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審決分類 審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する B23P
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する B23P
管理番号 1061995
審判番号 訂正2002-39072  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1982-05-12 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2002-03-12 
確定日 2002-05-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第1410446号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1410446号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1.本件特許の経緯
本件訂正審判に係る特許第1410446号(以下、「本件特許」という。)については、昭和55年10月30日に特願昭55-152567号として特許出願され、昭和62年4月2日に特公昭62-14374号として出願公告がされ、昭和62年11月24日に特許権の設定の登録がなされた。
本件特許に対して、平成9年12月2日に平成9年審判第20421号として訂正審判の請求(以下、「前回訂正審判」という。)があり、平成10年3月6日付けで特許第1410446号発明の明細書(以下「訂正前明細書」という。)を、審判請求書に添付した訂正明細書(以下「特許明細書」という。)のとおり訂正することを認める旨の審決がなされた。

2.本件訂正審判の概要
本件訂正審判は、特許第1410446号の明細書を、添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであるが、この訂正は、特許明細書を、以下のa〜cのとおり訂正するものである。
a.特許請求の範囲の記載について
「上記ダイスホルダー内の加工液中に配設される給電体とを備え、上記給電体を中空柱状体で構成し、」を、
「中空孔を有する中空柱状体で構成され、上記ダイスホルダー内の加工液中に上記中空孔の端面が配設される給電体とを備え」と訂正する。
b.発明の詳細な説明について
特許明細書第2頁21行〜22行目の「上記ダイスホルダー内の加工液中に配設される給電体とを備え、上記給電体を中空柱状体で構成し、」を、
「中空孔を有する中空柱状体で構成され、上記ダイスホルダー内の加工液中に上記中空孔の端面が配設される給電体とを備え、」
と訂正する。
c.発明の詳細な説明について
特許明細書第4頁第16行の「ダイスホルダー内の加工液中に給電体を配設したので」を、
「ダイスホルダー内の加工液中に、中空孔の端面を配設したので」
と訂正する。

3.訂正事項の適否
(1)目的該当性
a.訂正事項aについて
訂正事項aは、特許明細書の特許請求の範囲の記載の、
「上記ダイスホルダー内の加工液中に配設される給電体とを備え、上記給電体を中空柱状体で構成し、」の記載を、
「中空孔を有する中空柱状体で構成され、上記ダイスホルダー内の加工液中に上記中空孔の端面が配設される給電体とを備え、」
と訂正するものであり、ダイスホルダーが加工液中に配設されている構成を、その配設される部分を特定することにより、具体化したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。
b.訂正事項bについて
訂正事項bは、前記訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正に伴って、特許明細書の発明の詳細な説明の欄を、これに整合するように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
c.訂正事項cについて
訂正事項cは、前記訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正に伴って、特許明細書の発明の詳細な説明の欄を、これに整合するように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(2)新規事項の有無
