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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  G10H
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G10H
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  G10H
管理番号 1059600
異議申立番号 異議2001-73219  
総通号数 31 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-11-27 
確定日 2002-06-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第3171588号「楽音再生装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3171588号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 [1] 本件発明
本件特許第3171588号の発明(平成2年5月21日出願、平成13年3月23日設定登録。以下、「本件発明」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。
「【請求項1】音源手段(15)、音楽データ記憶手段(12)、楽譜情報インターフェイス手段(13)、音源データインターフェイス手段(14)、制御手段(11)とを備えた楽音再生装置であって、
音楽データ記憶手段(12)は、音楽データ(21)を記憶し、
音楽データ(21)は、楽譜情報(21a)と、音源データ識別子(21c)と、当該音源データ識別子(21c)に対応した音源手段(15)に登録されていない楽器の音源データ(21b)とから構成され、
音源手段(15)は、予め登録された楽器の音源データ及び登録されていない楽器の音源データの再登録可能な部分を有し、楽譜情報(21a)を音源データに基づいて楽音信号に変換して出力し、
楽譜情報インターフェイス手段(13)は、音楽データ記憶手段(12)から読み出された音楽データ(21)中の楽譜情報(21a)を受け取り、
音源データインターフェイス手段(14)は、音楽データ記憶手段(12)から読み出された音楽データ(21)中の音源データ(21b)を受け取り、
制御手段(11)は、音楽データ記憶手段(12)から音楽データを読み出し、当該音楽データ中の楽譜情報(21a)を楽譜情報インターフェイス手段(13)を介して音源手段(15)に入力して、予め音源手段(15)に登録された楽器の音源データ(21b)に基づいて楽譜情報(21a)を楽音信号に変換して出力し、さらに、音楽データ記憶手段(12)から読み出した音楽データ中に音源データ識別子(21c)を検出した時、その音楽データ中の当該検出された音源データ識別子(21c)に対応した楽器の音源データ(21b)を音源データインターフェイス手段(14)を介して音源手段(15)に登録し、その登録された音源データ(21b)に基づいて、楽譜情報インターフェイス手段(13)を介して入力された楽譜情報(21a)を楽音信号に変換して出力させるように制御する楽音再生装置。」

[2] 申立ての理由の概要
申立人和田悦子は、証拠として甲第1号証(特願平1-171618号(特開平3-36597号公報)、平成元年7月3日出願、平成3年2月18日公開)を提出し、本件特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるので、特許を取り消すべき旨主張している。また、同申立人は、本件明細書の記載では、本件特許発明の技術的構成が不明確であり、課題を解決することができるのか当業者に理解することができないので、第36条第3項又は第4項第1号若しくは第2号に規定する要件を満たしていないので、特許を取り消すべき旨主張している。

[3] 第29条の2の甲第1号証記載の発明
当審において通知した取消しの理由で引用した甲第1号証には、「音色データと自動演奏データが記録されている記録媒体を用いて、音色データに対応する音色で、自動演奏データに基づく自動演奏を行うことが可能な自動演奏装置」(甲第1号証第2頁左上欄12〜16行)について記載されている。
甲第1号証には、上記自動演奏装置における「自動演奏時の動作」について、
「CD制御部102はそのスイッチ操作信号により自動演奏曲1の自動演奏開始の指示がなされた旨を検出する。・・・CD-MIDI105のプログラム・エリア500の所定領域に記録されている自動演奏曲データの読み出しが行われる。また、CD制御部102は、CD-MIDIスタートスイッチの操作を検出すると自動演奏スタート信号を楽器制御部201に出力する。・・・楽器制御部201は、・・・そのMIDIメッセージを順次自動演奏メモリ212に書き込んでいく。楽器制御部201は自動演奏用メモリ212内に自動演奏曲データ1の全てのMIDIメッセージの書き込みを終了すると、次に自動演奏メモリ212から、順次MIDIメッセージを読み出し、そのMIDIメッセージに基づいて自動演奏を行う。楽器制御部201は、自動演奏メモリ212からまずサンプリング命令S1を読み出すと、CD制御部102に対して「サンプリング命令」及び「サンプリング音の先頭フレーム番号」を送出すると共に、音色制御回路204に対して「プログラム・ナンバ」を送り、その「プログラム・ナンバ」に対応するサンプル音のサンプリングメモリ203内の格納領域を指示する。・・・CD制御部102は、・・・サンプル音データをCD-MIDI105のオーディオデータ303の記録域から読み出させ、・・・楽器制御部201は、・・量子化されたサンプル音のサンプリングデータを順次サンプリングメモリ203の対応する記憶領域に書き込む。楽器制御部201は、続いて自動演奏メモリ212からプログラム・チェンジP1を読み出し・・・プログラム・チェンジP1によりサンプリングメモリ203内に格納されている複数の音色データの中から1つの音色データが指定される。・・・さらに、続けて楽器制御部201はノート・オンno1のMIDIメッセージを読み出して、・・・上記動作により、ノート・オンno1のMIDIメッセージにより、そのMIDIメッセージのノート・ナンバに対応する音高の楽音が、・・・指定される音色で発生され、スピーカ211から外部に放音される。」(甲第1号証14頁右上欄8行〜16頁右下欄7行)と記載されている。

