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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない F41B
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効としない F41B
管理番号 1060633
審判番号 無効2000-35389  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-09-13 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-07-18 
確定日 2002-05-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第2871583号発明「ガス圧力式玩具銃」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯
(1)設定登録に至る経緯と本件特許発明
本件特許は、平成5年5月17日に出願された特願平5-114605号(以下、「原出願」という)の一部を、特許法第44条第1項に規定する新たな特許出願とするとして、平成8年4月4日付で出願された特願平8-82168号に係り、その出願の審査過程において、平成10年5月29日付で拒絶理由が通知され、当該拒絶理由に対応して、平成10年8月3日付で手続補正された後、平成11年1月8日に、特許第2871583号として設定登録されたもので、本件特許発明は、上記手続補正に係る特許明細書における、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項によって特定される、次のとおりのものと認める。
【請求項1】「本体に弾倉部と、弾丸が供給される装弾室と、内部に摺動部材が配され、上記本体に対して移動可能とされた空間部形成部材と、上記本体に対して移動可能とされ、上記空間部形成部材を移動させる状態をとるスライダ部とが設けられ、
上記摺動部材が、上記空間部形成部材内に得られるガス圧により上記装弾室に供給された弾丸が銃身部内に移動せしめられることになる状態をとった後、該弾丸の銃身部内への移動により生じる上記空間部形成部材内におけるガス圧の低下に伴って位置が切り換えられ、上記スライダ部の後退及びその後の前進、及び、それに伴う上記空間部形成部材の移動が生じて、上記弾倉部からの弾丸が上記装弾室に送り込まれることになる状態をとることを特徴とするガス圧力式玩具銃。」(この請求項1に係る発明を、以下、「本件特許発明」という)
【請求項2】「本体に装着されるケースにガス導出口部が設けられるとともに、本体に設けられた空間部形成部材に該空間部形成部材の内部にガスを導入するガス導入口部が形成され、該ガス導入口部を介しての上記空間部形成部材の内部と上記ガス導出口部との連通状態が、上記ケースが上記本体に装着されることにより得られることを特徴とする請求項1記載のガス圧力式玩具銃。」
(2)本件審判請求以降の経緯
請求人は、上記本件各請求項の特許について、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求めて、平成12年7月18日付で無効審判請求書を提出した。
一方、被請求人は、平成12年10月17日付で、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める趣旨の答弁書を提出したが、これに対して請求人は、更に、平成13年2月20日付弁駁書(以下、「弁駁書」という)を提出している。

2.請求人の提出した証拠と主張の概要
(1)[請求人の提出した証拠]
甲第1号証の1:平成11年(ヨ)第22137号(差止仮処分命令申立事件)の申立書
甲第1号証の2:平成12年(ワ)第11906号(特許権侵害差止請求事件)の訴状
甲第1号証の3:平成12年(ヨ)第22048号(差止仮処分命令申立事件)の申立書
甲第2号証:本件特許に係る出願から特許査定に到る出願手続に係る書面
甲第3号証:特開平6-323786号公報(上記原出願についての公開公報)
