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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05D
管理番号 1060424
審判番号 不服2001-6591  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-09-11 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-04-25 
確定日 2002-06-19 
事件の表示 平成 9年特許願第 39452号「直流モータ駆動アクチュエータの動作量推定方法」拒絶査定に対する審判事件[平成10年 9月11日出願公開、特開平10-240350]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年2月24日の出願であって、平成12年12月26日に拒絶理由が通知され、平成13年3月27日に拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。
2.本件手続補正について
2-1.前記平成13年4月25日付の手続補正(以下、本件手続補正という。)は、補正前明細書の特許請求の範囲の請求項の記載を補正書の請求項1乃至請求項8記載のとおり補正し、また、補正前明細書の段落【0007】乃至【0014】の記載及び段落【0048】並びに段落【0049】の記載を補正書の段落【0007】乃至【0014】の記載及び段落【0048】並びに【0049】の記載のとおり補正しようとするものであり、特に、補正書の請求項1に係る発明(以下、補正発明という。)は次のとおりのものである。
「直流モータからアクチュエータの負荷への駆動力の伝達を、負荷側への駆動力の伝達は可能で、負荷側から駆動力の伝達は遮断することにより、直流モータ非通電時におけるアクチュエータの動作量を保持する機能を持たせた伝達機構を介して行い、アクチュエータの動作量を増加させる方向の極性の電力を供給して直流モータを駆動するとき、駆動電力の継続時間に対応して動作量が増加するように推定し、アクチュエータの動作量を減少させる方向の極性の電力を供給して直流モータを駆動するとき、駆動電力の継続時間に対応して動作量が減少するように推定する直流モータ駆動アクチュエータの動作量推定方法であって、前記アクチュエータは、自動車のスロットルバルブ調整用に設けられたものであり、直流モータへの駆動電力の継続時間と推定するアクチュエータの動作量との対応関係を、該スロットルバルブの特性に基づき、駆動電力の極性毎に変えることを特徴とする直流モータ駆動アクチュエータの動作量推定方法。」
2-2.そこで、補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2、5項において準用する同法126条4項の規定に適合するか)について検討する。
2-2-1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭56-145784号公報(以下、引用例1という。)に、「本発明は電動機によつて回転される被駆動体の回転を位置決め制御する装置に関する。電動機を動作させて、これにつながる被駆動体をある角度θにする場合、電動機の回転角と通電時間との関係は比例関係にある。故に動かしたい角度θに相当する時間だけ電動機を通電すれば良い。」(1頁左欄16行乃至右欄2行)、「次に上述した本発明の装置の動作を詳述する。電動機1を正、負方向のどちらか一方のみに動かす場合の通電時間と電動機1の回転角との関係は通常の電動機では第3図に示す特性になつている。すなわち、通電時間TをT1時間通電すれば、電動機1の回転軸1aの回転角θは角度θ1だけ回転し、T2時間通電すれば、θ2だけ回転する。このことからT1、T2に対し、θ1、θ2は比例関係にあり、正、負ともその大きさは同じである。この特性の電動機1を第4図および第5図に示すような時間で動作させる場合を考える。第4図は周期τの間にT1、次の周期τの間にT2時間だけ同方向に通電する。第5図では周期τの間に正方向にT1、次の周期τの間に負方向にT2時間通電するものである。そのときの電動機1の回転の様子を第6図および第7図に示す。