ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) E05C 審判 一部無効 特174条1項 無効とする。(申立て全部成立) E05C |
---|---|
管理番号 | 1062657 |
審判番号 | 無効2000-35317 |
総通号数 | 33 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1997-06-17 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2000-06-14 |
確定日 | 2002-08-09 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2873441号の特許無効審判事件について、併合の審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 無効2000-35194号 特許第2873441号の請求項1〜7に係る発明についての特許を無 効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。無効2000-35317号 特許第2873441号の請求項3,6,7に係る発明についての特許 を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。無効2000-35490号 特許第2873441号の請求項1〜7に係る発明についての特許を無 効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
【1】手続の経緯 平成 7年10月13日 出願 (優先権主張:特願平6-339418号、 優先日:平成6年12月15日、 優先権主張国:日本) (優先権主張:特願平7-201255号、 優先日:平成7年 7月 4日、 優先権主張国:日本) (優先権主張:特願平7-216474号、 優先日:平成7年 7月22日、 優先権主張国:日本) 平成 9年 3月24日 審査請求・手続補正書(第1回) 平成10年 3月11日 拒絶理由通知 平成10年 5月 3日 手続補正書(第2回) 平成10年11月19日 特許査定 平成11年 1月14日 設定登録 平成12年 4月13日 審判請求(無効2000-35194) 平成12年 6月14日 審判請求(無効2000-35317) 平成12年 6月16日 答弁書(無効2000-35194) 平成12年 8月19日 答弁書(無効2000-35317) 平成12年 9月 5日 弁駁書(無効2000-35194) 平成12年 9月11日 審判請求(無効2000-35490) 平成12年10月31日 答弁書(無効2000-35194) 平成12年11月14日 答弁書(無効2000-35194) 平成12年12月11日 答弁書(無効2000-35490) 平成12年12月18日 弁駁書(無効2000-35317) 平成13年 3月 9日 弁駁書・上申書(無効2000-35490) 平成14年 5月28日 併合審理通知 【2】本件発明 本件特許の請求項1〜7に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】家具、吊り戸棚等の本体内に固定された装置本体の係止手段が開き戸の係止具に地震時に係止するロック方法において開き戸が閉止状態からわずかに開かれた位置で弾性手段による戻り抵抗で開き保持して開き停止させ及び開き停止した前記開き戸が前記戻り抵抗に抗して閉止位置に戻る際にその動きで前記係止手段が係止解除される解除方法を用いたロック及び解除方法であって軸で支持された係止手段とした地震時ロック及び解除方法 【請求項2】家具、吊り戸棚等の本体内に固定された装置本体の係止手段が開き戸の係止具に地震時に係止するロック方法において開き戸が閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させ及び開き停止した前記開き戸が閉止位置に戻る際にその動きで前記係止手段が係止解除される解除方法を用いたロック及び解除方法であって球の係止手段とした地震時ロック及び解除方法 【請求項3】家具、吊り戸棚等の本体内に固定された装置本体の係止手段が開き戸の係止具に地震時に係止するロック方法において開き戸が閉止状態からわずかに開かれた位置で開き停止させ及び開き停止した前記開き戸が閉止位置に戻る際にその動きで前記係止手段が係止解除される解除方法を用いたロック及び解除方法であって装置本体に収納された係止手段が地震時に装置本体外に突出して開き戸の係止具に係止する地震時ロック及び解除方法 【請求項4】マグネットキャッチを併用した請求項1、2又は3の地震時ロック及び解除方法 【請求項5】複数のロック装置を用いた請求項1、2又は3の地震時ロック及び解除方法 【請求項6】請求項1、2、3、4又は5の地震時ロック及び解除方法を用いた吊り戸棚 【請求項7】請求項1、2、3、4又は5の地震時ロック及び解除方法を用いた家具」 【3】各審判請求の概要・被請求人の答弁等 (1)無効2000-35194(以下、「請求A」という。)