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審決分類 審判 全部無効 発明同一 無効とする。(申立て全部成立) B01D
管理番号 1063764
審判番号 無効2002-35062  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-05-06 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-02-20 
確定日 2002-08-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第3198171号発明「脱気装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3198171号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3198171号の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。)についての出願は、平成4年10月9日に出願がなされ、平成13年6月8日にその発明について特許権の設定登録がなされ、平成14年2月20日に本件無効審判が請求され、被請求人に期間を指定して答弁の機会を与えたところ、何ら応答がなされなかった。

2.本件特許発明
本件特許発明1及び2は、明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 高分子膜を備えたモジュールと、前記高分子膜により区画された一方の側に被処理水を供給する供給手段および給水ライン、他方の側を真空排気する水封式真空ポンプとを備えている装置であって、前記給水ラインから分岐し、かつ水封式真空ポンプに封水を供給する封水供給ラインと、前記真空ポンプから排出される封水を給水ラインに合流させる合流ラインとを備えている脱気装置。
【請求項2】 合流ラインに、アキュムレータが設けられている請求項1記載の脱気装置。」

3.請求人の主張
請求人は、「特許第3198171号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、本件特許発明1及び2は、本件特許出願の日前の他の出願であって、本件特許出願後に出願公開された甲第1号証の出願の願書に最初に添付された明細書または図面(以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきものである旨主張し、証拠方法として、甲第1号証を提出している。
甲第1号証:実願平4-2573号(実開平5-60584号)のCD-ROM

4.先願明細書に記載された発明
先願明細書には、「脱気水製造装置」について図面と共に以下の記載がある。
ア)本考案の脱気水製造装置の例を図1に示す。図において、1は中空糸型の脱気モジュール、2はナッシュ型の水封式回転翼真空ポンプ、3は排出封水からガスを分離するための分離槽、4はガスを分離した封水を送出する回収水ポンプ、5、6、7はそれぞれ流量調整弁、8は分離槽3へ緩衝水を補給するための水位調整弁、9は原水逆止弁、10は回収水逆止弁、11は主弁、12、13はそれぞれ制御弁である。」(【0010】段落)
イ)aは原水受入口Aから原水逆止弁9、給水ライン分岐部B、回収水ライン分岐部C、主弁11、流量調整弁5を順に経て脱気モジュール1に到る原水ラインであり、・・・。またbは脱気モジュール1から処理水送出口Dに到る処理水ライン、cは給水ライン分岐部Bから緩衝水ライン分岐部E、流量調整弁6、制御弁12を経て真空ポンプ2へ封水を供給する給水ライン、dは脱気モジュール1の中空糸膜の外側から制御弁13を経て真空ポンプ2に到る吸気ライン、eは真空ポンプ2から分離槽3に到る吐出ライン、fは緩衝水ライン分岐部Eから水位調整弁8を経て分離槽3に到る緩衝水ライン、gは分離槽3から回収水ポンプ4、回収水逆止弁10、流量調整弁7を経て回収水ライン分岐部Cに到る回収水ラインである。(【0011】段落)
ウ)このような本考案の脱気水製造装置において、例えば流量調整弁5を100 l/minに調節し、流量調整弁6を4 l/minに調節し、更に流量調整弁7を5 l/minに調節して、制御弁12を開いて真空ポンプ2に封水を供給する。次いで真空ポンプ2を運転し、主弁11を開いて脱気モジュール1に100 l/minで原水を供給すると共に、制御弁13を開いて脱気モジュール1の中空糸の外側を減圧し、原水の脱気を開始する。(【0012】段落)
エ)こうすると脱気されたガスと共に真空ポンプ2から排出された封水は吐出ラインeを経て分離槽3に入ってガスを分離し、回収水ポンプ4により回収水ラインgを経て回収水ライン分岐部Cか2(前後の文脈からみて、「か2」は「から」の誤記と認められる。)原水ラインaに戻り、原水と共に脱気モジュール1に供給される。(【0013】段落)
上記ア)〜エ)の記載及び図1からみて、先願明細書には、
「中空糸型の脱気モジュール1と、脱気モジュール1の中空糸膜の内側に原水を供給する原水ラインaと、脱気モジュール1の中空糸膜の外側を減圧する水封式回転翼真空ポンプ2を備えている装置であって、前記原水ラインaから分岐し前記水封式回転翼真空ポンプ2に封水を供給する給水ラインcと、脱気されたガスと共に前記水封式回転翼真空ポンプ2から排出された封水を分離槽3に導く吐出ラインeと、前記分離槽3でガスを分離された封水を原水ラインaに戻す回収水ラインgを備えた脱気装置。」なる発明が記載されている。

