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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) H02P
管理番号 1060336
審判番号 無効2000-35088  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1982-01-18 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-02-15 
確定日 2002-06-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第1482773号発明「電動機駆動用インバ-タ装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1482773号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
特許第1482773号に係る発明についての出願は、昭和55年6月18日に出願され、昭和63年6月14日に出願公告され、平成1年2月27日にその特許についての設定登録がされ、その後、富士電機株式会社からその特許の無効の審判が請求されたものである。
2.請求人主張の無効理由
請求人主張の無効理由の概略は次のとおりのものである。
(1)特許請求の範囲に記載されている「前記電流検出手段の検出電流値に基づいて前記電圧指令の瞬時値を補正する電圧指令補正手段」との構成では、本件明細書の従来技術に記載してある「電圧指令信号に応じてインバータの出力電圧(基本波分の瞬時値)を制御する方式に共通した問題」が解決できていなのであるから、本件明細書に記載された本件発明の特有の効果を奏すべき発明の「構成」が記載されているとはいえず、また、特許請求の範囲には「前記誘導電動機と前記電圧形インバータの前記出力電流による電圧降下を補償するように」と記載されているだけであって、どのように「電圧降下を補償するか」の具体的手段は一切記載されていないのであるから、本件特許発明は特許法36条4項の規定に違反してなされたもので、本件特許は特許法123条1項3号の規定により無効とされるべきものである。
(2)本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法29条1項3号に該当し、本件特許は特許法123条1項1号の規定により無効とされるべきものである。
(3)本件特許発明は、甲第2号証に記載された発明と同一であるから、特許法29条1項3号に該当し、本件特許は特許法123条1項1号の規定により無効とされるべきものである。
(4)本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に該当し、本件特許は特許法123条1項1号の規定により無効とされるべきものである。
3.当審の判断
まず、無効理由(2)について検討する。
3-1.本件発明
本件特許発明は、出願公告された明細書(以下、本件明細書という。)の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである(以下、本件発明という。)
「(A)周波数と振幅とが変化する電圧指令に基づいて出力を可変電圧可変周波数に制御する電圧形インバータにより誘導電動機の速度を制御する電動機駆動用インバータ装置において、
(B)前記インバータの出力電流を検出する電流検出手段と、
(C)前記誘導電動機と前記電圧形インバータの前記出力電流による電圧降下を補償するように前記電流検出手段の検出電流値に基づいて前記電圧指令の瞬時値を補正する電圧指令補正手段と
(D)を備えたことを特徴とする電動機駆動用インバータ装置。」
なお、上記記載において符号(A)乃至(D)は以後の検討の便宜のため付したものであり、以下、順次構成要件(A)乃至(D)という。
3-2.引用例発明