訂正事項が、特許明細書又は願書に添付された図面(以下、「本件特許図面」という。)に記載した事項の範囲内においてされたものであるか否かについて判断する。
A.訂正事項aについて
特許明細書の特許請求の範囲第2項の「中空柱状体の中空孔の端面に上記中空柱状体の周方向に拡がるテーパーを具備すること」の記載及び特許明細書の発明の詳細な説明の「給電体7の中空孔71の図において上部は、ワイヤ1を上方向から通す時、通し易いように円周方向に拡がるテーパ72が形成されている。」(特許明細書第3頁4-5行目)の記載からすると、特許明細書には、中空柱状体が端面を有し、その端面には、ワイヤ電極を挿通する中空孔が開口していることが記載されていると認められる。また、特許明細書の発明の詳細な説明には「加工液8はパイプ9を通ってダイスホルダー5内に入り、ノズル4を通って加工区域へ噴出される。又、一部の加工液8は押え金6の溝61を通って給電体7の中空孔71を通り、下方向へ流れることによりワイヤ1及びその給電体7の給電部を冷却する。」(特許明細書第3頁12-16行目)と記載されていることから、ダイスホルダー内の加工液は、中空柱状体の中空孔の開口部に接することとなる。以上の認定からすると、特許明細書には、ダイスホルダー内の加工液を中空孔に通すために、中空柱状体の中空孔の端面がダイスホルダー内の加工液中に配設されることが記載されていると認められる。
したがって、訂正事項aは、特許明細書又は本件特許図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

B.訂正事項b及びcについて
訂正事項b及びcは、前記訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正に伴って、訂正事項aの構成を、発明の詳細な説明の欄に記載するものであるから、訂正事項aと同様特許明細書の記載又は本件特許図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。

(3)実質変更の有無
訂正事項a〜cは、特許明細書の特許請求の範囲に記載された発明の構成に欠くことができない事項につき、その発明の具体的な目的の範囲内に於ける技術的事項の減縮的変更であるから、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものに当たらない。

(4)独立特許要件
本件訂正明細書の発明の要旨は、本件訂正請求によって訂正された本件訂正明細書の、特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものである。
「 給電体により給電されるワイヤ電極を用い、上記ワイヤ電極を絶縁材からなるダイスガイドによってガイドし、加工液を被加工物の加工区域に噴出させ上記被加工物を所望形状に加工し、かつ、上記ワイヤ電極及び給電体の給電部を冷却するワイヤカット放電加工装置において、
上記ダイスガイドを保持すると共に、内部に加工液を導入するダイスホルダーと、中空孔を有する中空柱状体で構成され、上記ダイスホルダー内の加工液中に、上記中空孔の端面が配設される給電体とを備え、
上記中空柱状体の中空孔に上記ワイヤ電極を挿通させ、上記ダイスホルダー内の加工液を上記中空孔に通すと共に、上記中空孔の内部面に部分接触させて給電するワイヤカット放電加工装置。

本件特許に対し、本件訂正審判請求以前において請求された無効審判請求において提出された証拠である米国特許第4081652号明細書(以下「引用例1」という。)、特開平47-20797号公報(以下「引用例2」という。)、機械用語辞典(機械工学用語辞典編集委員会編、株式会社技報堂、昭和35年1月10日発行、第2版)第53頁(以下「引用例3」という。)、及び特開昭50-95894号公報(以下「引用例4」という。)について検討する。
引用例1には、ワイヤカット放電加工装置が開示されており、第4〜6図には、被加工物を挟んで一対のブッシュ5、6が設けられ、該ブッシュからワイヤ電極1に給電したものが記載されている。