第6図は第4図に示す通電時の動作で、T1でθ1、T2でθ2回転し、合計でθ1+θ2の角度だけ電動機1は回転する。第7図は第5図に示す通電時の動作で、1周期目はT1時間だけ正方向に、次の周期τの間にT2だけ負方向に回転するように方向切換器8および接続器3、4が動作する。この場合に、第2図に示す通電時間変更器10がなく、通電時間決定器9からの通電時間信号9aが直接方向切換器8に入つてT1、T2時間通電すると、第7図に示す特性Aに示すように、あるむだ時間Lの間はバックラッシュで電動機1は回転しないので、回転角はθz´にしかならない。バックラッシュのない状態では、電動機1は第7図に示す特性Bのような動きをし、その回転角はθzになる。そこで第7図に点線で示す特性Cの部分の回転角Δθ(=θz-θz´)に相当する時間ΔTだけ方向が反転したときは、余分に通電する必要がある。この時間ΔTの決定は方向記憶器11によつて行なわれる。」(2頁左下欄3行乃至右下欄17行)と記載されていることが認められる。
引用例1は、第7図に示す特性Aに関し前示のとおり「あるむだ時間Lの間はバックラッシュで電動機1は回転しないので、」(2欄右下欄9行乃至10行)と説明するが、しかしながら、引用例1の「しかし、現実には、電動機負荷のリンクのガタやたわみ、経年変化により、電動機における通電時間に対する回転角度の特性は変化する。さらに正から負方向へ、または負から正方向へと回転方向が変化した場合には、ガタの影響が大きく現われ、同一方向に回転する場合よりも動きは悪くなる。」(1頁右欄2行乃至8行)との記載、「マグローヒル科学技術用語大辞典第2版」(株式会社日刊工業新聞社発行 1994年2月8日 1280頁)の「バックラッシ backlash『工学』1.ゆるみによって起こる機械部品間の相対運動.2.ダイヤルによって制御を行うさい、右回転である目盛位置に合わせた場合と、左回転で同じ目盛位置に合わせた場合とで、被制御量に生じる誤差.」との説明を参酌すればむだ時間(バックラッシュ)はモータと被駆動体との間に存在し、このむだ時間の間回転しないのは被駆動体であるとするのが当業者の自然な解釈というべきで、そうすると、引用例1の前示各記載及び第4図乃至第7図に示された通電時間と回転角度の関係を示す特性図によれば、引用例には「モータから被駆動体への駆動力の伝達を行い、被駆動体の動作量を増加させる方向の極性の電力を供給してモータを駆動するとき、駆動電力の継続時間に対応して動作量が増加するように推定し、被駆動体の動作量を減少する方向の極性の電力を供給してモータを駆動するとき、駆動電力の継続時間に対応して動作量が減少するように推定するモータ駆動被駆動体の動作量推定方法であって、モータへの駆動電力の継続時間と推定する被駆動体の動作量との対応関係を、被駆動体の特性(バックラッシュ)に基づき、駆動電力の極性毎に変えるモータ駆動被駆動体の動作量推定方法。」との発明(以下、引用例1発明という。)が開示されていると認めることができる。
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-16701号公報(以下、引用例2という。)に、「第9図は従来のボリウム装置の構成図である。91は操作つまみ、92は軸、93は可変抵抗器、931は可変抵抗器93の接点、94は電動モータ、95はウオームギア、96はスリップ機構付ウオームホイールである。第9図のボリウム装置において、操作つまみ91、軸92、可変抵抗器93の3点で手動でボリウム操作のできる基本的なボリウム装置が構成でき、電動モータ94、ウオームギア95、スリップ機構付ウオームホイール96によって軸92に回動トルクを与えることにより電動モータ94からのウオームギア96への回転力がスリップ機構付ウオームホイール96を介して可変抵抗器93へ伝わり可変抵抗器93の接点931が回動してボリウム位置が可変となす構成となっている。」(2頁右上欄16行乃至左下欄10行)と記載されていることが認められる。
2-2-2.対比・判断