「制御変換装置研究会資料(資料番号PCCー78-6)交流機のトランスベクトル制御 鈴木幹二・中野孝良・原力・柳瀬孝夫」(社)電気学会(甲第1号証、以下、引用例という。なお、甲第1号証が本件出願前の昭和53年3月7日に国立国会図書館に受け入れられたものであることは甲第26号証(国立国会図書館所蔵図書館資料に関する証明書)から明らかである。)に、「次に端子電圧を求めると v1α=(バーR12+PLσ)i1α-ドットφ2Lσ・i1β-バーR2/M´・ψ´2α (3.23) v1β=(バーR12+PLσ)i1β+ドットφ2Lσ・i1α+ωr・M´/M´+l´2・φ´2α (3.24) こゝでR12=バーR1+(M´/M´+l´2)2R´2、バーR2=(M´/M´+l´2)2R´2 Lσ={(M´+l´1)(M´+l´2)-M´2}/(M´+l´2) α軸即ち回転磁界の角速度ドットφ2は(3.17)式より求まる。ドットφ2=ωr-R´2/φ´2α・i´2β (3.25)・・・電圧制御形電力変換装置より給電される場合には(3.23)(3.24)式の電圧を端子に印加せねばならないので、このまゝでは励磁分電流とトルク分電流が完全に分離されない。そこでi1α(*)、i1β(*)、ψ2α、ωr、を入力としてv1α(*)、v1β(*)を出力とし(3.23)(3.24)の関係をもたせた回路を外部に追加することにより、分離化を行うことが出来る。この具体例は次章に述べる。・・・かご形誘導電動機のトランスベクトル制御システムの具体例を電圧制御形電力変換装置から給電される場合について以下説明する。第6図参照 トランスベクトル制御では回転子磁束ベクトルを正確に把えることが重要である。固定子にホール発電素子を配設し直接検出する方法(5)、サーチコイルを設け出力電圧を積分する方法(6)などが考えられるが、ここでは実用性の高い電圧・電流から演算する方法を示している。固定子磁束φ1は固定子電圧電流よりψ1=(v1-R1i1)dt (太字はベクトル。以下同じ) (4.1) (3.1)式でφ2=0とした固定子座標系での鎖交磁束の式(固定子側換算) ψ1=(M´+l1)i1+M´i2 (4.2) ψ2=M´i1+(M´+l´2)i2 (4.3) より回転子電流i2を消去して、回転子磁束が固定子座標量ψ2d、ψ2qとして求められる。ψ2d、ψ2qはベクトルアナライザVAで、ベクトルの分解及び合成に必要なベクトルの位相と磁束制御に必要な磁束の絶対値|ψ2|に分解される。固定子電流iu、iv、iwは一且三相ー二相変換され、i1d、i1qとした後、ベクトル回転器VDにより励磁分電流iM(=i1α)と、トルク分電流iT(=i1β)に分解される。ベクトル回転器は(3.6)式の動作を行う座標変換器であり、回転マトリックスの要素に回転子磁束ベクトルの位相を必要とする。分離された励磁分電流iM及びトルク分電流iTは直流量であり、それぞれ別個の電流調節器ACR1、2で設定値iM*、iT*と比較、偏差増巾され必要な電流操作量i1α(*)、i1β(*)を形成する。電流調節器の外側には直流レオナードで採用されていると同様に速度調節器、磁束調節器をおき、それぞれの出力を前記電流調節器の設定値とする制御ループを構成することも出来る。磁束調節器にはベクトルアナライザの出力|ψ2|を実際値として帰還する。これらの調節器動作は入出力とも直流量であり、広い周波数にわたって精度のよい直流増巾器を使用することができる。電力変換装置が電圧制御形の場合には、電動機内での励磁分電流とトルク分電流との干渉を補償するため、電流ー電圧変換器を使うのが適当である。要求される励磁分電流i1α、トルク分電流i1βに対し、印加すべき端子電圧v1α、v1βは(3.23)(3.24)式で求められるから、回転子角速度ωr、磁束|ψ2|、iα(*)、iβ(*)を入力として電圧ー電流変換器で電圧操作量v1α*、v1β*を演算する。v1α*、v1β*は回転磁界座標量であるので、再び実際に操作する三相の固定子座標量に変換しなければならない。まずv1α(*)、v1β(*)はベクトル回転器VDにより固定子二相量v1d*、v1q*に変換され、更に二相ー三相変換器により三相電圧に変換される。ここで用いられるベクトル回転器は、ベクトル分解で用いたものと同じ構成であり、たゞ入出力端子を入替えたものである。