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審決分類 審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  G03G
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G03G
審判 全部申し立て 2項進歩性  G03G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03G
管理番号 1062808
異議申立番号 異議2000-74599  
総通号数 33 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-05-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-12-26 
確定日 2002-08-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第3057514号「静電現像剤及び静電現像方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3057514号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 I 手続きの経緯
本件特許第3057514号は、平成2年10月1日に出願され、平成12年4月21日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後キャノン株式会社、ミノルタ株式会社およびコニカ株式会社よりそれぞれ特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その意見書の提出期間内である平成13年7月13日に訂正請求がなされたものである。

II 訂正請求について
平成13年7月13日付けの訂正請求は、本件特許公報の誤植を訂正しようとするものであり、願書に添付した明細書の訂正を請求するものではない。したがって、本件において訂正請求がなされたとは認められない。
なお、本件特許公報の1頁、【請求項1】に記載の「・・・と接着剤」、【請求項3】に記載の「・・・静電現像剤(0.2〜0.9)」は、願書に添付した明細書ではそれぞれ「・・・と着色剤」、「・・・静電現像剤の(0.2〜0.9)」と記載されている。

III 特許異議の申立について
1 本件発明
本件請求項1〜3に係る発明は、本件明細書および図面の記載からみて特許請求の範囲、請求項1〜3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 少なくともバインダー樹脂と着色剤と荷電制御剤と添加剤とを含有するトナーと、キャリアとからなる静電現像剤において、
前記トナーの体積平均粒径は(5〜8)μmの範囲内にあり、該トナーの個数平均粒径は(4〜7)μmの範囲内にあり、粒径が(4〜8)μmの範囲内にある該トナーの個数比率は(50〜95)%の範囲内にあり、
前記添加剤はトナーの前記体積平均粒径よりも小なる粒径を有し、トナーの単位表面積当たりの該添加剤の添加率は(3〜50)×10-7g(添加剤)/cm2(トナー表面積)の範囲内にあり、且つ、
前記キャリアの粒径は(20〜105)μmの範囲内にあることを特徴とする静電現像剤。
【請求項2】 前記トナーは更に磁性粉を含有し、トナー中の該磁性粉の含有率が(5〜30)重量%の範囲内にある請求項1記載の静電現像剤。
【請求項3】 請求項1又は2記載の静電現像剤を(0.2〜0.9)mmの範囲内の現像ギャップのもとで現像する静電現像方法。」

2 特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人 キャノン株式会社は、
甲第1号証 特開平2-877号公報(以下、「刊行物1」という)
甲第2号証 特開平2-48678号公報(以下、「刊行物2」という)
を提出して、
請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、請求項1〜3に係る発明の特許は、拒絶しなければならない特許出願に対して特許されたものであるからその特許を取り消すべき旨主張する。
