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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) G01N
管理番号 1064210
審判番号 審判1998-35076  
総通号数 34 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1987-12-05 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-02-27 
確定日 2000-08-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第2027807号発明「螢光X線分析装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2027807号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2027807号は、昭和61年5月28日に出願され、平成7年7月5日に特公平7-62656号として出願公告され、平成7年12月8日に特許査定がなされ、平成8年2月26日付で設定登録されたものである。その後、平成9年11月17日に訂正審判が請求され、平成10年1月22日付で上記訂正審判について審決がなされ、そして平成10年2月27日に、本件特許発明の無効の審判が、審判請求人である理学電機工業株式会社よりなされたものである。
II.本件特許発明
本件特許発明の要旨は、平成9年審判第19472号により訂正が認められた訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「(1)真空ポンプによって排気する分析室への空気流入経路上、又は排気経路上に、経路の開閉を制御する弁を設けると共に、分析室の真空度を測定する真空計と、この真空計からの信号によって前記弁の開度を調節する制御回路を備え、分析室の空気圧力が0.1Torr程度に下がった後その空気圧力を所定の値で一定に保持するよう制御することを特徴とする蛍光X線分析装置。」
III.審判請求人の無効理由の概要
審判請求人の理由の概要は、本件特許発明は、
1.甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明及び周知技術である甲第3〜11号証に基づいて、当業者であれば容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものであり、
2.特許法第126条に基づいて行われた本件特許の願書に添付した明細書又は図面の訂正については、上記と同様に特許法第126条第4項の規定に違反してなされたものであり、本件特許は特許法第123条第1項第8号の規定により無効とすべきである、
というものであり、下記の証拠方法を提出している。
なお、上記無効理由中「特許法第126条第4項」「特許法第123条第1項第8号」との記載は、本件発明が、容易に発明をすることができたものであるので、特許出願の際独立して特許を受けることができない、との主張の根拠条文を記載したものであるが、上記独立特許要件に関する規定は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、「特許法第126条第3項」「特許法第123条第1項第7号」にあたることは明らかであるから、上記記載はそれぞれ「特許法第126条第3項」「特許法第123条第1項第7号」の誤記であるとして、以下審理する。

甲第1号証:実願昭52-67220号(実開昭53-160989号)のマイクロフイルム
甲第2号証:「Vacuum」22[7](1972)p.261-263,“An automatic pressure controller for vacuum systems”(P.Watkinson、W E Austin著)
甲第3号証:特開昭58-204357号公報
甲第4号証:実公昭42-1037号公報
甲第5号証:実公昭43-31191号公報
甲第6号証:「Norelco REPORTER October‐December 1964」(1964)p.120-137,“A Note on Optic‐Path Vacuum Conditions in X-ray Analyses of Light Elements”(James D.Williams著)