電力変換装置は操作入力量に従い、電動機にvu、vv、vwを印可する。この電圧は、回転子磁束ベクトルを基準にして、適切な大きさと位相関係に保たれているから、電動機内部で再び励磁分電流i1αとトルク分電流i1βに相互に干渉なく、電流調節器出力i1α(*)、i1β(*)に相応して分離形成される。この結果、かご形誘導電動機は直流電動機の場合と同様、速い応答と良好なダンピング特性で運転されることが出来る。」(6-5頁2行乃至6-7頁1行)と記載されていることが認められ、また、第6図には、かご形誘導電動機のトランスベクトル制御システム構成図が示されており、これらによれば引用例には、「(A´)周波数と振幅が変化する電圧指令に基づいて出力を可変電圧可変周波数に制御する電圧形電力変換装置によりかご形誘導電動機の速度を制御する電圧形電力変換装置において、(B´)電圧形電力変換装置の出力電流を検出し、三相ー二相変換してi1d、i1qとした後、励磁分電流iMとトルク分電流iTに分解するベクトル回転器と、(C´)前記励磁分電流iM、トルク分電流iTと励磁分電流設定値iM*、トルク分電流指令値iT(*)とをそれぞれ加算して磁束分電流調節器ACR1、トルク分電流調節器ACR2へ入力し、該磁束分電流調節器ACR1、トルク分電流調節器ACR2から出力されるα軸(磁束軸)電流指令値i1α(*)、β軸(トルク軸)電流指令値i1β(*)と、回転子角速度ωr及び磁束|ψ2|を入力として演算式v1α=(バーR12+PLσ)i1α-ドットφ2Lσ・i1β-バーR2/M´ψ´2α 、v1β=(バーR12+PLσ)i1β+ドットφ2Lσ・i1α+ωr・M´/M´+l´2・φ´2αに基づいてα軸(磁束軸)電圧指令値v1α*、β軸(トルク軸)電圧指令値v1β*を演算する電流ー電圧変換器I/V、(D´)とを備えたかご形誘導電動機駆動用電力変換装置。」との発明(以下、引用例発明という。)が開示されていると認めることができる。
なお、上記記載において、符号(A´)乃至(D´)は以後の検討の便宜のために付したもので、以下、順次構成要件(A´)乃至(D´)という。
3-3.対比・判断
まず、本件発明で使用されている用語の技術上の意義について検討するに、本件発明が構成要件(C)で規定する「電圧降下」がどのような要因による電圧降下であるかにつき何ら限定するものでないが、本件発明が対象とする誘導電動機において電圧降下として、一次抵抗による電圧降下、一次漏れインダクタンスによる電圧降下、二次抵抗による電圧降下、二次漏れインダクタンス、励磁リアクタンスによる電圧降下が存在することは当業者の技術常識とするところであり、また、このことは本件明細書に、「ベクトル制御方式にもいくつか方式があるが、電圧制御形変換器(電圧指令に比例して出力電圧の瞬時値を遅れなく制御できる変換器)を用いる場合は、電動機の一次電流のトルク作用分と励磁電流分とに応じて、前者については電動機のすべき周波数(インバータの出力周波数)を、後者については出力電圧の大きさを制御する方法を採用するのが、制御回路の構成が簡略化される等の理由で適している。〔発明が解決しようとする課題〕しかし、この方式にも1つの問題がある。それは、電圧指令信号に応じてインバータの出力電圧(基本波の瞬時値)を制御する方式に共通した問題ではあるが、電動機の一次インピーダンス(抵抗)降下の影響により、電動機の誘起々電力と端子電圧(インバータ出力電圧)の関係が大きさおよび位相において一致しなくなり、このとき前述の各一次電流成分の独立制御が困難になることである。特に低周波運転時において一次抵抗降下の影響が大である。本発明の目的は、一次抵抗降下の影響を補償し特に低速運転時における制御特性を改善した電動機駆動用インバータ装置を提供することである。」(2欄7行乃至3欄5行)、「一次周波数が高い場合は、第3図aに示すように負荷の大小にかかわらずE1と励磁電圧E0の位相差が小さいので、前述のようにして電流成分検出器9によりI1αとI1βと検出できる。第3図cは、この場合の等価回路である。しかし、1次周波数が低い場合は、第3図bに示すように一次抵抗降下によりr1Iが誘起々電力に比べ大きくなるので、E1とE0の位相差が大きくなり、I1αとI1βを精度よく検出することが難しくなる。