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審決分類 審判 全部無効 特174条1項 無効とする。(申立て全部成立) A01B
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A01B
審判 全部無効 1項2号公然実施 無効とする。(申立て全部成立) A01B
管理番号 1064199
審判番号 審判1997-13993  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-09-12 
種別 無効の審決 
審判請求日 1997-08-20 
確定日 2000-09-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第2567812号発明「リバ-シブルプラウの砕土装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2567812号発明の明細書の特許請求の範囲第1項ないし第6項に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯及び本件特許に係る発明
本件特許第2567812号は、平成6年2月25日に出願された特願平6-52827号の特許出願(以下、本件出願という。)に係り、平成8年10月3日に設定登録されたもので、本件特許第2567812号に係る発明は、本件出願の願書に添付された明細書及び図面の記載から、その特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された以下の事項によってそれぞれ特定されるものである。(以下、請求項1乃至6に係る発明をそれぞれ本件発明1乃至6といい、各請求項に係る特許をそれぞれ本件特許1乃至6という。)
「【請求項1】上下に夫々一以上の耕起用ボトム1が設けられたプラウフレーム2を有し、そのプラウフレーム2がトラクター16の取付フレーム3に対して反転可能に構成されたリバーシブルプラウ4、に設けられる砕土装置において、
前記ボトム1による耕士状態の姿勢にて、前記ボトム1の耕起反転側で且つ、前記ボトム1の進行方向後方に延在するように、前記プラウフレーム2に設けられる基部フレーム7、
支軸の軸線が前記進行方向に位置するように前記基部フレーム7に長手方向の中央部が軸支された門型の転動体支持フレーム8と、
その支持フレーム8の前記門型の両脚部9に取付けられた砕土用転動体6と、
を具備し、その砕土用転動体6の重力により常に、前記門型の前記両脚部9が重力方向下向きに位置するように構成されたリバーシブルプラウの砕土装置。
【請求項2】請求項1において、前記基部フレーム7の一端部が前記プラウフレーム2に着脱自在に取付けられ、その基部フレーム7の他端部に前記転動体支持フレーム8が軸支されたリバーシブルプラウの砕土装置。
【請求項3】上下に夫々一以上の耕起用ボトム1が設けられたプラウフレーム2を有し、そのプラウフレーム2がトラクター16の取付フレーム3に対して反転可能に構成されたリバーシブルプラウ4において、
前記ボトム1による耕土状態の姿勢にて、前記ボトム1の耕起反転側で且つ、前記ボトム1の進行方向後方に、前記プラウフレーム2に延在された基部フレーム7を介して配置され、水平な支軸回りに上下方向へ回転可能に軸支された転動体支持フレーム8と、
前記進行方向後方位置で長手方向が前記ボトム1の進行方向に交差する方向に配置され、自重により常に前記基部フレーム7の重力方向下側に位置するように前記転動体支持フレーム8に支持された砕土用転動体6と、
を具備するリバーシブルプラウの砕土装置。
【請求項4】請求項3において、
前記プラウフレーム2には互いに離間した位置に前記基部フレーム7の一端と二叉材27の一端とが接続され、その二叉材の他端と前記基部フレーム7とが接続され、その基部フレーム7の他端に門型の前記転動体支持フレーム8の長手方向中央部が軸支され、
その転動体支持フレーム8の前記門型の両脚部9に前記砕土用転動体6の両端が取付けられた砕土装置。
【請求項5】請求項3または請求項4において、
前記砕土用転動体6は、互いに前記長手方向に離間して並列した複数の円板10と、その円板10,10間を連結すると共に、円板10の外周に離間して突設固定された多数の棒材11と、からなる砕土装置。
【請求項6】請求項4において、
前記砕土用転動体6の回転軸12の位置が前記支持フレーム8に対して上下方向に移動調整自在に構成された砕土装置。」
第2 当事者の主張及び提出した証拠方法
当事者の主張及び提出した証拠方法は以下のとおりである。
1.請求人の主張及び提出した証拠方法
請求人は、「本件特許第2567812号における請求項1、請求項2、請求項3、請求項4、請求項5、請求項6に係る特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、下記の証拠方法を提出すると共に、高木健一、谷水幹夫、内藤穣及び田村政行の証人尋問を申請し、以下の旨主張する。
なお、内藤穣及び田村政行については平成10年3月19日に、高木健一及び谷水幹夫については同年3月26日に、それぞれ証拠調べが行われた。
(1)本件発明1乃至6は、証人 高木健一及び谷水幹夫の証言から、本件出願前公然と実施された検甲第1号証と同一であり、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができない、あるいは検甲第1号証及び甲第7号証の1乃至5で示される周知のことに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本件特許1乃至6は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。(以下、無効理由1という。)