5.対比、判断
5-1.本件特許発明1について
本件特許発明1(前者)と先願明細書に記載された発明(後者)を対比すると、その機能からみて、後者における「脱気モジュール1」は前者における「モジュール」に相当し、同じく後者における「水封式回転翼真空ポンプ2」は前者における「水封式真空ポンプ」に相当する。さらに、後者における「原水ラインa」、「給水ラインc」は、各々、前者における「給水ライン」、「封水供給ライン」に相当し、後者における「吐出ラインe」と「回収水ラインg」を合わせたものが前者における「合流ライン」に相当する。
そして、後者における「中空糸膜」と前者における「高分子膜」がいずれも液体中に溶存する気体を分離する分離膜であること、及び、後者も脱気モジュール1の中空糸膜の内側に原水を供給するものである以上、前者における「供給手段」に相当する手段を備えていることは明らかであるから、両者は、
「分離膜を備えたモジュールと、前記分離膜により区画された一方の側に被処理水を供給する供給手段および給水ライン、他方の側を真空排気する水封式真空ポンプとを備えている装置であって、前記給水ラインから分岐し、かつ水封式真空ポンプに封水を供給する封水供給ラインと、前記真空ポンプから排出される封水を給水ラインに合流させる合流ラインとを備えている脱気装置。」
で一致し、
ア.分離膜が、前者は高分子膜であるのに対し、後者は中空糸膜である点、で一応相違する。
そこで、この相違点ア.について検討すると、中空糸膜の形態をとる分離膜を高分子膜で構成することは、本件の出願前周知の技術にすぎない。
そして、本件明細書及び図面の記載を検討しても、本件特許発明1において、分離膜を高分子膜で構成したことにより新たな効果が奏されるものとも認められない。
よって、この相違点ア.は、実質的には相違点といえないものである。
したがって、本件特許発明1は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一である。
5-2.本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1に「合流ラインに、アキュムレータが設けられている」なる構成を付加したものである。
そこで、本件特許発明2における「アキュムレータ」について検討すると、本件明細書【0010】段落の「合流ラインには、アキュムレータが設けられている場合には、真空ポンプから排出された封水中に混入した気泡を分離して、被処理水と合流させ、脱気処理できる。」なる記載、及び本件明細書【0019】段落の「合流ライン13には、水封式真空ポンプ11から排出される封水中の気泡を除去するため、逃し弁16を備えたアキュムレータ15が設けられている。」なる記載からみて、本件特許発明2における「アキュムレータ」は、水封式真空ポンプから排出された封水中に混入した気泡を分離するものである。
そして、先願明細書に記載された発明において、「吐出ラインe」と「回収水ラインg」の間に設けられた「分離槽3」は、水封式回転翼真空ポンプ2から排出された封水からガスを分離するものである。
よって、先願明細書に記載された発明における「分離槽3」は、その作用からみて、本件特許発明2における「アキュムレータ」に相当するものである。そして、先願明細書に記載された発明における「吐出ラインe」と「回収水ラインg」を合わせたものは、本件特許発明1におけると同様、本件特許発明2における「合流ライン」に相当するから、先願明細書に記載された発明における「分離槽3」の設置位置も本件特許発明2と差異がない。
してみると、本件特許発明2と先願明細書に記載された発明とは、上記5-1.で記載したア.の点で一応相違し、その余の点で一致する。
そして、相違点ア.については上記5-1.で検討したとおりであるから、本件特許発明2は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一である。
5-3.対比、判断のむすび
上記のとおり、本件特許発明1及び2は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一である。しかも、本件特許発明1及び2の発明者が、先願明細書に記載された発明をした者と同一ではなく、また、本件特許出願の時において、その出願人が上記他の出願の出願人と同一でもないので、本件特許発明1及び2は、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び2についての特許は、特許法第29条の2第1項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-06-24 
結審通知日 2002-06-27 
審決日 2002-07-09 
出願番号 特願平4-297781
審決分類 P 1 112・ 161- Z (B01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 豊永 茂弘  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 岡田 和加子
山田 充
登録日 2001-06-08 
登録番号 特許第3198171号(P3198171)
発明の名称 脱気装置  

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