これを防止するため、電流検出器8の信号が加算器19〜21に加えられる。添加信号は一次抵抗降下に相当しており、」(7欄17行乃至29行)、「前記実施例では、加算器19〜21により一次抵抗降下の影響のみを補償するようにしたが、一次漏れリアクタンス降下についても同時に補償できる。」(8欄16行乃至19行)、「なお、二次漏れリアクタンス降下の影響についても、一次漏れリアクタンスと同様にして補償可能である。」(8欄26行乃至29行)と記載されているところでもある。 そうすると、本件発明の構成要件(C)の記載の限度では、本件発明の「電圧降下」には一次抵抗による電圧降下のみならず、一次漏れインダクタンスによる電圧降下、二次抵抗による電圧降下、二次漏れインダクタンスによる電圧降下、励磁リアクタンスによる電圧降下も含まれると解するのが相当である。
また、構成要件(C)で規定する「瞬時値」は「電圧や電流などのように、時間とともに変化する量のある時刻(瞬間)における値.」(甲第13号証、「電気工学用語辞典」電気工学用語辞典編集委員会編 発行技報堂出版株式会社 517頁「瞬時値」の項)と定義されるのであるから、これによれば同じく構成要件(C)の「前記電圧指令の瞬時値」は電圧指令の時々刻々の値を意味するものと解され、さらに、この「前記電圧の瞬時値」は「電圧指令補正手段」で補正され、構成要件(A)で規定する「電圧形インバータ」の電圧指令とされるものであること、すなわち信号の入出力関係の観点から換言すれば、電圧指令補正手段で補正された電圧指令の瞬時値が該電圧指令補正手段から出力されて電圧形インバータに入力されるものであることは特許請求の範囲の記載に照らして明らかである。
ところで、発明の新規性の判断の前提として、本件発明と引用例発明との対比に当たり、引用例発明の構成を、その技術的意義ないしは機能面に従って、本件発明の構成と対比することが可能となる限度で抽象化、一般化できることは当然のことである。
そこで、上記を前提にして本件発明の各構成要件(A)乃至(D)と引用例発明の各構成要件(A´)乃至(D´)との異同について検討する。
(1)構成要件(A)、(A´)について
本件発明の構成要件(A)と引用例発明の構成要件(A´)とを対比すると、引用例発明の「電圧形電力変換装置」が本願発明の「電圧形インバータ」に相当し、また、本件発明が誘導電動機としてどのような態様のものを使用するかにつき何ら限定するものではなく、引用例発明のようなかご形誘導電動機をも包含するのであるから、そうすると、本件発明の構成要件(A)は引用例発明の構成要件(A´)と同じものというべきである。
(2)構成要件(B)、(B´)について
引用例発明の構成要件(B´)のベクトル回転器は、インバータの出力電流として検出された電流が、三相ー二相変換された後の電流を回転座標系の励磁分電流iM、トルク分電流iTとして、同じく回転磁界座標系の励磁分電流設定値iM*、トルク分電流指令値iT(*)と比較し必要とすべきα軸(磁束軸)電流指令値i1α(*)、β軸(トルク軸)電流指令値i1β(*)を形成するために直流量に分解するものである。他方、本件発明はインバータの出力電流を検出する電流検出手段につきどのような態様のものであるか何ら限定するものではないから、本件発明との対比の限度では、引用例発明のベクトル回転器は、本件発明の電流検出手段に相当するということができ、そうすると、本件発明の構成要件(B)は引用例発明の構成要件(B´)と同じものというべきである。
(3)構成要件(C)、(C´)について
引用例発明の構成要件(C´)は、前示のとおり「前記励磁分電流iM、トルク分電流iTと励磁分電流設定値iM*、トルク分電流指令値iT(*)とをそれぞれ加算して磁束分電流調節器ACR1、トルク分電流調節器2へ入力し、該磁束分電流調節器ACR1、トルク分電流調節器2から出力されるα軸(磁束軸)電流指令値i1α(*)、β軸(トルク軸)電流指令値i1β(*)と、回転子角速度ωr及び磁束|ψ2|を入力として演算式v1α=(バーR12+PLσ)i1α-ドットφ2Lσ・i1β-バーR2/M´ψ´2α 、v1β=(バーR12+PLσ)i1β+ドットφ2Lσ・i1α+ωr・M´/M´+l´2・φ´2αに基づいてα軸(磁束軸)電圧指令値v1α*、β軸(トルク軸)電圧指令値v1β*を演算する電流ー電圧変換器I/V」というものである。