について (1-1)請求人「株式会社イナックス」は、審判請求書において、本件の請求項1〜7に係る発明の特許(以下、「本件特許」という。)は、以下の理由により無効とすべきものである旨主張し、証拠方法として甲第1〜9号証を提出した。 (ア)本件特許は、上記手続補正書(第2回)による補正により特許となったものであるが、当該補正は、出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内でしたものとはいえず新規事項の追加を含むものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。(以下、「無効理由(ア)」という。) (1-2)被請求人は、上記請求Aに対して答弁書を提出し、請求人の主張する無効理由はない旨反論し、証拠方法として、乙第1〜18号証を提出した。 (2)無効2000-35317(以下、「請求B」という。)について (2-1)請求人「株式会社奥田製作所」、及び「株式会社カワノ」は、審判請求書において、本件の請求項3,6,7に係る発明の特許(以下、「本件特許」という。)は、以下の理由により無効とすべきものである旨主張し、証拠方法として甲第1〜12号証及び検甲第1号証を提出し、さらに下記答弁書に対する弁駁書において参考資料1,2を提出した。 (イ)本件特許は、甲第3号証又は甲第6号証に記載の発明であり、あるいは、甲第3,7〜10号証又は甲第6号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号あるいは同条第2項の規定に違反するものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。 (ウ)本件特許は、未完成発明であり、特許法第29条第1項柱書の規定を満たしておらず、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。 (エ)本件特許の発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、また明確でないから、特許法第36条第6項第1,2号に規定する要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。 (オ)本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであるから、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。(以下、「無効理由(オ)」という。) (2-2)被請求人は、上記請求Bに対して答弁書を提出し、請求人の主張する無効理由はない旨反論し、証拠方法として、乙第1〜20号証を提出した。 (3)無効2000-35490(以下、「請求C」という。)について (3-1)請求人「松下電工株式会社」は、審判請求書において、本件の請求項1〜7に係る発明の特許(以下、「本件特許」という。)は、以下の理由により無効とすべきものである旨主張し、証拠方法として甲第1号証の1〜甲第4号証の2を提出した。 (カ)本件特許の請求項1に係る発明は甲第1号証の1,甲第2号証の1,甲第3号証に記載の発明に基づいて、また同請求項2に係る発明は甲第4号証の1,甲第2号証の1に記載の発明に基づいて、さらに同請求項3に係る発明は甲第4号証の1に記載の発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。 (キ)本件特許の発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでなく、また明確でもないから、特許法第36条第4,6項に規定する要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。 (ク)本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであるから、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきものである。 (3-2)被請求人は、上記請求Cに対して答弁書を提出し、請求人の主張する無効理由はない旨反論し、証拠方法として、乙第1〜12号証を提出した。 【4】当審の判断 (1)上記請求Aにおける無効理由(ア)、及び、 上記請求Bにおける無効理由(オ)についての検討 請求人「株式会社イナックス」は、無効理由(ア)の1つの具体的事項として、本件特許の請求項1の「開き戸が……閉止位置に戻る際にその動きで……係止手段が係止解除される解除方法」、同2,3の「開き戸が閉止位置に戻る際にその動きで……係止手段が係止解除される解除方法」という各記載が、出願当初の明細書又は図面に記載されていた事項の範囲内のものとはいえず新規事項の追加を含むものである旨主張する。 また、請求人「株式会社奥田製作所」、及び「株式会社カワノ」は、無効理由(オ)の1つの具体的事項として、本件特許の請求項3の「開き戸が閉止位置に戻る際に……解除される解除方法」という記載が、出願当初の明細書又は図面に記載されていた事項を上位概念化するものであって、出願当初の明細書又は図面に記載されていた事項の範囲内のものとはいえず新規事項の追加を含むものである旨主張する。 