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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 G11B 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 G11B 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G11B |
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管理番号 | 1062922 |
異議申立番号 | 異議2002-71088 |
総通号数 | 33 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-05-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-04-30 |
確定日 | 2002-08-19 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3223238号「磁気記録媒体」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3223238号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.本件発明 本件特許第3223238号(平成8年11月7日出願、平成13年8月17日設定登録。)の請求項1、2に係る発明のうち、特許異議申立された請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】「 非磁性基板上に少なくとも強磁性薄膜層と保護膜層とを設けた磁気記録媒体において、保護膜層は炭素系又は酸化セラミックス系のうちから選択されるものであり、該保護膜層の表面に化学式 【化1】HOCH2-CF2O-(CF2CF2O)p-(CF2O)q-CF2-CH2OH [式中、p,qは整数、数平均分子量は 500〜5000である。] で表される含フッ素化合物と、化学式 【化2】HO-CH2CH(OH)-CH2OCH2CF2O-(CF2CF2O)p-(CF2O)q-CF2CH2OCH2-CH(OH)CH2-OH [式中、p,qは整数、数平均分子量は 500〜5000である。] で表される含フッ素化合物とを混合した潤滑層を有することを特徴とする磁気記録媒体。」 2.申立ての理由の概要 特許異議申立人・株式会社コーエンは、証拠として甲第1号証(特開平8-67888号公報)、及び甲第2号証(セパレックス社の分析結果)、甲第3号証(アウジモント社の証明書)、甲第4号証(特開平3-153645号公報)を提出し、次の取消しの理由1〜3を主張している。 理由1:本件発明1は、甲第2号証と甲第3号証を勘案して、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許は取り消されるべきである旨、乃至、 理由2:本件発明1は、甲第2号証と甲第3号証を勘案して、甲第1号証と甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許は取り消されるべきである旨、 理由3:本願には記載不備があるから、特許法第36条第4項の規定により特許は取り消されるべきである旨。 3.甲第1〜4号証の記載 甲第1号証には、次のような記載がある。 (1-i)「【請求項9】 (a)請求項1〜8のいずれか一項に記載の減摩性組成物のコーティングを基板表面に適用する工程、及び(b)前記コーティングを乾燥して過フッ素化溶剤を除去する工程を含む、基板の減摩方法。」こと(第3頁左欄請求項9参照)、 (1-ii)「【0001】【発明が属する技術分野】 本発明は、ペルフルオロポリエーテル減摩剤(lubricant) と溶剤として過フッ素化化合物を使用して、磁気媒体、ビデオテープ、オーディオテープの減摩を行う方法に関する。別の態様では、本発明は、このような方法に有用な減摩性コーティング組成物に関する。」こと(段落【0001】参照)、 (1-iii)「【0058】【化24】 (m) HOCH2CH(OH)CH2OCH2-CF2-O-(CF2CF2O)n-(CF2O)p-CF2-CH2OCH2CH(OH)CH2OH 【0059】上式中、n及びpは整数であって、それぞれ減摩剤の数平均分子量が1000〜5000の範囲に入るような独立した値を有する。〔このような化合物の一例は、Montedison S.p.A (Milan, Italy) 製のFOMBLIN Z-TETRAOL として市販されているものである〕;」こと(段落【0058】〜【0059】参照)。 甲第2号証は、SEPAREX社による、AUSIMONT社のZ-TETRAOLのRMN分析結果のコピー(全1頁)であり、次のような記載がある。 (2-i)分析方法が「PF 30/26E(Ausimont)」であり、Z-Teraol lotN0がBL6798であり、FRACTIONがBL6798であること、 (2-ii)Mn=2690dalton、n/m=0.90、Weight Eq.