(2)本件発明1乃至6は、甲第6号証及び甲第7号証1乃至6に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許をうけることができないので、本件特許1乃至6は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。(以下、無効理由2という。)
(3)本件発明2、3は、本件出願の出願当初の明細書または図面に記載された範囲を超えた補正により特許されたものであり、本件出願は、特許法第17条第2項に規定する要件を満たさない補正をしたもので、本件特許2、3は特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。なお、請求の趣旨において本件特許1乃至6の無効を求めるものであることから、この理由によって本件特許2、3のみを無効とすることができないので、この理由は、本件特許1乃至6を無効とするための理由と解する。(以下、無効理由3という。)
(4)本件発明1乃至6は、証人 田村政行及び本人 内藤穣の証言から、本件特許権者である内藤穣氏が、本件出願前公然と実施した試作品と同一であり、特許法第29条第1項第1または2号に該当し、特許を受けることができない、またはこの試作品に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本件特許1乃至6は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。(以下、無効理由4という。)

甲第1号証:独国にある輸出、輸入会社「STA

XP GMBH」(スタルケ ブリュッケ 輸入輸出会社)代表者中村義衛氏の証明書
(甲第1号証には、資料として以下のものが添付されている。
資料1:ダルボ社の「ATーPACKER」のカタログ写し
資料2:スガノ農機株式会社宛のスタルケ ブリュッケ 輸入輸出会社の書留郵便写し
資料3:スガノ農機株式会社宛のスタルケ ブリュッケ 輸入輸出会社の送り状写し
資料4:船荷証券写し)
甲第1号証の2:スガノ農機株式会社宛のシーブリッジが発行した1993年9月29日付けFREIGHT RECEIPT(運送受取書)写し
甲第1号証の3:東京税関大井主張所長発行の輸入許可書写し
甲第3号証:ダルボ社のリバーシブルプラウの砕土装置「AT.PACKER」カタログ
甲第4号証の1:デンマーク国の「ダルボ社」製の「165cm AT.Compactor 2100」を写す写真及び図面
甲第4号証の2:「ダルボ社」製の「165cmAT.Compactor 2100」の構成、動作及び使用状況の詳細を示した写真
甲第6号証:英国特許公開公報2137461号写し
甲第7号証の1:特開証62-202号公報写し
甲第7号証の2:実開昭61-188402号公報写し
甲第7号証の3:実開昭62-4902号公報写し
甲第7号証の4:実願昭60-72684号(実開昭61-188401号)のマイクロフィルム写し
甲第7号証の5:実開昭60-139401号公報写し
甲第7号証の6:特公昭64-5841号公報写し
甲第8号証:通知書の写し、実施許諾条件についての回答書写し、実施許諾条件についての再回答書写し
甲第9号証:本件特許権侵害行為差止等請求事件訴状写し
甲第10号証の1:スガノ農機株式会社社員である谷水幹夫氏の手帳(1993年)を写した写真
甲第10号証の1:スガノ農機株式会社社員である谷水幹夫氏の手帳(1993年)9月27日〜10月17日欄写し
甲第11号証:内藤氏の試作品「リバーシブルプラウの砕土装置」構成、動作等を示す写真
検甲第1号証:「ダルボ社」製のリバーシブルプラウの砕土装置「165cm AT.Compactor 2100」(平成9年証拠保全第98002号における検証物)
人証:高木 健一、谷水 幹夫、内藤 穣、田村 政行
2.被請求人の答弁及び提出した証拠方法
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、下記の証拠方法を提出すると共に、土屋聡、大西寿一、内藤穣及び田村政行の証人尋問を申請し、請求人の前記無効理由に対しそれぞれ以下の旨答弁する。
なお、土屋聡、大西寿一、内藤穣及び田村政行についての証拠調べは、平成10年7月2日に行われた。
(1)無効理由1について
検甲第1号証のものは、本件出願前公知または公然と実施されたものとはいえなく、また本件発明1乃至6と比べ、検甲第1号証のものは、砕土用転動体の進行方向の角度調節する調整ネジを必須としていることから、両者構成においても相違し、しかもこの相違点は当業者が容易になし得ることでもないので、本件発明1乃至6は、特許法第29条第1項第1、3号に該当し、または同法第2項の規定により、特許を受けることができないというものでない。
(2)無効理由2について
甲第6号証に記載された「フレキシコイルローラ」は、耕地を固めるもので、本件発明1乃至6の砕土用転動体ではない。したがって、甲第6号証には、前記砕土用転動体が記載されていないので、本件発明1乃至6は、甲第6号証記載のものと同一でなく、また甲第6号証及び甲第7号証1乃至6に記載されたものから当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)無効理由3について
請求項2に記載された「着脱自在」については、本件出願当初の明細書の「固定」には、一体化する「固定」と分離可能とした「固定」がある。そして砕土装置をプラウに分離不可能に取り付けるとはなはだ不便であり、プラウと砕土装置とは別々で作られること等から、着脱自在に取付ることは、周知・慣用のみならず、いわば唯一の手段である。したがって、「着脱自在」は、「固定」の概念を減縮したもので、しかも新規事項でない。
