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審決分類 審判 全部申し立て 1項2号公然実施  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
管理番号 1061281
異議申立番号 異議2001-71520  
総通号数 32 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-06-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-05-22 
確定日 2002-06-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第3111834号「耐ふくれ性に優れた連続鋳造法によるほうろう用鋼材」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3111834号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3111834号の請求項1に係る発明は、平成6年10月17日(特許法第41条に基づく優先権主張1993年10月22日)に特許出願され、平成12年9月22日にその特許権の設定登録がなされ、その後、新日本製鐵株式会社(以下、「異議申立人」という。)から特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知されたものである。

2.特許異議の申立てについての判断
(1)申立ての理由の概要
異議申立人は、本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証(特開平1-275736号公報)及び甲第3号証(JRCM NEWS 1995.2 No.100)に記載された発明であるか、または、甲第1号証に準拠して甲第2号証(平成13年5月22日付け実験成績証明書)のとおり公然実施をされた発明であるから、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第2号または第3号の規定に違反して特許されたものであり、取り消されるべきものであると主張している。

(2)本件の請求項1に係る発明
本件の請求項1に係る発明は、本件明細書の【特許請求の範囲】【請求項1】に記載された次のとおりのものである。(以下、「本件発明」という。)

【特許請求の範囲】【請求項1】 重量%で、C:0.005%以下、Mn:0.15〜0.65%、P:0.004〜0.025%、S:0.005〜0.025%、Cu:0.005〜0.05%、N:0.005%以下、O:0.02〜0.065%、Sn:0.0005〜0.01%を含有し、さらにV:0.004〜0.07%、Nb:0.004〜0.04%のうち1種又は2種を含有し、残部Fe及び不可避不純物から実質的になることを特徴とする耐ふくれ性に優れた連続鋳造法によるほうろう用鋼材。

(3)引用刊行物の記載事項
当審が平成13年10月29日付けで通知した取消しの理由に引用した刊行物1ないし3には、各々、以下のような事項が記載されている。

刊行物1 : 特開平1-275736号公報(異議申立人が提出した甲第1号証)

摘示1-1:「(1)C:0.010%以下、Mn:0.8%以下、S:0.003〜0.040%、Al:0.010%以下、N:0.0040%以下、O:0.020〜0.060%、Si:0.8%以下、P:0.08%以下とさらにV:0.010〜0.060%、Nb:0.004〜0.030%の1種または2種を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる加工性に優れた連続鋳造製ほうろう用鋼板」(第1頁左下欄第6〜12行、2.特許請求の範囲(1))

摘示1-2:「Cは、連続鋳造製ほうろう用鋼板としての深絞り性の向上や焼成歪、泡」(第3頁左上欄第13〜14行)

摘示1-3:「Vは、真空脱ガス処理した高酸素連続鋳造鋼の材質の異方性を減少させて、加工性の向上および非時効性を確保するために0.010%以上が必要である。一方、多すぎる含有は合金コストを上昇させるので、経済性から上限を0.060%とする。・・・NbはVと同様に連続鋳造製で高酸素かつAl含有量の少ないスラブを素材とするほうろう用鋼板の加工性の向上および非時効性化に効果があるが、・・・NbとVは少なくとも何れか1種を含有させる成分である。 本発明鋼板のほうろう特性(つまとび性、密着性)をさらに向上させるためには、Cu:0.010〜0.060%、Rem:0.010〜0.060%の1種または2種を含有するとよい。それぞれの下限はほうろう特性の改善効果を得るため、また上限は経済性から限定する。」(第3頁左下欄第8行〜同右下欄第9行)

