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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H02M
管理番号 1066000
異議申立番号 異議2000-74340  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-03-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-11-29 
確定日 2002-09-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第3054147号「負荷電力制御装置」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3054147号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 同請求項3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3054147号の請求項1乃至3に係る発明についての出願は、平成11年8月19日に出願され、平成12年4月7日にその特許の設定登録がなされ、その後、特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされたものである。
2.取消理由についての判断
2-1.本件発明
本件請求項1乃至3に係る発明(以下、本件発明1乃至3という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】複数の負荷に供給される電力を制御する負荷電力制御装置において、インバータ電源と、このインバータ電源と上記各負荷との間に逆並列に介装された半導体スイッチング素子とを備え、負荷電力の大きさに応じて上記半導体スイッチング素子の開度を調節するとともに、上記インバータ電源の出力を調節することで負荷電力を制御することを特徴とする負荷電力制御装置。
【請求項2】最も大きな負荷電力を供給する上記半導体スイッチング素子の開度を80%以上とすることを特徴とする請求項1に記載の負荷電力制御装置。
【請求項3】前記インバータ電源と前記負荷との間に、可変コンデンサおよび可変リアクトルを備えて負荷全体のインピーダンスを補償する整合手段を接続したことを特徴とする請求項1または2に記載の負荷電力制御装置。」
2-2.引用例
当審の取消理由通知で引用した特許第2922784号公報(異議申立人の提出した甲第1号証、以下、引用例1という。)に、「そこで、本願発明者は、複数の誘導加熱コイルの各々に直流制御電源付きの過飽和リアクトルを接続し、これによってサイリスタ式周波数変換器の電力レベルを各誘導加熱コイル毎に調整するようにした電力制御装置を開発した(特開平1-264567号)。」(3欄32行乃至36行)、「この発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、過飽和リアクトルの容量を大きくせず、しかも、調整範囲を広くすることができる負荷電力制御装置を提供することを目的としている。」(4欄29行乃至32行)、「負荷電流がリアクトルに分流して流れ、これにより、過飽和リアクトルにおける電流負担が軽減し、過飽和リアクトルの容量を低減することができる。この場合、負荷電流の制御は、リアクトルと過飽和リアクトルの合成インピーダンスの調整によって行われるが、過飽和リアクトルの容量を小さくしても、合成インピーダンスの変動範囲を広くすることができるので、広範囲な負荷電力制御を行うことができる。」(5欄2行乃至9行)、「誘導加熱コイル11aー1〜11aーnには各々過飽和リアクトルSRの一端が接続されており、各過飽和リアクトルSRの他端はトランスTr1を介してインバータ電源12に接続されている。同様に、誘導加熱コイル11bー1〜11bーnには各々過飽和リアクトルSRの一端が接続されており、各過飽和リアクトルSRの他端はトランスTr2を介してインバータ電源12に接続されている。また、各過飽和リアクトルSRには、リアクトルLが並列に設けられている。このように、グループaとグループbとは、異なるトランスを介して給電が行われるようになっており、これにより、各種設定をグループ別の目標値に沿って行えるようになっている。」(5欄29行乃至6欄3行)、「次に、上記構成によるこの実施例の動作を、誘導加熱コイル11aー1の場合を例にとって説明する。