甲第7号証:Helge von Koch,Gregory Ljunberg編「INSTRUMENTS AND MEASUREMENTS VOLUME 1」(1961)ACADEMIC PRESS PUBLISHERS p.360-377,“RECENT DEVELOPMENTS IN ARL X-RAY INSTRUMENTATION”(E.DAVIDSON,W.RAMSDEN著)
甲第8号証:「METHODS FOR EMISSION SPECTROCHEMICAL ANALYSIS(Seventh Edition)」(1982)ASTM出版 p.348-351、p.495-498、p.839-843、p.849-854
甲第9号証:Eugene P.Bertin著「Introduction to X-Ray Spectrometric Analysis」(1978)、Plenum Press p.1-3,“Chapter 1 Excitation and Nature of X-Rays and X‐Ray Spectra”
甲第10号証:WILLIAM M.MUELLER編「ADVANCES IN X-RAY ANALYSIS VOLUME 3 “Proceedings of the Eighth Annual Conference on Applications of X-Ray Analysis Held August 12-14,1959”」(1959) Plenum Press p.49-56、“THE UNIVERSAL VACUUM SPECTROGRAPH AND COMPARATIVE DATA ON THE INTENSITIES OBSERVED IN AN AIR, HELIUM,AND VACUUM PATH”(D.C.Miller and P.William Zingaro著):
甲第11号証:「Norelco REPORTER March-September 1956」(1956)North American Philips Co.Inc.p.24-36,“X‐ray Spectrochemical Analysis”(William Parrish著)
IV.甲各号証の記載事項
甲第1号証には、次のことが図面とともに記載されている。
「例えばX線分析装置では、物質にX線を照射する部分あるいはX線の照射によって物質から得られる固有X線を検出器でとらえる部分等はX線の減衰を抑えるために真空状態にしている。従って、かかる測定装置等では測定精度を上げるために測定時は常に所定の真空度に保持されていなければならない。」(2頁5〜12行)、
「真空度を測定して自動的に装置の測定開始又は停止を行うようにし、これによって常に所定の真空度で測定を行ない従来の欠点を除去する真空制御系を備えた測定装置を提供するものである。」(3頁12〜16行)
「第1図において11は内部がポンプ12により真空状態に設定され、・・・ここでの真空度は例えば真空室11外部に設けた真空計13により測定され、後続のコンパレータ14に送られる。このコンパレータ14は真空計13から送られてくる真空度に対応した信号レベルと予め所定の所定の真空度に設定されたレベルとを比較し、真空計13からの真空度レベルが予め設定されたレベルより高いときに信号を出力するものである。このコンパレータ14は前記ポンプ12を稼働制御するとともに、後続のパルス発生部15およびインヒビット回路16を制御する。・・・インヒビット回路16はコンパレータ14の信号と外部からの測定したい任意時のスタート信号が供給されるようになっており、従って、何れかの信号が入らないときにはインヒビットされている。」(3頁18行〜4頁19行)、
「次に、第1図に示す真空測定機能を備えた測定装置の作用を説明する。今、測定装置を動作すると、真空計13は真空室11の真空度を検出する。このとき真空室11の真空度がレベル設定された真空度より小さいときにはコンパレータ14から信号が出ないので、ポンプ12は稼働継続状態にあり、このため真空室11内はポンプ12により減圧操作が行なわれる。
而して、真空室11の真空度が予め設定された真空度に達すると、コンパレータ14より信号が発生し、これによりポンプ12は停止するとともに、後続のパルス発生部15からパルス信号が発生し、これはオア回路17を通って測定制御部に送られる。これにより、測定装置は測定を開始する。
一方、測定したい任意のときに外部からインヒビット回路16にスタート信号を与えると、コンパレータ14から信号が出ているときにはインヒビット回路16は解除されているので、・・・測定装置は測定を開始する。なお、コンパレータ回路14から信号がでていないときには、インヒビット回路16はインヒビット状態にあり、このため回路16にスタート信号を入れても測定を行なわない。」(4頁最下行〜6頁5行)、