本件特許の出願当初の明細書(請求Aの甲第2号証)において、「解除方法」に関しては、以下の記載が認められる。(参照箇所については、本件特許の公開特許公報(請求Bの甲第12号証)を参照。) (i)「……わずかに開かれた開き戸を押しその背面の係止手段に動きを伝えて解除する解除方法」(【請求項3】(公報1欄10〜11行)) (ii)「次に地震が終わり開き戸(2)を開くには使用者は開き戸(2)を強く押す。これにより図4に示す様に弾性手段(6)が退いていき一定以上退くと弾性手段(6)による押さえが外れる。この結果係止手段(4)は慣性で図4の状態から図1の初期状態へと戻ることになる。」(段落【0005】(公報2欄17〜22行)) (iii)「次に地震が終わり開き戸(2)を開くには使用者は開き戸(2)を強く押す。これにより図9に示す様に弾性手段(6)が傾斜しながら退いていき一定以上退くと係止手段(14)は上方へと滑り弾性手段(6)ではね上げられ図1の初期状態へと戻ることになる。」(段落【0006】(公報2欄49行〜3欄4行)) (iv)「次に地震が終わり開き戸(2)を開くには使用者は開き戸(2)を強く押す。これにより図13に示す様に解除具(8)は支点手段(3e)を中心に回動し係止手段(4)を押して磁石(4e)が吸着体(7)から離れるのである。磁石(4e)が離れた後はばね(4f)の力で係止手段(4)は図10の初期状態へと戻ることになる。」(段落【0007】(公報3欄46行〜4欄2行)) (v)「次に地震が終わり開き戸(2)を開くには使用者は開き戸(2)を強く押す。これにより図17に示す様に弾性手段(6)が退いていき一定以上退くと弾性手段(6)による押さえが外れる。この結果係止手段(4)は慣性で図4の状態から図14の初期状態へと戻ることになる。」(段落【0008】(公報4欄31〜16行)) (vi)「図22及び図24の本発明の地震時ロック装置のその他の解除等の作用については図19のものと同様である。」(段落【0009】(公報6欄18〜20行)) (vii)「本発明の地震時ロック方法、装置及びその解除方法は特に開き戸がわずかに開かれた位置でロック状態となるため開き戸を押すだけで容易にロックが解除される。」(段落【0011】(公報7欄48行〜8欄1行)) 以上の記載によれば、本件特許の出願当初の明細書に開示された「解除方法」は、「わずかに開いた開き戸を押す」ことであり、より具体的には「使用者が(開き戸を)強く押す」(上記(ii)〜(v)の記載)ことであり、その他の「解除方法」については何等記載されていない。(なお、上記(vi)にも「解除方法」に言及した記載があるが、引用する図19の実施例について「解除方法」に関する記載はなく、上記(vi)には「解除方法」についての実質的記載は認められない。) 一方、本件特許の各請求項に直接あるいは間接的に記載された「開き戸が閉止位置に戻る際にその動きで係止手段が係止解除される解除方法」という文言は、出願当初の明細書に開示された「開き戸を押す」こと、あるいは「使用者が(開き戸を)強く押す」こと以外に、例えば、吊り戸棚本体や家具本体等に別途設けた開き戸の「引き寄せ閉止手段」による方法、図20等に記載された「ばね付き蝶番」の閉じ方向への付勢力による方法等を含むものであり、そのような「引き寄せ閉止手段」や「ばね付き蝶番」等による「解除方法」が出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるとは到底いえない。 被請求人は、請求Aにおける答弁書(平成12年6月16日付)において、 「2.4 特許法第17条の2第3項の趣旨 請求人は実施例に含まれる不必要な構成要件を省略して発明を把握し特許請求の範囲として表現することを認めた特許法第36条の問題と新規事項(New Matter)を補正によって付加することを禁止する特許法第17条の2第3項の問題を混同している。 前者は特許請求の範囲が実施例の上位概念(……ここで用いる上位概念とは不必要な構成要件を省略したという意味)であるという特許請求の範囲と実施例相互の関係の問題であって、後者は当初の実施例に示されていなかった新規事項(New Matter)を補正によって付加し発明が拡大されることを禁止するという問題である。 前者も後者も実施例と比較して発明が一見”広くなる”ことは共適しているが前者によって”広くなる“との意味は不必要な構成要件を省略したから一見”広くなる”のでありこの意味では”本来開示されていた発明というものの範囲”を特許請求の範囲として最大に表現したに過ぎず新規事項(New Matter)の付加とは全く異質なものである。 本件特許においての……「開き戸の解除を伴って戻る」原因の力及び「閉じる方向の動きで係止解除」の原因の力のいずれも”不必要な構成要件”として省略したのであるから前者の問題であることは明らかである。」(14頁10行〜15頁3行) と述べ、新規事項の付加にあたらず、特許法第17条の2第3項の要件を満たすものである旨主張する。 