請求項1の記載からは、補正発明がその発明特定事項の一とする「アクチュエータ」の意味するところ、及び「直流モータ」、「伝達機構」との関連が必ずしも明らかとはいえず、この点について、本願明細書の「スロットルバルブ2の軸4には、さらにプーリ7が設けられ、ケーブル8を介してアクチュエータ1からの出力が伝達される。アクチュエータ1は、クルーズコントロールのためのクルーズコンピュータ9によって駆動される。アクチュエータ1には駆動力源として直流(以下「DC」と略称する)モータ10が備えられる。DCモータ10は、クルーズコンピュータ9の駆動回路によってスイッチング制御され、直流電圧のパルス出力が断続的に供給される。DCモータ10の回転駆動力の出力軸には、ウオーム11が装着される。」(8頁25行乃至9頁2行)との記載、及び【図1】に示されたDCモータ10、アクチュエータ1、ウオーム11、ウオームホイール12の関連態様を参酌すれば、本願発明において負荷を駆動するのは「アクチュエータ」であって、該「アクチュエータ」は直流モータを駆動力源として備え、この直流モータの駆動力を負荷に伝達する伝達機構を含んだものと解するのが相当で、そして、引用例1の頒布時においてモータを用いて被駆動体を駆動するのに歯車等の伝達機構を介在させることは当業者が技術水準として認識していることで、引用例1発明のモータと被駆動体との間にもかかる伝達機構が存在するものと解することができ(伝達機構が存在する発明が記載されているに等しいということができ、このように解しても引用例1発明の目的に反するものでもない。)、そうであれば、補正発明との対比の限度では引用例1発明にもアクチュエータが存在するものといえる。
そこで、補正発明と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「被駆動体」は、補正発明の「負荷」に相当するから、両者は「モータからアクチュエータの負荷への駆動力の伝達を、伝達機構を介して行い、アクチュエータの動作量を増加させる方向の極性の電力を供給してモータを駆動するとき、駆動電力の継続時間に対応して動作量が増加するように推定し、アクチュエータの動作量を減少する方向の極性の電力を供給してモータを駆動するとき、駆動電力の継続時間に対応して動作量が減少するように推定するモータ駆動アクチュエータの動作量推定方法であって、モータへの駆動電力の継続時間と推定するアクチュエータの動作量との対応関係を、該負荷の特性に基づき、駆動電力の極性毎に変えるモータ駆動アクチュエータの動作量推定方法。」の点で一致し、(1)補正発明のモータが直流モータであって、駆動力の伝達を、負荷側への駆動力の伝達は可能で、負荷側からの駆動力は遮断することにより、直流モータ非通電時におけるアクチュエータの動作量を保持する機能を持たせた伝達機構を介して行うのに対し、引用例1発明はかかる発明特定事項を備えていない点、(2)補正発明のアクチュエータが自動車のスロットルバルブ調整用に設けられ、負荷がスロットルバルブであるのに対し、引用例1発明はかかる発明特定事項につき記載するところがない点、で相違する。
そこで、前記各相違点について検討する。
A.相違点(1)について
引用例1発明はモータとしてどのような種類のモータを使用するのか明示するものではないが、モータに対する通電は補正発明と同様に通電、非通電を繰り返し、これによってアクチュエータの動作量を推定するものであるから、モータに対する非通電時には何らかの手段を講じて前回通電時のアクチュエータの位置を記憶ないし保持する態様を備える必要があること、そして、その態様として例えば本願明細書に従来例として、「スロットルバルブの開度を知るためには、センサなどを設けて実際の開度を検出するか、アクチュエータの駆動にステッピングモータを用いて、駆動パルス数に応じて開度が容易に推定可能となるようにすることが一般的である。」(3頁8行乃至10行)と記載されているようにモータとして通電していないときも保持トルク(ステッピングモータであればロータ磁石により生じる保持トルク)によりその位置を保持できるモータを採用して足りること、は当業者が容易に理解できることである。