引用例2には、ダイス兼用の給電体より給電されるワイヤ電極を用いて被加工物を所望形状に加工するワイヤカット放電加工装置において、上記ダイス兼用の給電体を中空柱状体で構成すると共に、上記中空柱状体の中空孔に上記ワイヤ電極を挿通させて給電するワイヤカット放電加工装置が記載されている。
引用例3には、ブッシュの定義が記載されている。
引用例4の第3図には、給電体をダイスホルダー内の加工液中に浸漬する構成が記載されている。
本件訂正明細書の発明と、引用例1〜4記載のものとを比較すると、本件訂正明細書の発明の構成要件である、
「ダイスガイドを保持すると共に、内部に加工液を導入するダイスホルダーと、中空孔を有する中空柱状体で構成され、上記ダイスホルダー内の加工液中に、上記中空孔の端面が配設される給電体とを備え、
上記中空柱状体の中空孔に上記ワイヤ電極を挿通させ、上記ダイスホルダー内の加工液を上記中空孔に通すと共に、上記中空孔の内部面に部分接触させて給電する」点は、引用例1〜4のどこにも記載されておらず、かつ、示唆されているということもできない。
そして、本件訂正明細書の発明は、該構成要件により、本件訂正明細書記載の作用効果を奏するのに対し、引用例1〜4記載のものでは、そのような作用効果を奏することはできない。
したがって、本件訂正明細書の発明は、引用例1〜4記載のものに基づいて当業者が容易に発明できたものとは認められない。
また、他に本件訂正明細書の発明を拒絶すべき理由を発見しない。
上記のことから、本件訂正明細書の発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

4.訂正前明細書に対する新規事項の有無
なお、本件特許に対して、平成11年4月27日に株式会社ソディックより平成11年審判第35194号として特許無効審判請求があり、以下の無効理由1及び2が主張されているので、これらの理由についても判断しておく。
無効理由1
前回訂正審判による訂正によって新たに付加された「給電体がダイスホルダー内の加工液中に配設される」という構成は、訂正前の明細書又は願書に添付された図面に記載されていないから、当該訂正は不適法な訂正であって、特許法第123条第1項第8号の規定により本件特許は無効とすべきである。
無効理由2
また、「給電体がダイスホルダー内の加工液中に配設される」という構成が、給電体が実質的に加工液に浸漬状態となるという構成を意味するものであれば、前回訂正審判による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものであるから、当該訂正は不適法な訂正であって、特許法第123条第1項第8号の規定により本件特許は無効とすべきである。

(1)無効理由1について
本件訂正審判による特許請求の範囲の訂正によって、訂正前明細書の特許請求の範囲第1項
「給電体により給電されるワイヤ電極を用いて被加工物を所望形状に加工するワイヤカット放電加工装置において、上記給電体を中空柱状体で構成すると共に、上記中空柱状体の中空孔に上記ワイヤ電極を挿通させて給電するワイヤカット放電加工装置。」は、
「給電体により給電されるワイヤ電極を用い、上記ワイヤ電極を絶縁材からなるダイスガイドによってガイドし、加工液を被加工物の加工区域に噴出させ上記被加工物を所望形状に加工し、かつ、上記ワイヤ電極及び給電体の給電部を冷却するワイヤカット放電加工装置において、
上記ダイスガイドを保持すると共に、内部に加工液を導入するダイスホルダーと、中空孔を有する中空柱状体で構成され、上記ダイスホルダー内の加工液中に上記中空孔の端面が配設される給電体とを備え、
上記中空柱状体の中空孔に上記ワイヤ電極を挿通させ、上記ダイスホルダー内の加工液を上記中空孔に通すと共に、上記中空孔の内部面に部分接触させて給電するワイヤカット放電加工装置。」と訂正されることとなった。
この訂正は、訂正前明細書の特許請求の範囲第1項について、前提となるワイヤカット放電加工装置の構成を「ワイヤ電極を絶縁材からなるダイスガイドによってガイドし、加工液を被加工物の加工区域に噴出させ、かつ、上記ワイヤ電極及び給電体の給電部を冷却する」ものに限定し、「ダイスガイドを保持すると共に、内部に加工液を導入するダイスホルダー」の構成を付加し、給電体の配置構成を「中空柱状体の中空孔の端面がダイスホルダー内の加工液中に配設される」ものに限定し、ワイヤ電極と給電体との関連構成を、ワイヤ電極を「中空孔の内部面に部分接触させて給電する」と限定するものとなったから、このような訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そこで、本件訂正明細書のごとく訂正することが、訂正前明細書又は本件特許図面に記載された事項の範囲内にあるか否かについて検討する。