甲第4号証:本件特許発明と原出願発明とに係る特許請求の範囲及び発明の詳細な説明を左右に並置した書面
(2)[請求人の主張の概要]
請求人は、上記甲第1号証の1〜3に示されるとおり、本件特許権に基づく差止仮処分や特許権侵害差止事件の当事者とされているので、本件特許についての利害関係を有するとし、本件特許を無効とすべき理由に関して、次のような主張をしている。
[主張A]上記請求項1に記載の本件特許発明では、摺動部材が、「弾丸が銃身部内に移動せしめられることになる状態をとった後」「空間部形成部材内におけるガス圧の低下に伴って位置が切り換えられ」るとされており、当該請求項1の記載によれば、摺動部材は、その位置の切り換えのために特段の部材を必要とすることなく、ガス圧の低下により、自動的に切り換えられると解されるが、発明の詳細な説明及び図面には、当該摺動部材の位置の切り換えのために、コイルスプリング28を用いた実施例のみが記載されており、コイルスプリング28が存在しない実施例は記載されていない。
したがって、当該コイルスプリング等、摺動部材の位置の切り換え部材について言及のない、本件請求項1及び2記載の発明は、「発明の詳細な説明に記載したもの」とはいえず、また、特許請求の範囲に「発明の構成に欠くことができない事項」が記載されていることにもならないから、本件特許は特許法(平成6年改正前)第36条5項1号及び2号の規定を満たしていない出願に対して特許されたことになるし、審査過程における平成10年5月29日付で通知された拒絶理由(甲第2号証参照)も解消されていない。
(審判請求書第2頁第10行〜第5頁第15行、弁駁書第10頁第16行〜第11頁第2行、同第13頁第22行〜第15頁第5行、同第16頁第12〜18行)
[主張B]また、被請求人は、上記の特許法第36条に係る拒絶理由は明細書の補正により解消されたと主張するが、当該補正は上記原出願(特願平5-114605号)の明細書に記載された事項の範囲内での補正ではないから、本件特許に係る出願は適法な分割出願ではなく、出願日の遡及が認められないことになるので、原出願に係る特許公開公報(甲第3号証)は、本件特許に係る出願より前に頒布された刊行物となり、本件特許に係る各発明は当該刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものである。(審判請求書第5頁第16行〜第6頁第5行、弁駁書第16頁第19行〜第17頁第25行)
請求人は、上記の[主張A]及び[主張B]に関連して、弁駁書において次の<イ>〜<ト>の各点を指摘している。(なお、弁駁書第15頁第6行〜第16頁第11行では、本件特許発明と甲第1号証1〜3に係る訴訟等との関連についての指摘もしているが、この指摘は上記の[主張A]及び[主張B]をはじめとして、本件特許の無効理由と直接関係するものではないので、本審判事件における検討の対象とはしない。)
<イ> 本件特許発明の構成要件とされる「空間部形成部材」とは、「空間部が内部に形成された空間しかない部材」の意味であって、原出願明細書記載の「可動部材54」は「ガス通路制御部25を含むことが明らか」であり、本件特許発明でいう「空間部形成部材」は「可動部材54と同一概念ではなく」、また、原出願の明細書に「空間部形成部材」という表現は存在しないから、上記明細書の補正は、上記原出願の明細書に記載された事項の範囲内での適法な補正ではない。
更に、本件特許明細書には、単一の実施例しか示されていないのに、「可動部54が空間部形成部材の一例をなす」とした、被請求人の主張には誤りがある。(弁駁書第3頁第16行〜第4頁第23行、同第8頁第26行〜第9頁第1行)
<ロ> 本件特許明細書【0023】末尾の「斯かるコイルスプリング28・・・押圧されるロッド26を有したガス通路制御部25は・・・摺動部材を形成している」という、摺動部材に関する記載は分割出願に際して新たに追加された事項であって、「原出願に存在しない」し、「摺動部材という意味不明の用語を分割出願に認める必要」もなく、「論理上、ガス通路制御部25は摺動部材の一例ではなく、唯一の実施例」であるから、被請求人の「ガス通路制御部25が摺動部材の一例をなす」という主張は誤っている。