「なお、真空室11内の真空度が低下した場合には、コンパレータ14からの出力がなくなり、測定を中止させるとともに自動的にポンプ12を作動させて真空度を上げるようにする。」(6頁16〜19行)、
「また、本考案装置は一例としてX線分析装置に適用したが、これに限らず真空に設定して測定を行なう装置全てに適用できるものである。」(6頁最下行〜7頁2行)
甲第2号証には、次のことが図面とともに記載されている。
「本論文は、動的真空システムにおいて一定圧力を保持すべくガス処理量を制御するように設計された閉ループサーボシステムの開発について述べる。これは、電気信号を出力できる圧力計と、小さなサーボモータで駆動できるガス流入用ニードルバルブとで作動するように設計されている。従来の動作原理が適用されており、ゲージ出力信号は、増幅された後に基準電圧と比較される。これら2つの差電圧によりモータを駆動制御する。モータ駆動は、圧力ゲージの出力電圧が基準値と同じ値を維持するような方向になっている。速い応答性のゲージ(例えば、イオン化タイプ)あるいは遅い応答性のゲージ(例えば、ピラニタイプ)を備え、かつ、長い真空度制御時定数あるいは短い真空度制御時定数を備えており広範に変化するタイプの動作を行うものに対しては、システムが迅速で安定した閉ループ応答を備えていることが重要である。」(261頁上欄1〜9行)
「導入部
真空処理や実験においては、しばしば、温度、電圧、電流の多くのパラメータを限られた範囲内で制御することが必要とされる。真空室内における圧力やガス流もまた、かかる処理や実験にとって非常に重要なパラメータであろう。
ポンピング速度における変動、そして、より小さな範囲のガスの放出、吸着、そして、漏れは、圧力変動の多くの原因であり、ある一つの設定条件に対しては、リーク弁の手動による調整によってその圧力を維持することとなる。
真空室内における圧力を検出し、これに対応してリークバルブの位置を調整する、つまり、コンダクタンスを調整する制御システムでは、リーク弁のコンダクタンスが他のパラメータの変化にも拘わらず、自動的に、真空室圧力を一定に維持することとなる。
システム動作
図1はかかる制御システムの動作を示している。真空室内の圧力は変換器により検出され、圧力に応じた電圧が制御ユニットに供給されて内部の基準値と比較される。その信号は全圧に比例してもよく、あるいは、質量分析計が使用される場合には、分圧に比例することもできる。2つの信号の間の差は増幅されてモータに印加され、リーク弁を所望の圧力に達するまで開閉する。この時点で、リーク弁を通るガス流は、ポンプを通るガス流と等しくなり圧力は平衡状態となる。
上記のように動作する制御システムは、以下のような要求を満たすように設計されている。
(a)真空システム内の圧力を要求される圧力の1パーセント以内に維持すること。
(b)セットアップが簡単で操作が容易であること。
(c)可能な限り多くのタイプの変換器からの信号を入力すること。
(d)大幅に変動する真空システムの閉ループ条件下での安定性を維持すること。」(261頁左欄1行〜同頁右欄2行)、
「応用
この自動圧力制御装置はリバプール市での幾つか試験において使用されている。
制御ユニットの開発のために使用された真空システムは、3リットルと1.5リットルの二つの容量を有している。両容量は、10リットル/秒の3極型イオンポンプによって吸い出され、これにより、それぞれ0.3と0.05秒の時定数のシステムとなっている。
図5は、3リットルのシステムにおける、8×10‐7torrのベース圧力から10‐5torrの要求圧力までの典型的な反応曲線を示す。弁は、全閉状態から通常の動作範囲に達するためには約10秒かかり、さらに要求圧力の1%に至るまでには3秒かかる。
10%のステップ状の変化に対する応答もまた示されており、適切な電圧波形を与えることにより、圧力はいかなる所望の関数にも追従するようプログラムすることが出来る。
制御ユニットは、また、10リットルのシステムにも組み入れられ、2リットル/秒のロータリーポンプによって5秒の時定数を有するものとなっている。圧力はブルドン管ゲージによって、10‐1-10torrの範囲で測定される。この場合、圧力ゲージからのゼロ出力は平衡状態に達したことを指し示す。この制御ユニットは、また、上昇する圧力に対して減少する電気的出力を与えるゲージ、すなわち、ピラニゲージ及び熱電対ゲージと共に使用することも出来る。
100リットル/秒の拡散ポンプにより吸引される2リットルのシステムにおいて、圧力を一定に保持するために自動制御装置が使用された場合におけるゲージの汚染の検討もまた行われた。