まず、図2に示す回路にトランスTr1を介して交流電流が供給されると、この電流は過飽和リアクトルSRとリアクトルLを並列に通過して誘導加熱コイル11aー1に供給される。このとき、負荷電流は、過飽和リアクトルSRとリアクトルLの総合インピーダンスに応じた値になる。ここで、過飽和リアクトルSRのインピーダンスをZSR、リアクトルLのインピーダンスをZLとすると、これらの総合インピーダンスZXCは、・・・ZXC=ZL*ZSR/(ZL+ZSR)になる。したがって、負荷電流は、総合インピーダンスZXCに応じて変化する。ここで、過飽和リアクトルSRの制御電流を、制御可能領域0%から100%まで10%きざみで変化させた場合の回路各部の電圧、電流およびインピーダンスの変化を表1に示す。」(6欄20行乃至35行)、「さらに、表1から判るように、過飽和リアクトルSRの制御電流を最小にした場合でも過飽和リアクトルSRの両端電圧VSRはあまり高くならないので、インバータ電源の出力を大きくすることができる。したがって、過飽和リアクトルSRの制御がより自由になっている。」(9欄15行乃至20行)と記載されていることが認められ、これらの記載によれば引用例1には、「複数の負荷に供給される電力を制御する負荷電力制御装置において、インバータ電源と、このインバータ電源と上記各負荷との間に並列接続された直流制御電源付きの可飽和リアクトル(決定注:引用例1において使用されている「過飽和リアクトル」との用語は「可飽和リアクトル」の誤記であることは技術常識に照らして明らかである。)とリアクトルとを備え、負荷電力の大きさに応じて可飽和リアクトルの制御電流を調節するともに、上記インバータ電源の出力を調節することで負荷電力を制御する負荷電力制御装置。」との発明(以下、引用例1発明という。)が開示されていると認めることができる。
同じく、「「半導体電力変換回路」社団法人電気学会発行1987年3月31日」(異議申立人の提出した甲第2号証、以下、引用例2という。)に、「4.交流変換 交流電力調整回路は図2.1.3に示されるように、サイリスタの逆並列接続などで構成される二方向半導体スイッチによって交流電力を制御するもので、負荷に加えられる電力は電源と同じ周波数をもつ交流電力である。」(9頁5行乃至9行)と記載されていることが認められる。
2-3.対比・判断
2-3-1.本件発明1について
本件発明1と引用例1発明とを対比するに、引用例1発明のリアクトルと並列接続された直流制御電源付きの可飽和リアクトルも負荷電力を制御するという機能の観点(電力制御素子)では本件発明1の逆並列に介装された半導体スイッチング素子と同じといえるから、そうすると、両者は「複数の負荷に供給される電力を制御する負荷電力制御装置において、インバータ電源と、このインバータ電源と上記負荷との間に電力変換素子とを備え、負荷電力の大きさに応じて上記電力変換素子を調節するとともに、上記インバータ電源の出力を調節することで負荷電力を制御する負荷電力制御装置。」の点で一致し、本件発明1が電力変換素子として逆並列に介装された半導体スイッチング素子を採用したのに対し、引用例1発明はリアクトルと並列接続された直流制御電源付きの可飽和リアクトルを用いている点で相違する。
そこで、前記相違点について検討する。
前示のとおり引用例2には、負荷に供給する交流電力と負荷との間に逆並列接続したサイリスタ(半導体スイッチング素子)を介装することが示されており、このサイリスタの開度を調節することによって負荷電力を制御できることは当業者の技術常識とするところであり、そして、これをインバータ電源と負荷との間に介装することを妨げるべき技術的理由も存在しないのであるから、そうすると、引用例1発明のリアクトルと並列接続された直流制御電源付き可飽和リアクトルとからなる電力制御素子に代えて引用例2に示されている逆並列接続したサイリスタ(半導体スイッチング素子)を採用すること、すなわち、本件発明1の前記相違点にかかる構成は当業者が容易に想到できたものというべきである。
2-3-2.本件発明2について
本件発明2が、本件発明1を引用し、さらに「最も大きな負荷電力を供給する上記半導体スイッチング素子の開度を80%以上とする」との構成要件を付加限定するものであることは請求項2の記載に照らして明らかである。
本件発明2と引用例1発明とを対比すると、本件発明1と引用例1発明の前示相違点の他、本件発明1が「最も大きな負荷電力を供給する上記半導体スイッチング素子の開度を80%以上とする」との構成を備えているのに対し、引用例1発明がかかる構成を備えていない点で相違する。