また、請求項3に記載された「水平な支軸の回りの上下方向へ回転可能に軸支」する点の「上下方向」とは、プラウを反転せしめる際にプラウフレームのみならず転動体支持フレームも上下動することを意味することは明細書及び図面の記載から明らかであり、新規事項でない。
(4)無効理由4について
本件特許権者が行った試作品のテストは、密かに行ったものであり、田村氏がこれを見たことは、本件特許権者にとって、意に反したことであって、しかもこのテストのときから6月以内に本件出願がなされており、このことは、特許法第30条第2項の規定に該当し、前記テストによって、本件発明1乃至6が、特許法第29条第1項第1または2号に該当するものとはいえない。

乙第1号証:第一管区海上保安部水路部作成の平成5年10月における芽室地区の日の出及び日没時刻を表す表
乙第2号証:「判例工業所有権法」兼子 一、染野義信編著、第一法規出版株式会社発行
乙第3号証:東京工芸大学芸術学部写真学科専任講師畑鉄彦作成の平成10年7月18日付け「(有)メリット情報内藤より申し越しの写真に関する所見」
乙第4号証の1:甲第11号証に東西南北の方位を被請求人が鉛筆で記入した状態を示すモノクロ複写
乙第4号証の2:本件明細書添付の【図1】と図番が記載されている図面
乙第4号証の3:本件明細書添付の【図4】を反転させた図面
人証:土屋 聡、大西 寿一、内藤 穣、田村 政行
第3 当審の認定、判断
1.無効理由1について
甲第1号証添付の資料2と同資料3の記載の「Invoice No.」が同じで、前記資料2記載の「B/L No.」と同資料4記載の「B/L No.」と甲第1号証の3記載の「THRU B/L No.」とが同じであり、また甲第1号証の3記載の「OCEAN B/L No.」と甲第1号証の3記載の「B/L番号」とが同じであること及び前記資料3の「Description of Goods」の欄に「160cm AT.Compactor 2100」と記載されていること並びにこれら資料及び甲号各証に関する証人 高木健一の証言によれば、スガノ農機株式会社は、スタルケ ブリュッケ輸入輸出会社を通じて、ダルボ社の「160cm AT.Compactor 2100」を購入し、これが平成5年10月上旬にスガノ農機株式会社 茨城工場に第一港運によって搬入されたと推認できる。なお、被請求人は、甲第1号証の資料2乃至4記載の「船名」と甲第1号証の2、3記載の「船名」とは相違し、また甲第1号証の資料3には「160cm AT.Compactor 2100」とあり、甲第1号証の3には、「SCARIFIER]とあり、これらが同一でないことから、証人高木健一の証言は、直ちに信用できないと主張するが、前述のように、前記資料4記載の「B/L No.」と甲第1号証の3記載の「THRU B/L No.」とが同じであり、また甲第1号証の3記載の「OCEAN B/L No.」と甲第1号証の3記載の「B/L番号」とが同じであり、同一会社でこれら「B/L No.」が付けられるものがいくつもあるとは社会通念上考えられないことから、前記被請求人の主張は、前記推認を覆すに足る理由にならない。
また、平成9年証拠保全第98002号の検証物に貼られた「プレート30」に「160cm AT.Compactor 2100」と記載されていること及び証人 谷水幹夫の証言によれば、前記ダルボ社から購入した「160cm AT.Compactor 2100」は、平成9年証拠保全第98002号において検証した、即ち請求人が証拠方法として提出した検甲第1号証のダルボ社製のリバーシブルプラウの砕土装置「160cm AT.Compactor 2100」であり、これが平成5年10月上旬にスガノ農機株式会社 茨城工場に運搬されてきた後、証人 谷水幹夫自身これを組立て、トラクターの付けて同工場の圃場にて動かしたと認められる。そして、甲第10号証の1、2の記載及びこれら甲号各証に関する証人 谷水幹夫の証言によれば、平成5年10月15日にスガノ農機株式会社の営業所の社員を対象に、前記工場近郊の農家の圃場にて前記ダルボ社製のリバーシブルプラウの砕土装置「160cm AT.Compactor 2100」の実演を行い、その後同社以外の者であってもこれを貸す状況にあったと認められる。
そこで、前記営業所の社員を対象に行った実演について検討すると、前記砕土装置「160cm AT.Compactor 2100」は、ダルボ社から購入したもので、誰でもが購入できるものと認められ、これを同社内において秘密にしておくことに意味がないこと、証人 谷水幹夫の証言によれば、この実演は前記社員に対しこの砕土装置の販売の可能性等の市場確認のために行われたもので、当然前記砕土装置の構成について説明した、又は説明する用意があったもので、この実演に関して守秘義務を課さなかったと認められること、及び前述した同社以外の者であってもこれを貸す状況にあったと認められることから、この実演は、公開して行われたものと認められる。
そうすると、前記社員に対して行われた前記実演によって、前記砕土装置「160cm AT.Compactor 2100」は、本件出願前公然と実施されたものとするのが相当である。
ところで、当合議体が行った平成9年証拠保全第98002号における検証によれば、前記ダルボ社製のリバーシブルプラウの砕土装置「160cm AT.Compactor 2100」は、以下の構成をものものと認められる。
A:「上下に夫々一以上の耕起用ボトム1が設けられたプラウフレーム2を有し、そのプラウフレーム2がトラクター16の取付フレーム3に対して反転可能に構成されたリバーシブルプラウ4、に設けられる砕土装置において、