しかし、上記「引き寄せ閉止手段」や「ばね付き蝶番」による「解除方法」は、出願当初の明細書に「解除方法」として「開き戸を押す」こと、あるいは「使用者が(開き戸を)強く押す」ことしか開示されていない以上、まさに新規事項であり、発明を拡大するものであり、被請求人がいう「特許法第36条だけの問題」とは到底いえない。 したがって、前記のとおり、本件特許の「解除方法」は、補正により新規事項を付加したものであり、その補正は、出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内でした補正であるとはいえないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものではない。 (2)上記請求Cにおける無効理由(キ)(ク)についての検討 請求人「松下電工株式会社」は、無効理由(キ)(ク)の1つの具体的事項として、請求項1記載の発明が、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、かつ、請求項1は平成10年5月3日付けの手続補正により加わった新規事項である旨主張する。 特許明細書の請求項1記載の発明は、「係止手段」を「軸で支持された係止手段とした地震時ロック及び解除方法」であり、「開き戸」を「弾性手段による戻り抵抗で開き保持して開き停止させ」、「前記(弾性手段による)戻り抵抗に抗して閉止位置に戻る」ことを構成の一部とするものであるが、発明の詳細な説明には「軸で支持された係止手段」に関しては、以下の記載が認められるだけである。 「【0007】図10は本発明の他の地震時ロック装置を示し、該ロック装置は図1と同様に家具、吊り戸棚等の本体(1)内(特にその天板下面)に固定された装置本体(3)を有する。すなわち図10は家具、吊り戸棚等の天板下面に固定された状態を上から見た図であり装置本体(3)の軸(3f)に回動可能に係止手段(4)が支持される。該係止手段(4)は先端一側に孫止部(4a)を有すると共に後端反対側に腕(4d)が延出する。係止手段(4)は通常の状態では図10に示す様にばね(4f)により腕(4d)が後方に退いた状態になっている。次に開き戸(2)の閉止状態ではそれに取り付けられた係止具(5)の係止部(5b)は係止手段(4)の係止部(4a)に近接している。この状態で地震が起こると図11に示す様に係止手段(4)が回動し腕(4d)の磁石(4e)が鋼板等の吸着体(7)に吸着する。同時に係止部(4a)は係止具(5)の係止部(5b)に突出することになる。更にゆれの力により図12に示す様に開き戸(2)がわずかに開くと係止手段(4)の係止部(4a)が引っ張られ磁石(4e)は吸着体(7)にほぼ密着状態になり強い力で吸着する。……すなわち地震のゆれの力で係止手段(4)が前進し前進位置で磁石(4e)の磁力(重力と併用せず)により吸着体(7)に吸着し開き戸(2)の係止具(5)を係止しロックするのである。このロック状態(図12の状態)では係止手段(4)の前面に接触して設けられた解除具(8)が図10の状態の位置から前方へ押され突出している。図示の様に装置本体(3)がマグネット(10)のマグネットキャッチ機能を有する場合にはマグネット(10)の先端位置より突出することになる。解除具(8)の突出に伴い装置本体(3)の支点手段(3e)の前端に解除具(8)の一側端が弾性手段(9)の力で突出する。ゆれの力が開き戸(2)を閉じる方向に作用し解除具(8)が退こうとしても磁石(4e)の吸着力(てこにより吸着力の数倍乃至数十倍の力)以上の力でなければ解除具(8)は退かない。従ってこの位置で開き戸(2)はロックされるのである。次に地震が終わり開き戸(2)を開くには使用者は開き戸(2)を強く押す。これにより図13に示す様に解除具(8)は支点手段(3e)を中心に回動し係止手段(4)を押して磁石(4e)が吸着体(7)から離れるのである。磁石(4e)が離れた後はばね(4f)の力で係止手段(4)は図10の初期状態へと戻ることになる。」 上記記載によれば、「軸で支持された係止手段」を有する地震時ロック及び解除方法の実施例においては、「開き戸」を「開き保持して開き停止させ」るのは「磁石(4e)」であって、「弾性手段」である「ばね(4f)」あるいは「弾性手段(9)」は上記「開き停止」に何等関与しておらず、「弾性手段による戻り抵抗で開き保持して開き停止させ」るものではない。 また、「開き戸」が「閉止位置に戻る」のは、「使用者」が「開き戸を強く押す」ことで「解除具(8)」が「支点手段(3e)を中心に回動し係止手段(4)を押して磁石(4e)が吸着体(7)から離れる」ことによりなされるものである上、「弾性手段」である「ばね(4f)」は、「磁石(4e)が離れた後はばね(4f)の力で係止手段(4)は図10の初期状態へと戻る」と記載されているように、「閉止位置に戻る」動作を補完する機能を有するものであり、「前記(弾性手段による)戻り抵抗に抗して閉止位置に戻る」のとは逆の作用をなすものであり、「弾性手段(9)」は上記「閉止位置に戻る」動きに何等関与していない。 被請求人は、請求Cにおける答弁書において、 「請求人は請求項1の「軸で支持」に対応する実施例は図10であるかのごとく主張し、図5(図18と図19も同様)の実施例の「ローラーRの軸」による係止手段の支持を「軸で支持」に該当しないものと意識的に除外し請求項1に対応する実施例でないとの主張をしている。 