[4] 本件発明と甲第1号証記載の発明との対比・判断
本件発明と甲第1号証に記載された発明とを対比する。
甲第1号証に記載された発明において、「CD-MIDI」「自動演奏データのノートオン/オフ及び音長制御命令」「音色データ」「サンプリングメモリと音色制御回路と音階制御回路とノートオン/オフ制御回路とエンベロープ制御回路とD/A変換器とLPF」「サブコード信号処理回路と楽器制御部と自動演奏メモリ」「オーディオデータ信号処理回路とD/A変換器とLPF111とLPF214とA/D変換器」は、それぞれ本件発明の「音楽データ記憶手段」「楽譜情報」「音源データ」「音源手段」「楽譜情報インターフェイス手段」「音源データインターフェイス手段」に相当している。
しかし、本件発明の「制御手段」は、「音楽データ記憶手段から音楽データを読み出し、当該音楽データ中の楽譜情報を楽譜情報インターフェイス手段を介して音源手段に入力して、予め音源手段に登録された楽器の音源データに基づいて楽譜情報を楽音信号に変換して出力し、さらに、音楽データ記憶手段から読み出した音楽データ中に音源データ識別子を検出した時、その音楽データ中の当該検出された音源データ識別子に対応した楽器の音源データを音源データインターフェイス手段を介して音源手段に登録し、その登録された音源データに基づいて、楽譜情報インターフェイス手段を介して入力された楽譜情報を楽音信号に変換して出力させるように制御する」ように動作している。
これに対して、甲第1号に記載された発明において、異議申立人が本件発明の「制御手段」に対応すると主張する「CD制御部及び楽器制御部」について検討する。
上記甲第1号証の「自動演奏時の動作」の記載によれば、「制御手段」に対応する「CD制御部及び楽器制御部」は、まず、「音楽データ記憶手段」に相当する「CD-MIDI」から音楽データを読み出し、当該音楽データ中の楽譜情報を、「楽譜情報インターフェイス手段」に相当する「サブコード信号処理回路と楽器制御部と自動演奏メモリ」のうちの「自動演奏メモリ」に一旦書き込み、全ての楽譜情報の書込が終了すると、次に、「自動演奏メモリ」から、まず、「音源データ識別子」に対応する「サンプリング命令」を検出すると対応した楽器の「音源データ」に相当する「サンプル音」を、「音源データインターフェイス手段」に相当する手段を介して、「音源手段」に相当する「サンプリングメモリと音色制御回路と音階制御回路とノートオン/オフ制御回路とエンベロープ制御回路とD/A変換器とLPF」のうちの「サンプリングメモリ」に登録し、その後、楽器制御部の制御により、自動演奏が行われるものである。
してみれば、甲第1号証の制御手段に対応するとされる「CD制御部及び楽器制御部」の動作は、本件発明の「制御手段」の動作と異なるものである。
特許権者が、「本件発明では、所望の音色データを自動演奏開始前に予め音色データ記憶手段に格納させておく必要はなく、演奏中に音楽データインターフェイス手段(「音楽データ記憶手段」の誤記)から読み出した音楽データ中に音源データ識別子を検出した時、その音楽データ中の当該検出された音源データ識別子に対応した音源データを音源データインターフェイス手段を介して音源手段に登録し、その登録した音源データに基づいて、楽譜情報インターフェイス手段を介して入力された楽譜情報を楽音信号に変換して出力させるように制御することが出来るものであります。」(異議意見書7頁14〜20行)と述べるように、本件発明の制御手段は、音楽データを読み出し楽音再生を制御する制御手段に関し、実質的に自動演奏中の制御をその特徴とするものである。
よって、甲第1号証に記載された発明は、上記特徴を有するものではなく、また、上記特徴は甲第1号証の記載から自明ではない。しかも、上記特徴により、本件発明は、明細書記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。