特許異議申立人 ミノルタ株式会社は、
甲第1号証 特開平2-877号公報(刊行物1に同じ)
甲第2号証(イ) 特開昭60-176056号公報(以下、「刊行物3」という)
甲第2号証(ロ) 特開昭60-184261号公報(以下、「刊行物4」という)
甲第2号証(ハ) 特開昭60-191273号公報(以下、「刊行物5」という)
参考資料1 特開昭60-172060号公報(以下、「刊行物6」という)
参考資料2 特開平1-112253号公報(以下、「刊行物7」という)
を提出して、
(i)請求項1、3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に該当し、また請求項1、3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないこと、
(ii)請求項2に係る発明は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないこと、
により、請求項1〜3に係る発明の特許は、拒絶しなければならない特許出願に対して特許されたものであるからその特許を取り消すべき旨主張する。
特許異議申立人 コニカ株式会社は、
甲第1号証 特開平2-877号公報(刊行物1に同じ)
甲第2号証 井伊谷鋼一編「粉体工学ハンドブック」朝倉書店(昭和40年3月5日発行)第65〜79頁(以下、「刊行物8」という)
甲第3号証 特開平1-185556号公報(以下、「刊行物9」という)
を提出して、
(i)請求項1、3に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないこと、
(ii)請求項1に係る特許請求の範囲の記載は不明瞭であり、また、当業者が容易に実施できる程度に記載されていないから、特許法第36条の規定を満たさないこと、
により、請求項1、3に係る発明の特許は、拒絶しなければならない特許出願に対して特許されたものであるからその特許を取り消すべき旨主張する。

3 各刊行物の記載事項
刊行物1には、
ア.「5μm以下の粒径を有する非磁性トナー粒子が17〜60個数%含有され、8〜12.7μmの粒径を有する非磁性トナー粒子が1〜30個数%含有され、16μm以上の粒径を有する非磁性トナー粒子が2.0体積%以下含有され、非磁性トナーの体積平均粒径が4〜10μmであり、5μm以下の非磁性トナー粒子群が下記式
N/V=-0.04N+k
〔式中、Nは5μm以下の粒径を有する非磁性トナー粒子の個数%を示し、Vは5μm以下の粒径を有する非磁性トナー粒子の体積%を示し、kは4.5乃至6.5の正数を示す。但し、Nは17乃至60の正数を示す。〕を満足する粒度分布を有することを特徴とする非磁性トナー。」(特許請求の範囲)に関する発明が記載され、
イ.「〔技術分野〕
本発明は、電子写真、静電写真、静電記録の如き画像形成方法における静電荷潜像を顕像化するための一成分系現像剤用または二成分系現像剤用非磁性トナーに関する。」(第1頁右下欄第2〜6行)こと、
ウ.「本発明の非磁性トナーには荷電制御剤をトナー粒子に配合(内添)、またはトナー粒子と混合(外添)して用いることが好ましい。荷電制御剤によって、現像システムに応じた最適の荷電量コントロールが可能となり特に本発明では粒度分布と荷電のバランスをさらに安定したものとすることが可能であり、荷電制御剤を用いることで先に述べたところの粒径範囲毎による高画質化のための機能分離および相互補完性をより明確にすることができる。」(第7頁左上欄第10〜19行)こと、
エ.「本発明の非磁性トナーにはシリカ微粉末を添加することが好ましい。本発明の特徴とするような粒度分布を有する非磁性トナーでは.比表面積が従来のトナーより大きくなる。・・・
本発明に係る非磁性トナーと、シリカ微粉末を組み合わせるとトナー粒子とキャリアまたはスリーブ表面の間にシリカ微粉末が介在することで磨耗は著しく軽減される。これによって、非磁性トナーおよびキャリアまたは/およびスリーブの長寿命化がはかれると共に、安定した帯電性も維持することができ、・・・二成分系現像剤とすることが可能である。