かかる構成要件中励磁分電流iM、トルク分電流iTが、前示(2)で検討したように本件発明の構成要件(C)の「前記電流検出手段の検出電流値」に相当するものである。
ところで、引用例発明の前記構成要件(C´)の印加すべき端子電圧の演算式V1α、V1βの右辺第1項の(バーR12+PLσ)i1α及び(バーR12+PLσ)i1βはそのバーR12が一次抵抗値と二次抵抗値の一次換算値とを合算したものを意味し、また、Lσが一次漏れインダクタンスと二次漏れインダクタンスの一次換算値とを合算したものを意味するものということができ、かかる右辺第1項は電流i1α、i1βに依存して生じる一次抵抗、一次漏れリアクタンス、二次抵抗、二次漏れリアクタンスによる電圧降下を演算することを意味し、そして印加すべき端子電圧v1α、v1βはこの電圧降下の演算値と右辺第2項と二次磁束φ´2αに依存する誘起々起電力とを合算したものであるから、電流ー電圧変換器に入力される電流i1α(*)、i1β(*)が電流検出手段の電流検出値iM、iTと設定値iM*、iT(*)との比較、偏差増幅された電流であるとしても、本件発明との対比の限度では引用例発明の電流ー電圧変換器も本件発明と同様に電流検出手段の検出電流値に基づいて電圧降下分を考慮し、α軸(磁束軸)電圧指令値、β軸(トルク軸)電圧指令値を演算出力しているものということができる。
もっとも、引用例発明は電圧降下の影響を「補償」すること、電圧指令を「補正」することにつき文言として明記するところはないが、しかしながら、甲第19号証(「富士時報」第47巻第2号昭和49年)「可変周波数制御電動機の概要」(56頁乃至61頁)に「誘導機の磁束は一次電機子電圧あるいは電流に含まれる励磁電流成分によって作られるので、磁束を一定に保つためには一次電機子電圧あるいは電流を負荷状態に応じて調整する必要がある。その方法として、一次電機子電圧を供給周波数に比例させる方法がもっとも簡単で良く知られているが、電動機の内部インピーダンス降下分だけ供給電圧を高く選んでおかなければならない。これを補うためには電流を加味して内部誘起起電力を演算する方法もある。」(57頁10行乃至19行)、「電流形インバータによる誘導電動機の運転(FRENIC2000)」(62頁乃至67頁)に「本方式は、誘導電動機の回転速度が一次電機子に供給される周波数にほぼ比例し、空隙磁束が式(3)式に示すように内部誘起起電力と供給周波数の比、すなわち近似的に一次電機子端子電圧と供給周波数との比に比例することに着目しこの比を一定に保つようにしたもので、その制御系の構成は第10図に示すようにスリップ制御方式に比べて簡単になる。一次電機子端子電圧(インバータ出力電圧)と供給周波数との関係は電動機のインピーダンスによる電圧降下の分だけ若干電圧を高くする。」(65頁右欄7行乃至16行)と記載されているように、引用例の頒布時において誘導電動機の内部インピーダンスによる電圧降下分だけ供給電圧を高くしておく必要があることは当業者の技術常識として認識されていたものということができ、このことを基礎に前示引用例発明の印加すべき端子電圧の演算式に接すればその右辺第1項において電圧降下を演算しているのは誘導電動機と電圧形インバータの一次抵抗、一次漏れリアクタンス、二次抵抗、二次漏れリアクタンスによる電圧降下の影響を補償するため、電圧指令を補正するとするのが当業者の自然な解釈ということができる。
また、引用例は「瞬時値」について「電動機発生トルクの瞬時値」(6-1頁11行)と記載するのみで、電圧の瞬時値に関し明記するところはないが、しかしながら、電動機発生トルクを瞬時値として取り扱っているのであるから電動機発生トルクに関係する励磁分電流及びトルク分電流も瞬時値として取り扱い、この電流を決定するインバータ出力電圧も瞬時値として取り扱っていると解するのが自然であり、このことは、引用例発明の前示演算式が端子電圧と一次電流を微分方程式として誘導し、演算していることからもいえることである。
