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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1065925
異議申立番号 異議2001-71462  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-11-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-05-18 
確定日 2002-08-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3110728号「非水系二次電池用正極活物質および正極」の請求項1ないし3、5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3110728号の請求項1,2,4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3110728号の手続の経緯は次のとおりである。

特許出願: 平成11年 5月 6日
設定登録: 平成12年 9月14日
特許掲載公報発行: 平成12年11月20日
特許異議申立: 平成13年 5月18日
(異議申立人住友金属株式会社)
特許異議申立: 平成13年 5月21日
(異議申立人富士化学工業株式会社)
取消理由通知: 平成14年 4月16日付け
審尋: 平成14年 4月16日付け
(異議申立人富士化学工業株式会社に対して)
訂正請求: 平成14年 6月25日
特許異議意見書: 平成14年 6月25日
回答書 平成14年 6月25日

2.訂正の適否についての判断

2-1.訂正の内容

訂正の内容は、訂正請求書及びそれに添付された訂正明細書の記載からみて、下記(1)〜(5)のとおりである。

(1)訂正事項a
特許請求の範囲の訂正前の請求項(以下「旧請求項」という)2を削除する。

(2)訂正事項b
旧請求項3を請求項2とし、その引用する「請求項1または2」を「請求項1」に訂正する。

(3)訂正事項c
旧請求項4を請求項3とし、その引用する「請求項3」を「請求項2」に訂正する。

(4)訂正事項d
旧請求項5を請求項4とし、その引用する「請求項1〜4のいずれか一項」を「請求項1〜3のいずれか一項」に訂正する。

(5)訂正事項e
明細書【0007】中の、「・・・第2に、10mA/cm2放電時の容量保持率が79.1%以上である請求項1記載の非水系二次電池用正極活物質;第3に、Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種以上の元素とリチウムの各化合物の混合物を500〜800℃の仮焼温度で仮焼し、これを解粒分散して、噴霧乾燥法により造粒した後、該仮焼温度より30℃以上高く且つ900℃以下の温度で焼成して得られる請求項1または2記載の非水系二次電池用正極活物質;第4に、仮焼された粒子に硝酸と硝酸リチウムを添加して該粒子の表面改質を行う請求項3記載の非水系二次電池用正極活物質;第5に、正極活物質がリチウムイオンを可逆的に挿入・脱着可能なリチウム複合酸化物であり、該正極活物質と炭素系導電材および結着剤の混合物が、集電体上に膜状に形成された正極において、請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質二次粒子の正極活物質が該炭素系導電材の樹状ネットワーク内に保持されていることを特徴とする非水系二次電池用正極、を提供するものである。」(特許公報第5欄第13-30行)を、「第2に、Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種以上の元素とリチウムの各化合物の混合物を500〜800℃の仮焼温度で仮焼し、これを解粒分散して、噴霧乾燥法により造粒した後、該仮焼温度より30℃以上高く且つ900℃以下の温度で焼成して得られる請求項1記載の非水系二次電池用正極活物質;第3に、仮焼された粒子に硝酸と硝酸リチウムを添加して該粒子の表面改質を行う請求項2記載の非水系二次電池用正極活物質;第4に、正極活物質がリチウムイオンを可逆的に挿入・脱着可能なリチウム複合酸化物であり、該正極活物質と炭素系導電材および結着剤の混合物が、集電体上に膜状に形成された正極において、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質二次粒子の正極活物質が該炭素系導電材の樹状ネットワーク内に保持されていることを特徴とする非水系二次電池用正極、を提供するものである。」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否

訂正事項a〜dは、訂正前の請求項2を削除し、旧請求項3〜5を請求項2〜4に繰り上げるとともに、請求項2〜4の引用する請求項を訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、新規事項を追加するものでも、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

訂正事項eは、上記訂正事項a〜dに整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、新規事項を追加するものでも、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

2-3.独立特許要件

訂正事項cは、特許異議の申立てがされていない請求項4についての訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当するから、訂正明細書の請求項3に係る発明の独立特許要件について検討する。

訂正明細書の請求項3に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定されたとおりのものであって、同請求項2に係る発明の構成要件を全て含むものであり、同請求項2は、同請求項1に係る発明の構成要件を全て含むものであるから、結局、同請求項3に係る発明は、同請求項1に係る発明を全て含むものである。
そして、当該請求項1に係る発明は、下記3-3.2)、3-4.1)、3-5.2)に示すように、特許異議申立人が提出したいずれかの刊行物に記載された発明であるとも、全刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができないし、その明細書の記載に不備があるとすることもできないから、同様の理由により、訂正明細書の請求項3に係る発明は、特許異議申立人が提出したいずれかの刊行物に記載された発明であるとも、全刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができず、その明細書の記載に不備があるとすることもできない。

したがって、訂正明細書の請求項3に係る発明は、出願の際、独立して特許を受けることができるものである。

2-4.むすび

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する同法第126条第2項から第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立についての判断

3-1.特許異議申立の理由及び取消理由の概要

特許異議申立人住友金属鉱山株式会社(以下「申立人1」という)は、本件の出願日前に頒布された刊行物である甲第1,3号証、及び実験報告書である甲第2号証を提出して、以下の理由1,2により、本件の請求項1,2,5に係る発明の特許は取り消されるべきであると主張している。

理由1:本件の請求項1,2,5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1,2,5に係る発明の特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

理由2:本件特許明細書の特許請求の範囲、及び発明の詳細な説明の記載が不備であるから、請求項1,2,5に係る発明の特許は特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

特許異議申立人富士化学工業株式会社(以下「申立人2」という)は、甲第1-5号証を提出し、以下の理由3により、本件の請求項1-3に係る発明の特許は取り消されるべきであると主張している。

理由3:本件の請求項1-3に係る発明は、甲第1-3号証に記載された発明であるか、甲第1-3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1-3に係る発明の特許は特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反してされたものである。

また、取消理由は、本件請求項1,3,5に係る発明は甲第2号証に記載された発明である蓋然性が高いから、同請求項に係る特許は特許法第29条第1項に違反してされたものであり、請求項2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものものであるから、同請求項に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであることを趣旨としている。

3-2.本件発明

上記訂正により、本件の旧請求項2が削除され、旧請求項3〜5が請求項2〜4に繰り上がったから、申立人1,2による特許異議申立の対象は、請求項1,2,4に係る発明となり、その発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1,2,4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】 Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種以上の元素とリチウムとを主成分とするリチウム複合酸化物からなる多孔質の球状二次粒子であって、該球状二次粒子は、水銀圧入法による細孔分布測定での細孔平均径が0.1〜1μmの範囲内にあり、0.01〜1μmの径をもつ細孔の容積の合計が0.01cm3/g以上であると共に、平均粒子径が4〜20μmであり、タップ密度が1.8g/cc以上であり、且つクーパープロット法による体積減少率の変曲点が500kg/cm2以上であることを特徴とする非水系二次電池用正極活物質。
【請求項2】 Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種以上の元素とリチウムの各化合物の混合物を500〜800℃の仮焼温度で仮焼し、これを解粒分散して、噴霧乾燥法により造粒した後、該仮焼温度より30℃以上高く且つ900℃以下の温度で焼成して得られる請求項1記載の非水系二次電池用正極活物質。
【請求項4】 正極活物質がリチウムイオンを可逆的に挿入・脱着可能なリチウム複合酸化物であり、該正極活物質と炭素系導電材および結着剤の混合物が、集電体上に膜状に形成された正極において、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質二次粒子の正極活物質が該炭素系導電材の樹状ネットワーク内に保持されていることを特徴とする非水系二次電池用正極。」
(以下、請求項1に係る発明を「本件発明」という。)