さらに、本発明で主要な役割をする5μm以下の粒径を有する非磁性トナー粒子は、シリカ微粉末の存在でより効果を発揮し、高画質な画像を安定して提供することができる。」(第7頁右下欄第5行〜第8頁左上欄第7行)こと、
オ.「本発明に使用し得るキャリヤーとしては、例えば鉄粉、フェライト粉、ニッケル粉の如き磁性を有する粉体及び・・・があげられる。非磁性トナー10重量部に対して、キャリア10〜1000重量部(好ましくは30〜500重量部)使用するのが良い。磁性キャリアの粒径としては体積平均粒径4〜100μm(好ましくは10〜50μm)のものが小粒径非磁性トナーとのマッチングにおいて好ましい。」(第10頁左下欄第16行〜右下欄第6行)こと、
カ.「このトナー担持体102の両端には図示されていないが、その軸に高密度ポリエチレンからなるスペーサ・コロが入れてある。このスペーサ・コロを静電像保持体101の両端につき当てて現像器を固定することにより、静電像保持体101とトナー担持体102との間隔をトナー担持体102上に塗布されたトナー層の厚み以上に設定し保持する。この間隔は例えば100μ〜500μ、好ましくは150μ〜300μである。・・・この間隔が狭すぎるとトナー担持体102と静電像保持体101との間で圧縮され凝集されてしまう危険性が大となる。」(第12頁右上欄第14行〜左下欄第9行)こと、
キ.実施例1には、スチレン/アクリル酸ブチル/ジビニルベンゼン共重合体、ニグロシン、低分子量プロピレン-エチレン共重合体、カーボンブラックからなる材料を混練、粉砕、分級して体積平均粒径7.7μmの非磁性トナーを作成し、該非磁性トナー100重量部に対してBET比表面積200m2/gの正荷電性疎水性乾式シリカ0.5重量部を混合して非磁性トナー外添品とし、さらに該非磁性トナー外添品10部と、体積平均粒径40μmのフェライトキャリア90部を混合して、正帯電性の二成分非磁性現像剤とした」(第13頁左上欄第3行〜右下欄第10行)こと、
ク.第1表には、実施例1で作成された非磁性トナーを、粒径2.00μm〜50.80μmの間を14段階に区切って、各粒径範囲に含まれる粒子を分級分析して、各範囲に属する個数、個数%、体積%を算出したこと、それによれば、各粒径範囲に含まれる粒子個数は、1581個(2.00〜2.52μm)、4125個(2.52〜3.17μm)、9117個(3.17〜4.00μm)、18908個(4.00〜5.04μm)、25970個(5.04〜6.35μm)、28560個(6.35〜8.00μm)、17300個(8.00〜10.08μm)、3000個(10.08〜12.70μm)、101個(12.70〜16.00μm)、0個(16.00μm以上)であり、2.00〜4.00μmの範囲の累積値は、13.6個数%、および、1.5体積%、2.00〜8.00μmの範囲の累積値として、81.2個数%、および、58.4体積%であったこと、が記載されている。
刊行物2には、
ケ.「画像担体表面に静電潜像を形成し,この画像担体表面と0.2〜0.5mmの間隙を介して配設しかつ内部に磁界発生部材を備えた非磁性材料からなるスリーブ上に磁性キャリアと磁性トナーとを混合してなる現像剤を供給し,前記スリーブ上に形成した磁気ブラシで前記画像担体表面を摺擦することによって前記静電画像を現像する静電荷像現像方法において,37〜130μmの粒度分布を有する磁性キャリアを提供することを特徴とする静電荷像現像方法。」(特許請求の範囲)に関する発明が記載され、発明の目的として、
コ.「磁性キャリアと磁性トナーとを混合してなる現像剤を使用する静電荷像現像方法において,画像担体の表面の傷発生を防止すると共に,鮮明な画像を得ることができる静電荷像現像方法を提供することを目的とする。」(第2頁右上欄第8〜13行)こと、
「本発明おいて,磁性キャリアの粒度分布が130μmを越えると画像担体の表面に傷を発生させるため不都合である。一方上記粒度分布が37μm未満であると,現像領域において磁性キャリアが画像担体の表面に付着するいわゆるキャリア引きを発生し,画質を低下させるため好ましくない。」(第2頁左下欄第7〜13行)こと、