また、上記イの「空間部形成部材」の構成と合わせて考えると、「空間の中で部材が摺動すれば弾丸の装填が行われる」ことになるが、このような発明は原出願の明細書に存在しない。(同第4頁第24行〜第6頁第18行、同第8頁第26行〜第9頁第1行)
<ハ> 被請求人は、本件特許明細書では「中央空間部20は可動部材54の内部に設けられており、また、ガス通路制御部25が、ロッド26と弁部材27とを含んで構成されていて、可動部材54の内部に設けられている」という事項(aの事柄)が記載されていることになると主張するが、原出願明細書では、ガス通路制御部25は、ロッド26と弁部材27とを含む他に、「コイルスプリング28によって、装弾室4a側に向けて付勢されている」と記載されているのであるから、当該「コイルスプリング28が欠落している」上記の事項は原出願明細書に記載されているとはいえない。(同第6頁第22行〜第7頁第15行)
<ニ> 原出願明細書(【0023】)によれば、「銃身2と弾丸BBとの間に生じる比較的小なる隙間を通じて銃身2内にガスが漏れ出し、弾丸BBの・・・移動が加速されるとともに、中央空間部20内におけるガス圧が低下する。」と記載されているが、このような説明は、紙鉄砲において、「紙がゆるければポトンと落ちる」ほどゆるい場合を想定したものかを明確にすべきである。(同第7頁第16行〜第8頁第5行)
<ホ> 被請求人は、「ガス圧の低下に伴って、ロッド26がコイルスプリング28の付勢力により前進」することは、「ガス圧の低下に伴ってロッド26が前進する」ことを含む旨主張するが、ガス圧の「低下に伴ってのみ、ロッド26が前進するものとなることはない」のだから、上記主張は意味不明である。
ロッドが前進するのは、A「ガス圧の低下」によるか、B「コイルスプリング28の付勢力」によるか、C「ガス圧の低下とコイルスプリング28の付勢力の両方」によるのか、「三つの内の一つ」であると考られ、被請求人の主張は、上記CがAを含むと言うのに当たるが、「それは本件の実施例ではコイルスプリング28の付勢力が必要なことを認めながら、請求項1には記載しなくても良いと矛盾する主張をしている」ことになる。したがって、被請求人が主張するような、「可動部材54内におけるガス圧の低下に伴って、その位置が切り換えられること」にはならない。(同第8頁第6〜25行)
<ヘ> 被請求人は、「ガス圧の低下に伴って」とは、ガス圧の低下を、摺動部材の位置が切り換えられる原因もしくは手段としてとらえているのではなく、「ガス圧の低下と時を同じくして」の意味である旨主張している。
しかし、そのような意味に解すべき記載は、本件特許明細書及び原出願の明細書のどちらにも存在しない。むしろ、本件特許明細書の【0028】〜【0030】、原出願明細書の【0023】や【0024】の記載によれば、「ガス圧の低下に伴って、ロッド26がコイルスプリング28の付勢力により前進する」ことが明記されており、「ガス圧の低下」と、摺動部材の「位置が切り換えられ」ることとは、「原因と結果の関係」とみるべきで、被請求人の上記主張に係る「(請求項でコイルスプリング28の付勢力に言及する必要がないとする)弁明を受け入れるべき事情はない」。(同第9頁第2行〜第10頁第15行)
<ト> 原出願明細書の【0013】の記載は、「中央空間部20、ガス通路制御部25、その付勢のための手段(28)、が可動部材54の内部にて有機的に結合し合っているということを意味している」が、この不可分の関係にある構成を、被請求人は、分割出願に際して「分散して記載し」、かつまた、上記イ、ロで指摘した「空間部形成部材及び摺動部材」という「造語を新たに導入し、夫々の観念を膨らませて」、「原出願には存在しない」「新発明を創作した」のであり、本件特許は不適法な分割出願に基づくものである。(同第11頁第3行〜第13頁第21行、第16頁第第19行〜第17頁第8行)

3.被請求人の提出した証拠と答弁の概要
一方、被請求人は、次の乙第1号証〜乙第5号証を提出すると共に、本件請求項1中に、摺動部材の位置切り換え手段については言及がないが、当該切り換えは、「実施例に記載されている如くのコイルスプリング28の付勢力等の何らかの手段によって」(答弁書第8頁第12〜13行)なされればよいのであって、請求人の主張には、何らの妥当性もなく、本件特許の有効性に影響を及ぼすものではない旨の主張をしている。