=676dalton、Functionality=4.0であること、 (2-iii)moles of Z-DOL X=0.12 per mole of total product、 moles of Z-TERAOL monoaduct Y=0.73 per mole of total product、 moles of Z-TERAOL bis-aduct Z=0.15 per mole of total product、 Average number of OH [OH]=2.0 per functional end groupであること、 (2-iv)08/01/1999の日付で「V.PERRVT」の署名。 なお、SEPAREX社のホームページの写しが、別途参考資料として添付されている。 甲第3号証は、AUSIMONT社のDr.Maurizio Gastaldi(署名有り)/Fluids Business Managerによる、当社のFOMBLIN Z TERAOL が、1988年11月にイタリア国Bollate(MI)において製造を開始し、製造の日から現在に至るまで、製造方法および組成のいずれもが全く変更されていないことを証明しようとする書類のコピーである。 甲第4号証には、次のような記載がある。 (4-i)「発明の分野 本発明は、薄膜ディスクを潤滑化する方法に関する。 さらに詳細には、本発明は、単一の浸漬プロセスで薄膜ディスクに潤滑剤組成物を付与し、次にこの薄膜ディスクを加熱することによって薄膜磁気ディスクに単層潤滑フィルムを付与する方法に関する。」こと(第2頁右下欄3〜9行参照)、 (4-ii)「特に、本発明は、薄膜ディスクのための潤滑フィルムに、そして厚さが約10Å〜約25Åの固定された潤滑剤、及び厚さが約5Å〜約15Åの、固定された潤滑剤と本質的に同じ化学的同一性を有する可動性潤滑剤から成る潤滑フィルムを薄膜ディスクに付与する方向に向けられる。」こと(第4頁右下欄下から2行〜第5頁左上欄5行参照)、 (4-iii)「官能化されたペルフルオロポリエーテルポリマーは、一般的構造式(III)[式中、y及びzは、1〜約20の範囲の数であり、そしてXは-CO2R(式中、Rは1〜約10の炭素原子を含むアルキル基である);-CO2H;-OH;-NCO;及びこれらの組合せから成る群から選ばれる]で表される。官能化されたペルフルオロポリエーテルの例は、イタリアのモンテエジソン社から商業的に入手できるFOMBLIN Z DEAL(X=-CO2CH3);FOMBLIN Z DIAC(X=-CO2H);FOMBLIN Z DOL(X=-OH);及びFOMBLIN DISOC(X2=-NCO)を含む。一般的構造式(I)、(II)及び(III)で表されるような官能化された及び官能化されていないペルフルオロポリエーテルはまた、それらの分子構造中に芳香族環、アルキレン基、シクロアルキレン基、及び類似の置換基を含むこともできることが理解されなければならない。」こと(第6頁左上欄5行〜同頁右上欄4行参照)。 4.対比・判断 (1)理由1について 本件明細書には、本件発明1の化1式の含フッ素化合物として「FOMBLIN Z-DOL」(アウジモント(AUSIMONT)社製)を、また化2式の含フッ素化合物として「フォブリン ゼットテトラオール」(アウジモント社製)(注:英文字表現の記載は無いが、「FOMBLIN Z-TETRAOL」と推認される。)をそのまま用いることができる旨記載されている。 一方、甲第1号証には、上記摘示のように、磁気媒体などにおいて、HO-CH2CH(OH)CH2OCH2-CF2-O-(CF2CF2O)p-(CF2O)q-CF2-CH2OCH2CH(OH)CH2OHの化合物であるMontedison社製の「FOMBLIN Z-TETRAOL」を潤滑成分とすることが記載されている。 該化合物は本件発明1の化2式の含フッ素化合物に相当するけれども、少なくとも本件発明1の骨子である化1式の含フッ素化合物を更に併用することについて何ら開示していない点で、甲第1号証記載の発明は本件発明1と相違する。 この相違点に関して、特許異議申立人は、甲第2号証の分析結果から「FOMBLIN Z-TETRAOL」が本件発明1の化2式の含フッ素化合物のみならず、化1式の含フッ素化合物をも含有するものであることを主張している。 もし、そうであれば、「FOMBLIN Z-TETRAOL」を用いれば必然的に、本件発明1で特定する化1式と化2式の両含フッ素化合物を含有することになり、相違点とは言えなくなる。 しかしながら、Montedison社製の「FOMBLIN Z-TETRAOL」が、特許異議申立人の主張するように「Montedisonグループのアウジモント社が製造するものである」か否かについて検討するまでもなく、また、甲第3号証により疎明しようとするAusimont社製の「FOMBLIN Z-TETRAOL」が、製品発売当初から現在まで(少なくとも本件出願の日まで)その製品の中身が変更されていないことを検討するまでもなく、甲第2号証のアウジモント社製の「FOMBLIN Z-TETRAOL」の分析結果を直ちに採用することは、次の理由により失当である。 