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関連判例 | 平成11年(行ケ)51号審決取消請求事件 |
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審決分類 |
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 B60T 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60T |
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管理番号 | 1062226 |
審判番号 | 審判1995-21469 |
総通号数 | 33 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1994-03-15 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 1995-10-04 |
確定日 | 2002-08-08 |
事件の表示 | 平成 4年特許願第272241号「車両のアンチロックブレーキ装置の制御システム」拒絶査定に対する審判事件〔平成 6年 3月15日出願公開、特開平 6- 72310、請求項の数(5)〕についてした審決に対して、東京高等裁判所において審決取消しの判決(平成11年(行ケ)第51号、平成13年2月27日判決言渡)があったので、さらに審理の結果、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成4年8月27日の出願であって、平成7年9月5日に拒絶の査定がされ、平成7年10月4日に拒絶査定不服の審判請求がなされ、平成10年12月28日に上記審判請求は成り立たないとする審決がされた。この審決に対して、東京高等裁判所において審決取消しの判決があったので、本件についてあらためて審理し、平成14年5月7日付けで拒絶の理由を通知したところ、その指定期間内である平成14年7月5日に意見書及び手続補正書が提出された。 2.本願発明 本願の請求項1〜5に係る発明は、平成14年7月5日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみてその特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された次のとおりのものである。 【請求項1】 前輪側が1軸2輪で構成され、後輪側が2軸4輪で構成された車両のアンチロックブレーキ装置の制御システムであって、 前車輪の左右2輪と後車輪の前側の左右2輪とに各別に、車輪のブレーキ圧を調整するアクチュエーターと車輪の路面摩擦力もしくは路面摩擦係数などの応力を検出する応力検知センサとこの応力検知センサの検出信号に基づいて前記アクチュエーターにブレーキ圧を調整するための駆動指令を出力するコントローラとからなる制御ユニットを配置するとともに、後輪側の2個の制御ユニットのアクチュエーターをそれぞれ、後側の対角位置にある後車輪に連結パイプで連結し、 前記前輪側の2つの制御ユニットは対応する前車輪のブレーキ圧を夫々独立して調整し、前記後輪側の2つの制御ユニットは、対応する前側の後車輪及び後側の対角位置にある後車輪のブレーキ圧を夫々独立して同時に調整することを特徴とする車両のアンチロックブレーキ装置の制御システム。 【請求項2】 前記応力検知センサは、薄板の上下面に2枚の歪ゲージを直交させて貼着した4枚1組の歪ゲージからなり、車軸又は車軸近傍に設けた孔に埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の車両のアンチロックブレーキ装置の制御システム。 【請求項3】 上記各制御ユニットの制御油圧源として、フットブレーキのマスターシリンダから油圧が供給されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両のアンチロックブレーキ装置の制御システム。 【請求項4】 上記各制御ユニットの制御油圧源を各車輪もしくは複数車輪毎に夫々独立して装備し、各制御油圧源は高圧制御油圧発生手段、保持貯蔵手段及びリバースシステムを具備することにより、上記各車輪もしくは複数車輪毎の制御が独立して行われるようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の車両のアンチロックブレーキ装置の制御システム。 【請求項5】 上記制御油圧源は、補助手段としてフットブレーキのマスターシリンダから油圧を供給させることを特徴とする請求項4に記載の車両のアンチロックブレーキ装置の制御システム。 3.原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由の概要は、本願明細書の記載が、下記の点で特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものである。 (1)明細書の段落【0002】段において、「大型車両にあっては全長が長いためブレーキ圧の配管路が著しく長くな」る点が問題点として挙げられているが、本願発明もマスタシリンダからブレーキまで長い配管を必要としている。