摘示1-4:「表1」(第4頁下)から「試料No.A2の鋼成分は、Cが0.0016%,Siが0.012%,Mnが0.30%,Pが0.012%,Sが0.013%,Alが0.005%,Nが0.0018%,Oが0.048%,Vが0.027%,Cuが0.032%含有されていること」、「試料No.4の鋼成分は、Cが0.0032%,Siが0.010%,Mnが0.30%,Pが0.013%,Sが0.012%,Alが0.003%,Nが0.0025%,Oが0.050%,Vが0.023%,Nbが0.005%%,Cuが0.037%,Remが0.018%含有されていること」、「試料No.5の鋼成分は、Cが0.0020%,Siが0.12%,Mnが0.52%,Pが0.045%,Sが0.020%,Alが0.004%,Nが0.0020%,Oが0.046%,Vが0.020%,Nbが0.010%%,Cuが0.036%含有されていること」が看取される。

甲第2号証:実験成績証明書,平成13年5月22日,新日本製鐵株式会社八幡製鉄所(異議申立人が提出した甲第2号証)

摘示2-1:「1.実験日時 平成4年7月30日、31日(転炉にて精錬を行った日) 2.実験条件 (1)対象材 Nb-V系ホーロー用鋼板 当社出願の特願昭63-106848号に準拠して製造 (2)製造条件 ・製鋼ロット:336T・・・」(表紙入れて2頁の前半)

摘示2-2:「3.実験結果(成分)」の記載(表紙入れて2頁後半〜3頁)から、「CH No 096は、Cが標準値0.0030%以下で実績値が0.0019%,Siが標準値0.034%以下で実績値0.003%,Mnが標準値0.30〜0.40%で実績値0.352%,Pが標準値0.012〜0.020%で実績値0.0173%,Sが標準値0.015〜0.025%で実績値0.0193%,Cuが標準値0.027〜0.037%で実績値0.031%,Niが標準値0.04%以下で実績値0.020%,Crが0.08%未満で実績値0.021%,Asが標準値0.04%以下で実績値0.0020%,Snが標準値0.02%以下で実績値0.001%,Nbが標準値0.002〜0.020%で実績値0.01%,Nが標準値0.004%以下で実績値0.0015%,Moが標準値0.04%未満で実績値0.0020%,Oが標準値0.035〜0.060%で実績値0.0418%,Vが標準値0.025〜0.035%で実績値0.027%,T-Alが標準値0.010%以下で実績値0.006%」であり、「CH No 098は、Cが標準値0.0030%以下で実績値が0.0018%,Siが標準値0.034%以下で実績値0.002%,Mnが標準値0.30〜0.40%で実績値0.352%,Pが標準値0.012〜0.020%で実績値0.0168%,Sが標準値0.015〜0.025%で実績値0.0190%,Cuが標準値0.027〜0.037%で実績値0.032%,Niが標準値0.04%以下で実績値0.019%,Crが0.08%未満で実績値0.021%,Asが標準値0.04%以下で実績値0.0020%,Snが標準値0.02%以下で実績値0.001%,Nbが標準値0.002〜0.020%で実績値0.01%,Nが標準値0.004%以下で実績値0.0019%,Moが標準値0.04%未満で実績値0.0020%,Oが標準値0.035〜0.060%で実績値0.0437%,Vが標準値0.025〜0.035%で実績値0.028%,T-Alが標準値0.010%以下で実績値0.006%」であることが看取される。

刊行物3:JRCM(The Japan Research and Development Center for Metals) NEWS 1995.2 No.100,財団法人 金属系材料研究開発センター(異議申立人が提出した甲第3号証)

摘示3-1:「表-3 使用原料からみた製品中のCu、Snの成分値」(第10頁中欄)から、「溶銑及び自家発生屑を使用原料とした一般鋼種におけるCu成分値は0.02〜0.03%、Snの成分値は0.001〜0.003%であること」が看取される。

摘示3-2:「表-3 使用原料からみた製品中のCu、Snの成分値」(第10頁中欄)から、「市中屑を使用原料とした形鋼におけるCu成分値は0.20〜0.35%、Snの成分値は0.010〜0.020%であること、市中屑を使用原料とした棒鋼におけるCu成分値は0.25〜0.50%、Snの成分値は0.015〜0.025%であること」が看取される。