給電体を加工液中に配設することに関して、訂正前明細書には、文言上そのとおりの表現はない。
「配設する」とは、技術用語として明確に定義されているものではないが、「配」の意義からみて位置を割当てて設けるという程度の意味と解するのが相当である。そして、物品を「液中に配設する」の表現は、審判請求人の主張する物品の全体が液中に浸漬されているという意味に限定的に解すべきではなく、物品の一部が液中に位置するように設けられるものも含むと解するのが相当である。
前記訂正前明細書には、「従来のワイヤガイド装置の給電装置は以上のように構成されているので、押え金(6)の着脱の為ダイスガイド(31)から給電体(7)までの距離が長く、それだけワイヤ(1)の電気抵抗が大きくなって加工電流が少なくなる欠点があった。又、ダイスガイド(31)にワイヤ(1)を幾分押し付ける構造の為、ダイスガイド(31)とワイヤ(1)の給電部間のワイヤ(1)は傾斜しており、この間のワイヤ(1)及び給電体(7)の給電部を冷却するための押え金(6)の通し孔(61)を大きくする必要があり、それだけ大量のワイヤ冷却用の加工液を下方向に流し、加工区域への加工液噴出量が減少する等の欠点があった。又、この時、給電体(7)の給電部への冷却用加工液が上部から落下する加工液の干渉を受け、ワイヤ(1)及びその給電体(7)の給電部が一時気中に露出する事が発生し、これによってこの部分のワイヤ(1)が冷却不十分で断線する等の欠点もあった。この発明は上記のような従来装置の欠点を除去するためになされたもので、給電体を中空柱状体、例えば中空円筒形状にしこの円筒給電体を押え金の中に収納することにより、ワイヤの給電部とダイスガイド間のワイヤ長の縮小と、給電部冷却用加工液の減少及び外部よりの給電体冷却液への干渉の防止を達成できる装置を提供することを目的としている。」(訂正前明細書第3頁第11行〜第4頁第14行、特許公報第2欄第18行〜第3欄第16行参照)及び「以上のようにこの発明によれば、ワイヤへの給電体を中空柱状体形状とし、その中空孔の内部面で給電し、かつ、加工液を中空孔の中に通すようにしたので、加工区域よりノズル、押え金の外面より落下する加工液により給電体(7)の給電部の加工液が影響されないので加工液干渉による気中給電は発生せず、給電体(7)の給電部のワイヤ冷却が確実となり、ワイヤ断線が減少する利点がある。」(訂正前明細書第7頁第13行〜第20行、特許公報第4欄第32行〜第39行参照)と記載されていることから、加工液を中空孔に通すことが必須であることが記載されており、また、訂正前明細書には、「又、加工液(8)はパイプ(9)を通ってダイスホルダー(5)内に入り、ノズル(4)を通って加工区域へ噴出される。又、一部の加工液(8)は押え金(6)の溝(61)を通って給電体(7)の中空孔(71)を通り、下方向へ流れることによりワイヤ(1)及びその給電体(7)の給電部を冷却する。」(訂正前明細書第5頁第17行〜第6頁第2行特許公報第3欄第38行〜第43行参照)及び「又、第3図、第4図は夫々この発明の他の実施例を示すものである。第3図は第2図で説明した給電体(7)をダイス(3)の中に挿入したものであり、押え金(6)によって給電体(7)とダイス(3)を同時に押圧固定するもので、ワイヤ(1)の給電部とダイスガイド(31)間の距離をより短くすることを目的としたものである。」(訂正前明細書第6頁第8行〜第14行、特許公報第4欄第5行〜第11行参照)と記載され、かつ、本件特許に係る発明の実施例を示す本件特許図面の第2〜4図には、いずれも、ダイスホルダー5内に導入された加工液が給電体7の中空孔71の開口部に接していることが示されていることから、訂正前の明細書及び本件特許図面に記載されたものは、給電体7の一部である中空孔71の端面が、ダイスホルダーの加工液中に位置するものであって、かつ、中空孔71の開口部が加工液中に位置することによってダイスホルダー5内の加工液が給電体の中空孔を通ることになるものと認められる。