3-3.理由1について

1)甲第1号証に記載された発明

申立人1の提出した甲第1号証である特開平9-231973号公報(以下「引用文献」という)には、以下の記載がある。

A.「一般式LixNiyM1-yO2(・・・y:0.95≧y≧0.7)で表されるリチウム複合ニッケル酸化物で2μm以下の一次粒子が集合した粒子を主たる構成とし、30Å以下の細孔半径を有する空間体積が全空間体積に対して10%以下であるとともに、30Å以下の細孔半径を有する空間の総体積が0.002cm3/g以下であることを特徴とする非水電解液電池用正極活物質。」(【請求項1】)

B.「前記リチウム複合ニッケル酸化物は、球状もしくは楕円球状であることを特徴とする請求項1記載の非水電解液電池用正極活物質。」(【請求項2】)

C.「前記リチウム複合ニッケル酸化物は、平均粒子径が1.5〜10μmであり、タップ密度が1.8〜2.5g/cm3の範囲であることを特徴とする請求項1記載の非水電解液電池用正極活物質。」(【請求項4】)

D.「前記リチウム複合ニッケル酸化物は、細孔の空間体積が0.0015〜0.06cm3/gの範囲であることを特徴とする請求項1記載の非水電解液電池用正極活物質。」(【請求項5】)

E.「【発明の属する技術分野】本発明は、非水電解液二次電池の、とくにその正極活物質および正極板の改良に関するものである。」(【0001】:第4欄第3-5行)

F.「(実施例1)・・・
以下、正極活物質の合成法について詳しく説明する。硫酸ニッケル、硫酸コバルト、水酸化ナトリウム溶液を用い、硫酸ニッケル溶液、硫酸コバルト溶液を一定流量で容器内に導入し、十分撹拌しながら、水酸化ナトリウム溶液を添加した。
水酸化ナトリウムの添加量を変化させることによって種々の平均粒径を有するニッケル-コバルト複合水酸化物が得られた。
生成した沈殿物を、水洗、乾燥し種々の平均粒径を有するニッケル-コバルト複合水酸化物を得た。
得られたニッケル-コバルト複合水酸化物の化学組成は、すべてNi0.85Co0.15(OH)2であった。
レーザー回折による平均粒径の測定を行った結果、平均粒径はそれぞれ0.5、1.5、5.0、10、20μmであった。
得られたニッケル-コバルト複合水酸化物を水酸化リチウムとLiとNi-Coのモル比が1.04:1になるように混合し、酸化雰囲気下において800℃で10時間焼成してLiNi0.85Co0.15O2(No.1〜5)を合成した。
得られた塊状物を粉砕、分級して電池用活物質とした。合成されたリチウム複合ニッケル-コバルト酸化物は、SEM観察により2μm以下の微小な粒子が多数集合してなる球状の二次粒子であることが確認された。
得られたリチウム複合ニッケル-コバルト酸化物の物性を(表1)に示す。
【表1】(「全細孔の総体積(cm3/g)10-200Å」なる記載がある。)
(表1)の空間体積比とは、細孔半径が10〜200Åの全空間体積に対する30Å以下の空間体積の割合である。」(【0031】-【0042】:第7欄第36行-第9欄第15行)

G.「(実施例4)第4実施例として、(実施例1)と同様にニッケル複合水酸化物を生成する工程において硫酸ニッケルの水溶液中のNiイオン濃度に対し、添加金属イオンの濃度が85:15になるようにMn、Cr、Fe、Mg、Alの硫酸塩を添加し、(実施例1)と同様の方法で5μmの平均粒径を持つ化学式Ni0.85M0.15(OH)2(MはMn、Cr、Fe、Mg、Alのいずれか)の組成を有するニッケル-コバルト複合水酸化物を合成した。
得られたニッケル複合水酸化物を水酸化リチウムとLiとNi+Mのモル比が1.04:1になるように混合し、酸化雰囲気下において800℃で10時間焼成してLixNi0.85M0.15O2(x:1.10≧x≧0.98、MはMn、Cr、Fe、Mg、Alのいずれか)を合成し、得られた塊状物を粉砕、分級して電池用活物質No.16、17、18、19、20とした。
また、3成分系として硫酸ニッケルの水溶液中のNiイオン濃度に対し、添加金属イオンの濃度が80:15:5になるように硫酸コバルト、硫酸マグネシウムの硫酸塩を添加し、(実施例1)と同様の方法で5μmの平均粒径を持つ化学式Ni0.80Co0.15Mg0.05(OH)2の組成を持つニッケル-コバルト-マグネシウム複合水酸化物を合成した。
得られたニッケル-コバルト-マグネシウム複合水酸化物を水酸化リチウムとLiとNi+Co+Mgのモル比が1.04:1になるように混合し、酸化雰囲気下において800℃で10時間焼成してLixNi0.80Co0.15Mg0.05O2(x:1.10≧x≧0.98)を合成し、得られた塊状物を粉砕、分級して電池用活物質No.21とした。
得られたリチウム複合ニッケル-コバルト酸化物の物性を(表7)に示す。
【表7】(「全細孔の総体積(cm3/g)10-200Å」なる記載がある。)」(【0080】-【0085】:第15欄第7行-第16欄第18行、及び表7)

上記の記載事項F、Gの、特に表1、7の「全細孔の総体積(cm3/g)10〜200Å」の記載により、記載事項Aの「全空間体積」、及び、記載事項Dの「細孔の空間体積」は、「10〜200Åの細孔半径を有する細孔の全空間体積」を意味するものと認められるから、引用文献には、
「リチウム複合ニッケル酸化物で、一次粒子が集合した細孔を有する球状の粒子であり、10〜200Åの細孔半径を有する細孔の全空間体積が0.0015〜0.06cm3/gの範囲であり、平均粒子径が1.5〜10μmであり、タップ密度が1.8〜2.5g/cm3の範囲である非水電解液二次電池用正極活物質」
が記載されているといえる。

2)対比・判断

本件請求項1に係る発明(前者:以下「本件発明」という)と、引用文献記載の発明(後者:以下「引用発明」という)とを対比すると、後者の「リチウム複合ニッケル酸化物で、一次粒子が集合した細孔を有する球状の粒子」、「細孔の全空間体積」は、それぞれ前者の「Niとリチウムとを主成分とするリチウム複合酸化物からなる多孔質の球状二次粒子」、「細孔の容積の合計」に相当するから、両者は、
「Niとリチウムとを主成分とするリチウム複合酸化物からなる多孔質の球状二次粒子であって、該球状二次粒子は、平均粒子径が4〜10μmであり、タップ密度が1.8g/cc以上である非水系二次電池用正極活物質。」
である点で一致するが、リチウム複合酸化物について、以下の点で相違する。

相違点1:前者では、水銀圧入法による細孔分布測定での細孔平均径が0.1〜1μmの範囲内にあるのに対し、後者では、細孔平均径が不明である点

相違点2:前者では、0.01〜1μmの径をもつ細孔の容積の合計が0.01cm3/g以上であるのに対し、後者では、0.01〜1μmの径をもつ細孔の容積の合計が不明である点