乙第1号証:本件特許に係る出願審査過程における平成10年5月29日付拒絶理由通知書
乙第2号証:乙第1号証の拒絶理由に対応して提出された手続補正書
乙第3号証:同じく意見書
乙第4号証:本件特許に係る出願の願書に最初に添付された明細書及び図面
乙第5号証:上記原出願(特願平5-114605号)の願書及び当該願書に最初に添付された明細書並びに図面

4.当審の判断
(1)先ず、請求人が上記の[主張A]及び[主張B]に関連して指摘した、上記<イ>〜<ト>の各点について検討する。
<イの点について> 請求人は、「空間部形成部材」とは、「空間部が内部に形成された空間しかない部材」の意味であるとするが、一切の物体を含まないもののみが「空間」であると限定すべき合理的な理由はない。そうすると、内部に「ガス通路制御部25」を含む空間部を「中央空間部20」とすることが不適切とはいえない。
一方、請求人が指摘するとおり、原出願明細書に「空間部形成部材」という表現は存在しないけれども、同明細書には「可動部材54は、その内部に、中央空間部20,中央空間部20から可動部材54の前端部に向かって伸びる弾丸発射用ガス通路21,・・・が設けられるとともに、ガス通路制御部25が設けられたものとされ・・・」(【0013】の冒頭)という記載があり、当該記載のとおり、内部に「中央空間部20」が設けられる「可動部材54」を「空間部形成部材」と称することは、原出願明細書に記載された事項の範囲を外れるものとはいえない。
また、「可動部材54」については、例えばその細部の形状等に関して、実施例として示されているものの他にも各種のものが想定できることは明らかであり、「可動部材54が空間部形成部材の一例をなす」とすることが「誤り」であるとはいえない。
<ロの点について> 「摺動」という用語は、特許関連の公報等の各文献において、例えば一方の部材が他方の部材に対して接触しながら移動していくような状態を表現する用語として、極めて一般的に使用されており、この用語が「意味不明」というには当たらない。そして、原出願明細書(【0013】)に「ガス通路制御部25は、弾丸供給用ガス通路22から中央空間部20を貫通して弾丸発射用ガス通路21内に伸びるロッド26と、ロッド26に嵌合せしめられて中央空間部20内に位置する弁部材27とを含んで構成され」、「ロッド26は、・・・コイルスプリング28によって・・・付勢され」、「弁部材27は、・・・ロッド26の移動に応じて弾丸発射用ガス通路21と弾丸供給用ガス通路22との間を移動せしめられ」るとされており、上記イの指摘に関してみたとおり、「ガス通路制御部25」は、中央空間部20を形成する「可動部材54」に対して接触しながら移動(即ち「摺動」)することになる。
したがって、「ガス通路制御部25が摺動部材を形成している」とすることが「原出願に存在しない」とはいえないし、「摺動部材」という「用語を分割出願に認め」ないとすることもできない。
更に、「ガス通路制御部25」も、先の「可動部材54」と同様に、例えば形状等に関して各種のものが想定できるから、請求人の「論理上、ガス通路制御部25は摺動部材の一例ではなく、唯一の実施例」とする指摘は妥当なものでなく、また、上記イの「空間部形成部材」の構成と合わせた場合の「空間の中で部材が摺動すれば弾丸の装填が行われる」ことになる発明が、「原出願の明細書に存在しない」という指摘が適切なものでないことも上述したところから明らかである。
<ハの点について> 上記イ及びロの各点についての検討でみたとおり、原出願明細書には、「可動部材54は、その内部に、中央空間部20,・・・が設けられるとともに、ガス通路制御部25が設けられ」、「ガス通路制御部25」は「ロッド26と、ロッド26に嵌合せしめられて中央空間部20内に位置する弁部材27とを含んで構成され」ること(【0013】)が明記されている。そうすると、被請求人が、本件特許明細書に記載されているとする、「中央空間部20は可動部材54の内部に設けられており、また、ガス通路制御部25が、ロッド26と弁部材27とを含んで構成されていて、可動部材54の内部に設けられている」という事項は、原出願明細書に開示されたとおりのものといえる。むしろ、「ガス通路制御部25」の構成部材として、「コイルスプリング28」に言及することは、原出願明細書記載の趣旨から外れるというべきであって、しかも、原出願明細書(【0012】)の「ガス通路制御部25におけるロッド26は」「コイルスプリング28によって」「付勢されている」という記載については、本件特許明細書(【0014】)においても、全く同様に記載されているのだから、本件特許発明では「コイルスプリング28が欠落している」とする指摘は妥当ではない。(なお、特許請求の範囲の請求項において、上記「コイルスプリング28」に相当するものの言及を欠くことの適否については、後述する<ホの点について>で検討する。)