サ.「次に,磁性トナー中に含有される磁性粉の量も,高品質の画像を得る上で重要である。磁性粉の含有量が30重量%未満であると,磁性トナーの飽和磁化が大幅に低下し,スリーブ上から磁性トナーが離脱し易くなり,トナーの飛散が生じる。一方,磁性粉の含有量が60重量%を越えると,定着性が低下する。したがって磁性粉の含有量は,30〜60重量%の範囲とするのが好ましい。」(第2頁左下欄第20行〜右下欄第7行)こと、
シ.「また,本発明に用いる磁性トナーは,定着用樹脂と磁性粉と,必要に応じ種々の添加物・・・を加えて,調整される。」(第2頁右下欄第8〜11行)こと、
ス.「流動性改質剤としては,疎水性シリカがよく用いられている。これらの添加量は,多すぎるとトナーの定着性を損なうので,一般には10重量%以下とされる。
各種組成より成るトナーは、通常の一成分現像剤と同様に5〜30μm(好ましくは10〜20μm)の平均粒径に調整される。」(第3頁左上欄第11〜17行)こと、
セ.「現像ギャップは,磁気ブラシと感光体との接触を確保するために1.0mm以下が適当であるが,磁気ブラシが感光体に軟らかく接触するために0.2mm以上が望ましく,好ましい範囲は0.2〜0.5mmである。」(第3頁右上欄第11〜15行)こと、
ソ.実施例では、現像ギャップ0.3mmの現像装置に、磁性トナーとフェライトキャリアからなる現像剤を用いて画像評価を行っており、例えば、粒度分布74〜105μmのキャリアNo.3を使用した例では、2万枚複写後においても、キャリア付着やドラム傷の発生がなく良好な結果を得たこと、が記載されている。
刊行物3には、
タ.「(1)磁気ローラを内蔵した現像スリーブ上で、磁気ローラまたは/および現像スリーブの回転に基づいて、キャリアと磁性トナーとの混合物からなる粉体現像剤を撹拌・混合しつつ一方向に循環搬送し、該粉体現像剤にて静電潜像担体表面に担持された静電潜像を現像すると共に、前記現像スリーブ上に磁性トナーを適宜補給する静電潜像現像法」(特許請求の範囲)に関する発明が記載され、発明の目的として、
チ.「本発明の目的は、現像剤中における前記逆帯電トナーの混合比を一定値以下に押えることにより、前記(a),(b)の現象発生を防止し、常時十分な濃度の現像画像を得ることのできる静電潜像現像方法を提供することにある。」(第2頁左下欄第16〜20行)こと、
ツ.実施例においては、平均粒径が50μmの磁性キャリア、平均粒径が13.1μmの磁性トナー(A)、同じく13.5μmの磁性トナー(B)、同じく12.7μmの磁性トナー(C)、同じく14.2μmの磁性トナー(D)、同じく13.7μmの磁性トナー(E)および同じく14.2μmの磁性トナー(F)を作製したこと(第3頁左下欄第14行〜第4頁右上欄第14行)、
テ.現像スリーブと潜像担持体とのギャップd1は、0.5mmとしたこと(第4頁右上欄第11行および第3図)、磁性トナー中の磁性粉の含有率について、
ト.「前記磁性粉の含有率は、現像剤の搬送性、現像性にも影響を与えるが、複写紙上への定着性との関連が特に強く、常識的範囲として5〜40wt%とする。5%以下ではトナー飛散が生じ易いし、40wt%以上ではトナーの定着性が不良となる。・・・磁性微粉末の含有量が多くなると定着強度が低下する傾向が見られ、40wt%を越えると実用範囲外に急激に低下することが確認された。なお、トナーが非磁性(磁性微粉末5wt%以下を含む)であると、前記現像装置(20)を用いたタイプの現像では非磁性トナーは摩擦帯電し難い。トナーが磁性を有すると、トナーも磁気ローラ(22)による磁気撹拌作用を受けるため、現像スリーブ(21)上を搬送される過程でキャリアと十分に撹拌・混合され、かつ飛散が防止されるのである。」(第6頁左上欄第4行〜右上欄第5行)こと、が記載されている。
刊行物4には、
ナ.「樹脂中に磁性体を40〜90重量%含有する第1の絶縁性磁性粉体と、磁性体を6〜60重量%、樹脂とニグロシンとの共存重合体を1〜40重量%、ニグロシンと樹脂とを機械的に粉砕し混練したマスターバッチを1〜20重量%樹脂中に含有する第2の絶縁性磁性粉体との混合物から成る乾式現像剤。」(特許請求の範囲)、
ニ.「本発明の目的は、画像品質に優れ、環境変化及びコピーの耐久性に対しても画像品質が安定で、静電転写が可能で負極性の静電潜像の顕像化の可能な乾式現像剤を提供することである。」(第2頁右下欄第15〜18行)こと、