即ち、甲第2号証において、少なくとも、 (i)分析方法の「PF 30/26E(Ausimont)」とはどのような方法か説明されておらず、また、その分析結果をどのように解釈して同定したのかも説明されていない。一応、NMR分析であることは示唆されているけれども、これだけでは全く不明というしかない。 このように、甲第2号証に記載の分析方法の実体が不明である。 (ii)「Z-TERAOL monoaduct」と「Z-TERAOL bis-aduct」とは、どのような化学構造のものか不明であり、何がどのようにアダクトされているのか不明である。 結果的に、Z-DOLが分析されたことになってはいても、「Z-TERAOL monoaduct」と「Z-TERAOL bis-aduct」が本件発明1の化2式の含フッ素化合物に相当しない疑義が生じる。 更に、「functional end group」当たりの[OH]が2.0として示された「Average number of OH」とは何を指すのか不明(2.0となる理由も不明)であって、その記載を勘案することすらできない。 このように、分析結果の意味するところが不明というしかない。 (iii)署名の「V.PERRVT」とは、分析者か否か不明であり、仮に分析者であるとしても、どのような資格を有し、分析者として適切な人物か否か全く不明である。 そうであるから、該甲第2号証を本件発明1の新規性、進歩性の判断の根拠として採用することは出来ないし、また、該甲第2号証からは甲第1号証記載のMontedison社製の「FOMBLIN Z-TETRAOL」が本件発明1の化1と化2の両含フッ素化合物の混合物であると断定することはできない。 よって、前記相違点は実質的な相違であると認められるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとは言えない。 (2)理由2について 上記(1)で検討したように、甲第1号証には、本件発明1の化1式と化2式の両含フッ素化合物の混合物を使用することか記載されているとする事ができないし、甲第4号証の記載にも、かかる混合物の使用を示唆するものではないから、他の点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証と甲第4号証の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るとは認められない。 (3)理由3について 記載不備があるとする特許異議申立人の主張の概要は、本願明細書には、化1式と化2式の両フッ素化合物を組み合わせることによる作用効果を奏することの技術根拠に関して一切の開示が無く、実施例による裏付けも、一方の含フッ素化合物に対して他方が25〜40wt%の範囲についてのみであり、実施例のない領域(例えば、他方が1wt%しか含有されない場合)において明細書記載の作用効果を奏し得る合理的な根拠が示されていないから、「いずれかのフッ素化合物の含有量が極めて少ない領域」に関しては、当業者であればそのような作用効果を奏し得ないと解するのが相当であり、当業者が容易に実施し得る程度に記載されているとはいえないとの点にある。 しかしながら、適切な先行技術があればともかく、両フッ素化合物を組み合わせることにその発明の骨子がある状況に鑑みれば、必ずしも混合割合の数値限定は必要とはいえないし、まして、その数値限定の明確な臨界的な意義まで必要とはいえない。 本願明細書の記載の実施例や比較例からみて、本件発明の構成に基づいて明細書記載の作用効果は奏し得るものと一応認められ、特許異議申立人が主張するような「いずれかのフッ素化合物の含有量が極めて少ない領域」において、作用効果を奏し得ないと言える根拠は何ら示されていない。 そもそも本件発明1の目的から、その作用効果を奏し得る範囲で適宜実施することは当業者が容易に理解できるものであって、格別の実施できない(作用効果を奏し得ない)ことが何ら根拠をもって示されていないことに鑑みれば、特許異議申立人の前記主張は、失当であるというしかない。 よって、特許異議申立人の主張する記載不備があるとは認められない。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 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異議決定日 | 2002-07-25 |
出願番号 | 特願平8-295039 |
審決分類 |
P
1
652・
113-
Y
(G11B)
P 1 652・ 536- Y (G11B) P 1 652・ 121- Y (G11B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 木村 敏康 |
特許庁審判長 |
張谷 雅人 |
特許庁審判官 |
相馬 多美子 川上 美秀 |
登録日 | 2001-08-17 |
登録番号 | 特許第3223238号(P3223238) |
権利者 | 昭和電工株式会社 |
発明の名称 | 磁気記録媒体 |
代理人 | 福田 武通 |
代理人 | 福田 賢三 |
代理人 | 福田 伸一 |