前記ボトム1による耕土状態の姿勢にて、前記ボトム1の耕起反転側で且つ、前記ボトム1の進行方向後方に延在するように、前記プラウフレーム2が取付けられる前記取付フレーム3に取付ブラケット13を介して取付けられる基部フレーム7、
前記基部フレーム7に取付けられた軸受部26の軸受18に、長手方向の中央部に設けられた軸部19によって、その軸線が前記進行方向に位置するように軸支された門型の転動体支持フレーム8と、
その支持フレーム8の前記門型の両脚部9に取付けられた砕土用転動体6と、
を具備し、その砕土用転動体6の重力により常に、前記門型の前記両脚部9が重力方向下向きに位置するように構成されたリバーシブルプラウの砕土装置。」であって、
B:「前記基部フレーム7は、ピン11により取付ブラケット13に着脱自在に取付られており」
C:「前記転動体支持フレーム8は、水平な前記軸受18の回りに上下方向へ回動可能に軸支されており」
D:「前記基部フレーム7は、両端を取付ブラケット13と基部フレーム7とに連結された伸縮自在の基部フレーム一調整部材24により、取付角度が調整できるように取付ブラケット13に取付けられ」
E:前記砕土用転動体6は、多数の円盤からなるものである」
次に、本件発明1乃至6と前記ダルボ社製のリバーシブルプラウの砕土装置「160cm AT.Compactor 2100」(以下、ダルボ社砕土装置という。)とを比較、検討する。
(本件発明1に関し)
被請求人は、ダルボ社砕土装置の前記Aで示された構成のうち「前記基部フレーム7に取付けられた軸受部26の軸受18に、長手方向の中央部に設けられた軸部19によって、その軸線が前記進行方向に位置するように軸支された門型の転動体支持フレーム8」という構成において、軸受部26の軸受18の角度を調整する調整ねじ20が設けられるもので、この調整ねじ20は、ダルボ社砕土装置において不可欠なものであるのに対し、本件発明1はこのような調整ねじを不要とするものであるため、この点において、本件発明1は、ダルボ社砕土装置と比べ進歩性を有すると主張する。確かに、本件発明1の実施例においては、基部フレーム7に軸部19が固設されており、転動体支持フレーム8の基部フレーム7への連結において、ダルボ社砕土装置のように前記調整ねじを設けないものである。しかしながら、ダルボ社砕土装置のおける前記軸受18は、作業時、前記調整ねじ20によって、その軸線がトラクター16進行方向になるように調整され(当然このとき、軸部19の軸線も前記進行方向に調整される)、転動体支持フレーム8が、前記進行方向と直行する位置に調整されるものであることから、ダルボ社砕土装置は、その具体的な構成において前記調整ねじ20を設けたものであるが、本件発明1の「支軸の軸線が進行方向に位置するように基部フレーム7に長手方向の中央部が軸支された門型の転動体支持フレーム8」という構成を有したものであると認められる。
そうすると、本件発明1と前記Aの構成を有するダルボ社砕土装置とは、以下の点で相違するものの、その余においては両者は一致する。
「基部フレーム7の取付において、本件発明1は、プラウフレーム2に取り付けたのに対し、ダルボ社砕土装置は、前記取付ブラケット13に取り付けた点。」
そこで、この相違点を検討すると、本件発明1において、基部フレーム7をプラウフレーム2に取付けたことに格別の技術的意義即ち格別の効果は認められず、この砕土装置をトラクターに取り付けるに当たり、その取付位置をプラウフレームとすることに格別の困難性はなく、当業者において、その必要に応じ適宜なしえた設計事項と認められる。
してみると、本件発明1は、本件出願前国内において、公然と実施された前記ダルボ社砕土装置に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許1は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(本件発明2に関し)
本件発明2は、本件発明1において、基部フレーム7をプラウフレーム2に着脱自在に取付けたものである。また、ダルボ社砕土装置の基部フレーム7も前記取付ブラケット13に着脱自在に取付けたものである。そうすると、両者基部フレーム7の取付けにおいて、着脱自在としたもので、この点において相違はない。
してみれば、本件発明2とダルボ社砕土装置とは、本件発明1とダルボ社砕土装置との前記相違点のみで相違し、その余の点では両者は一致するものである。そして、この相違点は、前記本件発明1に関しての項で説示したとおりであることから、本件発明2は、本件出願前国内において、公然と実施された前記ダルボ社砕土装置に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件特許2は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(本件発明3に関し)
前記ダルボ社砕土装置における「前記基部フレーム7に取付けられた軸受部26の軸受18に、長手方向の中央部に設けられた軸部19によって、その軸線が前記進行方向に位置するように軸支された門型の転動体支持フレーム8」という構成の軸受18、軸部19は、前記検証における調書添付の写真10、29等から明らかなように水平に位置しており、そのため前記転動体支持フレーム8は、水平な支軸回りに上下方向へ回転可能に軸支されたものとなっている。
そうすると、本件発明3と前記ダルボ社砕土装置との相違点は、本件発明1と前記ダルボ社砕土装置との相違点と同じであり、その余の点では両者は一致すると認められる。