相違点3:前者では、クーパープロット法による体積減少率の変曲点が500kg/cm2以上であるのに対して、後者では、クーパープロット法による体積減少率の変曲点について不明である点

申立人1は、甲第2号証として、実験報告書を提出し、引用発明の実施例1,4に基づいて試料A〜Dなるリチウム複合酸化物を作成し、細孔分布、クーパープロット法による体積減少率を測定し、細孔平均径、0.01〜1.0μmの細孔容積、クーパープロット法による体積減少率の変曲点の値を算出したところ、試料A〜Dの上記算出値は、相違点1〜3における本件発明の値の範囲内のものであったから、上記相違点1〜3は実質的な相違点ではない旨、主張している。

しかしながら、甲第2号証に記載された試料A〜Dは、引用発明の実施例1,4の800℃、10時間という焼成条件(記載事項F、G参照)とは異なる焼成条件(730℃、22時間)で作成されたものであり、焼成条件が異なれば、作成されたリチウム複合酸化物の細孔分布や物理的性状は、例えば、引用文献の実施例2における焼成温度を変化させた場合の細孔分布への影響の記載【0064】-【0066】)にみられるように、通常、影響を受けるものと認められる。
よって、試料A〜Dについての細孔分布やクーパープロット法による体積減少率の測定値から算出された上記算出値が、引用発明の実施例1,4に記載のリチウム複合ニッケル酸化物のそれらの値と同じであるとすることはできず、本件発明は引用発明と実質的に相違しないとする申立人1の主張は受け入れることができない。

したがって、本件発明は引用発明であるとはいえないから、本件請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、本件請求項4に係る発明は、請求項1に係るリチウム複合酸化物である多孔質二次粒子を発明の特定事項とするものであって、その特定事項は上述のとおり新規なものであるから、請求項4に係る発明の特許も特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。

3-4.理由2について

1)数値限定について

申立人1は、請求項1の「0.01〜1μmの径をもつ細孔の容積の合計が0.01cm3/g以上である」、「タップ密度が1.8g/cc以上であり」、及び「クーパープロット法による体積減少率の変曲点が500kg/cm2以上である」なる記載は、下限のみを示し、上限が不明な数値限定であるので、特許を受けようとする発明の外延が不明確である旨、主張している。

しかしながら、請求項1に係る発明は、非水系二次電池用正極活物質に係る発明であって、電池性能を確保するための細孔容積の上限やクーパープロット法による体積減少率の変曲点の上限が存在することは、当業者にとって自明な事項であり、また、タップ密度の上限は理論上真密度であることが明らかであるから、特許を受けようとする発明の外延が不明確であるとはいえない。

また、請求項1を引用する請求項4の記載も、同様の理由により不明確なものではない。

よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものではない。

2)旧請求項2の実施可能性について

申立人1は、甲第3号証を提出して、明細書の発明の詳細な説明は、当業者が旧請求項2に係る発明を実施をすることができる程度に記載したものではない旨を指摘したが、訂正により旧請求項2は削除されたから、この理由は対象がなくなった。

3-5.理由3について

1)甲第1-3号証に記載された発明及び甲第4,5号証の記載内容

i)申立人2の提出した本件の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平8-130013号公報:以下「引用文献1」という)には、以下の記載がある。

1-ア.「【産業上の利用分野】
本発明は充放電可能な2次電池の正極材としての用途を有するLiM3+O2 (M3+はNi3+または/およびCo3+)またはLiMn2 O4 の新規な製造方法と、その製法で得た2次電池正極用LiNi3+O2 に関する。」(【0001】:第2頁左欄第34-38行)

1-イ.「【実施例】
(実施例1)
2mol /lの硝酸ニッケル水溶液・・・に、1.5mol /l水酸化カルシウム懸濁液・・・を攪拌下に添加して得られた反応液を濾過し、水洗した後、水に懸濁させることにより1mol /lのNi(OH)2-x (NO3 )x スラリー・・・を得た。この懸濁液・・・に対し・・・3.5mol /l水酸化リチウム水溶液を滴下し反応させた後、噴霧乾燥を行った。得られた乾燥ゲルを・・・酸素雰囲気中で750℃、10時間焼成した。焼成品は乳鉢で粉砕して、LiNiO2 粉体とした。
(以下、実施例2〜8として、スラリーに水酸化リチウム水溶液を滴下し反応させた後、噴霧乾燥を行い、得られた乾燥ゲルを焼成、粉砕して、LiNiO2 粉体、LiCoO2 粉体、LiMn2 O4 粉体としたことが記載されている。)」(【0013】-【0020】:第3頁右欄第36行-第4頁右欄第35行)

1-ウ.「以上の実施例1〜8・・・で得られたLiM3+O2 またはLiMn2 O4 の粉体を・・・リチウム2次電池の正極活物質として用いる電池試験に供した。電池試験の方法は・・・1mol/lのLiPF6をプロピレンカーボネート:エチレンカーボネートの比が1:4になるように溶解した電解液を適量注入し・・・試験用リチウム2次電池を得た。」(【0026】:第5頁左欄第38行-同頁右欄第9行)

以上の記載事項からすると、引用文献1には、「噴霧乾燥して得られた乾燥ゲルを焼成、粉砕することにより得られた、Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種以上の元素とリチウムとを主成分とするリチウム複合酸化物からなる非水系二次電池用正極活物質。」についての発明が記載されている。

ii)同じく提出した本件の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平10-69910号公報:取消理由の引用刊行物:以下「引用文献2」という)には、以下の記載がある。

2-ア.「一般式(I)
Liy-x1Ni1-x2MxO2 (I)
[但し、式中、・・・x=x1+x2(ここで、(i)・・・0<x≦0.2を示し、・・・(ii)・・・0<x≦0.5を示し、・・・(iii)・・・0<x≦0.2・・・を示・・・す)・・・] で示され、・・・平均粒径Dが5〜100μm、・・・走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して表面に凸凹のある球状二次粒子・・・である・・・リチウムニッケル複合酸化物。」(【請求項1】)

2-イ.「請求項1・・・記載のリチウムニッケル複合酸化物を有効成分として含有することを特徴とする二次電池用正極活物質。」(【請求項6】)

2-ウ.「実施例16
Co/(Ni+Co)モル比=0.2となるように1.0mol/lの硝酸コバルトと、硝酸ニッケルの混合水溶液を調製し、この混合水溶液と1.0mol/lの水酸化ナトリウム水溶液をpH8.5となるように同時添加を行い、温度25℃で強攪拌下に連続的に添加し、得られた反応物を濾過、水洗後、水に懸濁させることにより1mol/lのNi0.8Co0.2(OH)1.8(NO3)0.2スラリーを得た。このスラリーのNiに対し原子比がLi/(Ni+Co)=1.05に相当する量の3.0mol/l水酸化リチウム水溶液を滴下し反応させた後、噴霧乾燥を行った。得られた乾燥物をアルミナ製ボートに入れ管状炉にて酸素雰囲気中で750℃、5時間焼成し、LiNi0.8Co0.2O2粉体を得た。」(【0103】:第10頁左欄第40行-同頁右欄第3行)

2-エ.表1には、実施例番号16で得られた複合酸化物の平均粒子径が20.60μであることが記載されている。(【0126】:第13頁)

2-オ.「試験法2
実施例1〜22・・・の複合酸化物を用いて以下の電池テスト・・・を行った。
・・・
電解液には1M LiClO4を溶解させたエチレンカーボネート/ジメチルメトキシエタン(1:1重量比)を用い、試験用セル(半解放型セル)の組立から仕上げまでを・・・行った。」(【0137】-【0140】:第14頁左欄第44行-第15頁左欄第6行)