ヌ.実施例1には、スチレン-アクリル樹脂、マグネタイト、共存重合体、マスターバッチ、ワックスの混合物を溶融、混練、粉砕、分級して平均粒径12μmの粉体を作り、この粉体にエアロジルRA-200Hをコーティングして磁性粉の含有率が25重量%の磁性トナー粉体とし、別に、スチレン-アクリル樹脂とマグネタイトとからなる混合物を溶融、混練、粉砕、分級して平均粒径30μmのキャリア粒子を作製して、現像剤としたこと(第4頁左上欄第4行〜右上欄第13行)、が記載されている。
刊行物5には、
ネ.「(1)樹脂中に磁性体を含有し、平均粒径が100μmの絶縁性磁性キャリア粒子と、樹脂中に磁性体を含有し、平均粒径が30μm以下の絶縁性磁性トナー粒子とからなる乾式現像剤であって、前記トナー粒子の樹脂がポリマー分子中に少なくとも1個以上の窒素元素を含有していることを特徴とする乾式現像剤。・・・(略)・・・
(3)トナー粒子が表面処理微粒子でコーティングされていることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の乾式現像剤。」(特許請求の範囲)、
ノ.「本発明の目的は、画像品質に優れ、環境変化に対しても画像品質が安定で、静電転写が可能な、負極性の静電潜像の顕像化が可能な乾式現像剤を提供することである。」(第2頁左下欄第8〜11行)こと、
ハ.実施例1に、アミン変性スチレン-アクリル樹脂、マグネタイト、ニグロシン系電荷制御剤、離型剤の混合物を溶融、混練、粉砕、分級して平均粒径12.3μm、約5〜25μmの粒度巾の磁性粉体を作り、この磁性粉体にエアロジルRA-200Hをコーティングして磁性粉の含有率が25重量%の磁性トナー粉体とし、別に、アミン変性スチレン-アクリル樹脂とマグネタイトとからなる混合物を溶融、混練、粉砕、分級して平均粒径28μm、粒度巾約8〜50μmのキャリア粒子を作製して現像剤としたこと(第3頁右下欄第11行〜第4頁左上欄第19行)、が記載されている。
刊行物6には、
ヒ.「この比表面積の値は、コールターカウンターを用いて測定した平均粒径を基に、トナーが真球であると仮定して計算した有効比表面積である。即ちコールターカウンターで求めた体積平均粒径から得られるトナーの半径をr(cm)とし、トナーの真比重をρ(g/cm3)とした場合、下記式

St=3/r・ρ(cm2/g)
式中Stはトナーの比表面積を示す。
で計算された値である。」(第9頁右下欄第5〜14行)こと、が記載されている。
刊行物7には、
フ.実施例1として、スチレン-アクリル酸ブチル共重合体100重量部、四三酸化鉄80重量部、ニグロシン4重量部、低分子量プロピレン-エチレン共重合体4重量部を溶融、混練、粉砕、分級して一成分磁性トナーを製造したこと(第12頁左下欄第11行〜右下欄第7行)、
ヘ.該トナーの真密度は、1.56g/cm3であったこと(18頁、第3表)、が記載されている。
刊行物8には、
ホ.「したがって粒子の粒子形態および粒度分布がわかっていれば(5.2)式から比表面積Swを求めることができる.しかし一般には粉体が均一な球形または立方体の粒子(k=6)からなると仮定して簡単に(5.3)式で示すことが多い。
Sw=6/ρDm (5.3)
Dmは比表面積径とよばれ個数分布の体面積平均径D3=ΣnD3/ΣnD2に相当する。」(第65頁第15〜19行)こと
マ.比表面積の測定法には、気相吸着法、液相吸着法、湿潤熱法、透過法、拡散速度法、溶解および反応速度法などの方法が知られていること(第66頁第1行〜第77頁第25行)、
ミ.「測定法に原理的な差があるので得られた比表面積の意味は必ずしも同じではない.BET法に代表される不活性気体の物理吸着による値は吸着気体や測定条件を選択すれば基準となる比表面積が得られる.また多孔質粉体の空孔分布や内部表面積も測定できるので都合がよい.しかし,関係する現象によってはこの比表面積は必ずしも正しい値を与えているとはいえない.・・・
液相吸着ではまず溶媒の影響を考えねばならず,また試料と吸着質の組み合せによっては物理吸着だけでなく化学吸着の考慮をはらわねばならない.また,一般に気体分子より大きな吸着質を用いるので,BET法との比較から粒子表面の粗度を推定することができる.液相吸着法はむしろ粒子表面のいろいろな特性を知るために有利な方法であるといえる.同じく液相でおこなう湿潤熱法は表面粗度の大きい試料では誤差が大きい.