そうすると、引用例発明の前記演算式に基づいてα軸(磁束軸)電圧指令値v1α*、β軸(トルク軸)電圧指令値v1β*を演算する電圧ー電流変換器は電圧指令の瞬時値を補正する機能を備えた補正手段ということができ、そして、かかる指令値v1α*、v1β*はベクトル回転器(VD(+))で2相交流量(v1d*、v1q*)に、2相ー3相変換器(2φ/3φ)で電圧形インバータに対する電圧指令に変換されるのであるから、結局電圧形インバータに対する電圧指令の瞬時値を補正する電圧指令補正手段ということができるのである。
そうであれば、本件発明の構成要件(C)と引用例発明の構成要件(C´)は同じものというべきである。
(4)構成要件(D)、(D´)について
本件発明の構成要件(D)は、構成要件(A)乃至(C)を備えた電動機駆動用インバータ装置を規定するものであるが、前示のとおり本件発明の構成要件(A)乃至(C)は引用例発明の構成要件(A´)乃至(C´)と同じものであるから、結局本件発明の構成要件(D)は引用例発明の構成要件(D´)と同じものである。
したがって、本件発明は引用例発明と同じものである。
3-4.被請求人の主張について
(1)被請求人は、本件特許請求の範囲においては、「前記電圧指令の瞬時値を補正する電圧指令補正手段」と記載されており、これによって電圧指令補正手段の補正対象、すなわち入力信号が「前記電圧指令」であることが規定されており、そもそも「補正」とは「おぎないただすこと」であり、補正対象を補い正しいものとすることを意味するものであるから、補正対象となる補正前のもの、つまり本件特許発明において補正の対象となる補正前の電圧指令があることを当然の前提としていることは明らかである旨主張する。
しかしながら、本件特許請求の範囲において、「前記電圧指令の瞬時値を補正する電圧指令補正手段」の前記電圧指令として規定されているのは「周波数と振幅とが変化する電圧指令」のみであって、この電圧指令が電圧インバータを制御するための入力信号となることは、「周波数と振幅とが変化する電圧指令に基づいて出力を可変電圧可変周波数に制御する電圧形インバータ」との記載から明らかである。
そして、本件特許請求の範囲の記載自体明確であり、本件発明の解釈に当たり、明細書の他の記載を参酌しなければならない事情が存在するものということもできない。
そうすると、本件発明においては電圧指令補正手段から出力された電圧信号、すなわち、電圧形インバータに入力される信号が電圧指令補正手段においてその瞬時値が補正されていれば足りるとの趣旨で規定されていると解するのが相当で、電圧補正指令手段に入力される信号は電圧指令のみならず、引用例発明のような電流指令も包含されることになるのである。
したがって、被請求人の上記主張は理由のないものである。
(2)被請求人は、引用例発明の技術課題は「交流機のトランスベクトル制御」において「制御変数諸量を線形化して制御する」もので、また、引用例発明は速度零付近では適用不可能な技術であり、このように、本件発明と引用例発明とは、技術的課題及びその適用範囲が全く相違するものであるから、甲第1号証の第6図に示されたシステム構成図に適用されている発明と本件発明とは異なる発明であることは明らかである旨主張する。
ところで、特許法29条1項3号で規定する要件の判断、すなわち、本件発明が頒布された刊行物に記載された発明であるか否かの判断(発明の同一性の判断)は、本件発明の各構成要件と引用例発明の各構成要件とを対比し、それらの異同を検討して足りるのであって、必ずしも本件発明、引用例発明の技術的課題を介在させて検討しなければならないというものではない。
被請求人の上記主張は、本件発明が、電圧指令補正手段で補正の対象となるのは補正前の電圧指令であること、加算器により補正を行うものであること、を根拠とするものと解されるが、しかしながら、本件発明が、電圧指令補正手段で補正の対象となるのが補正前の電圧指令であること、加算器により補正を行うものであることを何ら限定するものでないことは本件明細書の特許請求の範囲の記載に照らして明らかであり、そして、かかる特許請求の範囲の記載の限度では、電圧指令補正手段の技術的意義は、インバータに入力される電圧指令の瞬時値(電圧指令補正手段から出力される電圧指令の瞬時値)を補正するものと解するのが相当(電圧指令補正手段に入力される信号は電流も含まれる。)であり、このことを前提として本件発明の各構成要件と引用例発明の各構成要件との異同を判断すれば、前示のとおり本件発明は引用例発明と同一の発明といわざるを得ないのである。