そして、この相違点は、前記本件発明1に関しての項で説示したとおりであることから、本件発明3は、本件出願前国内において、公然と実施された前記ダルボ社砕土装置に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件特許3は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(本件発明4に関し)
本件発明4は、本件発明3において、基部フレーム7に、プラウフレーム2に接続した二叉材27を接続したものである。これに対して、前記ダルボ社砕土装置は、基部フレーム7に、前記取付ブラケット13に接続した基部フレーム位置調整部材24を接続したものである。
そうすると、本件発明4と前記ダルボ社砕土装置とは、本件発明3と前記ダルボ社砕土装置との相違点の他に前記二叉材か基部フレーム位置調整部材かの点で相違し、その余の点では両者は一致する。
そこで、これら相違点を検討すると、まず、本件発明4における二叉材27と前記ダルボ社砕土装置の基部フレーム位置調整部材24とについて検討すると、両者とも基部フレーム7を回動しないように固定するものである点で一致するものであるが、その構成と取付位置(プラウフレームか取付ブラケットか)が相違するものと認められる、
ところで、本件発明4のような二叉材27は、請求人のこの無効理由1において提示した証拠方法には示されておらず、また、当業者において本件出願前周知のこととも認められない。さらには、前記ダルボ社砕土装置から、当業者において容易に想到できたものとも認められない。
してみれば、本件発明4は、本件出願前国内において、公然と実施された前記ダルボ社砕土装置に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
よって、本件特許4を、この無効理由1によって、無効とすることはできない。
(本件発明5に関し)
本件発明5は、本件発明3、4において、砕土用転動体6を「互いに前記長手方向に離間して並列した複数の円板10と、その円板10,10間を連結すると共に、円板10の外周に離間して突設固定された多数の棒材11と、からなる」ようにしたものである。請求人は、このような砕土用転動体は、前記甲第7号証の1乃至5に記載されたかご形ロータであり、本件出願前公知であると主張する。しかし、甲第7号証の1乃至5に記載されたものは、本件発明5のように前記「円板10の外周に離間して突設固定された多数の棒材11」を有しないものであり、またこの構成は、甲第7号証の1乃至5記載のものから、当業者において容易に想到できるものでもない。
そうすると、本件発明5は、前記ダルボ社砕土装置及び甲第7号証の1乃至5記載のものから当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
よって、請求人の主張する無効理由1によって、本件特許5を無効にすることができない。
(本件発明6に関し)
本件発明6は、本件発明4において、「前記砕土用転動体6の回転軸12の位置が前記支持フレーム8に対して上下方向に移動調整自在に構成」したものである。そして、請求人のこの無効理由1において提示した証拠方法には、上記の本件発明6の構成を示すものは見つからなく、また、当業者において本件出願前周知のことともみとめられない。さらに、これが、前記証拠方法から当業者が容易に想到できたこととも認められない。
したがって、本件特許6は、請求人の主張する無効理由1によっては、無効とすることができない。
以上のことから、本件特許1乃至3は、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされることから適用される平成5年改正特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。
そして、本件特許4乃至6については、この無効理由1によっては、無効とすることができない。
2.無効理由2について
甲第6号証に記載された事項を見てみると、甲第6号証には、これに記載されたフレクシコイル・ローラについて「In order to consolidate the surface of the soil after inverting it and to break down the soil particles size,」(第3頁第130行乃至第4頁第1行)と記載されている。そして、この「to break down」は「In ordor」に続くものと解されるので、前記記載の翻訳は、「土壌を反転した後その表面を鎮圧するために、また土壌粒径を細かくするために」となる。そうすると、甲第6号証の第2図に示されたフレクシコイル・ローラ52は、本件各発明でいうところの砕土用転動体6に相当するものと認められる。
ところで、前記第2図に記載されたものをみてみると、この第2図に示されたものは、以下の構成を持つ砕土装置と認められる。
「上下に夫々一以上のプラウ体43と土壌反転円盤22からなる耕起部が設けられた横方向ビーム25を有し、その横方向ビーム25がA字型フレーム29(これがトラクタに装着されることは自明)に対し軸部材31を介して反転可能に構成されたリバーシブル円盤耕転機10に設けられる砕土装置において、
前記耕起部による耕起状態の姿勢にて、前記耕起部の耕起反転側で且つ、前記耕起部の進行方向後方に延在するように、前記横方向ビーム25に設けられる前記軸部材31のフリーホイールの延長部58とこれに接続される引っ張りバー54と、(なお、前記軸部材31は、横方向ビーム25の約1/4のところに設けられ、前記耕起部の耕起面は、前記軸部材31のフリーホイールの延長部58とこれに接続される引っ張りバー54側にあるために、これら延長部58と引っ張りバー54は、前記耕起部の耕起反転側に位置することとなるのは、第2図から自明である。)