2-カ.図23には、実施例16で得た複合酸化物のSEM写真であって、多孔質の球状粒子が示されている。(第26頁)

以上の記載事項からすると、引用文献2には、「Niとリチウムとを主成分とするリチウム複合酸化物からなる多孔質の球状二次粒子であって、平均粒子径が5〜100μmであることを特徴とする非水系二次電池用正極活物質。」が記載されている。

iii)同じく提出した甲第3号証に係る本件出願日前に頒布された刊行物である国際公開第98/06670号パンフレット(以下「引用文献3」という)には、以下の記載がある。

3-ア.「2.一般式(I) LiyNi1-xCox1Mx2O2 (I)
(式中、・・・xは0<x≦0.5、x1は0<x1<0.5、x1+x2=x・・・)で示され、・・・平均二次粒径Dが5〜100μm、・・・走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して表面に凸凹のある球状二次粒子・・・である・・・複合酸化物。」(特許請求の範囲2)

3-イ.「14.請求項1・・・又は4記載の複合酸化物を有効成分として含有する・・・二次電池用正極活物質。」(特許請求の範囲14)

3-ウ.「実施例7
Ni:Co:Alモル比=16:3:1となるように2.0mol/lの硝酸ニッケルと硝酸コバルト、硝酸アルミニウムの混合水溶液を調製した。この混合水溶液と1.0mol/lの水酸化ナトリウム溶液とを反応pH8.0、反応温度25℃、強攪拌の条件下で連続的に添加し、得られた反応液を濾過、水洗後、水に懸濁させることにより、Ni0.80Co0.15Al0.05(OH)1.7(NO3)0.35スラリーを得た。この懸濁液の(Ni+Co+Al)に対し原子比がLi/(Ni+Co+Al)=1.05に相当する量の3.0mol/l水酸化リチウム水溶液を滴下し反応させた後、凍結乾燥により乾燥を行った。得られた乾燥ゲルを静的圧縮機を用い2t/cm2の圧で成形しφ14、厚み2mmのペレット状とした。
これをアルミナ製ボートに入れ、管状炉にて酸素雰囲気中で750℃で48時間焼成し、乳鉢で解砕し、LiNi0.798Co0.151Al0.051O2粉体を得た。・・・更に複合酸化物の一次粒子を示すSEM写真を・・・実施例7については図9(×10000倍)に示す。」(第21頁第16行-第22頁第14行:再公表公報第26頁第10行-第27頁第1行)

3-エ.「試験例4
電池テスト法:
リチウムニッケル複合酸化物を・・・正極材料とする。・・・電解液には1M LiClO4を溶解させたエチレンカーボネート/ジメチルメトキシエタン(1:1)を用い、試験用セル(半解放型セル)の組立から仕上げまで・・・行う。」(第31頁第2-13行:再公表公報第33頁第21行-第34頁第3行)

3-オ.図9には、実施例7で得た複合酸化物の一次粒子のSEM写真が示され、この一次粒子で構成される二次粒子は多孔質であることを示している。(7/13頁:再公表公報第41頁)

上記記載事項からすると、引用文献3には、「Niとリチウムとを主成分とするリチウム複合酸化物からなる多孔質の球状二次粒子であって、平均粒子径が5〜100μmである非水系二次電池用正極活物質。」が記載されている。

iv)甲第4号証は、ユアサイオニクス株式会社 計測システム部 分析機器グループがC20(PL-58)、及びCA1505(051135)なる2検体(粉末)を測定試料として、水銀圧入式の全自動細孔分布測定装置で細孔分布を測定した2001年5月16日付けの結果報告書であって、この2検体の0.1〜1μmで解析した全細孔容積(cc/g)がそれぞれ0.0253、0.0270であり、細孔径の平均直径(μm)がそれぞれ0.282、0.279であることが記載されている。

v)甲第5号証のイは、「特許データ比較」の表であり、富士化学製品データとしてC20(PL-58)、及びCA1505(051135)について、細孔平均径(μm)がそれぞれ0.282、0.279であり、細孔容積(cm3/g)(0.01〜1μmの径を持つ細孔容積)がそれぞれ0.0253、0.027であり、平均粒子径(μm)がそれぞれ11.52、13.427であり、タップ密度(g/cm3)がそれぞれ2.18、1.9であることが記載されており、甲第5号証のロ、ハには、2001年5月17日に撮影されたC20 PL-58、及びCA1505 051135のSEM写真が示されている。

2)対比・判断

本件発明は、引用文献1記載の発明とを対比すると、「Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種以上の元素とリチウムとを主成分とするリチウム複合酸化物からなる非水系二次電池用正極活物質。」である点で一致する。また、引用文献2,3記載の発明と対比すると、「Niとリチウムとを主成分とするリチウム複合酸化物からなる多孔質の球状二次粒子であって、平均粒子径が5〜20μmである非水系二次電池用正極活物質。」である点で一致する。

しかし、引用文献1〜3記載の発明においては、いずれも、本件発明に係るリチウム複合酸化物を特定する事項である下記の点が不明である。

「水銀圧入法による細孔分布測定での細孔平均径が0.1〜1μmの範囲内にあり、0.01〜1μmの径をもつ細孔の容積の合計が0.01cm3/g以上であると共に、タップ密度が1.8g/cc以上であり、且つクーパープロット法による体積減少率の変曲点が500kg/cm2以上である」点(以下「相違点」という)。

上記の点に関し、申立人2は、甲第4号証に、測定試料C20(PL-58),CA1505(051135)の0.1〜1μmで解析した全細孔容積、細孔の平均直径の測定値を示し、甲第5号証のイに、同測定試料の細孔平均径、0.01〜0.1μmの径を持つ細孔容積、平均粒子径、タップ密度を示し、かつ、甲第5号証のロ、ハにおいて、同試料のSEM写真を提示することにより、同測定試料が細孔平均径、0.01〜0.1μmの径を持つ全細孔容積、タップ密度において、本件発明に係るリチウム複合酸化物と同じ範囲内にあることを示している。

また、申立人2は、実験報告書及びSEM写真添付した回答書を提出して、測定試料「C20 PL-58」、「CA1505 051135」の製造方法及びその組成を示し、同測定試料が、甲第2号証(引用文献2)実施例16、及び、甲第3号証(引用文献3)実施例7に記載されたリチウム複合酸化物であることを主張するとともに、測定試料「C20 PL-58」を用いて300,500,及び600Kg/cm2で加圧成形し、得られた成形体を割って、破面のSEM像を観察し、凝集粒子の圧力による破壊状態を測定したところ、同測定試料の球状粒子は破壊されないことが分かったから、測定試料「C20 PL-58」の凝集粒子の耐圧力破壊の程度は、「クーパープロット法による体積減少率の変曲点が500Kg/cm2以上」の範囲に含まれる旨、主張している。

しかしながら、測定試料C20(PL-58)は、その平均粒子径が11.52μmであって、引用文献2実施例16記載のリチウム複合酸化物のそれ(記載事項2-エより、20.60μm)と大きく相違するから、この測定試料C20(PL-58)が、引用文献2実施例16に記載されたものであると同定することはできず、測定試料C20(PL-58)の細孔分布や凝集粒子の耐圧力破壊の程度をもってして、引用文献2実施例16記載のリチウム複合酸化物の細孔分布や凝集粒子の耐圧力破壊の程度を認定することはできない。しかも、引用文献2実施例16記載のものは本件発明のものと粒子径において相違し、本件発明の範囲外のものである。

