介して作動するリフトアーム(4)によってヒッチフレーム(5)を上昇させると、先ずヒッチフレーム(5)の上部の被連結部(13)が作業機(10)の上部に設けた連結部(30)と係合します。そして、そのままさらにヒッチフレーム(5)を上昇させると、作業機(10)は持ち上げられながら上部の連結部を中心に下部側が前方となるヒッチフレーム(5)側に回動し、それにより作業機(10)の主フレームの両側から前方へ延出した下部の連結部(27)がヒッチフレーム(5)の下部の被連結部(15)と係合して、作業機(10)がヒッチフレーム(5)に連結されるのであり、この際にヒッチフレーム(5)の下部の被連結部(15)がメインカバー(23)と接当する虞がないことは作業機(10)が上部の連結部を中心に下部側が規定の円弧を描いて前方側に回動することから防げるものであり、その点に関する操縦者の配慮は全く不要となります。』
しかしながら、特許権者の前記主張は、次の理由により採用できない。
(イ)の主張について:具体的な連結手段及び係合する具体的なタイミングに関する本件発明の前提となるトラクタの構成が、引用例1に実質的に記載されていることは、前記〔a.一致点・相違点〕に前述したとおりである。
また、トラクタ機体と作業機との連結作業での、機体を後退させた後ヒッチフレームを上昇させる作業手順が、当業者に自明の事項であって、本件発明特許出願時の周知慣用技術であるから、本件発明のようなヒッチフレーム(F)に耕耘作業機(I)を連結する際の具体的な連結方法は、当業者が適宜行う常套手段にすぎないものであることは、前記〔b.相違点についての判断 (2)相違点2について〕に前述したとおりである。
(ロ)の主張について:特許権者の(ロ)の主張における「ヒッチフレーム(F)と耕転作業機(I)との着脱作業を人力によりすること」は、引用例1に記載されていない事項であるから、特許権者の(ロ)の主張は、根拠がない。
(ハ)の主張について:本件特許請求の範囲の請求項1には、特許権者の(ハ)の主張における「作業機(10)は持ち上げられながら上部の連結部を中心に下部側が前方となるヒッチフレーム(5)側に回動し、」及び「ヒッチフレーム(5)の下部の被連結部(15)がメインカバー(23)と接当する虞がないことは作業機(10)が上部の連結部を中心に下部側が規定の円弧を描いて前方側に回動することから防げるものであり、」が構成要件として記載されてないから、特許権者の(ハ)の主張は、本件発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された構成要件に基づく主張ではない。

三、むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-03-26 
出願番号 特願平9-167947
審決分類 P 1 651・ 161- Z (A01B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 大森 陽一番場 得造高橋 三成西田 秀彦  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 佐藤 昭喜
渡部 葉子
登録日 2001-01-19 
登録番号 特許第3151421号(P3151421)
権利者 三菱農機株式会社
発明の名称 トラクタにおける作業機連結装置  

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