透過法は吸着法に比してはるかに多くの仮定の上にたっているので比表面積測定法としての精度はあまりよくない.また特に,Kozeny-Carman式による場合は試料層の充填度と,測定限界に注意せねばならない.」(第77頁第26行〜第78頁第6行)こと、が記載されている。
刊行物9には、
ム.「一成分の構成材料から成り小孔透過法により得られた表面積(SC)と吸着法により得られた表面積(SB)との比(SC/SB)が1以上7以下であることを特徴とする現像剤。」(特許請求の範囲)、
メ.「しかしながら、現像剤の粒子の形状は不定形でしかも角張っている。そのために摩擦帯電の際に、粒子の角が削られて多量の微粉が発生してしまう。この微粉は充分に帯電されていないので帯電されている現像剤とは逆極性であり、そのため非画像部に現像剤が付着してかぶりが生じる虞れがある。本発明は、上記課題を解決するためになされたものでかぶりが生じない画像を得られる現像剤を提供することを目的とする。」(第1頁右下欄第1〜10行)こと、
モ.「以上のようにして形成された現像剤の表面積を測定する。まず小孔透過法で測定する。小孔透過法とは、以下の手順で行うものである。・・・この抵抗変化を電圧パルスで検出し、パルスの数と大きさを自動計数し粒度分布を求めて、表面積を求める。」(第2頁右下欄第20行〜第3頁左上欄第10行)こと、
ヤ.「このSB/SCは、値が小さいほどトナーの粒子の表面が滑らかなことを表すものである。計算の結果、比SB/SCは、1以上7以下であった。つまり、本発明のトナーの粒子の表面が滑らかであることが判明した。」(第4頁左上欄第7〜12行)こと、が記載されている。

4 当審の判断
(1)特許法第29条第1項違反について
刊行物1には、少なくともバインダー樹脂と着色剤と荷電制御剤を含有するトナーとキャリアとからなる静電現像剤であること、トナーの体積平均粒径が4〜10μmであること、シリカ微粒子すなわち添加剤を外添すること(キ)、体積平均粒径が4〜100μm(好ましくは10〜50μm)の範囲のキャリアを使用すること(オ)、が記載されており、実施例1として示されている非磁性トナーを見ると、体積平均粒径が7.7μmであり、該トナー100重量部に正荷電性疎水性乾式シリカ0.5重量部が外添されている(キ)。そして、該トナーは、第1表の数値に基づけば、該トナーの個数平均粒径は、5.04〜6.35μmの範囲内に存在し、粒径が4〜8μmの範囲内にあるトナーの個数比率は、67.6%と計算される。
また、刊行物1には、トナーの単位表面積当たりの添加剤の添加率について、記載していないが、トナーの比表面積Sは、S=3/(r・ρ)[cm2/g](但しrは体積平均粒径から得られるトナーの半径[cm]、ρはトナーの真比重[g/cm3])から求められる(ヒ、ホ)ことから、該式に従って、実施例1のトナーの単位表面積当りの添加剤の添加率を計算すると(但し、非磁性トナーの真比重は通常1.1〜1.2程度であるが、念のため1.0〜1.3の範囲でトナーの単位表面積当りの添加剤の添加率を求める。)、6.4×10-7g/cm2〜8.3×10-7g/cm2となり本件請求項1で規定する範囲内である。
(なお、本件特許明細書の実施例に記載されているDn50、Dv50の記載から、本件発明における体積平均粒径および個数平均粒径は、メディアン径を意味するものと考えられ、それに対して、刊行物1のものは算術平均径と推定される。しかしながら、その平均値の取り方の相違をも含めて考慮しても、刊行物1に記載された結果から算出される添加率は、本件発明で規定する範囲内のものと認められる。)
そこで、請求項1に係る発明と、刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、
「少なくともバインダー樹脂と着色剤と荷電制御剤と添加剤とを含有するトナーと、キャリアとからなる静電現像剤において、
前記トナーの体積平均粒径は(5〜8)μmの範囲内にあり、該トナーの個数平均粒径は(4〜7)μmの範囲内にあり、粒径が(4〜8)μmの範囲内にある該トナーの個数比率は(50〜95)%の範囲内にあり、
前記添加剤はトナーの前記体積平均粒径よりも小なる粒径を有し、トナーの単位表面積当たりの該添加剤の添加率は(3〜50)×10-7g(添加剤)/cm2(トナー表面積)の範囲内にあることを特徴とする静電現像剤。」
である点で一致する。
しかしながら、キャリアの粒径に関して、請求項1に係る発明が、「キャリアの粒径は(20〜105)μmの範囲内にある」ことを規定するのに対して、刊行物1においては、体積平均粒径として4〜100μm(好ましくは10〜50μm)(オ)、40μm(キ)と記載する点で相違する。
