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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A23P 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 A23P |
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管理番号 | 1065992 |
異議申立番号 | 異議2002-70846 |
総通号数 | 35 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-10-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-04-02 |
確定日 | 2002-10-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3215288号「ペースト原料の配管内搬送方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3215288号の請求項に係る特許を維持する。 |
理由 |
<1>手続の経緯 本件特許第3215288号は、平成7年4月6日に特許出願され、平成13年7月27日に設定の登録がなされ、その後、請求項1乃至3に係る発明の特許に対して、異議申立人 吉原義隆より特許異議の申立てがなされたものであり、当審において取消理由が通知され、指定期間内に特許権者から特許異議意見書が提出されたものである。 <2>本件発明 本件特許の請求項1乃至3に係る発明は、特許明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 食品製造工程において、磨砕処理されたペースト状食品原料を配管中に残存させることなく、貯蔵槽から配管およびポンプを介して次工程へ搬送する方法であって、磨砕処理されたペースト状原料を貯蔵槽から配管およびポンプを介して次工程へ搬送した後に、最終のペースト状原料を搬送するに当たり、最終のペースト状原料が配管中に存在する段階で上記配管に設置したポンプの下流の適宜の位置において加圧気体導入手段を介して当該配管内に気体を高圧で吹き込んで、導入された気体の加圧により、配管中の最終のペースト状原料を次工程へ搬送させることを特徴とするペースト状原料の配管内搬送方法。 【請求項2】 気体が、窒素ガスまたは不活性ガスである請求項1記載のペースト状原料の配管内搬送方法。 【請求項3】 ポンプの下流に設置した三方バルブを介して気体導入管を接続し、当該気体導入管より配管内に気体を吹き込んで配管中の最終のペースト状原料を次工程へ搬送させる請求項1記載のペースト状原料の配管内搬送方法。」 <3>異議申立ての理由の概要 異議申立人は、甲第1号証を提出して、本件請求項1に係る発明は甲第1号証である特開昭58-14986号公報に記載されているから特許法第29条第1項第3号に該当し(以下、「申立て理由1」という)、また、本件請求項1乃至3に係る発明は、甲第1号証記載の発明に基づき当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである(以下、「申立て理由2」という)、また、本件特許明細書の詳細な説明の欄において、本件請求項1に係る発明の実施について具体的な手段の記載がないから、当業者が容易に発明を実施しうる程度に記載されてなく、特許法第36条第4項の規定に違反する(以下、「申立て理由3」という)、と主張する。 <4>申立て理由1および2について <4-1>甲第1号証:特開昭58-14986号公報 甲第1号証には、図面を引用して次のような記載がある。 a: 「1 処理すべきパイプ内へ、内壁の付着物除去に適応した直径のボールを挿入し、当該ボールを流体圧によって圧送することを特徴とした高粘性物質の除去方法 2 流体を空気又は不活性気体とし、その圧力を1kg/cm2〜7kg/cm2とすることを特徴とした特許請求の範囲第1項記載の高粘性物質の除去方法」(特許請求の範囲) b: 「この発明はバター、チーズ、チョコレート、水飴、味噌、油脂、マヨネーズ又はグリースなどの高粘性物質をパイプ輸送した後、パイプ内に残留した前記被移送物を除去することを目的とした高粘性物質の除去方法および装置に関するものである。」(第1頁右下欄第13〜18行) c: 「輸送すべき物質・・・をホッパー2へ投入すると共に、ポンプ3を始動すると、ホッパー2内のチーズはポンプ3の吐出パイプ4,切替バルブ5,輸送パイプ6を経て切替バルブ7を通過し、充填機8のホッパー9内へ供給され、・・・。 次に作業が終了した時には、切替バルブ5を切替え、ボール保持部10へ予め無菌化した加圧空気(例えば3kg/cm2)を矢示11のように供給すれば、ボール12は切替バルブ5を通過し、輸送パイプ6内を経てボール止部13により停止される。この場合に、輸送パイプ内のチーズは矢示14、15のように輸送パイプ6,切替バルブ7を経てホッパー9内へ排出されるので、この場合のチーズのロスは皆無である。」 (第2頁右上欄第10行〜左下欄第4行) d: 「ボールを一回通したならば、前記加圧空気の供給を中止し、切替バルブ7を切替えてボール復帰用空気を供給パイプ16から圧入すれば、ボールは輸送パイプ内を逆送され急速にボール保持部へ復帰する。そこで切替バルブ7を切替えれば、この発明による除去方法を完了することになる。」(第2頁左下欄第14〜19行) <4-2>請求項1に係る発明について 甲第1号証記載の発明を本件特許の請求項1に係る発明と対比すると、請求項1に係る発明の「ペースト状原料」について、本件明細書において「本発明は、磨砕処理されたペースト状原料が対象とされるが、ここでペースト状原料としては、例えば、磨砕したペースト状の食品原料等が代表的なものとして例示されるが、これに限らず、例えば、穀粉、その他の植物性、動物性原料等の粉体原料を水に溶いてペースト状にしたもの、これらの粒子状原料を水に分散させたもの、果実や野菜類の加工品、ペースト状畜魚肉加工品、マヨネーズ、ケチャップなどの二次加工製品等、上記ペースト状の食品原料と同様若しくは類似の性状のものであれば、食品に限らず、また、その種類を問わず対象とされる。」(【0012】) と説明されており、甲第1号証記載の発明における「バター、チーズ、チョコレート、水飴、味噌、油脂、マヨネーズ又はグリースなどの高粘性物質」(記載b)と実質的に同じものと解される。そうすると、甲第1号証記載の発明の上記「高粘性物質」は、本件請求項1に係る発明の「磨砕処理されたペースト状食品原料」;「ペースト状原料」に相当し、甲第1号証記載の発明の「流体圧」が、本件請求項1に係る発明の「気体の加圧」に相当するから、両者は、 「食品製造工程において、磨砕処理されたペースト状食品原料を配管中に残存させることなく、貯蔵槽から配管およびポンプを介して次工程へ搬送するペースト状原料の配管内搬送方法であって、磨砕処理されたペースト状原料を貯蔵槽から配管およびポンプを介して次工程へ搬送した後に、最終のペースト状原料を搬送するに当たり、最終のペースト状原料が配管中に存在する段階で上記配管に設置したポンプの下流の適宜の位置において加圧気体導入手段を介して当該配管内に気体を高圧で吹き込んで」配管中の最終のペースト状原料を次工程へ搬送させる点、で一致するが、 「配管中の最終のペースト状原料を次工程へ搬送させる」手段が、甲第1号証記載の発明においては、「パイプ内へ内壁の付着物除去に適応した直径のボールを挿入し、当該ボールを流体圧によって圧送する」ことにより行なうのに対し、 本件請求項1に係る発明においては、上記のようなボールを介することなく、「導入された気体の加圧」により「配管中の最終のペースト状原料を次工程へ搬送させる」点(以下、「相違点」という)で、相違する。 上記相違点について検討すると、上記相違点の方法は、本件出願前の当該技術分野において周知のものではなく、また、従来必須とされていたボール等の手段を必要としないのであるから単なる設計変更とも、当業者が容易になし得る変更ともいうことができないから、甲第1号証記載の発明と同一であるとはいうことができず、また、甲第1号証記載のものから当業者が容易に変更しうるものともいうことができない。 これに対して、異議申立人は、甲第1号証記載の発明は、「ボールを使用する点で相違するように見えるが、導入された気体の加圧により配管内の内容物を搬送することに両者の相違はない」(第5頁第4〜6行)、「本件特許は、ボールを使用しないため、配管中のペースト状食品原料の残存量は、甲1と比較して多いはずであり・・・その意味においてボールを使用する要件を省いた改悪発明というべきものである」(第5頁第11〜13行)旨、主張する。 しかしながら、甲第1号証記載の発明においては、ボールを用いなければならず、ボールを通す度に「加圧空気の供給を中止し、切替バルブ7を切替えてボール復帰用空気を供給パイプ16から圧入すれば、(ボール止部13に止まっていた(記載c))ボールは輸送パイプ内を逆送され急速にボール保持部へ復帰する。そこで切替バルブ7を切替え」る(記載d)という作業が必要であるのに対し、本件請求項1に係る発明においては、ビンガム流体の特異な性質(「<5>申立て理由3について」の項 参照)に着目し、この性質を積極的に利用してボールを不要としたものであり、「導入された気体の加圧」のみにより配管中の最終のペースト状原料を次工程へ搬送させるものであるから、上記のようなボールを逆送する作業も必要なく、「本発明のペースト原料の配管内搬送方法は、とりわけ、多品種少量生産を目的とした食品製造装置などにおける配管中のペースト状原料の搬送方法として好適に使用することができる」(【0020】)という顕著な作用・効果を奏するものであり、異議申立人の上記主張は認めることができない。 したがって、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載されていたとはいうことができず、また、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいうことができず、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。 <4-3>請求項2および3に係る発明について 本件請求項2および3に係る発明は、請求項1を引用しているから、上記<4-2>において検討したと同様に、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいうことができず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。 <5>申立て理由3について 異議申立人は、本件特許明細書の詳細な説明の記載の不備について、概略、次のように主張する。 「一般に、ペーストなどの流動体(内容物)を配管によって搬送する場合、当該流動体の流速は、配管中心部と配管壁面部とで異なり壁面でゼロに近くなることが周知である。すなわち、配管内では、中心部を最速とし壁面付近で0に近い流体の粘性等性質に応じた速度勾配が存在する(ニユートン流体の場合は、ニユートンの粘性法則が適用される)。このため、最終の内容物搬送をエアーによって行う場合、中心部のみが先に搬送され、その後はエアーが筒抜けとなる、所謂『中抜け』の現象が生じる。・・・そのため、残存を最小とするために、例えば甲第1号証のようにボールなどを用いて壁面部に付着した内容物を搬送する・・・。 一方、本件特許は、・・・単に気体を高圧で吹込むという条件によって『配管中に残存させることなく搬送する』ことは上記したように原理的に困難である。・・・『高圧で』と記載があるのみで、どの程度の圧力なのか、明細書中に全く説明がないため、当業者が実施をすることが不可能である」(特許異議申立書第5頁第26行〜第6頁第4行)。 しかしながら、本件請求項1に係る発明が対象とする、マヨネーズ等の高粘度の「ペースト状原料」がビンガム流体と呼ばれる流動性を示すことは、一般に知られており、ビンガム流体にあっては、降伏応力までは流体は固体として振る舞い、これを越える応力下でニュートン流体のような流動性を示すものであり、圧力を加えて管の中を輸送するとき、管の中心部に流動しないで固まったまま押し出される部分を生じる、いわゆるプラグフロー(栓流)と呼ばれる現象を生じることが知られている(「岩波 理化学辞典」久保亮五 他三名編、株式会社岩波書店発行、第4版(1987年10月12日発行)、第1071頁、「ビンガム流動」の項参照);(「化学大事典7 」化学大辞典編集委員会編、共立出版株式会社発行、縮刷版(1964年1月15日発行)、第614頁、「ビンガム物体」の項参照)。 本件請求項1に係る発明は、かかるプラグフローとして知られる現象を積極的に利用し、ボールのような栓にあたる部材3を格別要することなく、高圧気体を配管に吹き込むことにより、ペースト状原料自体が固体のプラグ(栓)になって押し出されるようにしたものであると認められるから、「配管中に残存させることなく搬送する」ことは原理的に不可能であるという、異議申立人の主張は採用できない。 そして、プラグフローを生じるような、気体の圧力条件は、ペースト状原料や、管路の状態に応じて、実験等により当業者が格別の困難なく見いだせる程度のものである。 したがって、本件特許明細書において「該加圧気体導入手段としては、最終のペースト状原料が配管中に存在する段階で、配管内に気体を高圧で流入させて、配管中の最終のペースト状原料を次工程に搬送し得る程度に配管内を加圧状態にし得るものであればその種類を問わず利用することができる」(【0015】);「加圧気体の加圧条件、気体の種類は、対象とされるペースト状原料の種類、性状等に応じて適宜のものを選択すれば良く」(【0015】)と記載されている以上、当業者であれば、対象とされるペースト状原料に応じて加圧する「圧力」の程度は適宜選択し得るというべきであって、「高圧」の具体的数値が明示されていないとしても、それをもって、当業者が容易に実施できないとすることはできない。 よって、その点で、本件明細書の記載に不備があるとはいえず、特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていないとするには当たらない。 <6>むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1乃至3に係る特許が拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めることができない。 また、他に本件請求項1乃至3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-09-18 |
出願番号 | 特願平7-106919 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(A23P)
P 1 651・ 531- Y (A23P) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 前田 幸雄 |
特許庁審判長 |
船越 巧子 |
特許庁審判官 |
西村 綾子 山崎 豊 |
登録日 | 2001-07-27 |
登録番号 | 特許第3215288号(P3215288) |
権利者 | ハウス食品株式会社 |
発明の名称 | ペースト原料の配管内搬送方法 |