前記引っ張りバー54に接続されるフレクシコイル・ローラ52が取付けられる脚部を両側に有する門型のフレクシコイル・ローラ支持フレーム(第2図より明らか)とを具備し、
前記リバーシブル円盤耕転機10が、上下反転しても、フレクシコイル・ローラは、その重力で常に、前記門型の前記両脚部が重力下向きに位置するように構成されたリバーシブル円盤耕耘機の砕土装置。」
次に、この甲第6号証記載のもの(以下、引例発明という。)と本件発明1乃至6とを比較、検討する。
(本件発明1に関し)
引例発明の「プラウ体43と土壌円盤22からなる耕起部」「A字型フレーム29」「リバーシブル円盤耕耘機10」「脚部を両側に有する門型のフレクシコイル・ローラ支持フレーム」及び「フレクシコイル・ローラ52」は、それぞれ本件発明1の「耕起用ボトム1」「取付フレーム3」「リバーシブルプラウ4」「脚部9を両側に有する門型の転動体支持フレーム8」及び「砕土用転動体6」に相当するものと認められ、引例発明の「記軸部材31のフリーホイールの延長部58とこれに接続される引っ張りバー54」は、本件発明1の「基部フレーム7」に対応するものと認められる。そして、引例発明の前記延長部58は、軸部材31の横方向ビーム25からトラクタ進行方向に突出した端部に回転自在に取付けられ、前記延長部58は、支軸の軸線が前記進行方向に位置するように前記特出した端部に軸支されたものと認められる。
そうすると、本件発明1と引例発明とは、以下の点で相違し、その余の点では両者は一致すると認められる。
(1)プラウフレーム(横方向ビーム)と転動体支持フレーム(フレクシコイル・ローラ支持フレーム)との接続を、本件発明1は、基部フレーム7であるのに対し、引例発明は、前記延長部58と引っ張りバー54である点。
(2)本件発明1は、転動体支持フレーム8の長手方向中央部で、支軸の軸線が進行方向に位置するように基部フレーム7に軸支されているのに対し、引例発明は、フレクシコイル・ローラ支持フレームの長手方向中央部で前記引っ張りバー54に接続し、この引っ張りバー54に接続する前記延長部58を支軸(前記軸部材31の突出端部)の軸線が進行方向に位置するようにして軸支した点。
そこで、これら相違点を検討する。
(相違点(1)について)
本件発明1の基部フレームような1つのフレームからなるものにて、砕土装置を接続するようなことは、本件出願前周知である(要すれば、甲第7号証の1、3参照)。そして、引例発明においてもこれに換えることは構造上容易であり、また本件発明1のように基部フレームにしたことにより引例発明と比べ格別の効果も認められない。
なお、プラウ(耕起部)を反転のため持ち上げたとき、本件発明1の基部フレームの場合、前記支持フレームも持ち上げられるのに対し、引例発明の場合、延長部58と引っ張りバー54とは屈曲して前記支持フレームが持ち上がらないものと認められるが、この作用上の差によって両者に効果上の格別差異が生ずるのものは認められない。
したがって、本件発明1のように基部フレームとしたことは、前記周知のことから当業者が容易に想到できたことである。
(相違点(2)について)
本件発明1と引例発明との相違点(2)における相違は、転動体支持フレーム(フレクシコイル・ローラ支持フレーム)をプラウフレーム(横方向ビーム)に対し回転自在とする構成を、本件発明1は、転動体支持フレームと基部フレームの接続するところにおいて行い、引例発明は、本件発明1の基部フレームのプラウフレーム側に相当する前記延長部58と横方向ビームの接続するところで行ったものと認められる。なお、前記回転自在とする構成は、前述のとおり両者は支軸の軸線がトラクタ進行方向に位置し軸支するという同じ構成である。
ところで、本件発明1のようなところに前記回転自在の構成とすることにおいて、引例発明のものと比べ格別構造上の困難性も効果上の顕著性の認められない。そうすると、本件発明1の相違点(2)のごとくすることは、当業者においてその必要に応じ適宜なし得たことと認められる。
そして、本件発明1において、これら相違点(1)(2)が組み合わされたことによる効果は引例発明及び前記周知のことから当業者が容易に予測できる効果の域を出るものでもない。
以上のことから、本件発明1は、引例発明及び前記周知のことから当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許1は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(本件発明2に関し)
本件発明2は、本件発明1において、基部フレーム7をプラウフレーム2に着脱自在に取り付けたものである。
そうすると、本件発明2と引例発明とは、前記本件発明1と引例発明との相違点の他に本件発明は、前記着脱自在とした点において相違し、その余の点については両者は一致する。
そこで、これら相違点について検討すると、本件発明1と引例発明との相違点については前述のとおりであり、また、基部フレーム7をプラウフレーム2に着脱自在にすることは、本件出願前周知のことでもあり(要すれば、甲第7号証の1参照)、この点において本件発明2において格別効果を奏するものとも認められない。
してみれば、本件発明2は、引例発明及び前記周知のことから当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許2は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(本件発明3に関し)