ところで、粒径の範囲とは、粉体粒子集合体中に存在する最大粒径と最小粒径との及ぶ範囲を示すものであり、一方、平均粒径とは、分布の代表値を示すものであるから、両者は、意味するところが相違し、一方の数値が決まれば、必然的に他方の数値が定まるという関係にはない。
したがって、両者は、キャリアの粒径に関して、文言上も、実質的にも同一とはできないから、請求項1に係る発明は刊行物1に記載された発明であるとは認められない。
また、請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の構成をすべて引用した上で、さらに、磁性粉を特定範囲の含有量で含有することを規定するものであり、請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明の静電現像剤を特定の現像ギャップの範囲内で使用することを特徴とするものであるから、請求項1に係る発明が、刊行物1に記載された発明と同一でない以上、請求項2および3に係る発明も、同じ理由により、刊行物1に記載された発明と同一であるとすることはできない。
よって、請求項1〜3に係る発明は、刊行物1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

(2)特許法第29条第2項違反について
請求項1に係る発明と、刊行物1に記載の発明を対比すると、上記のとおりの相違点が存在する。
以下、相違点について検討する。
刊行物2には、キャリア粒子の粒径範囲を示す記載として、37〜130μmの範囲が記載され(ケ)、実施例No.3には、74〜105μmの範囲(ソ)が記載されている。しかしながら、刊行物2に記載された発明において、他の構成要素とともに、キャリア粒子の粒径範囲を37〜130μmとする理油は、潜像担持体表面の傷を防止し、鮮明な画像を形成する現像方法を提供すること(コ)にあり、本件発明の、高画質(耐久後の画像濃度及び、かぶり防止)ならびに、クリーニング性の向上という目的とは相違するものである。そして、刊行物2の実施例No.3こそ、キャリアの粒径範囲74〜105μmと本件特許明細書の請求項1に規定する範囲内であるが、他の実施例では、37〜130μm(No.1)、44〜120μm(No.2)と、本件特許明細書の比較例で明らかに効果なしとする領域においても、良好な効果を挙げているし、逆に、23〜73μm(No.5)として、本件発明の規定範囲内に該当する例で、発明の効果を否定している。したがって、刊行物1に記載された二成分現像剤のキャリアを、刊行物2に記載されたキャリアで置き換えて、本件の請求項1に係る発明の構成に到達する動機が存在しない。
また、刊行物3〜7は、キャリア粒子について平均粒径を規定する記載のみで、粒径の分布範囲を記載していないから、請求項1に係る発明で規定する粒径の分布範囲に導く根拠が存在しない。刊行物8は、比表面積の計算、測定法について一般的な説明をするのみで、キャリアの粒径ついての記載はない。刊行物9は、現像剤に関し記載するものであるが、粒径「20〜105μm」のキャリアについて何ら記載がない。
なお、特許異議申立人 ミノルタ株式会社は、審尋に対する平成13年9月12日付け回答書において、参考資料1〜3を提出して、二成分現像剤に粒径37〜105μmの分布範囲を有するキャリアを使用することは周知である旨、申し立てるが、参考資料1は、上記刊行物2と同一証拠であり、参考資料2、3(特開昭63-13056号公報、特開昭63-216060号公報)に記載されたキャリアも、体積平均粒径が5〜8μmで、かつ個数平均粒径が4〜7μmのトナーと組み合わせることは示されていない。それゆえ、本件特許の出願前に、粒径範囲37〜105μmのキャリアが知られていたとしても、それを、本件請求項1に規定する要件に合致するトナーと組み合わせることで、5万枚の現像後においても、画像濃度、かぶり、画質が良好なことと合わせて、クリーニング性においても優れた成績を示すという本件発明の効果が予測できたものとすることはできない。
したがって、請求項1に係る発明は、刊行物1に記載の発明に対して、刊行物2〜9、および上記参考資料1〜3のいずれに記載された発明を組み合わせたところで、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、請求項2に係る発明は、上記したように請求項1に係る発明の構成をすべて引用した上で、さらに、磁性粉を特定範囲の含有量で含有することを規定するものであり、請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明の静電現像剤を特定現像ギャップの範囲で使用することを特徴とするものであるから、請求項1に係る発明が、刊行物1〜9に記載の発明から容易に発明できたものでない以上、請求項2、3に係る発明も、同じ理由により、刊行物1〜9に記載の発明から当業者が容易に発明できたものとすることはできない。