ところで、本願明細書の「DCモータ10の回転駆動力の出力軸には、ウオーム11が装着される。ウオーム11は、ウオームホイール12と噛み合ってウオーム歯車を構成しており、ウオーム11側からの駆動力はウオームホイール12に伝達されるけれども、ウオームホイール12からウオーム11への駆動力の伝達は遮断される。」(9頁1行乃至5行)との記載によれば、補正発明の相違点(1)にかかる発明特定事項中、「負荷側への駆動力の伝達は可能で、負荷側からの駆動力は遮断することにより、直流モータ非通電時におけるアクチュエータの動作量を保持する機能を持たせた伝達機構」はウオームとウオームホイールとで構成されるウオーム歯車をその実施の形態とするものであるところ、前示のとおり、引用例2にはモータの出力軸にウオームを設けこのウオームと噛み合うウオームホイールによってウオーム歯車を構成し、これによって駆動力を伝達するという補正発明の前示実施の形態と同様の形態が示されている。
もっとも、引用例2のウオームホイールはスリップ機構付である点、モータの駆動力はボリウム装置の可変抵抗器の接点の回動に用いられるものである点で補正発明とは異なるものであるが、しかしながら、引用例2がウオームホイールにスリップ機構を付加したのは、引用例2がウオーム歯車を介在させてモータの駆動力でボリウム装置を操作するに加えてボリウム装置を手動でも操作するという発明の目的に応じて、手動で操作した場合にその駆動力がモータ側に伝達されないようにするためであって、手動で操作する必要がない場合に当然にスリップ機構は除外されることになり、そして、引用例2に示されているウオーム歯車を介在させてモータの駆動力を伝達するという構成が、引用例2のようなボリウム装置の可変抵抗器の接点の回動にしか利用できないとする技術的理由が存在するものではなく、さらに、直流モータ自体は周知のモータであって、この直流モータとウオーム歯車の組み合わせが困難であるとする事情も存在しないのであるから、そうすると、補正発明の相違点(1)にかかる発明特定事項は当業者が容易に想到できたものというべきである。
B.相違点(2)について
引用例発明はモータへの駆動電力の継続時間と推定するアクチュエータの動作量との対応関係をバックラッシュ(審決注:サーボ系において非線形負荷として代表的なものである。)に基づいて駆動電力の極性毎に変えるというものであり、また、被駆動体がどのようなものであるのか何ら限定するものではないが、自動車のスロットルバルブにおいても非線形負荷が存在することは容易に予測できることであり、そして、アクチュエータを自動車のスロットバルブ調整用として設けること、したがってアクチュエータの負荷をスロットルバルブとすることは、本願明細書で従来例として引用する特開平8-48171号公報にも記載されているように周知の技術であるから、そうすると、補正発明の相違点(2)にかかる発明特定事項は当業者が容易に想到できたものというべきである。
そして、補正発明が奏する「以上のように本発明によれば、非通電時には自己保持機能のない直流モータで駆動するようなアクチュエータであっても、負荷側からの駆動力を遮断する機能を持たせた伝達機構を介して駆動力が伝達されるので、動作量を保持することができる。したがって、駆動電力の供給時には、継続時間に対応してアクチュエータの動作量の増加または減少を行い、アクチュエータの動作量を精度よく推定することができる。ステッピングモータに比較すれば小形かつ高出力で低価格の直流モータを使用し、フィードバック系を用いない簡単な構成で高精度の推定を行うことができる。」(段落【0047】)との作用効果も引用例1、引用例2及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
2-3.むすび
以上のとおり、補正発明は、引用例1、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件手続補正は、特許法159条1項で準用する特許法53条1項の規定により却下されるべきものである。
3.本願発明
本願発明は、平成13年2月23日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載されたものであるところ、請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を本願発明という。)は特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「直流モータからアクチュエータの負荷への駆動力の伝達を、負荷側への駆動力の伝達は可能で、負荷側からの駆動力の伝達は遮断することにより、直流モータ非通電時におけるアクチュエータの動作量を保持する機能を持たせた伝達機構を介して行い、アクチュエータの動作量を増加させる方向の極性の電力を供給して直流モータを駆動するとき、駆動電力の継続時間に対応して動作量が増加するように推定し、アクチュエータの動作量を減少する方向の極性の電力を供給して直流モータを駆動するとき、駆動電力の継続時間に対応して動作量が減少するように推定することを特徴とする直流モータ駆動アクチュエータの動作量推定方法。」