また、引用文献3実施例7のリチウム複合酸化物は、「・・・凍結乾燥により乾燥を行った。得られた乾燥ゲルを・・・成形し・・・ペレット状とした。これを・・・750℃で48時間焼成し・・・粉体を得た。」(記載事項3-ウ参照)なる製造方法で得られたものであるのに対して、回答書に記載された測定試料「CA1505 051135」の製造方法は、「・・・噴霧乾燥を行った。得られた乾燥物を・・・730℃、5時間焼成した。」なるものであり、両者のリチウム複合酸化物は、乾燥方法が相違し、特に焼成時間が大きく異なるものである。
そして、少なくとも焼成時間の長さにより焼成物の細孔分布や物理的性状は、通常、影響を受けるものと認められるから、引用文献3実施例7記載のリチウム複合酸化物が、測定試料「CA1505 051135」と同じ細孔分布や物理的性状を有するとは認められず、そのクーパープロット法による体積減少率の変曲点についても、依然として不明とする外ない。

してみると、引用文献1-3記載の発明は、いずれも、上記の相違点である特定事項を自明に有するものとはいえないから、本件発明は引用文献1-3に記載された発明ではなく、かつ、本件発明は、上記の相違点を特定事項とすることにより、「正極として、高率充放電時でも容量低下の少ない負荷特性の優れた非水二次電池に好適である。」という明細書【0028】に記載の特有の効果を奏するものであるから、引用文献1-3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

また、本件請求項2に係る発明は、製造方法を限定した請求項1を引用する発明であるから、請求項1に係る発明が新規性進歩性を有するものである以上、請求項2に係る発明も、新規性進歩性を有するものである。

3-6.むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1,2,4に係る発明の特許を取り消すことはできない。