そこで、かかる相違点について検討するに、引用例1発明のインバータ電源と負荷との間に直流制御電源付き可飽和リアクトルを介装したものにおいても最も大きな負荷電力を供給する可飽和リアクトルは通電量を最大値付近において設定すればよいことは容易に理解でき、電力変換素子としてリアクトルと並列接続された直流制御電源付き可飽和リアクトルに代えて半導体スイッチング素子を採用した場合においても、最も大きな負荷電力を供給する半導体スイッチング素子の開度を大きくして足りることも当業者が容易に理解できることであるから、その開度として80%以上を選択すること、すなわち、本件発明2の前記相違点は当業者の通常の設計事項の範囲というべきである。
なお、本件発明2の容易推考性の判断において、本件発明1に関する部分については前示2-3-1.の記載内容をここに引用する。
2-3-3.本件発明3について
本件発明3が本件発明1または2を引用し、さらに「前記インバータ電源と前記負荷との間に、可変コンデンサおよび可変リアクトルを備えて負荷全体のインピーダンスを補償する整合手段を接続した」との構成要件を付加限定するものであることは請求項3の記載に照らして明らかである。
本件発明3と引用例1発明とを対比すると、本件発明1または2と引用例1発明の前示相違点の他、本件発明3が「インバータ電源と負荷との間に、可変コンデンサおよび可変リアクトルを備えて負荷全体のインピーダンスを補償する整合手段を接続した」との構成を備えているのに対し、引用例1発明がかかる構成を備えていない点で相違する。
そこで、前記相違点について検討する。
前示引用例1には、前示記載の他に、「マル1過飽和リアクトルSRは、それぞれが特性上の差異を持っており、また、負荷インピーダンスや負荷までのインピーダンスが各誘導コイルにおいて若干異なっている。そこで、このような場合は、リアクトルLに設けられたタップ(図2参照)を切り換えることにより、これらの差異を調整することができる。・・・マル2図2に示すコンデンサC1、C2によってインバータ電源12からみた場合の負荷インピーダンスの差異を補償することができる。すなわち、誘導加熱コイル11aー1〜11aーn、11bー1〜nと、各々過飽和リアクトルSRを含めて負荷を考えると、それらのインピーダンスの差異がコンデンサC1、C2によって補償される。この場合、コンデンサC1が過飽和リアクトルの入力側のインピーダンスを補償し、コンデンサC2が過飽和リアクトルSRから誘導加熱コイルまでのインピーダンスを補償する。」(9欄36行乃至10欄1行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、引用例1のコンデンサC1、C2は個々の誘導加熱コイル(負荷)と過飽和リアクトルとのインピーダンスの差異を補償するために設けられているものであって、本件発明3のように負荷全体のインピーダンスを補償するという技術思想の下に設けられたものということはできず、ましてや、インピーダンスを補償する整合手段として可変コンデンサ及び可変リアクトルを採用するという本件発明3の構成を何ら示すものでもなく、そうであれば、本件発明3の前記相違点にかかる構成は引用例1には記載されていないし、示唆もされていないというべきであり、また、かかる構成は引用例2及び異議申立人の提出した甲第3号証にも何ら示されていない。
したがって、本件発明3は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、本件請求項1及び請求項2に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、同法113条1項2号に該当し、それらの特許を取り消すべきものである。
また、本件請求項3に係る特許については、他に取消理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-07-23 
出願番号 特願平11-232379
審決分類 P 1 651・ 121- ZC (H02M)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 松浦 功  
特許庁審判長 大森 蔵人
特許庁審判官 紀本 孝
菅澤 洋二
登録日 2000-04-07 
登録番号 特許第3054147号(P3054147)
権利者 日本アジャックス・マグネサーミック株式会社
発明の名称 負荷電力制御装置  
代理人 飯高 勉  
代理人 末成 幹生  
代理人 中沢 謹之助  
代理人 川崎 勝弘  

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