そうすると、訂正前明細書及び本件特許図面には、給電体の中空孔を加工液が通る機能を奏するために、ダイスホルダー内の加工液中に、給電体の一部である中空孔の端面が配設されることが、直接的かつ一義的に記載されていると認められる。
また、他の訂正された事項についてみても、これを新規事項であるとする理由もない。
したがって、本件訂正明細書のごとく訂正することは、訂正前の明細書又は本件特許図面に記載された事項の範囲内においてされたものである。
(2)無効理由2について
前記のとおり、「加工液中に配設する」の意味は、液中に物品の一部が位置するように設けられること含むものを意味すると解するのが相当であり、また、本件訂正明細書の特許請求の範囲に記載された発明は、単に加工液中に配設されているだけではなく、給電体の「中空柱状体の中空孔の端面」が配設されているものである。
そして、そのような構成を採用することによって、「ワイヤへの給電体を中空柱状体形状とし、その中空孔の内部面で給電し、かつ、加工液を中空孔の中に通すようにしたので、加工区域よりノズル、押え金の外面より落下する加工液により給電体(7)の給電部の加工液が影響されないので加工液干渉による気中給電は発生せず、給電体(7)の給電部のワイヤ冷却が確実となり、ワイヤ断線が減少する利点がある。又、給電体が中空柱状体の為、給電体(7)の給電部への冷却液を少量流すだけで十分なる冷却効果があり、それだけ加工区域へ加工液量が増大でき、加工速度の向上が図れる。」(訂正前明細書第7頁第13行-第8頁第4行。特許公報第4欄第32行-第43行。)というものである。
したがって、「ダイスホルダー内の加工液中に配設される給電体」の構成を「ダイスホルダー内で給電体が実質的に加工液に浸漬状態となるようにし、これにより給電部のみならず、給電体全体の冷却を図る構成を意味する」とする審判請求人の解釈は誤りである。
そして、他に、訂正前の明細書又は本件特許図面に対して、本件訂正明細書の特許請求の範囲に記載された発明が、特許請求の範囲を拡張又は変更するものであるとする理由もない。
以上のとおりであるから、仮に、前回訂正審判による訂正が平成6年法律第116号による改正前の特許法第1項ただし書又は第126条第2項の規定に違反してされたものであったとしても、訂正前の明細書及び本件特許図面を基準とするとき、本件訂正請求によって訂正された本件訂正明細書は同法第126条第1項ただし書又は第2項の規定に違反していない。

5.むすび
以上のとおりであるので、上記本件訂正請求は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び第2項から第3項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ワイヤカット放電加工装置
(57)【特許請求の範囲】
(1)給電体により給電されるワイヤ電極を用い、上記ワイヤ電極を絶縁材からなるダイスガイドによってガイドし、加工液を被加工物の加工区域に噴出させ上記被加工物を所望形状に加工し、かつ、上記ワイヤ電極及び給電体の給電部を冷却するワイヤカット放電加工装置において、
上記ダイスガイドを保持すると共に、内部に加工液を導入するダイスホルダーと、中空孔を有する中空柱状体で構成され、上記ダイスホルダー内の加工液中に、上記中空孔の端面が配設される給電体とを備え、
上記中空柱状体の中空孔に上記ワイヤ電極を挿通させ、上記ダイスホルダー内の加工液を上記中空孔に通すと共に、上記中空孔の内部面に部分接触させて給電するワイヤカット放電加工装置。
(2)上記中空柱状体は、上記中空柱状体の中空孔の端面に上記中空柱状体の周方向に拡がるテーパーを具備することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のワイヤカット放電加工装置。
【発明の詳細な説明】
この発明は給電体により給電されるワイヤ電極(以下単にワイヤと称する。)を用いて被加工物を所望形状に加工するワイヤカット放電加工装置に係り、特にワイヤへ給電する給電体の改良に関するものである。