これらの例は、自動圧力制御装置が適応される種々のシステム、ポンプの排気速度、そして圧力変換器を示すように選択されている。真空システムにおける適当な位置にリーク弁と圧力変換器を配置することが必要であり、以下の点が注意されるべきである。
(a)最良のダイナミック応答性のためには、変換器はガスの入り口近くに配置され、全体システムが平衡状態に達する前に圧力の変化を検出するようにすべきである。
(b)リークバルブと真空室との間の小径孔の配管を長くすることは、システム内において遅れによって不安定性を生じ、制御ユニットの感度を低下させる必要を生じることから、避けなければなない。
結論
この自動圧力制御装置は、可能な限り様々な真空室、ポンプ、圧力変換器を考慮してそれらに使用することが出来るように設計されている。また、制御システムの正常な動作に対するノイズの影響、不慣れなオペレータにより使用される場合における使用の簡単さに、あるいは、圧力が制御される多数のパラメータの中の1つである場合でもそれぞれに費やされる時間が最小限になるように、留意が払われている。
それゆえ、この制御システムは、研究所や真空装置を利用した多くの産業プロセスの双方において有用な応用を見い出すことが期待される。」(263頁左欄25行〜同頁右欄39行)
甲第6号証には次のことが記載されている。
「導入部
X線分光分析の定量分析は、通常、既知及び未知の試料との計数率の比較によって行われる。X線通路では、一次ビームが試料中の特定元素を励起し、それらの蛍光X線は適当なコリメーションを通過して分光結晶へ向かい、特性X線の強度の計測を行う検出器の方へ回折される。原子番号が20以下の軽元素からの放射で実用的な計数率を得るには、この通路の空気の吸収を減少しなければならない。しかしながら、システムにおける真空がより良くなるに従って、記録される計数率はより高くなるため、高精度の分析を維持するためには、与えられた分析の実行の全ての測定は一定の真空レベルで行われなければならない。本ノートでは、ナトリウムからカルシウムまでの軽元素についての到達真空度とその許容される変動幅が評価される。」(120頁左欄1〜26行)
「結果
・・・試料中の元素のパーセント含有率が高くなればなる程、真空レベルのX線強度の絶対値への影響が大きくなることを示している。・・・この縦座標は、真空度が150ミクロンであるとの前提において真空度許容範囲を示しているものであることが注意されるべきである。・・・
結論
軽元素分析における真空レベルの正確な制御の必要性を軽減するためには、150ミクロン以下で分析を行うことが好ましい。このレベルまでに減圧する時間は、前段ポンプと分光器との間に簡単な液体窒素のトラップとバルブアセンブリーを挿入することにより大幅に低減することが出来る。減圧時間における更なる改良は、8ホルダーの試料室により、減圧時間を50%低減することにより達成される。これらの改造により、8個の試料(岩石試料、前乾燥せず)は、30秒以内に100ミクロンまで減圧することが出来る。このレベルでは、トラップ上のバルブは部分的に閉じ、安定な真空度が維持される。」(120頁中央欄下から4行〜137頁中央欄15行)
甲第7号証には次のことが記載されている。
「真空に関する考察
ところで、X線分光分析計システムにおいて空気の代わりにヘリウムや水素を使用することにより、特に3Å以上での吸収がかなり減少し、真空システムはより効率的でより経済的なものとなる。・・・
図5からは、10cm径の分光器における、ある一定の重要な元素に対してもたらす吸収量を示している。0.5〜0.1mmの領域では、認められ得る強度の変動が、圧力の違いによって生じていることが明らかである。0.1mm以下では、僅かな変動により誤差はほとんど生じていない。
それ故、分析記録システムでは、0.1mmの圧力に達した時に自動的に分析を開始するように設計されており、これは試料を分析位置に移動した後、だいたい20-30秒程度である。」(365頁13行〜366頁5行)
甲第8号証には、蛍光X線分析を含む各種の発光分光化学分析のための標準的方法又は提唱方法、特に、アルミニウム等の軽元素を含む各種合金の蛍光X線分析方法に関し、次のことが図面とともに記載されている。
「7.3.4 真空システムは、もしも使用されるならば、真空ポンプ、ゲージ、そして光通路をポンプで自動的に真空にして、13.3Pa(100μmHg)又はそれ以下で分析を開始及び維持し、2.7Pa(±20μmHg)で制御可能な電気的制御装置から構成すべきである。」(496頁左欄43〜48行)