引例発明の、本件発明3の転動体支持フレームに相当するフレクシコイル・ローラ支持フレームは、本件発明3のプラウフレームに相当する横方向ビームに延在された前記延長部及び引っ張りバーを介して配置され、水平な支軸(前記軸部材31の突出端部が相当)の回りに上下方向へ回転可能に軸支されていると認められる。このことと本件発明1と引例発明との前述の比較、検討したことを考慮に入れて、本件発明3と引例発明とを比較すると、本件発明3と引例発明とは、前記本件発明1と引例発明の前記相違点(1)において相違するのみで、その余の点については両者は一致する。
そして、この相違点(1)は、前述のごとく当業者は前記周知のことから容易に想到できることであるので、本件発明3は、引例発明及び前記周知のことから当業者が容易に発明をすることができ、本件特許3は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(本件発明4、5、6に関し)
本件発明4は、プラウフレーム2と基部フレーム7とを二叉材27にて接続した構成を有するものであり、本件発明5は、前記砕土用転動体6が、互いに前記長手方向に離間して並列した複数の円板10と、その円板10,10間を連結すると共に、円板10の外周に離間して突設固定された多数の棒材11と、からなる構成を有するものであり、さらに本件発明6は、前記砕土用転動体6の回転軸12の位置が前記支持フレーム8に対して上下方向に移動調整自在にした構成を有するものである。
そして、本件発明4乃至6において、それぞれ上記指摘した構成は、引例発明にも、請求人がこの無効理由2において示した他の証拠方法にも見つけることはできず、しかもこれら証拠方法に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができるものとも認められない。
そうすると、請求人の主張する無効理由2によって、本件特許4乃至5は、無効にできない。
以上のことから、本件特許1乃至3は、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされることから適用される平成5年改正特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。
そして、本件特許4乃至6は、この無効理由2によっては、無効とすることができない。
3.無効理由3について
(1)請求項(2)に記載された事項について
請求項(2)には、「基部フレーム7の一端部が前記プラウフレーム2に着脱自在に取付けられ」と記載されている。
ところで、本件出願の出願当初の明細書には、基部フレーム7はプラウフレーム2に「固定」されるとしか記載されてなく、上記「着脱自在」とした構成については、平成6年2月25日付けの手続補正書によって、新たに記入された事項である。
そこで、前記当初明細書に記載された前記「固定」が直接的且つ一義的に「着脱自在」を意味するかを検討すると、前記当初明細書の記載に、前記「固定」が直接的且つ一義的に「着脱自在」であることを示す事項はなく、また当初明細書に添付された図面の記載を見ても同様である。
被請求人は、「固定」には、分離が可能なものと不可能なものがあり、プラウフレームに砕土装置の取付は、通常着脱自在に行われており、この「着脱自在」は、周知・慣用であるのみならず、いわば唯一のプラウフレームに砕土装置の取付け手段であると主張する。
しかしながら、「固定」には、被請求人の主張するように大別して分離が可能なものと不可能なものがあり、「固定」が一義的に分離可能のものを指すとはいえず、また、前記当初明細書の記載をみると、前記「固定」は、プラウフレームに砕土装置を単に動かないように取り付けたことを意味しており、この取付けにおいて、使用上の利便性から着脱自在にすることが周知・慣用であったとしても、これをもって、直ちに前記「固定」が着脱自在のみを意味するとはできない。
そうすると、前記手続補正書によって、前記「着脱自在」と補正することは、前記当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものとは認められない。
よって、本件出願は、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされることから適用される平成5年改正特許法第17条の2第2項の要件を満たさない補正をしたものである。
(2)請求項3に記載された事項について
請求項3には、「前記プラウフレーム2に延在された基部フレーム7を介して配置され、水平な支軸の回りに上下方向へ回転可能に軸支された転動体支持フレーム8」と記載されている。
請求人は、本件出願の出願当初の明細書及び図面には、「転動体支持フレーム8の両脚部が重力方向下向きに位置する」構成が示されているに過ぎず、「転動体支持フレーム8が水平な支軸の回りに上下方向へ回転可能に軸支されている」構成は示されていない旨指摘する。
しかしながら、前記当初明細書に添付された第7図及び第8図をみると、基部フレーム7の軸部19は、明らかに水平に設けられており、そして、砕土用転動体6の重力により常に、転動体支持フレーム8の両脚部が重力方向下向きに位置するものであることから、前記軸部19とこれに嵌入される前記支持フレーム8に設けた軸受18とは、回転自在であることは、明らかである。そうすると、請求人の指摘する前記「前記プラウフレーム2に延在された基部フレーム7を介して配置され、水平な支軸の回りに上下方向へ回転可能に軸支された転動体支持フレーム8」という事項は、前記当初明細書および図面に記載されていた事項と認められ、この記載事項が、いわゆる「新規事項」とすることができない。
よって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