2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭56-145784号公報(以下、引用例1という。)に、「本発明は電動機によつて回転される被駆動体の回転を位置決め制御する装置に関する。電動機を動作させて、これにつながる被駆動体をある角度θにする場合、電動機の回転角と通電時間との関係は比例関係にある。故に動かしたい角度θに相当する時間だけ電動機を通電すれば良い。」(1頁左欄16行乃至右欄2行)、「次に上述した本発明の装置の動作を詳述する。電動機1を正、負方向のどちらか一方のみに動かす場合の通電時間と電動機1の回転角との関係は通常の電動機では第3図に示す特性になつている。すなわち、通電時間TをT1時間通電すれば、電動機1の回転軸1aの回転角θは角度θ1だけ回転し、T2時間通電すれば、θ2だけ回転する。このことからT1、T2に対し、θ1、θ2は比例関係にあり、正、負ともその大きさは同じである。この特性の電動機1を第4図および第5図に示すような時間で動作させる場合を考える。第4図は周期τの間にT1、次の周期τの間にT2時間だけ同方向に通電する。第5図では周期τの間に正方向にT1、次の周期τの間に負方向にT2時間通電するものである。そのときの電動機1の回転の様子を第6図および第7図に示す。第6図は第4図に示す通電時の動作で、T1でθ1、T2でθ2回転し、合計でθ1+θ2の角度だけ電動機1は回転する。第7図は第5図に示す通電時の動作で、1周期目はT1時間だけ正方向に、次の周期τの間にT2だけ負方向に回転するように方向切換器8および接続器3、4が動作する。この場合に、第2図に示す通電時間変更器10がなく、通電時間決定器9からの通電時間信号9aが直接方向切換器8に入つてT1、T2時間通電すると、第7図に示す特性Aに示すように、あるむだ時間Lの間はバックラッシュで電動機1は回転しないので、回転角はθz´にしかならない。バックラッシュのない状態では、電動機1は第7図に示す特性Bのような動きをし、その回転角はθzになる。そこで第7図に点線で示す特性Cの部分の回転角Δθ(=θz-θz´)に相当する時間ΔTだけ方向が反転したときは、余分に通電する必要がある。この時間ΔTの決定は方向記憶器11によつて行なわれる。」(2頁左下欄3行乃至右下欄17行)と記載されていることが認められる。
引用例1は、第7図に示す特性Aに関し前示のとおり「あるむだ時間Lの間はバックラッシュで電動機1は回転しないので、」(2欄右下欄9行乃至10行)と説明するが、しかしながら、引用例1の「しかし、現実には、電動機負荷のリンクのガタやたわみ、経年変化により、電動機における通電時間に対する回転角度の特性は変化する。さらに正から負方向へ、または負から正方向へと回転方向が変化した場合には、ガタの影響が大きく現われ、同一方向に回転する場合よりも動きは悪くなる。」(1頁右欄2行乃至8行)との記載、「マグローヒル科学技術用語大辞典第2版」(株式会社日刊工業新聞社発行 1994年2月8日 1280頁)の「バックラッシ backlash『工学』1.ゆるみによって起こる機械部品間の相対運動.2.ダイヤルによって制御を行うさい、右回転である目盛位置に合わせた場合と、左回転で同じ目盛位置に合わせた場合とで、被制御量に生じる誤差.」との説明を参酌すればむだ時間(バックラッシュ)はモータと被駆動体との間に存在し、このむだ時間の間回転しないのは被駆動体であるとするのが当業者の自然な解釈というべきで、そうすると、引用例1の前示各記載及び第4図乃至第7図に示された通電時間と回転角度の関係を示す特性図によれば、引用例1には「モータから被駆動体への駆動力の伝達を行い、被駆動体の動作量を増加させる方向の極性の電力を供給してモータを駆動するとき、駆動電力の継続時間に対応して動作量が増加するように推定し、被駆動体の動作量を減少する方向の極性の電力を供給してモータを駆動するとき、駆動電力の継続時間に対応して動作量が減少するように推定するモータ駆動被駆動体の動作量推定方法であって、モータへの駆動電力の継続時間と推定する被駆動体の動作量との対応関係を、被駆動体の特性(バックラッシュ)に基づき、駆動電力の極性毎に変えるモータ駆動被駆動体の動作量推定方法。」との発明(以下、引用例1発明という。)が開示されていると認めることができる。