「5.3.4 真空システムは、その蛍光X線が空気により吸収される元素の定量のために備え、光路の自動的な真空を行うため、真空ポンプと、ゲージと、電気的な制御装置とを備え、真空ポンプ、ゲージ、そして光通路をポンプで自動的に真空にし、分析を開始し、13.3Pa(100ミリトール)の圧力を維持するための電気的制御装置から構成される。」(840頁左欄30〜36行)
「6.3.5 真空システムは、その蛍光X線が空気により吸収される元素の定量のために備え、真空ポンプ、ゲージ、そして、光通路をポンプで自動的に真空にし、分析を開始し、13.3Pa(100ミリトール)又はそれ以下の圧力を維持するための電気的制御装置から構成される。」(850頁左欄37〜43行)
V.本件特許発明と甲各号証に記載された発明との対比、判断
本件発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証の「ポンプ12」「真空室11」「X線分析装置」がそれぞれ本件発明の「真空ポンプ」「分析室」「蛍光X線分析装置」に対応することは明らかである。また、本件発明の「所定の値で一定に保持する」との構成は、「空気圧力が所定値以下になると経路が開放されて空気が分析室に流入し空気圧が上昇する。・・・空気圧が所定値以下になると弁が閉鎖され、空気のもれ等によって徐々に空気圧が上昇する。空気圧力が所定値以上になると再び弁が開き排気される。」(特許明細書3欄31〜37行)との明細書の記載からみて、分析室内の空気圧が所定値近傍を上下する場合を含むものと解される。一方、甲第1号証には、「例えばX線分析装置では、・・・物質から得られる固有X線を検出器でとらえる部分等はX線の減衰を抑えるために真空状態にしている。従って、かかる測定装置等では測定精度を上げるために測定時は常に所定の真空度に保持されていなければならない。」(2頁5〜12行)、「このコンパレータ14は真空計13から送られてくる真空度に対応した信号レベルと予め所定の真空度に設定されたレベルとを比較し、真空計13からの真空度レベルが予め設定されたレベルよりも高いときに信号を出力するものである。このコンパレータ14は前記ポンプ12を稼働制御するとともに・・・制御する」(4頁3〜11行)、「真空室11の真空度が予め設定された真空度に達すると、コンパレータ14より信号が発生し、これによりポンプ12は停止するとともに、・・・測定装置は測定を開始する。一方、測定したい任意のときに外部からインヒビット回路16にスタート信号を与えると、コンパレータ14から信号が出ているときには、インヒビット回路16は解除されているので、・・・測定装置は測定を開始する。なお、コンパレータ回路14から信号がでていないときには、インヒビット回路16・・・にスタート信号を入れても測定を行なわない。」(5頁8行〜6頁5行)、「なお、真空室11内の真空度が低下した場合には、コンパレータ14からの出力がなくなり、測定を中止させるとともに自動的にポンプ12を作動させて、真空度を上げるようにする。」(6頁16〜19行)との記載があることは上記のとおりであり、該記載から甲第1号証の蛍光X線分析装置は、「真空室11の真空度が予め設定された真空度に達すると、・・・ポンプ12は停止」し、「測定装置は測定を開始する」とともに「真空度が低下した場合には、・・・測定を中止させるとともに自動的にポンプ12を作動させて、真空度を上げるようにする」ことにより、その真空度が設定された真空度近傍を上下するものであるから、甲第1号証の「設定された真空度」は本件発明の「所定の値」に相当する。さらに、甲第1号証の「コンパレータ14」は、真空計からの信号によりポンプ12を稼働制御して真空度を上下させるものであるから、甲第1号証の「コンパレータ14」は本件発明の「制御回路」に相当する。したがって、両者は、「真空ポンプによって排気する分析室、該分析室の真空度を測定する真空計と、この真空計からの信号によって制御する制御回路を備え、分析室の空気圧力を所定の値で一定に保持するよう制御する蛍光X線分析装置」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点:
▲1▼本件発明が、分析室への空気流入経路上、又は排気経路上に、経路の開閉を制御する弁を設け、制御回路により弁の開度を調節することにより、真空室の空気圧力を所定の値で一定に保持しているのに対し、甲第1号証のものは、制御回路(コンパレータ14)によりポンプを稼働制御することにより真空室の空気圧力を所定の値で一定に保持するものであって、経路の開閉を制御する弁および該弁の開度を調節するものではない点。
▲2▼本件発明は、分析室の空気圧力が「0.1Torr程度に下がった後」その空気圧力を所定の値で一定に保持するよう制御するものであるのに対し、甲第1号証のものは、分析室の空気圧力を設定された真空度(所定の値)で一定に保持するよう制御するものではあるが、その設定された真空度がどの程度の真空度に下がった後であるか明らかでない点。