従来、ワイヤカット放電加工装置のワイヤへの給電装置として、第1図に示すものがあった。この第1図は加工区域のワイヤをガイドし、給電するワイヤガイド装置の下部部分の構造を示す図であり、第1図に於いて、1はワイヤ、2は被加工物、3はワイヤ1の加工部をガイドする下部ダイスで、ダイガイド31によりワイヤ1を直接ガイドし、このダイガイド31はサファイヤ等の耐磨耗性の高い絶縁材で構成されている。4は被加工物2の加工部ヘワイヤ1に沿って加工液8を噴出するノズルで、このノズル4はダイスホルダー5へねじにより取付け、固定されている。6はダイス3をダイスホルダー5のテーパー穴部51へねじにより押圧固定する押え金で、この押え金6の中心部及び先端部に加工液通し孔61及び溝62があり、この溝62、通し孔61により、加工液8は下方向へ一部が流れる構造となっている。7はワイヤ1に加工電流を供給する給電体、9は上記加工液8を供給する加工液パイプで、この加工液パイプ9から加工液8がダイスホルダー5、ノズル4を通って被加工物2の加工部へ噴出され、又、加工液8の一部はダイスホルダー5、押え金6の溝62と、通し孔61を通ってワイヤ1の給電部へ達し、ワイヤ1の給電部から、被加工物2の加工電流によるワイヤ1の熱影響部を全て加工液8により覆い、ワイヤ1の冷却を行う構造となっている。
従来のワイヤガイト装置の給電装置は以上のように構成されているので、押え金6の着脱の為ダイスガイド31から給電体7までの距離が長く、それだけワイヤ1の電気抵抗が大きくなって加工電流が少なくなる欠点があった。又、ダイガイド31にワイヤ1を幾分押し付ける構造の為、ダイガイド31とワイヤ1の給電部間のワイヤ1は傾斜しており、この間のワイヤ1及び給電体7の給電部を冷却するために押え金6の通し孔61を大きくする必要があり、それだけ大量のワイヤ冷却用の加工液を下方向に流し、加工区域への加工液噴出量が減少する等の欠点があった。
又、この時、給電体7の給電部への冷却用加工液が上部から落下する加工液の干渉を受け、ワイヤ1及びその給電体7の給電部が一時気中に露出する事が発生し、これによってこの部分のワイヤ1が冷却不十分で断線する等の欠点もあった。
この発明は上記のような従来装置の欠点を除去するためになされたもので、ワイヤ電極をガイドするダイスガイドを保持すると共に、内部に加工液を導入するダイスホルダーと、中空孔を有する中空柱状体で構成され、上記ダイスホルダー内の加工液中に、上記中空孔の端面が配設される給電体とを備え、上記中空柱状体の中空孔に上記ワイヤ電極を挿通させ、上記ダイスホルダー内の加工液を上記中空孔に通すと共に、上記中空孔の内部面に部分接触させて給電することにより、ワイヤの給電部とダイスガイド間のワイヤ長の縮小と、給電部冷却用加工液の減少及び外部よりの給電体冷却液への干渉の防止を達成できる装置を提供することを目的としている。
以下、この発明の一実施例を第2図により説明する。第2図において、6はダイス3を押圧固定する押え金で、ダイスホルダー5のねじ穴に装着され、ダイス3を下方向より押圧している。7はこの発明の主要部である円筒状の給電体で、中空孔71を有し、押え金6に形成された中空部内に装着されると共に、押え金6の中心より偏心した位置に固定ねじ10により装着されている。なお、固定ねじ10の中心部にはワイヤ1及び加工液8の通し孔101が形成されている。又、給電体7の中空孔71の図において上部は、ワイヤ1を上方向から通す時、通し易いように円周方向に拡がるテーパ72が形成されている。
なお、その他の構成は第1図に示す従来装置と同様であり、その説明を省略する。
この実施例による装置は上記のように構成されており、次にその動作並びに作用について説明する。
即ち、ワイヤ1はダイガイド31を通って給電体7の中空孔71の一端に接触し、この部分より加工電流の供給を受ける。なお、ワイヤ1は必ず給電体7に接触するように、給電体7の下方向へ一定の角度で引張られている。又、加工液8はパイプ9を通ってダイスホルダー5内に入り、ノズル4を通って加工区域へ噴出される。又、一部の加工液8は押え金6の溝61を通って給電体7の中空孔71を通り、下方向へ流れることによりワイヤ1及びその給電体7の給電部を冷却する。給電体7より下方向へ流れる加工液8は少なく、大半の加工液8は加工区域へ噴出され加工に供する。又、給電体7の給電部より被加工物2間のワイヤ1は全て冷却用の加工液8内にあり、加工電流の流れるワイヤ1の冷却は十分となっている。
又、第3図、第4図は夫々この発明の他の実施例を示すものである。第3図は第2図で説明した給電体7をダイス3の中に挿入したものであり、押え金6によって給電体7とダイス3を同時に押圧固定するもので、ワイヤ1の給電部とダイスガイド31間の距離をより短くすることを目的としたものである。