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-16701号公報(以下、引用例2という。)に、「第9図は従来のボリウム装置の構成図である。91は操作つまみ、92は軸、93は可変抵抗器、931は可変抵抗器93の接点、94は電動モータ、95はウオームギア、96はスリップ機構付ウオームホイールである。第9図のボリウム装置において、操作つまみ91、軸92、可変抵抗器93の3点で手動でボリウム操作のできる基本的なボリウム装置が構成でき、電動モータ94、ウオームギア95、スリップ機構付ウオームホイール96によって軸92に回動トルクを与えることにより電動モータ94からのウオームギア96への回転力がスリップ機構付ウオームホイール96を介して可変抵抗器93へ伝わり可変抵抗器93の接点931が回動してボリウム位置が可変となす構成となっている。」(2頁右上欄16行乃至左下欄10行)と記載されていることが認められる。
4.対比・判断
請求項1の記載からは、本願発明がその発明特定事項の一とする「アクチュエータ」の意味するところ、及び「直流モータ」との関連が必ずしも明らかとはいえず、この点について、本願明細書の「スロットルバルブ2の軸4には、さらにプーリ7が設けられ、ケーブル8を介してアクチュエータ1からの出力が伝達される。アクチュエータ1は、クルーズコントロールのためのクルーズコンピュータ9によって駆動される。アクチュエータ1には駆動力源として直流(以下「DC」と略称する)モータ10が備えられる。DCモータ10は、クルーズコンピュータ9の駆動回路によってスイッチング制御され、直流電圧のパルス出力が断続的に供給される。DCモータ10の回転駆動力の出力軸には、ウオーム11が装着される。」(8頁25行乃至9頁2行)との記載を参酌すれば、本願発明において負荷を駆動するのは「アクチュエータ」であって、該「アクチュエータ」は直流モータを駆動力源として備え、この直流モータの駆動力を負荷に伝達する伝達機構を含んだものと解するのが相当で、そして、引用例1の頒布時においてモータを用いて被駆動体を駆動するのに歯車等の伝達機構を介在させることは当業者が技術水準として認識していることで、引用例1発明のモータと被駆動体との間にもかかる伝達機構が存在するものと解することができ(伝達機構が存在する発明が記載されているに等しいということができ、このように解しても引用例1発明の目的に反するものでもない。)、そうであれば、補正発明との対比の限度では引用例1発明にもアクチュエータが存在するものといえる。
そこで、本願発明と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「被駆動体」は、補正発明の「負荷」に相当するから、両者は「モータからアクチュエータの負荷への駆動力の伝達を、伝達機構を介して行い、アクチュエータの動作量を増加させる方向の極性の電力を供給してモータを駆動するとき、駆動電力の継続時間に対応して動作量が増加するように推定し、アクチュエータの動作量を減少する方向の極性の電力を供給してモータを駆動するとき、駆動電力の継続時間に対応して動作量が減少するように推定するモータ駆動アクチュエータの動作量推定方法。」の点で一致し、本願発明のモータが直流モータであって、駆動力の伝達を、負荷側への駆動力の伝達は可能で、負荷側からの駆動力は遮断することにより、直流モータ非通電時におけるアクチュエータの動作量を保持する機能を持たせた伝達機構を介して行うのに対し、引用例1発明はかかる発明特定事項を備えていない点で相違する。