また、他に本件請求項1,2,4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非水系二次電池用正極活物質および正極
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種以上の元素とリチウムとを主成分とするリチウム複合酸化物からなる多孔質の球状二次粒子であって、該球状二次粒子は、水銀圧入法による細孔分布測定での細孔平均径が0.1〜1μmの範囲内にあり、0.01〜1μmの径をもつ細孔の容積の合計が0.01cm3/g以上であると共に、平均粒子径が4〜20μmであり、タップ密度が1.8g/cc以上であり、且つクーパープロット法による体積減少率の変曲点が500kg/cm2以上であることを特徴とする非水系二次電池用正極活物質。
【請求項2】 Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種以上の元素とリチウムの各化合物の混合物を500〜800℃の仮焼温度で仮焼し、これを解粒分散して、噴霧乾燥法により造粒した後、該仮焼温度より30℃以上高く且つ900℃以下の温度で焼成して得られる請求項1記載の非水系二次電池用正極活物質。
【請求項3】 仮焼された粒子に硝酸と硝酸リチウムを添加して該粒子の表面改質を行う請求項2記載の非水系二次電池用正極活物質。
【請求項4】 正極活物質がリチウムイオンを可逆的に挿入・脱着可能なリチウム複合酸化物であり、該正極活物質と炭素系導電材および結着剤の混合物が、集電体上に膜状に形成された正極において、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質二次粒子の正極活物質が該炭素系導電材の樹状ネットワーク内に保持されていることを特徴とする非水系二次電池用正極。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水系二次電池用の正極活物質と正極の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、エレクトロニクス機器の小型高性能化とコードレス化が進み、これら携帯機器用の駆動電源として二次電池に関心が集まっている。特にリチウムイオン二次電池に代表される非水系二次電池は高電圧・高エネルギー密度を有する電池として期待が大きい。非水系二次電池に用いられる正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に挿入脱着することのできる化合物、例えばLiCoO2やLiNiO2などリチウムと遷移金属を主体とする複合酸化物(以下、リチウム複合酸化物と記す)が代表的である。
このようなリチウム複合酸化物のうち、すでに実用化されているリチウム二次電池用正極活物質としては上記のLiCoO2があるが、このLiCoO2はエネルギー密度の向上余地がなく、また資源的に希少で高価なコバルトを用いていることから高価な材料である。そのため代替材料として、高エネルギー密度を得ることが可能なLiNiO2や、安価で資源的に豊富なマンガンを用いたLiMn2O4等の材料開発も精力的に行われている。
【0003】
これらのリチウム複合酸化物は、酸化物としては比較的高い電子伝導性を有するが、集電体と活物質間の電子伝導性を向上させるために、グラファイト、アセチレンブラック等の導電剤が正極合材中に添加される。また、活物質、導電剤、集電体を接着して活物質層を作製するために結着剤が用いられる。
一方、これら非水系二次電池は、水溶媒系に比べ、溶媒の液粘性が高く、導電性が低いため、低温特性や負荷特性が劣るという欠点があった。非水系二次電池の主要用途である携帯機器のうち、ノートパソコンやビデオカムコーダーにおいては放電末期においても高率放電を要求されるため、特に負荷特性の改良は重要課題である。
【0004】
非水系二次電池の負荷特性を改良するための従来技術として、以下のような多くの試みがなされている。
電池設計面では電極面積の拡大化や電極活物質層の多孔化などの対策がなされている。例えば、特開平6-333558号公報の発明では、正極合剤中の導電材(炭素粉末)をグラファイトと無定形炭素粉末との混合物とすることで、正極板の空孔率を調整し負荷特性を改良している。
しかしながら電池の内容積は一定であるから、このような対策は、他方では、電極への活物質の充填量、すなわち電池容量の制約となってしまう。そのため、負荷特性改良には電極構成材料や電解液、セパレータ等の材料側での改良も要望されている。
【0005】
正極活物質に関しても、微粒子化により活物質表面と電解液との接触面積を増大させて負荷特性を改良する試みがなされている。例えば、特開平9-320603号公報の発明においては、可燃性液体中に活物質原料を乳濁させた溶液を噴霧焼成後、熱処理することにより得られる粉末状活物質は、粒子径が0.1μm程度の微粒子の二次集合体であり、高電流密度での充放電特性が改良されている。
しかしながらこのように活物質を微粒子化すると、導電材や結着剤の必要量も増加してしまい、正極板への活物質の充填率が制約されてしまう。また微粒子化に伴い塗料化時の塗膜の機械的性質が硬く脆くなり、電池組立時の捲回工程で塗膜の剥離が生じ易いという問題も生じてしまう。
特開平9-129230号公報には、SEM観察における定方向径が0.1〜2μmの微小結晶粒子と、SEM観察における定方向径が2〜20μmの球状二次粒子との混合物を正極活物質に用いることにより、電池極板への活物質の充填性を改良する技術が開示されている。しかしながら、このような方法では球状二次粒子内部への電解液の浸透・拡散経路に対する配慮がなされていないため、一次粒子径の微粒子化による負荷特性改良効果が発現できないという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、電池設計面での電極活物質層の多孔化、正極活物質そのものの微粒子化など負荷特性の改良が試みられているが、このような対策は他方では電極への活物質充填量、すなわち電池容量の制約となる等の課題があった。
したがって本発明の目的は、正極への活物質の充填性を損なうことなく負荷特性の改良が可能な正極活物質及び正極を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の課題について、正極活物質と正極の構造の観点より鋭意検討を重ねた結果、正極活物質粒子の微粒子化による負荷特性の改良効果と、微粒子化に伴う導電材・結着剤の必要量増加の抑制とを両立させるためには、正極活物質粉末の粒子形態を多孔質の球状二次粒子に制御することが有効であることを確認した。
多孔質の構造とすることで、微細な一次粒子表面と電解液の固液接触面積が大きくなり、また粒子内部から粒子表面に開口する細孔(オープンポアー)の平均径を最適化する事により、細孔内の電解質の移動拡散を容易にして、高率充放電時の内部抵抗の増加が抑制できる。また、形状が球状二次粒子であることから、粉体としての流動性の改善や、有機溶媒を用いて塗料化した時のスラリー粘度の低減も期待できる。
このような多孔質の球状二次粒子を正極活物質として用いて、炭素系導電材及び結着剤と混合して集電体上に膜状に正極合剤層を形成する。得られた正極合剤層は、正極活物質の多孔質球状二次粒子が、炭素系導電材の樹状ネットワーク内に保持された構造となる。そのため、集電体表面から、各々の二次粒子への導電材のネットワークを形成するのに必要な導電材の量や、正極合剤層の結着強度を確保するのに必要な結着剤の量を低減でき、その結果として正極への活物質の充填量を向上できる。
すなわち、本発明は、第1に、Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種以上の元素とリチウムとを主成分とするリチウム複合酸化物からなる多孔質の球状二次粒子であって、該球状二次粒子は、水銀圧入法による細孔分布測定での細孔平均径が0.1〜1μmの範囲内にあり、0.01〜1μmの径をもつ細孔の容積の合計が0.01cm3/g以上であると共に、平均粒子径が4〜20μmであり、タップ密度が1.8g/cc以上であり、且つクーパープロット法による体積減少率の変曲点が500kg/cm2以上であることを特徴とする非水系二次電池用正極活物質;第2に、Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種以上の元素とリチウムの各化合物の混合物を500〜800℃の仮焼温度で仮焼し、これを解粒分散して、噴霧乾燥法により造粒した後、該仮焼温度より30℃以上高く且つ900℃以下の温度で焼成して得られる請求項1記載の非水系二次電池用正極活物質;第3に、仮焼された粒子に硝酸と硝酸リチウムを添加して該粒子の表面改質を行う請求項2記載の非水系二次電池用正極活物質;第4に、正極活物質がリチウムイオンを可逆的に挿入・脱着可能なリチウム複合酸化物であり、該正極活物質と炭素系導電材および結着剤の混合物が、集電体上に膜状に形成された正極において、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質二次粒子の正極活物質が該炭素系導電材の樹状ネットワーク内に保持されていることを特徴とする非水系二次電池用正極、を提供するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の非水系二次電池用正極は、正極活物質がリチウムイオンを可逆的に挿入・脱着可能なリチウム複合酸化物であり、該正極活物質と炭素系導電材および結着剤の混合物が、集電体上に膜状に形成された正極において、上記正極活物質が、一次粒子が集合した多孔質の二次粒子塊として、炭素系導電材の樹状ネットワーク内に保持されていることを特徴とし、負荷特性の優れた非水系二次電池に好適な正極である。ここで、リチウム複合酸化物とは、Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種以上の遷移元素とリチウムを主成分とする層状あるいは擬層状あるいはスピネル構造を持つ酸化物のことを示す。
正極の構造を上記のように設定することにより、活物質と電解液の接触面積を大きくして活性化分極を低減し、且つ高粘度の有機電解液を用いた場合でも濃度分極を抑制できる適切な電解液の通路を確保することができる。その結果として、高率充放電時でも容量低下の少ない、負荷特性に優れた非水系二次電池を作製できる。
【0009】
このような非水系二次電池用正極を作製するためには、活物質の選定が重要である。すなわち本発明の正極活物質は、Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種類以上の遷移元素とリチウムを主成分とする複合酸化物からなる開口性の細孔を有する球状二次粒子であって、水銀圧入法による細孔分布測定での細孔平均径が0.1〜1μmの範囲内であり、0.01〜1μmの径をもつ細孔の容積の合計が0.01cm3/g以上であることを特徴とする。
細孔径分布の測定法としては、水銀圧入法とガス吸脱着法が代表的なものであり、前者は数nm〜数百μm程度の大きな細孔径の測定に、後者は数Å〜数十nmの微小細孔の測定に有効である。本発明では水銀圧入法を用いて評価した(測定装置には、カンタクローム社(米国)製:商品名 ポアマスター60を用いた)。なお、水銀圧入法で測定した細孔径分布には二次粒子間の空隙分も含まれるが、本発明での活物質粉末の細孔平均径は、この空隙分を除いた二次粒子の内部細孔についてのみ算出した値である。
本発明において、細孔平均径を0.1〜1μmの範囲に規定するのは、この下限未満では負荷特性の改良効果が不十分であり、この上限を超えると負荷特性の改良効果は飽和し、また内部細孔が大き過ぎることによるタップ密度低下の弊害が生ずるためである。なお、ここでの細孔平均径とは粒子間空隙を除外するために0.01から1μmの範囲で細孔分布を測定した結果から算出したものである。また、上記範囲の径の細孔の合計容積を0.01cm3以上に規定するのは、この数値未満では負荷特性が著しく低下するためである。
【0010】
本発明の正極活物質は、上記球状二次粒子の平均粒子径が4〜20μmであり、タップ密度が1.8g/cc以上であり、且つクーパープロット法による体積減少率の変曲点が500kg/cm2以上であることが、更に望ましい。以下にその理由を説明する。
球状二次粒子の平均粒子径が4μm未満であると、粉体としての流動性が悪化したり、有機溶剤と混合して塗料化する際にスラリー粘度が上昇するので好ましくない。また、平均粒子径が20μmを超えると、二次粒子内部への電子伝導性が低下するために負荷特性が劣化する。
【0011】
タップ密度が1.8g/cc未満であると、活物質と炭素系導電材及び結着剤を混合した後に加圧・成形して正極の体積密度を調整する際に、高い加圧加重を必要とし工業的に不利益となる。本発明の正極活物質を用いて正極を作製する際の加圧加重は、正極の体積密度を3g/ccとする場合で、0.3〜2ton/cm2であれば良い。なお、本発明で用いた測定方法は、タップ密度がJISZ2504に基づくタップ法で、粒度分布についてはレーザー散乱法である。
また、多孔質の球状二次粒子の形状を、正極の作製工程内で維持させるためには、この二次粒子を構成する一次粒子間の凝集力を規定する必要がある。特に、正極合材を塗料化して集電体上に塗布する場合は、塗料化時の分散工程で二次粒子が解粒されやすく、負荷特性の改善効果が低下する恐れがある。
顆粒状粉体の凝集状態の評価法としては、粉体の圧縮過程での体積減少率(下記式の左項)を加圧圧力(自然対数目盛)でプロットするクーパー(Cooper)プロット法が一般的に用いられる。
【0012】
【式】