結局課題は解決されたのかどうか不明りょうである。 (2)同【0015】段によれば、各車輪のアンチロック制御は、各車輪に設けられた路面摩擦力検出センサにのみ基づいて行われるものと解される。路面摩擦力が低くてもスリップしていなければアンチロック制御をする必要はないが、本願では車輪速やスリップ率は検知していない。本願の様な構成のもとで、如何にして車輪のロックを判断し、アンチロック制御を行っているのか不明りょうであり、発明を正確に理解できない。 (3)同【0015】段によれば、「アクチュエーターの駆動源としては、油圧ポンプを採用している」旨の記載があるが、アクチュエータの他の構成が不明りょうであるため、アクチュエータの作用が理解できない。 (4)同【0021】段における「高圧制御油圧手段」とはポンプのことか、また「保持貯蔵手段及びリバースシステム」とはどのような作用を持つのか不明りょうであり、発明を正確に理解できない。 4.明細書の記載が不明りょうか否かの判断 上記拒絶の理由の各点について、検討する。 (1)について 本願発明において、マスタシリンダからアクチュエータまでは長い配管が必要であるが、アクチュエータを車輪近傍に配置したことによって、車輪のホイルシリンダとアクチュエータを結ぶ配管が短くなり、コントローラからの駆動指令と時間遅れのないブレーキ制御を行わせることができるから、課題が解決されたかどうか不明りょうであるとすることはできない。 (2)について 本願の特許請求の範囲の記載によれば、本願発明においては、車輪の路面摩擦力もしくは路面摩擦係数などの応力を検知し、検知信号に対応して車輪が制動されるという構成によってアンチロック制御を行っており、スリップ率を計算することにより車輪のスリップ等を検知し、ブレーキの液圧を調整するという方式のアンチロック制御ではないことが明らかである(平成11年(行ケ)第51号判決第13頁第10〜23行参照)。 したがって、制御システムの構成、機能、及び、コントローラの制御の内容について必ずしも具体的な記載がなくとも、本願明細書の記載から、路面摩擦力もしくは路面摩擦係数などの応力検知センサ、コントローラ及びアクチュエータから構成されるアンチロックブレーキ装置が、応力を検知し、検知信号に対応してブレーキ圧を調整することが理解できるから、本願発明の構成により如何にしてアンチロック制御を行っているか不明りょうであるとすることはできない。 (3)について 本願明細書に、「各アクチュエーターAは各車輪毎の応力の検出状況に応じて各コントローラCからの駆動指令を受けてブレーキ圧を夫々各別に調整し、各車輪が夫々独立してアンチロックブレーキが作動するものである。」(段落【0017】参照)と記載されており、各アクチュエータがコントローラからの指令に対応してホイルシリンダへのブレーキ圧力を調整することを理解できるから、アクチュエータの他の構成が記載されていなくとも、本願発明におけるアクチュエータの作用が理解できないとすることはできない。 (4)について 本願の図4及び段落【0022】に、「高圧制御油圧手段と保持貯蔵手段及びリバースシステム」を具備した制御油圧源Sがアクチュエータに接続されることが記載されているから、本願発明における「高圧制御油圧手段」及び「保持貯蔵手段及びリバースシステム」が、それぞれ、通常の油圧回路に用いられる「ポンプと電磁弁」及び「タンク及び戻し通路」に相当することが理解でき、これらがどのような作用を持つのか不明りょうであるとすることはできない。 5.引用刊行物に記載の発明に基づく容易推考性の判断 5-1 引用刊行物 当審において通知した拒絶の理由に引用された下記の刊行物には、以下の技術的事項が記載されている。 刊行物1:特開昭62-77270号公報 刊行物2:実願昭62-158628号(実開昭63-104168号) のマイクロフィルム 刊行物3:特開平3-273948号公報 刊行物4:特開平3-215726号公報 刊行物1: (1-a)「車輪と車体との間に設けられ、車輪と地面との間の抗力を検出する抗力センサと、車輪を制動するブレーキ手段と、スリップ率が増大するにつれて抗力が増大する範囲で、かつ抗力の最大値付近で制動力を発生させるように、ブレーキ手段を制御する手段とを含むことを特徴とする自動車用アンチスキッド制御装置」(特許請求の範囲) (1-b)「車輪1を制動するブレーキシューなどは、シリンダ2によって駆動される。シリンダ2には、油圧制御装置3からの圧油が供給される。運転席に設けられたブレーキペダル4によって、マスタシリンダ5が駆動され、このマスタシリンダ5は油圧制御装置3に接続される。車輪1に関連して、車輪速度検出器6が設けられる。さらにまた車輪1の車軸7に関連して抗力センサ8が設けられる。車輪速度検出器6と、抗力センサ8からの出力は、マイクロコンピュータなどによって実現される処理回路9に与えられる。」(第2頁右上欄第3〜14行) (1-c)「抗力センサ8dは、いわゆる歪みゲージなどによって実現され、制動時においてはこの抗力センサ8dには引張り力が作用し、これによって、車輪1dが路面から受けている抗力を検出することができる。」