そうであれば、仮に、被請求人が主張するように引用例発明が低速運転時には適用できないものであるとすれば、本件発明もまた低速運転に適用できないものというべきである。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。
(3)被請求人は、本件発明は「検出電流に基づいて電圧指令の瞬時値を補正する」ものであるから、ここで問題とする「瞬時」とは、検出電流の検出時点と、電圧指令の補正時点の瞬時性を問題としていることは明らかであり、本件特許発明の従来例でも採用していた偏差増幅器による補償ではなく、加算器による補正を採用したものであると主張する。
しかしながら、本件発明の「電圧指令補正手段」が加算器であるとする限定がなされていないことは特許請求の範囲の記載に照らして明らかであり、また、「瞬時」が検出電流の検出時点と電圧指令の補正時点の瞬時性を問題としていると解さなければならない合理的理由も存在しない。
したがって、被請求人の上記主張は理由のないものである。
(4)被請求人は、引用例発明においては、負荷トルクが増えて電動機電流(トルク分電流iT)が増加した場合、トルク分電流iTは負荷トルクの増加にほぼ比例して増加し、電動機速度は減速することになるが負荷の慣性があるために電動機電流の変化に比べてゆっくりした変化で減速し、これら電動機速度の変化と電動機電流の変化とは、速度実際値の信号nとトルク分電流iTとしてフィードバックされそれぞれの突き合わせ点で設定値n*、iT*から減算されること(速度制御部の動作)、速度制御ループでは速度設定値n*から速度実際値の信号nが減算されてその偏差が増幅され信号Te*となり、この信号Te*は磁束|φ2|で割り算されるが、磁束|φ2|に対する電流の変化の影響は磁束|φ2|の演算過程で積分演算が介在するので電流の変化に対しゆっくりした変化になっており、結局トルク分電流設定値iT*がトルク分電流iTの変化に対しゆっくりとした変化をする信号として得られること(速度制御ループ)、これらの偏差がACR2で増幅され電流操作量i1β(*)となるがトルク分電流設定値iT*(速度偏差によりゆっくりと増加する)とトルク分電流iTの変化は、トルク分電流iTの変化の方が3倍以上急な変化をし(内部にマイナー制御ループを持つカスケード制御では、マイナー制御ループの応答速度はメインの制御ループの応答速度より速くないと制御としては成り立たないので少なくとも3倍以上速くする必要があることは制御理論の教えるところである)、その減算結果である電流操作量i1β(*)は減少する信号となり、この減少する電圧操作量i1β(*)をもとに電流ー電圧変換器I/Vで電圧操作量v1α*、v1β*が式(3.23)、(3.24)に基づいて演算されるのであるから、その演算結果は実際の電動機電流の変化と逆の変化をする電圧操作量v1α*、v1β*を出力することになり実際の電動機の電圧変化に合わないこと、を根拠に引用例発明の電流ー電圧変換器で演算された電圧操作量v1α*、v1β*は電圧降下を補償できないものである旨主張する。
被請求人の上記主張は要するに、引用例発明において負荷トルクが増大した場合直ちに電動機電流が増大するというものであるが、かかる主張は引用例発明の前示演算式の右辺第3項である誘起々電力に該当する項の存在を考慮していないものというべきである。