更に又、第4図は給電体7,7′を2個多段状に積層し、押え金6内に収納したもので、給電体7、7′は各々押え金6内の偏心した位置に固定ねじ10によって固定され、給電体7′によってワイヤ1は給電体7の一端に必ず接触する構造となっている。これによって、例えばテーパー加工時のように、ワイヤガイド装置全体が左右、前後方向に移動し、被加工物をテーパー加工するような場合でも、給電部のワイヤの接触、給電は確実となる。
また、上記の例はワイヤガイド装置の下部部分について説明したが、ワイヤガイド装置の上部部分についても同様の効果を奏する。また上記第3図、第4図に説明した実施例装置の一方をワイヤガイド装置の上部部分に、他方をワイヤガイド装置の下部部分として組合わせてもよい。
更に又、上記実施例においては給電体として中空円筒形状のものについて説明したが中空四角柱、中空三角柱形状等のもの、換言すれば、中空柱状体であれば同等効果を有する。
以上のようにこの発明によれば、ワイヤへの給電体を中空柱状体形状とし、その中空孔の内部面で給電し、かつ、加工液を中空孔の中に通すようにしたので、加工区域よりノズル、押え金の外面より落下する加工液により給電体7の給電部の加工液が影響されないので加工液干渉による気中給電は発生せず、給電体7の給電部のワイヤ冷却が確実となり、ワイヤ断線が減少する利点がある。
又、給電体が中空柱状体の為、給電体7の給電部への冷却液を少量流すだけで十分なる冷却効果があり、それだけ加工区域へ加工液量が増大でき、加工速度の向上が計れる。また、ダイスガイドを保持すると共に、内部に加工液を導入するダイスホルダー内の加工液中に、中空孔の端面を配設したので、加工電流の流れるワイヤ部長さが短く、抵抗が少なくなり、加工電流の増大を計ることが可能となり加工速度の向上が達成できる。
【図面の簡単な説明】
第1図は従来装置を示す図、第2図はこの発明の実施例を示す図、第3図、第4図は夫々この発明の異なる実施例を示す図である。
図において、1はワイヤ電極、2は被加工物、7は給電体、71は中杢孔、72はテーパーである.なお、図中同一符号は同一又は相当部分を示す。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
a.特許明細書の特許請求の範囲について
「上記ダイスホルダー内の加工液中に配設される給電体とを備え、上記給電体を中空柱状体で構成し、」を、
「中空孔を有する中空柱状体で構成され、上記ダイスホルダー内の加工液中に上記中空孔の端面が配設される給電体とを備え」と、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正をする。
b.発明の詳細な説明について
特許明細書第2頁21行〜22行目の「上記ダイスホルダー内の加工液中に配設される給電体とを備え、上記給電体を中空柱状体で構成し、」を、
「中空孔を有する中空柱状体で構成され、上記ダイスホルダー内の加工液中に上記中空孔の端面が配設される給電体とを備え、」
と、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正をする。
c.発明の詳細な説明について
特許明細書第4頁第16行の「ダイスホルダー内の加工液中に給電体を配設したので」を、
「ダイスホルダー内の加工液中に、中空孔の端面を配設したので」と、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正をする。
審理終結日 2002-04-19 
結審通知日 2002-04-24 
審決日 2002-05-08 
出願番号 特願昭55-152567
審決分類 P 1 41・ 841- Y (B23P)
P 1 41・ 851- Y (B23P)
最終処分 成立  
前審関与審査官 天野 正景南 孝一藤本 信男  
特許庁審判長 小林 武
特許庁審判官 加藤 友也
三原 彰英
小池 正利
宮崎 侑久
登録日 1987-11-24 
登録番号 特許第1410446号(P1410446)
発明の名称 ワイヤカツト放電加工装置  
代理人 宮田 金雄  
代理人 高瀬 彌平  
代理人 宮田 金雄  
代理人 高瀬 彌平  

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