(第2頁左下欄第6〜10行) 刊行物2: (2-a)「制動されるべき部材に固定された協働部材(21)に少くとも一つの摩擦部材(19,20)をブレーキ係合関係に押圧する圧力付与装置(23)を含む車両用ブレーキアクチュエータに於て、圧力アキュームレータ(3)と、使用時上記アキュームレータから上記圧力付与装置(22,23)へブレーキ制御装置(11)の作用に応答して圧力を供給するように作動可能な電動弁装置(9)とを内蔵している事を特徴とするアクチュエータ」(実用新案登録請求の範囲(1)) (2-b)「制御ユニット12がキャリパのリム17に内蔵され、電線52によりトランスデューサー10および車両の電波に、又導線53により、ブリッジ8に配置した車輪速度センサ13に連結している。」(第15頁第16〜20行) (2-c)「本考案の更に他の利点は各ブレーキアクチュエータが各車輪に独立したブレーキ装置を構成する事である。」(第20頁第10〜12行) 刊行物3: (3-a)「この実施例では、歪ゲージ41〜44;51〜54を用いて車軸又は車軸近傍の歪を測定することにより、車輪の軸トルク及び垂直方向の荷重を検出する。・・・(中略)・・・2枚の歪ゲージを直交させ、直交する2軸方向の引張り又は、圧縮歪を測定し得る歪ゲージ(仮にクロスゲージと呼ぶ)が市販されておりこれを利用するのが効果的である」(第7頁左下欄第16行〜右下欄第4行) 刊行物4: (4-a)「第6図は、空洞構造のスピンドル23に対して第3図の特徴を有した歪ゲージを貼付した円柱構造のセンサー部22を密着挿入させた構造を有した装置である。・・・(中略)・・・歪ゲージを貼付した円柱構造のセンサー部25を密着挿入させた装置である。 」(第4頁左上欄第20行〜右上欄第9行) 5-2 対比・判断 (1)請求項1に係る発明について 本願の請求項1に係る発明は、前輪側が1軸2輪で構成され、後輪側が2軸4輪で構成された車両において、前後、左右車輪が夫々独立してアンチロックブレーキが作動するようにして精度の高い油圧制御が得られる制御システムを提供することを目的としており、特に、後輪側は対角位置にある前後2個の後車輪のブレーキ制御が前側の後車輪に設けられた制御ユニットで同時に行われるようにしたものである。 一方、刊行物1〜4に記載の発明は、いずれも、前輪側、後輪側とも1軸2輪で構成された車両におけるアンチロックブレーキ装置の制御システムに関するもので、前後、左右車輪が夫々独立してアンチロックブレーキが作動するように各車輪毎に少なくともセンサ、アクチュエータからなる制御ユニットを配置するものであるが、後輪側が2軸4輪で構成された車両を前提とする本願の請求項1に係る発明とは、目的及び構成において相違する。 してみると、刊行物1〜4には、本願の請求項1に係る発明における「後輪側の2個の制御ユニットのアクチュエーターをそれぞれ、後側の対角位置にある後車輪に連結パイプで連結し、前記前輪側の2つの制御ユニットは対応する前車輪のブレーキ圧を夫々独立して調整し、前記後輪側の2つの制御ユニットは、対応する前側の後車輪及び後側の対角位置にある後車輪のブレーキ圧を夫々独立して同時に調整する」構成が記載されておらず、示唆するところもない。 そして、本願の請求項1に係る発明は、上記構成を具備することにより、制御ユニットの増大を招くことなく後輪側で十分な制動力と安定性を確保することができるという作用効果を奏するものである。 したがって、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 (2)請求項2〜5に係る発明について 本願の請求項2〜5に係る発明は、本願の請求項1に係る発明を引用する請求項であって、請求項1に係る発明における構成要件をさらに限定するものである。そして、本願の請求項1に係る発明が、前記のとおり、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、同様の理由により、本願の請求項2〜5に係る発明は、刊行物1〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 5-3 容易推考性のむすび したがって、本願の請求項1〜5に係る発明は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。 6.むすび 以上のとおり、本願については、原査定の拒絶の理由、及び、当審において通知した拒絶の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 1998-12-08 |
結審通知日 | 1998-12-22 |
審決日 | 1998-12-28 |
出願番号 | 特願平4-272241 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B60T)
P 1 8・ 531- WY (B60T) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 山下 喜代治、柳田 利夫、小川 恭司 |
特許庁審判長 |
村本 佳史 |
特許庁審判官 |
秋月 均 常盤 務 前田 幸雄 船越 巧子 |
発明の名称 | 車両のアンチロックブレーキ装置の制御システム |
代理人 | 吉田 稔 |
代理人 | 田中 達也 |
代理人 | 福元 義和 |