すなわち、引用例発明においては、負荷トルクが増加した場合、その直後の状態では、電動機では、電動機電流と電動機インピーダンス(一次抵抗R1、二次抵抗R´2、漏れインダクタンスl1、l´2、相互インダクタンスM´)による電圧降下が発生しつつ電動機速度が低下し、これに伴って誘起々電力が下がり、他方、制御装置では検出した磁束|φ2|と速度nと負荷トルクが増大する前の状態の電流操作量i1α(*)、i1β(*)が電流ー電圧変換器I/Vに入力されて、電流ー電圧変換器I/Vでは式(3.23)、(3.24)に基づき端子電圧を演算することになる。式(3.23)、(3.24)の右辺第1項と第2項は電流操作量が変化していないので一定量となり、また、電動機に一定の磁束を発生させるために一定の励磁電流を流している状態であるから磁束は不変なため式(3.23)の右辺第3項は一定量となり、さらに式(3.24)の右辺第3項(電動機速度に比例した誘起々電力に該当する項)は速度nと磁束|φ2|の積となるので速度が低下した分減少し、インバータの出力電圧は減少する。その結果、電動機電圧とインバータ電圧が平衡するので電動機電流に変化はなく電動機発生トルクも不変となり、負荷トルクが増加した直後においては、電流調節器ACR2への設定入力(トルク電流指令)iT*に殆ど変化がないので、検出値(トルク分電流)iTも変化しないから電流操作量i1β(*)が減少することはないと解され、すなわち、引用例発明において負荷トルクが増加した場合は、負荷トルクが増加したことで直ちにトルク分電流iTは増大するものではなく、電動機速度を速度設定値どおりに維持するトルクを電動機に発生させるために、トルク電流指令値iT*(ASR出力)を増大させACR2及び電流ー電圧変換器によりインバータ出力電圧を増大させ電動機トルクを増大させ、その結果、始めてトルク分電流iTは負荷トルクの増加にほぼ比例するように増加することになるものと解することができ、また、この認定を左右するに足りる他の証拠もない。
したがって、被請求人の上記主張は理由のないものである。
(5)被請求人は、引用例発明では、励磁分電流設定値iM*から励磁分電流iMを差し引いた電流操作量i1α(*)は、励磁分電流iMが励磁分電流設定値iM*より3倍以上速い速度で変化するので、電流操作量i1β(*)の変化と同様、実際の電動機の励磁分電流変化方向とは逆方向の変化をするから、電流操作量i1α(*)に基づいて演算された電圧操作量v1α*、v1β*も電圧降下を補償できないものである旨主張する。
しかしながら、引用例は、前示のとおり負荷トルクが増大しても直ちに電流が増大することはなく、また、適切な磁束指令φ2*を与えるための励磁分電流設定値iM*となるように電流調節器ACR1が動作し、電流ー電圧変換器I/Vで適切な電流操作量i1α(*)を流すための端子電圧が演算され、この電圧電動機を駆動するので、磁束φ2は磁束指令φ2*が変更されない限り変わらないのであるから、被請求人の上記主張は理由のないものである。
4.むすび
以上のとおりであるから、無効理由(1)、(3)及び(4)について検討するまでもなく、本件特許は特許法29条1項3号の規定に違反してなされたものであるから、同法123条1項1号の規定により無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-03-29 
結審通知日 2002-04-03 
審決日 2002-04-26 
出願番号 特願昭55-81427
審決分類 P 1 112・ 113- Z (H02P)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田良島 潔  
特許庁審判長 大森 蔵人
特許庁審判官 菅澤 洋二
紀本 孝
登録日 1989-02-27 
登録番号 特許第1482773号(P1482773)
発明の名称 電動機駆動用インバ-タ装置  
代理人 中村 稔  
代理人 大塚 文昭  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 辻居 幸一  
代理人 平山 孝二  
代理人 箱田 篤  
代理人 竹内 英人  
代理人 西島 孝喜  
代理人 中村 守  
代理人 小川 信夫  
代理人 村社 厚夫  
代理人 今城 俊夫  
代理人 作田 康夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 井坂 光明  
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