よって、請求項1〜3に係る発明は、刊行物1〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)特許法第36条違反について
特許異議申立人コニカ株式会社が、本件明細書の請求項1の記載に対して特許法第36条違反を申し立てる理由は、刊行物8、9(コニカ株式会社提出の甲第2,3号証)に記載されているように、比表面積の測定方法には、各種の方法が存在し、方法が相違すれば得られる数値も相違するから、特許請求の範囲請求項1において、比表面積の測定方法を規定していない点で、特許請求の範囲の特定ができず、当業者が容易に実施できない、とするものである。
なお、異議申立人は「明細書の記載不備」について、「第36条」という条文を示すだけであるが、主張の内容からみて本件では「第36条第3項および第4項」に関する主張であると認める。
ところで、刊行物8には、粉体の比表面積の測定方法について説明されており、その方法には、気相吸着法をはじめとして幾種類かの測定法があること(マ)、同一の試料を測定しても、測定方法によって得られる数値に相違が見られること(ミ)が記載されている。しかしながら、「BET法に代表される不活性気体の物理吸着による値は吸着気体や測定条件を選択すれば基準となる比表面積が得られる。」(ミ)という記載によれば、むしろ、気相吸着法が一般的な測定法であることが読みとれる。そして、該記載からも勿論のこと、測定原理からみても、単分子層として物理吸着した気体分子の吸着断面積をもとに計算する気相吸着法が、標準的なものであり、正確さの点でも優れていることは、容易に理解できることである。さらに、刊行物8に記載された一般論としてでなく、トナー粒子の比表面積の測定において、気相吸着法、就中、BET法が普通に使用されていることは、この分野ではよく知られていることである。
したがって、本件の特許明細書に、トナーの比表面積を求めるための測定方法が明記されていないとしても、特許明細書に請求項1の記載がそのことにより不明瞭となり、また発明が容易に実施できないというものではない。
また、刊行物9には、トナー粒子に適用される比表面積の測定法として、小孔透過法という気体吸着法以外の測定法が記載されているが、刊行物9に記載された発明は、一成分現像剤の粒子の形状が不定形で角張っているために、摩擦帯電の際に粒子の角が削られて多量の微粉が発生することが原因で、かぶりが生じるのを防止する(メ)という特定の目的を達成するために、トナー表面の滑らかさを評価するための指針として(ヤ)、小孔透過法により得られた表面積(SC)と吸着法により得られた表面積(SB)との比(SC/SB)(ム)という独特の指標を見出したことに基づく発明であるから、そこに小孔透過法という、気体吸着法以外の測定法が記載されているからといって、それが、トナー粒子の比表面積を求めるために通常使用される一般的方法であるとは言えない。
したがって、本件特許明細書の記載は、上記した点について不備はなく、特許法第36条第3項および第4項に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

IV むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1〜3に係る発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対して付与されたものと認めないから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-07-11 
出願番号 特願平2-263309
審決分類 P 1 651・ 532- Y (G03G)
P 1 651・ 531- Y (G03G)
P 1 651・ 113- Y (G03G)
P 1 651・ 121- Y (G03G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福田 由紀  
特許庁審判長 嶋矢 督
特許庁審判官 植野 浩志
阿久津 弘
登録日 2000-04-21 
登録番号 特許第3057514号(P3057514)
権利者 日立金属株式会社
発明の名称 静電現像剤及び静電現像方法  
代理人 渡邉 敬介  
代理人 豊田 善雄  

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