【0013】
このように粉体の圧縮過程での体積減少率をクーパープロットした際に、直線回帰できない場合、すなわち2本の直線が交差する変曲点を示す場合がある。この場合は、凝集粒子が加圧によって破壊されて、圧縮挙動が変化したことを意味する。
本発明では多孔質二次粒子の強度を規定するため、正極活物質粉末を圧縮した時の体積減少率をクーパープロット法で解析した時の体積減少率の変曲点を指標とする。なお、測定条件として、加圧圧力範囲は0〜2.5ton/cm2とし、上記式におけるVFは2.5ton/cm2での充填体積として体積減少率を算出した。
【0014】
上記クーパープロット法による体積減少率の変曲点が500kg/cm2以上であれば、通常の正極製造工程において、多孔質二次粒子の破壊が生じることはない。なお、体積減少率の変曲点が明確に測定されない場合は、500kg/cm2以上で加圧した成形体を割って、破面のSEM像を観察し、二次粒子の破壊が生じていなければよい。
また、本発明での多孔質の球状二次粒子とは、球状二次粒子表面から内部に貫通する多数のオープンポアを有し、且つそのオープンポアの径が通常倍率でのSEM写真で十分観察され得る程度の大きさ、すなわちオープンポアの径が5nm以上であるような粒子を示す。
【0015】
以下に、本発明における多孔質の球状二次粒子の製造法について説明する。
特開平7-37576号公報には、本発明の二次粒子と類似した、球状あるいは楕円体状の二次粒子が開示されている。このような粒子は、硫酸塩をアルカリで中和して得られた板状の一次粒子が集合した球状の水酸化物を、リチウム塩と混合焼成して得られる。一般に、硫酸塩を用いて得られる水酸化物においては、タップ密度が高く、平均粒径は1〜5nm程度であり、また水酸化物中に微量に残留する硫酸根の存在により、焼成時の一次粒子間の焼結が抑制され、出発原料である水酸化物の形骸を保持するため、得られる焼成物の細孔平均径は5nm以下となる。しかし、このような方法においても、特に硫酸塩を中和する際の液温、pH、液中塩濃度、中和速度等を制御することにより、本発明の正極活物質粉末の調製が可能である。
すなわち、硫酸塩を中和する際の液温、pH、液中塩濃度、中和速度等を制御することにより、タップ密度が比較的低く、0.1〜1μm以上の平均径を有し、かつ細孔の合計容積が0.01cm3/g以上の水酸化物を調製することができる。また、これをリチウム塩と混合焼成することにより、細孔を残したまま、焼結によりタップ密度を改善し、上記したような特徴をもつ正極活物質粉末を調製することが可能になる。
また、このような方法の他にも、遷移元素とリチウムの各化合物の混合物を直接、あるいは仮焼したものを造粒し、本焼成する方法によっても、上記したような特徴をもつ正極活物質粉末の調製は可能である。
その具体的な方法と一つとしては、Mn、Co、Niの群から選ばれる1種以上の遷移元素とリチウムの各化合物の混合物を500〜800℃で5〜20時間仮焼し、次いで仮焼した焼成物を解粒分散後、噴霧、造粒し、仮焼温度より30℃以上高く且つ900℃以下の温度で1〜5時間本焼成することによって、多孔質の球状二次粒子を製造することができる。
【0016】
上記の多孔質球状二次粒子からなる正極活物質で構成される非水系二次電池用正極は次の方法によって製造できる。この正極は、その集電体がアルミニウム箔であり、それに活物質として上記多孔質球状二次粒子が保持されたものである。このような正極は、湿式法の場合、結着剤であるポリフッ化ビニリデン3〜6重量%と導電剤である炭素3〜9重量%とを上記多孔質二次粒子の正極活物質85〜94重量%と共に混合して溶媒であるN-メチルピロリドン(NMP)を適宜加えてペースト状に調製した後、集電体材料の両面に塗布、乾燥、プレスして製造する。また、乾式法の場合は、結着剤であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)3〜6重量%と導電剤である炭素3〜9重量%とを上記多孔質球状二次粒子の正極活物質85〜94重量%と混練・成形した後、得られた成形物を圧延して製造する。
【0017】
上記正極活物質の電池特性の評価は、上記正極に加え、負極に金属リチウムを、セパレータにはポリプロピレンのフィルムを用いて行う。電解液には炭酸エチレンと炭酸ジエチレンを体積比で1:1に混合した液に電解質としてLiPF6を1mol/dm3の濃度で溶解させたものを用いる。充放電は0.5mA/cm2の電流密度で行い、4.3Vまで充電し、その後2.7Vまで放電して正極活物質の単位重量当たりの放電容量とする。負荷特性は電流密度0.5mA/cm2で充電した後、放電を電流密度5.0mA/cm2、10mA/cm2でそれぞれ行う。評価の指標は電流密度0.5mA/cm2で放電したときの放電容量を1.00%とした場合のそれぞれの電流密度での放電容量を容量保持率(%)とする。
以下、実施例をもって詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されるものではない。
【0018】
【実施例1】
水酸化リチウム、水酸化ニッケル、水酸化コバルトを各金属のモル比が105:90:10の割合で、ボールミルで混合粉砕し、得られた混合粉末を1ton/cm2の圧力下で加圧成形し、この成型体を焼成用原料とした。この原料を770℃で10時間、空気気流中で焼成(仮焼)した。得られた焼成物を純水に40重量%の濃度になるように懸濁させた後、後工程の本焼成後の粒子が多孔質になるように硝酸および硝酸リチウムを添加、表面改質し、湿式ビーズミルで2時間解粒粉砕し、噴霧乾燥法により球状に乾燥造粒した。この造粒粉を、800℃で2時間、酸素気流中で焼成(本焼成)し、臼式解砕機で解粒した後、スクリーン分級機で整粒した。
このようにして得られたリチウム複合酸化物は、細孔平均径0.363μm、0.01〜1μmの径をもつ細孔の合計容積が8.4×10-2cm3/gである多孔質の球状二次粒子であった。
図2は実施例1のリチウム複合酸化物を正極活物質として用いて正極板を作製し、750kg/cm2の圧力でプレスした場合の切断破面写真である。すなわち、多孔質球状二次粒子は破壊されておらず、十分な負荷特性が得られた。
【0019】
【実施例2】
実施例1に対し、仮焼温度を650℃に条件を変更して行った。実施例1に比べ仮焼温度を下げることで一次粒子の結晶性を低下させ、一次粒子間の焼結を促進させ、細孔容積をコントロールした。
このようにして得られたリチウム複合酸化物は、細孔平均径0.137μm、0.01〜1μmの径をもつ細孔の合計容積が1.8×10-2cm3/gである多孔質の球状二次粒子であった。図3に、実施例2で得られたリチウム複合酸化物のSEMによる外観写真を示す。
【0020】
【比較例1】
実施例1に対し、水酸化ニッケルおよび水酸化コバルトをそれぞれの硫酸塩を中和して調製したものを用いて行った。
このようにして得られた正極活物質は、細孔平均径0.053μm、0.01〜1μmの径をもつ細孔の合計容積が1.8×10-3cm3/gである多孔質の球状二次粒子であった。
【0021】
【比較例2】
実施例1に対し、湿式ビーズミルでの解粒分散時間を4時間にして行った。実施例1に比べ解粒分散時間を長くすることで一次粒子の結晶性を低下させ、なおかつ表面を活性化させる(アモルファス化)ことで、一次粒子間の焼結を促進させ、細孔容積を意図的に小さくコントロールした。
このようにして得られた正極活物質は、一次粒子の焼結が進み、細孔平均径0.211μm、0.01〜1μmの径をもつ細孔の合計容積が5.0×10-3cm3/gである多孔質の球状二次粒子であった。
【0022】
【比較例3】
実施例1に対して、仮焼粉を懸濁させた水溶液に、過剰の硝酸および硝酸リチウムを添加(実施例1の場合の2倍)することにより、さらに表面改質したのものである。実施例1に比べ硝酸および硝酸リチウムを多く添加することで、一次粒子間の焼結を促進させ、細孔容積を意図的に小さくコントロールした。
このようにして得られた正極活物質は、細孔平均径0.300μm、0.01〜1μmの径をもつ細孔の容積が1.6×10-3cm3/gで、焼結の進んだ球状の二次粒子であった。
【0023】
【比較例4】
水酸化リチウム、水酸化ニッケル、水酸化コバルトを各金属のモル比が105:90:10の割合で、ボールミルで粉砕混合し、得られた混合粉末を1ton/cm2の圧力下で加圧成形し、この成型体を焼成用原料とした。この原料を770℃で10時間、空気気流中で焼成した。この焼成粉を、臼式解砕機で解粒した後、スクリーン分級機で整粒した。
このようにして得られた正極活物質は、細孔平均径0.085μm、0.01〜1μmの径をもつ細孔の容積が3.2×10-3cm3/gで、一次粒子が凝集した形の二次粒子であった。
【0024】
【比較例5】
実施例1に対し、水酸化リチウム、水酸化ニッケル、水酸化コバルトを各金属のモル比を105:87:13に、仮焼温度を800℃、湿式ビーズミルでの解粒分散時間を30分、本焼成温度を830℃にして行った。実施例1に比べ仮焼温度を高く、なおかつ、解粒分散時間を短くすることで、一次粒子径が大きく、見かけ密度の低い状態の二次粒子を意図的に調製した。
このようにして得られた正極活物質は、焼結の進んでいない一次粒子で構成された多孔質の球状二次粒子であった。
図4は比較例5の正極活物質をもとに正極板を作製し、750kg/cm2の圧力でプレスした場合の切断破面写真である。この写真から多孔質二次粒子は破壊が進んでいることがわかる。
実施例1〜2と比較例1〜4の細孔分布の測定結果と負荷特性について表1に示す。この表から細孔平均径が0.1μm〜1μmの範囲内にあり、0.01μm〜1μmの径を持つ細孔の容積が活物質単位重量(1g)あたり0.01cm3以上の場合のみ、高い負荷特性を示し、それ以外は負荷特性が劣ることがわかる。
また、実施例1〜2と比較例5の平均粒径、タップ密度、クーパープロット法による体積減少率の変曲点について表2に示す。この表から実施例1〜2の場合、タップ密度が1.8g/cm3以上で、なおかつ、クーパープロットの体積減少率の変曲点が両者とも500kg/cm2以上であり、前述の数値以下である比較例5に比べて高い負荷特性を示すことがわかる。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】