以上の請求人の主張は明細書にそのままの「用語」が用いられている場合にのみその請求項に対応する実施例であるとするものであり、この様な請求人の「用語」の形式的一致の主張は特許法に全く裏付けられない独自の主張である。 すなわち明細書にそのままの「用語」が用いられる必要は全くないのであり図面及び実施例の構成と作用の説明から技術的な意味において「軸で支持」に相当するか否かで判断すればいいのである すなわち具体的には図5の実施例は「軸で支持」に相当する実施例であり「ローラーRの軸」により係止手段は支持されている。 現に明細書の図5の係止手段(4)についての該公報第4欄第20行目の「支持はローラーRを介して支持されている」の「介して」の表現は装置本体(3)による最終的な支持へと「ローラーR」は中継しているに過ぎないことを明確にしているのであり「ローラーRの軸」が中継していることは明らかである。 ローラーR上の係止手段はローラーRを介して装置本体(3)に「ローラーRの軸」において支持され摩擦力の影響を減少されて動くことができるのである。 のみならず係止手段は待機状態でも係止状態でもその重量をローラーの軸で支持されているのであるから係止手段は「軸で支持」(その重量を支持)されると当然いうべきである。 一方ローラーRには「軸」のあるローラーと「軸」のないローラーがあるが、本件発明の図5のローラーRは図面に示される通り「軸」のある種類のローラーである(図面に軸が図示される)。 被請求人は開発過程でいずれのローラーについてもロック装置として機能することを確認したが、本件発明は「軸」のあるローラーを用い係止手段をローラーを介して「軸で支持」しているのである。 以上を要するに請求人は図10の実施例に限定すべき根拠として用語の形式的一致を主張しているのであり、その様な用語の形式的一致は特許法に全く裏付けられない独自の主張である。」(25頁3行〜26頁8行) と述べ、請求項1記載の発明は、発明の詳細な説明、特に図5等に記載した実施例の説明に記載されており、特許法第36条第6項に規定する要件を満たすものである旨主張する。 しかし、図5等に記載された「係止手段」は、「ローラー」上で摺動自在に支持されたものであり、明細書に「ローラーの軸」について何等記載されていない上、他に「軸(3f)」という明確な記載がある以上、図5等に記載された「係止手段」が「軸に支持」されたものとはいえない。 したがって、請求項1に係る発明は明細書の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 そして、上記請求項1は平成10年5月3日付け手続補正により加わったものであり、明細書の詳細な説明に記載されたものではないから、当該補正は新規事項を付加したものであり、その補正は、出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内でした補正であるとはいえないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものではない。 (3)むすび 以上、請求Aにおける無効理由(ア)には理由があり、本件の請求項1〜7に係る発明の特許は、特許法123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。 また、請求Bにおける無効理由(オ)には理由があり、本件の請求項3,6,7に係る発明の特許は、特許法123条第1項第1号に該当し、請求Bにおける他の無効理由について検討するまでもなく、無効とすべきものである。 さらに、請求Cにおける無効理由(キ)(ク)には理由があり、本件の請求項1〜7に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第1号及び同第4号に該当し、請求Cにおける他の無効理由について検討するまでもなく、無効とすべきものである。 審判に関する費用は、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定を適用して、いずれも被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2002-06-11 |
結審通知日 | 2002-06-14 |
審決日 | 2002-06-28 |
出願番号 | 特願平7-301860 |
審決分類 |
P
1
122・
537-
Z
(E05C)
P 1 122・ 55- Z (E05C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 五十幡 直子 |
特許庁審判長 |
山田 忠夫 |
特許庁審判官 |
長島 和子 山口 由木 |
登録日 | 1999-01-14 |
登録番号 | 特許第2873441号(P2873441) |
発明の名称 | 地震時ロック方法、装置及びその解除方法 |
代理人 | 吉田 和夫 |
代理人 | 平野 和宏 |
代理人 | 中村 敬 |
代理人 | 安田 敏雄 |
代理人 | 小松 陽一郎 |
代理人 | 安田 敏雄 |