以上のことから、前記(1)で説示したことにより、本件特許1乃至6は、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされることから適用される平成5年改正特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
4.無効理由4について
平成10年3月19日の証拠調べ(以下、証拠調べ1という。)における証人 田村政行及び被請求人本人 内藤穣並びに平成10年7月2日の証拠調べ(以下、証拠調べ2という。)における証人 大西寿一の証言によれば、平成5年10月に証人 大西寿一の農地において、本件特許明細書添付の第1乃至7図に記載された構成と同じ構成を持つ、本人 内藤穣が試作した砕土装置の実験を、証人 田村政行の立ち会う中で行ったと認められ、証拠調べ1における証人 田村政行及び本人 内藤穣並びに証拠調べ2における証人 大西寿一の証言によれば、証人 田村政行は、その砕土装置が、証拠調べ1において図面に記載したものを知ることができたと認められる。そして、この図面に記載された砕土装置は、前記本件特許明細書添付の図面1に記載された砕土装置と同じものと認められるものである。
また、証拠調べ1における証人 田村政行及び本人 内藤穣の証言、並びに証拠調べ2における証人 土屋聡、大西寿一、田村政行及び本人 内藤穣の証言から、本人 内藤穣は、前記砕土装置の実験を秘密裏に行うことを誰かに意志表示した事実は認められないこと、及び証拠調べ2における本人 内藤穣の「自分が発明をしたものであれば、これを特許出願前に他人に知られても、特許になると思っていた。本件無効審判事件において前記のように知られた場合には、特許にならないことを知った。」旨の証言から、本人 内藤穣は前記砕土装置の実験を秘密裏に行おうとする意志があったとは認められない。
そうすると、本人 内藤穣は、前記砕土装置の実験を、積極的に人を集めて行ったとは認められないものの、秘密裏に行う意志のない状態で、しかも他社の社員である田村政行の立ち会う中で行った以上、前記砕土装置は公然と実施されたものであるとするのが相当であり、この公然と実施したことは、本人 内藤穣にとって、意に反したこととは認められない。
なお、被請求人は、本人 内藤穣は、前記砕土装置は、試作であり、失敗の可能性もあること等から、前記実験を秘密裏に行う意志があったと主張するが、前記のように誰にもそれを秘密裏に行うことを意志表示しておらず、また前記本人の証言に前記のことがある以上、この主張は採用できない。また、被請求人は、証人 田村政行の証言は、前記実験の写真であるとする甲第11号証から窺いしれる時間とその証言でいう時間が違うことから信用できないとしているが、証人 田村政行の証言と他の証人及び本人の証言をあわせ考えれば、少なくとも上記認定したことについては、これによって左右されるものではない。
ところで、前記実験した砕土装置は、本件特許明細書添付の第1乃至7図に記載されたものであると認められることから、本件特許明細書記載の事項を参酌すれば明らかなように、本件発明1及び本件発明3乃至6と同じ構成を持つものであり、本件発明1及び本件発明3乃至6は、本件出願前国内において公然と実施された発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができない。
また、本件発明2は、前記実験した砕土装置と比べ、基部フレームをプラウフレームに着脱自在に取り付けた点において相違するが、本件出願前、砕土装置において本件発明2のような基部フレームをプラウフレームに着脱自在に取付けることは、当業者において周知のことであり(要すれば、甲第7号証の1参照)、この点、当業者において、この周知のことから容易に想到できたことである。
してみれば、本件発明2は、前記公然と実施された砕土装置と周知のことから、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のことから、本件特許1乃至6は、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされることから適用される平成5年改正特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。
第4 結語
以上のことから明らかなように、本件特許1乃至6は、無効理由1乃至4のそれぞれにおいて説示した理由により、結局、すべて、無効となるものである。
よって、本件請求項1乃至6に係る特許は無効とし、費用については特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条を適用して、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1998-06-08 
結審通知日 1998-06-08 
審決日 1998-09-24 
出願番号 特願平6-52827
審決分類 P 1 112・ 112- Z (A01B)
P 1 112・ 121- Z (A01B)
P 1 112・ 55- Z (A01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 番場 得造  
特許庁審判長 酒井 雅英
特許庁審判官 木原 裕
郡山 順
登録日 1996-10-03 
登録番号 特許第2567812号(P2567812)
発明の名称 リバーシブルプラウの砕土装置  
代理人 関口 智弘  
代理人 赤野 牧子  
代理人 伊藤 将夫  
代理人 木下 茂  
代理人 井波 理朗  
代理人 今野 耕哉  

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