摘示3-3:「現在、老廃屑中の不純物を希釈するためには、純度の高い自家発生屑(製鉄所での発生屑)、加工屑(ファブリケーターでの発生屑)等の良質屑や銑鉄等を配合して溶解しているが、製品中のCuやSnの濃度は、溶銑と自家発生屑から製造したものに比較するとすでに10倍も高い値となっている(表-3)。」(第11頁左欄第20〜27行)

(4)証拠の成立について
本件特許権者である日本鋼管株式会社は、甲第2号証には証拠能力がない旨主張するので、甲第2号証の文書の成立について検討する。
甲第2号証は、平成13年5月22日付けの新日本製鐵株式会社八幡製鉄所作成の実験成績証明書であるから、特許法第151条で準用する民事訴訟法第228条にいう私文書に該当するところ、甲第2号証には本人又はその代理人の署名又は押印がないから、甲第2号証は真正に成立したものと推定することはできず(民事訴訟法第228条第4項)、また、該文書の成立に関し、特許法第151条で準用する民事訴訟法各条に則った証人尋問等による申し出もしていないから、その成立が真正であることを証明するものとはいえない(民事訴訟法第228条第1項)。
したがって、甲第2号証を証拠として採用することはできない。

(5)対比・判断
本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。
刊行物1に記載された鋼材A2あるいはA4は、連続鋳造製ほうろう用鋼板であって、C,Mn,P,S,Cu,N,Oの含有量と、V,Nbの1種又は2種についての含有量とが本件発明と重複し、残部Fe及び不可避不純物からなるものであることから、刊行物1に記載の鋼材においてはSnを含有することが記載されていない点(相違点1)、耐ふくれ性に優れた鋼材であることが記載されていない点(相違点2)で本件発明と相違し、その余の点で一致する。
以下、これらの相違点について検討する。

(相違点1)について
Snの含有に関して、刊行物3には、「表-3 使用原料からみた製品中のCu、Snの成分値」中に「溶銑及び自家発生屑を使用原料とした一般鋼種におけるCu成分値は0.02〜0.03%、Snの成分値は0.001〜0.003%であること」が看取される記載があり(摘示3-1)、また、「現在、老廃屑中の不純物を希釈するためには、純度の高い自家発生屑(製鉄所での発生屑)、加工屑(ファブリケーターでの発生屑)等の良質屑や銑鉄等を配合して溶解しているが、製品中のCuやSnの濃度は、溶銑と自家発生屑から製造したものに比較するとすでに10倍も高い値となっている(表-3)。」(摘示3-3)とも記載されていることから、刊行物1に記載された鋼材が、積極的に添加する成分としてではないSnを含有している可能性を完全に否定することはできない。
しかしながら、「【産業上の利用分野】本発明は、耐ふくれ性に優れた連続鋳造法によるほうろう用鋼材に関するこのような鋼材としては、例えば鋼板、鋼管、形鋼、棒鋼、並びに鋼板から成形した形鋼及び管などがある。」(本件公報第1頁第1欄第14行〜同第2欄第2行)との記載からみれば、刊行物3には、参照すべき記載として、「表-3 使用原料からみた製品中のCu、Snの成分値」中に「市中屑を使用原料とした形鋼におけるCu成分値は0.20〜0.35%、Snの成分値は0.010〜0.020%であること、市中屑を使用原料とした棒鋼におけるCu成分値は0.25〜0.50%、Snの成分値は0.015〜0.025%であること」が看取される記載もあるところ、これら形鋼や棒鋼のSnの含有量は、本件発明の規定範囲よりも多い方へ外れた鋼材であるから、刊行物3の記載のみをもって、Snに関する記載が全くない刊行物1に記載された発明が、本件発明と重複する量のSnを含むものであるとする根拠とすることはできない。