そこで、前記相違点について検討するに、引用例1発明はモータとしてどのような種類のモータを使用するのか明示するものではないが、モータに対する通電は本願発明と同様に通電、非通電を繰り返し、これによってアクチュエータの動作量を推定するものであるから、モータに対する非通電時には何らかの手段を講じて前回通電時のアクチュエータの位置を記憶ないし保持する態様を備える必要があること、そして、その態様として例えば本願明細書に従来例として、「スロットルバルブの開度を知るためには、センサなどを設けて実際の開度を検出するか、アクチュエータの駆動にステッピングモータを用いて、駆動パルス数に応じて開度が容易に推定可能となるようにすることが一般的である。」(3頁8行乃至10行)と記載されているようにモータとして通電していないときも保持トルク(ステッピングモータであればロータ磁石により生じる保持トルク)によりその位置を保持できるモータを採用して足りること、は当業者が容易に理解できることである。
ところで、本願明細書の「DCモータ10の回転駆動力の出力軸には、ウオーム11が装着される。ウオーム11は、ウオームホイール12と噛み合ってウオーム歯車を構成しており、ウオーム11側からの駆動力はウオームホイール12に伝達されるけれども、ウオームホイール12からウオーム11への駆動力の伝達は遮断される。」(9頁1行乃至5行)との記載によれば、本願発明の相違点にかかる発明特定事項中、「負荷側への駆動力の伝達は可能で、負荷側からの駆動力は遮断することにより、直流モータ非通電時におけるアクチュエータの動作量を保持する機能を持たせた伝達機構」はウオームとウオームホイールとで構成されるウオーム歯車をその実施の形態とするものであるところ、前示のとおり、引用例2にはモータの出力軸にウオームを設けこのウオームと噛み合うウオームホイールによってウオーム歯車を構成し、これによって駆動力を伝達するという補正発明の前示実施の形態と同様の形態が示されている。
もっとも、引用例2のウオームホイールはスリップ機構付である点、モータの駆動力はボリウム装置の可変抵抗器の接点の回動に用いられるものである点で本願発明とは異なるものであるが、しかしながら、引用例2がウオームホイールにスリップ機構を付加したのは、引用例2がウオーム歯車を介在させてモータの駆動力でボリウム装置を操作するに加えてボリウム装置を手動でも操作するという発明の目的に応じて、手動で操作した場合にその駆動力がモータ側に伝達されないようにするためであって、手動で操作する必要がない場合に当然にスリップ機構は除外されることになり、そして、引用例2に示されているウオーム歯車を介在させてモータの駆動力を伝達するという構成が、引用例2のようなボリウム装置の可変抵抗器の接点の回動にしか利用できないとする技術的理由が存在するものではなく、さらに、直流モータ自体は周知のモータであって、この直流モータとウオーム歯車の組み合わせが困難であるとする事情も存在しないのであるから、そうすると、本願発明の相違点にかかる発明特定事項は当業者が容易に想到できたものというべきである。
そして、本願発明が奏する「以上のように本発明によれば、非通電時には自己保持機能のない直流モータで駆動するようなアクチュエータであっても、負荷側からの駆動力を遮断する機能を持たせた伝達機構を介して駆動力が伝達されるので、動作量を保持することができる。したがって、駆動電力の供給時には、継続時間に対応してアクチュエータの動作量の増加または減少を行い、アクチュエータの動作量を精度よく推定することができる。ステッピングモータに比較すれば小形かつ高出力で低価格の直流モータを使用し、フィードバック系を用いない簡単な構成で高精度の推定を行うことができる。」(段落【0047】)との作用効果も引用例1、引用例2及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
5.むすび
以上のとおり、本願発明は引用例1、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-03-29 
結審通知日 2002-04-09 
審決日 2002-04-25 
出願番号 特願平9-39452
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森林 克郎  
特許庁審判長 大森 蔵人
特許庁審判官 紀本 孝
栗田 雅弘
発明の名称 直流モータ駆動アクチュエータの動作量推定方法  
代理人 西教 圭一郎  

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