【0027】
図1は実施例1,2および比較例5で得られた正極活物質の圧縮過程での体積減少率を示すクーパープロット図であり、変曲点が500kg/cm2に達しない比較例5の場合に対して、実施例1の場合は500kg/cm2を超える730kg/cm2であり、実施例2の図示されていない変曲点は1500kg/cm2である。
【0028】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の非水系二次電池用正極においては、正極活物質がLiイオンを可逆的に挿入・脱着可能なLi複合酸化物から調製された一次粒子が集合した多孔質の球状二次粒子であって、水銀圧入法による細孔分布測定での細孔平均径が0.1〜1μmの範囲内で、0.01〜1μmの径をもつ細孔の合計容積が0.01cm3/g以上であり、該球状二次粒子として平均粒子径が4〜20μm、タップ密度1.8g/cc以上で、且つクーパープロット法による体積減少率の変曲点が500kg/cm2以上という特性を有するので、上記正極活物質と炭素系導電剤および結着剤の混合物が集電体状に膜状に形成された正極として、高率充放電時でも容量低下の少ない負荷特性の優れた非水系二次電池に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
実施例1,2および比較例5で得られた正極活物質粉末の圧縮過程での体積減少率を示すクーパープロット図である。
【図2】
実施例1で得られた正極活物質をもとに正極板を作製し、750kg/cm2の圧力でプレスした場合のSEMによる切断破面写真である。
【図3】
実施例2で得られたりリチウム複合酸化物のSEMによる外観写真である。
【図4】
比較例5で得られた正極活物質をもとに正極板を作製し、750kg/cm2の圧力でプレスした場合のSEMによる切断破面写真である。
 
訂正の要旨 (1)特許請求の範囲の請求項2を特許請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明を目的として削除する。
(2)請求項3を請求項2とし、その引用する「請求項1または2」を、特許請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明を目的として「請求項1」に訂正する。
(3)請求項4を請求項3とし、その引用する「請求項3」を、特許請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明を目的として「請求項2」に訂正する。
(4)請求項5を請求項4とし、その引用する「請求項1〜4のいずれか一項」、を特許請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明を目的として「請求項1〜3のいずれか一項」に訂正する。
(5)明細書【0007】中の、「第2に、10mA/cm2放電時の容量保持率が79.1%以上である請求項1記載の非水系二次電池用正極活物質;第3に、Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種以上の元素とリチウムの各化合物の混合物を500〜800℃の仮焼温度で仮焼し、これを解粒分散して、噴霧乾燥法により造粒した後、該仮焼温度より30℃以上高く且つ900℃以下の温度で焼成して得られる請求項1または2記載の非水系二次電池用正極活物質;第4に、仮焼された粒子に硝酸と硝酸リチウムを添加して該粒子の表面改質を行う請求項3記載の非水系二次電池用正極活物質;第5に、正極活物質がリチウムイオンを可逆的に挿入・脱着可能なリチウム複合酸化物であり、該正極活物質と炭素系導電材および結着剤の混合物が、集電体上に膜状に形成された正極において、請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質二次粒子の正極活物質が該炭素系導電材の樹状ネットワーク内に保持されていることを特徴とする非水系二次電池用正極、を提供するものである。」(特許公報第5欄第13-30行)を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「第2に、Co、Ni、Mnの群から選ばれる1種以上の元素とリチウムの各化合物の混合物を500〜800℃の仮焼温度で仮焼し、これを解粒分散して、噴霧乾燥法により造粒した後、該仮焼温度より30℃以上高く且つ900℃以下の温度で焼成して得られる請求項1記載の非水系二次電池用正極活物質;第3に、仮焼された粒子に硝酸と硝酸リチウムを添加して該粒子の表面改質を行う請求項2記載の非水系二次電池用正極活物質;第4に、正極活物質がリチウムイオンを可逆的に挿入・脱着可能なリチウム複合酸化物であり、該正極活物質と炭素系導電材および結着剤の混合物が、集電体上に膜状に形成された正極において、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質二次粒子の正極活物質が該炭素系導電材の樹状ネットワーク内に保持されていることを特徴とする非水系二次電池用正極、を提供するものである。」と訂正する。
異議決定日 2002-07-22 
出願番号 特願平11-162866
審決分類 P 1 652・ 536- YA (H01M)
P 1 652・ 121- YA (H01M)
P 1 652・ 537- YA (H01M)
P 1 652・ 113- YA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 植前 充司  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 吉水 純子
綿谷 晶廣
登録日 2000-09-14 
登録番号 特許第3110728号(P3110728)
権利者 同和鉱業株式会社
発明の名称 非水系二次電池用正極活物質および正極  
代理人 河備 健二  
代理人 丸岡 政彦  
代理人 丸岡 政彦  

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