上記相違点について検討する。
相違点▲1▼について:
甲第2号証には、真空ポンプによって排気する分析室への空気流入経路上に、経路の開閉を制御する弁を設け、分析室の真空度を測定する真空計と、この真空計からの信号によって前記弁の開度を調節する制御回路を備え、分析室の空気圧力が所定の値に下がった後その空気圧力を所定の真空度(0.1〜10Torr)で一定に保持するよう制御する真空装置が記載されており、該所定の真空度は蛍光X線分析可能な真空度を含むことは明らかである。そして、甲第1号証には、真空ポンプを用い分析室の空気圧力を所定の値で一定に保持するよう制御する蛍光X線分析装置が記載されており、該蛍光X線分析装置の真空装置として一般的な真空装置が適用可能なことは明らかであるから、蛍光X線分析可能な真空度に制御可能な甲第2号証の真空装置を甲第1号証の蛍光X線分析装置に適用することにより上記相違点▲1▼の構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。
相違点▲2▼について:
本件発明のものは、蛍光X線分析、特に軽元素の蛍光X線分析を行うことを目的とするものであるが、軽元素の蛍光X線分析を行う際に、分析室の真空度を0.1Torr程度にすべきことは周知(必要であれば甲第6〜8号証参照)のことにすぎない。また、蛍光X線分析において測定中の空気圧力を分析可能な一定の値に維持することも周知(例えば、甲第8号証には、0.1Torr又はそれ以下の空気圧を維持することが記載されていることは上記記載のとおりである。)のことである。してみると、軽元素の蛍光X線分析を行う際に真空度を0.1Torr程度にすることが格別のことでない以上、甲第1号証の真空装置として甲第2号証の一般的な真空装置を適用する際に、一定に保持する所定の真空度の値が分析可能な値(0.1Torr)に収まるように設計することにより、上記相違点▲2▼の構成とすることは当業者が容易になし得る程度のことである。
なお、被請求人は、「甲第1号証に記載された発明は“真空度を測定しておいて所定の真空度になったら自動的に測定を開始し、真空度が悪くなったら測定を停止するようにしたX線分析装置などの測定装置”ということがその要旨」であり、「真空度を設定値で積極的に一定に保ちながらX線測定を行うという発想がない」として本件発明との差異を主張するが、真空ポンプを用い分析室の空気圧力を所定の値で一定に保持するよう制御する蛍光X線分析装置が甲第1号証に記載されていること、軽元素の蛍光X線分析を行う際に真空度を0.1Torr程度にすることが周知であることは、上記相違点▲1▼,▲2▼において検討したとおりであるから、一定に保持する所定の真空度の値が分析可能な値(0.1Torr)に収まるよう(0.1Torrまたはそれ以下)に設定されれば、測定を中止することなく引き続き蛍光X線分析が可能であることは明らかであるので、上記主張は採用するに足らないものである。
そして、本件発明が奏する作用効果は、甲第1、2号証に記載された発明及び周知技術から予測しうる程度のものである。
したがって、本件発明は、甲第1、2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件発明の特許は、特許法第126条第3項の規定に違反してなされたものである。
VI.むすび
以上のとおりであるから、本件発明の特許は、特許法第126条第3項の規定に違反してなされたものであるので、本件特許は特許法第123条第1項第7号の規定により無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-04-20 
結審通知日 1999-04-20 
審決日 1999-05-18 
出願番号 特願昭61-124293
審決分類 P 1 112・ 121- Z (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 時枝 裕子  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 小柳 正之
森 正幸
登録日 1996-02-26 
登録番号 特許第2027807号(P2027807)
発明の名称 螢光X線分析装置  
代理人 江口 裕之  
復代理人 佐々木 孝  
代理人 高橋 明夫  
代理人 西岡 義明  
代理人 田中 恭助  
代理人 喜多 俊文  

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