(相違点2)について
本件発明は、「高酸素鋼は耐泡、耐黒点性に優れ、リムド鋼のような大型介在物を起因としたふくれは少ないものの、鋼中の酸素量が高く溶鋼の表面張力が低いため、鋳造の際にパウダーを巻き込みやすく、ほうろう焼成時においてパウダー巻き込みに起因するふくれを生じやすい。このため、実際の操業においては、スラブ手入れを行うなどして、欠陥の防止に努めているが、パウダー巻き込みを無くすることができないため、ほうろう焼成時の露点が高いときなど、操業条件によってはふくれ欠陥が発生することがある」という事情を背景にして(本件公報第2頁第3欄第3〜12行、段落【0004】)、「高酸素鋼を前提とし、パウダーを巻き込んでも、ほうろう焼成時においてふくれが発生しない耐ふくれ性に優れた連続鋳造法によるほうろう用鋼材を提供することを目的と」してなされた発明であって(同第18〜21行、段落【0005】)、「高酸素鋼に特定量のSnを含有させることにより、ふくれが発生しにくい連続鋳造法によるほうろう用鋼材が得られることを見出し」完成されたものである(同第25〜28行)。
これに対し、刊行物1において、ほうろう特性として具体的に記載されている性質は、「つまとび性」と「密着性」のみであり(第3頁右下欄第4〜5行)、また、低減を図るべきほうろう欠陥として具体的に例示されている現象は、「焼成歪」と「泡」のみである(第3頁左上欄第14行)から、刊行物1には本件発明の特徴である「耐ふくれ性に優れた」点に関する記載はない。
なお、本件発明においても「密着性」は「耐ふくれ性」との関係で考慮されており、「【0007】ふくれ欠陥は、ほうろう焼成時において鋼材と水分が反応して生じた水素が鋼材中に侵入し、その後の鋼材の冷却中に介在物周辺に集まってきてガス状となり、ほうろう表面をふくれさせる現象であり、パウダーなど大型介在物が存在するときに発生しやすい。この欠陥を防ぐために、・・・、鋼材に侵入する水素の量を減らす、・・・などの対策が考えられる。・・・、鋼材へ侵入する水素の量を減らすことについて検討した。【0009】鋼材に侵入する水素の量を減らすには、ほうろう焼成時の反応を抑えることが有効であるが、単に抑えるだけでは密着性の低下を招いてしまう。そこで、密着性の低下を招かずに鋼材へ侵入する水素量を減らすべく、鋼材に侵入する水素の挙動を詳しく調査した結果、鋼に侵入する水素は粒界からのものが多い・・・ことが分かった。このことから、鋼の特に粒界での反応を抑える元素が、ふくれに対して効果があると考えられる。【0010】本発明では、このような元素としてSnを採用している。Snは、ほうろう焼成中において、ほうろうと鋼材との反応を遅くすることにより、水素の発生を抑える元素である。しかも、Snは偏析しやすいことから、粒界での反応を特に抑える。これは、Snに特有な現象であ」るとの開示事項から明らかなように、「密着性」は本件発明の特徴である「耐ふくれ性に優れた」点はとは明確に区別される性質である。

以上のとおり、刊行物3のみをもって、刊行物1に記載された発明においても本件発明と重複する量のSnが含有されているとすることはできないから、本件発明が刊行物に記載された発明であるとする異議申立人の主張は採用することができない。また、甲第2号証は採用しないから、本件発明が公然実施されていたものであるとする異議申立人の主張は採用することができない。

(6)むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、刊行物1、刊行物3に記載された発明であるとは認めることができず、甲第2号証のとおり公然実施をされた発明であるとも認めることができない。
よって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-05-14 
出願番号 特願平6-250724
審決分類 P 1 651・ 112- Y (C22C)
P 1 651・ 113- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小柳 健悟  
特許庁審判長 小野 秀幸
特許庁審判官 板谷 一弘
柿沢 恵子
登録日 2000-09-22 
登録番号 特許第3111834号(P3111834)
権利者 日本鋼管株式会社
発明の名称 耐ふくれ性に優れた連続鋳造法によるほうろう用鋼材  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 松本 悦一  
代理人 中村 誠  
代理人 椎名 彊  

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