<ニの点について> 本件特許発明と紙鉄砲とでは、玩具銃としての基本的な構造や弾丸の形状が全く相違しており、これらを同日に論じることは明らかに不適切であるし、「銃身2と弾丸BBとの間に生じる比較的小なる隙間」を具体的にどの程度のものとするかは、技術常識にしたがって、適宜設定できる設計事項である。
<ホの点について> 本件特許明細書(【0029】)及び原出願明細書(【0024】)の「中央空間部20内におけるガス圧の低下に伴って、ロッド26がコイルスプリング28の付勢力により前進する」という記載によれば、請求人が、ロッド前進の契機として挙げるA、B、Cの三要因(A「ガス圧の低下」、B「コイルスプリング28の付勢力」、C「ガス圧の低下とコイルスプリング28の付勢力の両方」)は、互いに排他的なものではなく、いずれも誤っているわけではないし、いずれの見方による発明も存在しうる。
したがって、ロッド前進の契機は、上記A、B、Cの「三つの内の一つ」に限定して考えるべき必然性がなく、「ガス圧の低下」もロッド前進の契機とみることが誤りとはいえない以上、「ガス圧の低下に伴って」摺動部材の「位置が切り換えられ」とすることも誤りとすることはできない。そうであれば、「(被請求人は)実施例ではコイルスプリング28の付勢力が必要なことを認めながら、請求項1には記載しなくても良いと矛盾する主張をしている」とする請求人の指摘は妥当なものとはいえない。
なお、ロッド26前進のために「コイルスプリング28の付勢力」を必要とすることは、本件特許発明のみならず、原出願の発明においても同様であるが、原出願のいずれの請求項においても、当該付勢力を与える手段について直接的な言及があるわけではない。
<ヘの点について> 既にみたとおり、「ガス圧の低下に伴って、ロッド26がコイルスプリング28の付勢力により前進する」のであるから、請求人が指摘するように、「ガス圧の低下」と、ロッド(摺動部材の一部)の「位置が切り換えられ」ることとは、「原因と結果の関係」とみることもできるのは当然であるが、「ガス圧の低下」とほぼ同時にロッドが前進することになるのも明らかであって、「ガス圧の低下と時を同じくして」ロッド26がコイルスプリング28の付勢力により前進すると解することも誤りとまではいえない。しかも、上記<ホの点について>で述べたとおり、「ガス圧の低下に伴って」という記載をいずれの意味に解するかは、請求項でコイルスプリング28の付勢力に言及する必要性の有無と直接的に関係することではない。
<トの点について> 「中央空間部20、ガス通路制御部25、その付勢のための手段(28)、が可動部材54の内部にて有機的に結合し合っている」という、請求人の指摘は、それ自体誤りではない。しかし、上記<ホの点について>で述べたとおり、ロッド前進の契機を、上記A、B、Cの「三つの内の一つ」に限定して考えるべき必然性がないところから、分割出願に際して、「ガス通路制御部25」を、「その付勢のための手段(28)」とは「分散して記載」することを否定すべき理由もない。
また、「空間部形成部材」及び「摺動部材」という用語は分割出願に伴って「新たに導入」された「造語」であるという指摘も誤りではないが、上記<イ>及び<ロ>の各点について検討したところから明らかなように、本件特許発明に関して、上記各用語の「夫々の観念を膨らませて、原出願には存在しない」「新発明を創作した」とするには当たらない。
(2)[主張A]について
請求人は、上記のとおり、「空間部形成部材内におけるガス圧の低下」のみを契機として摺動部材の位置が切り換えられる発明は、発明の詳細な説明や図面に開示がない旨の主張をしているが、「ガス圧の低下に伴って位置が切り換えられ」という記載を、ガス圧の低下により、摺動部材が特段の部材を必要とすることなく、自動的に切り換えられる意味と解すれば、そのような発明は、たしかに発明の詳細な説明に記載されていない。