[5] 記載不備について
[5-1] 申立人は、「本件発明は、『楽音の再生演奏に対して不自然さなどの何らの支障をも発生させずに、これ(即ち「異なる種類の各楽器の音源データについて、これらを演奏中に伝送する」)を行うことは、極めて困難である』点を解決することをその課題にしているが、本件特許明細書に記載された程度の内容からでは、何故この課題が解決可能であるのか理解できない。」と主張しているので、これについて検討する。
本件発明は、楽譜情報を受け取る楽譜情報インターフェイス手段とは別に、音源データを受け取る音源データインターフェイス手段を並列に設けることを特徴とするものであるので、これにより一般的に容量が大きい音源データも並列してスムーズに送れ、可及的に不自然さのない楽音を再生して演奏し得るもので、上記課題を解決するものである。
[5-2] 申立人は、「本件特許発明の構成においては、『音源装置』及び『音色の音源データ』が明確に定義されていない。また、発明の詳細な説明の項に、『音源データ』を『登録し直しながら楽音信号として出力』や『登録させながら再生する』と記載されていることについて、どのような音源データをどのようにして登録しながら再生するのか全く不明である。音源データが音色パラメータを指定する方式の場合、全ての音色パラメータを確定しない限り、所望の音色が形成される保証はない。再生時に何らかの支障が発生し、本件特許発明の課題は解決することができない。音源データが波形メモリ方式の場合、音源データの登録が完了するまでは、特定ピッチに固定されているものであれば可能としても、所望の音高で楽音信号を再生することは不可能であり、本件特許発明の課題は解決することができない。」と主張しているので、これについて検討する。
本件の発明の詳細な説明の項の、「音源データ」を「登録し直しながら」及び「登録させながら」出力するとの記載は、自動演奏開始前でなく、楽音再生中に、音源データを登録しているこを表現しているものであり、本件発明は、音源データインターフェイス手段が並列して設けられているから、楽音信号を再生しながら、例えば次の楽音信号を再生するための音源データを登録するものと、発明の詳細な説明の記載の内容からみて、当業者であれば、理解できる。
したがって、申立人の上記主張は妥当ではない。

[5-3] 申立人は、「発明の詳細な説明には、『音源データを登録し直しながら楽音信号として出力』すると記載されているが、この記載は特許請求の範囲の『登録された音源データに基づいて』とした特許請求の範囲の構成要件と齟齬しており、本件特許発明の具体的構成を明りょうに把握することができない。」と主張しているので、これについて検討する。
「登録し直しながら」出力することは、特許請求の範囲に記載された発明の一実施例として記載されているものであり、矛盾するものでなく、特許請求の範囲に記載された発明は、それ自体明確であり、また具体的構成を明りょうに把握できる。
してみれば、発明の詳細な説明の項には、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、本件発明の発明の目的、構成及び効果が記載されており、特許請求の範囲の記載には、発明の詳細な説明に記載した特許を受けようとする発明の構成に欠くことが出来ない事項のみが記載されており、何ら記載不備はない。
よって、本件発明は、第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしている。

(6) むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明の特許を取り消すことはできない。また、他に本件の特許を取り消すべき理由を発見しない
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-05-21 
出願番号 特願平2-130640
審決分類 P 1 651・ 531- Y (G10H)
P 1 651・ 16- Y (G10H)
P 1 651・ 534- Y (G10H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 南 義明  
特許庁審判長 谷川 洋
特許庁審判官 小林 秀美
橋本 恵一
登録日 2001-03-23 
登録番号 特許第3171588号(P3171588)
権利者 ブラザー工業株式会社
発明の名称 楽音再生装置  
代理人 山本 尚  

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