しかし、上記請求項の記載に対応する発明の詳細な説明の記載(【0023】、【0029】)をみると、「このように装弾室4a内に装填された弾丸BBは、・・・ロッド26をコイルスプリング28の付勢力に抗する方向に押圧する。・・・斯かるコイルスプリング28の付勢力に抗する方向に押圧されるロッド26を有したガス通路制御部25は、可動部材54内に摺動自在に配された摺動部材を形成している。」「・・・ガス圧の低下に伴って、ロッド26がコイルスプリング28の付勢力により前進するものとなり」とされている(甲第2号証及び乙第4号証参照)。
これら発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明において、摺動部材の位置の切り換えの契機となる部材(実施例ではコイルスプリング28)が使用されることを明示すると共に、ガス圧の低下に伴って摺動部材の位置の切り換えが行われることを明示しているといえる。しかも、当該切り換えの契機となる部材としては、コイルスプリングに限らず、他の周知の付勢機能を持つ部材でもよいことは明らかであるし、また、かかる付勢機能を持つ部材に関する言及を欠く本件特許発明が、発明の詳細な説明に開示された発明とは別の発明を構成するものでないことは、上記<ホの点について>で検討したところから明らかである。
したがって、本件請求項1の記載は、発明の詳細な説明の記載に裏付けられていると共に、当該詳細な説明の記載に対応するものであって、本件請求項1記載の発明は、「発明の詳細な説明に記載された」発明といえる。
更に、甲第2号証及び乙第1〜3号証によれば、出願当初における「上記摺動部材が、・・・ガス圧により位置が自動的に切り換えられて」という特許請求の範囲の記載が、審査過程における拒絶理由の、「(ガス圧により)自動的に切り換え」る構成がどのようなものか不明瞭とする指摘に対応して、上記のとおり、「ガス圧の低下に伴って位置が切り換えられ」と補正されたことが窺え、そして、このように補正されたことによって、上記拒絶理由は解消されたものといえる。
したがって、本件特許明細書の記載が、特許法(平成6年改正前)第36条第5項1号及び2号の規定を満たしていないとすることはできないし、審査過程で通知された拒絶理由が解消されていないとすることもできない。
(3)[主張B]について
上記<イ>〜<ト>の各点や[主張A]について検討したところから明らかなように、「ガス圧の低下に伴って」摺動部材の「位置が切り換えられ」る本件特許発明の構成は、原出願の明細書にも実質的に記載されているといえるから、本件特許出願を適法な分割出願ではないとすることもできない。
(4)本件請求項2の発明について
本件請求項2の発明は、請求項1の本件特許発明を引用して、これを更に限定しようとするものであり、上記で検討した、本件特許発明(請求項1記載の発明)についての判断は、本件請求項2の発明についても同様である。

5.むすび
以上のとおり、請求人が主張する理由及び提出した証拠によって、本件特許を無効とすることはできないし、また、他に無効とすべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-11-28 
結審通知日 2000-12-08 
審決日 2001-03-27 
出願番号 特願平8-82168
審決分類 P 1 112・ 534- Y (F41B)
P 1 112・ 121- Y (F41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原 光明土屋 保光笹野 秀生  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 蓑輪 安夫
大島 祥吾
登録日 1999-01-08 
登録番号 特許第2871583号(P2871583)
発明の名称 ガス圧力式玩具銃  
代理人 神原 貞昭  
代理人 井沢 洵  
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